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揺れる心、動かない箱の中で 差分小説

 この作品は「揺れる心、動かない箱の中で」の差分小説です。



 


 朝、娘たちが学校へ向かい、夫も仕事に出た。家の中には母親である彼女ひとりだけが残された。


 陽の光が柔らかく差し込むリビングで、彼女は朝食の余韻を片付けながら、わずかな違和感を覚えた。

 彼女には年齢を感じさせない若々しさがあり、少し幼さの残る整った顔立ちは、夫からも「可愛い」とよく言われるものだった。そもそも年齢もまだ三十代前半であり、若くして長女栞南を産んだ。


「昨日の夕飯、ちょっと生焼けだったのかも……。あの子達大丈夫かな……?」


 冷蔵庫を開け、水を一杯飲んで深く息をつく。軽く家の掃除を済ませた後、ふわふわのソファに腰を下ろし、スマートフォンを手に取る。


 午前十時過ぎ。まだまだ一日が始まったばかりのはずなのに、なんとなく体がだるい。お腹も、さっきより重たくなっている気がした。


 なんとなく嫌な予感がする。


 彼女は小さく呻き、お腹にそっと手を当てた。掌越しにじんわりとした熱を感じる。そして、次の瞬間――


 ぎゅるるる……っ!


 内臓がひしゃげるような音が鳴り、お腹がきゅうっと縮こまる。


「あ……」


 反射的にお腹を押さえる。胃が絞られるような痛みがじわじわと広がり、下腹部へと波が押し寄せた。軽い違和感なんてものではない。明らかに異変が起きている。


「これ、ヤバいやつ……?」


 顔が引きつる。冷や汗が背中を流れた。


 腸が不規則に動くのを感じる。ぎゅるぎゅると捻じれるような蠕動(ぜんどう)が止まらない。身をよじるようにして痛みを耐えながら、彼女はリビングのソファから立ち上がる。


 トイレに……早く行かないと。


 足を踏み出そうとした瞬間、強烈な腹痛が突き上げた。


「う……っ!」


 思わずその場に屈み込む。胃の奥からせり上がる吐き気に、喉がひりつく。


 冷静にならなければ。


 意識を集中させて、一歩、また一歩と足を前に出す。しかし、その間にも腸は容赦なく動き続け、灼けつくような痛みが何度も押し寄せた。


 ようやくトイレのドアを押し開け、便座に腰を下ろした瞬間。


 ブボボッ、ビチャッ……!


 耐えきれず、勢いよく腹の中の苦しみが噴き出した。


「くっ……はぁ、はぁ……っ!」


 膝の上に腕を置き、肩を震わせる。額には玉のような汗が浮かんでいた。


 ぐるるるっ……きゅるる……っ!


 腸が断続的に蠕動し、そのたびに新たな波が押し寄せる。


「やっぱり昨日の……あの肉のせい……?お腹痛い」


 だが、考えている余裕もなく、再びお腹が痙攣する。


 ビチャブリュリュッ……!


 体の中のものが全て押し出されるような感覚に、彼女は涙目になりながら、なんとか息を整えた。

 どれくらいトイレにこもっていただろう。


 ようやく痛みが落ち着き、彼女はぐったりと便座にもたれかかった。体力を奪われ、立ち上がるのさえ億劫だった。


 ようやくトイレから出ると、部屋は朝のままの静けさを保っていた。


 ソファに戻ると、心なしか熱っぽさを感じる。額に手を当てると、やはり少し熱があるようだった。


「今日はもう、何もできないかも……」


 スマホを手に取り、にメッセージを送る。


『ちょっと体調悪いから、夕飯適当に買ってきて欲しい。お願い』


 送信ボタンを押した後、彼女は深く息を吐き、毛布を引き寄せた。


 しばらく休めば、少しは良くなるだろうか。


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