「どちらも美味しそうですね、うん、これにしましょう」
《ぅ……ぁぁッッ! たのむ……た……けてッ!》
二貫のお寿司の真上でわざと迷い箸をしたのち、選んだ一つをお箸で挟み持ち上げると、ネタである男性が声を張り上げる。
私に怯えた表情で一生懸命に。
「ふふ、何をおっしゃっているのでしょうか」
何やら頑張って言葉を伝えようとしておられますが、お身体が痺れて上手く喋れないご様子。 なので私には上手く聞き取れません。 また、お互いの体躯の大きさが違いますので尚更に。
「まあ、命乞いをしているのでしょうけども……。 何せ私に食べられてしまうのですからね。 そうでございましょう?」
《ヒィァァッ‼》
ネタになっている男性に問いかけるみたく、お寿司を挟んだお箸を揺らす。
すると、先ほどよりもさらに大きな声を張り上げる。 もはや鳴き声と言ってもいい悲鳴を。
決して怖がらせるつもりはなかったのですが、意図せず私の問いかけに恐怖を増幅させてしまったようです。
「ふふっ♪」
私はそのような悲鳴を特に気にする事もなく、お寿司を小皿に垂らしてあるお醤油に浸す。
《――ブハァッ! はぁ……はぁ…………ぅぁ……ゃめろ……ゃめ……てく……》
シャリの部分ではなく、ネタである男性の身体にベッタリと。
さらにはわさびを付けてデコレーションをしてさし上げたりも。
すると、男性からまた種類の違う悲鳴が上がった。
《ぃぎいィィィッ!》
見ると、男性は目をギュッと瞑って涙を流して鳴かれていた。
どうやらわさびが目に入ってしまったようです。 私が男性の顔の部分にわさびを付けたものだから……。
「あら? 痛覚が戻ってきているのでしょうか。 それとも痛みを伴っていないのに感じる錯覚でしょうかね?」
どちらにせよ、シャリの上でボロボロと涙を溢している男性は滑稽としか言いようがありません。
お醤油とわさびを纏ったお寿司らしいお姿で、悲鳴を上げて泣かれているのですから。
「ふふふ、とても美味しそうでございますよ。 ですので、さっそくあなた様を食させていただきますね。 さあ、私の口の中へいらっしゃいまし」
ゆるりと上品に、お寿司を挟んだお箸を口元へと持っていく。
その間、男性は処刑台へ上げられている気分を味わっているでしょう。
自分を断罪せんとする私の唇の元へ、抗う事も叶わず強制的に持ってこられているのですから。
……クチャァ
そんな男性を口の前にまで移動させ、唇の門を徐々に開いてさしあげる。
お寿司という食べ物になられた男性を歓迎するため。
《ヒィ……ァ……ァッ!》
この方が見ているのは、私に選ばれた者しか見る事が叶わない口内。
この中に “食べ物” が入れば、二度と出てはこられない処刑場でございます。
そのような口の中を御覧になられて、嘆き声を上げていらっしゃる男性。
おそらくは怖くてたまらないのでしょう。
――この口の中で、凄惨な最後を迎えるのですから。
《おねがぃ……です……。 どう……か……たべ……ないで……くだ……さい…………。 まだ……いきて……いたい…………》
男性は私に向けて切実に生きたいと懇願している。
……ですが、
「はむっ」
まったく気にする事なく、私はお寿司を迎え入れたのでした。
慈悲もなく、たった一口で。
小さな男性が及ぼす身体の絶大な美容効果を得るために。
ですのでこの方を食す事に罪悪感なんてありません。 かつて私と同じく人間として生きておられた男性の方だとしても――今はこうして自分の美のための食料となられているのですから。
《ぅ、ぅそだ……ぃ……ぃゃだ――ぅぁぁッッ!》
して、かの男性は必死に絶叫を上げておられるご様子。
口内の舌の上で、私に向けて生きたいというアピールを。
そんな彼に、私はゆるやかに歯を立てていきました。
《ぅぁぁ……ぃゃだ……ぃたい……ぃたいぃ――ひぃぐぅッッ》
ブチッ……ブチチッ……
上下の歯で肉を挟んで。
「……んっ」
――ップシュ!
少し噛む顎の力を強めると、口内に液体が弾け飛んだ。
すると、ドロリとした液体が口内を満たし、中でホロホロと崩れていた酢飯と混ざり合う。
人間が食すために作られた本物の食材であるお米と、男性の濃厚なお蜜が。
「ぅぅ……わさびが鼻に……。 ですが甘いお味でとても美味なお寿司でございます」
甘いのですが、酢飯にあった甘さ。
なんと言えばいいのか……。 そうですね、卵に近い和風の味でしょうか。
そのような男性の味が、酢飯やお醤油、そしてツンッと鼻にくるわさびに合ってとても味わい深くなっております。
「んぅ♪」
クチュ……クチュ……グチュッ……
だから私は咀嚼を繰り返していきます。
噛めば噛むほど味わい深くなりますので。
当然に男性の悲鳴はもうまったく聞こえやしません。
代わりに口の中からは小気味良い咀嚼音だけが鳴り響いております。
そんな咀嚼音をBGM代わりに、私はテーブルに置かれている残ったカードを手に取るのでした。
今、食べている男性の経歴が記されているカードを。
(ふむ、『青山 拓郎』様というお名前ですか)
優雅に口をモグモグと動かしながらカードに書かれている内容を読み込む。
お菓子のパッケージ裏に書かれた、食べ物の情報を眺めるかのように。
(ふふ、名前があるという事は、拓郎様もこの世界で当然に生活して生きていたのですよね)
ああ、生きてきた経歴を読めば読むほど実感してきます。
私はこの方達の人生そのものを、食しているのだって。
「んっ……❤」
突然と身体が昂りだす。
この男性達の事を考えれば考えるほど――酷く疼いて。
あの学生の子を食べた時も同じような気持になったのを覚えている。
そして、お腹の中にいる若いあの子を感じながら、自らを慰めて解消したのを。
(命を奪いながら堪能し尽くすあの日は、とても素敵な夜でございましね。 ああ、そうそう……これは誰にも話した事はありませんが、実は今でもたまに思い出し、夜のオカズにさせてもらっているのですよ? 本当にありがとうございます)
もう、あの子が存在しないお腹をさすりながら私は感謝を伝える。
もし天から聞いておられるのなら、きっと喜ばれている事でしょう。
死してもなお――私に活用されているのですから。
私の自慰行為のオカズにされて。
「ん~っ♪ んふふ」
グチュッ……プチュッ……クチュッ……
そのような存在に、これから彼らもなっていく。
私の下腹部の口奥を疼かせる――オカズに。
クチャ……クチャ……クチャ…………
しばらくして、気付けば口の中には固形物らしきものは無くなっていた。
もしご友人などが口の中にいる今の彼の姿を見られたとしても、絶対に分からないでしょう。
――すっかり私の唾液に混じって液状と化していのですから。
そのような変わり果てた姿になられた男性を、私は喉奥へと誘ったのでした。
「ん……んくっ……」
ゴクンッと、彼の全てをひと吞みで。
「っふぅ~青山 拓郎様はとても美味でございましたよ。 ごちそうさまでした」
《ぅ……ぁぁ》
頂いた彼に味の感想を伝え、もう一つのお寿司に目を向ける。
すると男性は恐怖に引きつった表情で、ただただ私を見上げていた。
シャリの上でガタガタと身体を震わせて。
しかしそれも当然でございましょう。
この方は自分と同じお寿司にされた拓郎様の末路を、ずっと御覧になられていらしたのですから。
お皿の上で、私の口の中でどのようにされていったのかを。
なのでこの男性は恐怖で言葉を忘れられているみたいです。
……だって、次に私に食べられるのは自分の番なのですから。
「……さて」
私はさっそくお寿司をお箸で挟み、ペタペタとお醤油やわさびを男性の身体に付ける。
もうこれだけでとても美味しそうなお姿でございます。 また、生きた新鮮なネタですので。
先ほども食したというのに、思わず生唾を飲み込んでしまうほどです。
《ぅぅ…………ゃ……ぁぁ》
お醤油やわさびをべったりと付けた顔で、弱々しく泣き声だしてしまう男性。
普段ではあまり見ることがない、こういった男性の泣く姿。
もしかすればこのような泣く姿を見せて、私に同情心を抱かせようとしておられるのかもしれません。
……ですが、
「あ~ん」
私は助からないのよとわざと口を大きく開けて、彼を口の中へ迎えれたのでした。
先ほどの男性を執拗に咀嚼し、跡形もなく喉奥へ飲み込んだ口の中に。
「はぁむっ」
ブチュッ グチィッ グチュッ
室内に響く咀嚼音。
この後私は容赦なく噛み潰し、先に食した彼と同じようにカードを眺めながら、『中川 智之』様を喉奥へと飲み込んだのでした。
残していたステーキ肉である、『羽柴 剛』様も。
「んっく…………ッふぅ」
これで私は一日で『羽柴 剛』様、『青山 拓郎』様、『中川 智之』様という三人の男性の方々を食した事となる。
誰もが私よりも年上の男性でございました。 だからこそ私は、男性から搾った上精酒を嗜みながら敬意をこめて感謝をします。
私に食べられるため、この世に産まれてきてくれてありがとうございましたと。
とても美味しく頂かせてもらいましたと。
手を合わせ、私が食べ尽くした空っぽのお皿に向けて……。
………………
…………
……
◇
「ご予約をいただいていた坂口様ですね、どうぞ~こちらへ」
時刻は十三時頃――
食事を堪能し終えた私は、店員の『奥村 香』様に案内をされた室内で、マッサージについての説明を受けていた。
エロステという場所だからこその――特殊なマッサージの説明を。
「ですのでお身体にクリームを塗り終わった後、ムラなく仕上げるためにこちらの商品をお客様のお身体に使わせてもらいますね」
そういって奥村様は机の上に置いてある器を、手のひらで指し示す。
自慢の商品を紹介するかのように、透明な空っぽの器を私に向けて。
「えっと……この器が何か? 何も入ってはいないようでございますが……」
「うふふ、ちゃんと入っていますよ~。 この距離では私たち人間の目には見えませんので、どうぞこちらに近づいて御覧になってください」
奥村様の言われるまま机にまで移動し、器を覗き込む。
腰を落とし、屈んだ姿勢で顔を近づけて。
「――えっ⁉」
そうした事でやっと私の目に捉えられた。
粒みたく小さな生き物が、器の中で点々としているのが。
「……も、もしかしてこれがそうなのでしょうか?」
「その通りです、こちらが当店のマイクロモルモット、通称モルちゃんでございますよ~。 うふふ、始めて御覧になられたので驚きますよね。 すっごく小っちゃいので」
「は、はい……」
思っていた以上にマイクロモルモットという存在が小さすぎて、心の底から驚いてしまう。
「こ、これが本当に元々人間の男性だった方達なのでございますか……? し、信じられません……」
「すっごく小っちゃいのでお気持ちは分かりますけど、この点々の一つ一つが人間の男達で、ちゃんと生きているのですよ~」
――同じ人間には到底思えない。
何故なら彼らは小さすぎて、今どのような表情をしているのか分かりませんので。
また、彼らが何を喋っているのかも分かりませんので。
例え大声で叫ばれていたとしても私の耳には。
私から見れば、彼らのお姿はもはやダニみたいなものなのですから。
逆に彼らからしても、私と同じ人間には到底思われていないでしょう。
私との体躯の差が、桁違いにかけ離れすぎているため。