「お客様、どうぞこちらの楓のお部屋に」
「はい、ありがとうございます」
綺麗な方に招かれた一室。
室内へと入って早々に、桜ちゃんとリンちゃんがグッタリと畳みの上に仰向けに倒れ込んでしまう。
「あぁ~つっかれたぁ! 足いったーい」
「うん、私も……」
「あはは、結構歩いたしね。 でもまあ渚さんに聞いてたから覚悟はしてたけど、ここまで山の奥地にあるなんて思いもしなかったよ」
「御足労をかけてしまいまして大変申し訳ございませんお客様。 ご存知の通り、当方で扱う品々は物が物ですので」
「はい、分かっています。 世間に知られるわけにはいきませんからね」
頭を下げている方の言葉に私は同意を示す。
なぜならここは、エロステと同様に『白銀 いちび』さんが経営している旅館。
つまりは小さくされた男性――自慰用性具という肉人形を扱う場所であるから。
なので一般の方が入り様のない、こんな山の奥地で経営をしているのだ。
私達のような予約者しか絶対に入ってこれないように。
そう――現在私こと茉由は、始めて仲の良い友達と一緒に旅行に来ていた。
あのパーティーの日から名前で呼ぶようになった、桜ちゃんとリンちゃん。 また趣味の合う詩織ちゃんに、大親友の明日香。 そして、引率にと頼んだキノちゃん先生との六人で。
何故、私達が旅行に来ているかというと、それは明日香の一言で始まった。
この祝日を交えた大型連休中に、一度皆で集まらない? という言葉で。
もちろん皆の中には “彼” らも含めて。
「お客様、どうぞこちらにてお座りになられてください」
大きなテーブルの周りに囲んで敷かれた座布団を示す女将さん。
お言葉に甘えて私達は座るのだけども……
「うぅっ……!」
隣に座ったキノちゃん先生の口から、耐えがたいような小さな悲鳴が聞こえた。
きっと座った拍子に、歩き疲弊した脚に付加がかかったせいでの悲鳴だろう。
私の方も声は出さずとも、正座をして座った脚から激痛という電流が走り、思わず姿勢を崩してしまったのだから。
それは詩織ちゃん達も。
「うわーみんな痛そうだね」
「痛いよ……何で明日香ちゃんはそんな平気な顔をしていられるの?」
「ほんとそう! 異常だって明日香」
「異常って……まあ私は鍛えてますから、ほら」
りんちゃんと桜ちゃんの言葉に、明日香は座布団に座ったまま片足を立たせる。
そして明日香が力を入れた瞬間、ミチッという音が聞こえるかと錯覚するほどに筋が収縮し、ボコッと盛り上がらせる。
私のぽよぽよしたのとは違い、ふくらはぎがガチガチに……。
「うわ……すっご」
「う、うん……」
息を呑む声。 皆が明日香の脚に見惚れている。 それは私でさえも。
何故ならラインを描く筋肉の筋が美しく、一種の芸術作品かと思わせるほどであったからだ。
触れるのでさえもおこがましく思わされるぐらいの……。
「陸上競技を頑張っている成果ですね。 本当に偉いですよ柏木さん」
「ありがとうございます♪ キノちゃん先生」
見せていた脚を引っ込めて座りなおした明日香。
先生に褒められて嬉しかったのか、ニコニコしている。
そんな会話の中、入れたお茶をどうぞと私達の前に差し出していた旅館の方。
二十か三十代か、綺麗なお着物姿のまだ若そうな女性は、テーブルから離れた位置まで下がり、正座になって深々とお辞儀をする。
「改めまして、私は白銀 いちび様より当旅館を任されております、女将の『柊』と申します。 どうぞ宜しくおねがいします」
「こちらこそお世話になります」
女将の挨拶に私達を代表して先生が返事をし、頭を下げる。
私達も遅れて同じように頭だけを下げる。
「お客様、当温泉に完備してある洗浄小人は特別製でして、どれもが五分以上湯の中で活動ができます。 ですのでお客様はごゆるりと湯舟に浸かり、洗浄小人の脚のマッサージをご堪能なさってくださいませ。 きっと今感じておられる脚の痛みは楽になりますので」
「脚のマッサージですか……。 今の私達にはとても助かりますね……」
「ふふ、そうだね」
ポツリと呟いた詩織ちゃんの言葉に私は同意する。
「あれ? 湯舟の中で洗浄小人にマッサージをさせてもいいんですか? エロステでは湯の中で小人を使用したら駄目だったけど」
この明日香の言葉は、エロステで良く縮小奴隷浴場を活用しているからこそ出た疑問だろう。
なのでちょうど私も同じことをふと思っていた。
「ええ、温泉施設は屋外になりますので、マッサージだけではなく湯に浸かりながらお身体の汚れを舐めとらせてくださいませ。 外での洗浄小人のご使用は返ってお客様のお身体を冷えさせてしまい、風邪を引かせてしまうおそれがありますので。 また完全予約制で貸し切りとなっておりますので、湯の汚れなどが気にならないのであればお好きに使用なされても結構ですよ」
「へぇ、お風呂の中で洗浄小人を使えるんだ。 すっごい楽」
明日香のいう通り、湯に浸かりながら使用できるのは確かに楽そう。 また同時にマッサージもしてくれるのは、使用者の私達にとって嬉しいことこの上ない。
思ってる以上に贅沢な温泉施設に、私は期待を膨らませていた。
それは明日香やみんなも同じく、笑顔を浮かべて。
「あ、そうでした! お客様、郵送の方でこちらに届けられた肉人形(自慰用性具)の方は如何いたしましょう? こちらの肉人形と同様、お客様がマッサージをされるお時間にお部屋にお届けで宜しいでしょうか?」
郵送で届けた肉人形というのは、優君(ペロ)達の事。 明日香が飼っている葉山君(ポチ)と、お店で新しく働きだした岩田君(タロー)の三匹の男の子の事だ。
実は前日に、エロステの方でこの旅館に優君達を届けて貰っていた。
移動は長距離になるので、持ち歩く事は危険だからという理由で。
それは他人に見つかる恐れや、落としてしまうかもしれない恐れとか色々とあるから。
まあ、安全に持ち運ぶために下着の中に入れるという事も出来たけど、それはやめておいた。
先にも言った通り、今回は長距離の旅。
上や下、どちらにいれたとしても、優君には負担をかけてしまうと思って。
だから、今回の旅行で貸し出しの予約をしていた岩田君と一緒に、渚さんに頼んでお店の方から送ってもらう事にした。
明日香と一緒にどうしようかと悩んだ結果、その方が三人仲良く旅行という気分を味わってもらえるんじゃないかと考えて。
でもまあ……申し訳ないけど荷物として送ったので、外の景色は一切見れなかったかもしれないけども。
「どうしようか茉由。 もう優斗達を部屋に持ってきてもらう?」
「うーん、まだ後ででいいかも。 それこそ夜ごはんを食べて温泉を堪能し終わった後でも。 私達と一緒で男の子同士で喋る事もあるだろうし、優君達にも旅行の楽しさを味わってほしいから」
「そっか、分かった。 じゃあ柊さん、私達が温泉に行っている間、この部屋に他の肉人形と一緒に持ってきておいてください」
「かしこまりました。 ではご夕食のお時間は十九時からとなりますので、それ以降の時間を目途にお持ちいたします。 それではお客様、どうぞ当旅館を存分にご堪能くださいませ」
洗練された所作で深々と座礼をし、退室していく女将さん。
私達もありがとうございますと言葉に、軽い会釈をして見送った。
「いやーそれにしても茉由ってば余裕が出てきたね。 以前なら優斗に会いたいからって、すぐに部屋に持ってきてもらってたんじゃない?」
「う、うん……多分そうしてたかも。 でもね、今はもう私は優君の彼女だから、か……彼氏の事も考えてあげないとだめだからね、私のわがままを押し通さないようにしないと」
「おー偉い、そこまで考えてあげてるんだ。 でも、あはは、茉由ってば優斗の事になるといつも初心みたいな反応するよね。 付き合って……というより一緒に住むようになって長いのにどれだけ好きなん。 今も顔を真っ赤にしてるし♪」
「長さなんて関係ないよ、だってずっと大好きなんだから。 明日香だってそうでしょう?」
「あーまぁ……そうかな、確かにずっと大好きかも……」
テーブルに頬杖をついてぼんやりとしている明日香。
きっと優君の事と、飼っている葉山君の事を考えているのだろう。
最近の明日香は葉山君の話題が多く、とても楽しそうに話をするから。
「ちょ、ちょっとまって! 優君って神っちの事だよね? へ? 天上院さ……いや茉由っていつの間に付き合ってたの!」
「いきなりの告白でびっくりした……。 私もいつから付き合ってたのか気になる」
私達が付き合ってる事に驚いている桜ちゃんにリンちゃん。
また興味津々といった目で身を乗り出して私を見つめている。
「いつからって今年の五月の終わりからだよ」
「へー五月の終わりからお付き合いをしているんだ……というかあれ? 神谷君って葉山君と同じで小さくなってるんじゃ……え? じゃあ小さな神谷君とお付き合いをしているって事?」
「うん、そうだよ。 エロステのお店で働く優君から告白されて、そのままずっと付き合ってるの。 あぁ優君っ❤」
ずっと待っていたあの時の優君の告白を思いだして、幸せな気持ちになる。
玩具として使って泣かせてしまったけど、それでも私に向けて真剣に好きだという気持ちを言ってくれたから。
「へ、へぇーそうなんだ……。 まあ小さい彼だけど良かったじゃん茉由、ずっと好きだった神っちと付き合えて」
「うんっ! ……ん? ずっと好きだったって……何で桜ちゃんは私が優君の事が好きなのを知ってるの? そんな話しをしたことがないのに」
「何でって……そりゃ学校であんなに神っちとベッタリしてたら分かるっしょ……。 正直、キノちゃん先生だって知ってたんじゃない?」
「う、うん……天上院さんごめんね? あまりにも分かりやすいから、他の教師も全員が気付いていると思う……」
「あはは、まあこればかりは茉由の好きっていう言動がすごく分かりやすかったから仕方がないよ。 気付いていなかったのは当の本人の優斗ぐらいだったんじゃない」
「う、うそ……」
自分では普通にしているつもりだったのに、そこまで分かりやすかったのだろうか……。
知っていたのに黙って見守られていた事が返って恥ずかしく、顔が熱くなってしまう。
「というかあたし良く知らないんだけどさ、神っちって何者? 入学した頃から茉由と明日香の二人と一緒だから話題になってたよ」
「あ、うん、それ私も気になってた。 神谷君とはあまり話したことがないから、いきなり何者かなんて聞けないし、二人には何となく聞ける雰囲気じゃなかったから」
「そうそう! 三人で一緒にいる時なんて近づくなオーラがすごかったよ」
「ねっ! ほんとすごかった。 だから神谷君ってどこか偉い人のご子息なんじゃないかって噂になってたんだよ。 あまりに二人と普通に接していたから」
「あはは……まあ優斗は私達とは違って普通のご家庭で育ったよ。 ちょっと特殊な事情のご家庭なんだけども」
「特殊な事情?」
チラリと私を横目に話す明日香。
この先を話していいか目で合図を送っているのだろう。
だけども私は明日香に向けて首を横に振って見せる。
駄目だという意味ではなく、この先は自分が話すからと頷いても見せて。
そういった私の意思を明日香は汲み取ってくれたみたいで、口を噤んでくれた。
「えっとね、優君のお父様とお母様は血の繋がった本当の親ではないの」
「へっ⁉ そうだったのですか」
声を出して驚く詩織ちゃん。 それは皆も一緒で同様に驚いていた。
「先生の私も知らなかった……ううん、神谷君のご家庭の事情なんだから知らなくて当然だよね。 じゃあ血の繋がりが無いって事は、もしかして神谷君は施設からなの?」
「はい、そうです。 私と始めて出会った時が、優君がまだ施設にいる頃だったんです」
記憶を遡る。
彼との大切な思い出を。
………………
…………
……