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ノロウィルスとお母さんの優しさ後日談小説

こちらの小説は、https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=23422537の後日談です。







 翌朝、沙織は母親に連れられて近くの総合病院へやって来ていた。昨晩の激しい腹痛と嘔吐の後も、体調が優れない状態が続いており、母親が心配して予約を取ってくれたのだ。


 待合室は多くの患者で賑わっていたが、どこか静かな空気が漂っていた。沙織は薄いブルーの椅子に腰を掛け、母親の隣で静かに順番を待っていた。窓から差し込む朝の光が眩しく感じられる。沙織はまだ少しぼんやりしていて、体がだるく感じた。


「お腹、まだ痛い?」


 母親が心配そうに尋ねる。沙織は小さく頷いた。


「うん……。でも昨日よりは少しマシ……」


 そう言いながらも、実際には違和感がまだ残っている。腹部の奥にじんわりとした痛みがあり、不安な気持ちが胸をよぎる。

 その時だった。お腹の中が急に動き出したような感覚があり、鈍い痛みが波のように押し寄せてきた。


「……っ!」


 沙織は反射的にお腹を押さえた。顔に汗が滲むのを感じ、体が緊張する。


「どうしたの?また痛いの?」


 母親が慌てて声をかける。沙織は息を詰めながら、痛みをこらえて頷いた。


「……トイレ……行ってくる……」


 母親が心配そうな顔をするのを横目に、沙織は立ち上がった。痛みに耐えながら廊下の奥にあるトイレを目指す。足取りは重く、痛みが強まるたびに立ち止まりそうになった。

 病院のトイレは清潔で、白いタイルが光を反射して明るい。沙織は個室に飛び込むと、ドアを閉める間もなく便座に座り込んだ。


「はぁ……」


 冷たい便座の感触が背中を駆け抜ける。お腹の中で渦巻いていたものが一気に解放され、水のような下痢の音が便器の中に響いた。


 ブビュビュビュッブリュリュリュ!ビチュチチュチチチチッチュ!


 沙織は顔を歪めながら両手でお腹を押さえ、深呼吸を繰り返した。


「……まだ……」

 ブビュビュビュッブリュリュリュ!ビチュチチュチチチチッチュ!ビュルルルル!


 吐息交じりにそう呟く。痛みは波のように強弱を繰り返し、汗が額を伝う。沙織は目を閉じて耐えた。


(もう、こんなの嫌だ……。いつまで続くの……?)


 不安と情けなさが押し寄せ、思わず涙が浮かぶ。沙織は何度も深呼吸をしながら、腹痛が少しでも和らぐのを待った。

 

 ようやく腹痛が落ち着いてきた頃、個室の外から母親の声が聞こえてきた。


「沙織、大丈夫?入ってもいい?」


 沙織は声を震わせながら答えた。


「……大丈夫、もう少ししたら出るから……」


 母親はそれ以上追及することなく、「分かったわ」とだけ答える。その優しさが嬉しくて、沙織は涙をこぼしそうになった。


 個室の中で数分休み、ようやく立ち上がることができた沙織は、手洗い場に向かいながら鏡に映る自分の顔を見た。少し青白い顔に情けない気持ちが湧くが、母親の存在を思い出して胸が温かくなった。


 トイレを出ると、母親が廊下で心配そうに待っていた。


「大丈夫だった?」


 沙織は小さく頷き、「ごめん……」と呟いた。母親は何も言わずに沙織の手を握った。その手の温かさに、沙織はほっとした。


 数十分後、順番が来て診察室に入ると、沙織の症状を聞いた医師はすぐにノロウイルスの可能性を指摘した。検査を経て、やはりノロウイルスが原因であることが確定した。


「今は安静にして、しっかり水分を取ってくださいね。お薬を出しておきます」


 医師の言葉に母親は頷き、沙織の肩を優しく撫でた。


 *


 診察が終わり、薬局で処方された薬を受け取った沙織と母親は、病院の出口に向かっていた。ホッとした気持ちと少しの疲れが沙織の体にのしかかる。だが、沙織はその安堵の瞬間を長く味わうことができなかった。


「……また……」


 沙織は突然立ち止まり、顔をしかめた。腹部に鈍い痛みが走り、次第にそれが波のように広がっていく。お腹の中で何かが押し寄せる感覚に、彼女の全身が緊張した。


「沙織?」


 母親が振り返り、心配そうな声を掛けた。沙織は顔を真っ赤にしながらうつむいた。


「またお腹痛くなってきた……トイレ……」


 そう言い終わるや否や、沙織は病院の待合室に戻る方向へ急いで歩き始めた。先ほど診察を受けたばかりの場所に戻るのは気恥ずかしかったが、それどころではない。汗が額を伝い、足取りはどんどん速くなる


 再び病院のトイレに駆け込んだ沙織は、個室のドアを閉めると同時に便座に座り込んだ。息を整える暇もなく、再び激しい下痢が沙織を襲った。


「……まただ…本当に嫌だ……」

 

ブビュビュビュッブリュリュリュ!ビチュチチュチチチチッチュ!


 沙織は顔を覆った。冷たい便座の感触が背中を貫くように感じられ、何もかもが嫌になりそうだった。腹痛と共に、体が自分の意思に反して動くような感覚が繰り返される。水のような音が便器の中に響き、沙織の頬が熱くなる。


(もういい加減にして……)


 泣きそうになりながらも、沙織はこらえた。昨日の公園のトイレでの出来事を思い出し、また母親に心配をかけてしまう自分が情けなかった。

 ようやく痛みが和らいできた沙織は、深呼吸をして体を整えた。立ち上がり、個室を出て手を洗うと、鏡に映る自分の顔が少し青白いのが気になった。


トイレを出ると、廊下の壁にもたれかかるようにして待っていた母親の姿が目に入る。


「沙織、大丈夫?」


母親は心配そうに尋ねながら、沙織の前に立った。沙織は頷きながら、小さな声で「何度もごめん」と呟いた。


 *


 病院を出た帰り道、沙織は母親の隣を歩きながらふと口を開いた。


「お母さん……ずっと迷惑かけてばっかでごめん」


 母親は驚いたように沙織を見た後、優しく微笑んだ。


「迷惑なんて思ってないわよ。沙織が元気になるためなら、お母さんなんだってするんだから」


 その言葉に、沙織はまた涙が出そうになったが、ぐっとこらえた。


「ありがと」


 母親の手をそっと握ると、母親は沙織の手をしっかりと握り返した。その力強さに、沙織は改めて母親の大切さを感じた。




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