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広域はんい from fanbox
広域はんい

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①縮小〇〇日記外伝 ~あの子に穿かれていた家族~

 学校みたく机が並べられた室内。

 しかし普通の学校とは違ってここはとても殺風景で、外景を見れるような窓がない。

 一応だけど出入口のドアらしきものはあるが、開く事は出来ずまったく役目を果たせていなかった。

 何せこれはドアに見せかけた飾りでしかないのだから……。


 そんな場所に、僕ら六人は閉じ込められている。

 学校に通っていたあの頃みたく机の前に座らされて。


「ハァ、嫌だ、どうして “こんな姿” になっても勉強しないといけないんだ。 別にもう “俺らには必要ない” だろ……なあ『啓介』(けいすけ)、お前もそう思うよな?」


 左隣に座ってる『武史』 (たけし)が、気だるそうに僕に喋りかけてくる。


「うん、僕も勉強は必要ないと思うけど、でも……これは自分のためだから頑張らないと」

「そうですよ、啓介の言う通り僕らは頑張るしかないんだ。 勉強をして自分自身を失わないようにね」


 僕の右隣の席に座っている『晋』(しん)が武史のグチを聞いていたらしく、真面目な表情で諭す。


「武史もあの大人の姿を見せられただろ。 日々頭の体操をしないとこんな風になるぞって……。 僕はあんな姿になるのは嫌ですよ、絶対に」

「あ、あぁ……うん、分かってる。 俺も嫌だ、あんなのになるのは……」


 僕を真ん中にして二人が話すあの大人の姿というのは、あーあーぅーぅーと呻いていた大人の事。

 焦点の合ってない目をして、ぼんやりとした……。


 僕らはここに来て “涼子お姉さん” に教えられたんだ。 日々頭を働かせていなければ、自分が人間だった事も忘れてしまうと。

 大人の男の人を埋め込んだ大きな柱を手に持ち、そうなってしまったらこの人のような女の子の役立つ “物” にされてしまうわよって――。


「でもどうして男の人をあの柱に埋め込んでいたんだろう。 あれは何なの? 涼子お姉さんは女の子の役立つ物って言ってたけど」

「僕にも分からないですね……。 ただ、世の中にはまだまだ僕達には理解できない事がたくさんあるって事が分かりました」

「ああ、俺もだよ。 実際、漫画みたいな出来事が自分の身に振りかかったしな」

「そうだね……」


 武史が言う漫画みたいな出来事はその通りで、昨日は怒涛の日だった。

 ほんとに……ほんとに……。

 ………………

 …………

 ……


 僕ら三人は同じ施設で育ち、そこから皆と同じように学校に通わせてもらっていた。

 施設の経営が苦しいはずなのに、優しい先生が行きなさいと言ってくれて。

 そういった理由もあって、終われば施設の為に近所の人の所で働いていた。

 少しでも施設の経営が楽になってくれればいいと思って。


 ……でも、それでも僕らの働いたお金だけでは、施設を経営していくには全然足りなかったんだ。

 先生は心配しなくてもいいと言ってたけど、元々がこの施設はギリギリの状態であったため。


 そんな時かな、以前から足しげく施設に来ていた涼子お姉さんがその日もやってきたんだ。

 何故か施設の現状を把握していたお姉さんは、施設をしばらく経営していける大量の金銭と引き換えに、僕らの何人かを引き取りたいと言って。


 しかし先生はこの話をずっと断っていたみたい。

 この話の裏の事情を予め説明を受けていたから。

 引き取った者は人として永遠に生きられない事。

 お金持ちの女性の道具という身分に落とされ、使われて生きていく事になると。


 でもね、その話を聞いて僕ら三人は志願したんだ。

 先生は駄目だって断っていたけど、でも施設にいるチビ達や先生が幸せになれるならと押し切ったんだ。

 僕らの事はいいから、後に続くチビ達が何も気にせず学校に通えるようになれば良いって伝えて。

 一歳下の『ひかり』は最後まで泣いて僕達を止めていたけど。


 そうして僕らは自ら望んで売られた。

 でもまさか涼子お姉さんに着いて行った先で、身体を人形サイズまで小さくされるなんて思いもしなかったけども。


 ………………

 …………

 ……


「しっかし小さくされてから目覚めた時はマジでビックリしたわ……」

「ええ、心臓が止まりかけるってあんな状態の事を言うんだって始めて経験しましたよ」


 僕もだ。 僕も目覚めた時はかなり驚いた。

 だって、目の前には信じられないほど大きな涼子お姉さんの顔があったもんだから。

 ほんと怖かった……。 綺麗なお姉さんだったけど、小さくなった身で間近で見る人の顔はとても不気味で。

 その証拠に武史や晋、そして他の三人も声を出さず、ただ口をパクパクして驚いていたっけ。


 そんな驚いている僕達に、お姉さんは涼子と改めて自己紹介をして、淡々と僕達の身に起こった事を説明してくれたんだ。

 僕らがどういった存在になったのかを。


「涼子お姉さんは何て言ってたっけ……自慰?」

「確かに自慰という言葉を使って、僕らは女の人のための道具になったみたいな事を話していましたね。 君達も分からないんですよね?」


 晋は後ろの席に座っている三人にも聞くけど、皆が知らないと頭を横に振る。

 ちなみにこの三人も年齢は僕らと同じか一つ上で、同じように別の施設から涼子お姉さんに買われてきた人達みたいだ。

 だからか、僕らが全員名字を『加河』と名乗るように、後ろの三人も『稲垣』と一緒の名字を名乗っていた。


「ハァ……意味は何なんだろうな……。 しかも誰も知らないって言うとめっちゃ嬉しそうに今晩教えてあげるって言ってたけど」

「分からないけど、何だか僕は嫌な予感だけはするよ……」

「まあそうですね……僕達をこんな小さな姿にしたり、あの大人の人を柱に埋め込んだりする人ですからね」


 この室内にいる全員が僕の言葉に神妙に頷く。

 ってきり僕は奴隷という身分になって、人に仕えていく事になるんだと思っていた。

 でも自分達は人形みたく小さな身体にされた身。 なら涼子お姉さんが言っていた、人から使われて生きていくというのはどういう事なのだろうと思いながら。


「まあ、考えていてもしょうがないだろ」

「それもそうだね。 どうせ夜になったら涼子お姉さんが教えてくれるって言ってたしね」

「そうそう、だから考えているだけ無駄だって。 それよりも肝心の勉強を教えてくれる先生ってのはいつ来るんかな? というか、俺みたいに小さくされた人間が先生として来るのか?」

「どうなんでしょうね……。 それも気になりますが、いったい僕達は何を勉強させられるのだろうとも思います……。 あるのは数枚の白紙にペン一つだけで、肝心の教科書などはどこにもありませんし」

「う、うん、それにこの部屋には黒板もないからね……」

「まあ、その代わりに大きなモニターが置かれているけどな」


 武史のいう通りに、僕らの前には大きなモニターが置かれていた。

 映るかどうかも分からないモニターが。

 だって、大きいと言ってもそれは僕らからはそう見えるだけで、涼子お姉さんのような人間からすればこれは小さな模型の玩具サイズでしかないからだ。

 僕らが座っている椅子や机だってそう。 触った質感でわかるけど、明らかにこれはプラスチックで出来た玩具だ。


 だから多分、このモニターもただの飾りとして置かれただけの物なのだろうと思っていたのだけども、突然にプツリと真っ黒だった画面に映像が映し出されたのだった。


 ………………

 …………

 ……


~ 黒百合女子中 ~


「――えっ⁉ 心菜お姉様、私が先生の代わりに……ですか?」


 生徒会室に呼ばれた私こと『西園寺 澄玲』(さいおんじ すみれ)は、お姉様からの急なお願いに驚き、困惑していた。


「ええ、私と同じ年齢や澄玲と同学年の合わせて男子六人なのですけど、勉強を彼らに教えるのをお手伝いしてくれませんか? 私の家のプライベートなお仕事で大変申し訳ないのだけども」


 同じソファーに並んで座られている心菜お姉様はそう言って、膝の上に置いていた私の手を優しく両手で握る。


「プライベートのお仕事だってお姉様の為ならなんだってさせてほしいのですけど……む、無理ですよ……男の人は怖くて苦手で……。 心菜お姉様だってご存知ですよね? 私が……その」

「澄玲が男子を苦手としているのは良く知っています。 ですけどあなたはこの黒百合の時期生徒会長に私が推薦している子。 怖がっている今のままでは、他の学園の交流時にどうしても支障をきたしてしまいますよ? 会って話さなければならない機会は必ず訪れますから」

「は、はい……」


 お姉様のお言葉は正しい。 ですけど男の人と会う事に気後れしてしまい、どうしても勇気が湧いてこなかった。


「澄玲、何も実際に会う訳ではありませんから大丈夫。 このパソコンの画面越しで彼らに教えるだけですから」


 そう言ってお姉様は立ち上がり、自分の机の上に置いてあったノートパソコンをこちらへ持ってくる。


「この画面越しで……」

「ええ、画面越しであったら男子に対する澄玲の苦手意識も幾分か改善される好機だと思いまして。 ……いえ、私は今あなたに余計なお世話を働いていますね。 それにこれは本来、私がお母様から引き受けた仕事。 それを澄玲にも手伝って貰おうだなんて虫が良すぎました。 ごめんなさい! 澄玲、やはりこのお話は聞かなかった事にしてください。 当初の予定通り私が教える事にします」

「……ぁ」


 私の暗い表情を見て申し訳なく思ってしまったのか、お姉様はピシャリとお話を切り上げてしまう。

 だからか一気に不安に駆られる事になる。


 ――私は心菜お姉様を失望させてしまったのではないかと思って。


 だって、心菜お姉様は男の人を苦手とする私のためにこの場を設けてくれたというのに、当の私はおどおどするだけで期待に応えられなかったから。 応えようともしなかったから。

 いいえ、そればかりかお姉様は私を気遣って諦めてくれる事をどこか期待している自分がいた。


「もう、澄玲ったら仕方ないわね」と、いつも優しく声をかけてくれるみたいに。


 ああ、何て自分は弱くて浅ましいのだろう……。

 心菜お姉様みたいに芯のあるかっこいい淑女になりたい――そう思ってお姉様とお近づきになり、黒百合の伝統である姉妹の契りをしてもらったというのに、私は何も変わっていないじゃないか。


「……みれ? ねえ澄玲? 特に思い悩む必要はないわよ。 勇気が出ないのは仕方のない事。 いつか澄玲自身が大丈夫だと思った時に男の子の件は改善しましょうか」


 私が自分の中で自己嫌悪に陥っている最中も、お姉様は優しいお言葉をかけてくださっている。

 でも駄目。 ここで甘えてしまうと、今まで通りの弱い私のままだ。


 ――だから私は精一杯勇気を出して、お姉様に返事をした。


「や、やりまひゅっ!」

「え?」


 なんという事だろう。 精一杯の言葉だったというのに、噛んでしまった。

 ほら、お姉様は私の顔を見てキョトンとしてしまっている。


「うぅ……」


 途端に頬が熱くなる。 きっと私は今――顔が真っ赤だ。

 でも、私の気持ちはお姉様にちゃんと伝わったみたい。


「別に無理をしなくてもいいんですよ?」

「いいえ、私に先生をさせてください!」


 男の人が苦手という他にも、自分が先生をするのが始めてで少しだけ不安はあるけども、もう一度決意した言葉を伝える。

 そんな私の勇気に心菜お姉様は微笑んでくれている。

 褒めてくれているかのように優し気な眼差しを向けて。


「……ありがとう澄玲。 ならお願いしますね?」

「はい、お姉様の期待に応えられるようにがんばります。 所で先生をするっていったい私は何をしたらいいのでしょうか……」

「ああ、そうですね、まだ内容をお話していなかったですね。 澄玲にしてもらう事は――」


 お姉様が話すのは、事情があって施設にいる子達に簡単な勉強を教える事だった。

 勉強といっても私達が習っている所ではなく、小学生の頃に習っていた内容を。

 私と同い年と聞いていたけど、でもこれは軽い頭の体操が目的らしく、勉強の内容はさほどどうでもいいみたい。

 一番は施設にいる男の子と仲良くなり、安らぎを与える事らしい。


「あの、心菜お姉様、今から私が教える方々ってもしかしたらどこか病で入院をされているのですか?」

「いえ、それが私も男の子について深くは知らないのです。 お母様に聞いても事情は伏せられてしまいましたので。 かと言って男の子にずけずけと事情を聞く訳にはいきませんからね。 どこかお身体が悪いのですか? なんて」

「はい、そうですよね……。 あと、一番は男の子と仲良くなる事ですか。 そういった理由でしたら私ではなく萌先輩が適任だったのでは?」


 いつも朗らかで親しみやすい萌先輩。 彼女なら頭も良いしすぐに仲良くなれると思う。

 ……だけども、


「萌は最近ダイエットでジムに通っているらしくて、毎日の居残りは無理だからと断られてしまいました。 それに加恋の方にも聞いてみましたが、彼女も用事があるみたいで」

「加恋先輩にも断られたのですね……」

「ええ、そうです。 ですので澄玲がこの話を引き受けてくれてすごく感謝しているのですよ。 下級生も同級生であっても何故か皆様は私を前にしたら緊張なさりますし、そんな私一人では仲良くなって安らぎを与えるなんてこと、甚だ難しいと思っていましたので」

「そ、それは――確かに緊張をしていますけど、それは憧れのお姉様を前にしているから当然ですよ」

「へっ? 憧れって……私にですか?」

「はいっ! 私だってそうです! 心菜お姉様は紫色をした一輪の百合の花。 美しすぎて近づき触れることさえ躊躇わさせる高貴な華なのです。 そのような高貴な華がとても優しい心で私達を見守ってくれている。 愛で包んでくれている。 それが黒百合の私達からすればどれだけ焦がれてしまう事か。 ですので心菜お姉様はこの黒百合の淑女の憧れの的なのです。 緊張するなとおっしゃられる方が無理なのですっ! ……あっ」


 ……私はまたやってしまいました。 お姉様は如何に素敵で素晴らしい人なのかを、当の本人の前で熱く語ってしまいました。

 ああ、ほら、お姉様は瞳をパチパチとしていらっしゃいます。 きっと私を変な子だと思われているに違いありません。 最悪、嫌われたのかも? ――そう絶望をしていたのですが、


「ふふっ、うふふっ。 そう、澄玲は私をそんな風に思ってくれていたのね。 嬉しいです。 でしたらあなたの姉らしく、私ももっと自信を持たなければいけませんね」


 そう言って華が咲いた笑顔で私の頬を撫でてくれた。

 指先でなぞるように優しく。


「と、丁度約束の時間になりましたね。 澄玲、これから相手と繋ぎますが準備は宜しいですか」

「は、はい、大丈夫です」


 時刻は17時になろうとしている頃。

 心菜お姉様はさっそくノートパソコンの画面に、男の子がいる向こう側の映像を映し出されたのだった。

①縮小〇〇日記外伝 ~あの子に穿かれていた家族~

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