『うんうん♪ ポンチ君のおかげで、お客様に自慰用性具がマッサージに使われる事に喜んでいるってしっかり伝わったと思いますよ♪』
『お、お役に立てたようで嬉しいです……』
『じゃあ質問に答えてくれたお礼に、私からご褒美をあげます。 ほら、カメラに向けて自分の事をアピールしてもいいですよ?』
『え? カメラに向けて……ですか?』
『そうです。 今カメラに撮っているこの映像は、当店のシアタールームで後日上映しますからね。 今はきっと多くのお客様がポンチ君を見ているはずですよ』
『シアタールーム……お客様が御覧になられている……』
ポンチは人間であった頃の映画館に行った記憶を思い出していた。
柔らかな椅子に背を預けながら、ポップコーンを片手に大いに寛いでいた自分の姿を。
――きっと同じような寛いだ姿で、自分は鑑賞されている。
そう考えたら、言いようのない悔しさが心の内を締める。
さっき喋った事、そして今から自分が喋る言葉を、人間の娯楽の一環とされて観られるのだと思って。
『どうしたんですか? 良いアピールが出来れば、もしかすればポンチ君を気に入ってご使用してくれるお客様が増えるかもしれませんよ?』
「お心使い……あ、ありがとうございます…………』
されど娯楽にされていると理解したとて、どうしようも出来ない。
香はお礼と言っているが、実際は鑑賞している淑女が愉しむために、自分を喋らせようとしているのだと分かっているから。
……従う他ない。
ポンチには拒否権なんてありはしないために。
『じ、自分の名前はポンチです。 商品となって二ヵ月か三ヵ月目ぐらいの新しい性玩具ですが、それでもお客様には気持ちの良いひと時をご堪能していただける自信があります。 自分の使い心地は良かったと……ありがたい事に言葉にしてくださるお客様もおりましたので。 あっ、後は覚えたてですがお耳やお鼻の穴のお手入れも出来るようになりました。 こ、こんな自分ですが、どうか一度手に取ってご使用していただけると嬉しいです……』
深々と頭を下げたまま、ぷるぷる身体を震わせているポンチ。
きっと悲しい気持ちになってしまったのだろう。
こんな心にもない言葉を喋らされて。
だけど、鑑賞しているお客様には伝わったようだ。 それは美奈子にも……。
現に、美奈子や淑女達の下腹部を疼かせている。
下着に食い込ませた割れ目を、ヒクヒク……ヒクヒクと自然に動かしてしまうほど。
彼女らは本心からないにしても、ポンチの殊勝な言葉を聞いて食べてみたくなったのだろう。
下の口でポンチを……。
「ポンチちゃんって子……今度使ってあげようかしら?」
何の気なしに口に出した、美奈子の “使ってあげよう” という言葉。
あきらかに上から目線での言葉であるが、だけどそれは致し方ない事。
美奈子は人間であり、ポンチは人間の数ある玩具の一つ。
ゆえに美奈子はそんな玩具を好きに選び、使える立場にいるのだから。
『ふふ、お客様、ポンチ君もこう言っていますし、気兼ねなく使ってあげてくださいね~♪ じゃあマリア、こっちの子にもお話を聞きましょう』
『りょーかいデス』
売れ残った男に向けて、一人一人ポンチと同様の質問を繰り返していく香。
返される言葉は様々だった。
ポンチと似たように是非自分を使って下さいと言う者。
自分は人間だから助けてくれと、必死にこちらに向けて訴えている者。
そして終始、乱暴な口調で暴言を吐く者など。
『……ふふ』
『ウフフっ♪』
性格が異なる三者三様の男達。
最後の男は香とマリアに暴言を吐いているというのに、二人は微笑んでいる。
何故、怒らず微笑んでいるのか……? それは、こういった感情をむき出しにする、人間らしい反応を示す玩具にも価値はあるからだ。
ただただ身体の慰めに使い、お客様が心から屈服させていくという遊びの価値が。
「くすっ♪ 一生懸命怒ってる❤」
現に鑑賞している淑女は、気分を害する事もなく愉しんでいるようだ。
例え暴言を吐いてようが、それは女性の性玩具でしかない哀れな小人の囀りであるがため。
『これにて “自慰用性具の本音” のご紹介は終わりにします。 このように当店では様々な性格をした商品を置いておりますから、お客様のその日の気分でお好きな物を選んでご使用くださいね~』
室内に売れ残っている自慰用性具の話を全て聞き終わった香は、美しい所作でこちらに向けて一礼する。
香が言っていた通り、この映像は小さくされた彼らの本音を、お客様に伝えるために作られた記録映像(ドキュメンタリー)である。
淑女の性玩具として使われている元人間の彼らが、どういう気持ちでいるのか。
その気持ちを知って、お客様にもっと淫欲を刺激してもらえるために。
おかげで、彼らの様々な感情が鑑賞している淑女に伝わり、これまで何を使っていたのかを改めて再認識させたようだ。
これらは間違いなく人間であり、そして身体の慰めに使われてもまだ、どれも人としての心を忘れていないという事を……。
同じ人間の心を持った彼らを、欲望のままに自分は淫欲のはけ口に使っているのだと。
『じゃあ、お次は処分する予定の食用小人君にお話を聞きに行きますね~』
(――え、食べられちゃう子のお話も聞くの⁉)
映像から流れる香りの言葉に驚く美奈子。 食べられてしまう男に話を聞くのはあまりに可哀想だと思って。
……でも、正直に言えば気になってはいた。
先がない彼らが何を語るのかを。
同じでないにしても、あの時食べた自分の夫が、どういった感情を抱いていたのかが知りたくて。
だから美奈子は思わず背もたれに体を預けていた姿勢を正す。
『さて、到着しましたよ~。 狭い場所ですが、ここに食用小人君達を保管してあります』
香がやってきた場所は狭いキッチン室。
男を溶かし、石鹸や下着に作り変えていた場所だ。
かようなキッチンのテーブルに、金魚鉢に似た大きな器が並べられている。
果汁で満たし、お腹の膨らんだ男がたくさん入った器が横一列に。
『これらは、パーティーの料理になる坊や達なんデスヨ。 ショウヒする数が多くて保管場所がなかったノデ、一旦コチラに置いているんデス』
マリアは並べてある一つの器にカメラを向けて、画面をアップに絞っていく。
そうした事により、中に入っている男達の表情が鑑賞している淑女らに良く見えていた。
馬鹿みたいに口をあんぐりと開けている者や絶望している者、また情けない顔をして泣いている者や、心ここにあらずといった、無表情な者など。
『ふふ~どれも食欲をそそりますね~、このお客様のディナーの食用小人。 君たちはそのままの姿の一品料理として出されたり、シチューの具材になったり、小人酒になったりするんですよ? あ、そういえばタルタルソースをふんだんに使った、サンドイッチの具材にもすると月城先輩が言ってましたね~』
『それは美味しそうデス! ワタシ、食用小人を挟んだサンドイッチが大好物ナノデ♪ oh……ヨダレが』
『もう、マリアったら……。 それはそうと、どうです? お客様。 とても美味しそうな食用小人ですよね……て、そうでした! これを上映してる頃は、もうこの子達はお客様のお腹の中ですよね』
香の言葉を聞いて、自分のお腹に意識を向ける美奈子。
そこには、変わらず膨らんだお腹がそこにある。
食用小人とされた彼らを、堪能し尽くしたお腹が……。
(本当にどれも美味しかったわ……)
ポンポンと優しくお腹を叩く。
中に入っている者へ向けて、満足したという意味合いを込めて。
いわばこの行為は、彼らの命を奪った美奈子なりのお礼だ。
――食べた物に向けて、ご馳走様でしたという最大限の賛辞を伝えての。
もしかすると映っている食用小人の誰かが、美奈子や鑑賞している淑女のお腹の中に入っているのかもしれない。 今現在、胃の中で消化されている最中なのかもしれない。
……まあ、それはどの淑女らにも分からない事なのだが。
なにせ、誰も食べた男の顔なんて覚えてもいないのだから。
覚えているのはどの料理を食べたのかだけ。
まさしく、料理として出来上がった名称である肉料理や、サンドイッチ等といった……。
『さて、性玩具としても役に立たない君達は、これからお客様のパーティーのディナーにされる訳ですが、ズバリ君達のお気持ちをカメラに向けて聞かせてください。 まだ喋れる者だけでいいので♪』
そんな食べられる運命にある彼らに、香はあっけらかんとした普段の口調で話かける。
同情心といった感情をまったくみせることなく……。
『うぅぅぐすっ……き、気持ち……て……。 そんなの……怖いに決まっているじゃないか…………』
『ほ、本当に俺達は食べられてしまうのか? これから心を入れ替えて女の性具として頑張るから……な、なあっ! もう一度チャンスをくれよ! 死にたくないんだ――助けてくれよぉッ!』
『だから言ってあげてたじゃないですか~。 女の子の役立つ立派な性玩具になれないと処分するって。 私達が調教している最中も、口を酸っぱく言ってあげてたのに、それを無視したのは君なんですよ? だからもう無理です。 役立たずな君達は助かりはしません』
『……そんな…………』
『イヤダァァァ! なんでぇぇ! なんでぇぇぇぇ! 食べられて死にたくないぃぃ』
助からないとキッパリ言い切った香の言葉に、一つの器の中に入っていた四人はそれぞれの反応をみせる。
絶望した表情で口を噤んだり、子供みたく大泣きしてしまったり色々と。
……その内の一人だけは、なんら感情をみせずにプカプカ浮いているだけだが。
おそらくこの感情を見せない男は、人間としての心を忘れてしまった者なのだろう。
長く淑女らに良いように使われて、精神が壊れてしまった……。
「あら?」
美奈子はかような反応を示す男達を黙って見ていたら、ふと口を噤んだ一人の男に何やら既視感を覚えていた。
出会った事も話した事もないのに何故か知っているという……そんな既視感。
(……変ね、この人が人間だった頃、何処かで会った事があるのかしら? もしくは街中でただ見かけていただけとか?)
いくら考えても思い出せない。 そもそもが、街中で見かけただけなら思い出せるはずもない。
とりあえず渇いた喉を潤そうと、残していた小人酒を飲むためにグラスを手に取るのだが、美奈子は中に浸けていた男を見て、既視感を感じていた理由が分かるのだった。
「……あら? まぁまぁ! うふふ♪ あなただったのね。 通りで見た事あるなって思った❤」
「ぅぁぁ……あぁぁ」
そう、何故なら美奈子が飲んでいるグラスの中にいる男こそ、映像に映っている男だったからだ。
仰向けで酒の風呂に入っているかのような、無様な恰好をしたこの男が。
「すごい偶然♪ まさか映画に出演している小人が、私が飲んでいるお酒の中に入ってたなんて」
クスクス笑いながら目元まで持ち上げたグラスをチャプチャプ回している美奈子。
酒に酔っているのか、頬を赤らめた顔をして。
「ねえほら見て、あなたが映っているのよ。 せっかくだから一緒に観ましょう?」
「ぅああッ!」
急にグンッとグラスが下降する。 それによって男は強烈な浮遊感に襲われてしまう。
美奈子が自分のお腹の前までグラスを下げたために。
「ぅ……ぅあ?」
気付くと、男の視界はワインレッドのドレスの壁に埋め尽くされていた。
食事を摂ったせいで、はち切れんばかりに膨れ上がったお腹が彼のすぐ眼前にある……。
男には、この腹の中に何が詰まり、そして何故ここまで膨らんでいるのかが分かっていた。
それは、自分が美奈子が飲む酒のグラスに入れられる前、パーティー会場にあるバーカウンターの棚に、酒に浸す材料として置かれていたからだ。
――男はずっと見ていた。
ハンバーグ、シチューの具材、そしてマリアが大好物だと言っていたサンドイッチとされた自分と同じ仲間達が、パーティーを楽しむ淑女達に食べられて飲み込まれてゆく姿を。
また、そのままの姿でディナーとして食べられてしまった者などや……。
どれもが人で作られた料理であるはずなのに、皆、当たり前のように数々の男を食べていた。
それはまだ幼い子や、中高といった大人になりきれていない少女までもが美味しそうに、喉を鳴らして。
だから分かっていた。
恐ろしくも自分の眼前にある腹の中に、この女に食べられてしまった人間が詰まっているのだと……。