「ん……ッ」
生唾を呑み込んですぐに、舌でペロリと唇の周りをなぞらせたお姉さん。
そのおかげで彼女の唇は、キラキラと唾液で輝いている。
この行為はまるで食べ物になったあの人に向けて、お化粧というお洒落をしているみたいだ。
そして、もう辛抱たまらないっといった様子で、お姉さんはお肉を突き刺したフォークをすかさず持ち上げ、唾液でお化粧したばかりの唇の門を開かせるのだった。
お肉になった人を迎え入れる、「あ~んっ」という声を上げて。
「はぁむっ❤」
ベチャリと口の中にある舌の上に乗せられたお肉。
すぐさま唇の門が閉ざされ、そのままフォークだけが引き抜かれていった。
唾液が付着したフォークだけを……。
プチュッ……クチィッ……グジッ……
口の中に取り残されてしまったお肉は、即座に噛まれ出したようだ。
音や唇の動きで良くわかる。
口内でお肉を噛みしめる音。 また、お姉さんの唇はお肉を一噛みする度に、歪に形が変わっているのだから。
そしてある程度お肉を咀嚼し続けていたお姉さんは、
「ん……んぐっ❤」
少しだけイヤラシイ声を出して、人だったお肉を飲み込んでしまった。
躊躇いをいっさい見せずに……。
(う……ゎ……)
お姉さんがお肉を食べる所を間近で見ていた僕。
椅子に座ったお姉さんに抱かれ、膝の上に置かれているため。
だから、お姉さんがお肉を飲み込んだ事によって、喉が隆起する所まで見てしまった。
写真に映っていたあの人のお肉が、お姉さんの食道を通っていくその瞬間を。
「うーちゃん、このペッティーのお肉、甘くて美味しいよ」
「ほんと? ふふ、楽しみ」
フォークで突き刺したお肉を持っていたご主人様。
お姉さんの反応を確認して、今――まさに食べようとしていた。
あの卯月さんまでもが、ステーキ肉にされた人を……。
「ふふっ……」
フォークに刺されたお肉は今や唇の前。 かようなお肉に向けて、迎え入れるように卯月さんは口を開かせる。 クチャァという音を立てて。
それもそのはず、開かれた口内のあちこちに透明な糸を引かせており、既に口の中は唾液に塗れているから。
そんな口の中へ、お肉に突き刺したフォークごとゆっくりと入れていく。
「はぁむっ」
グチュ……グチュゥ……グチィ……
口内から鳴る咀嚼音。 ……これがあの人のお肉だと知らなければ、普通ならなんとも食欲をそそる音であろうか。
きっとお肉から溢れる肉汁と、卯月さんの唾液が口の中で混ざり合って鳴ってるんだ。
「んーんーっ♪」
口の門を閉じながら、卯月さんの唇も咀嚼によって歪に形が変わっている。
かような唇の端の隙間から、少量の透明な液体がツツッと滴りだす。 肉汁と唾液が混ざったであろう液体が。
しかし、
「んっ」
例え少量の液体であろうとも逃がしはしまいと、チロリと唇の隙間から出した舌で舐めとり、また口内へ戻っていった。
液体を舐めとった証である、唾液の跡を唇の端に残して。
「……んぅっ♪」
クチュ……クチュ……クチュ……
咀嚼を繰り返している卯月さん。 既にもう口内から鳴るお肉を噛み潰す音が変わってしまっている。 固形物を噛む音ではなく、泥状になった物を噛む音に。
幾度もの咀嚼で潰されすぎて、卯月さんの口の中にいれられたあの人のお肉は原形を留めていないのだろう。
「ん……んくっ」
そのようなお肉を卯月さんは喉奥へと飲み込んでしまった。
お姉さんと同じく、なんら躊躇いなく喉を隆起させて……。
「ふぅ~お姉ちゃんの言った通り本当に美味しい。 今まで食べたペッティーのお肉の中でこの子が一番かもしれない」
「そうよね、肉汁が程よい甘さでくどくもないしね」
二人は機嫌良く話しながら、またナイフでお肉を切って口の中へ入れていく。
今度はお肉を頬張りながら、白ご飯も一緒に。
グチャ……グヂィッ……グヂュゥッ
ご主人様とお姉さんの口からの――咀嚼のシンフォニー。
かような咀嚼音に支配された空間の中で、僕はチラリと食卓に置かれたあの人のカードをみやる。
「…………」
この人も、僕と一緒で人生に絶望した人間だと書いてあった。
それでも心の中では生きていた事が無駄だと思いたくなくて――諦めたくなくて、あの店の怪しい広告に電話したはずだ。
その結果……こんな、ステーキ肉とされた姿になってしまったけども……。
でも、この人が生きていたのは決して無駄何かじゃなかったんだ。 絶対にそれだけは違う。
だって、あの人を食べている卯月さんとお姉さんは、あんなに幸せそうな表情をしているんだから。
うん、そうだ。 これは命をかけてあの人が作り出した、生きた意味だ。
そしてこの咀嚼音は、人間の役に立つことが出来ているという、その証たる音なんだ。
そう思い、僕はあの人に向けて良かったねと心の中で呟く。
自分が生きた意味を示すことが出来て……。
また――最後の最後には、卯月さんとお姉さんの血肉となれるのだから。
「……ブゥ」
「あれ? そういえばうーちゃん、ポン吉のご飯はどうしたの?」
「あ、そういえば忘れてた! ごめんね、ポン吉。 私達のご飯が終わったら唾液をあげるからね」
僕は人間だった時の頃のように、普通の食事は摂れない。
もし人間の摂る水や食事などを口にしてしまうと、長時間苦しむ事になってしまう。
小さくされた影響のせいで、それら人間の食事は僕達の身体には毒だからだ。
唯一、小さくされた僕達が口に入れて栄養を摂取できるものは、女性の体液や排泄物だけ。 そう、僕達は女性に恵んでもらわないと生きてはいけない存在なんだ。
だからご主人様は、食事の時には僕に唾液を御馳走してくれている。
たまにだけどご主人様の気分で、食事終わりに別の物とかも……。
「うーちゃん、それじゃあ可哀想じゃない? 私達がご飯を食べてるのに、自分だけおあずけなんて」
「え、そう?」
「そうよ、だから私がご飯を食べさせてあげてもいい?」
「う、うん、別にお姉ちゃんがあげたいならいいけど」
「ブブゥ⁉」
膝の上に乗っていた僕はお姉さんの両手で掴み上げられ、そのまま床へと下ろされる。
テーブルの下である足下の前へと。
そして何故かお姉さんは履いている靴下を脱ぎだしはじめるのであった。
「さあこれがポン吉のご飯。 ブーツでいっぱい歩いてたからちょっと臭いがするかもしれないけど」
すっかり素足になったお姉さんは、足裏を僕の方に向けて舐めに来るのを待っている。
「ブ……ブゥ……」
自分で言った通り、確かにお姉さんの足から何ともいえない臭いがした。
五本あるそれぞれの指の隙間からは汗が噴き出てもいて。
「ん? どうしたの? 遠慮しないでお舐め」
ずずいと目の前に差し出してくる素足。 蒸れた足で咳き込んでしまいそうになるほど臭いけど、僕はお姉さんの足を言われた通りに舌を出して舐め始める。
だって僕はこれまでに数々の女性から、足の汗をご飯として舐めさせられてきたのだから。
だから、今さら抵抗感なんてないんだ。
「ひゃっ! あはは」
指に舌を這わした瞬間、くすぐったくてかビクンと震えて引かれた足。 されどもう一度僕に足を差し出し、舐めさせてくる。
「んふふ、ポン吉の小っちゃい舌がこしょばゆい。 けど足が蒸れていたせいか、舌が冷たく感じて気持ち良い❤」
舐められる感触をすぐに慣れたみたいで、今では悠々とお姉さんは僕の舌の感触を楽しんでいるみたいだ。 事実、足指をグニグニと動かし遊ばせているから。
(お姉さん、僕に舐められるのを気持ち良いって言ってくれてる。 気に入ってくれてるんだ)
気を良くした僕は、舐め方に変化をつけていく。
親指の根本から天辺にまで丁寧に掬い上げるように舐めたり、親指とひとさし指の根本の間を、舌先で行ったり来たりと繰り返したりして。
「あ……んっぅ❤」
こういった僕の舐め方が気持ち良かったのだろう、あんなにグニグニと遊んでいたお姉さんの足の指は、ギュウゥッ! と、グーを作るみたいに丸くなってしまった。
これは多くの人間が僕にみせるアピール。 気持ちが良いといった、身体が動いてしまう反応だ。
「ハァ~ポン吉ってペロペロがお上手ね。 偉い偉い♪」
「ブゥ……」
頭に感じるズシリとした重み。 お姉さんはもう片方の足で、器用に僕の頭を撫でてくる。 とても雑に良い子良い子と褒めて。
「なんだかお姉ちゃん見てたら私もして欲しくなってきちゃった」
「ブゥ⁉」
そういって卯月さんは僕の方へ両足を伸ばし、お姉さんのを舐めている僕の身体を挟んで引きずっていく。 自分の元へとズルズル。
「ちょ、ちょっとうーちゃん! まだ私が舐めさせてる最中なのよ! 取っちゃ駄目」
「ブブゥッ‼」
お姉さんの方も僕を取られまいと、引きずられていく僕の頭を踏んづけて止める。
「お姉ちゃん離して。 ポン吉は私のなんだから」
「うーちゃんがポン吉にご飯をあげて良いっていったのよ? それを後から駄目っていうのは酷いわ」
僕を挟む卯月さんの両足、そして僕を踏んづけているお姉さんの足の圧が強まる。
お互いが一歩も引く気がないみたいで。
「ブ……ブブ……ゥゥ」
かような二人の行為にたまらず呻き声をあげる。 足の重さで、身体を潰してしまいそうな痛みが僕を襲ってくるのだから。
事実、頭からはメキメキと嫌な音が鳴り始めている。
「あ、たいへん! うーちゃん、ポン吉が痛がってるわ」
「へ? あっ!」
呻き声に気付いてくれたのか、僕を潰そうとしていた二人の足はパッと離れる。
「だ、大丈夫? ポン吉」
「ごめんね、やりすぎちゃったみたい」
「ブゥゥ……」
心配してか、テーブルの下を覗く卯月さんとお姉さん。
そんな二人に向けて大丈夫だとひと鳴きすると、安心した表情をして覗くのをやめた。
「うーちゃん、二人で一緒にご飯をあげましょうか」
「そ、そうね。 うん、そうしよう」
ズシリと僕の前後に置かれた、左右あわせた四本の足。
四本ともが足裏を向けてかかとで立っている。
僕に……舐めさせるために。
だから僕は、そんな二人の足に向けて舌を伸ばしていった。
出来るだけ交互に舐めるようにしながら。
――食卓の場は、色々な音で支配されている。
カチャカチャ
ナイフやフォークなどが食器に当たる音。
グジィィ……グジュゥ……グシュッ
贄となったお肉が、卯月さんとお姉さんに音。
ペチャ……ペチャ……
そして、僕が二人の足を舐めている音などで。
「あ、そうそうお姉ちゃん、今度さ」
「ん? うん、いいわよ」
そのような音の中――僕の頭上であるテーブルの上で、二人は楽しそうに会話をしているのであった。
僕と同じペッティーである人のお肉を食べている、その口で。