前の話 https://www.fanbox.cc/manage/posts/9501123 ============================ 闇の中で、リネットは意識を保ったまま、どこかへ運ばれていた。 身体はまだ痺れていて、自由に動かすことはできない。薬が効いているだけでなく、部屋から運び出された後に両手を後ろで、両足を閉じた状態で縄で縛られてしまった為、そもそも動けない。まぶたを開こうとしても、目隠しがかけられているせいで何も見えない。猿轡によって口を塞がれ、声を発することすらできなかった。 (...私は、今...どこへ...?) 数時間が経過していた。船に乗せられフォンテーヌから運び出された後、何かに乗せられた。揺れる感覚と、車輪が軋む音から自分が馬車のようなものに乗せられているのを感じる。身体が、一定のリズムで運ばれている。 周囲の温度が変わった。肌に当たる空気が湿っている。リネットは、微かな感覚を頼りに、自分が置かれた状況を整理しようとする。 (...屋内に...入った?) こんな形で捕らえられるなんて。こんな罠にかかるなんて。悔しさが、胸の奥でじくじくと広がっていく。 (...でも...ここで焦ったら...ダメ) リネットは、脱出するために必死に頭をまわした。体の自由を奪われたリネットができる事。それは考える事。相手の目的がわかれば脱出するタイミングが見つかるかもしれない。今までの経験から予測を立てる。 (わたしが誘拐された理由...身代金目的...壁炉の家に対して...?リネやフレミネじゃなくて私が狙われた理由...まさか...奴隷としての価値 過去を思い出してしまったリネットは、無意識のうちに震えた指先を握る。 他の兄弟ではなく、女である自分が狙われた理由。考えたくもない展開だった。しかし、状況的にそれが一番可能性が高い。 (...なら...このまま大人しくしていたら...本当に...。) そう思った瞬間、体の奥底に眠っていた恐怖がじわりと湧き上がった。彼女の小さな胸がかすかに震えた。いやな妄想をしてしまい、猿轡をされている口から激しく呼吸音が聞こえる。 焦り。それは、普段の彼女なら決して表に出さないもの。 数時間後、揺れが止まった。 (...着いた?) 次の瞬間、リネットは男たちの手によって持ち上げられ、どこかへと運ばれていく。 周囲は静かだった。足音が響くほどの静寂。空気が冷たい。ここが外界から隔絶された空間であることを、肌が感じ取った。 (...この音の反響...湿った空気...どこかの地下?) 「...ここだ。」 低く、乾いた声が響く。重い扉が開かれる音がする。中の空気が一気に流れ込んでくる。目隠しをされ縛られていても、空気は感じる。鼻から入ってくる空気の匂いを感じる。 湿っぽい、鉄の匂い。その中に混じった、鼻を刺すような、不快な臭い。 (牢獄...?) リネットは、ゆっくりと運ばれた先で、硬い床の感触を感じた。次の瞬間、ドサリと音を立てて、ベッドの上に下ろされる。 「...しっかり監視しろ。こいつは特別な商品だ。」 「...了解。」 男たちは短く会話を交わすと、一人が何かを手に取る音がした。 次の瞬間、冷たい金属がリネットの首元に触れた。 (...ッ!?) そのあとカチャリ、と鈍い音が響く。首に巻かれたものが、カチリと固定される感触。猿轡と目隠しをされているリネットはその首につけられた何かを外そうと首を振るが頭を押さえられてしまう。 そのまま首輪につながったチェーンを壁の鉄パイプにつなげられてしまう。 「お前みたいな雌猫には、しっかり躾をしてあげないとな」 男の声が、すぐ耳元で囁かれる。 「明日から、たーっぷり躾けてやるから。明日の夜にはもう眠れない体になってるだろうから、たっぷり休んでおけよ」 「んぅっ...んぐっ...」 男たちは、静かに笑った。そして、その場を後にする。重い扉が閉じる音が響いた後、リネットは、一人、暗闇の中に取り残された。手足を縛られ、目隠しと猿轡をされ、壁とつながっている首輪をつけられたリネット。 何もさせてもらえない状態のまま、冷たい床と、硬いベッドだけがある空間に一人残された。視覚を封じられ、敏感になった体が、身に着けた首輪の存在を感じる。