「いい? じきにお客様がお見えになるから、大人しく待ってるのよ」
「え? ――うぐぅぁぁッ!」
体がいきなり下降する。
白い衣装を着た年上の女が、足の脛(すね)あたりにある台の上に俺を置いたからだ。
「ま、待ってくれ! 待ってッ! お客様が来るって、俺は何をされ……」
そんな女は艶やかな黒いポニーテールを揺らして、怪獣みたく足音を踏み鳴らしながら歩き遠ざかっていく。
俺の声が聞こえていないのか、気にも留める様子もなくズシズシと。
そして、ガチャリとドアを開けた音の後、ドアを閉じた音が無情にも俺の耳に聞こえたのだった。
「い、行ってしまった……」
俺を残して何処かに行ってしまった巨人の女。
いくら叫べど、もう戻ってくる様子はない。
辺りには、ポツリと呟く俺の声だけがいやに反響していた。
「く……うぅ……」
尋常じゃない不安が胸を締め付ける。
あの女は確かにお客様が此処に来ると行っていた。
何をしに? 分からない。
だから怖い。
お客様が此処に来る理由は、きっと俺にとって、碌な事じゃないはずだから。
だったら逃げたら良い――そう一瞬だけ脳裏によぎるが、だけども俺はもう……逃げようだなんて気持ちは綺麗さっぱり無くなってしまっていた。
――柏木達に体を小さくされた時に、散々と思い知ったからだ。
学校で先生の履く靴に挟まれ、靴飾りになった事。
そして同級生の並木 りんに、オナニー人形としての扱いをされた事によって。
どれだけ全力を振り絞ろうが、先生の靴から抜け出す事は出来なかった。
並木 りんに掴まれた時、指の一本すら動かす事は出来なかった。
――無力。
――無意味。
この小さな体となった今では、何をしようと巨人には敵わないのを心底理解させられたので。
なので俺には逃げ出そうという選択肢はなかった。
「……それに、この “中” から出られそうにもないしな…………」
俺がいるこの場所は、そう広くはない四方に覆われた透明なガラスの中。
見上げれば、ガラスの中から外に出られそうな出口はあるにはあるが、しかしそれはどうやっても届きそうにない高い場所。
なんて言えばいいのか……。 ああ、そうだ小瓶か。
その中に俺は入れられ、閉じ込められているのだ。
「まあ例えこの小瓶から外に出られたとしても、今の俺にはどうしようもないが……」
そもそもが逃げる気力自体が湧かない。
この小さな体となった今、この巨人の住む世界で生きて行ける手段をまったく思いつかなくて。
「この体ではきっとすぐに死んでしまうんだろうな……俺」
死に方は様々だ。
虫みたく踏まれて死ぬか、それともそんな虫によって殺されるのか、はたまた……。
ああ、普通の人間だった時は対して気にもしていなかった色々な事が、あまりにも脅威だ。
どれもこれもが自分にとって……。
「……しかし、ここは何処だろうか?」
せめて自分が置かれた場所だけでも把握しようと、ぼんやりと小瓶の外側の世界を見回す。
外側のだだっ広い世界を見ると、そこには壁にかけられた大型のテレビがあり、机や椅子があった。
どれもが異常なほど大きな家具類などが。
次に後ろを振り向くと、真っ白な布で出来た地面が広がってもいた。
「ああ、これはベッドか……」
小さくされてから、ありとあらゆる物の見え方が違いすぎて一瞬何か分からなかったが、でも合ってるだろう。
多分だが、これは人が二人ほど寝られる大きさのダブルベッドだ。
「こっちにあるのはなんだ……?」
さらに見回すと、透明なガラスに仕切られた、何故かこちら側から丸見えである個室らしき場所があった。
「シャワーがある……。 ならあれは浴室なんだろうな」
机、椅子、テレビ、そして浴室。
それらを確認して、俺が置かれている場所は何処なのかをさすがに把握する。
明らかに此処は人が寝泊りする “部屋” であると。
しかし部屋だといっても、個人が所有する部屋ではなさそうだ。
「なんていうか……そう、ホテルの一室みたいだな、ここ」
自分は行った事はないが、部屋から丸見えである浴室を見てそう思った。
ここは、男女が性行為を致すラブホテルみたいだと。
「ハハ……現状分かるのは、ホテルの一室に物みたく置かれているって事ぐらいか」
考えられるのはここまで。
結局はお客様がこの部屋にこない限り、彼――『岩田 正司』は何も分からないでいた。
いったいこれから先、どうなるのかを……。
………………
…………
……
◇
正司がホテルの一室に置かれておおよそ二時間後、『葉山 真一』の母である『美奈子』は、コツコツとヒールを踏み鳴らしながら、今晩泊まる自分の部屋に向かって歩いていた。
パーティー会場とは階層が違う、宿泊施設である八階の長いフロアを。
「うふ、うふふ♪ ――あ! や、やだっ!」
フロアの真ん中で自然と笑い声が零れてしまい、慌てて片方の手で口を噤む。
「……誰にも見られていないわよね?」
周りを見回すと、幸い私以外誰もフロアにはいないようだ。
「ふぅ……良かった……」
ほっと胸を撫でおろす。
こんな突然笑ってしまった自分の姿を、もし他人に見られていたらと思うと、さすがに恥ずかしすぎるから。
「でもしょうがないわよね。 だってこれからこの子達を使って……うふふ❤」
私はその場で立ち止まり、もう片方の手に持っている小さな檻を顔の前まで持ち上げる。
人間の男性だった物が入っている檻を。
《うぁぁぁ……》
《ひぃぃぃ……》
中を覗くと、五人の男性が悲鳴を上げて必死に格子を掴んでいた。
どうやら歩く揺れに耐えられずに、こうして格子を掴んで頑張っていたみたい。
私はいつも通り普通に歩いていただけなのに、それすらもこの人達にとっては大きな揺れだったらしい。
「可愛いわ❤」
あまりにか弱い姿が愛らしく思えてくる。
決して男性に向けるような愛ではなく、なんていうか……そう! 小動物に向けるみたいな。
ちなみに彼らは、私が厳選して選んだ人達。
なるべく若くて、自分がかっこいいと思う。
なので皆私と同じぐらいの年齢かその下。
だいたいだけど、三十代から三十六歳までの子を選んだ。
そんな五人の彼らを使って、今から存分に堪能できるのだと思うと楽しみだ。
こんなにいっぱいの男性を使って、贅沢にオナニーをした事がないから。
「ふふ♪ それに……」
またなによりも真ちゃんと同じ学生の子と、そして彼を使えるのだ。
「本当に良かったわぁ。 “ポンチ” ちゃんがあって♪」
そうポンチちゃん。 ドキュメンタリー映画に出演していた彼だ。
映画が終わった後、すぐに今晩使用する子を選ぶために自慰用性具が置いてある部屋に向かったら、偶然見つけたのだ。
運が良いことに誰にも選ばれずに残っていた彼を。
きっと少しでも遅れていたら、映画を鑑賞していた別の誰かに選ばれて無くなっていたと思う。
彼が自分を一生懸命アピールする姿はとても可愛らしかったから。
「映画を観て一度使ってみたいって思ってたの。 だからポンチちゃん、私を満足させてね?」
ポンチちゃんのいる方に顔を近づけると、彼は格子にしがみ付きながらこっちに向けて、コクコクと頭を上下に振っていた。
これから私にどういった行為に使われるのか理解しているはずなのに。
そんなポンチちゃんや檻の中にいる彼らの事を考えていたら、ツツっと太ももに生温かな雫が伝った。
「や、やだ……」
もちろんこの雫が何なのか、自分は分かっている。 私のおまんこから垂れ落ちた愛液だって。
だって、早くこの子達を味わいたくて、さっきから下着はグチョグチョだったから。
「これこそ誰かに見られたら恥ずかしいわ……。 い、急いでお部屋に行かないと――」
私は大事に彼らの入っている檻を胸に抱くようにして、自分の部屋に向かって足早に歩きだした。
ずくずく疼く下腹部を我慢しながら。
………………
…………
……
◇
一方、シーンと静まり返った室内の中、正司は座った体勢のまま小瓶の中でうつらうつらと微睡んでいた。
瞼が下がっては目を開き、また瞼が下がっては開くを繰り返して。
何故ならいつまで経ってもお客様が来る気配がなく、長時間も放置されたままでいたため。
だけど、
そんな静寂をぶち壊す音が突然と部屋中に響くのであった。
ドアを開け閉めする音によって。
「おわぁッ! な、何だ⁉」
驚いて飛び起きる。
これまで自分の息遣いしか聞こえなかった静かな部屋に、大きな音がしたからだ。
「今の音は……?」
半分寝ていたせいで頭が回らなく一瞬混乱していたが、すぐに何の音だったのか気付く。
この部屋を使う客が入ってきた音だと。
その証拠にズシ……ズシ……と、足音が部屋に響きだした。
こちらに近づいているのか、それはどんどんと大きく鳴り、自分が入っている小瓶がガタガタと震動しはじめる。
「おおわぁぁ……」
とうとう俺の視界に、足音を響かせる正体なるものが現れた。
とてつもなく巨大な、ワインレッドのドレスを着た人間の女性が。
「あら? 学生の子を部屋に置いてますって聞いていたのだけど、どこにも見当たらないわ」
俺がいるベッドの場所から少し離れている、窓際にある机の前まで歩いてきた女性客は、背を向けて肉付きの良いお尻をフリフリと揺らしながら、何やら探しているみたいだ。
まあ多分……俺を探しているのだと思うが。
「しかしあの人が、この部屋に来るって言っていた客なのか」
顔は良く見えなかったが、とても落ち着いた優しそうな声をしていた。
同級生であった並木達とはまた違う、大人の女性の声。
「俺よりもけっこう年齢が離れていそうだな……。 あの白い服を着た女性よりもまだ上の……俺の親ぐらいの年齢の人かもしれない……」
多分そうであろう、声質から察するに。
「ん~ねえ、ポンチちゃん達も一緒に探してくれないかしら? 机の上だけでいいから」
誰と喋っているのか、女性客は手に持っていた檻? みたいなのを机の上に置いて、今度は俯いて地面を見ながら、ドシドシ部屋の中を歩き出した。
暴力的なほどの豊満な身体を揺らして……。
「うわ……すっご……」
あまりの迫力な光景に、思わず呟いてしまった。
だってそうだ。
ドレスやブラジャーの中におさめられたはち切れんばかりの爆乳が、踊るようにゆさゆさと上下に弾んでいるのだから。
お腹の脂肪もそうだ。
食事を終えたばかりでそうなっているのか、膨らんだお腹もドレスの外側から見てとれるに、ありありと揺れ動いている。
「ん? ――あっ! あったわ♪ ベッドのフットベンチに置いてあったのね」
部屋の中をキョロキョロと探していた女性客はやっと俺を見つけたらしく、嬉しそうな声を上げて歩き近づいてきた。
ドシドシと、太ももの脂肪を波立たせながら。
「うおおぉッ!」
自分とは桁違いの大きさに圧倒されてしまう。
この目の前に立ち止まった、網タイツに包まれた二本の脚に。
「さっきの白い衣装を着た人も、キノちゃん先生や並木もそうだったが、なんて大きさなんだよ……」
本当にでかい……。 小さくされた体で見る人間の脚は、どの高層ビルやどのタワーよりも。
そんな脚を恐る恐る仰いでいく。
脚から太もも……さらにその上にまで。
「パンツだよな……あれ。 な、なんてパンツを穿いているんだこの人は……」
脚の付け根――二本の太ももが合流する鼠径部(そけいぶ)というのか、そこには当然女性客が穿いている下着が俺の目には見えていた。
お尻の肉に布が挟まれた、面積の少なすぎる黒い下着が……。
「こ、これってTバックって奴だよな……」
生で始めて見たので自信はないが、多分そうなんだろう。
「……大人の女性というのは、マジでこういうのも穿くのか……」
信じられない気持ちのまま、まじまじと下から眺める。
空一面を覆う、女性客の下着を。
自分の上空に堂々と鎮座している下着は、股間部を覆ってはいるが、あきらかに全てを隠しきれてはいない。
若干だけど盛り上がったマンコの肉がはみ出ており、また陰毛すらも見えている。
そんなマンコが続く先――お尻の方へと視線を向けると、細布はボリュームのあるお尻の肉にギュウギュウに締め付けられ、布自体がもう見えなくなっていた。
お尻の方だけを見ると、まるで下着を穿いていないのかとすら思えるほど。
「なんだよこれ……て、何で勃ってるんだよ」
酷く煽情的な光景に、自分の意思とは関係なく股間がギンギンに勃起していた。
人は違えど、昨日あの中身に散々と苦しめられていたというのに……。
「嘘だろ……あんな目に遭わされていたというのに勃つのかよ」
自分自身が嫌になる。
この下着の光景に目が離せない事。 そして、それを見て興奮している自分に気付いてしまって。
「ハハハ……情けない。 興奮している自分が本当に。 ――ん? 何だあれ……」
自己嫌悪に陥っていると、女性客の股間部の辺りからジワリと雫が湧きだしてきていた。
それはトロリと糸を引き、太ももを伝って落ちてゆく。
もちろん俺はこれが何なのかを知っている。
言い方は下品になるがマン汁なんだと。
「ど、どうして……」
何故マン汁が股間から垂れてきているのか俺には分かり様もない。
しかしよくよく見ると、下着自体が既に濡れてきっているようだった。
股間部全面が濡れて、黒く染みを作って……。
「気付かなかった、元からああいう色だと思っていた……。 し、しかしよく見ると確かに色濃く変色しているな……」
ビッチョリと濡れた下着。 理由は定かではないが、恐らくは興奮してだろう。
「じゃあ何に興奮しているんだ、この人は……。 も、もしかして俺で興奮していたりとか⁉」
最悪な想像をしてしまう。 もし考えている通りなら、この人は俺をそういう目で見ているって事だから。
下手したら、並木のように俺の事を……。
――口を開け、唖然となって女性客の下着を見上げている正司。
興奮している理由を察していても逃げる事は出来ず、ただただ立ち尽くしているしかなかった。
そんなマン汁……愛液に濡れた下着を穿いている女性客――美奈子はというと、恥ずかし気な表情をして正司を見下ろしていたのだった。