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「お客様、大丈夫でございますか? ご気分が優れないのなら――」
私を呼ぶ声。
気付けば料理を乗せたカートと共に、テーブル席の前に先ほどの店員の方の月城様が立っていらした。
どうやら今朝の事を考えるあまり、ぼんやりとしすぎてしまっていたみたいです。
いったい、いつから来られていたのか……。 私はすかさず月城様に向けて謝罪をする。
「失礼いたしました、大丈夫ですよ。 考え事をしてぼんやりとしていたみたいです。 ご心配をおかけして申し訳ございません」
「いえ、なんでもないようで安心しました。 それではお客様、お料理が完成しましたのでテーブルに並べさせていただきますね」
「ええ、よろしくおねがいします」
月城様はここまで引いてきたカートから一枚のお皿を取り出して、テーブルの上に並べ始めていく。
「こちらは当店のペッティーを使った柔肉ステーキとなります。 鉄板は熱くなっておりますので火傷にご注意ください」
コトリと私の手前に置かれたステーキ。
プレートの上に載せられているステーキからは今も尚ジュウジュウと焼ける音を放ち、細かな油を飛び散らせている。
「次にこちらはお寿司となります。 お醤油や、お入り用でしたらこちらにわさびがありますので、お好みで付けてお召し上がりください」
月城様の料理の紹介と共にテーブルに置かれた、和の皿に載った二貫のお寿司。
しかし置かれたのは、一般的なお寿司ではありませんでした。
何故かと言いますと、このお寿司は魚の身を使用したのではなく、小さくされた男性を載せた物でしたので……。
《ぐぅぁぁ……》《ぃゃだ……たすけ……》
シャリの上に載せられた男性の方から、苦しそうな呻きや助けを求める声が私の耳にまで聞こえる。
涙ながらに、切実に……。
だというのに声を上げるだけで、お二人はシャリの上から動こうとも、また逃げようともしていませんでした。
見た限りでは、何も身体を縛られたりされているわけではなく、ただシャリの上に置かれているだけですのに。
「お客様、こちらのお寿司の食用小人は当店で彼らの身体を――」
その理由は、単に彼らの身体を痺れさせて動けなくしているだけみたいでした。
私達が落ち着いて食事をとれるようにと。
まあ、考えれば確かにその通りでございます。
食事中に好き勝手動かれたりされると、煩わしく思うのですから。
落ち着いて食事をしたい。
そう思うのは自然な事でございます。
また、痺れさせているのは薬品などではなく薬味を使っての事らしく、私たち人間の体にはなんら害はないとのこと。
むしろその薬味が酢飯に合うよう調合されて作られているため、甘さだけではない旨味が味わえるのだと月城様から教えていただいた。
「左様でございますか。 いただく際、とても楽しみでございます」
「はい、生きた新鮮なお寿司でもありますので、素材の味もご堪能していただけたら嬉しく思います」
口の中に自然と湧き出てくる蜜。
それは美味しそうな物を目にした時に湧く、味のある唾液でした。
どうやら自身も知らぬ内に、強く私の口はこのお寿司を求めているようです。
早く味わいたいと――欲して。
「お客様、最後になりますがこちらは搾りたて上精酒となります。 濃度が高く粘り気のあるお酒となりますので、もし飲みにくく感じるのでしたら、少量のお水をお口に含んでお飲みになってください。 飲みやすくなりますので」
私がすぐ掴める位置に置かれたワイングラス。
その中には真っ白なお酒が並々と注がれていた。
もちろんですが、この白いお酒が何であるかは存じております。
これは小さくされた男性の性器から飛び出る精液と、アルコールを混ぜ合わせた物であると。
かような小さな男性を存じ上げていなかった頃の私がこのお酒を見たら、確実に思っていた事でしょう。
――汚いと。
しかし、今の私にはまったくと言って汚い等とは思っておりませんでした。
何故ならば、小人の精液は美味であるのだと存じているからでございます。
既に私は真一様の可愛らしいオチンチンを直に口付けて、精液を頂戴しており味わっていますので。
ですので私には、これはとても魅力的な飲み物でしかありません。
「それではお客様、メニューは以上となりますのでごゆるりとご堪能くださいませ。 何か用がございましたら、気兼ねなく申し付けてください」
全てのメニューを出し終えた月城様は、深くお辞儀をして下がられる。
戻られる際、テーブルの上にそっと三枚のカードを置いて。
「これは……? ……まあ、とりあえずは」
置かれたカードが気になりますが、それよりも先にグラスを手に取る。
早くお酒を味わいたくて。
「ふふ、本当にすごい量ですね。 贅沢にこれだけ頂けるなんて私は幸せです」
このグラスの中にたっぷりと注がれたお酒。 この中に、いったい何人の男性方の精液が入っているのでしょうか。
彼らの体の大きさからすれば、十人、二十人だけではないはずです。
何故なら真一様が射精なされる量は、私の指先を少し濡らす程度なのですから。
若い青年でこの量です。 なのできっと相当な人数を使っているのでしょう。 もしくは少ない人数の方から無理やり何度も搾り取っているのか。
たった一杯のグラスを満たすために。
「もし後者の場合でしたら、大変な思いをして出されているのですね……。 まあ、私達はこうして美味しいお酒を嗜めますので仕方がない事なのですが」
そう、仕方のない事。 ですので私はさっそくグラスを傾けてお酒を口に含んだ。
一生懸命にお出しになられた、男性方の生命の水を。
「んっ……ふぅ、なるほどこれが上精酒。 確かに粘り気が強いですが、とても美味ですね」
飲み込んでもなお、濃厚なとろみが口の中に残る。
だけども不快には感じません。 何故ならお酒と混ざり合ったまろやかな風味でしたので。
「そういえば、これは何なのでしょうか」
上精酒を愉しみつつ、月城様がテーブルに置いていかれた三枚のカード。
内の一枚を手に取って見ると、それは折りたたまれたカードで、表面には何やら文字が書かれていた。
「えっと……ステーキの素材?」
意味が分からず折りたたまれたカードを開けてみる。
そして中に書かれていた内容を見て、私は始めて素材の意味を知ったのでした。
「なるほど、このカードはステーキになられたペッティーの情報が書かれていたのですね。 理解しました、だから “素材” ですか」
カードには、人間として生きてきた男性の情報が顔写真付きで書かれていました。
姓名と年齢、家族構成、それから四十年の月日をこれまでこの方はどう生き、そして何の罪を犯したのかまでを。
「見た顔だと思っておりましたが……以前までグループ詐欺で世間を騒がせていた方でしたか。 通りで存じ上げているはずです。 度々ニュースで取り上げられていた方でしたからね」
こちらを睨むようにして写っている強面の男性。
警察に掴まったとニュースで流れていましたが、まさかここのエステサロンでこのようなお姿になられていたとは思いもしませんでした。
鉄板プレートの上で、ジュウジュウと音を立てているステーキのお姿に。
「羽芝 剛(はしば つよし)さんというお名前でしたね、とても美味しそうでございますよ」
誰がどう見ても、牛と同様のステーキ肉とされた姿。
ゆえに持っていたグラスやカードをテーブルに置き、私は静かに両手を合わせる。
私に食されるために調理された “方々” に、感謝の念を込めて “いただきます” と。
「ふふふっ♪」
決して人に向けて言わない言葉を呟いた後、左手にはナイフを、右手にはフォークを持ってさっそくステーキ肉を一口サイズに切り分けていく。
手元だけを動かし、音を立てずに。
「あら、やはりすごく上質なのですね」
力を入れずとも簡単に切り分けられたお肉は、表面がこんがりと焼けているのとは違い、断面は赤みがかった綺麗な色をしていました。
お嬢様付きのメイドの身分であるため、食すお肉は選別し、最高級の素材を日々使い頂戴しておりますので、見ただけでわかりました。 これはとても良いお肉なのだと。
「それでは、今からあなた様をありがたく堪能させていただきますね」
そんな切り分けたお肉をフォークで無遠慮に突き刺し、口元まで運ぶ。
「……良い匂いですね」
突き刺したお肉から立ち昇る香ばしい匂い。
鼻にまで嗅ぐわう匂いだけで、食欲を刺激します。
なので我慢出来なくなった私はパクリとお肉を口内に迎え入れ、上下の歯で噛み始めました。
グチュウゥゥ……
「――ッッ! 何て柔らかいお肉なのでしょう」
最初の一噛みで衝撃を受ける。
驚く事に力をまったく入れずとも、簡単に噛み千切れましたので。
また、赤身の部分から内包していた甘い肉汁が渋き、お肉の旨味が一瞬にして口内に広がりました。
「んぅ♪ 何ですかこれ、想像以上です。 今まで良いお肉を食してきましたが、このステーキは別格に美味しすぎます。 ……んくっ」
ゴクンと飲み込み、再度ナイフでお肉を切り分けて口の中へいれる。
あまりに美味しかったため、咀嚼しながらも次から次へと。
「あむっ」
クチュッ! グチュッ! グジュゥッ!
口内に飛び散る肉汁。 口の中は肉の旨味に包まれている。
そして繰り返す咀嚼でミンチ状となった塊は、私の唾液と共に消えていく。
羽芝 剛さんというこの世に生きていた年上の方が、私の喉奥へと。
「ん、ふぅ……。 素晴らしいステーキでございます」
残りが半分になった辺り、私は一旦、手に持つナイフとフォークを置く。
とは言っても別に残している訳ではありません。 後ほど全て平らげさせていただく予定です。
では何故食すのを止めたのかと言いますと、ただ私の口が酸味を味わいたいと求めたからであります。
「……さてっ」
《ヒィィィッ!》《ぅぁぁ……ぁぁ》
視線だけを動かし、テーブルの上にある二貫のお寿司を見つめると、ネタになっている方々から悲鳴があがりました。
きっと気付かれたのでございましょう。
次に食べられるのは――自分達なのだと。
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ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
人間の食事風景を眺める事しかできない彼ら……。
それはとてつもなく恐ろしいでしょうね。
捕食者が口を開き食すという光景を、贄である彼らは特等席で見ているしかないのですから。
人間が食欲を丸出しにして、奪っている姿を……('ω')