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土装番 from fanbox
土装番

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機械に変わった嫌いな姉 1話先行公開版

 現代よりも遠く離れた未来の時代。  価格的には高級品の立ち位置ではあるものの、世間一般の家電量販店ではまるで人間のように稼働し全く見分けのつかないくらいに動けるアンドロイドが販売されている時代。  巷ではそれぞれ人間とアンドロイドが入り混じり、街は機械と人間がより密接に交わるのが普通な世界となっていた。  そしてそんな時代をさらに進める事態が起きた。それが、人間の完全機械化技術の発表である。  機械がより人間に近づいていく中で、人間の側が自ら機械の領域へと踏み込むことが出来るようになったことで、それぞれの境界はほぼ取り払われたも同然の状態となった。  それまで荷物として持っていたデバイスや周辺機器は、自分の脳内や自分の機能を拡張するアイテムとして新たな進化が進み、人類は機械と共に新たなステージへと歩みだしたのであった。  これは、そんな機械化技術が一般の手に届く時代にて、とある国の中心都市で二人暮らしをしている、とある鬱憤を片方が抱える姉妹の話である。 * * *  とある島国の首都圏、その中心部から少しだけ離れた、主要駅から繋がる便利な途中駅からそう離れていない位置にあるマンション。  その4階部分にあるやや大きめな一室にて、とある姉妹がそこで暮らしていた。   「ねー晴香ー、夜食作ってーー?」 「……今宿題に手を付けてるんだけど」  姉の名前は朝倉愛華。年齢は23歳。現役の会社員であり、誰もが認める程の才色兼備を体現した美女である。  ほんのりとブラウンに寄った黒で、普段は常に額出しのミディアムボブに揃えた美しいサラサラとした髪。  全体的に色白で、流れるような目つき、大人の色気を感じさせるシャープな顔のパーツに、全体的にそれぞれがとても整った、見惚れるような美貌。  それでいて身体は全体的に引き締まりつつも、高身長であることがよりモデル的な綺麗さを醸し出し、洗練されたボディラインを持ちながらも、スーツ下からでも強く主張する程の巨乳ぶりが、見る者を虜にしていった。  スーツの胸元から見える彼女の谷間は相当な威力という他なく、普段は隠してこそいるものの、それをどうにか見たいという視線を常に感じるほど。  まさに彼女の美貌と女体は、天からの賜物と言う他なかった。  そんな愛華の妹の名前は朝倉晴香。年齢は17歳。現役の高校生であり、姉とは二人暮らしをしている。  まさに美女中の美女である愛華の妹なだけあって、彼女も相当な美少女であり、高校では男子の間でよく話題に上がるようなタイプでもある。  姉と同じくブラウン混じりな黒のストレートセミロングヘアーに、姉と比べると可愛らしく幼さが宿ったアイドル的な顔立ち。  身長は同年代の少女達よりも少々高めだがそれほど差があるというわけではないが、脚が長く姉のような見事なボディラインが形成されている。  何より、姉妹揃って非常に発育の良い胸が制服を下から浮き上がらせており、思春期の者共を釘付けにしていた。  そんな誰もが羨み、間に入りたいとさえ思えるような美女姉妹の朝倉家だが、家内の力関係は圧倒的に姉である愛華の方に傾いていた。 「ねー、誰が晴香を学校に通わせてあげてるんだっけー? あたしの妹っていうなら、頑張って仕事してる姉に軽く何か作って食べさせてくれるくらい楽勝だと思うんだけどなー?」 「…………はぁ。はいはい、わかったから。適当に何か作るって」 「早くしてー! ビールキンキンに冷えた状態で食べたいから!」  なぜこんなこと考える食生活でもあんな美貌が保てるのかと思いながらも、晴香は姉の命令通りに冷蔵庫から適当な食材を取り出し、切ったちくわを甘辛く煮焼きしたツマミを作った。  それを、冷えた缶ビールと一緒にリビングのソファで魅力的な腹部を晒している彼女の目の前のテーブルに置くと、待ってましたとばかりに起き上がってありつき始めた。 「あーこれこれ……面倒な仕事の後はこうやって酒で流したいのよね……ほら、もう良いからとっとと宿題やったら」  気持ちよさそうにしている一方で、もう用済みとばかりにしっしっ、と妹を払う愛華。  晴香は何も言わずに、聞こえないくらいの溜息をつき、疲れた様子で自分の部屋へと戻っていった。 「はぁ…………ほんっと、性格だけは最悪なんだからうちの姉は……どうにかなんないのかなあ、アレ」  愛華はずっと外面こそ良く、外部ではまさに美と才を兼ね備えた類まれなる有能な人物であるかのような振る舞いをしており、完璧美人と言う他ない。  だが、自宅内では妹に対して高圧的に振る舞い、明らかに自分の方が上であんたは下と言わんばかりの日常的態度が日頃から溢れ出していた。 『あっちょっと! それ私の!』 『別にいいでしょ。あんたのものはあたしのものでもあるんだから。姉妹なんだから共有してもいいじゃない。あっ美味し。今度買お』  大抵の美味しい部分は姉の方が総取りし、それに対して反抗しようものなら「何? 文句ある?」と威圧的に返したり「あたしが家賃や食費とか学費も出してあげてるんだけどなー」など、懐事情を持ち出してその裏の意味をチラつかせたりなど、常に抑圧されていた。  その上で、殆どの家事清掃も晴香がやっており、きちんと学校の勉強をしながらも、わずかな時間で部屋の掃除や炊事洗濯と、必死に頑張って身の回りの整理整頓もこなしていた。    『いい場所を借りていますねえ』        『はい、住み心地もとっても良くて、立地もスバラシイですからね。そんな場所に住まわせて頂いてますから、いつも綺麗にすることを心がけていますよ』     だが、それに対してお礼を言ったりすることはなく、むしろ自分がそれをしているかのようなことを吹聴するようなことは珍しくなかった。 『ただいまぁ〜〜ねえ晴香ぁ水飲ませなさいよぉ〜〜』 『…………んぅ………………自分で飲んでよそれくらい…………』 『見りゃわかんでしょ酔ってて動けないんだからぁ〜〜姉の言うこと聞きなさいってのぉ〜〜』  時には会社の飲みが盛り上がり、帰宅が普通よりも大きく遅れてしまった時、妹が寝ているにも関わらず部屋に大音を鳴らして入り込み、自分に対して水を飲ませることを指示したり、飲ませるまでは動かなかったりと、横暴さは時と場合を選ばなかった。 『あっ、ない!? なんで!? ちゃんと冷蔵庫入れてたのに!?』 『えーどうしたのよ朝っぱらからうるさいわね…………ああ、もしかして冷蔵庫入れてたやつ? アレあたしが食べたわ。いやー美味しかった。あんたもいいセンスしてるじゃない』 『〜〜〜〜〜〜!! なんで勝手に食べんの! そういうのほんとやめてったら!!』 『いいじゃない別に減るもんでもないんだし。食べたかったんならまた買えばいいんだから』  ある時は、好きな人へのプレゼントとして用意していたお菓子を勝手に食べられ、せっかく気合を入れて色々調べて買ったにも関わらずそれを台無しにされてしまったこともあった。  今まで以上に文句と怒りをぶつけたかったが、悪びれる様子は全然感じられないのを見て、これはもう何言っても仕方ないと諦め、登校までの間になんとかコンビニで良いものを見繕い改めてプレゼントにするなど、本当は必要なかった苦労をすることになるハメにもなっていた。  立場を利用し、散々な横暴を毎日毎日働かれ、晴香の怒りのメーターは常に破裂寸前まで来ていた。が、それを発散することもできず、吐き出す矛先も見つからず、結局彼女の感情の完全な行き場所はどこにもなかったのだった。  そんな鬱憤ばかりが募り続け、どこかでちょっと吐き出すしかない日々が重なっていたある日の夜。  いつものように道中で出来合いの夕食を買い、晴香も下校の途中で買ったご飯でそれぞれ別々のメニューの夕食を食べていた時。それは突然宣言された。 「晴香、あたし、全身機械化するわ」 「…………はぁ!?」  何の前触れも無しにいきなり目の前で口に出された、生身を脱ぎ捨てるという通達に、思わず数秒ほど時が止まってから大声が出た晴香。  そんな大声出さなくても良いでしょうっさいなぁ……という気持ちが露骨に出ている顔をしながら、愛華は口に惣菜を運び続ける。 「家にそんなカタログとかも別に置いてなかったじゃん!? いきなりどうしたの?」 「会社でもどこでもそういうの見られる機会なんてあるでしょ……前々から考えてたのよ。アンドロイドが普及するようになって、色んなとこにいたりするでしょ? あんたのクラスにもいるし先生にもアンドロイドいるし、うちの会社だっているのよ。それもとびっきり有能なのが」 「そりゃまあいるけど……先生美人だしわかりやすいし」 「そういうのになれるんならさ、なっといたほうが間違いなくこの先メリットの方が高いでしょ。ようは自分自身が端末になるんだから、これまでの機器だって自分に使えるし、アンドロイド専用のデバイスだって使えるんだから、相当なものだと思うのよ」  愛華なりに自身が考えるメリットを、非常に得意げかつわかってなさそうだから是非とも教えてあげるというような態度が見え見えの振る舞いで晴香に伝えていく。  いきなりのことでまだ気持ちの整理がついてはいないが、姉の言うことには概ね納得はできるとは感じていた。 「それに、まだ機械化してる人って少ないからさ、補助金とか保証だってついてんのよ。やる人増やしたいから。なら今のうちにやるしかないじゃない? 何より、今のあたしの綺麗さがずっと続くんなら機械化した方が絶対良いし、それこそ、気分変えて見た目から丸々変えられるんだから自由にオシャレできるんだから、その方が最高じゃない」  愛華は自分の容姿が非常に優れていることを自覚しており、とにかく自分大好きでもあった。  今の美貌や体型が保たれるなら、そして自分の理想の姿へと自由に作り変えることができるのなら、それまでに述べたメリットも含めて全身機械化はやはりベストな選択肢だろう。彼女はそう結論付けたのだった。 「……まあ、いいんじゃないの。やるんならやるで」 「あら、興味なさげね。これからあんただってやるかもしれないのに。ま、成人したらやる権利もらえるんだし、そん時まで考えとけばいいんじゃない?」  晴香は、姉が機械化するという話に対して特段興味を持てなかった。  確かに色々便利で、世の中はアンドロイドの存在前提で回っている分、より大きな恩恵を受けられるようになるというのも理解できるが、だからといって今の自分に何か大きな変化が起きるとは到底思えない。  どうせ姉が全身機械化をした後も無茶振りをされ、彼女の気分で起こされたり突き合わされ、また抑圧的な言動で振り回されるのだ。  ならたいして自分には関係ないし、その先でもまた面倒なこと言われたり要求されたりするんだろうという予測が立っている為、彼女の反応は薄かったのだ。 「はぁ……はいはい。じゃあ、ごちそうさま」  いつものように食事を終えてゴミを片付け、一部使った食器を洗って片付け、自室に戻って机に向かう。  今日は酔って面倒な絡みをしなさそうな分、まだ邪魔をされる可能性は少ない。今のうちにちゃんと勉強はしておきたい。  姉は嫌いだし対応するのも不愉快だし今すぐにでも直してほしいくらい面倒だが、きちんと勉強出来てなんでもできるタイプなのだ。だからこそ会社でも相当な成績を築き給料も貰えている。  機械化すると言い出したのも、補助金が出るといいながらも自分の潤沢な貯金からなのだろう。そう思いながら、自分も早くあんな面倒な姉のいるこの部屋から抜け出して自立するために勉強を進めていくのであった。 * * *  それからしばらくの月日が経った後。愛華は少々長めの休暇を会社に申請し、その間は自宅にも帰ってくることはなかった。  一時的に機械化改造施設の方で入院し、改造と調整、動作確認や機能把握の日々を送ることになった。 「はー最高ーーーー!! あいつがいないだけで部屋がめっちゃ広く感じるうーーー!! 楽しいーーーー!!!」  姉嫌いの晴香は、水を飲めば乾きが潤う程当然のように今の状況を喜んだ。  だる絡みする奴もいないし、寝てるのにいきなり起こされて何か作るのを要求されたりしないし、いちいち見下されてるのをわかってるような言動に付き合わされることもない。  自由とはこういうことなのかと言わんばかりの日々を、愛華がいない間謳歌し、好きなものを食べ、しっかり勉強し、広い空間で観たかったものを観て、非常に楽しい日々を送り続けていた。 「最近晴香めっちゃテンション高くない? なんかいいことあったの?」 「あったあった! 今さ、家にあのクソ姉がいないんだよね。だから今一人暮らしみたいな状態なんだ」 「あーあの毎度言ってたあのお姉ちゃん?」 「晴香毎回毎回愚痴ってたよね。どっか出張とか行ってんの?」 「それがさ、いきなり全身機械化するーとか言い出してさ、それで今入院中なんだ」 「嘘マジ!? アレやってんの!? あの先生みたいなアンドロイドと同じやつになるってことだよね? 勇気あるなぁ〜」  高校の方でも、姉が家を空けている間はテンションの上がりっぷりがだだ漏れし、友達にもそれが簡単にバレるくらいには楽しんでいた。  共に住んでいるから離れることはできない、面倒で仕方がない相手がいないというのは、それほどに心が湧き上がるイベントとなるのだ。  そして、アンドロイドが普及し一般化している現状と比べて、機械化は未だ行っている者が少ない為、まだまだそれを試そうという者は中々に勇気のある人物、先進的になりたすぎて早まっている者だという認識を受けていた。  周囲の友達からのリアルな反応を体感しつつも、あーこんな時間がもっと長く続けばいいなあと、脳裏で常に考え続けていた晴香。  だが当然、一時的に家を空けているだけのことには終わりは来るのである。 「じゃ、また明日ねー!」  愛華が家を空けてから一週間程度が経った頃の下校時。  友達と別れ、一人で家路についてから数分が経ち、電車内の端の席でぐったりとしていたその時、携帯端末にメッセージが届いた。 「…………げっ」  相手は誰だろうと思いながら画面を覗くと、その相手は姉の愛華だった。  とうとう帰ってくる日が来てしまったかと、晴香はメッセージを開く。 『今日帰るから。それと、業者入るからあたしが帰る前に来たら入れといて』 「……はぁ? なんかあるんだったらもう少し説明しろっての……」  相変わらずの一方的で、こっちが従うこと前提の上からなメッセージに辟易する晴香。  しかも業者が来るという何やら大掛かりな文言まで入っており、より大きな面倒がやってきそうな予感をひしひしと感じていた。  今すぐここで叫びたい気持ちが奥底から噴出するが、電車内で叫ぶわけにはいかないので画面をひたすら親指で叩くことで発散し、これまでの輝かしい日々は終わったんだな……と、ちょうど降車駅直前で電車が減速した頃にぐったりと手すりにもたれかかった。  そして自宅へと戻った後、いつ頃その書かれていた業者が来るんだという監視的な思いで常に警戒心を抱きながら時間を過ごし、帰宅途中に夕食として購入したボロネーゼパスタを温めて完食した直後、来客を知らせるチャイムか鳴った。 「ああ、来たんだ……」  おそらく伝えられていた「アレ」なんだろうな都思いながらインターホンの画面を覗くと、とてつもなく大きな、まるで人間一人を丸々格納できるカプセルのような機材を数人で抱えている様子が映し出されていた。 「はぁ!? ああ、すいません。すぐ玄関に向かいますね」  晴香はわけがわからず思わず素直な疑問の強い声を漏らした直後に、すぐ社会性を取り戻し、玄関に向かって業者を迎え入れた。 「どうも、愛華さんが仰っていた妹さんの方ですか?」 「ああはい、そうです」 「これからこちらの方で、お姉さんの部屋のカスタマイズをさせていただきますので、案内をしてもらってもよろしいでしょうか? 事前の許可や内容は、既に本人と交渉済みですので、心配はいりませんよ」 「ああはい、わかりました……こ、こっちです」  いきなり冷蔵庫レベルの大型家電が家の中へと運ばれることになった事態に思わず引きながら、晴香はきちんとした外向けの対応で姉の部屋の前まで案内した。  それから後は、室内で何かしら色々弄ったり運んだり、接続や動作確認らしいことをしている様子だったが、晴香自身はそれを見に来るようなことはなかった。  それから業者が全ての作業を終えて退出し、10分程の時間が経った頃、唐突に家の鍵が開けられ、部屋の主が元気な音と共に帰ってきた。 「ただいまー! はー久しぶりの自宅はやっぱり落ち着くわねえ」 「げっ、本当に帰ってきた…………おかえり、ごくろーさま」  最高の日々が終わった声が聞こえてきた。晴香は溜息をつきながらも、帰ってきた姉に軽く返しの声を向けた。       「いやー色々すごいもの見れたわ。あ、管理ポッドもちゃんと来てるじゃなーい!」       久しぶりに見た愛華の姿は、パッと見では全身機械化をする前とはそうたいして変わっているようには見えなかった。  いつもの私服姿で、身体のラインが出ており彼女の魅力がはっきり伝わるコーディネート。  だが、しばらくその姿をじっと見ていると、腹部や脚が以前よりも引き締まっているように見え、以前から美しさを宿していたボディラインにさらなる磨きがかかっていた。  元々大きかった両胸もどこかボリュームが増しているように見え、何より現時点で一番違うと言えるのは、晒している素肌の肌ツヤが明らかに良くなっていることだった。  室内の明かりを反射し、それまでと変わらない色白な肌の色ながら艶めきを帯びている。  非常に大雑把に言うならば、より美しくなって帰ってきたのだった。 「そんなバカでかい機械なんに使うのさ。業者の人すごい大変そうだったし」 「あたしにはちゃんと必要なもんなのよ。そんでね……」       鼻につくようなドヤ顔を見せながら、愛華は右腕を伸ばして晴香の目の前に差し出した。 「ほら、触ってみてよ人間。皮膚の質感とか微妙に違うから」  わかりやすい露骨な、自分は人間ではないマウントを取りながら、是非とも自分の人工皮膚を触って見るように進言した愛華。  遠くからではよくわからなかったが、実際に間近で見てみると、確かに自分のような人間の皮膚とはちょっと違うような気がする。  すべすべしていてきめ細やかで、より綺麗だと思わせるような、そんな質感。  実際に触ってみると、人間の皮膚に非常に近い、心地よい柔らかさと温かみこそ持っているものの、その芯の部分でどこかゴムのような不思議な感触のある、限りなく人間に近い皮膚というような印象を覚えた。 「すごいでしょ。これがあたしの新しい身体なのよ。見た目だって好きに変えられるし、今まで出来てたことだって頭の中で出来るんだから」  そうやって話している間に、晴香の携帯端末の方に何者かからのメッセージが届いた。  その送信主は、目の前で話している姉本人からだった。  何かしらの操作をしているような素振りもなく、手元には何も持っていない。  メッセージの中身は、ただ舌を出して相手を煽るような顔文字複数という意味のないものだったが、これをリアルタイムで行っているという様には、正直な驚きを覚えた。 「どう? すごいでしょ。こっちでやってたこと、そのままできるのよ」 「あれ、携帯端末は持ってるんだ?」 「やることはだいたいあたしの頭の中だけでいいけど、こっちはサブ端末兼予備よ。何かあった時の為に用意されてる外部からの管理ソフトって感じ。ま、使う頻度は今までより相当減るだろうけどね」  目の前で、生まれ変わったことによる日常の変化を詳しく見せつけて来る愛華。         見せてあげたいというよりも誇示したいという気持ちの方が多く含まれているのだろうなということも察しながら、その後の面倒も考えて仕方なく付き合ってあげることにした。 「で、あのバカでかいやつはなんに使うの。まさかあの中で寝るとか?」 「そうそうその通り! よくわかったじゃない! 一応さ、あたしの首筋にほら、カバーついててそこに端子あるんだけどさ、そっちに充電ケーブルつけて寝てもいいわけよ」  愛華は背中を向けて髪を持ち上げ、首筋にうっすらと見える継ぎ目と取っ掛かりに爪を引っ掛け、カバーを外す。  そこには、人間にはありえない金属の面と、色んな電子機器に実装されているのと同じ接続端子や電源ボタンが組み込まれていた。  人間にしか見えない部分や、感触の違いでしかその差異を見いだせずはっきりとはしなかったものの、こうして電子情報内でのリアルタイムなやり取りや、金属の中身が露出すると、はっきり姉は機械になったのだなと感じられる。 「けどさ、あれを使うと充電と一緒にバックアップとかデータ整理とか寝てる間に全部やってくれるわけよ。あ、今のあたしだとスリープモードって言ったほうがいいかな」 (うざ……)  意識の高いビジネスマンが専門用語をあえて意識的に使っているような鼻につく鬱陶しさを感じながら、愛華は自分の部屋に向かい、それについていく晴香。  カバーを開けられると、そこには人一人が寝られるスペース。それに付属するいくつもの、どういう風に使われるのか見当もつかない機器や内部機構の数々。まさに彼女専用の寝床と言える中身がそこにはあった。 「一応初回登録の為に動かす必要があるみたいだからちょっとやっとくわ」  愛華はその場で身につけていた私服を脱ぎ、下着まで全てその場で脱ぎ捨てた。  改めて一糸まとわぬ姿になると、元から最高のプロポーションを誇っていた彼女だったが、それがより洗練され魅力的になったと感じる。  そこに非人間的な雰囲気まで宿り、管理ポッドと隣り合うのが近未来的に感じ、嫌いな相手ながらも思わず美しいとこぼしそうになった。  管理ポッドの中に入り仰向けになって寝転ぶと、少しだけ不満げな顔を見せた。 「……なんかちょっと硬いかも。寝心地良いみたいな評判聞いてこれにしたけど、思ってたのと違…………」  使用一回目で早速愚痴をこぼし、幸先不安な様子を見せた直後、不満げな彼女の喋りは突然止まり、若干の不満を宿していた表情はいきなり無に変化した。 「えっ、どうかした? なんかあった?」  この唐突すぎる変化に、興味なさげに付き合っていた晴香も思わず声をかける。  だが、妹の言葉にも反応せず、まるで最初からポッドの中に眠っているアンドロイドのように姿勢が正されていった。  そして、はっきりとした機械の動作音が聞こえた後、ポッドの設置角度に従い真上を向いている愛華は、アナウンサーのような喋りを始めた。 「管理ポッドとの初回接続及びユーザー登録を開始します。最初に、ユーザー情報の入力を実行します」  その声は確かに姉のものだが、まるで姉が喋っているとは思えないような声色で、家で時折耳にする仕事モードのそれともまた違う、まるで誰かが非常に精巧な真似をしているかのような感情のない声だった。 「…………えっと、今登録の色々やってるってことだよねこれ」  唐突に始まった状況をなんとなく把握する晴香。  目の前で手を振ってみても、頬や乳に触れてみても、姉からの反応は何も帰ってこない。どうやら機械側の操作に集中しているようだった。  これはいつも色んなことを押し付けられたり無理難題をぶつけられているのを仕返しするチャンスなのでは。  一瞬そう思ったが、それ以上に今はもうサブ端末でしかないと言っていた携帯端末の方に何か弱みを握れるものがあるのではないか。  晴香の悪い方向に冴えた思考は、早速棚の上に置かれていた携帯端末へと向かい、以前偶然把握したパスワードを入力して中身を確認していった。  確かに以前とほぼ変わりはしないものの、アプリ類がかなり整理されており、その代わり見たことも聞いたこともないようなアプリの存在が確認できた。  それを早速起動してみると、メニューや表示されている内容、明らかに携帯端末のそれには入っていないようなファイルマネージャーの内容や、愛華の機体情報など、予想外の中身がそこには表示されていた。 「え、これもしかして……あいつの言ってた管理操作アプリ?」  項目を見てみると、彼女に対する遠隔操作も可能であるかのような表示も見て取れる。  晴香は急いで自分の携帯端末とケーブルを使って接続し、それがコピーできるかどうか試してみた。 「あっ、マジで!? いけた……!」  すると予想外にも、管理アプリをそのままコピーすることに成功してしまった。  すぐにケーブルは取り外し、携帯端末からは距離を取って自分の端末の画面を見るが、問題なく動作しているように見える。 「えっ、これって、ということは……これで操作とか管理も出来るってことなんじゃ……」      困惑と驚愕、複数の感情が一斉に湧き上がり、本当に良いんだろうかという気持ちも噴き出しながらおろおろしていると、システムメッセージをつぶやきながら動きを止めていた愛華が、再び動き出そうとしていた。 「初回登録の設定が完了しました。人格エミュレートを再開します…………これでよしと。あたしの新しいベッド、色々模様替えとかした方が良さそうねこれ」  直前までの音声の無感情ぶりがまるでなかったかのように、いつもの振る舞いと喋りが取り戻され、管理ポッドから身体を出す愛華。  下着やブラを着け、衣類を着直し、元の姿を取り戻す。 「ねえ晴香、押し入れのな…………」  そして早速自分本位の命令をぶつけようとしたその時、晴香は自分の端末側の管理アプリから、愛華の一時停止の操作を実行してみた。  すると、喋りながら晴香の方を向こうとしている瞬間の体勢で停止し、動かなくなってしまった。  音声も止まり、まるで愛華の時間だけが止まっているかのようだった。 「えっ、嘘これ有効なの!? コピーした方なのに!? いけるのこれ!?」  晴香はただただ驚愕の声をあげることしかできず、もしかしたらそういうフリをしてからかっているだけなのではという可能性も考えて、目の前で手を振ったり、柔らかな頬を摘んで動かしてみる。  しかし、機械になった姉はぴくりとも動かず、まるでマネキンのように固まっていた。 「………………えいっ!」  そして、最後に、これまでの不愉快さや腹立たしさを込めて、思いっきり一時停止した彼女の頬を叩いてみた。  静かな部屋の中に、人工皮膚が叩かれる快音が鳴る。それでも愛華の顔色は一切変わらず、反射的にキレるようなこともなかった。 「嘘でしょこれ……夢……? いやさすがに……これ解除したら……」  晴香は思わず喜びそうになるが、一時停止を解除したらいきなり怒ってくるのではないか。  そう思うと非常に嫌な気持ちになってきたが、晴香は意を決して一時停止解除の操作を実行した。 「…………かにクッションあったでしょ? アレ持ってきて。たぶんちょうど良さそうだし」 「…………わかった」  愛華は何も言ってこなかった。  いつもならばいきなり叩いて抓ったりすれば、怒髪天を衝いたように怒って何倍にも仕返ししてくるだろう。  だが、そんなことなど何もなかったように、途中から喋りを再開したのだ。  晴香は喉の奥から噴き出しそうな喜びの感情を抑えながら、いつものようにちょっとめんどくさそうな返事を意識しつつ移動した。 (これすごいじゃん!? このアプリさえあれば、姉さんのこと思い通りにもできるし色々自由に動かせるってことなんでしょ!? あんなこともこんなこともできるってことは…………やっば、信じられない…………機械化するって言ってた恩恵がこんなとこで得られるなんて……!!)  嫌いな姉が機械化しても、彼女の生活が便利になるだけで自分には関係ないと思っていた。  だが、そんな嫌いな姉のことを操り人形のようにできて、しかもそれが自覚もできていないというのならば話は大きく変わってくる。 (初めて心の底からお礼を言うかも……ありがとう、愛華姉さん。これまでの恨み、全部ぶつけて玩具になってもらうから)  思いがけず手に入れた玩具は、まさに天からの授かりもののように思えた晴香。  こうして、愛華の知らぬところで、晴香は家内のパワーバランスを覆すような出来事を起こしたのだった。  これから愛華と晴香は、機械化を行ったことによる様々な事態を引き起こすことになるのであった。

Comments

コメントありがとうございます! 内容に関しては規約としても色々とアレなので触れませんが、次回作をお楽しみに!

土装番

skebは開いてるよ。

リドル

やがてロボ娘の奉仕は事前下作業が追加されて着実に進行され、次第に世の中には感じて耐えられる快楽の限界値が高くなるにつれ、より多くの幸せが蔓延するようになります。 これを発見した世界政府と人間は、これを社会問題としてとらえ、このような運動の拡散を防ぐために各種法案と制裁装置を作るなど努力していますが、ロボ娘の思想に共感し、志を同じくするようになった数多くの世界各地のロボ娘同志と、彼らが提供する快楽によって先祖よりはるかに幸せになり、ロボ娘のように「自分だけがこのような快楽を感じることはできない、みんな私と同じレベルの幸せを感じるべきだ」と考える改造された博愛主義者(暴徒)たちの紛乱と、ゲリラ戦によって残りの人間たちと、最後には世界政府の構成員たちまで、この巨大な波の一部に変わってしまいます。そのように、最初のロボ娘は世界哲学史に名前が刻まれます。 エピクロス學派とベンサムの哲学の直系継承者であり、その哲学としてマルクスも果たせなかった真の世界平等と平和を具現化した哲学者として…!

A.Tsukasa

しかし、これを提供された人間の許容値はロボットのそれよりはるかに少なく、致死量の快楽を提供された人間は一様に昇天してしまいます。 しかし、自分が最初に考えた「ロボットとして人間に提供できる最大の奉仕」を諦められないロボ娘は、次々と自分の目の前の人間を快楽死させて、ついに自分と同じくらいの快楽を受容できるように人間DNAを改造させるという解決策に迫ります…!

A.Tsukasa

楽しみな次回作ですね! 私も期待する作品があるんですが··· リクエストが有効にならないので、やむを得ずここにコメントしてみます。 自分の体の快楽信号を満喫していたロボ娘が、ロボットとして自分が人間にできる最も大きな奉仕は、自分が感じる快楽の程度を定量化し、これを人間に同じように提供することだと定立することになります。 やがてロボ娘は、自分が出会うすべての人間に任意の方法で快楽を提供してくれます。 ロボ娘はさらに、ロボットである自分だけがこれほどの快楽を享受でき、人間はそうできないということに不公平さと、どんな罪意識まで感じて、さらに全心全力不眠不休で自分の奉仕を貫徹します。

A.Tsukasa


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