**************************** <お知らせ> 第4話には、官能シーンはありません。 **************************** 4.海上遭遇――ばか殿下 翌朝、あたたかな陽の光がエリルの頬をなで、からだ全体が心地いい。エリルは温かな陽に満ちた貴賓室のベッドで目を覚ました。窓の外に眼を向けると僚艦の姿とともに青い海原が広がっている。 ――ここは船の中 エリルは目が覚め、オプシディア帝国に向かっていることを思い出した。下半身の秘口に冷たい感覚があるのに気づく。下着が濡れている。そして、シーツもオネショをしたように、くっきりと濡れていた。尿の匂いは全くない。どうやら、寝ている間に秘口から淫液を垂れ流したらしい。それも多量にだ。昨夜は淫らな妄想が頭を離れず、あがらえないからだの疼きに飲み込まれれてしまった。自然と手が肉体の秘部を慰めはじめ、自慰行為がどんどんと激しさを増していった。そのまま眠りについてしまったらしい。肉体の快楽を貪る自分の淫らさに眼をそむけたくなった。 肌の感覚が戻り、ヒリヒリとした肌の痛みが全身に伝わってくる。まだ、身体の節々には昨日の凌辱の痛みが残っているようだ。 ―― あれだけきつく締め付けられたら、跡も残るのもムリはないわ。 ため息をつきながらも、「奇跡の力」を試してみることにした。 ―― 四肢を骨折したホセが完璧に回復したのだから、この跡も治せるはず。 エリルは呪文を唱えると、昨日とは打って変わってまばゆい光は現れず、縄の跡も消えなかった。 ―― やっぱり、「回復の力」を使って自分を治すのは難しいみたい エリルは少し落胆した。 リンリーン 応接間の呼びベルの音が寝室に響いてきた。エリルは急いで部屋着に着替えて、扉の前に向かう。テクレンスがネイビーブルーの軍服を律儀に着こなして、廊下に立っていた。ブロンドの髪、ゴールドのボタンが輝くネイビーブルーの軍服、ブラックのロングブーツ、極めつけは甘いマスク。どれもが媚薬となって魅惑的に女心をいざなう。エリルは眼を細めてテクレンスを見てうっとりとする。 テクレンスは、宰相代理のダムが至急の要件で会うことを願っていることを伝え。昨日の暴漢事件へのお詫びと事後処理についての話だと説明した。エリルは事件を大事にするつもりはなかったので、テクセルに穏便に済ませるように話したのだが、事はそう単純ではなく。帝国の皇帝が座上するほど格式の高い艦隊旗艦で、一国の王女が前代未聞の大事件に巻き込まれたことは、うやむやにはできそうになかった。 テクレンスを帰すと、エリルは紫色の半袖ロングドレスを取り出す。生地は無地の木綿風で薄い。このドレスはカラダにフィットするスタイルで脹脛まで丈があるロングスリムフィットのドレスだ。歩きやすくするため、両サイドに足のつけ根まで線状の細いスリットがあり、動きやすくなっている。だが、男性から見ると歩く度に太ももがチラチラと見えるのが、実に艶めかしい。身体にピッタリフィットして女性らしいフォルムが際立つデザインとも言える。しかし、熱帯気候で常夏のアクアマリン王国では、正装として用いられている。エリルにとって特に違和感を感じるものでない。スキニーなスタイルのドレスは、エリルの美しさを一層引き立てていた。 着替が終わると、宰相代理のダムとの会談のため、応接室に向かった。応接室は20人程度収容できる落ち着いた感じの部屋で、中央に長方形のテーブルが置かれている。両サイドには10脚ほどのイスが配置されている。ダム宰相代理、ツァルバニトゥ提督、エークストレム艦長は入室するエリルを目にすると、立ち上がりエリルに上座の席を案内する。その面持ちは緊迫し、顔色が優れない。テクレンスが遅れて入室してきた。いつものさわやかな表情はない。5人が揃うと、ダムが重々しい口を開いた。 「この度は、一部水兵達が取り返しのつかないことを致しましてなんとお詫び申し上げていいか。。。。」 重々しい雰囲気が部屋の中に充満する。ダムによれば、3人の水兵は乗組員名簿に記載はなく、帝国の軍人ではないという。テクレンスがエリルに向かって口を開く。 「エリル様、私共の失態により、取り返しのつかない由々しき事態となり、ホセまでもお救いいただいた上に、エリル様のお気持ちをお察しいたしますと、なんとお詫びを申し上げてよいか。。。慙愧に耐ええず言葉になりません。」 2人とも顔は険しく、今にも自害するように思い詰めている。 「いえ、ホセさんがご回復されてなによりです。私はこのようにいたって元気ですから、どうぞお気になさらずに。この件はこれ以上騒がしくなるのは両国の国民にとっても好ましいものではございません。アクアマリン王国は穏便なお取り計らいを願います」 「エリル様。。。」 ダムは寛容な言葉を聞いて呆気にとられ、耳を疑っていた。一国の王女が身辺警護の隙をつき暴漢に襲われたというにもかかわらず、「穏便な処置」を望んでいたからだ。エリルは関係者への一切の処罰を禁じ、偽装水兵3人への極刑も望まないことを伝えた。 「ダム閣下、閣下の御前授業を受けるのを楽しみしてますわ。」 そういって、ほほ笑むと応接室を後にした。 **************** 船底に懲罰房と呼ばれる部屋がある。表向きは軍紀に背いた兵を戒めるために用いるとされているが、実際は捕虜などの敵国の間者の尋問のために使われていた。3人の全裸の男が、天井からつり下がる鎖に両手をつながれ、万歳をした格好で立っている。手首には堅牢な枷が嵌められ、鎖に繋がっているようだ。男たちは万歳姿勢での直立を強いられていた。テクレンスが怒りに満ちた表情で、尋問を繰り返している。 「オマエらは、よくもエリル様を悲しませてくれたな。その代償高くつくと思え。」 腰の剣を抜くと、巨漢男の首筋に刃先をあてた。だが、巨漢男は恐れるどころか、かえって舐め切った口調でテクレンスに言い返す。 「フンッ。あんな小便臭せえ小娘。なにが姫だ」 テクレンスの眉がピクリと動いた瞬間、握られた剣が動き、同時に巨漢男から叫び声が響いた。 「ウォーぉぉぉぉぉ」 床に小指が1本転がった。 「すまん。手が滑ってしまったみたいだ。」 テクレンスは表情ひとつ崩さない氷の表情でつぶやいた。 「てぇめー、手が滑っただとぉ?」 巨漢男は食ってかかるように叫ぶ。 「そーいや、あの小娘、股縄締められて、気持ちよさそうにヒィヒィよがってたぜ。ヒィヒィヒィとな、ふふふふ」 巨漢男は嬉しそうな笑みを浮かべ笑い声を響かせる。 その瞬間、再び巨漢男が大声で叫び声をあげた。 「ウォーぉぉぉぉぉ」 また、小指が床に落ちた。巨漢男の左右の小指が無残にも切り落とされ、血が滴る。 「すまん。また手が滑ってしまったみたいだ」 「てーめぇー!」 巨漢男はテクレンスを憎悪の表情で睨みつける。 テクレンスはそのまま話を続ける。 「さて、どこの回し者だ? セレウキア共和国か?」 「くぅ、知るかよ」 巨漢男は、とぼけてごまかそうとする。 テクレンスは同じように拘束されているチビ水兵の前に立つ。 チビ水兵がガクガクと震えだす。 「ぎゃぁーー」 という叫び声とともに、小指が床に落ちた。 「ああ悪い、また手が滑った」 「きさまっ」 巨漢男の顔には激しい憤りが漲っている。 「お前らは殺しはしない。だが、死ぬ以上の苦しみを与えてやろう」 テクレンスの瞳もすでに狂気に満ちている。 「おい、巨漢。お前は四肢をぶった切って達磨にして、男娼婦にしてやる。毎日その汚らわしいケツの穴で奉仕してやれ」 「ひぃ、お、おいまさか」 「ああ、そのまさかだ。肉達磨の男性専用肉便器にしてやるよ。さぞ、かわいがってもらえるだろうな。楽しみにしてろ」 「や、やめろ」 「自分は命ごいとは、都合がいい奴だな」 巨漢男の顔は引きつっている。肉達磨の男性専用肉便器とは、四肢をすべて切り取られた上で、男性愛好者向け性処理具とされるものだ。男から毎日精液を飲まされ、ケツの穴に射精され慰みものとして生きる性処理用肉便器を指す。どんな屈強な男でも、そのうち精神に異常をきたすといわれている。いわゆる、男性向け男性娼婦である。 「お前は、モテるだろうから、安心するがいい」 テクレンスの精神拷問によって、3人の偽装水兵は次々に口を割っていった。3人は様々な国や組織から、犯罪を請け負う秘密結社シャールの一員で、帝国艦隊の動きを探るために密偵活動をしていた。秘密裡に旗艦に乗艦して動きを探っていたところ、偶然に帝国の大艦隊がアクアマリンに王国に出航し、やむなくそのまま乗船し鳴りを潜めていたのだ。しかし、エリルを見つけ、最初は弄ぶのを目的にしていたが、そのうちシャールが営む「奴隷市場」で売ることを思いつき、エリルを連れ去ろうと計画していた。まさに、大胆で無謀な輩だ。 艦が沿岸部を航行すれば、エリルを棺に閉じ込め海に投げ入れ、自分たちは連絡ボートで脱出し、棺を曳航して岸に逃れる手はずだったという。いくら、海岸線の付近を航行するといっても、潮の流れは複雑極まりない。素人が海に投げ入れた棺を簡単に捕捉して、曳航できると考えたのはいかにも素人といえる。それに水上に浮かんでも、中の人間が呼吸するには酸素が必要だ。そんな仕掛けを工夫した形跡もない。もし、計画が実行されていれば、エリルは酸欠に陥るか、海の藻屑と消えていたかもしれない。テクレンスはあまりにも無謀な計画を聞いて、開いた口が塞がらなかった。 ただ、侵入経路は驚くべきものだった。ヴィクトリーの母港である軍港は堅固な守りで知られる要塞で、そうやすやすと侵入できない。しかし、3人の密偵は夜間海を泳ぎ、船体に辿り着くと。登山のロッククライミングの要領で船腹をよじ登り、艦内に侵入したという。隙を突かれたとしかいいようがない。 ***************** 長い航海も残すところ1週間ほどになり、そろそろ大陸の海岸線が見えてくる頃に差し掛かっていた。見渡す限り海は遠くまで広がっている。エリルは、テクレンスや宰相代理、提督、艦長とともに船尾甲板に出て、周囲を見回していた。 「見渡す限り海ですわね」 エリルがテクレンスに語りかける。この頃はダムの教育のおかげで、少しは王族っぽい言葉遣いが身についてきていた。 「ええ、あと5日ほどでローテルダ港に着きます。そこからは陸路で帝都に向かいます」 テクレンスが話し終えたその時、マスト上の哨戒員から、 「船影!!!」 の大きな声がして、警戒を知らせる鐘が鳴り響いた。 カンカンカンカン 「詳細は?」 艦長が哨戒伝令に尋ねる。 「ハッ、まだ、確認できておりませんが、軍列艦らしき船が3隻。2時の方向を航行中です」 「うむ、、まさか、セレウキア共和国側の船ではあるまいな?」 「まだ、海軍旗は未確認です」 「念のため、艦隊右舷側は戦闘準備。艦砲用意」 艦長は戦闘準備を命じた。 ■ビブロス連合大公国王子のピレセル 一方、3隻の艦隊側旗艦、後部甲板上では、 ビブロス連合大公国王子のピレセルが船上指揮を執っていた。 王子は部下となにやら揉めている様子だ。 「おい!」 「はっ、殿下?」 「殿下じゃない。呼び方が違う! オレは、海軍の提督だ!」 「はっ、提督閣下!」 「ちげーよ、オレは王子だ」 「はっ、王子、提督、閣下」 「なーんか、ちげーよ、それ」 「はっ、提督王子閣下」 「それもちげーよ!」 「いいか、王子、提督閣下だ。わかったか?」 「はっ、王子、提督閣下殿」 「それがいい!。ところで、アクアマリン王国にはいつ着く?」 「はっ、まだ、20日余りかかる予定でございます」 「なぁーにぃ。愛しのエリル姫を待たせるつもりか!急げ!とにかく急げ!」 「はっ」 ビブロス連合大公国とは、大陸の端にある。もともとビブロス公爵を中心に諸貴族が集まって打ち立てた小国であったものが、オプシディア帝国とセレウキア共和国の勢力拡大に危機感を抱いた近隣諸国がさらに加わって連合国家を形成したものである。従って、名称も連合大公国の名がついており、国内には小さな王国を多く抱えているのが特徴だ。公国内で最大勢力を持つビブロス家の当主が形式上の君主とされている。弱小諸国が連合した結果、それなりの国力を持つようになり、第3の勢力とみなす向きもある。だが、ビブロス家の長男、つまり王子は無類の女好きの放蕩息子として知られ、「ばか殿下」として名をはせていた。 「王子、提督閣下殿。2時の方向に艦影多数確認!」 「なぬ。どこの船か?」 「確認中にございます」 ピレセルは下士官から望遠鏡を奪うと、艦隊に向けた。レンズ越しにみると、今までに見たことがない大規模な軍列艦の艦隊が航行している。30隻、40隻は優に超えるているはずだ。 「な、なんだあれは? おい、すげー数だぞ」 敵の艦隊なら、もはや数で全く勝ち目がない。 ここは逃げてしまうのが、ベストである。 「はっ、どうするでありますか?」 「ばか、逃げるんだよ! あんなのと戦って勝ち目はねーんだよ! 早くしろ!」 その時、哨戒担当のクルーが呟く。 「あ、あれは、帝国の艦隊かと」 「帝国の艦隊だと? あの方向は大海原だよな、あるとしたら、アクアマリンだ。あんな大艦隊でアクアマリンに行ったのか? もしや、エリル姫になにかよからぬことが・・・。」 ピレセルは急にエリルのことが心配になり、胸騒ぎを感じていた。 ******************** オプシディア帝国艦隊旗艦では、ビブロス連合大公国旗艦が掲げる国旗を確認していた。 「ビブロスの国旗と王子旗を確認しました」 「ビブロスのバカ王子の船か」 艦長は苦虫を噛み潰した表情で呟く。ビブロスは王政を敷く国で帝国とは同盟を組む関係にあった。しかし、アクアマリン王国のエリルを無理矢理に近い形で連れてきた経緯もあり、その行動は正直隠密にしておきたい。長距離砲を搭載するオプシディアの戦列艦ならば、たった3隻の艦隊を瞬時に海の藻屑と化すことが可能だ。艦長は提督に判断を委ねる。 「提督、沈めますか?」 エリルは艦長の意外な言葉に驚き、動揺を隠せない。エリルはビブロス連合大公国の王子ピレセルをよく知っていた。知っていたというよりも、彼はエリルに結婚を求め、何度もアクアマリン王国を訪れ、エリルにしつこく結婚を迫り、迷惑を感じていた相手ではある。だが、殺してしまうなどは全く考えにも及ばないことだった。 「どうしてです? 帝国とビブロスは同盟の関係におありなのではないですか?」 エリルは卑劣で無慈悲な艦長の言葉を咎めた。艦長は気まずくなったのか、言葉を濁す。 「いえ、まぁ、そうでございますが・・・」 提督が口をはさむように呟く。 「まぁ、ビブロスは同盟国じゃからの。味方識別信号弾を打て!」 エリルはほっと胸を撫でおろす。 ―― あの方向なら、ピレセルはアクアマリンに向かっているのだろう。 エリルはピレセルが無事にアクアマリンに着くことを祈り、少しでも早くアクアマリン王国に到着するように「風の力」に祈りを捧げ、帆船が快調な航海を続けていくように祈った。 オプシディア帝国艦隊旗艦から味方識別の信号弾が発射され、次で親善の「貴船の航海の無事を祈る」の意味の信号弾が打ち上げられた。ビブロス連合大公国旗艦からも同様の信号弾が打ち上げられたのを確認する。両艦隊は何事もなく無事にすれ違っていった。 遥かかなたに海岸線が見えてくる。 間もなく、ローテルダ港に着く。 そこから、陸路で帝国王都のカールスクルーナに向かうのだ。