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津久井五月 from fanbox
津久井五月

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【告知】WIRED CONFERENCE 2020に登壇

雑誌『WIRED』日本版が主催のオンライン配信イベント「WIRED CONFERENCE 2020」の3日目にスピーカーとして登壇しました。「Sci-Fi Prototyping 未来からの視線」というテーマで、SF小説家としてはほかに劉慈欣さん、小川哲さん、樋口恭介さんが出演されました。


僕が登壇したのは「食と(ポスト)アントロポセン」というトークで、イエバエを使った飼料・肥料生産に取り組むムスカのファウンダー串間充崇さん、地球外での食糧生産や食文化を研究開発するSPACE FOODSPHEREの理事、菊池優太さんとご一緒しました。


環境問題や人口問題を背景に食について語るというお題だったので、僕からは以下のような話題を提供しました。

食を題材にしたSF小説として真っ先に思いついたのはヘレン・マクロイの「ところかわれば」という作品です。


作中では火星人のカップルが外交のために地球にやってきます。地球人の代表である男女は彼らに軽食を勧めますが、どうにもコミュニケーションがすれ違う。実は、火星人にとっての食事は、地球人にとってのセックスに相当するものでした。火星人には「咀嚼者」と「消化者」という二種類がいて、咀嚼者が食べ物を噛み砕いて消化者に口移しし、消化者が分解した栄養分を咀嚼者に分け与えるという方法で食事をします。また、全員が単性生殖することができます。そのため、地球人の「食事:個人的で公的なもの」と「セックス:二者間で行う私的なもの」という構図は、火星人においてはちょうど逆なのでした。


作中では、生存(種の存続)の根幹を担っている消化者を、咀嚼者は自分たちより劣った存在とみなしてします。言うまでもなく、これは地球人の女性に対する(作品執筆当時の)男性の態度に重ねられています。「ところかわれば」はユニークな設定を持ったフェミニズムSFだといえると思います。


しかし、現代の惑星的な視点で見ると、別の論点も見えてきます。作中では地球人の食事は個人で完結するものと位置づけられていますが、地球人もまた、食糧生産の根幹を分解者(様々な小動物や微生物)に委ねています。つまり、他者に頼らなければものを食べられないのは地球人も同じだということです。この作品を経由すると、食べることはそもそも誰か(何か)と関係を結ぶことであり、それはセックスのような薄暗さを抱えているのではないかと思えてきます。


続いて少し別の話ですが、世界人口の推移のグラフを見てみます。1950年を境に、世界人口の増加スピードが急加速しているのはよく知られた話です。これは「大加速(グレート・アクセラレーション)」と呼ばれる歴史的事実で、いわゆる「人新世」(人間の活動が地質学的なレベルで地球に影響を与えるようになった時代のこと)を象徴するイベントとされています。


では、今後の世界人口はどうなるのか。三つのシナリオを示しました。「中位推計」というのが、国連の2017年のレポートで予測された2100年までの予測です。世界人口の増加は次第に減速し、110億人あたりのピークに向かっていくとされています。「高位推計」と「低位推計」というのは、合計特殊出生率がそれぞれ0.5ポイント高い/低い場合の予測です。


僕がSF的な観点で最も興味を持っているのは、低位推計のグラフです。この場合、2050年のおよそ80億人をピークに世界人口は減少に転じます。このシナリオが必ずしも現実になるとは思っていません。ただ、人口増加率の高いアフリカや南米、インドなどで都市化が加速し、社会・文化の変化がとても早く進んだとしたら、出生率が急激に下がって現実が低位推計に近づくかもしれません。


仮に低位推計が実現したとすると、大加速の期間は1950年から2050年までの100年間で区切られ、その後に世界人口減少という未知の時代が訪れることになります(中位推計であってもいずれはそうなる)。この区切りこそ、「ポスト人新世」と呼ぶにふさわしいイベントではないかと僕は思っています。人口が減少すれば環境問題の解決は次第に容易になるかもしれませんが、すべての問題が霧消するわけではありません。人口は都市に集中して地方が荒廃し、少数の民族や文化は淘汰されて消えていく世界かもしれません。


この「ポスト人新世」を標的にして新しいビジョンを提出することも、SFの仕事の一つなのかも、と思います。人間が減っていく局面の手前で、人間と環境、人間とほかの種の関係を設定し直すこと。そのためのヒントは食に加え、やはり性にあるのではないかと思います。そもそも世界人口の今後を左右する最大の要因が、性や家族に対する人々の意識の変化だからです。


以上の2枚のメモを踏まえて、食糧生産や食事の問題と、性や家族や異種間関係の問題を組み合わせて考えることが重要ではないか、という話題提供をしました。


トーク自体はあまり時間がなく、話し足りない感じもしましたが、SF作家という立場で聴衆に何をどう語るか、改めて考える機会になりました。

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