XXX4Fans
ごむらば from fanbox
ごむらば

fanbox


昆虫レディ 〜セミ〜 完全版

【生き埋め】 配信動画のタイトルはセミの羽化。 編集、加工無し、生音声とだけ書かれていた。 どういう事か意味がよく分からないまま、再生してみた。 まず出て来たのは、頭にタオルを巻いた男性が2人大きな穴を掘っている映像。 ある程度掘ると男たちは穴を出た。 画面が切り替わり出て来たのはセミの幼虫。 全身がキャラメル色をし、独特のフォルムをしている。 ここまでは正直よく分からない動画だと思い適当に見ていた。 次の瞬間、俺は画面に食いついていた。 セミの幼虫を男2人がかりで抱えているのだ。 つまり、セミの幼虫は巨大という事。 そしてそのセミの幼虫はしゃべっている、くぐもった声で。 「やだ、やめて、やめて、放して、下ろしてよ!」 手足をバタバタとさせて必死に抵抗している。 そのセミの幼虫から聞こえてきたのは若い女性の声だった。 セミの幼虫は運ばれてくると、そのまま穴の中へと放り込まれる。 「痛い、痛い!なにするのよ」 語気と怒りを込めて言った後、「早く着ぐるみから出して、出してよ」を連呼する。 しかし、彼女の言葉は届かず、それどころか掘った穴を埋めるように、土が穴に戻されていく。 当然、セミの幼虫にも土がかかる。 始めはセミの幼虫に軽くかかるくらいだったが、だんだんとかかる土の量が増えていき、起きあがろうとするセミの幼虫は土がかけられる度に押し潰された。 「やめて、ホントにやめて、死んじゃうよ、死んじゃうから」 彼女がいくら懇願し連呼しようとも、その声は男たちには届かず、淡々と土は穴へ放り込むまれた。 彼女は自らの命を守る為に、思う様に動かない着ぐるみの手で必死に穴の壁を登ろうとする。 何度も何度も穴の壁に細くカマキリのカマの様な手をかけて。 しかしそんな手ではとても自分の体を持ち上げる事は出来ず、土の壁に数本の縦に伸びる溝を描く事しか出来なかった。 そんな必死の努力をする彼女に無情にも大量の土が襲う。 セミの幼虫は仰向けにひっくり返った。 だが、男たちの手は止まらない。 仰向けになったセミの幼虫の上にどんどん土がかけられる。 「ぐふぉ、ぐふぉ」 セミの幼虫が咳き込んだ。 おそらく、彼女の顔に直接土がかけられたのだろう。 彼女は咽せながら、そして泣きながら懇願する。 「なんでもします、お願いですから助けて下さい、お願いします、お願いします、おねが…… 」 土がセミの幼虫を完全に覆ってしまい彼女の声は聞こえなくなった。 土の表面が少しだけ動いているが、そのうち動かなくなった。 【転落】 画面が切り替わると、穴から這い出るセミの幼虫。 体が半分土から出て来たが、足が土から出せない。 それよりも彼女が生きていた事に安堵し本当に良かったと胸を撫で下ろした。 セミの幼虫は土からなんとか自力で這い出ると目の前に人工的に造られた木の幹の上を進み出す。 画面を縦にすると、木を登っているように見える、そんな映像を撮る為だと思った。 セミの幼虫が木の幹の上を進むのには理由があった。 カメラのアングルが変わる。 セミの幼虫の背後からの撮影、その先にはカバンと免許証が見える。 カメラはこの免許証の写真にズームアップしていく。 なかなかの美人、一瞬映った免許証から彼女の年齢が分かった。 24歳、なぜこんな若くて綺麗な子が、グロテスクな着ぐるみに入れられて、埋められたり這いずり回らなければならないのだろう。 疑問だけが残る。 人工的に造られた幹の上を進んでいた土まみれのセミの幼虫の着ぐるみの前脚、中脚、後脚の全部で6本の脚が幹にスタッフにより固定された。 すると、人工的な木の幹は固定されたセミの幼虫とともにクレーンで釣り上げる。 「きゃあ、何これ、下ろしてよー」 くぐもった声で助けを求める彼女。 俺は一気に血の気が引いた。 今、木の幹に固定され釣り上げられている女性と先ほどまで穴に埋められた女性の声が明らかに違ったのだ。 つまり、助かったと思っていた土に埋められた女性は未だに仰向けになったセミの幼虫の姿で、土の中に埋められているという事になる。 早く助けないと本当に死んじまうぞ。 俺がそう思いながら、画面の中を凝視する。 埋められた女性の事が気になる。 映像は上空から地面を撮るアングルの後、吊り上げられた幹の横からのアングルに切り替わった。 ちょうどその時、羽化が始まる。 幹に固定されていたあの若い女性は、セミの幼虫の中に白いセミの着ぐるみを着ていたのだ。 セミの幼虫の背中が割れて、反り返る様にして白いセミの成虫が出てきた。 本来なら脱皮し空になった抜け殻に捕まり、セミは羽を伸ばすのだが。 幹は吊り上げられ3mほどの高さはある。 白いセミの成虫は幼虫から脱皮する事はできたが、幼虫の殻に掴まる事が出来ず、そして言葉を発する間もなく頭から真っ逆さまに転落した。 白いセミの成虫は鈍い音を立てて地面に叩きつけられると動かなくなってしまった。 【羽化】 また、画面が切り替わる。 白い羽化したばかりのセミはジッとして動かない。 あのカバンと免許証を取り返そうと頑張っていた女の子は大丈夫だったのか? その事がただただ気になり、画面を凝視する。 土に埋められた子も、転落した子も実は無事で画面の隅に映り込んでいる事を願って、画面を凝視し続けるが、それらしい女性は全く映ってはいなかった。 白い羽化したばかりのセミにスタッフがバケツを持って近づく。 そして、バケツの液体をセミに勢いよくかけた。 液体は茶色く白いセミの体を染めていく。 そして、同時に丸まっていた羽が意思を持った様にピンと伸びていく。 おそらくだが、この羽は形状記憶合金が使用されており、熱によって形状が戻り伸びたのではないかと俺は推測した。 それを裏付ける様に、液体がかけられた箇所からは湯気が出ている。 「熱い、熱い、やめて」 突然、甲高い先ほどの女性たちとは違うくぐもった声が聞こえてきた。 若干のタイムラグがあったのは、着ぐるみの中まで熱湯が染み込むのに時間がかかったからだろう。 熱湯から逃げ惑うセミ。 一部しか茶色に染まらず、羽が伸びきらないセミに着色された熱湯が何度も何度も勢いよくかけられる。 セミからは悲鳴のような声と鳴き声が混じった声がずっと聞こえていた。 だが、ついに声を発しなくなったセミは動かなくなった。 それでもスタッフは動かなくなったセミに着色された熱湯を何度も何度もこれでもかと浴びせて着色をし続けた。 茶色く着色が出来たセミは、稼働範囲の狭い手足を広げたまま、地面にうつ伏せになっている。 過剰なまでかけられた茶色の液体で窪んだ地面に半分埋まった状態で。 彼女もまた、大火傷を負い着ぐるみの中での生死が危ぶまれる。 【成虫】 またまた、画面が切り替わった。 次に出て来たのは、茶色く体が染まり羽がピンと伸びたセミ。 完全体というか、完成体となったセミはスタッフ2人に抱えられて、ごく普通の木の前へ。 セミと幹の太さがそう変わらない木に、セミを抱きつかせると固定を始める。 「え、ちょっと何するの?トラックの荷台の巨大虫かごに入って終わりじゃないの?ねえ!」 その声もまた、くぐもっており他の女性たちの声とは違った。 俺はこれである事に気づいた。 スタッフはセミの着ぐるみ女性の声には耳を貸さず、淡々と透明の薄いラップで、木の幹とセミの完成体を密着、固定していく。 完全に木にセミを固定し終わると、セミの前に定点カメラをセットしてスタッフは引き上げてしまった。 定点カメラの映像が早送りで流れる。 夕方になった時、木に固定されたセミに変化が。 下半身と思われる部分を木に擦り付けている様に見える。 そして、その時は来た。 セミの着ぐるみの腹部の先の尖ったところから、黄色い液が出てきた。 『ジョロ、ジョロ、ジョロ』 かなり、長い時間たれ続けた。 黄色い液の出が悪くなってきた時、セミは木に固定されながらも、ブルっと一度だけ身震いをした。 皆さんお分かりと思いますので、これについては特に触れないで下さい。 とテロップが流れた。 【エンディング】 またも、画面が切り替わる。 そして、夕日も落ち始めて暗くなった画面に現れたのは茶色のゼンタイを着た女性。 女性と分かるのは大きな胸の膨らみがあるから。 女性は後頭部に手を回してゼンタイのファスナーを下ろす。 そしてマスクを脱ぐ為に、真上を見る様にして後ろに体を反らせて、マスクを脱いだ。 ゼンタイから出て来たのは、人工的な木の幹に固定されて、羽化の際落下したと思われた免許証の写真が可愛い女性。 髪をサッとかき上げてから、頭を2、3度左右に振ると、話し始めた。 「皆さん、最初に言っときますが、ここのスタッフさんは鬼畜じゃありませんよ」 「都度、私は助けてもらい今はこうしています」 両手を広げて自分が元気な事をアピールする。 「私、実は声優でいろいろな声を出せるんです」 そういうと、実際に声を変えるところを披露する。 当然声はくぐもっていないが、確かに映像で聞いた声に似ている。 「私、今回着ぐるみを着てセミになりきってみました、また次回あれば見てくださいね、ではまた」 そう言うと、可愛い女性が手を振って終わりとなったが、その彼女が手を振る画面の隅に木に縛られた巨大なセミの姿が映り込んでいた。 【妻】 「で?どうやって帰ってきたんだ?」 タブレットで動画を見ていた俺の隣から、妻がゆっくりと席を立ち、俺から離れていこうとする彼女の腕を掴んだ。 「何の事かしら?」 「惚けなくてもいい、俺には全部お見通しだよ」 どういう事かというと、妻は日曜日の早朝、仕事があると言って出かけていった。 帰宅予定時間は午後9時だったが、帰って来なかった。 もしかすると、飲みに行って遅くなるかも知れないとは聞かされていた。 月曜日の朝、俺の出勤時間になっても帰って来ておらず、連絡したが連絡も取れなかった。 仕方なく妻の事を心配しながらも出勤した。 仕事を終えて帰ると、妻が帰宅していた。 「本当に体は大丈夫か?」 「え、何が?」 俺の問いに妻は惚ける。 妻は第一線を退いたが、今でも時々仕事をしている今回のようなスポットであるスタントの仕事を。 昔の上司や仲間に頼まれて、生死に関わる様な仕事を断りきれずに受けてしまう事を俺は知っていた。 そして、体のどこかを怪我をした時は決まって俺がお願いしても絶対に着てくれない全身ラバースーツ姿で過ごす事が多い。 つまり、先ほどまで見ていた配信動画のセミの着ぐるみの中身は全て妻で、声優がアテレコをしただけ。 ただ、最後の木に磔にされる際の声は妻の声で間違いなかった。 妻はセミの着ぐるみを着て、土に埋められたり、高いところから落とされたり、熱湯をかけられ、最後は木にラップで磔にされて放置された。 どうして最後、放置されたと分かったかというと、最後の映像の隅に木にラップで磔にされたセミが映り込んでいたシーンで木の側に妻のお気に入りのバッグと同じものが置かれていたから。 【真実】 むせび泣きながら俺に抱きついてきた妻をしばらく抱きしめてやる。 そして、妻はゆっくりと話し始めた。 「あのね、……… 妻はこの仕事を受けた時から着ぐるみを着せられて、あの酷い目に会い、家に帰るまでの事を順を追って話し始めた。 私に連絡が来たのは2週間ほど前いつもの様に以前の仕事の上司から人が足りないので、助けて欲しいという依頼だった。 内容は聞かされず、1日だけの仕事で君なら大丈夫だと言われた。 報酬は前金で半額振り込まれていた。 断り切れなくなり仕事を受ける事にし、あなたに仕事を行くことと21時までには帰れると経験から試算し、もしもの場合も考えて遅くなる事をあなたに告げた。 指定された場所へ行くと、本当に簡単な説明がされた。 相変わらず着ぐるみでの演技の要求は何もなかった。 セミの羽化を着ぐるみを使って再現すると。 スタッフはいつものメンバー、いつもと違うのは、声優の女の子。 彼女も着ぐるみを着るようで、茶色のゼンタイを着て顔だけ出していた。 紹介もそこそこに私の準備に取り掛かる。 更衣室に女性スタッフと一緒に入り、まずは裸になり着てきた服は私のお気に入りのバッグの中へ仕舞った。 まず、スタッフが手にしたのはラバースーツ。 全身一体型で背中にファスナーがある。 マスクは細かな穴しかなく、見た目がノッペラボウになるマスク。 ドレッシングエイドを体に塗り、足を通していく。 あなたにラバースーツを着て欲しいと言われるけど、なんとなく仕事を連想していいイメージがないからあまり着たくないの。 そしてラバースーツを着て背中のファスナーを上げてもらう。 ここまではいつも通り、インナーを着たに過ぎない。 次に手渡されたのはウエットスーツ。 少し厚手でフードまである。 ウエットスーツに足を通して着て行き、最後にフードを被ると、口の所まで覆われた。 目も見えるし、鼻で呼吸も出来る、しかし口での呼吸は厳しく口が開きにくい為、声を出すのは難しくなった。 これも背中のファスナーを上げてもらうが、女性スタッフはガムテープで、ファスナーを完全塞いでしまった。 この時点で何か良からぬ気配はプンプンしていた。 大抵はこの状態で着ぐるみに入るのだが、今日は違った。 私の体をふた周りほど太らせる厚みの発泡ゴムのスーツを着せられた。 特にこのスーツは首周りが太く、着ると頭から首がなくなり肩になってしまい、いかにも不恰好。 さらにフードもかなりの厚みがあり、まるでフルフェイスのヘルメットを被ったようになった。 口は完全に塞がれて声は一切出せなくなった。 ただ、手足はウエットスーツを着た時と、太さはそれほど変わらなく動かす事に不自由な事はなかった。 【準備】 この格好で更衣室を出るとセミの幼虫がいた。 ただ、全く昆虫的な動きではなく、人間が四つん這いになってただ歩いているだけなのだが、着ぐるみがリアルでクオリティが高い為、本物に見えなくもない。 セミの幼虫は私が更衣室から出て来たのに気づくと私の方へ近づいてくる。 不慣れな感じが全面に出ている事から中身は声優の女の子。 「どうですか?私の演技」と聞いてきたが私は喋れない。 私に付き添っている女性スタッフから私が話せない事を説明した後、彼女のセミの幼虫の動きを褒めていた。 まあ、そんな事は心にも思ってなくても、機嫌よく仕事をしてもらう為のおべんちゃらを言ったのだろうと思った。 私もあのセミの幼虫の姿にされるのかと思うとテンションが下がる。 私は虫があまり得意ではないので、最初にセミと聞かされた時、正直ゾッとした。 それでも私は仕事を受けた以上はやりきる。 そして私の前に運ばれてきたのは、茶色の幼虫ではなく白い綺麗なセミの着ぐるみだった。 正直、セミのイメージは茶色くて、ザ虫といったイメージだったので驚いた。 でも、なぜセミなのだろうか? もしかすると幼虫は声優の彼女の担当なのかと思い心の中で少し喜んだ。 女性スタッフがセミの腹部と胸部の間を広げるとファスナーが出てきた。 それを胴回りに一周させると、腹部が半分以上外れてそこから頭を入れていくが上手く着る事が出来ない。 私は直立させられて、男性スタッフの手で両側から着ぐるみの中へとグイグイ押し込まれていく。 頭の部分は広く、呼吸も視界も良好。 体もしっかりと発泡ゴムで守られているので、どんなスタントにも耐えられそうだ。 着ぐるみ内に収まると発泡ゴムに阻まれながらもどうにか、私の足をセミの後脚に入れる事ができた。 女性スタッフが腹部と胸部の間のファスナーを閉めて私は白くて綺麗なセミとなった。 あの声優の女の子とは違い綺麗な着ぐるみに。 そう思っていたのも束の間、私の前に今度は茶色の幼虫の着ぐるみが用意された。 また、セミの時と同じように、腹部と胸部の間のファスナーを開き始める。 “え、嫌、それに入るのは嫌!“ 私は声が出せないので、全力で首を振ったが発泡ゴムとセミの着ぐるみが邪魔して、私は自分の意思も伝えられなくなっている事に気がついた。 セミの着ぐるみの脚で直立するが、難しく男性スタッフ3人がかりで、支える人1名と着せる人2名でようやく私にセミの着ぐるみの上から幼虫の着ぐるみも着せた。 女性スタッフが腹部と胸部の間のファスナーを閉めて、私はなりたくなかったセミの幼虫になった。 姿見で見たその幼虫の姿は、声優の女の子が着ていた幼虫の様なダボっとした感じはなく、中身が詰まり本物のセミの幼虫のように私の目には映った。 【撮影_生き埋め】 準備が出来たので車で移動する。 声優の女の子のセミの幼虫の着ぐるみは私が着せられたものとは違い、胸部と頭部の間にファスナーがあり、顔を出した状態で足もよく見るとセミの脚ではなく、彼女の足が節の途中から飛び出していた。 私はというと二足歩行が出来ないので、台車に載せられるとそのまま荷物の様に運ばれて、トラックの荷台に積み込まれた。 撮影場所は都会の真ん中の広い公園で行われた。 当然、撮影の許可を取り、周りに人が来ない処置も万全に行われているようで、スタッフの姿しかない。 私は男性スタッフ2人がかりでトラックから降ろされるとそのまま運ばれる。 “え、なに、なに?何されるの?“ 私の後を着ぐるみを着て声優の女の子が追いかけながらアテレコする。 こちらは事前打ち合わせが綿密に行われていたようで、アテレコがスムーズに行われる。 その横でカメラマンもついて来て撮影している。 “え、もう始まっているの?“ 何の合図もないままスタート。 そして、私は自力では上がれないほどの深い穴に放り込まれた。 穴の外で女の子のアテレコが続く。 着ぐるみを着てくぐもった声でアテレコするので、いかにも私が喋っているように見えるだろう。 若いのになかなか上手だと感心していると、穴の中に土が降ってくる。 “え、私を埋めるの?“ 体を動かし土を回避していたが、だんだんと人数を増やして穴に土が放り込まれる。 “ヤバい!“ と思った私は穴の壁を伝い立ち上がると、カマキリのカマのような手で穴から這い出ようと必死に手を動かした。 しかし、こんな細いカマのような手では穴の壁に線を描く事しか出来ない。 それでもこのまま生き埋めにされたら、あの子のアテレコのように本当に死んでしまうと思い必死で手を動かし、穴を登ろうとした。 そんな私の頭上にとんでもないものが現れる。 それは小型のショベルカーのアーム。 “嘘でしょ“ 私が心の中で呟いた時、無情にも大量の土が私の上に降り注いだ。 その大量の土で私は仰向けにひっくり返った。 起きあがろうとするが、初めに放り込まれていた柔らかい土が凹み、体の前面には先ほどの降り注いだ大量の土が重くのし掛かる。 “起き上がれない“ そんな身動きの取れない私の上にはどんどん土が掛けられ、埋められていく。 ショベルカーも加わりあっというまに私は生き埋めにされた。 目の前が真っ暗で、土の重さが体全体にのし掛かり体が潰されそうだ。 無駄だと、分かっていても手足を動かしてせめて体の上の土を取り除こうとするが、疲れてくるだけで一向に状況は改善しない。 呼吸は発泡ゴムと着ぐるみの間に空間があり、今は問題ない。 着ぐるみの頭にも空間があるので、大丈夫そうだ。 自分ではどうする事も出来ない状況に、もう打つ手はなく、救出されるのをひたすら待った。 だが、なかなか救出される気配がない。 どれくらい経っただろうか。 少し空気が薄くなってきたように感じる。 “あれ、私このまま死んじゃうの?“ そんな事を考えていると、目の前が真っ暗になった。 【生き埋め_固定】 気がつくと私は掘り起こされて穴から出ていた。 正確には脚はまだ土の中に埋もれていたのだが。 当然、全身土だらけ。 目の前には作り物の木の幹がある。 幹の先にも何かあるが、視界が土で汚れてよく見えない。 まだ、体にダルさが残る。 土の重さで体が潰されたのか、それとも酸素不足によるのなのか、今の私には分からなかった。 ただ、私に目の前の木の幹へ誘導するようにテグスで体が引っ張られる。 “木の幹に登れと言うことか“ 私は一度強く目を閉じてから見開くと、目の前の木の幹を登り、その上をテグスに誘導されながら、ゆっくりと進んでいった。 テグスが引っ張られなくなった。 “あ、ここで止まればいいのね“ まだ、ぼんやりした頭でそう思い、じっとしているとスタッフが集まってきた。 私の両手、両足、さらにはお腹の辺りから伸びたもぬけの殻の脚までも、木に固定した。 気になったのは、両手、両足。 セミの幼虫の脚は固定したようだが、セミの着ぐるみの脚は固定されていない。 固定した人のミスかなくらいに思っていると、クレーンのエンジン音とともに私を固定した木の幹が立ち上がった。 かなり、慌てたが、何も出来ない。 クレーンはエンジン音を響かせて、私がくっついた木の幹を吊り上げていく。 “ちょっと待って、ちょっと待って“ と私が思った時、クレーンが止まった。 “通じたのかな“と思ったが、そんな訳はない。 段取り通り事が進んでいるだけだと私は思った。 私の思った通り、次の工程が始まる。 私の背中辺りが強い力で引っ張られる。 ある程度の高さまで上げて落とされるのかと、一瞬思ったがそうではないようだ。 【脱皮_転落】 6本の脚が固定されているので、セミの幼虫の背中が開いていくようだ。 その開口部が大きくなっていくにつれてある事に気づいた。 幼虫の前脚に入っていたセミの前脚が抜けていく。 “え、ちょっと、待って“ 私は幼虫の脚から抜けないように何度も何度も掴み踏ん張ろうとしたが、セミの脚では掴めるはずもない、さらに動揺して暴れたので、頭が幼虫の着ぐるみの外へ飛び出してしまった。 “ヤバい、落ちるよぅ“ 一瞬、地面が見えたがかなりの高さ。 落ちたらただでは済まない高さ、それくらいは誰でも分かる。 落ちないように後脚を踏ん張り、上体を起こそうとする。 実際のセミなら抜け殻が固いので捕まる事が出来るが、試しにカマのような手で挟んでみるが柔らかくてフニャフニャ、加えてこのカマのような手では力が入らない。 とても、落ちないように支えるのは難しい事は分かる。 “急がないと落ちてしまう“ 焦る気持ちとはウラハラに対策は何もない。 そして、幼虫の背中が最後まで開かれた。 上体を起こせずにいたので、一気にバランスを崩す。 後脚で踏ん張るが、とても踏ん張りが効かない。 “落ちる!“ 落下しながら、頭は働かなかったが勝手に体が動いた。 体を捻って頭、そして肩を守り背中から着地しようとしたが、落ちる速度が速く肩から落ちてしまった。 “鎖骨をやっちゃった“ 落ちた衝撃で鎖骨からの痛みは届いていない。 大きく息を吸い込むと、痛みに耐える覚悟をして落下した方の腕を動かす。 “? あれ?痛くない“ 何度か落下し、鎖骨を折る事があったので、痛みはしっかりと体が覚えているが、痛みは走らない“ “良かった、折れてない“ おそらくだが、首周りを厚く補強されていた発泡ゴムが鎖骨を守ってくれたのだと思った。 私は急に力が抜けてその場に体を丸める。 着ぐるみの可動範囲が限られるので、目一杯楽な姿勢でジッとして動けなくなった。 【着色】 体を休めている私の元へスタッフがバケツを持って近づいてくる。 “もう、いい加減にしてよ、次から次へと“ 私は疲れた手足を休めながら、スタッフの様子を伺う。 突然、バケツの中身の液体を掛けてきた。 “今度は何?“ 私の視界が一気に茶色に染まった。 少しタイムラグがあり、手足に液体の熱さが伝わってくる。 “あっつ、今度はお湯?“ “もう、やめてよ“ 心の中で叫んでも誰にもその声は届かない。 逃げ惑う私にスタッフ総出で塗料を溶いたお湯をかけてくる。 逃げ惑う私の横で、声優の女の子が私の心を代弁する様にアフレコしていた。 それでも、お湯をかけるのは止まらない。 ついに逃げる力もなくなった私はその場に倒れ込んだ。 それでも降り続く茶色のお湯。 “みんな、自分のストレスを反撃できない私を虐めて解消しているんじゃない“ そう思えてきた。 【磔_撤収】 茶色の液のせいで視界がかなり悪く、僅かな隙間からしか外が見えなくなってしまった。 私の左右に男性スタッフが近づいているのが見えた。 “私、また何かされるんだ“ そう思いながらも体に力が入らないので、されるがまま。 男性スタッフの1人が私の体を持ち上げて、木に密着させる。 そしてもう1人が業務用ラップで、私の全身を木に固定し始めた。 ある程度固定してしまうと、2人で上下からラップを巻いて完全に磔にされてしまった。 「え、ちょっと何するの?トラックの荷台の巨大虫かごに入って終わりじゃないの?ねえ!」 声優の女の子がアフレコする。 驚いたのは私の声そっくりの声でアフレコしたのだ。 これには私の声を知っている男性スタッフもびっくりしていた。 しかし、私にはもう動く力は残っていない。 “早く家に帰りたい!“ 私の心の中はその想いだけだった。 男性スタッフは私の全身を取れる位置を探して定点カメラを設置している。 その間に女性スタッフがバッグを持って近づいて来た。 それを木の側に置く。 そして、腹部と胸部の間のファスナーを開くと腕を突っ込んで何かし始めた。 ゴソゴソが繰り返されると私の股の辺りがスースーする。 ラバースーツには股のところにファスナーは確かにあった。 主に排泄用のもの、しかし、ウエットスーツや発泡ゴムのスーツは見ていないというか気にも止めていなかった。 ラバースーツのファスナーが開くということはそういうことだろう。 女性スタッフはセミの腹部と胸部を繋ぐファスナーを閉めるとその場を離れていった。 そして、定点カメラの撮影が始まる。 股のところがスースーして冷えてくる。 同時に尿意が急に高まってきた。 そんな私が排泄を我慢している近くで、声優の女の子がエンディングのまとめ的なものをゼンタイから顔を出して始めた。 “やっと終わりだ、帰れる“ 私はホッとしたと同時に排尿し始めてしまった。 “あれ、イヤっ止まんない、見ないで“ 止めようと力を入れても止まる様子がない、ついには全部出し切り最後に身震いした。 それを確認した男性スタッフは定点カメラを撤収する。 そして私を除く全員がトラックに乗って走り出した。 “待って、戻って来て“ 私の声は出ない。 だが、少ししてトラックが戻ってきた。 “助かった、そんな不安にさせる事しないでよ“ 少し涙が出てきた。 仕事を依頼した上司が走ってくる。 “早くラップ取って“ 上司は封筒を持っている。 「今回の報酬の残りバッグにいれとくから、また頼むわ」 そう言って封筒を私のバッグに入れると、走ってトラックへ戻って行ってしまった。 トラックはそのまま走り去り、すっかり日の落ちた公園は人の気配もなく不気味さだけが増していた。 【解放】 ここから私の孤独な戦いが始まった。 まずはラップを外さなければならない。 体の動かすことのできる所を頑張って動かしてラップを徐々に緩めていく。 しかし、木に磔にするくらいなので簡単には緩まない。 どれくらい時間が経ったかも分からない。 だんだん眠くなってきた。 どう、足掻いても無理だと感じた私は少し体を休める事にした。 どれくらい眠っていたかは、分からない。 ただ体はなんとなくだが、スッキリしている。 撮影で体も疲れていて、おまけに着ぐるみの中の柔らかいインナーに包まれていたのでグッスリ眠れたのだろう。 体力も回復した、後はひたすら揺すってラップを伸ばして磔を緩め、疲れたら寝るを繰り返した。 東の空が明るみ始めた時、ようやく磔から脱出できた。 ただ、問題はここからどうやって家まで帰るかだが、ここがどこだかさっぱり分からない。 視界が茶色の塗料で見えにくい中、スマホをバッグから苦労して取り出すも着ぐるみの手では反応しなかった。 そして何より反応したとしても、顔認証もダメだし、パスコードもこんな手では入れられない事に気づいた。 せっかく苦労して磔から逃れられたのに、家に帰れないなんて。 無闇矢鱈と歩き回って、好奇の目に晒されるのは百歩譲って我慢できても、職務質問で警察に捕まりかねない。 私は今、話す事ができないし、字を書くこともできない。 警察も私を着ぐるみから解放出来なければ、留置所に放り込まれてしまうかも知れない。 考えれば考えるほど、悪い事ばかりを考えてしまう。 “どうしたらいいんだろう?“ 半分諦めに近い気持ちで、その場に寝っ転がった。 【帰宅】 “うーん、もうどうでも良くなってきた“ 空を見上げる。 今日はいい天気になりそうだ。 こんな姿でなければ、洗濯を干して時間が余れば、庭にレジャーシートを敷いて寝っ転がるのに。 家の庭でも天気のいい日にはきまって庭で寝っ転がっていた。 あの右手の高層ビル群も、左手の緑の大きな屋根のマンションもうちの庭からの景色とそっくりだ。 “ん?“ 寝ながら腕を伸ばしていて、その事に気づいた。 寝っ転がってみた景色が庭と同じ。 いや、正確には少しズレている。 そして、家の裏の斜面を登ったところは、公園になっている事を思い出した。 私はすぐに起き上がると、自分のバッグを持って斜面の端まで移動した。 眼下に広がるのは、普段ベランダから見る光景とほぼ同じ、そして私たちの家が見えた。 私は転がるようにして、斜面を下り家に帰ってきた。 “良かった、無事に帰れた“ いろいろな悪い想像からは逃れられた、本当に良かったと思うと気の緩みから、排尿してしまった。 もう、排尿ぐらい大した事ではない、後で水で流してしまえば済む。 さて、問題はどうやって着ぐるみを脱ぐかだが、今は全く頭が回らない。 かなりの眠気が私を襲い、起きていられなくなった。 庭の端に移動してセミの着ぐるみに包まれて眠る。 “疲れた、とにかく疲れた“ 目が覚めると、私はウエットスーツ姿で玄関に倒れていた。 疲れすぎてて自分でもよく分からないが、とにかく家の中にいた。 脚がもつれそうになりながら、浴室へ行きウエットスーツとラバースーツを脱いで、シャワーを浴びて出てくると、セミがソファーに座っていた。 私が驚き、座り込むと中から双子の妹が出て来たの。 たまたま、用事がありやって来た妹は、庭に転がっている巨大なセミを見つけた。 中に私が入っているかも知れないと思った彼女は、時間がかかったが着ぐるみを脱がせる事が出来た。 そして着ぐるみから引っ張りだし、発泡ゴムのスーツも脱がせてくれた。 なんとか家の中まで運んだが疲れて玄関に寝かせて置いたらしい。 妹はセミの着ぐるみ気に入ったので一式持って帰ってしまった。 【大事な人】 これがこの数日、妻の身の上に起こった全ての事だ。 俺は妻の事を心配する。 いくら着ぐるみの中のに体を守るように、分厚いスーツを着ていたとしても、無傷という訳にはいかないだろう。 その傷やアザを俺に見せたくないから、妻は一度着ると俺がラバースーツを脱がせられないようにしてしまう。 妻が今着ているラバースーツは全身一体型になっていて、頭の天辺でファスナーを鍵でロックできる仕様になっている。 妻はラバースーツのファスナーを自らロックすると、その鍵を隠してしまう。 俺に心配させたくないのは分かるが、そんな妻の配慮も汲んで俺は妻の体の心配はするが、何も否定す事なく妻を労う。 本音としてはすぐにでも辞めて欲しいが強制はしたくない。 妻が自分から辞めてくれることを願っている。 俺だけの大事な妻なのだから。 完


Related Creators