「でさー」
「わかるよそれ」
黒く染まり、無音になった世界に聞こえる先ほどの娘達の声。
嫌に大きく聞こえる娘の声量に、俺の意識は覚醒しだしていく。
「ぅ……ぁ? ――はっ⁉ な、なんだここは!」
目覚めて飛び込んできた光景に、堪らず叫ぶ。
「うぅ……ん……な、なんですか……大きな声を出し……て? ――へっ⁉」
「――うお⁉」 「――おわッ!」
そんな俺の声に、近くで寝ていた三人の部下達も続々と目を覚まし、同じように驚き声をあげる。
何故なら目に見えるモノ――全てが馬鹿みたいに大きく異様だったからだ。
例えば目の前にある見事な紋様の入った物体はどうだ? お椀の形をしたその中には、真っ白なラグビーボールみたいな物が山になるほど盛られて入れられている。 モクモクと湯気を上げて。
そのような物の他にも見渡せば、様々な形をした物体が建ち並んでもいた。
肉のような物を載せた平べったい物などがずらりと……。
あまりに奇妙で異様。 まるで誰かの作品である、造形芸術の世界に放り込まれたかのようだ。
「うわぁッ! や、柳生さん……これ見てください……」
「ど、どうした? ……て、おいおい、何だよこれは……」
部下が指し示す場所。 俺の真後ろであるすぐ近くには、三本の柱で支えられた黒い巨大な建造物が建っていた。 上にいくほど傘を広がりみせたものが。
そのような柱の中心点にある内部は空洞になっているらしく、轟々と炎が燃え盛っている。
ゴオオォォと、ガスみたいな音を出して。
「ここはどこです? 何で私達はこんな所で寝ていたんでしょう。 ――というか柳生さん、早くこんな所から逃げましょう。 不気味すぎますよここ……」
「ああそうだな、やばい予感しかしねぇ。 ……ん? あれ……何だ……身体に力が入らないな……というか脚が……」
この場から逃げ出そうとするが、脚に力が入らなくて立ち上がれない。
目の前に自分の脚があるというのに、まるでこれが他人の脚みたく感覚がなくて。
動くのは上半身部分。 今さらに身を起こす程度ぐらいしか出来ない事に気付く。
それは三人の部下も同じなようで、かなり混乱しているようだ。
「え? え? 脚が動かないッ!」
「お、お前らもか……。 いったいどうしてしまったんだ俺の脚は――」
冷たい石? でできた床の上で俺達は立ち上がろうと足掻く。
混乱しているためか、手や腕をバタバタと動かしてみっともなく。
そんな俺達の耳に、突然と拡声器を使ったかのような大きな声が響いたのだった。
目覚める原因となった娘の――大音声が。
「あっ! 皆さん、どうやらポツポツと起きだしてきてるみたいですよ」
「おーっ、あたしの皿の上のも起きてる」
「予備も全部起きたみたいですよ。 早くに目を覚ましますって女将さんが言ってらしたけど、ほんとに早かったですね」
遥か頭上からそそがれる喜色な目、目、目。
複数あるそのような目は、眼鏡をかけた娘が俺らを “予備” と呼んだ後、全部で六体もの巨人の瞳がギョロリと一斉にこちらへとそそがれた。
「――なッ! ぁぁ」
「きょ、巨人? う、うそでしょ……」
ありえない現実に思考が停止する。
だってそうだろう? 漫画でしか見た事のない巨人が実際に目の前にいるのだから。
「お、おい、ちょっと待ってくれ! こ、この巨人ってさっきの娘達じゃないか?」
「へ? ――あっ! ま、まじか……」
一体一体をよくよく見ていくと、この巨人はどれもこれもが先ほどの娘達ばかりであった。
品定めをするかのように俺を下から覗き見ていた娘。 ポニーテールのはつらつとした娘や金髪のギャルの娘。 ……そしてその他の娘達も。
あの小柄であったはずの少女までもが巨人の姿となってそこにいるではないか。
「は? へ? ど、どうしてあんなに大きいんだ……」
意味が分からなさ過ぎて困惑してしまう。
部下達もそうだ。 ありえない現実に言葉を失ってしまったのか、口をポカンと開けてただただ娘達を見上げていた。
そんな巨大な娘達は、呆ける俺達を無視したまま会話を続けている。
「アハハ、私達を見てビックリしてる。 どれも逃げないって事は、まだ小さくした後遺症で身体が痺れてるって感じかな?」
「うん、目覚めてからしばらくは動けないらしいからね」
「なら早く食べよっか。 動きだされると面倒くさいし」
と言って二人の娘は、目の前に置かれている小皿の上から何かを掴んで胸元の高さまで持ち上げていく。
パタパタと手を暴れさせている生きて動いてるモノを――お箸で器用に。
「――おわぁぁッ! 何をするっすか!」
「――うわああぁぁッ!」
「なっ、あ、あれは……」
娘の箸に掴まれているモノを見て驚愕する。
何故ならこいつらは、俺の部下である太野と古橋だったからだ。
「……お、おい……太野っ! ――古橋っ!」
二人の部下に向けて必死になって叫ぶ。
俺の隣にいる奴らもそうだ。 これから起こりえる先を予感してか、心配になって二人に向けて叫ぶ。 お箸で掴まれている太野と古橋のその姿は、どう見ても娘から “食べ物” として扱われていたので。
「うあっ? や、柳生さん? みんなッ! ――うああ、助けて、助けてくださいっすッ!」
「助けてぇぇぇ! お願いだぁぁッ!」
二人の部下は俺達に気付き、助けてと――こちらに向けて切羽詰まった声を上げる。
だというのに、脚が動かせないために俺達は何もできない。
……いや、例え脚を動かせたとしても無理だ。 お箸で持ち上げられている娘の胸元は、俺達からすれば高すぎてどうしようもないので。
だから叫ぶ事しかできない。 叫んでもなんら意味もないのに……。
「早く、早く助けてくれぇぇッ! このままだと俺は――ぐげぇッ!」
「もうっ! 煩い……。 それにそんな所で暴れられたら落としちゃうでしょう?」
娘は握るお箸の力を強めたらしく、あれほど叫んでいた古橋は静かになる。 お箸に挟まれたまま苦しそうな顔をして。
きっと想像を絶するほどに苦しいのだろう。 それも、呼吸すら出来なくなるほどに。
「ふふ、まだ動けないはずなのにこれだけ暴れられるって事は、それほど活きが良い証拠ですよ」
「そうそう♪」
見れば眼鏡をかけた黒髪の娘の他にも、金髪の娘や左右に髪を結んでおさげにした、もう一人の娘も部下達を箸に挟んでいた。
「うわあああッ! 助けてください柳生さんっ!」
「あぁあああッ!」
――まさしく、食べ物かのように。
「お、おい……」
俺に助けを求めて叫ぶ部下に、届く訳がないのに思わず手を伸ばす。
何とか助けてあげたい一心で、必死であいつらの手を掴もうとして。
「うああッ! 柳生さん、助けてくださいっす! ――アツッ! 熱いッ!」
だけども無情にも、娘達は部下達を挟んだお箸を移動させていくのだった。
柱の内部で炎が燃え盛っている、得体の知れない建造物の上に。
「「「ギャアアアァァァッッ‼」」」
部下達が建造物の上に置かれてすぐに、激しく焼ける音と部下達の絶叫が響く。
「うあ……ぁ……ま、まさかこの建造物は――」
娘一人一人の前に置かれている建造物から、モクモクと上がる白い湯気。
そこでやっと俺はこれが何であったのかに気付く。
この建造物だと思っていたのは、良く旅館などで目にする一人用の卓上七輪であると。
「そんなっ! じゃ、じゃあ太野達は今……」
本当に焼かれているのだと理解する。
現に巨大な娘の誰もが、置いた部下達を楽し気に眺めていた。
まるで焼肉の店で自分の肉を焼いているかのように、お箸でつつき触りながら……。
「ハァ~、焼いたらめっちゃ良い香りが増してる♪ うわーどんな味がするんだろこれ。 小さくしたばかりのは食べた事がないから楽しみすぎるって♪」
「うふふ、でも食用に加工はしていないから味は期待できないんじゃないかな? 女将さんも塩かタレで味付けをしてから召し上がってくださいっておっしゃってたし」
こいつらは何を言ってるのか……。 いや、ほんとの所は理解している……理解しているけども考えたくはなかった。
この娘達は、焼肉として部下を食べようとしているって事を……。
「でも何か生々しいね、これがあのおじさん達だって思うと」
「まぁねえ、分るよりん。 目の前で小さくなって、そのまま私達の小皿に載せられたから尚更実感するよね。 私達ってさっきまで生きて動いていたおっさん達を食べるんだって」
「ふふ、でもおかげで始めて小人を使ったり食べたりした時の罪悪感を、改めて思い出しました。 あの何ともいえない感情を……はぁ❤」
「うわ、しおりんすんごいエロい顔をしてるし」
とんでもない内容を、まるで日常会話かのように喋る巨大な娘達。
そのようなありふれた会話の中で娘達は部下をひっくり返していく。
「ぃぎぃゃぁぁぁッ……ぁぁ…………」
ひっくり返したと同時に、けたたましく肉が焼ける音が鳴る。
また娘が白い粉みたいなのを上から振りかけると、パチパチといった油の弾く音も鳴る……。
「うわ、塩を振りかけたら肉汁がすっごい❤ やばいって涎が止まんない♪ ほんと美味しそうこれ」
「明日香のは一番大きかったから、その分でてくるお汁が多いね。 それよりも先生は食べないんですか? 遠慮なんてしないでくださいね」
「そうそう、小さくしたばかりの小人を食べるなんて滅多にできるわけじゃないからね」
「あ、うん……じゃあ、私も頂こうかな。 ……ごめんね?」
二人の娘に促されて、小柄な娘は自分の前に置かれている皿から何かをお箸で掴み、七輪の上にまで掴んだモノを移動させていく。
箸で掴んだモノに謝って……。
「お、おい! 何をするんだ! お嬢ちゃん嘘だろ? お、おい!」
お箸で持ち上げられたのは、俺達の中で一番ガタイが良くて腕っぷしが強かった服部(ふくべ)であった。
そんな服部が、小娘と言っても良い小柄な少女にお箸で掴まれて叫んでいる。
娘の指の力で挟まれたお箸を、動く両手で必死に引きはがそうと足掻いて。
だけども、服部がそんな努力をせずとも、お箸は勝手に開かれていった……。
「なあ、冗談だよなお嬢ちゃん? おい……おいおいおいッ! 嘘だろ? やめろ! や、やめ……熱ッ! 熱いぃッ‼ イギャアアァァッ!」
またけたたましい焼かれた音と、服部の絶叫が響く。
「ごめんなさい……本当にごめんね……熱いよね……」
自分でこんな酷い事をしたというのに、本当に申し訳なさそうに娘は謝っている。
潤わせた瞳を服部に向けて、心配そうな表情をして。
――だけども娘は助ける訳でもなく、ただ見つめていた。
服部が叫ぶたびに、「ごめんね」と謝罪をしながら。
「もうそろそろいいかなぁ。 よっと、おー良い感じに焼けてる♪」
服部に気を取られていると、いつの間にかポニーテールの娘が太野を箸で掴んで持ち上げていた。
「ぅ……ぁぁ……」
微かな太野の呻き声。 とても辛そうにしているが、とりあえずこいつが生きて無事である事に胸を撫でおろす。
七厘で焼かれ皮膚は無残に灼けてしまい、顔を背けたくなるほど見るも痛々しい姿となっているが……。
「うわぁ……ねえ見てよ茉由、すっごく痛そう。 うぅーうぅーて呻いてもいるし」
「うん、でも私達が美味しく食べるためだもん、仕方がないよ」
茉由と呼ばれたもう一人の娘も、七厘の上に載せていた部下の古橋をお箸で掴みあげる。
太野と同じようにこいつも生きてはいるが、悲惨な状態になっていた。
「それじゃあ明日香、あまり苦しませるのも可哀想だし食べてあげよっか」
「そだね、あ~んっ♪」
大口を開けて、太野を中へと迎え入れようとする明日香と呼ばれた娘。
だがしかし、太野を舌の上に載せた瞬間、勢いよく口から外に出した。
「――熱っつ! あつぅい‼ うぇぇ……ヒタやへほひは……(舌やけどした)」
「ちょっと大丈夫? 焼いたばかりなんだからフーフーして冷ましてから食べないと駄目だよ」
「ウエェ…………早く食べたくて焦っちゃった……」
真っ赤になった舌を出し、苦笑いをしている娘。
つまりはこの娘の舌を火傷させるほど、太野はあの七厘で焼かれて身体は高熱を帯びてしまっているという事なのだろう。
茉由という娘に箸で持たれている服部も、生きたまま丸焼きにされて……。
事実、二人の身体からは白い湯気が立ち昇っている。
モクモクと、如何に熱いのかと体現して……。
そのように太野の身体からモクモクと立ち昇る湯気が、一瞬にして吹き飛ばされた。
「フーッ! フーッ!」
「――ぅぅ……」
お箸で掴まれたまま唇の前に持ってこられ、吐息という暴風を浴びせられている太野。
ふーふーと足元から顔までを往復して、何度も何度も念入りに息を吹きかけられている。
掬ったラーメンを冷ましているかのように。
「んーっ」
「ぅぅっっ……」
息を何回か吹きかけた後、娘は何を思ったのか今度は唇を太野の身体にくっつけ始める。
顔や身体にチュッチュッと、まるでキスをしているかのように。
まあこれはキスではなく、ただ単に温度を測るためにしている行為だと思うが……。
「よし、このぐらいでいいかな」
思っていた通り、すぐにキスをしていた唇は離される。
そして娘はまた、涎に塗れた大口を開けて太野を迎え入れてしまうのだった。
あんな状態になってもまだ生きていた太野を、何ら躊躇いなく食べ物として……。
「んーっ♪ んーっ♪ ん? ねえ皆、口の中に入れたらめっちゃ出してくるよこれ」
「へ? 出してくるって何が?」
「リン、明日香が言ってるのは精子の事じゃない? ほら、香草の効果で小さくなってもこいつらずっと勃ちっぱなしじゃん。 だから我慢出来なくて出しちゃったんでしょ」
娘の会話を聞いて気付く。 俺も、他のやつらも勃起したままの状態だって事を。
下半身に感覚がなくて気付けなかった……。
「きっと、口の中に入れられて自分の最後を悟って出したのでしょうね。 文字通り最後の最後に子孫を残そうとして。 まあまったくの無駄ですけど」
「詩織ちゃん、無駄なんてそんな事はないよ。 外に出してくれたおかげでもっと小人が美味しくなるし。 あれ、でも小さくしたばかりのって美味しいのかな? 明日香どう?」
「いや、めっちゃ美味しいよ茉由。 普通の食用小人と比べると甘味が少ないけど、でもお肉にあってる味だと思う」
そう言ってから明日香と呼ばれたポニーテールの娘は、口元を動かしていく。
口の中には俺の部下である太野がいるというのに。
「ヒヒィィッ! ぃゃだッ! 柳生さんッ! 助けて! やぎゅッッ――」
――ブチャッ‼
「お、おい……太野? ――ふとのおおおぉぉッ!」
バキッ……ボリッ……グチッ……グチュ……
笑顔が良くて愛嬌のあった太野。 食べる事が好きな奴で憎める所なんて一つもなかった。
この旅行だってあいつが俺達の為に誘ってくれたようなもの。
そんな優しい太野を、上下の歯で咀嚼している無情な音が俺達の耳にまで響いてくる。
ああ、どこか夢ではないのかと思っていた。 今しているこの体験は、あまりに非現実的すぎてだ。
それにもう一つ、あの料理を食べてしまったせいで、脳の処理が上手く働いていないってのもあるのかもしれない。
……でも、
「うーんっ! もう最ッッ高! 噛んだらお肉の味と合わさってすっごく美味いっ❤」
娘の言葉と口元から垂れだしている赤い液体を見て、俺は嫌でもこれが現実なんだと思い知らされてしまう。
また、娘の口の中から聞こえていた太野の声が、一切聞こえなくなってしまった事によって……。
「うふふ、本当に美味しそう。 じゃあ次は君の番。 このお口の中で味わって食べてあげる。 バイバイ」
「ぅぅぁぁ……まてっ、待ってくれ……ぃゃ、ぃゃだぁぁぁぁ…………」
茉由と呼ばれた娘も古橋を開けた口の中へ入れてしまった。
とても軽い別れの言葉を伝えて。
ブチッ……ボリッ……グチッ……グチッ……
「……ふふふっ♪ このとろっとしたのが精液だったのかな? お肉にあって美味しい❤ でもやっぱり食用小人や自慰用性具の小人とはまた違った味と食感だね」
「へぇーそうなのですか? 小さくしたばかりのを食べるのは未知ですから楽しみです。 どんな味なんでしょう――はぁむっ!」
「美味しそう! りんも食べよっと」
「あたしのもそろそろ良いかな、しっかり焼けたみたいだし」
古橋を食べた娘を皮切りに、次々と部下を口の中に入れていく残った娘達。
どの娘もほっぺを緩ませ、ご満悦の表情をしている。
「……はふっ……はふっ……まだ熱かったです……。 しかしとても美味しいのですが、味はやはり素材の味が少し残っていますね。 ん? これは太ももですかね? 筋を噛むコリコリとした食感がとても良いです」
「んだねー、食感も楽しいしめっちゃ美味いっ♪」
「うんうんっ♪」
俺のはるか頭上で、部下を食べた娘達は思い思いに味の感想を言い合っている。
その娘の中で、ニコニコと笑顔を浮かべながら会話を聞いている小柄な娘。
あれほど服部に対して申し訳なさそうに謝っていたというのに、今はなんら感情を見せることなく、お箸で服部を裏返していた。
あたかも服部はもう、自分が食べる焼肉にすぎないと思っているかのように……。
「うぁぁ……やばい……やばいやばいやばいッ! お、お前ら、早く逃げるぞ!」
「いや、でも脚が――」
「馬鹿野郎! 地べたを這ってでも逃げるんだよッ!」
急いで俺達はこの場から離れようとする。
動かない脚でも、這って……這って逃げようと。
いつまでもこんな場所にいたら、次に焼肉として食べられるのは自分達の番だと思ったからだ。
……だけども当然に逃げられるわけもなく。
「ちょっと、あんたら何処にいくつもり?」
「ひいぃぃぃッ!」
ずいっと目の前にまで近づく娘の巨大な顔。
その顔の瞳は目を細め、俺達全員を凝視している。
「ねえ、逃げられるわけないでしょう? 馬鹿なの? しかもテーブルの上でそんな暴れるように動いてたらすぐに分かるに決まってるじゃん」
「うぁぁ……ぁぁ」
巨大な娘の食卓からは逃れられない。
確かに食卓に並べられた物が動いていれば、どうしても目がいって気付くもの。
多分だが、例え静かに動いたとしてもバレていただろう……。
俺から見てこの広大な場は、巨大な娘からは全てを一望できる食卓でしかないからだ。
「あんたらは食べるつもりにしてないから逃げる必要なんてないよ。 別の用途で使うつもりにしてるし」
「べ、別の用途……て」
「そ、別の用途。 てか、逃げたければ逃げてもいいけど? その代わり捕まえたらさっきのみたいに焼肉にして食べちゃうけどね」
あっけらかんと言うポニーテールの娘。
軽い言葉で喋ってはいるが、俺の顔は恐怖で引きつって身体が震える。
目の奥には、絶対にそうするという意思が込められていたからだ。
「まあ、食べられて死ぬわけじゃないからその “お皿の上” で大人しくしてなよ」
恐怖で震える俺に近づいてくる娘の唇。
唾液で濡れた唇で、俺の顔にちゅっと軽くキスをして離れていく。
「うぁぁ……ぁぁ……ぁ…………」
視界が黒く染まっていく。
どうやら俺は恐怖に耐えられなくなってしまい、また意識を失ってしまうようだ。
俺の顔にされたポニーテールの娘のキスが決め手となって……。
何故なら、キスをされる間際に見えた娘の口内の中には、何も存在していなかったからだ。
この中にいたはずの太野という部下が……どこにも……。
だから強く……強く、あいつはこのキスをした唇の中で、食べられてしまったのだと自覚して……。
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ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
彼女達が旅館の予約をした事によって、同時に招かれた者のお話でした。
お客様に提供するヒト品として('ω')
ちなみに今回のお話は茉由達が温泉に入る前の出来事となります。