「少女小説」というジャンルがある。主にコバルト文庫(集英社)などの作品に代表される少女向けの小説のことだ。近年は少女向けライトノベルと呼ぶこともあるが、個人的な見解では、地の文で「語る」「描写する」ことに比重を置いている点で一般的な男性向けライトノベルとはまた異なった印象がある。
少女漫画と同様に恋愛をテーマとした作品が多くみられるが、例えばSF要素のある学園もの、王宮物語や冒険活劇などのファンタジー、探偵小説などその内容は幅広い。図書室の常連だった少女たちなら必ず一度は通るジャンルだ。
かつてはわたしももれなくその少女たちの一員であったが、いわゆる「若年層向け」小説読者の例に漏れず、近年は一般文芸に興味を移していた。そうして「少女」を卒業しつつあったわたしが、今になって「少女小説」を語ることになったのは、一冊の同人誌と出会ってしまったからだ。
その名を『少女文学 第一号』という。ツイッターで見かけたこのタイトルを目にしただけで心惹かれてしまった。その理由を万人に伝わるよう説明するのはとても難しい。「少女」と「小説」或いは「文学」の組み合わせはそれだけで魅力的だ。知的な強さと繊細さが同居している。「文学少女」はみんな大好きだし、殊に「少女性」を信奉する誇り高き少女であったところのわたしは、その文字に懐かしさと憧憬のようなものを感じていた。
『少女文学 第一号』は商業作家を含む複数名の小説家が短編小説を寄稿する企画合同誌だ。『ミミズクと夜の王』(電撃文庫)で電撃小説大賞を受賞された紅玉いづき先生が参加されていることが購入の後押しになった。
『ミミズクと夜の王』は、死にたがりの人間の少女と魔物の王が出会い心を通わせていく物語で、『少女文学 第一号』の巻末コメントで紅玉いづき先生ご本人が「ずっと、少女小説を書いてきたつもりだったから。」と書いているように、この作品もまた少女小説のルーツを感じさせるものだ。そんな彼女が「少女文学」と題した同人誌に寄せた短編『ペペ、あなたの小説を読ませて。』は、少女小説そのもの、少女小説と少女の関係を描く物語で、自身の少女時代に寄り添った小説、これから生まれてくる小説と少女たちへの愛を感じさせ、『少女文学』を祝福するような、この上なく幕開けに相応しい作品であった。
わたしが特に気に入ったお話は栗原ちひろ先生の『黄金と竜の王国~半竜人と死せる第一王女の章~』で、独自の世界設定と、それを実在するもののように鮮明に、美しく生々しく描き出す筆力と、大胆で人間離れした強さと頼りなく不安定な心を持ち合わせた少女のキャラクター像が魅力的だ。密かに散りばめられていた伏線から隠されていた事実が明らかになる終盤、果てしない旅の始まりを予感させる。
企画合同誌『少女文学』は現在第三号まで刊行されていて、先述した『黄金と竜の王国』を含む何編かは続編も掲載されている。かつて少女小説を愛したひとたち、これからの少女と大人たちに、「わたしが愛した少女小説」を。
『少女文学 第一号』https://booth.pm/ja/items/1369942
すべらき
2020-06-05 12:53:26 +0000 UTC