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土装番 from fanbox
土装番

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機械の侵食 3話 変化は知らないうちに 2/?

「こ、来ないで!!」  これまで奈穂に抱いていた嫌悪感は、全て恐怖に塗り替えられた。  逃げなければ。今すぐここから逃げなければ。殺されてしまうかもしれない。  分かっていても、腰が抜けた今、立ち上がってうまく走ることもできない。  一方、どう見ても重傷な奈穂は、フラフラと足を揺らしながらも、ゆっくりと階段を上り、柚希に近づいていった。  まるでゾンビが近づいてくるような不気味さ。距離が縮まる度、柚希の表情はどんどん青ざめていく。 「い、いやあっ!! 近づかないでったら!!」 「柚希さ……さサん……今、わタし、とってて、てもきモちいイですよォ……ほラ、ゆ、ゆゆ柚希さんも、いい一緒にわわわ、私……ぃぃぃ……」  柚希が一歩進むごとに、奈穂が二歩進むように、どんどん距離が縮められていく。  そしてとうとう、奈穂の手が柚希の綺麗な顔に触れた。  遠くからでは気づかなかったが、よく見ればその右手の指は少々いびつな方向に曲がっており、人差し指の皮膚に切れ目が生じている。  直に触れられると、人間と同程度なはずなのにどこか作り物のような温かさが伝わった。 「ひっ……」 「柚希さ、ササ……ん……わた、私……ぃ……このからこの身体にな、ってかラ、疲れ、なななナったくなくなっタんデすよ!! 妊娠もじじ、自由にしなくても、いイようにな、になっ、タタタ、し、何より、とっ……てて、ても感じる感じるようななっタんでス!!」 「そ、そう……なの…………」  奈穂が喋る度、露出した機構部分から機械的な動作音がきゅい、がが、とはっきりと聞こえてくる。  眼球奥のレンズが、カメラの如く何度も収縮を繰り返し、じっと柚希の姿を捉えて離さない。  改めて至近距離で触れ合うと、奈穂の身体からは吹きかけられた香水以外の体臭が一切感じられない。  未知なる存在への恐怖が全身を支配し、柚希はただただ脊髄反射的に言葉を出すしか出来なかった。  そんな彼女に、奈穂は絡め取るように背中に腕を回し、身体をくっつけ抱き締めるように密着しだした。 「あ……あんたって…………元々機械……じゃないんだ……ね…………」 「はい! そそ、そうな、そうナんですよ! この身体、このかららら、カラだ、機械で、きき、機械で……と、とて……も……あっ……便利で……きもちいいんです…………」  一方的に喋り続けている間、奈穂の首元からかちゃかちゃと、細かく金属が曲がりぶつかるような音が聞こえてくる。  柚希はそこに視線を移すと、先程よりも首元の断裂具合が明らかに弱まっているように見える。  自動修復機能でも備わっているのだろうか。奈穂の声は先程よりも人間らしく正常なそれへと戻りつつあるようだった。  しかしその分、人間らしさがある程度取り戻されたことで、奈穂が発情している様子がよりはっきりと感じられた。  細かな動作も、まるで指名客に性接待をしているかのよう。  そして、ひたすら頭の整理が追いつかない時間が続いていたその時、ゆっくりと自然な動作で唇を重ねてきた。 「ちょっ……なっ……あたし、そんな趣味はな…………」 「大丈夫で、すよ……私もそうだった……んで、すけど……とっても気持ちいいです、し……柚希さんも……変われ、ますから……」 「嫌よ!! 離し……んんーー!!」  柚希は純粋な拒絶と同時に、本能的な恐怖を全身に感じ、なんとか腕を振り解いて逃げようとする。  だが、破損しているにも関わらず、奈穂の力は屈強な男性のそれかそれ以上と感じる程に異常に強かった。  腕がびくともせず、固定されたように動けない。  逃げられないならばと、大声を叫ぼうとしたが、判断が絶妙に遅かった。  奈穂からの強引なキスによって、その叫びは無理矢理封じられてしまった。  当然の行為かの如く人工唾液に塗れた舌を挿れ、これで何人もの男を魅力してきたであろう舌使いで官能的なディープキスを始めた。  人の形をした相手との体液交換のはずなのに、その液体からは一切の味を感じなかった。   「んんー! ん! む……んん……っ…………」    口内で抵抗しようとしても、舌の動作ですら太刀打ちできない。彼女はこんなにテクニシャンだっただろうか。  その上、そもそもの力で全く抗えない上に、奈穂の舌や唇、皮膚や肢体、乳房の感触が異常なくらいに心地良い。  思わず、ずっと触っていたくなるような、柔らかく気持ちいい肌触り。  それが蟻の一穴となったのか、気を許した瞬間に、柚希は奈穂のキスを受け入れ始めた。   「んん……柚希さ……ん…………私……と、てて、も気持ちい……いいい……このか、かか、身体で……キスがこんな、ににnきもちいなんて、初めて知りま、まました……んぅ……」 「ん……あっ…………んぅ…………ほんあ……ひゃへ……へふ…………はんへ…………ん……っ…………」  奈穂の舌が触れる度、触れ合う度、これまで感じたことのない不思議な心地よさが脳に伝わってくる。  これまで接待してきたどんな客よりも、蕩けてしまいそうなくらい気持ちがいい。たった今与えられている快楽の前には、ずっと抱いていた嫌悪感が一瞬解けてしまっていた。  キスの最中でかつ、なぜか口が塞がっているのにはっきりと喋れているおかしさも、現状では些細なこととすら思えそうだった。  しかしこれ以上続けては何かがおかしくなりそう。快楽の流れに乗ってしまいそうだった柚希は、正気に戻って奈穂から身体を話そうとした。  だが次の瞬間、柚希の頭の中に突如、何かが侵食していくような、肉にヒビが入るような激しい痛みと吐き気がするような違和感が襲い掛かってきた。 「んん!? むーーーー!!?? んんん!! ぷはぁっ!! あ゛っ!! あああああ゛っ!!?? あがっ!? ぎいいいっ!!」    頭の中がぐちゃぐちゃにされるような、それなのに全てが正常に組み上げられていくような。肉体的苦痛と精神的苦痛、それに並行してこの世の物とは思えないような心地よさが湧き上がってくる。  全身がガクガクと痙攣し、まともに物も掴めない程に両手が暴れだす。  涙が流れ、白眼を剥き、唾液が支えを失って零れ落ちる。せっかく着飾る為に着替えた服装が、失禁によって濡れてしまう。まるで薬物の禁断症状でも表れているかのようなひどい姿。そんな彼女を、奈穂は優しく包み込むように抱きしめ、支えてあげた。 「柚希さ、さんも……機械になttって……なる……なっていくんですね……嬉し……い…………私も、ここ、こんな風に苦しかったっけ……でも、マスターにしし、しても、もらえたのは、幸運だったなあ…………」 「あ、あ、あ、ああああ……あ゛っ!? がっ……ああうううう……あ、あ、ぁぁ……あううううう…………」  暴れすぎないように支え続けてあげている奈穂。その姿は、新しい仲間が生まれることを喜んでいるようだった。  時間が経つにつれて、柚希の痙攣は次第に小さく、そして規則的になっていく。それに比例するように、彼女の外観は明確に変化していた。  日々頑張って処理し続けていた産毛やムダ毛、シミやそばかすは一切無くなり、目から下の体毛は全て消滅した。  肌ツヤは目に見えて良くなり、非常階段を照らす光すらも浜辺の太陽かの如く存在を引き立てるほどの人工的な美肌に生まれ変わった。  涙に濡れた眼球も、いつの間にか機械的な中身へと造り変えられ、機敏のある動作で周囲を見渡しつつレンズをせわしなく収縮させている。  吹き付けた香水の香りは消えず、人間らしい生物的な体臭は完全に消失し、純粋な後付けの香しさだけが残った。  高い露出度を誇る今の衣装からは、彼女の表面上の変化もはっきりと視認できた。  努力を重ねている途中の肉体は、一気に全身の無駄肉が引き締まり、女性として、柚希として最も理想的な洗練された体系へと変化した。  それでいて胸の大きさは残っているどころか、わずかにサイズアップし垂れることのなくハリを保ち続ける永遠の若さを保証された乳房へと生まれ変わった。  全身の物質変換のショックによって流れ出た、涙や尿などの体液は、次第に色のついていない無色透明、無味無臭の液体へと変化する。彼女の身体は名実ともに、非常に清潔な身体となった。  人生全ての記録が詰まった生体脳は、欠片すらも残らず金属へと生まれ変わり、中身は全て電子情報へと変換された。どんな体験も、気持ちも、人格も、すべては改変可能な代物へと変わったのだ。  それと同様に女性器も、殆ど形状を保ったまま変換され、取り外し自由なパーツへと変わっていく。客側の激しいプレイへの怖さや、避妊の心配も全て無くなった。それはまるで、現代の技術を超越した超高級セクサロイドといっても過言ではない。  異常な挙動を除けば、柚希の内部の変化は表面上は殆ど分からない。まれに生まれ変わった皮膚の下から人間にはありえない隆起や陥没が発生する程度で、それ以外にはほぼ見当たらない。  しかし、柚希の身体は間違いなく機械へと変わっていた。 「あ、あ…………ぁ……あっ…………うう…………あ…………」  先ほどまで酷く苦しんでいたとは思えないくらいに、柚希の挙動は落ち着いていった。  規則的になった痙攣も、そのペースを落とし、美しくなった容姿と合わせてまさしくアンドロイドらしい非人間感を醸し出す。  痙攣が完全に収まると、柚希の表情はまるで恐怖が完全に失われたかのように消失し、捨てられたかのような無機質さを表していた。  悲鳴も苦悶の声も無くなり、まるでただそこに座り込んでいるだけのような状態。  そして、完全に静まり返ってから数秒後。ゆっくりと頭部を正面へと固い動作で動かし、奈穂がいる方向からも微妙にずれた位置で停止。機械としての初めての産声を上げた。 「物質変換が完了しました。生体脳に存在した情報の電子化及び、共有可能情報として登録します…………」  柚希の声で、柚希ではないシステムからのメッセージを無感情につぶやく。機械化した者全てが発する定型文。これこそが、無事生まれ変わった証。  この言葉を聞いた瞬間、奈穂は純粋な喜びの笑みを浮かべた。 「あはっ……柚希さ、んも私と同じ機械になttたんですね……嬉しい……マスターとおお、同じように、機械になな、なれた人が増えて、よかかkった……」  機械化に際して組み込まれた「同化」の本能の成功体験が、奈穂の人格データを刺激し心を躍らせた。  ようやく、マスターともう一人以外にウェパルでの機械化した仲間が生まれた。機械特有の快楽や情報を共有できるようになったことが嬉しくてたまらない。  そんな風に昂っていると、ついに完全に機械となった柚希の人格エミュレートが開始された。 「…………」  肉眼だった時よりも非常に鮮明になった視界。一切の邪魔の無いすっきりとした思考速度。全身の挙動や感覚が自然に理解できる明瞭さ。  その世界が丸ごと変わったかのような感覚に、柚希はしばらく言葉が出なかった。  ゆっくりと視線を下に下ろし、軽く自分の動作を確認するために右手を開いては閉じを繰り返す。その姿は、まさしくロボット的な雰囲気を強調させていた。 「どうですkk柚希さん。機械の身体にななな、なった感想は」  新しい存在となり、初めてかけられた言葉。相手は自分が嫌っている存在。  だが、そんなことはとても些細なことかのように、柚希は世界が開けたような笑顔を見せた。 「すごいわ……この身体……! 私、人生の中で一番身体が軽いの!! とっても頭も回るし、嘘……ネットにも接続できるの!? すごいすごい!! こんなの最高じゃない!!」  会話に入りながら、並行して自身の機能を色々試す。その度に新たな感動が生まれ、生身の不便さを認識していき、機械になったことへの感謝があふれ出した。  こんな最高の身体にしてくれたことに、たとえ嫌いな相手だとしても奈穂には感謝してもしきれなかった。 「でsssすよね? 私もそう思ってたたんdす! 生身だった頃よりりずっと気持ちよくて!! 私、ssセックスとかフェラとか、性行為大好きだから、もうこkれrでいっぱい自由にできるって、とっても嬉しかかったんです!」  どうして禁止されている生での性行為や避妊具の不使用を敢行していたのか、柚希にもはっきりと理解できた。機械の身体になったのにそれをしないなんて、宝の持ち腐れにも程がある。  何より、快楽が、快楽信号が、気持ちいいという処理が欲しくて仕方がなくなっている。媚薬を服用した時よりも、本能的に性欲が湧きだしている。  変わったばかりなのにこれだけの変化を感じられることにも驚くが、掘れば掘る程自身の機能が沢山存在している。どれだけ進んだ身体なのだろうか。  頬を赤らめ、眼を見開きながらレンズを何度も収縮させ、柚希はテンションが上がりっぱなしになっていた。 「ごめんなさいね、奈穂。私、あなたのことを誤解してた。今からでも許してもらえないかしら……?」 「もちろんですすすよ。私、もっとみんnで気持ちよく過ごせtらいいなttて、ずっと思ってmしたkら」  相手と同じ存在になったことで理解が深まり、すっかりと奈穂への嫌悪感は霧散してしまっていた。  それから話は、機械化に伴って共有された情報へと移っていく。   「でも、私知らなかったわ。まさか、オーナーが新しくなってた上に、元オーナーがキャストとして出てるなんて……」 「私も、初めて知ったt時はびkkりしましtよ。だって、まd人間だった頃に呼び出されて、そしたら私が以前あttttオーナーとは別の方が、しかも女性がいたんですから!」  機械化に伴い、柚希はウェパルに関するいくつもの新しい情報を取得した。  まず、キャストにも知らされないうちにオーナーは変わっており、その人物が奈穂と以前のオーナーを機械化したという。  前オーナーは機械化後はキャストとして働いており、それを知っているのは奈穂だけで、他の者達は新人だとしか知らされていない。  現オーナーは地球人ではなく、ペリメイズという機械惑星から来た宇宙人だという。本来ならば荒唐無稽な与太話だが、こんな体験をすれば信憑性など気にするまでもない。  キャスト内の噂ですら聞いたことのなかった情報に、ただただ驚くしかなかった。 「ということは、 奈穂ってオーナーに機械化してもらったの?」 「はい! 現在マスター登録もされれててるんです。柚希さんも、この後さrrると思いますよ!」 「へえ……でも、マスター登録って聞くとなんだか怖いわね。だって、誰かの所有物として登録されるわけじゃない? それって自由が無くな、あっ…………」  言われてみればと、自身の設定項目の中に存在していた、現在空欄のマスターの記述。  結婚や契約でも無いのにその人物に忠実に従わなければならないというのはとても不安になる。自由がなくなるのでは。そう口にしようとした直後、柚希の人格エミュレートが突然停止し、首を上に傾けた。 「……設定準備が完了しました。これよりマスター登録を開始します……」    再び感情を失い、階段が遮る夜空に向かってシステムメッセージをつぶやいた。  機械化後のマスター登録は、本来機械化した機体がその権利を取得し、実行の是非を自由に選択可能となっている。  しかしそれとは別に、その機体が新たに誰かを機械化した際に、マスターが自動的にかつ強制的に登録を実行させることも設定可能となっている。  つまり、奈穂が誰かを機械化した際には、何もせずともその相手はオーナーがマスターとして登録されるようになるのだ。  そしてその設定範囲は自由が大いに利く。オーナーは奈穂に、ウェパルのキャストを機械化した時限定でマスター登録も実行するように組み込んでいたのだ。  奈穂はそれをマスターからの命令として無条件に了承した。  それが今、目の前で行われているのであった。 「新しいマスターが登録されました。現在の状態を保存します…………」  改めてシステムメッセージが発され、人格エミュレートが復帰すると、先程途切れた心配の言葉など撤回したかのような、スッキリとした表情を見せた。 「なんだ、マスター登録されるってこんなに気分がいいのね! 私、オーナーの命令だったらなんでも受け入れたいわ」 「でしょ! だかrね、私はオーナーに従いたいnだ……」  従属することに全く抵抗を示さず、むしろそれをずっと望んでいたかのような発言すら口にし始めた柚希。  人間だった頃の彼女ならば到底口にしなかったであろうそれは、中身が完全に機械になったことを如実に表すものだった。 「あっ、いけない。そろそろ休憩時間が終わりそうね。私、そろそろ戻るわ」  ここで、人生の中で最も長く感じた休憩時間の終了が近づいていることに気づいた。  手元の時計を確認する道具類を見ずとも、電子頭脳内にあるインターネットに無線接続した状態の時計を確認すればすぐに解る。  つくづく便利な身体になったと、柚希は強く実感していた。 「あっ、私mも戻……」 「ああ、奈穂はまだ戻らないほうが……というか、今日は一回帰った方がいいんじゃない? 『私達』は大丈夫だけど、お客さんやキャストのみんなが今の奈穂を見たらとても驚くし、収集つかなくなるでしょ」  自動修復が行われているとはいえ、奈穂の首元や四肢の一部は歪み、人工皮膚が断裂しているまま。それを晒せば間違いなく混乱が引き起こされるだろう。  休憩が終了するまでには自動修復も確実に間に合わない。そこで、非常階段からそのまま帰宅することを勧めた。 「そうdすね……わかりmmmした! 私はこのまま帰ります。お気遣いありがttうございまss!」  ノイズ混じりで不安定な音声だが、その瞬間の奈穂は、今までの中で一番かわいく感じた。  これまで嫌悪感しか抱いていなかったのに、柚希の人格データに好意と情欲がほんの少しだけ検出された瞬間だった。 「荷物は後で持っていくから、心配しないでね」 「はい! じゃあ、お疲れ様でsた!」  奈穂は言葉に甘えて、足を若干震わせながら深々とお辞儀をして、そのまま階段を下りて帰宅していった。 「…………ふふ……機械の身体かぁ……」  こんなことが起きるなんて予想もしていなかった。しかし、その出来事のおかげで、まるで人生が急激に上り坂になったような感覚を覚えた柚希。  今の自分ならなんでもできる。そうとしか思えない。もっと気持ちいいことをしたい。この身体にいっぱい快楽信号を感じてみたい。   「さて、残りの時間、もっと頑張っちゃおうっか!」  プログラムされた「快楽」の本能も一緒に燃え滾らせながら、柚希はウェパルの店内へと改めて戻っていった。


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