1251ビル八階、817号室。
多くの女性客がマッサージを愉しむために宿泊をする、数多くある一室。
その室内に、私は彼を連れて……いえ、持ってきていた。
小さな小瓶の中に閉じ込めた――岩田君を。
「さあタロー、着きましたよ。 外に出てきてください」
「ちょっ! 何を! わわわッ!」
机の上に立て置いた小瓶を指先で弾く。
するとグラグラと傾き、一気に小瓶は机の上に倒れて転がってしまう。
私は軽く弾いただけなのに。
「――オワァァァァッ!」
コロコロと机の上を転がり続ける小瓶。
したがって中に入っている岩田君も転がっている。
クルクルと小瓶の中で回りに回って。
「ふふっ……うふふっ」
その姿がなんとも面白くて、思わず笑ってしまった。
だって、小瓶の中でクルクル回っている岩田君が哀れを通り越して無様すぎたから。
あまりにも……あまりにも。
ですけど、いつまでも鑑賞はしていられない。
なぜなら倒れた小瓶は転がり、机の上から落ちようとしていたのだから。
だから私は止めてあげた。
机の端にまで転がり続けていた小瓶を、指の一本で。
「く……白鳥の奴、いきなり倒しやがって。 おかげで身体が痛いし気持ち悪いし……うぷっ……ちくしょう」
目が回ってしまったせいだろう、四つん這いになって辛そうにしている岩田君。
しばらく黙って見ていると徐々に回復してきたのか、小瓶の中から外を見回しはじめた。
「しかし、すごい衝撃がした後にいきなり回転は止まったけど、壁にぶつかってとまったのだろうか? ……ん? なっ⁉ こ、これって」
キョロキョロしていた彼は、小瓶に乗せている私の指を見て驚いているようだ。
多分気付いたのだろう。 岩田君が抵抗も出来ずに転がされていた回転を止めたのが、私の一本の人差し指だって事に。 しかも、指先だけでの。
「タロー、ご主人様の命令が聞こえませんでしたか? さっさとその中から出てきてください」
「――ちょ、やめッ!」
そんな乗せたままの指で、再度小瓶を転がし遊ぶ。
右手で頬杖つきながら、人差し指の曲げる運動だけで行ったり来たりコロコロと。
早く外に出てきてと急かすように。
「わ、分かったから、すぐにでるから止めてくれぇぇ! そんな事をされると、出られないって――うわぁッ!」
「ああ、そうですね、指でこんな事をされていたら出るに出られないですよね。 ふふ、ごめんなさい」
岩田君のとても切羽詰まった声がしたのち、すぐに指を止めてあげる。
すると彼はゆっくりと這いながら小瓶の口から外に出てきた。
その彼の姿がどうしてか、子供の頃に飼っていたハムスターとだぶって見えてしまう。
小瓶の家から出てくる岩田君がどうしても。
まあ、ハムスターの家はこんな小瓶ではない、ちゃんとした玩具の家でしたけども。
「で、出たぞ……白鳥……」
まさかそういう目で見られているなんて知り様もない岩田君は、這っていた体勢からおもむろに立ち上がって机の上から私を仰ぎみている。
言う事を聞いて、ご主人様の私に褒めてもらうのを待っているかのように。
だからついつい、あの子にしていたみたいに褒めてしまう。
「タローはお利口ね、えらいえらい」
と、言葉にして、指先で頭を優しく撫でてあげて。
「おわぁっ! ちょっ! やめッ! やめろ白鳥!」
「え? あっ……」
岩田君の声で正気に戻り、頭を撫でていた指をパッと離す。
どうやら私は無意識にしてしまっていたようだ。
彼の事を、飼っていたハムスターにしか見えなかったから。
だからだろうか、岩田君はムスッとした表情ですごく怒っているみたいだった。
「そんなに怒らないでくださいよ、タロー。 ただあなたを愛しく思えてしてしまった行為なのですから」
そう、別に悪気があってした行為じゃない。
でも彼からすればもしかすると、私から馬鹿にされているのかと思ったのかもしれない。
以前までクラスメイトだった私に頭を撫でられ、上の立場から褒められたのだから。
「あ、それともタローを中に入れたまま小瓶を転がしていたから怒っているのでしょうか? ごめんなさい、中でクルクル回っているタローが面白くってつい……ぷふっ、うふふ♪」
「くっ……」
小瓶の中での正司の姿を思い出し、耐えられずまた笑ってしまう詩織。
それには遠慮なんてものはない。 無論、する必要がないため声に出して笑っている。
何故ならこの場を仕切る主人は、白鳥 詩織という少女であるため。
ゆえに当の笑われている本人である正司は、何も出来ず悔しそうに机の上から見上げているだけであった。
数分の間、ただただ詩織が笑い終わるまで。
「はぁ~面白かった。 ではタロー、そろそろ始めましょうか」
ひとしきり笑った後、不服そうな顔をして私を見上げている岩田君に告げる。
クラスメイトだった岩田 正司君という男の子との、お別れの言葉を。
私は彼を性処理の玩具として使い、そしてこれから先はそういう目で見る事になるため。
「し、白鳥、始めるって……やっぱり……俺を使ってするのか?」
「何を当たり前の事を、そのために道具としての生き方を教わったのでしょう?」
「た、確かに教わったけど……やはり俺が小さくなった原因の奴に使われるのは……くっ」
何やらブツブツと呟いて私を睨んでいる岩田君。 それはとても反抗的で、憎しみのある目だった。
しかし私は気にしない。 怒りもしない。
だって、寧ろ反抗的な方が嬉しいので。
こちらに向けているこの表情や感情の変化を、存分に愉しめると考えたら。
ゆえに私は彼に向けて、初めての命令をした。
人間としての尊厳なんてありはしない言葉を。
◇
「……へ? な、何て……?」
「始める前に精液を飲みたいから出してくださいって言ったんです」
「飲むって……白鳥が俺のを⁉」
白鳥から精液を飲むと言われた言葉が信じられなくて、思わず聞き返した。
あっけらかんと、まるで当然かのように口にしたからだ。
「だからそう言ってるじゃないですか、同じことを言わせないでください。 もしかして教えてもらっていないのですか? 小さくされたあなた達の体液は美味しくなってるのだって。 ジュースやお酒のような商品にもなっているのですよ? 逆にタローの方も女性の体液は美味しく感じているのでしょう?」
「知ってる……それは聞いたし、実際に女の体液を舐めさせられたから美味しく感じるのも経験している。 でも、何のために飲むんだよ。 女の体液でしか栄養を摂取できない俺とは違って、白鳥は今まで通り何でも飲み食いできるじゃないか」
何でわざわざ自分のを飲もうとするのか意味が分らなかった。 そんなに飲みたいものなのかと。
こいつら巨人にとっては極少量しか出せないし、それに白鳥なら俺のなんて飲まなくても、ジュースでもなんでも飲めるのにと。
そんな疑問に、白鳥の口から簡単な答えが返ってきた。
「え? そんなの美味しいからに決まってるじゃないですか」
「美味しいからって……そんな理由で……」
「納得できていないみたいですけど、美味しいのはとても重要な事なのですよ? 岩田君も人間だった頃は、同じジュースでも、より美味しい方を選んでいたでしょう? だから私は選んでるだけなのです。 果実のジュースではない、あなたの出すジュースを。 小人の精液はとっても美味しくて、しかも美容にもいいですから」
選ぶという言葉に、お店や自販機が思い浮かんだ。
俺の出すものをあたかも飲料扱いしているようだ。 いや、事実そうなのだろう。
明らかにそういった意味合いで白鳥は喋っている。
こいつは俺を選んだと言って、ジュース扱いしているのだから。
「ああ、それと精液だけではなく、小人自身も美味しいですよ? ふふ、実は私、去年の一年生の頃から良く食べているんです。 タローみたいな小人を、もう何百人も」
「――ヒッ!」
俺の前にまで顔を近づけて、最後の言葉を喋る白鳥。
静かな声で囁くように。
それがたまらなく怖い。 口臭が吹きつく目と鼻の先にまで近づいた巨大な唇が、卑しく動くので。
俺と同じく、小さくされた人を食べ殺したであろう口が……。
「さ、早く出してください。 タローのを味わいたいので」
「味わいたいって……どうやって……」
「そんなの自分で触ってするんですよ」
「はっ? 自分でって……自慰行為をか? こ、ここでしろっていうのか⁉」
「ここ以外で何処でするつもりなんですか? まったく……。 はぁ~ほら、早くしてください」
俺の方がまるでおかしな事を言ってるみたいに深い溜息を吐く。
馬鹿な事を言ってるのは白鳥なのに。
当たり前だが、正直したくはない。
クラスメイトの女子の前でオナニーなんて、あまりにも恥ずかしすぎて。
それにこんな小さな姿にされてしまっているが、人としてのプライドは残っているからだ。
……しかし、そんな俺のプライドを、白鳥はたった一言で砕いてきた。
「しなさい」
底冷えするかのような、とても静かな言葉で。
「は、はい!」
身体を跳ねさせ、俺は慌てて返事をしてしまう。
言い方が渚 涼子と同じ、紛れもない上位者からの “命令” であったから。
自分の使用者である巨人からの。
ゆえに命令されて仕方なく、正座をしながらそっと触り始めたのだった。
虚しい気持ちで自分のを――。
すぐ傍での白鳥の視線を一身に受けながら、自分のアソコを。
「うぅ……」
「へぇ、タローもそうやってするんですね。 いつも疑問に思っているのですが、痛くないのですか? そんなに早く自分のを擦って」
「今はいた……くはないが、当然長く続けていると痛みがでてくる」
「そうなのですね。 ところで男性は日に何回も出せないと書いてある雑誌を読んだ事がありますけど、本当にそうなのですか?」
男の性事情が気になるのか、白鳥は色々質問してくる。
「あ、手は動かしたままですよ! 止めたら駄目じゃないですか、飲めないでしょう?」
オナニーを続けながら答えろと言って。
「そんなの……人によるんじゃないか……? まあ、俺もそうだけど大抵は一回か二回ぐらいだとは思う」
「ふーん、雑誌の内容通りなんですね。 じゃあこれから大変かもしれませんね。 だってタローを使うお客様に、何度も提供しなければだめですからね。 もちろん私が飲みたいって言ったら、出せなくても無理やり出してもらいますから、そこのところはよろしくお願いしますね」
「む、無理やりって……そんな事をしていたら死んでしまう」
「知りませんよそんなの。 だから、なるべくその小さな玉にたくさん蓄えておいて、いつでも私のためにタローのジュースを提供できるようにしておいてくださいね」
「なっ……くっ……白鳥……お前……」
さっきから勝手な事を言ってる白鳥。 だというのに、俺は何も言い返せない。
体格差が違うために力では逆らえないのだと身をもって経験し、そして教えられてきたため。
「あの、ずっと気になっていたのですけど、白鳥って名字で呼び捨てにするのやめてくれません? 言ったらもう、私達は主人と奴隷の関係なのです。 だから “詩織様” と私の事はそう呼んでください。 あなたは同級生だった岩田君としてではなく、ずっとここでタローとして生きていくのですから」
「くっ……はい……」
「なんだか不服そうですね……まあ別にいいですけど。 使っていたら新しい関係を自ずと受け入れていくでしょうし。 ああ、ところでまだ出ないのですか? ずっと待っているのですが」
「も、もう少しかかると思う……」
「そうですか、なるべく早くお願いしますね? 一生懸命にオチンチンを触ってる姿はとても滑稽すぎて、見てる分には楽しいのだけども。 ふふ♪ あっ! そうそう、出そうな時は私に教えてください。 そのまま机の上に溢されると勿体ないので」
「わ、わかったよ……」
頭上にはジッとこちらを見つめている巨大な瞳。
俺が自分でしている所を、白鳥は無遠慮に見ている。 いや、これはもはや鑑賞されていると言ってもいいのか……。 籠の中に入れた昆虫を眺めるみたく。
――かような視線の中で、俺はひたすらに自分のを擦り続けていった。