※文章が途中で途切れていたため、途切れていた後半部を「後編」として掲載いたしました。不具合がございましたことをお詫び申し上げます。 15.皇帝との謁見(前編) 帝都カールスクルーナは、三方を山々の囲まれた盆地に位置する大都市である。古くは、カールスクルーナ王国の王都として栄え、同王国が諸国を併合し興隆を成し遂げると、帝国の首都してさらに発展するようになった。カールスクルーナ王国は、現在も形式上は存続し、旧王都の城「カールスクルーナ城」には王国の政府がそのまま置かれている。君主は帝国紀が就く慣わしになっていた。つまり、エリルは皇帝紀になると、自動的に「カールスクルーナ王国女王」に就任する。「帝国王都」と呼ばれる由縁がここにある。つまり、カールスクルーナの都は「王都」であり、「帝都」でもあるのだ。 そして、この盆地の奥、王都郊外の小山、その上にそびえ立つのが白亜の巨城「カルス城」だった。ここが帝国の本拠地、皇帝ファドゥーツⅠ世の居城であり、世界の中心であった。 エリルを乗せた宮廷儀装馬車一行は、王都カールスクルーナの街中を走り抜け、皇帝の待つカルス城を目指し進んでいく。王都では、皇帝紀に迎えられる王女エリルを臣民が勧化して待ち受け、馬車が通ると、市民から盛大な歓声が寄せられていたが、オイリーの責めに屈したエリルは、深い眠りについていた。皇帝の座(ま)す皇城・カルス城内迎賓館への到着は日の入り前の夕方過ぎだった。 「んん・・・・」 ふわふわの感触のなかで、目を醒ますエリル。ほんわりとした明るさのなかで、次第に室内がはっきりとしてくる。真っ白な部屋の中にある荘厳な大きなベッド、まるで貴族や王族が使うかのように、ベッドに使われている金具など金属類は全て黄金色に輝き、身を沈めるベッドはふわふわで心地よい感触が肌に伝ってくる。 ―― 帝都に着いたのかしら・・・ その時、股間からジワジワとした疼きが襲ってきた。 「うう・・・・」 オイリーによってエリルの肉穴に埋め込まれた固形ワックスボールによって生じる痒みだった。しかし、膣内になにか異物がある違和感はない。エリルは恐る恐る膣口に指を挿入して確かめる。 「ああ・・・・」 敏感な肉壁を指が刺激する。 ―― どうやら、入れられたボールは取り出されたみたい。オイリーが取ったのかしら? 秘部はジクジクと疼くものの、馬車に乗っていた時ほどではない。我慢できる程度のものだ。 ―― あとで、お風呂でお湯に浸かればなんとかなるりそう。 固形ワックスボールに含まれた掻剤痒(そうよう)促進剤による効果は徐々に弱くなってるようだ。 今のエリルは上下とも下着は身に着けていない。パールホワイトのスキニーなスリップのみを身に着けた姿でいる。馬車の中での激しい痒みと淫靡な刺激がまるで嘘のようだった。 ―― とりあえず、あの地獄の責めからは解放されたみたい。 エリルは「ほっ」として、一安心する。 豪華な寝室の出入口の大扉は開いたままで、隣の部屋の明かりがこちらに差し込んでいる。なにやら、足音や女性の話し声がするが、はっきりと聞き取れるほどではない。 ―― オイリーかしら・・・・。 エリルはベッドから起き上がると、大扉から隣の部屋の様子を窺がう。 「そのフォークは、違うのなかったかしら? 宝石がサファイヤの・・・」 「はい、探してみます。」 隣の部屋は応接間のようだ。ブラックのメイド服を着た女性が数人、部屋の中で食器のセッティングや、椅子やテーブルなどの応接セットの調整をしているらしい。一人の恰幅のいい中年女性と偶然に目が合う。 「これは、エリル様、お目覚めでございましたか。気づきませんで申し訳ございません。」 恰幅のよい中年女性はやさしく微笑んで、エリルに顔を向ける。恐らく、この中年女性が、この場を仕切っているのだろう。ブラックのメイド服の胸には帝国のエンブレムが金色の糸で刺繍が施されている。オイリーが身に着けていたものと同じだ。 「ええ、すっかり寝入ってしまったみたいで、もう帝都に着いたのかしら?」 ここが帝都なのか、先ず確かめる。 「はい、こちらは帝都カルス城内にある迎賓館でござます。今、お召し物をご用意いたします。寝室でお休みになっていてくださいませ。」 どうやら、帝都に、それもカルス城に着いている。それにしても、エルムポリ城から片時も離れずに着いてきた、オイリーの姿や声が聞こえないのが気になる。恰幅のよい中年女性はどこかの部屋からか、部屋着を持ってくると、衣服トレーに載せてエリルに差し出した。 「エリル様、こちらをお召しくださいませ。」 部屋着はくるぶしまで丈のある、上品なロングドレスだった。色はホワイトだ。 「ええ、あがりがとう」 エリルがお礼を口にしてトレーを受け取ると、恰幅のよい中年女性は、待ってましたと言わんばかりに口を開いて、自己紹介をはじめた。 「エリル様、申し遅れまして申し訳ございません。わたくしは、この度、エリル妃様のお身世話役を仰せつかりました。カミラと申します。」 「き、妃(きさき)!」 エリルは驚きに近い声で、叫ぶ。 ―― きさきはやめて! その話は、明日キッパリとお断りするのよ! 「ええ、そうなんですよ。皇帝陛下の妃様の身のお世話をさせていただけるなんて、私たちはなんと身に余るほどの幸せなのでしょうか!」 「わたしたち!」 エリルはカミラの口から次々に飛び出す言葉に耳を疑う。エリルは明日にでも皇帝との縁談を断ろうと思っているにもかかわらず。帝国では既にエリルが皇帝の妃となるのが既成事実化されつつあり、さまざまな準備が進められているのだ。 ―― これでは、もう帝国紀にされたようなものじゃないの・・・ エリルは皇帝のあまりにも卑劣で強引なやり方に怒りが沸々と湧いてきた。 それともうひとつ、カミラが言った言葉に引っかかるものがあった。 「わたしたち? いま、わたしたちって言わなかったかしら?」 ――「わたし”たち”」ってなによ。何人かいるわけ? 小さな王国のアクアマリン王国には、王女にまで専属の侍女はつかない。身のまわりのことは全てエリル自身でしていた。専属の侍女が付くなんて夢にも思っていなかったのだ。エリルは疑問をぶつけてみる。 「わたしたちって、何人か侍女の方がいるのかしら?」 カミラはまるで冗談でも聞いたようにきょとんとしている。 「あらまぁ、いやですわ、エリル様、お妃様の侍女はご身辺に携わる者で12人ほどおります。その他の雑用を担当する者を含めますと、24人がエリル様のお世話をさせていただくことになってござます。」 「に、24人ですって・・・・」 ―― 私ひとりのために、24人も使用人がいるわけ! 「はい左様でございます。後ほどご紹介させていただきます。今は、ノーラとロニヤをご紹介させていただきます。ノーラ、ロニヤ、こちらへ。」 カミラはそう言うと、会食室や執務室にいた2人をエリルの前に呼び寄せた。 「この2人が、姫様の身世話役、上位侍従職のノーラと、ロニヤになります。」 「ノーラでござます。」 「ロニヤでござます。」 2人はエリルにペコリとお辞儀をして挨拶をする。ノーラはボーイッシュなショートの赤毛で、スレンダーな女性。ロニヤは、肩までセミロングボブのブロンドで、肉感的なナイスボディーな女性。2人とも20代前半くらいの年頃だろうか。エリルよりは少し年上のお姉さんといったところだ。2人ともブラックを基調にしたスキニーなドレスを身に着け、胸には金色(こんじき)糸で刺繍された、帝国のエンブレムが輝いている。顔立ちはどちらも端正な面持ちで、美形と言える。 「あっ、はい、こちらこそよろしくお願いします。」 エリルは突然のことで呆気にとられながらも、丁寧に挨拶を返す。2人の醸し出す雰囲気に呑まれてしまったのだ。 「それでは、ドレッシングルームにどうぞ」 ボーイッシュな雰囲気のノーラがエリルを寝室横に接するドレッシングルームに案内する。ドレッシングルームは、衣服の脱衣やメイクができるように、鏡や化粧台が準備された部屋だ。迎賓館というだけあり、白を基調としながらも柱や壁には黄金の装飾具が使われ、一目見れば、その荘重さが伝わってくる。 エリルは自らロングドレスを取って身に着けようとすると、ノーラが微笑みながらやんわりと嗜(たしな)めた。 「エリル様、いけません。帝国の妃は、ご自身ではお召し物を身に纏わないのです。」 そう言って、スリップの肩ひもを外していく。エリルは黙って、なすがまま、スリップを脱がされていくのだが、他人に衣服、それも下着を外されることに違和感を感じる。 ―― ちょっと待ってよ、スリップを脱ぐのも、侍女の手を借りるわけ。これじゃ、お人形さんじゃない! エリルはあまりに窮屈な帝国のしきたりに、ため息が出てきた。 ―― こんなの絶対に耐えられないわ・・・。 白のロングドレスの着付けを終えると、応接間に戻る。ひとつ確かめたいことがあったからだ。そうオイリーのことである。目が覚めてからオイリーの姿を眼にしてない。声すら聞こえないのだ。一体オイリーはどこにいってしまったのか。 ―― オイリーの声が聞こえないわね。いつもは喜々として、意地悪しにくるのに・・・。 エリルは思い切ってノーラに聞いてみる。 「あの、オイリーはどこにいるのでしょう?」 「オイリー様ですか?」 「はい、エルムポリからいつも一緒だったものですから、その・・・、姿が見えなくて・・・」 エリルは、帝都に着いても、オイリーに卑わいなことをされるのではないかと恐れていた。 「ああ、オイリー様ですか。オイリー様は帝都までのご随行になります。このカルス城からは私たちが身のまわりのお世話をさせていただきますので、ご安心ください。」 「それでは、エルムポリに戻られたのですか?」 「いいえ、オイリー様はこのカルス城に居られますよ。城内で御用がございましてこちらにはお越しになっていません。エルムポリからずっとご一緒でございましたので、オイリー様がいらっしゃらないとお寂しいでしょうが。御心配なさらなくても、後ほど、お会いできると思います。」 ノーラはオイリーの姿が見えなくてエリルが心配していると勘違いしたのだろう。エリルが寂しさを感じていると思い、「じきに会える」と話すのだが・・・。実際に、エリルの気持ちはロニヤが思うようなものではないことは明らかだ。 ―― えっ、あの変態老婆は故郷に帰ったんじゃなかったの? まだ、帝都にいるわけ。また、会う機会があるみたいだけど、御免だわ。早く縁談の話を断って、アクアマリンに帰らないと・・・。 エリルは、オイリーがまだ帝都に居るのを知り、不快な気持ちになる。正直、目の前にいないだけでも、せいせいしている。「二度と会いたくない」というのが、正直な気持ちだった。逢えば、また、変質的な変態行為をさせるのは間違いなかった。一層、この部屋に限らず、エリルの前から一生涯、出入り禁止にしたいぐらいだ。 すると、肩までセミロングボブでブロンドのロニヤが、 「エリル様、ところで、今晩の夕食でござますが、明日は午餐会、晩餐会と続きます。夕餉は軽めにしておきましょうか?」 と聞いてきた。 ―― は? 午餐会、晩餐会? 「はい、宮殿「謁見の間」にて皇帝にお会いになられた後に、皇帝主催で宮廷内の帝国閣僚全員が出席する午餐会、夕方には帝国主催で帝都主要政財界の方々を招いた晩餐会が催されるます。いずれも、エリル妃様が主賓となります。それと・・・・」 エリルにとっては、初耳のことばかりだった。 「明日のご予定の件です。」 ロニヤが念を押すかのように話す。 エリルはロニヤの話を聞き、自分が大きな失敗をしたことに気づく。アクアマリン王国から、エリルは単身で帝国まで来た。それは家臣が随行してくれば、その身にどんな危険が待ち受けているかわからない。家臣の安全を考えて、あえて連れてこなかったのだ。だが、実際に、帝国に着くと、エリルには帝国と折衝する側近が誰もいなかった。エリルがすべての政治判断をしなければならないのだ。 そう、エリルはアクアマリン王国の第三王女という外国からの国賓にもかかわらず、帝国の侍女にすべて身のまわりを固められ、行動のすべてを帝国側に握られてしまっている。これが、アクアマリン王国側の家臣が一人でもついていれば、その者を介して帝国側と交渉もできようが、エリル一人の身では緩衝材になってくれる人は誰もいない。全てはエリルが相手の反応を見極めて、慎重に何事も進めていく他なかった。 ―― これでは、何もかも帝国の思うままだわ・・・。 「そ、そう、でも、私のために、午餐会や晩餐会のような大それた催しはしていただかなくても・・・」 皇帝との縁談を「謁見の儀」にて断る気になっているエリルにとって、午餐会や晩餐会は全く気が向かなかった。気が向かないというよりは、「謁見の儀」終了後、ただちにアクアマリン王国への帰途に着くつもりでいた。午餐会や晩餐会には、全く参加するつもりはないというのが本音だ。 「いえ、エリル妃様、これは皇帝陛下直々のお取り計らいでござます。帝国として、妃になられるエリル様を全国民とともに祝福させていただき、内外に歓迎の意を表す大切な儀式なのです。」 ―― 参ったわ。これじゃ、断りにくくなるじゃないのよ・・・。 「そ、そうなのですね。わたしは、こういうのは慣れていないものですから・・・、その緊張して・・・」 エリルは縁談を断るのだから、宴にはどんどんと腰が引けていく。しかも、「内外に歓迎の意を表す式典」なのだから、それをスキップすれば、両国の関係は取り返しのつかないほど深刻なダメージを受けるだろう。しかし、儀式を次々とこなして進めていけば、皇帝との婚姻はどんどん確定していってしまう。 「エリル妃様、私たちがしっかりサポート致します。どうぞご安心くださいませ。」 帝国がエリルに付けた侍女により、エリルの行動は完全にコントロールされてしまっていた。 ―― 明日の「謁見の儀」が勝負になるわね。 エリルは明日の皇帝との「謁見の儀」で、この問題を一気に片づける覚悟を決める。 この迎賓館は、オプシディア帝国が大帝国として世界に君臨するのを物語る。白亜の荘重な石造りの建築物はその芸術的価値も高く、後世に名を残すのは疑いようのない。名建築のひとつと言えた。 エリルは最重要の賓客が宿泊する「瑞祥の間」に通されていた。そのバルコニーに出て、夜空を眺めながら、遥か彼方のアクアマリン王国を思い浮かべ、また、恋人カールへの恋慕を募らせていた。 「カールは、今頃どうしているかしら? ちゃんと兵長を務めてるかしら? 婆(ばば)様はお元気でいるかしら、それに、父上も、母上も・・・」 そんなノスタルジアに耽っていると、背後から声がした。 「エリル妃様・・・・」 まだ、妃にもなっていないのに、また、なる気もないのに、「エリル妃」と呼ばれるのは、とても不愉快だ。その声は、ロニヤの声だった。どうやら、この侍女達は、執事の役も担っているらしい。エリルが振り向くと、 「お寛ぎのところ失礼いたします。いま、テクレンス様がお越しになられていますが、いかがいたしますしょうか?」 ロニヤは、畏(かしこ)まった仕草で、テクレンスの入室の可否を聞いてきた。 「テクレンス?」 急に、知らぬ人のなかで過ごすことになっていたエリルにとって、テクレンスは気心が知れている。安堵できる仲間の一人だ。早く、顔を見たくて仕方ない。 「お通して・・・」 「畏まりました、エリル妃様」 そう言って、去ろうとするロニヤにエリルは言葉を付け加える。 「ロニヤさん」 ロニヤは、エリルから「さん」付けで名前を呼ばれたことに驚く。 「エリル妃様ではなくて、エリル様で結構ですよ」 「はっ、はい、かしこまりました」 ロニヤは、呆気に取られ、そう言い返すのが精一杯だった。本来ならば、 「いえ、エリル様は妃様ですから、このままお呼びさせていただきます。また、ロニヤとそのままお呼びください」 というのが、侍女であろうが、エリルがあまりにも意外なことを口にしたので驚き、侍女としてのスマートな返答ができなかったのである。 それもそのはず、ファドゥーツⅠ世は残虐な皇帝として知られ、ミスでもすれば処刑されかない。そのような君主の妃になるエリルに失礼と思われるようなことはできるはずもなかった。そんな畏(かしこ)まる存在から気さくに名前で呼べと言われても、返答に窮するだろう。 エリルは急いでバルコニーから応接室に入ろうとすると、侍女長のカミラが目の前に立ち、行く手を阻む。 「まだでござます。エリル妃様。」 その顔には厳しさがある。 「テクレンス様は、アクアマリン王国からエリル妃様の護衛役でございます。側近ではございません。あくまで警護職の者です。あちらの執務室の出入口から室内に戻り、5分ほど経ってから、私と共に応接室にお入りくださいませ。」 恐らく、妃よりも身分の低い者への慣習なのだろう、身分の低い者は少し待たせ、執務室から侍女を伴って姿を現すのが、オプシディア帝国の慣わしなのだ。 ―― なんだか、面倒ね。 そう思いつつも、 ―― 「郷に入れば、郷に従え」ね。 カミラの指示に従って、バルコニーを移動し執務室に面する出入口から室内に戻った。カミラは5分きっかり経つと、 「それでは、参りましょう」 と、先に応接間に入っていき、テクレンスに話しかける。 「テクレンス様、お久しぶりでござます。エリル妃付侍女長を拝命いたしましたカミラにござます。以後、よろしくお願いいたします。」 テクレンスは、ソファーから立ち上がると一礼し、 「これはカミラ様、お久しぶりでござます。エリル妃様付侍女長の御就任の寿(ことほ)ぎが遅れ、失礼いたしました。こちらこそ、今後ともよろしく願う次第です。エリル妃様は、いかがお過ごしでしょうか?」 エリルはカミラの横に立っている。テクレンスの目の前にいるのと同様なのだが、テクレンスとカミラは堅苦しい挨拶をかわす。そして、 「エリル紀はいかがお過ごしでしょうか?」 と、わざわざカミラに聞いている。 ―― わたしは、カミラさんの横にいるじゃないの エリルはこの帝国の形式ばった、堅苦しいやり取りに反吐がでそうだった。 ―― こんな作法を毎日続けていくなんて、とてもじゃないけど耐えられないわ。これだけでも、縁談は破談よ、破談! そう心の中で呟いていると、 「さあ、エリル妃様、どうぞ。」 カミラからの許可が下りて、エリルはテクレンスに向かい合う。美しいブロンドの長髪、甘いマスク、ターコイズの麗しき瞳、そして帝国親衛隊制服が似合うスマートな身体。どれもがエリルの女心を魅了する。 ―― やっぱりテクレンス様は素敵ね。 「テクレンス様! 会いたかったわ!」 まるで友達のような感覚で話し掛けるエリル。そこはまだ17歳の無垢な少女なのだ。 「エリル妃様、私もエリル妃様のお身体をご心配しておりました。」 やっぱり、帝国の城内にいるせいか、テクレンスのエリルの呼び方も「エリル妃様」とぎこちないものがある。 そのやり取りを壁際でずっとカミラが聞く耳を立てている。 ―― カミラったら、やりにくいわね。気を利かして席を外してよ。私はテクレンス様と気兼ねなくお話したいのよ。 「ホセは元気かしら?」 「ええ、お陰様で元気に過ごしています。エリル妃様にお会いしたがっていましたよ」 「まぁ、わたしもホセに会いたいわ・・・」 その時、 「テクレンス様、明日はエリル妃さまにとってお大事な「謁見の儀式」がござます。そろそろ、この辺で切り上げていただきたく存じます。」 カミラは冷酷にもテクレンスとの会話を一瞬のやり取りで終えさせてしまった。 「そうですね。それでは、エリル妃様をよろしくお願いいたします。」 「もちろんでございます。それではエリル妃様、私はテクレンス様をお見送りしてきますので、エリル妃様は会食室で夕餉をお召し上がりくださいませ。」 そういうと、エリルを残してテクレンスを送りにいってしまった。せっかく、エリルの元を訪ねてきてくれたのに、会話はわずかしかできなかった。もし、このように、時間や接触する人などが厳しく管理されるのならば、帝国紀とはまるで籠の中の鳥と言える。 ―― そ、そんな、テクレンス様と話す自由さえ許されないの? エリルは帝国の不気味さをひしひしと感じ始めていた。 「夕餉が終わりましたら、明日のご予定とその心構えについて説明させていただきます。その後、夕刻の湯浴みのお時間となり、就寝となります。」 カミラは、エリルの細かいスケジュールを説明し、エリルの行動を細かく管理し始めていた。 「ええ、わかりました。」 エリルはそう答えるのが、背一杯だった。明日の「謁見の儀式」でこの縁談を断ることに一塁(いちるい)の望みをかける。こんなに厳格に管理されてしまっても、この従女達はエリルにとって救いに思える。オイリーは連日、連夜、エリルを変質的な行為で肉体を責め、その変態性は狂人かと思うほどであったが、この従女たちはあのような忌まわしい変態行為はしてこない。 ―― オイリーのあの変態行為から解放されただけでも救いよ。でも、どこに行ったのかしら・・・。 オイリーの行方に一抹の不安は感じるものの、「夕餉の支度ができた」との声がかかったことから、エリルは会食室に向かう。 この迎賓館の「瑞祥の間」には寝室をはじめ、執務室、応接室、会食室、浴室、会議室、図書室、ドレッシングルーム、化粧室などが設置されている。ちょっとした王国の宮殿と見間違うほど立派な建物で、異国の君主が滞在してもその任に十分堪えられるように設計されていた。 会食室に足を踏み入れると、30人は収容できるような大きな部屋になっていた。だだっ広い宴会場の雰囲気がする室内で、会話相手もなくたった独りで食事をするのは、なんとも寂しい。 「エリル妃様、こちらへ」 赤毛でボーイッシュなショートのノーラが、バルコニーに向けて手を差し出す。その先には、ランプスタンド、テーブル、イスが置かれ、夜空を観ながら夕餉ができるように演出されていた。 ―― なんて、きれいな夜空なのかしら・・・。 バルコニーから見上げる星輝く夜空の美しさに、エリルは見惚(みと)れた。 エリルが食事を摂ろうとすると、侍女長のカミラがテーブルの横に立ち、エリルに落ち着いたゆっくりとした口調で話しかける。 「エリル様、私たちはこれからずっとエリル様にお供いたします。」 テーブルの横に立ち、真っすぐとエリルを神妙な面持ちで見つめるカミラ。その目は真剣だ。 エリルは突然の申し出に困惑する。 ―― 「これからずっと」だなんて、私は明日にはこの縁談をお断りして、アクアマリン王国に帰るのに・・・。 「ずっとなのですか?」 エリルはカミラの言う「ずっと」の意味を図りかねて尋ねる。 「はい、これからずっとでござます。私たちはどのようなことがありましても、エリル様の身のお世話をさせていただきます。それがオプシディアの侍女としてのしきたりです。」 「しきたりなのですか?」 「はい、オプシディアでは一度王族様にお仕えしますと、その王族の方にずっと付き添うのが、古来からの伝統になっております。ですから、私どもはエリル妃様とこれからずっと一緒に過ごして参ります。」 どうやら、オプシディア帝国では一度仕えた王族には、生涯にわたって付き添っていくという慣わしがあるらしい。その気持ちはとてもありがたい。だが、エリルは明日帰国するつもりだ。そんな自分に対して忠誠を誓う、彼女らの気持ちを無碍にするようで心苦しかった。 「そうなのですね。わたくしは、こうしてお世話していただくのに慣れていないものですから・・・・」 エリルは皇帝との縁談を断ることについては、隠しておくことにする。 「エリル様は初めてこのオプシディアにお越しになったのですから、当然でござますよ。何かお困りのことがございましたら、ご遠慮なくお申し付けください。」 「ええ、そうするわ。ありがとう、カミラ。」 「いえ、どういたしまして。ごゆっくりお食事をなさってくださいませ。」 そう言うと、カミラは室内に戻っていった。明日の皇帝との謁見に緊張が高まる。アクアマリン王国からの船路にて、宰相代理のダムから「謁見の儀」についての式典作法については、予め講義を受けている。何度も式典時の挨拶の台詞も覚えたつもりだ。しかし、異国であるオプシディア帝国の式典は煩雑で、完全にマスターしたとは言い難い。 ―― 明日は、うまく式典をこなせるかしら・・・・。 エリルの心に一抹の不安がよぎった。 ダムは、この式典をこなすためにエリルにスケッチブックを作って式典作法をマスターできるようにしてくれていた。食事をしながら、エリルは式典のことで頭がいっぱいになった。 ―― 確か、謁見時は片足の膝を床に着けるのだったかしら、そして頭を下げて・・・。 もはや、食事どころの話ではなくなっていた。 ―― ああ、ダムのくれたスケッチブックで確認しないとわからないわ・・・。 ―― 執務室で少し予習しておいたほうがよさそうね。 エリルは早々に食事を切り上げ、明日の「謁見の儀」の予習をすることにして、バルコニーから執務室へと戻っていった。 ―― オイリーがいないとなんて平穏なのかしら・・・ 執務室でダムが作った式典説明のスケッチブックを見ながら、エリルは内心「ほっ」とする。エルムポリ城からさんざん卑わいな仕打ちでエリルを責め続けたオイリーも、今は姿を消し、落ち着いた日常に戻っていた。 肉体に性的な仕打ちをされることが、どんなに精神と肉体を破壊していくのか、今のエリルには十分に理解できた。そしてもう一つ、オイリーの責めによって明らかになったことがある。それは「奇跡の力」についてだ。 肉体や精神に快楽的な性的刺激を受け続け、集中力が途切れると「奇跡の力」が発動しなくなるというものだ。エリルは淫具で肉体を責められている時に、「奇跡の力」を発動しようとしても、快楽の波に肉体も精神も飲みこまれ、「奇跡の力」が潜在意識から消し飛んでしまうことに気づいた。どうやら「奇跡の力」は、性的な快楽に弱いらしいのだ。 ―― もしかしたら、性的な快楽は「奇跡の力」の弱点なのかもしれない・・・。 迎賓館「瑞祥の間」執務室は、まるで王府のような荘重なつくりだ。そこいらの国の王府執務室よりも遥かに贅沢な装飾と設備が整えられている。エリルがスケッチブックに眼を通していると、ロニヤが声をかけてきた。 「エリル妃様、そろそろ湯浴みのお時間になります。」 ―― 湯浴み? エルムポリ城では、エリルは侍女達に全身はおろか、性器、排泄器官までも隅々にわたり丹念に洗われてしまった。もう二度とあんな恥ずかしい目にあうのはまっぴら御免だ。 「あっ、そうね。わたし、一人で入るから、大丈夫よ」 侍女の手を借りないことをサラッと言って、侍女たちの全身洗浄から逃れようとするが、 「いえ、エリル妃様。私共がエリル様のお身体を清めさせていただきます。どうぞ、浴室へ。」 と言って、エルムポリ城と同様に身体の清めしようとする。 ―― じ、冗談じゃないわよ。性器や肛門まで侍女の手で洗われるなんて、絶対に嫌よ。 そこでエリルは身体の清めから逃れるために、次のようなことをロニヤに話して説得を試みる。 「ロニヤ、まだ私は正式に妃になった身ではないわ。アクアマリン王国の王女の身よ。他国の王女の御身に触れるのは、外交上いささか問題があると思うの。」 このエリルの指摘をロニヤは一瞬にして理解したらしい。さすがは帝国の侍女だ。つまり、アクアマリン王国第三王女のエリルは、現時点で外国からの国賓である。その国賓の身体に許可なく触れるとは、国賓の主権を侵害する深刻で重大な問題を引き起こす。ロニヤは事の重大性に気づくと、 「畏まりました。浴室は化粧室の隣になります。どうぞお寛ぎくださいませ。何かございましたら、お声がけください。」 と、言い残して去っていった。もし、それでも「お身体を清める」と言われたら、どうしようかハラハラしていたが、素直に引いてくれたので内心「ほっ」として胸をなでおろす。 ―― また、性器や肛門まで洗われたら、今度こそ、アクアマリンに帰ってカールのお嫁になれないわ。 やはりと言うべきか、それとももっともだと言うべきか、浴室は大浴場のごとく、大理石づくりの大風呂になっていた。 ―― この広さ、一体この浴場に何人入れるのよ。 恐らく、50人は軽く入れるほどの大理石造りの大風呂は、エリル一人で入るには広すぎた。しかし、侍女を伴って入るとすると、案外適切な広さなのかもしれない。例えば、異国の王女などが滞在するとなると、多数の侍女を伴って入るのだから、この浴場の広さもそれなりの理由があるのだろう。 オイリーから受けた肉体への責めダメージはほとんど消えてた。痒み薬の効果も、今は全くない。ただし、イアリング「乙女の幸せ」による「意識への烙印」は効果が表れてきているのか、その実感はなかった。確かに、オイリーによってイアリング「乙女の幸せ」を着けられた時の不気味な感覚は意識の中に残っている、ただし、イアリングを着けていないせいか、その効果を明確に実感することはできなかった。 ―― イアリング「乙女の幸せ」は、着けていなければ影響ないのかしら・・・。 エリルはイアリング「乙女の幸せ」の影響に不安を抱きながらも、肉体や精神を襲う支配力が消失していることから安堵する。しかし、エリルは気づいていないのだ。イアリング「乙女の幸せ」が着けられているとき、「奇跡の力」を封じ込められていることを・・・。 浴場を出ると脱衣室に今夜エリルが身に着ける下着とネグリジェがきちんと折りたたまれて置かれていた。どれもシンプルなデザインでありながら、絹などの高級な繊維が使われている上級品である。もちろん、オイリーが用意したような卑わいな下着ではない。エリルはそれを手に取ると、その肌触りの感触を確かめる。 ―― なんて、優しい肌触りなのかしら・・・。 女性を魅惑する肌触りや美しいデザインはアクアマリン王国では見ることができない、洗練されたものだった。純白のブラジャーとショーツを身に着ける。純白の下着を帝国が用意してきたのは「染まらぬ純白の身と心で妃として嫁げ」との意味あいがあるのか。それは深読みなのか、エリルは前者のように思えてならなかった。 ―― なんて着心地がいいのかしら・・・ 流石は帝国が国賓に用意した下着だけあり、着心地も十分満足できるものだ。エリルはネグリジェを身に着けると、寝室へと向かった。落ちつた雰囲気の寝室はホワイトを基調にして、室内の装飾具はゴールドで統一されていた。部屋の中心に置かれた、3人は横になれるような大きなベッドに腰をかける。 ―― まさか、あの忌々しいディルドは付いてないわよね。 ベッドのクッション部を手でさすってみるが、変な突起物はなさそうだ。 「エリル妃様、失礼いたします」 ロニヤがトレーを持って寝室に入ってきた。 「お休みの前に、少しこちらをお飲みになられてはいかがかと思いまして、お持ちいたしました。」 ロニヤが持ってきたトレーの上には、ワイングラスよりもやや大きいグラスに茶色い液体が入っていた。このグラスは「ブランデーグラス」というらしい。 「ブランデーでござます。緊張が和らぎ、寝つきがよくなるかと思いまして・・・。」 ロニヤは、明日の「謁見の儀」を前に、エリルが緊張して寝つけないのではないかと気を利かして、お酒を用意してきたのだ。 「ロニヤ、ありがとう。少しいただくわ。」 トレーからグラスを取り、ブランデーの香りを楽しむ。豊潤な香りの中に甘みを感じさせるなんとも心地よい香りが臭覚を満たしていく。 「こちらは、帝国内で生産されております、貴重なブランデーでござます。」 エリルは少し口にブランデーを運んでいく。口の中にまろやかで柔らかい感覚が広がり、後にアルコールの熱さが伝わってくる。繊細な味付けは、このブランデーが高級品であることを物語っている。 「艶のある繊細でデリケートなお味ですわね」 エリルがそう言うと、 「皇帝陛下様もお慶びになられるでしょう。こちらは皇帝陛下様から是非にとエリル様に贈られたものでござます。」 「えっ、皇帝陛下からですの?」 エリルは驚いだ。まさか皇帝直々にブランデーが贈られてくるとは考えてもいなかった。 「はい、そしてこちらが皇帝陛下様からの直々のお手紙になります。」 ロニヤは皇帝専用の封筒をエリルに差し出す。エリルがそれを受け取ると、 「どうぞ、お読みくださいませ」 と言って席を外しに寝室を去っていった。エリルは封を開け、皇帝からの手紙を読み始めた。 ****************************** エリル もうバルコニーから夜空を眺められただろうか? 夜空にはあまねく 限りない星々が煌めく。 この世界も同じく、 無数の人々が地に煌めいている。 エリル王女、貴女は、そんな夜空に輝く星のひとつ。 いや、一際美しくまばゆいばかりに輝く星。 今こうして、巡り逢えたのは、天の導きに他なし。 汝は、余の妃と定められし乙女。 永遠(とわ)の倖(さち)わいを与え賜(たまわ)ん 明日の「謁見の儀」にて、汝に見(まみ)えるのを楽しみにしている。 ファドゥーツⅠ世 ***************************** ―― な、なにこれ! ひょっとしてラブレターってヤツ? キモイわ、めちゃくちゃキモ過ぎる。これはナルよ、ナル以外に考えられないわ。皇帝はきっととんでもないナルなんだわ・・・ 「はあ・・・」 エリルはあまりのやりきれなさに、ため息が出てきた。 ―― このお酒を全部飲み干さないと、眠れそうにないわ・・・。 エリルはグラスの中のブランデーをすべて飲み干してから、酔いにまみれながら寝入った。 *************************** 「お手!」 ―― ん? 男の人の声。誰に言っているの? 「わからないのか! お手だ。」 ―― えっ、わたし? ビシャン! 鞭が打たれる音ともに、背中に激しい痛みが走る。 「あうっ・・・」 私は、四つん這いの姿勢から、急いでしゃがみ込み、チンチンの姿勢になり、左手を差し出す。 「違うだろ!」 ビシャーン 再び背中に鞭が打たれる。 「あうっ」 あまりの痛みに、悲痛な声を漏らす。 「声を出すな」 ビシャーン 再び背中に鞭が打たれ、激しい痛みが走る。 「ん・・・・・」 なんとか、声を押し殺し、声を出さないように踏ん張る。 「お手は、右だ。何度言えばわかるんだ。このクソ牝犬!」 私は、全裸で男の前でしゃがんだポーズをしている。 首には黒革の犬用首輪が嵌められている。 それがずっしりと重い。 それもそのはず、リードは鋼鉄製の鎖だからだ。 その鎖のリードを男は怒声とともに、ギュっと力強く男の方に引っ張る。 当然、首が引っ張られ身体は男の方に引き寄せられる。 「うっ・・・」 「ほら、姿勢を崩すんじゃない!」 再び背中に激しい鞭の痛みが走る。 「ん・・・・」 必死に声が出るのを抑え込む。 姿勢を正して、男の前でしゃがみ込み、背筋を伸ばす。 両脚は左右に大きく大股開きにする。 男はその姿勢を確認すると、 「もう一度、お手だ!」 私は、今度は右手を差し出す。 「よし、よくできた」 男は満面の笑顔を浮かべると、私の頭をナデナデしてくれた。 ―― うれしい・・・ そう心の中から思えた。 「チンチン」 男がそう言うと、 私は、両手を胸元まで上げ、両足を開いてチンチンの姿勢をする。 もちろん、股間は丸見えだ。 男は、股間の秘部に指を差し入れる。 グニュ 敏感な部分を触られ、全身に刺激が走る。 「あん・・・」 卑わいな喘ぎ声が漏れる。 男は今度は「声を漏らすな!」とは言わなかった。 「まだ、濡れが少ないな、少しディルドで運動するか?」 男はそう言うと、鎖のリードを引きながら歩きはじめる。 すぐにリードが私の首輪を引き、私は四つん這いになって歩きはじめた。 まさに、犬だ。 後ろから見れば、私の排泄器の肛門と生殖器の膣口は丸見えだろう。 人間とは思えないほどのはしたない恰好で、歩かされている。 でも、その私の中には、なにか満ち足りもので溢れていた。 幸福感、安心感、依存心、安らぎ、快楽、どれもが肉体と精神を満たしている。 「早く歩け!」 男がそう叫ぶと・・・ ********************** 朝陽が室内にさして、心地よい。 澄んだ爽やかな朝の訪れだった。 ―― んんん・・・・ ―― 朝? 目が覚めたの? さっきのは夢? また、あの夢・・・・。 エリルは、またあの夢を見た。今度は牝犬として躾けられている夢だ。 ―― なにあの夢は・・・。汚らわしい・・・。 自分が家畜として牝犬に貶められている夢からの目覚めは、後味が悪いものだった。 「ん?」 下半身に冷たさを感じる。 ―― まさか・・・ 股間の割れ目に付近に手を当てると、ショーツの感触が冷たく湿っている。 ―― 濡れている。 エリルはショックを受けた。夢とは言え、自分が牝犬として扱われている姿に、自分自身が興奮し欲情ていたからだ。 ―― そんな・・・・なぜ? エリルは思い悩む間もなく、すぐにベッドから起き上がると、自分がアクアマリン王国から持ってきた白のショーツに着替え、淫液で汚れたショーツは他者に見つからないように自分のトランクケースの中にしまった。 「これで、大丈夫。」 エリルは痴態を晒さないように入念に下着を隠すと、ネグリジェから部屋着用のホワイトのワンピースに着替え、「謁見の儀」の式典に備える。 「エリル妃様、もうお目覚めでございましたか?」 侍女長のカミラが寝室に顔を見せ、声をかけてきた。 「ええ、清々しい朝ですわね。」 エリルが笑顔で返すと、 「本当に、今日は雲ひとつない晴天となりましたね。神々様がエリル妃様を祝福しているのがよくわかります。それでは、『謁見の儀』式典の準備をさせていただきます。」 カミラはそう言うと、エリルをドレッシングルームに案内し、化粧台の前に座らせる。 「お化粧などにお時間がかかりますので、早速はじめさせていただきます。今、お紅茶をお持ちしますので、しばらくお待ちくださいませ。」 ―― カミラ達がオイリーのような変態じゃなくてよかったわ。 エリルはオプシディアの宮廷侍女達が、常識的な感覚を持っていることに安堵していた。 ―― いくらなんでも、オイリーのあれはないわよね。 ロニヤが他の侍女達を8人ほど引き連れて、ドレッシングルームにやってきた。そのうちの一人がエリルに紅茶を差し出す。 「お紅茶になります」 化粧台の上に置かれたティーカップは、相当な芸術的な価値のあるものなのだろう。カップには帝国の本拠カルス城の風景が、淡いブルーのモノトーンで描かれていた。 「ありがとう。」 エリルが笑顔でお礼を言うと、 「エリル妃様、軽食給仕のパルミエと言います。主に、お菓子やお飲み物のご用意を担当させています。パルミエは菓子の専門アカデミーを卒業した専門家です。」 ロニヤが、パルミエを紹介する。ブロンドのロングのソバージュに細長でキリリとした目が美貌さを一層引き立たせる美少女だ。齢はエリルよりも若干若いように見える。14歳くらいだろうか。 ―― えっ、軽食の担当までいるわけ・・・・。それも菓子のアカデミー卒業の専門家? 菓子のアカデミーって何よ? エリルは戸惑いながらも、挨拶の言葉をかける。 「パルミエさん、よろしくね」 エリルから笑顔と言葉をかけられると、 「ハイ、こちらこそ、よろしくお願いいたします。」 と、うれしそうな満面の微笑みを浮かべる。エリルに言葉をかけてもらったことが、本当に心から喜んでいるのがわかる。メイクは、髪型を整えたり、お化粧をしたり、ドレスを合わせたり、さまざまなボディーケアでかなりの時間が費やされていく。 例えば、爪を磨いたり、口腔内を洗浄したりと、8人の侍女達が入れ替わり立ち代わりで、エリルの身体を整えていくからだ。 「エリル妃様、ドレスはこちらのアクアマリン王国のロングドレスでよろしいでしょうか?」 アクアマリン王国で正装となる、身体にフィットするつくりのロングドレス。腰の両サイドには裾までの細いスリットのラインが入り、歩くたびに太ももやふくらはぎなどが、セクシーにチラ見えする。もちろん、王室にふさわしい純粋さを示す純白色だ。 「ええ、それでいいわ。」 侍女達はスキニーなスタイルのロングドレスをエリルに着せていく。上半身から腰までまるでレオタードのように身体にピッタリフィットするロングドレスは、エリルのボディーラインを余すところなくさらけ出し、女性が見ても魅惑的なエロティシズムを感じさせる。侍女の何人かは、エリルのその姿を見て生唾を飲んだくらいだ。 「イアリング『乙女の幸せ』はどうされますか?」 侍女の問いかけに一瞬エリルの表情が曇る。皇帝との「謁見の儀」では、「乙女の幸せ」をつけていくのがマナーだろう。しかし、「乙女の幸せ」の秘密を知るエリルにとっては着けるのは避けたかった。 「今日は、やめておくわ」 そう言って、「乙女の幸せ」の装着をパスする。もし、オイリーがいれば無理矢理にでも着けられていただろうと思うと、ゾッとして身震いした。 エリルが自国から持ってきたフォーマルなサンダルを吐こうとすると、 「エリル妃様、こちらをお召しくださいませ」 と言って、見慣れぬ靴を差し出した。 その形は奇妙で今まで目にしたこともないようなデザインなのだが、とても美しいシルエットをしていた。 「ヒールと称する女性用の履物でござます。」 侍女が説明する。なんでも、異国でつくられる靴で、各国の王族の間で大人気を博しているという。 「変わったデザインの靴ですわね。でも、美しいシルエットですわ。」 エリルは初めて目にするその曲線の美しいデザインにうっとりとする。 「はい、この靴は各国の王族や貴族の間でも大人気で、滅多に手に入れることができないほどでござます。」 説明を終えると、侍女はエリルの足にヒールを履かせていく。 つま先が細いそのヒールに足を入れると、しっかり足がホールドされて履き心地がとてもよい。どこれで知ったのか、サイズもピッタリだ。 「なんてピッタリとして履きやすいのでしょう」 エリルはそのヒールを一目で気に入った。 カミラが神妙な面持ちでエリルの前に来ると。 「そろそろ、宮殿に出発するお時間でござます。」 と告げる。 エリルの胸の内に緊張が高まっていく。迎賓館正面エントランスに行くと、既にエリルの侍女達が左右に列をなして整然として並び、見送ろうとしている。 エリルは侍女長のカミラ、ノーラ、ロニヤの3人を伴い、エントランス正面の馬車留めに待機している白亜の宮廷馬車に乗り込む。 宮廷御者が馬車の扉を開いくと、 「どうぞ」 と言い、深々と頭(こうべ)をさげると、エリルは白亜の宮廷馬車に乗り込んだ。 今、エリルがいる迎賓館から、皇帝本拠である皇帝宮殿までは、馬車でわず数分の距離だ。城内なのでそれほど時間はかからない。 エリルに続き、カミラ、ノーラ、ロニヤが付き人として馬車に乗り込む。彼女達3人は「謁見の間」には入室せず、別室で待機するという。 通常の外交使節団の場合、外務大臣、宰相代理、武官などが付きそうものだが、全ての随行者を拒んできたエリルには、アクアマリン王国の側近は誰もいなかった。エリルただ一人が皇帝に謁見することになる。 しばらくすると、荘厳な作りの宮殿が見えてくる。その正面エントランスの前には、国賓者用の赤い絨毯が敷かれ、左右には各5列の衛兵、その背後には左右各3列の音楽隊が整列しているのが見える。その赤絨毯の上には一人の紳士が直立不動で立ち目立つ。 ―― なんだか、すごいもてなしね。それにしても、あの紳士は誰かしら? 馬車は宮殿正面に敷かれた赤絨毯の前にゆっくりと止まる。 カミラが口を開く。 「エリル妃様、どうぞ赤い絨毯の上に降りて、あの男性の前までお進みください。あの男性は宰相のルムセンといいます。音楽がはじまりましたら、ルムセンとともにゆっくりと歩いて宮殿内にお進みくださいませ。後はルムセンが案内いたします。私たちはここまでになります。別室で式典が終わるのをお待ちしています。」 エリルは頷くと、馬車から降りてゆっくりと赤絨毯の上をルムセンに向かって進む。衛兵は全員敬礼し、音楽隊が左右から歓迎の曲を演奏し始める。随分とリズムのよい曲だ。赤絨毯の上を甘栗色のストレートロングに、スキニーなロングドレスの姿で歩くエリルの姿は一際目を引く。 ルムセンは正面から向かってくる美少女の姿に一瞬目を奪われようとしたが、冷徹な思考でそれを回避した。エリルが目の前に来ると、 「ようこそ、おいでくださいました。エリル様。私は宰相のルムセンと申します。以後、お見知りおきくださいませ。」 と言い、深々と頭を下げた。帝国の閣僚らしいスマートな立ち振る舞いだ。ルムセンは年齢は40代くらいの肩幅の広いしっかりとした筋肉質の体形で、髪はオールバックのロマンスグレーだ。歳の割にロマンスグレーなのが、なぜかかっこよく見える。 「エリルです。こちらこそお招きに預かり光栄でございます。」 エリルが挨拶を終えると、ルムセンは 「どうぞ、こちらへ」 と言って、宮殿へと続く赤絨毯の先を示した。エリルはルムセンと共にゆっくりとした足取りで宮殿内に向かっていく。 「昨夜はよくお眠りになられましたか?」 「ええ、素敵なお部屋をご用意していただきましたので、十分眠れました。それに、味わい深いお酒もいただきました。」 「快適にお過ごしいただいたようで安心いたしました。お酒はブランデーでございますね。」 「ええ、とてもやさしい味覚でした」 「あのブランデーの味は限られた土地でしかできないそうなんです。」 「まぁ、それは貴重なお酒をいただいしまい。申し訳ないですわ。」 「いえいえ、エリル様に召しあがっていただいて、皇帝陛下もきっとお慶びになるでしょう。」 2人は正面エントランスから長い回廊を通り、「謁見の間」入口の大扉の前に立つ。左右には衛兵が警護のために立ち、2人に敬礼をしている。 「それでは、『謁見の間』に入室いたします」 ルムセンがそう言うと、2人の衛兵は白亜の大扉を開き、室内が目に飛び込んでくる。 まるで、大ホールのように広々とした先に階段状の高台がある。そこに黄金の玉座が据えられている。 入室と同時に大きな拍手が2人にささげられる。 ―― この拍手すごいわ。 床の中央は赤い絨毯が敷かれ、左右はベージュの絨毯が敷かれている。 ベージュの絨毯左右側には既に先客がいて、中央の赤絨毯に向かって直立不動で立っている。 それらの人々が歓迎の拍手を送っていたのだ。 ―― ええと、拍手されても手を振らないでそのまま進むって、ダムが言っていたわよね。 エリルは拍手喝采の中を進んでいく。 左側は大きなガラス窓が壁になり、室内は明るい。高い天井からは大きなシャンデリアが無数に吊り下げられている。 ―― このホール、す、すごいわ。 その荘重な雰囲気にエリルは圧倒されかかっていた。