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バスの中 差分

 こちらの作品は、pixivに投稿している「バスの中」の差分小説です。

 本編を読んでからお楽しみください。


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 バスを降りた雫の足は、まるで地に足がついていないかのように、ふらふらとしていた。夕暮れのまだ少し肌寒い空気が、汗ばんだ背中に張り付いたセーラー服を、より一層冷たく感じさせた。バスの中に残してきた惨状が、脳裏から離れない。大きな茶色いシミが座席シートに広がっていた光景を思い出すたびに、心臓がどくどくと早く脈打った。

 

「……はぁ、はぁ……」

 

 漏れる息は、まだ少し熱い。バスの中では、窓が開いていたおかげで臭いは気にならなかったが、自分の体から発せられるかすかな異臭が、今も鼻腔をくすぐるような気がして、思わず鼻をすすった。誰も気づいていないはずだ。そう自分に言い聞かせても、背後から誰かに見られているような、言い知れぬ不安に襲われる。この道を通って家に帰るたびに、今日の出来事を思い出してしまうのではないか。そんな思いが、雫の心を締め付けた。

 家路を急ぐ雫の足取りは、先ほどバスを降りた時よりも、幾分か早まっていた。この場から一刻も早く逃げ去りたい。一歩一歩が重く、足がもつれそうになる。途中で何度か振り返り、後ろに誰もいないことを確認する。夕方の住宅街は、子供たちの声もまばらで、ひどく静かだった。その静寂が、かえって雫の不安を募らせる。

 

「……っ」

 

 下腹部に、再び鈍く、重たい痛みが周期的に襲い始めた。バスの中で出し尽くしたはずなのに、なぜ?まだ家までは、数分の距離がある。このまま、何事もなく家にたどり着けるだろうか。嫌な予感が、全身を駆け巡った。

 

 ギュルルルル……。

 

 お腹が、嫌な音を立てて鳴った。さっきから聞こえる、お腹の不穏な響きは、もう何度目になるだろう。張り詰めた沈黙の中で、自分だけが別の世界に置き去りにされているような感覚。冷や汗が、再び背中にじわりと滲む。

 

(だめ……また来た……っ)

 

 痛みの波が来るたびに、胃のあたりから下へと、不快なものが押し寄せてくるような感覚に襲われた。全身の力が抜けてしまいそうなほど、身体が熱い。なのに、手足の指先は冷え切って、細かく震えている。もう、思考回路はまともに働かない。一秒一秒が、永遠のように長く感じられた。

 家が目の前に見えてきた。玄関の灯りが、ぼんやりと雫を照らしている。


 (あと、少し……あと少しだけ……!)

 

 最後の力を振り絞るように、雫は半ば駆け足で玄関へと向かった。早く、早く、自分の家のトイレに。その一心だった。家のドアノブを掴む手が、脂汗で滑る。

 キュー、と胃のあたりから不快な音が響き、粘り気のある便意が、今度は容赦なく雫の腸を締め上げる。もう、我慢の限界を超えようとしているのがわかる。脂汗が再び額ににじみ、身体は本能的にくの字に折れ曲がろうとする。

 勢いよくドアを開け、靴を乱雑に脱ぎ、雫は家の中に飛び込んだ。廊下を走り抜ける足音は、きっと家族にも聞こえているだろう。だが、今はそんなことを気にしている余裕はない。ただひたすらに、トイレへと向かう。


 「ああ、もう……!!」


 ぷう。

 

 ごく微かな、けれどはっきりと、空気が漏れるような音がした。その直後、お尻の下で、温かい感触が広がるのが分かった。

 

「……っ」

 

 一瞬、思考が停止する。

 

「だめ、だめ……っ」

 

 羞恥と絶望が入り混じった感情が、雫の心を打ち砕いた。だが、もう止まらない。トイレのドアが、目の前にある。

 勢いよく扉を開け、中に飛び込む。鍵を閉める暇さえ惜しく、半ばパニック状態で紺色のスカートを下ろし、白いジュニアショーツをずり下ろした。冷たい便座が尻に触れた。その瞬間、たがが外れたように、強烈な圧力が雫の下腹部から解放された。

 

 ブビュルルルルルブビビビビビチャーーッ!! ブリーーッ!!

 

 尋常ではない轟音を立てて、水状の便が勢いよく噴射された。まるで水道の蛇口を全開にしたかのような、とめどない水の塊。便器の底に叩きつけられ、跳ね返った茶色い飛沫が、周囲の壁や床、そして便器の側面まで容赦なく飛び散った。

 

「っく、ぅううううっ……!!」

 

 絞り出すような呻き声が、狭い空間に響き渡る。一度の噴射では終わらない。雫のお腹は、冷え切った外気によって完全に機能を失っていた。身体の内側から、熱いものがこみ上げてくる感覚。

 

 ブシャアアアアアアッ!! ブシャビュビシャーーーーッ! ビュルッビシャビュルルルビィィッ! ブシャッビィィッ!

 ビュブブビチチチチチチチチチチビュリーーーーーーーーーーーッ!! ブビュルルルルビチィビチビチッ!! ビチャァァッ!

 

 破裂音にも似た激しい水便が、立て続けに噴き出す。トイレの外にまで、その不快な音が響いているのではないかという恐怖が、雫の意識を朦朧とさせた。便器は、すでに茶色い水たまりと化した雫の排泄物で満たされ、その上から次々と液体が降り注ぐ。床は、汚れていくどころか、泥沼のように茶色い飛沫が広がり続けていた。

 

(もう……とまって……お腹痛い)

 

 背中には脂汗が流れ、目には生理的な涙がにじむ。排泄は、まだ終わらない。

 

 ブピッビシャビシャアアッ!! ビュルッビューーーーービュルルルルビシャアアッ! ビチチチチチチチチチチチチチチチビュリリビチーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!! ブビビビビチブリーーーッ!ブリュリュリュ!ブチュッ!

 

 しばらくして、ようやく波が引くように勢いが弱まった。ぐったりと力を失い、震える体でゆっくりと立ち上がる。

 便器の中は茶色い液体で満たされ、側面や前の方には無数の茶色い飛沫が飛び散っていた。床もまた、ひどい有様だった。

 

「ティッシュ……」

 

 残りのトイレットペーパーは、あとほんのわずか。それを使い切り、さらに持っていた手持ちのティッシュも全て使って、何とか汚れた尻を拭き綺麗にする。だが、便器の側面や床に飛び散った茶色い飛沫をどうすることもできなかった。水を流しても、その汚染はまるで呪いのようにこびりついて、落ちようとしなかった。

 

(……どうしよう)


 絶望的な気持ちが雫を包み込んだ。この惨状を、一体どうすればいいのだろう。母親に気づかれたら、どう説明すればいいのか。今日のバスの中の出来事も、そして今のこの惨劇も、誰にも言えない秘密として、雫の心に重くのしかかった。もう、ただこの悪夢が終わってほしい。そう、強く願うばかりだった。


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