13.催し物 「どうだい、君もここに陳列されてみては?」 健太はニヤケながら、未希に生首になるように迫ってくる。にやけた表情とは裏腹にその目は笑っていない。本気なのだ。 「い、嫌に決まってるでしょ!」 即座に返答する未希。未希は目の前で陳列されている女の顔を見て激しく拒絶する。無理もない。一人目の女性はマスクなしで、ただ黙ってボックスから顔を出している。マスクは当然ない。その綺麗な顔立ちから、ぞくぞくするような魅力が感じられる。こんなイイ女が生首にされているのだ。 ―― 確か、この女性は「奉仕」と呼ばれていたわよね。男性のアレを奉仕するってこと? 未希は目の前にいる綺麗なセミロングの姿の女性を見つめる。女性は未希の視線に気付くと、未希の瞳に視線を合わせる。目と目が合わさった瞬間、未希はその強い視線に耐えられなくなった。 ―― な、なに、この人。こんなことをされても、なんとも思わないの・・・ 未希は一歩後ずさったが、女が見つめる視線は未希に向けられている。未希は視線をずらし、わざと女性を見ないようにする。 健太はそんな未希を眺めながら、次のボックスの女を見せる。 「こっちが、”顔射”だ。」 健太が未希を連れて説明する。”顔射”と呼ばれる女性も、また美しさは一流と言えた。肩まであると思えるストレートのヘアーが印象的で、締まった顔つきであるが、それがかえって、この拘束ボックスに捕えられているのが被虐感を醸し出している。 そして、キリリと締まった女性の顔には、既に白濁の液がこびりついていた。そう、それは男性器から出された液体、つまり精子だ。 この女性は、こうして何人の男性から辱めを受けたのだろうか。自分の顔を男性器の射精の的にされ、それを受ける。まるで卑猥な的だ。手も足も自由にならず、ボックスに閉じ込められ、男性が目の前に来るのを待つ。そして、男性が来れば、自分の顔に射精されるのだ。こんな惨めなことがあろうか。 二人目の女性も未希の視線に気付くと、目線を上げ、未希の瞳に視線を合わせる。その視線に敵意はない。むしろ、従順な視線であることに気付く。どんなことがあっても逆らわない、服従するという意志がそこにはある。未希はその視線を見つめ、心の底から恐ろしくなっていく。 ―― 全く、抵抗の意志がない・・・。 このボックスに入れられた女性達は、既に飼い殺しにあっていた、牙を抜かれ、完全に支配者によって調教されてしまっていたのだ。 ―― ここは恐ろしいところだ。女の牙をも抜いてしまう。 未希は2人の女性を見つめ、ガタガタと身体が震えだす。 ―― あんな風にはなりたくない・・・ 未希の心の中に嫌悪感が浮かぶ。とにかく、ここを脱出しなければならない。健太はもう自分の夫ではない。結婚生活は続けてはいても、それは離婚を円滑にするたのものだった。今の生活は仮面夫婦に過ぎないのだ。 しかし、よりによって結婚相手が超変態だったことには失望したのも、事実だった。 ―― 健太がここまで変態だったとは・・・・ 未希は、唖然としながらも脱出方法を考える。 グイッ その時、首に嵌められた首輪が引かれる。健太が引いているのだ。 未希は、前のめりになりながら、健太が引く方向に歩いていった。 ボックスの置かれていた部屋を出ると、そこは一面に広がる大きなホールだった。一番奥はステージになり、何かの催し物ができるようになっていた。とはいっても、ここでの催し物は、一般の人たちが楽しむようなものではない。ある種の特殊な人々、はっきち言ってしまえば、変態種の人々が楽しむ為の催し物だ。 ホールは広い。そして薄暗い。中央は普通のバーに似た四角いテーブルが置かれ、その周りをソファーが囲っている。両サイドはボックススタイルの席だ。ボックススタイルの席は入口も狭く、中でなにが行われているのかも、伺い知れない構造になっていた。この席はステージも見えないことから、何かいかがわしいことをするのが目的なのだろう。 外の静寂さとは裏腹にホールには、多くの人がいる。それも独特な雰囲気を醸し出している。健太もパピヨンを模したアイマスクを着け、ホールを進んでいく。 未希はその後を続くが、目に入る物は変態一色だった。四つん這いになり、犬のように引かれる女。全身を縄で雁字搦めに緊縛される女。革の拘束具を着けられた女。胡坐縛りで犯される女。全身磔にされる女。宙吊りにされる女。などなど、ありとあらゆる方法で女を辱めていた。 未希からすれば、まるで地獄絵図だった。どうやら、この店は満席の状態で各座席は人で埋まっていた。しかし、未希に薄暗くてなかなかソファーで行われている行為もハッキリとは見えない。 ただ、ところどころで、緊縛された女や革の拘束具で拘束された女の姿が目に入る。 未希を連れて歩くと、通路の前の方から初老と思われる老人がとぼとぼと歩いてくる。 健太と合うと、足を止め、未希をしげしげと眺めた。 「これは随分といいペットをお飼いでありますな。」 老人はそういって、未希をしげしげと眺める。 「ええ、ありがとうござざいます。今、ちょうど初期調教している最中でして・・・。なかなか、素直にならなくて、手こずっています。」 健太は苦笑いしながら、初老にそう答える。 「なに、今の若い者は結果のみを求めるからじゃな。手塩に掛けてゆっくりと育てていけばいいんじゃよ。ゆっくりとな。」 そういって、老人は去っていった。その後から四つん這いになった若い女性が健太の横を通り過ぎていく。美しく締まった肉体に走る麻縄。胸は基本の胸縄を乳房の上下で締め、股間にはT字の麻縄がきつく締まる。背後から股間の2つの穴にディルドが埋め込まれているのが分かった。電源のコードだろうか、それらが太ももの電池ボックスに繋がれていた。電池ボックスは太ももに縄を回して縛り付けてある。基本的なオーソドックスな縛りだった。 未希は初老の老人が手綱を引いて歩いていく姿に恐怖した。初老の老人が恐怖なのではない。その老人が何食わぬ顔で人間の女に着けられた首輪の手綱を引いていることに恐怖を覚えたのだ。 ―― 一体、ここは、なにをしているところなの? 未希はいぶかし気に辺りを見回す。健太は再び歩き出すと、壁側のボックス席のプレートを見る。このプレートには番号が書いてあった。 「ここだな。」 そう言って、健太はボックス席に入っていく。未希もそれに続く。このボックス席は四方を壁に囲まれている。壁の高さは約1.6メートルほどある。入口には扉はない。 中には、ガラスのテーブルが1つ。その3方をソファーが囲むように配置してある。壁面には大きなモニターが設置され、ステージの様子が映し出されていた。 「さあ、お座りだ。ソファーの上に普通に腰かけばいい。」 健太が未希に座るように命じる。未希はこの異様な雰囲気に飲み込まれていた。女をまるでアクセサリーやペットのように扱う人間ども。何か自分だけが場違いなところに来たような気がする。いや、気がするのではなく。間違いなく、自分は場違いなのだ。未希はそう思った。 未希は黙ってソファーに腰かける。当然、腕は後手に組んだまま手錠を掛けられていた。 「その拘束はこの店では一番軽いものなんだよ。」 健太は座った未希に話し掛ける。未希はその健太を睨み返し、表情を強張らせながら、強い口調で言い返す。 「これは、一体なんの真似なのかしら? ここは一体なんなの? ここから直ぐに家に返して!」 未希の表情には明らかに怒りに満ちていた。こんな淫靡な雰囲気に包まれれば、大抵の女は物おじしてしまう。だが、未希は違った。育ちがいいせいか、それとも今まで男は自分にひれ伏してきたのが要因なのかはわからない。ただ、未希はこの異様な雰囲気に明らかに嫌悪を抱き、敵愾心らしきものを持ったようだ。 「ここは、ある種の趣味を持つ人間の集まるところさ。」 健太が言え終えない内に、 「超変態の集まりでしょ!」 未希が言い返す。その時、 「失礼いたします。」 そう言って、バーテンダーらしき黒服のタキシードを来た男性がボックスの中に入ってきた。男性の身なりはきちんと整えられているのが印象的だ。 「山見様、本日はご来店いただきありがとうございます。それでは、オーダーをいただきます。」 男性は必要以上に未希を見ることなく、淡々とオーダーをこなしてく。 「最初はビールでいいかな。飼い犬にもグラスでビールを、つまみはピザでいい。」 タキシードの男性は少し怪訝そうな表情を見せ、 「ペットにもグラスででございましょうか?」 と聞き返した。健太は当然というような表情で頷く。 「かしこまりました。それではお持ちさせていただきます。」 そう言ってタキシードの男性は去っていった。すると、ホール内に女性の声が響き渡る。 「なにするのよ! 離して! この変態が!」 女性はかなり若いらしい。威勢がいいと言った方がいいだろう。未希はその声を聞くと、 ―― 自分にも仲間がいた。ここで、大きな声を出せば、一緒に出られるかもしれない。 そう思った。 「可哀そうにな。あの女、かなりキツイ責めを受けることになるな。」 健太がボソッと呟く。 場内が騒々しくなると同時に、騒ぐ女に黒服たちが集まっていく。場内カメラはその一部始終を追っている。 女は既に猿轡を噛まされ、声が出せないでいた。上半身は身体にフィットするTシャツ、下半身は黒革のタイトスカート。足元はブラックのロングブーツ姿だ。いかにも、男が好みそうな出で立ちだった。 その姿に、後ろ手錠、首輪、足錠、二の腕にも手錠である。 首輪の手綱を引かれ、ステージに昇る女。前後を黒服タキシードの男達が固める。女には逃げ出すための一瞬の隙もなかった。 ステージの上に登ると、両脚を肩幅に拡げた感覚で両脚の手錠に床から伸びたフックに固定された。これで、この女は床から足を離すことができない。次に、女の首に嵌められた首輪に天井から下がる鎖が着けられる。これで、この女は自由に身動きができなくなった。 最初は威勢が良かった女も、今は異様な雰囲気に飲み込まれているようだった。泣き叫ぶこともなく、ただ、淡々と自分の身に起こることを受け入れているようだ。 ステージ上にいた一人の黒服の男がマイクを持ち、話し出す。 「本日は、ご来店いただきありがとうございます。先ほど、店内にてお騒がせいたしまして、誠に申し訳ございません。躾がなっていいないペットを捕獲いたしましたので、当店のルールに従い買主になり替わって調教いたします。そこで、皆様にアンケートをさせていただきたく存じます。どのような調教がふさわしいか、ご意見を手元のリモコンにてご投票くださいませ。」 タキシードの男性は言い終えると、健太がいるボックス内のディスプレーに文字が表示された。 1.木馬 2.逆さ吊り 3.磔 4.その他 と表示されている。 ―― これって、ほんとうなの? 未希は自分で自分の目と耳を疑った。 健太に目をやると、リモコンを取り出し、何かを考えている。 「そうだな。1の木馬はいいが、初心者にはちょっと辛すぎるだろうな。磔か逆さ吊りといったところだろうが、逆さ吊りも難易度が高さそうだ。まあ、初心者なんだから、磔がいいところだろうよ。」 健太は呟きながら、コントローラーのボタンを押していく。それから、数分が経過した。 タキシードの男性が再びステージで拘束された女の前に現れる。 「それでは皆さま、本日の公開調教の時間がやってまりました。」 そう、それはこのSMを趣味にする下衆な人間どもが悪だくみをして、罠に嵌めた女をいたぶる公開調教と称されるものだったのだ。つまり、女は自分が公開調教されることなど知らされずに、この場所に来たのだ。そして、未希が思ったように、この女もこの下衆な男どもに敵意を持った。そして、激しい憎悪と共に敵愾心を持ち、怒りをぶちまけたのだった。 ステージ上に拘束された女の姿を見て、もしかしたら、自分がああなっていたかもしれない。そう心の中で思い、ホッとする。 ―― ああならなくて、よかった。ああならなくて、よかった。 未希は何度も心の中で呟く。生まれてこの方、心の底から恐怖を感じることなどなかった。しかし、今、心の奥底で強い恐怖を感じていた。 「それでは、結果の発表でございます。公開調教は、2番の逆さ吊りでございます。」 タキシードの男性からそう発表されると、場内はオオーッという歓声に包まれた。この歓声には意味があった。 ひとつは、逆さ吊りは、難易度が高く。女性に大きな負担がかかること。そして、恐らく調教の意味をわからず連れてこられたこの女性にそんな難易度の高い責めをすることに対する驚きが込められていた。 もうひとつは、ほとんど調教などを受けた事がない女性に本格的な調教を施すという驚きだ。未希はディスプレー越しに壇上の女性に目を向ける。 腰はガクガク震え、今にも崩れ落ちそうな雰囲気だ。先ほどまでの威勢の良さはどこに逝ったのか、大人しい。 「健太、なんとかして助けてあげて!」 未希は目の前の健太に無理は承知で頼み込む。 「無理だな。あの女はここのルールを犯したのだからね。」 健太の口から出る意外な言葉。健太によると、この店にはルールがある。未希が見下す下衆な人間どもの定めたルールだ。場内の雰囲気を乱す者、調教者の意志を妨害する者などは罰せられるらしい。それも問答無用にだ。 未希はそれを聞いてゾーとする。もし、あの時、彼女に同調してしまったならば。自分もあの壇上にいたかもしれないのだ。第三者の人は、警察があるではないかと言われるかもしれない。しかし、警察はあてにならない。第一、離婚協議で夫の調教を受けるのは認めてしまっている。まさに民事不介入の事態なのだ。 スクリーンでは天井から鋼鉄のバーが降りきていた。壇上で拘束された女の背後に鋼鉄のバーが下がっていく。 今、まさに女は吊り責めを受けようとしていた。