擬態へと改造される地球人 1話先行公開版
Added 2021-05-15 12:10:20 +0000 UTC人類が何千年もかけて積み上げてきたテクノロジーは、一日一時間一分一秒ごとにまた新たな変化と進化をもたらし、少しずつ誰も踏み入れたことのない領域へと進み続けている。 しかし、そんな人類が暮らす地球の外。まだ人々が観測出来ていない宇宙の先では、人類がまだ到達していないテクノロジーが存在していると一説では言われている。 それらは現代の人間の想像にも及ばない領域であったり、手の届かない遥か先の領域の技術でもあるという。 所謂宇宙人がどのような技術を持ち、どれ程人類よりも先へ進んでいるのか。それは実際に出会った者にしかわからない。 もしかしたら、知らぬ間に人間社会へと侵食し、未知なる技術の餌食にされている。などということも起こり得るかもしれない。 そしてこれは、外宇宙からやってきた小さな侵略者が機械と共に人々を侵食していく、外なる脅威の話である。 * * * 「あれがテミネスね。資源が豊富だとデータにはあるけど、直に見るとまさしくそうだと感じざるを得ないわ」 周囲を隕石で覆い、カモフラージュされた小型の宇宙船に乗ってやってきたのは、惑星ノシュマノに住まうポルトリスという種族の宇宙人、カミゲダ。 見た目はいわゆる特徴の薄い人といった印象だが、纏ったスーツの下にある股間からは、とても長い触手が備わっている。 超高度なテクノロジーを持つポルトリス人は、地球に生息する人類よりもとても小さく、人間の腹の中でさえ容易に収まれる程のサイズしか無い上、性別は雌しか存在しない。 彼女達の最高とされる栄養源は他生命体の精子であり、それを取得する為に様々な星へと赴いていた。 ポルトリス人は、一度生物の体内に入り込むと、内側から対象を自前の超先進的技術によって機械人形へと作り変えてしまい、擬態用のボディへと変換する。 それを利用して生物の精子を取得、栄養素として取り込み成長し、同時にそれを利用して卵を産み出し子供を作る。 いわゆる変則的な寄生生命体なのである。 カミゲダが口にしたテミネスとは、彼女達の言葉で地球のこと。 過去に、地球人の精子は他惑星のそれよりも特に上質かつ繁殖に向いていると報告されており、それを目にしたカミゲダが、居ても立っても居られずそのユートピアを目指して宇宙航行を始めた。 そして、大きな危険も無くあっさりと到着し、その雄大なる景色に思わず胸を踊らせていた。 「食事、繁殖、性感、いたれりつくせりなんで、まさしく楽園じゃない……セオリーとして、まずは陸を目指して乗り出しましょ」 その視線はまるで、極上のフルコースを目の当たりにしたよう。 テミネス人の味は果たして如何様なものなのか。また摂取したことのない未知なる楽しみを求めて、カミゲダは宇宙船を一気に前進させ地球へと侵入したのだった。 そして、彼女が一番最初に入り込んだ場所。それは、日本だった。 * * * 「お姉ちゃんさ、コップぐらいは洗って置いといても」 「ああごめんなさい、忘れてたわ。変な時間に起きちゃってね……なんか喉も乾いてたから水一杯飲んだ……とかだったような」 「はぁ……まあ、お疲れなのはわかるけどさ」 都内のとあるマンションの一室にて、二人暮らしをしている姉妹の北澤実里と北澤菜々実。 姉の実里は社会人として既に働いている一方、妹の菜々実は高校二年生で、やや年が離れている。 そんな二人は、彼女のことを知っている者達からは、目を引くような美人姉妹として印象を残していた。 姉の実里は、ややだらしない部屋着ですらも見事なファッションに見える程の美しいボディラインに、服の隙間からくっきりと見える程の谷間を作る膨らんだ乳房、真珠の如き透き通った肌。 その魅力の結晶をより輝かせるかのような、ハープの音色のようにさらさらとした黒のセミロング。 顔立ちもモデルかと思う程に造形から綺麗で、大人の女性的な魅力が素の顔からでも溢れていた。 妹の菜々実は、そんな姉に血が繋がっているだけあって負けず劣らずの美少女であり、それでいて顔立ちに年相応の幼さが備わっており、ある程度成熟した姉とはまた別の魅力を持っていた。 身体付きも高校生離れした豊満な胸としなやかな細身。太陽を弾くような肌。姉とは違い髪を束ねてまとめた、活発さを印象づけるポニーテールも兼ね備え、クラスどころか学年内で特に人気を集める程だった。 「そういえば菜々実、今日ちょっと遅いんだっけ?」 「行事の用意があるからねー。お姉ちゃんはいつも通りでしょ」 「まあね。夕食は用意しとくわ」 「ありがとー」 実里と菜々実の関係は良好で、たまに言い合い自体はするものの、基本的に両者は互いが互いを家族として好んでいる。 実里が給料で二人分食わせているのもあって、菜々実は日々姉に感謝しており、実里はそんな高校生活を満喫し頑張っている菜々実のことを温かい目で見守っていた。 「……そういえば、菜々実は好きな人とか気になる人は出来たの?」 「んー……全然? 今の所気になる相手はいないかなーって。お姉ちゃんは結局進展はあったの?」 「えっ!? それは……別に」 「もー、あたしにそういうこと聞いといて全然じゃん!」 菜々実の方に好意を抱いた者がいない、というのは純然たる事実であり、気になっているという段階の生徒もいない。 その一方で、実里には牧井拓哉というとても気になっている同僚がいた。 今まで性行為を交わしたことがなく、その人になら自分の初めてを捧げても良いというくらいに恋心が擽られた相手。 だが、全くアプローチも出来ず、目の前では一応平静を保つことはできていても、その後一人になった瞬間に悶絶する程の感情の振れ幅を見せていた。 「だってしょうがないじゃない! ほんっとかっこいいんだからさ……はーもう……そんな迫る勇気とか出ないわよ……ねえ何かいいアイデア無い?」 「あたしに言われてもなあ。まだ恋とかしたこともないし。あ、そろそろ時間だわ」 二人の日常を共有し、時に笑ったり助け合いながら一緒に進んでいく。 そんな姉妹の日々はとても充実しており、まさしくこれからの未来には希望がいっぱいと言っても過言ではない程の華やかさと明るさを持っていた。 しかし、そんな姉妹の人生は、彼女達の感知しない方向から突如壊れることとなる。 * * * 自身が勤務するオフィスにて、いつものように業務に精を出す実里。 今日も今までと変わらず忙しく、常に机と向き合っている。 「これお願いします。あとはそちらの担当になると思いますんで」 「了解でーす。あ、それとこの後資料作成のメッセージ来るみたいだから、準備しといてください」 「はい、わかりました。んん…………今日もばたばたしてるわね」 同僚とのやり取りによって空いたわずかな切れ目に、思いっきり背伸びをして机に向き合っていた身体を解す実里。 スーツ越しに盛り上がる胸の丘は、自身の意図しない天然の色気を放った。 もう少し頑張れば休憩時間に入れる。そう思いながら改めて手を動かそうとしたその時、一人の男が近づいてきた。 「どうも実里さん。順調ですか?」 「た、拓哉さん! ええまあ、わりかし……」 その人物は、実里が密かにかつ強く好意を抱いている拓哉その人だった。 とてもスーツの似合う体格と顔立ちに、優しく雰囲気の良い風格。まさしく理想的な男性像の一つと言っても過言ではない。 不意打ちのようにやってきた彼に、思わず心臓が飛び出すような声を上げそうになったが、常識の壁で無理やり押し込んで、普段と変わらない反応を見せる。 「ちょっとこの書類を実里さんに確認してほしいってことだから。終わったら僕が届けておくよ」 「わかりました。終わったらメッセージ飛ばしますね」 「ありがとう、頼んだよ」 簡単なやり取りを終えると、拓哉はそのまま持ち場へと戻って自分の作業を再開した。 一分すら無いような短い会話だったが、それだけでも実里にとっては最高のご褒美と言っても過言ではなかった。 はやる気持ちをなんとか押し込み続け、静かに深呼吸をして頭の中を整理すると、実里はようやく落ち着いてきた。 (はーーーーーとっても嬉しいーーーー!! もっと拓哉さんと話したかったなあ……仕事上のやり取りだけなのがなんとも悔しいわもうーーーー!!) 「………………よし、やりますか。あ、メッセージ来た。えっと……?」 このように、実里はいつもしっかり者の社員として重宝され、会社内でもある程度の信頼を置かれていた。 このまま行けば給料も上がり、より妹の世話も楽になっていくだろう。その先にはあわよくば拓哉さんと……。 そのようなことも考えながら、この日もいつも通り労働に勤しんでいたのだった。 * * * 徐々に街灯の点灯が見え始めた、17:30頃。 勤務時間が終わり定時で退勤した実里は、帰宅前の買い物として、とある主要駅と直結した百貨店内の所謂デパ地下に立ち寄っていた。 「さすがに今日は帰って作る気力は無いわね……ここでおかず買って、それでご飯炊いて、それでいいかな。むしろあたしが作るより美味しいし」 一日どころか一週間でも満足に回りきれないであろう程の惣菜や食品の数々。 これだけでも色々と献立が無限に立てられるが、それ故に何を買おうか非常に迷ってしまう。 「ご飯炊くなら中華系がいいかな……あ、となるとおかずはそれ中心にして……そうだ、それと一緒にケーキでも買ってあげよっと」 姉として、遅くまで頑張った妹のことは労ってあげたいと、菜々実の好みを中心に、視界に入った物から頭の中で購入予定を組み立てていく。 そして、買い物プランを確定させたその時、唐突に尿意を催し始めた。 「…………お茶飲みすぎたわね。うう……少しトイレ行こっと」 実里は退勤の一時間程前、拓哉とまた仕事のやり取りした時の胸の高鳴りをどうにか抑える為、社内の自販機からペットボトルのお茶を二本購入し、その場で一本半飲み干していた。 大量の水分と利尿作用も働き、その時限爆弾がちょうど買い物中に働いてしまったのだった。 実里は一旦その場から離れ、どうかしんどいから尿意収まってと脳内で繰り返しながらエレベータへ乗り込んだ。 そして、おそらく人が少ないであろう上位階である11階まで移動し、足早にトイレへと駆け込んだ。 「良かったぁ…………」 幸いにもその予想は的中し、女性用トイレには誰一人いなかった。 一番奥のトイレへと駆け込み、すぐに座り込んで全身の力を抜いて一安心する。 「あぁ……一時はどうなることかと思ったわ」 遭遇したくもない緊張感から開放され、大きく安心のため息をついた実里。 今ここには自分以外誰もいないことが、よりその気持ちを強くする。 用を足したらすぐに買い物を終わらせて、妹の帰りを待とう。 帰宅後の楽しい時間を思いながら、今にも尿が出そうになったその時、突如全身を縛り付けられるような感覚が襲った。 「あっ……! な、なに…………!?」 ロープのようなものは何もつけられていないのに、身体を大きく動かすこともできない。 誰かがいたような気配など当然なく、隠れられる場所もない。 金縛りか何かなのだろうか。突然の現象に戸惑いの表情を出していた直後、肩に何かが乗るような感触を覚えた。 「ここで待っていて正解だったわね。とても良い容姿のテミネス人が来てくれたわ。これなら素材として極上……早速私の機体に変換しましょ」 「な、なに……何を言ってるのよこれ……?」 肩から胸へ移り、顔を見上げたのは、地球にやってきたポルトリス人のカミゲダだった。 地球での活動に必要な擬態用機体を確保する為、現地の女性の身体が必要な彼女は、人通りが少なくかつ、女性を確実に見つけられる場所として百貨店上位階のトイレを選び、待ち伏せていた。 そこに、まさしく飛んで火に入る夏の虫の如く実里がやってきて、そこにポルトリス人が開発した脳への干渉波を発する銃を撃ち込み、全身の動作を無理矢理制限させたのだった。 目の前のやや無機質な容姿の小人が何を言っているのかわからない。異星の言語かのような音に戸惑い、怯えることしか出来なくなっている。 何かしらの動画投稿者が仕掛けたドッキリなのか。それにしては悪質すぎる。だとしてもこんなに全身を金縛りするようなことができるのか。 「た、たす…………ぁ……っ……」 なんとか声を上げて、トイレの外に叫ぼうとしても、喉元の筋肉がうまく動かせず声が全く出せない。 恐怖が脊髄の底から上ってきたその時、カミゲダは弛緩した実里の口へと上り、そこから体内へと侵入していった。 「あっ……う……ぁ………うぇ…………」 異物が口内から体内へ入っていくのに抵抗すら出来ない。 出るはずだった小便も留まる程に、精神的に掻き乱され、とうとう涙が出始めた。 「おっと、ここが胃ね。耐酸スーツ無かったら溶かされてたわ」 消化液を物ともせずに、明かりをつけつつ微振動する内壁を確認するカミゲダ。 だがやはり、液体の存在が煩わしく汚いと感じたが、装備品から小型熱戦砲を取り出し胃液に向かって照射。蒸発させた。 「〜〜〜〜!! っっぅ!!」 体内で好き放題され、全身を暴れさせたくても暴れられない実里。 不快感と痛みと熱さが同時に襲いかかるも、声も出せない苦しみがやってくる。 「どうせ分解されるんだし、まあいいか。じゃ、本格的に脳改造に入る前に、私の席を確保しとこっと」 そう言いながら、カミゲダは新たな機材を取り出した。 それが、ポルトリス人が他生命体に対して使用する自動擬態変換器である。 対象の体内を駆け巡るそれは、肉体を分解した後に電子部品や金属部品、バッテリーなどの無機物へと置換。 後に体表面の皮膚をシリコンへと変換し、機械仕掛けの人形へと作り変えてしまう兵器だった。 カミゲダはそのうち二つを使い、片方に脳の電子頭脳への置換命令を入力。脳に向かわせた。 もう一つにも命令を入力すると、それを胃の出口へと放り込んだ。 「これでよし。あとはハプニングが何もなければいいけど」 カミゲダは二つの変換器と繋がっているだけ携帯端末を取り出し、進捗情報を確認する。 この名も知らぬ異星の美しい場所女性が自分の機体になる瞬間を待ちわびながら、胃壁を背もたれにした。 「あっ……ぁぁ……う……ん……ぐっ…………ぁ……」 その頃実里は、声にもならないようなとても小さなうめき声を上げながら、とても微小に身体を左に右に捩らせていた。 あの小人が体内に入り、腹部が熱くなった後、下腹部から奇妙な感覚が踊るように暴れている。 それと同時に、何かが頭の中まで上って来ている。 まるで虫か何かが身体の中で蠢いているような不気味な状態に、実里の思考はとても強い恐怖に乱されていた。 (何なのよこれ……一体何が起きてるの!? 誰か助けて! 声が、声が思うように出せない……手が動かない……一体なんだったのさっきのは……いや……誰か……怖い…………) 助けを求めようにも、それに必要な動作は全て封じられている。 天の助けが訪れることを願い続けていたその時、扉の外からまさしく光が差し込んできた。 「あの、大丈夫ですか? 足が震えてるのが偶然見えたんですけど」 偶然にも新たにトイレにやってきた若い女性が、ドア下の隙間から見えた足の痙攣を目撃し、心配から語りかけてきた。 よかった。これで助けを求められる! そう考えた実里だったが、その自分の口から思ってもいない言葉が飛び出した。 「あっ、大丈夫です。ちょっと力んじゃってて……心配かけてごめんなさい」 実里の意思ではない明瞭な台詞が、確かに自分の声で飛ばされた。 実里の表情は、その瞬間に青ざめた。 「そうだったんですね。どうかお気をつけて」 (違う! 違うの! あたしそんなことになってな……) ドア外の女性は、おそらく便秘か何かかな? と憶測を立て、優しい気遣いの言葉を残して去っていった。 自分の本心とは全く別の言動が、自分の口から発された恐怖。 だが、不可解な現象はそれだけでは終わらなかった。 突如、自分の下腹部がきょくたんにへこみ、まるで空気が抜け中身が空っぽになったかのような不自然な見た目を作り出した。 それに連動したからなのか、先程まで無茶苦茶な事ばかり起きて止まっていた小便が、弁が外れたように放出されていった。 急激な肉体の変化だが、不思議と痛くなく、それどころか若干の気持ちよさを覚える。 そして、用を足し終えた直後、骨と皮と筋肉だけになったようだった下腹部の質量が徐々に復活し、元の膨らみを取り戻した。 だが、腹部に覚えるその感覚は、とても硬質的な物だった。 (何が起きてるの……? あたしのお腹……こんな、減ったり増えたり……ぁ……ああ……?????) 理解が追いつかず、もう思考放棄した方が楽になれるのかもしれない。 そう考えた瞬間、実里の脳内に何の前触れもなく、乱雑な数値や文章の数々がなだれ込んできた。 「ぁ……ぁ…………ぁぁ………………」 絞り出すような声が空気と一緒に漏れ、両眼が白眼を剥きそうな程に上向く。 ぴくっ、ぴくっ、と小さな痙攣を起こし、涙を流しながら、実里は理解できない情報の波に押し流されていった。 「生体脳の電子頭脳化が本格的に始まったみたいね。さっきの段階である程度は進行してたけど、これが終わればあとはもう全身置換のみだし、快適に動けるようになるかな」 先程の実里の意図しない返答は、カミゲダが外に残しておいた超小型カメラの映像から危険を察知し、一部機械化していた実里の脳を操作し、設定した台詞を吐かせていた。 既に実里の身体は自分だけの物ではなく、異星人に操られる擬態用の機械人形へと変貌していたのだった。 それに合わせ、脳の生体部分が無くなっていくと同時にアイデンティティの再構築が行われ、脳内の全情報の電子データ化が進められる。 (生体脳の電子ユニット化を実行中、なにそれ、なんなの? あ、あたしは、何をかか、考えて……パーソナル情報の再設定を実行中。パーソナル設定ってな11100101! あたしの名前は北澤実里で、所有者はカミゲダと登録され、やめて! そんなことあたし望んでない! もしかしてこれって、ロボットにされてるの? さっきの変なのに? そんなのいや!! ロボットになんかなりたくな登録されます。所有者の擬態用機体としての登録No.037139を登録。ずっと人間でいttttt人格データの最適化を開始…………最適化完了。カミゲダ様が快適に活動出来るように肉体の分解及び再構成を続行します) 「機械言語はこの星の物を使用して正解だったわね。他の電子機器にも対応できるし……事前に情報を仕入れておくと、いいことあるわね」 小腸や大腸が分解されて生まれた空洞に再構築された搭乗席に、悠々とした姿勢でくつろぐカミゲダ。 ゆったりとした雰囲気の一方で、実里の脳はとうとう完全な機械化を果たしたのだった。 今までの記憶全ては、他の電子機器にも移行可能な電子情報へと変換され、子供の頃に見た些細な光景すらも鮮明に映し出せる程よ完璧な情報となった。 実里自身のアイデンティティとも言える人格は、簡単に切り替え可能な人格データの一つとなった。 再現性こそとても高く、普段の振る舞いでは普通の人間には見破ることすら難しいが、どうしてもどこかしらに機械的な不自然さが見え隠れする代物となっている。 だが、これを以てすれば機械だという自覚も無いまま自動操縦が可能となり、カミゲダが実里のフリをして動かなければならない時間も少なくなる。 それでいて、先程のような反抗を見せることもなく、基本的に所有者には絶対服従。手元からの簡単な操作でどのようにでも出来る。 まさしく、機械仕掛けの操り人形である。 「おっ、脳の機械化終了。もうすぐ本格的に動けるのね……ふふっ」 麻痺しながらも起きていた拒絶反応による全身の震えは収まり、実里の表情は魂が抜けたような無へと変わっていた。 眼から溢れた涙や、口端から漏れた唾液、股間から放出された小便などの体液が跡として残っているが、彼女の身体にはもう、体液を自ら分泌する機能は残されていない。 脳の完全機械化を皮切りに、実里の全身置換は一気に進められた。 血液の供給が必要なくなり、不要物となった心臓が分解され、充電式のバッテリーへと変換される。 元々とても発育の良かった乳房はわずかに大きくなり、どんなに激しく扱ってもそのハリと柔らかさを失わない極上の性玩具へと生まれ変わった。 乳内には多量に水分を吸収可能な人工乳腺が設けられ、内部機構や外部からの刺激で絞られることによって、小さな突起となったピンク色の乳首の下に隠された乳管代わりのノズルから任意の液体を放出する。 カルシウムで作られた本来の骨も全て一度分解され、強固な金属製の骨格へと再構築される。 緊急時には人類のスペックを超えた挙動も可能となっており、予想外の危機に対する対処も擬態用機体そのままに実行可能となっている。 体内に構築されたタンクは口内と女性器と繋がっており、人間が排出するそれを擬似的に再現した体液を放出するように造られている。 眼球はまるでカメラのような機能生まれ変わり、虹彩にあたる箇所であるレンズが収縮を繰り返し、視界を調整する。 鼻腔や耳に備えられたセンサーからは、人間よりも繊細に情報を検知可能となっており、電子頭脳からより詳細な情報解析が可能。 全身の皮膚も生体からシリコン製へと置換されると、人間の眼には視認出来ない継ぎ目が、首、後頭部、四肢の関節部、鳩尾、へそ周り、そして女性器の周囲に造られた。 これは、実里の身体が自由に分解可能であることを示しており、所有するポルトリス人が自らメンテナンスを行えるように組み込まれた設計である。 そして、ポルトリス人にとって最も重要な器官である女性器は、子宮と繋がった着脱可能なユニットとなり、まるで男性が使う性玩具に近い構造へと変化した。 女性器ユニットは無線接続によって独立して稼働可能であり、子宮部は注がれた精液を溜める為の貯蔵庫となっている。 卵巣部は機能を大きく変えられ、本体と繋がっている時はカミゲダのいる搭乗席と繋がり、注がれた精液や食事を供給する為の長い管へと役目を変えられた。 それとは別に、カミゲダは後々の為にも予め卵子を確保保存しており、その身体で人工的な妊娠も可能となっている。と同時に卵生であるポルトリス人の卵も、子宮内で保護可能となっている。 こうして、実里は全身を異星人のカモフラージュの為に作り変えられ、個人としての尊厳と自我を消失させられてしまったのだった。 「通知が……ようやく変換完了ね! これで自由に……と、その前に、テスト運転も兼ねてちょっと洗っとこうっと」 ようやく資源確保用の擬態を手に入れ、機嫌が良くなったカミゲダ。 だが、変換前に放出された尿が少し気になり、テスト稼働も兼ねて少しだけ行動を開始した。 実里の身体は無表情のまま、両手をわきわきと動かして動作の感触を確かめる。 擬態用機体は、搭乗席から送信される脳波を電子頭脳が受信し、それに従って稼働する。 全身のセンサーに感じ取った信号は、電子頭脳が適切に処理した後、所有者へと送信される。 ちゃんと操縦できれば、普通の人間と大差ない動作が可能となるのである。 カミゲダはその操作がそれなりに上手く、最初の操作直後のカクカクとした、ネジが切れかけた人形のような挙動も、すぐに慣れてスムーズな動作へと変わった。 カミゲダはその調子を保ち、手洗い場へと向かった。下半身の着衣を降ろして露出したまま。 丸出しの女性器ユニットからは、表面に残存した尿の水滴がぽたぽたとこぼれている。 「ん……ああそうだ、衣服の着用を忘れてたわ。なんか動きにくいと思ったら」 下着とパンツを降ろしたままなのを失念していたことに気づき、少々直線的な動作でそれを引っ張り上げる。 そのまま手洗い場まで歩くと、迷いなく自動水栓に口をつけ、流れ出る水を抵抗もなく飲み込んだ。 ごくごくといった挙動も無く、その様子はまるでペットボトルに水を流し入れるよう。 息継ぎもせず一定量飲み続けた後、再びトイレの中まで戻って座る。 そして、体内で小さな駆動音を鳴らすと、女性器ユニットからぼたぼたと、先程飲み込んだ水道水が流れ出した。 付着した尿成分をこの場で洗い流す為に行った補充行為。見た目はただの排尿だが、放出される液体は人間であれば到底出ないもの。 まさしく、実里の身体がただの容れ物となったことを如実に表していた。 「これでよしと。さすがに使う時は清潔にしたいものね。えっと、この娘の自宅はと……」 新しい洋服を買ったような気分で、機体を洗うカミゲダ。 改めて、これでようやく準備が整った。 記憶データから実里が住む場所を確認しつつ、衣服を元に戻し、きちんと水を流してトイレを後にした。 「ああ、なるほど。妹に食事を買って帰るためにここに訪れたのね。なら買ったほうがいいか……」 本来の目的である、百貨店に訪れた当初の目的であるおかず、そして菜々実へのケーキの購入。 一人の人間に丸々成り代わったとなれば、その存在の行動を徹底的になぞる必要がある。 最高の資源を手に入れる為の代償ではあるが、その程度ならばカミゲダにとってはなんてことはない。 「ま、これも精液確保の為よね。さ、新しい生活を始めましょうか」 短い間に、中身が丸々変わってしまった実里の姿をした機械人形は、入店した時とは違う単調な笑顔を保ったまま、当初の予定通りの買い物を始めるのであった。 何があったなどと誰も知る由もないまま。 * * * 「ただいまー」 街灯と建物の明かりが、月と共に夜の街を照らしている20:00頃。 高校での行事準備を終え、ぐったりと前傾姿勢のまま帰ってきた菜々実の声は、疲れの重りがのしかかった声をしていた。 「……部屋かな」 自分の声がやや小さかったのもあるかもしれないが、先に帰っているであろう姉からの返事が無い。 おおよその予測を立てて実里の個室へ向かうと、案の定扉が閉まっていた。 「お姉ちゃーん、ただいまー」 「………ああごめんね、気づかなかったわ。おかえりなさい。買ってきたおかずは冷蔵庫に入れてあるからね。風呂も先入ったから、自由に入っていいわ」 「はーい、ありがとねお姉ちゃん」 どこかほんのりと素っ気無い空気を感じた菜々実。 忙しいのだろうか。そう思いながら、菜々実は深く気にせずにリビングへと向かっていった。 その奥からほんの一瞬聞こえてきた水音すらも気のせいと流して。 それから、姉の言う通りに冷蔵庫を開ける菜々実。 すると、そこには予想外の食べ物があった。 「あっ、ケーキじゃん! しかも菊茉莉のガトーショコラ! お姉ちゃんってばこれがあるから黙ってたのかぁ……」 一言も言っていなかった好物のガトーショコラ。しかもそれは有名店の一品。 おそらくは自分へのサプライズとして購入してくれたのだろう。 そうでなければ、一人分しか入らない袋に包んでいない。 「もう、言ってくれてもよかったのに……食後のデザートにしよっと」 気軽な悪態を付きながらも、内心はとっても喜んでいる菜々実。 すっかりと喜びに塗り替えられた心情のまま、食後のそれを残したおかずを取り出し、遅くなった夕飯へとうきうきな気分で手を伸ばしたのであった。 一方、開けられることのなかった扉の向こう、実里の部屋では、奇妙な光景が繰り広げられていた。 その優しい姉、張本人は、身につけていた服を下着まで全て脱ぎ、頭部を取り外してそれを股間に押し付けている。 生気の無い虚ろな瞳で、とても単調な動作で舌を動かし、女性器ユニットの内壁を刺激していた。 正確には、彼女の記憶と人格を持った機械人形の擬態。 その持ち主のカミゲダは、体内の搭乗席へと送られてくる電子頭脳を通しての快楽信号を受け取りながら身悶えていた。 「ああっ……! あんっ! センサーも良好で……不具合は無いみたいね……あっ……これなら、効率的に採取できそう……あんっ……」 腹部の奥からの喘ぎ声は、全て機体内で遮断されて外には漏れない。 実里の自室で鳴っているのは、人工唾液を含んだ舌で、淡々と性器と舌が擦れ合う音のみ。 無音ながら、首なしの女体が快感に悶える動作をしているのが、より光景の不気味さを引き立てていた。 「これから……あなたの人格にも働いてもらうから……ちゃんと働くのよ……実里……」 「かしこまりました、カミゲダ様。あたしの身体を存分にご使用ください」 組み込まれた設定通りに従順な下僕となった実里。彼女の人格は、ただの自律稼働を促すサブ人格でしかなくなってしまった。 しかし、今の実里はそれが幸せであり、存在意義であり、稼働目的であると定義されている。 所有者の擬態用機体として動くことが全てであり、これまでのように妹への愛情や思い遣りを見せてもただの人格エミュレートによる再現でしかない。 記憶から全身まで、全てがカミゲダの為の道具。 たった今発した、首だけの実里の頭部が口にした言葉は、まさしくそれを如実に表していた。 こうして、未確認の宇宙人による人類への静かな侵食が、誰も知らぬ所で始まったのであった。