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広域はんい from fanbox
広域はんい

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②縮小〇〇日記外伝 ~あの子に穿かれていた家族~

『え?』

『は? 女子?』


 映し出されたのは真っ白な室内の光景。

 その室内の中心には、六つの机が隙間なく並べられていて、座席にはこれまた白い服を着た男の子が座っていた。


「な、なにここ……」


 一目見て、異様だと思わされた。

 余分のある広い室内に何故か中心部に並べられた机の配置もそうだけども、ここは窓が一切ない密閉された空間だったから。

 男の子たちもそう。 白い服を着て、室内に溶け込んでいるよう。

 なんだろう……まるでここは “男の子を閉じ込めている箱庭” みたいだと思わされてしまう。

 

 だからか、私はなんとなく察してしまった。

 男の子たちに確認するまでもなく、異質な室内で分かってしまった。

 ああ、ここは私が予想をしていた通りの場所なんだろうって。

 それはお姉様も感じ取ったらしく、私の方を見て何も言葉にするなと首を横に振っていらした。


『え、えっと……僕達はここで先生が来るの待っているのですが、画面の向こうにいる君達も一緒に勉強をするためにこられたのでしょうか?』


 そんな中、男の子の一人が丁寧な口調で喋りかけてきた。

 画面の向こうにいると言ってるので、おそらくこちらと同じように私達の姿が映し出されているのだろう。


「いいえ、違いますよ。 私達は生徒としてではなく、先生として来させていただきました」

『え? 先生として⁉ 見た感じ、年齢は僕らと近そうなのに』


 質問をしてきた人の横に座っている別の男の子が、私達が勉強を教える先生という事に驚いている。


「はい、私の方も年齢が近い方々に教えると聞いておりましたので間違いはないと思います。 と、申し訳ございませんでした、自己紹介がまだでしたね。 私は黒百合女子中学園(くろゆりじょしなかがくえん)、三学年の『峯藤 心菜』と言います。 そして私の隣にいるのが――」

「わ、私は……お姉様と同じく、く……くろ……黒百合女子中学園、二学年の……『西園寺 澄玲』……でひゅ」


 お姉様の丁寧な挨拶に倣って私も挨拶をしたのだけど、一斉に向けられた男の子の視線に極度に緊張してしまい、また噛んでしまった。


「うぅ……うう」


 泣きそうになる。 お姉様や初対面の方々にこんな醜態をさらしてしまって。

 ……でも、すかさずお姉様はフォローをしてくれたのだった。


「今ご紹介した通り、私と澄玲は黒百合の中で育ってきているため、同年代の男の子と接した事があまりありません。 会う機会が無いといいますか、良くて年に二度ぐらいだけの他校交流の場――だけでしたので。 ですので緊張して言葉を詰まらせる事があると思いますが、どうか許していただければと」

『いえ、許すもなにも気にする事はないんじゃないかな? 僕らも緊張をして言葉を詰まらせたりするし。 ね、みんな』

『おう、そんな事で誰も笑わないから、そんな沈んだ顔をするなって澄玲ちゃん』

「――す、すみれちゃん⁉」


 とても気さくに私の名前を呼ぶ男の子。

 出会って早々、下の名前に ちゃん をつけて呼ばれるなんて事は始めての経験だったのでとても驚いた。

 でも悪い気はまったくしなかった。 私をちゃんつけして呼んだその男の子は、これまでに出会ってきた男の子とは違って、まったく邪気のない笑顔をしていたから。


『そんな事よりも黒百合女子中って、お嬢様学校で有名な――山の上にあるあそこ?』


 と言いますか、その男の子は “そんな事よりも” でお話を終えてしまった。

 本当に彼にとって私が恥ずかしく思っていた失態はどうでもいい事だったのだろう。

 

「え、えっと……そうですね、あなたが考えているその学園であってるかと思います」

『すっげえ……俺達とは住む世界が違いすぎるって……。 というか、通っていたクラスの女子とは違ってやっぱオーラがすげぇ。 二人共めちゃくちゃ美人だし』

「お、オーラ? それに美人って、今私達は褒められているのですよね? あ、ありがとうございます」

『うわ、仕草がすげぇ上品。 お嬢様って始めて見たけどすごいわ。 というと漫画みたいにもう婚約者とか決められていたり?』

「へ? 婚約者ですか? いえ、そういったのは特には……」


 あまりにグイグイと来るその男の子に、あの心菜お姉様が圧倒されている。

 前言撤回です。 やっぱり心菜お姉様を困らせているこの男の子は悪い気がします。

 私は緊張などはすっかり薄れ、代わりになんだかムカムカしてきました。

 ちょっと私、この方は苦手かもしれません。


『武史、困らせてるからそんなプライベートな質問はやめなよ』

『そうですよ、すみません峯藤さん……いえ、一学年上ですので峯藤先輩ですね。 彼も決して悪気があってこんな質問をしているわけじゃないので、どうか許してやってください』

「あ、はい……大丈夫です。 ですがあまりそういった質問は控えていただけたらと」

『はい、もちろん。 じゃあ次は僕達の方も自己紹介を――』

 

 そう言って一人一人席を立って名乗っていく男の子。

 今しがた話していた左側の席にいる男の子の順に、『加河 晋』『加河 啓介』、後私が苦手と感じた『加河 武史』と名乗っていった。

 続けて後ろの席に座っている三人の男の子も――こちらは何故か全員性を『稲垣』と名乗って。


「え? 名字が……」

『ああ、僕達は親がいなくて同じ施設で育ったんだ。 後ろの三人も育った場所は違うけども同様に。 だから名字は一緒なんだよ』

「ご、ごめんなさい!」


 無神経な事を口走ってしまったと思い謝る。

 でも、当の本人達は大して気にした様子もなく平然としていた。


『別に謝らなくてもいいよ、別に僕らは不幸だと思った事はないし、それにこの二人と兄弟のように育って幸せだったから。 後ろの三人もそうじゃない?』

『ああ、俺達もだ。 だからこそあの幸せだった場所を残したくて、俺達はここにきたんだしな』

「幸せだった場所を残したくて?」

『そうだ。 俺達がここにいる訳は――』


 身の上を話す男の子。 詳しくは言えないみたいだけど、彼らは自分達のいた場所を守るためにここにいるみたい。 働くためにここへと。


 素直にこの男の子たちを尊敬する。 何も不自由なく生きてきた私と違って苦労は絶対にしてきているはずなのに、それでも家族のために働こうと決意した事に。

 

「……すごい、私と同い年ぐらいなのに」

『へへっそうだろ! 澄玲ちゃん、俺をもっと褒めてよ』


 机から身を乗り出してアピールをしている武史君。

 私は彼の言葉を聞かないふりをしてそっぽ向いた。


『えっ、あれ? なんで? 澄玲ちゃんが俺に対してなんか冷たい』

「ふふ、珍しいです。 澄玲がそのような態度をとるなんて。 まあ、自己紹介も終わりましたので、本来の目的の勉強を始めましょうか」

『ちょ、ちょっと待ってくれよ! 澄玲ちゃん、俺の事を嫌ってないよね――』

「では問題を書いていきますので、そちらにある用紙に答えを記入してください。 澄玲、問題を作りますから記入の方をお願いします」

「はい、わかりました」


 心菜お姉様の言われた通りに計算問題を記入していく。 男の子は小学生の計算問題を出されて驚いていたけど、みんな静かに授業を受けていた。


 こうして始まったお勉強。

 男の子に対して苦手意識はあるけども、お姉様がフォローしてくれたおかげでこの日は無事に終える事ができたのでした。


 ………………

 …………

 ……



「お勉強は終わったみたいね」


 プツリとモニターの画面が消えてから聞こえてくる大音声。

 これはスピーカーからではなく、直に僕らの頭上――天井のその向こう側から聞こえてくる。


 ――ガコッ!

  ――ズリリッ‼

「ゎ……ぁぁ……」

 

 音のした天井へと見上げていた僕ら。 そこからつんざく音が鳴ったと同時に、天井だけが持ち上がっていく。

 

「お疲れ様、しっかりお勉強をしたかしら?」


 すっかり無くなってしまった天井の先から、僕らを見下ろし覗いている巨大な顔。

 手にはこの室内の天井を持った涼子お姉さんが、薄く微笑んで悠然と眺めていた。


「うわぁあぁッ!」


 クスリと薄く微笑む涼子お姉さんは、少し広げた手の平をこちらに向けて、徐に手を室内の中へと入れてくる。 ……僕らを物のように掴むために。


 ――そう、僕らはドアからじゃなく、お姉さんの手で持たれてこの室内の中へ入れられたんだ。

 この中で勉強をしていなさいと言われて。


 だから今、その逆の事が起きてる。

 あたかもこの室内に置いた人形を回収するかのように、一人づつ丁寧に指先で持たれて。


「おわあぁぁぁぁッ!」


 ああ、気付けば僕が最後の一人になっていた。

 見ればお姉さんの左の手の平の上に掴まれた皆が乗っている。


 ――次は僕の番。

 それが分かっているから、僕は皆みたいに喚き散らかさず大人しく待っていた。

 

 ゴゴゴゴォォォッ!

 次の獲物を捕まえるが如く迫ってくる手の平は怖くて怖くてたまらなかったけど、どうせ、巨人の涼子お姉さんの手から逃れられるわけがないんだから。



 ………………

 …………

 ……


「お腹が空きましたね……啓介」

「そうだね晋、今日の朝から何も飲み食いしてないからね……」


 勉強が終わったその日の夜。

 ここは涼子お姉さんの住む部屋のリビング。

 手の平に乗せられた僕らは、そのリビングの部屋の隅にある机の上にいた。

 子供が遊ぶような小さな玩具の家の中に、あたかも住人として仕舞われて。


 グウゥゥ~とお腹が鳴る。

 先ほどまで涼子お姉さんが僕らに構わず一人で夜ご飯を食べていたから、空腹に拍車がかって限界が近い。


「おい啓介、晋、せっかく忘れようと頑張ってるのに飯の話はやめてくれよ……」


 ベッドに寝転がっていた武史は僕らの話を聞いていたらしく、むくりと起き上がって怒る。


「仕方ないじゃないですか、部屋の中にまだお姉さんが食べた夜ご飯の匂いが漂っているんですから」


 僕らがいるこの玩具の家は天井や壁が吹き抜けになっている。

 つまり香ってくる匂いは防ぎようがないため、お姉さんが食べた料理の残臭が鼻に纏わりついて一向に離れてくれない。


 近所から香ってくる焼肉の匂いやカレーの匂い。

 あれと同じで、お腹が空いていればいるほど食べたくなってくる。


 ああ、たまらないよ……。

 絶賛お腹が空いている僕らからすれば、料理の残臭であるこの匂いは地獄だよ。


「ですが僕達はもう、人間の食事は食べる事ができないの……ですよね……」

「だなぁ今日の朝、実際にお姉さんが食ってるパンクズを食べさせられて、死にそうな思いをしたしな」


 人間の食べ物は食べられないと言われてもちろん信じられなかった僕ら。

 それを証明するかのようにパンクズを渡されて食べたのだけど、あまりにまずくて全員ゲーゲーと吐いてしまった。


 その後に、透明な器の中に入れた涼子お姉さんの涎を無理やり飲まされたんだ。

 もう僕らは女の人の体液でしか飲み食いは出来ないと言われて。


「はぁ……女性の体液を恵んでもらわないと生きてはいけない僕達って……いったい何なんでしょうね……」


 遠くの方で聞こえるザアァァと流れる水の音。

 お姉さんがシャワーを浴びている音を聞きながら、僕も心の中で晋に同意する。

 人形のように小さな体となり、女の人の体液を飲み食いする存在になった僕らは、ほんと何だろうって……。


 ザアアアアア…………

 キュッ! キュッ!

 シャワーを浴びていた水の音が止んだ。

 それから少しの時間が経ち、脱衣所らしきドアを開けてお姉さんが出てきた。

 身体にバスタオル一枚だけ巻いた姿で。

②縮小〇〇日記外伝 ~あの子に穿かれていた家族~

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