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土装番 from fanbox
土装番

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妹を守るのは機械仕掛けの母と姉 1話先行公開版

 ある現代から少々離れた未来の時代の、とある島国の首都。  その都市圏に建つとある病院内で、ある家族に新たな一員が産まれた。 「ねえねえ、産まれたのお母さん!」 「ええ、ちゃんと産まれたよ恵里菜、あなたの妹が。これからはお姉ちゃんになるんだから」 「わたしお姉ちゃんだ! お姉ちゃんになるー!」  病院のベッドの中で、目の前のはしゃく娘を見守る女性の名前は柴村琴美。現在23歳の女性である。  髪を右側にまとめた、大人びた印象を感じさせる淡いブラウンのセミロングヘアーに、今は肉体を酷使した後だからこそ弱っているが、普段は落ち着いたお姉さん的な大人の女性的雰囲気を抱く、端整でかつ見惚れるような美しい、パーツそれぞれの造形が優れた顔立ち。  かつては最初に産んだ娘にも母乳を与えてあげたのも頷ける程に豊満でハリのある、柔らかさと固さが両立しているような豊かな両乳。  それでいて子供を産んだ後もまるでモデルのような美しい体型を、鍛え上げることで戻しており、身長の高さも相まってまさに美しさの権化とも言えるような容姿を抱いていた。  そんな彼女の娘であり、自分が今から姉となったことに喜んでいる子供の名前は柴村恵里菜。まだ3歳でありながらもしっかりとしていて、かつ子供らしい無邪気さも兼ね備えている。  本来であればここに琴美の夫がいたはずだったが、妊娠中に事故で亡くなってしまっており、現在は女手一つで育てている。 「ねえねえ、もうなまえは決めてるの?」 「もちろんよ。次に産まれる娘の名前はね、実里って言うの」 「みのり! わたしの妹の名前はみのり! はやく会いたいなー!」  災難に見舞われながらも、めでたく三人家族となった柴村家。  それから月日は流れ、二人の姉妹はすくすくと順調に育っていった。 「ほら見て! かわいいでしょ実里!」 「おねえちゃんかわいい! ねえねえおねえちゃんみのりにもさわらせて!」 「だーめ、実里にはまだ早いよ!」 「こら恵里菜、意地悪しないの! 実里に触らせてあげなさい」 「えーせっかく明日初めて学校行く日なのにー」 「実里だっていつか行くのよ。三年後にこれを背負うんだって、お姉ちゃんが憧れになってあげなさい」 「……わかった。ちょっとだけだよ実里」 「わーいランドセルー!」  初めての学校に通う頃となった恵里菜は、落ち着きがどこかありつつも活発な元気さが眩しく、さらに美女である母親の遺伝子をまさしく受け継いでいる可愛らしさを宿した子へと成長していた。  一方の実里も、すくすくと育っていつつも、恵里菜とは方向性の違う落ち着いた雰囲気が強い子となっていた。  普段から絵を描いたり、早くも数字の計算や理科に関することに興味を持ったりと、まるで何かの片鱗を感じさせるような底知れない子となっていた。  そんな二人を育てている琴美は、相変わらずの美しさと鍛え直したボディライン、色気のある豊満さを保ちながら、二児の母として日々を奔走していた。  自身の美しさと色気を武器にして仕事にしつつ、SNSでの発信を欠かさずそれに収入にも繫げ、二人の娘の世話もきちんと行う。  彼女の持つバイタリティは常に絶える気配が無く、実里が三歳頃まで育ち、恵里菜が成長してある程度任せられるところが出て少々楽になる部分が出たところでも、常に自分の出来るところを進めていく。  相変わらずの落ち着いたお淑やかな雰囲気ながらも、その奥にどこか強気な精神性を秘めている。琴美という女性は常に成長を続けていた。  そんな彼女達の家庭は、この先も順風満帆に過ぎていくと思われた。しかし、ある時を境にちょっとした変化が訪れるようになる。  それからさらに時は進み、恵里菜が11歳、実里が8歳 の頃の夏休み。  共に学校に通う年齢となり、二人は夏休みを楽しみつつも学校から提出される宿題にも追われていた。 「ちょっと恵里菜、宿題はちゃんとやってるの? 去年ギリギリに鳴ってうわー間に合わないー! ってなってたじょ?」 「今年はちゃんとやってるって! 去年はガチで忘れてたやつがあったからさ、それで大変なことになっちゃってたけど今年は全部確かめたから!」  恵里菜は進行度合いにムラはあるものの、毎日少しずつ宿題に手をつけ、確実に期限内に終わらせられるようにしていた。  イヤだイヤだと言いつつも読書感想文や自由研究も自分なりにきちんと進め、奔放な雰囲気を抱きつつも優等生な側面も見せていた。 「変なところで確認不足とか起きてたら大変だものね。そういうところ恵里菜はちゃんとしてて偉いわ」 「でも、さすがに実里には勝てないよ。すごいもん」  一方の実里は、それなりに真面目に進めている姉以上のペースで宿題を進め、既に自由研究以外のものは全て完遂させていた。  まだ幼い頃から様々なことに先んじて没頭していた実里は、幼稚園や小学生の時点から他の子供たちよりも進んだ勉強を自ら行っており、明らかに突出した何かを抱いている姿を見せてきた。  勉学に関しては常に学年トップであり、全校生徒で比べても飛び抜けているのではないかと推測できてしまうほど。  同じ家で過ごしている琴美や恵里菜からしても、明らかに進んでいることをしていると理解できる程のものを、彼女は持っていた。 「お母さん、ちょっといいー!」 「はいはい! ちょっとごめんね恵里菜。たぶん何か持ってきてほしいって用だと思うから」  二人はそんな実里に対しては同じ家族としての理解を示し、何かしら抑えつけたり型にはめるようなことはせず、実里がやりたいようにできる状態にしていこうと考えていた。  茶化したりもせず、自分の興味に集中させてあげつつも、家族として一緒に過ごし時間を共有する。  それが母として、姉としての努めだとも考えていた。 「これ買ってきてほしいのね。わかったわ。ちょっと時間はかかりそうだけど大丈夫? 確かこれ、割と離れたとこの店にあったような気がするのよ」 「大丈夫! まだ夏休みはあるから、それまでに自由研究終われば大丈夫だよ!」 「なるほどね。没頭しすぎて宿題出すの間に合わないとかダメだからね。じゃ、今から買ってくるわ」 「ありがとうお母さん! がんばる!」  そんな実里も、二人が応援してくれていることを理解し、心から家族としての幸せを享受していた。  自分の興味ある事柄に対して徹底的に知識を溜め込みつつも、きちんと家事を手伝ったり掃除をしたり、時に友達とも遊びに行く。  年相応の子供らしい姿も発露しつつも、彼女が規格外な存在であることもうっすらと周囲に理解されつつあった。  そして、夏休みが終わり、きちんと二人は宿題を全て終えて期限内に提出した。  それだけでも感心に値するが、実里のクラスの担任である先生は、彼女が提出した自由研究の内容に目を疑った。 「何だこれは……論文か……?」  その内容は、明らかに小学生のレベルではなかった。本当に本人が製作したものなのか、疑うこともおかしくない程にきっちりと研究、まとめられたものであったのだ。  担任の先生は、思わず職員室での内容確認の最中、琴美へ直接連絡をせずにはいられなかった。 「すみません柴村さん、私、実里ちゃんの担任なのですが」 「はい、いつもお世話になっております。どうなさいましたか?」 「ええ、あの……非常に聞きにくいことなのですが……実里ちゃんが提出した自由研究についてお聞きしたいことが……」 「ああ……どのようなことについてですか?」  担任は、本当に実里がそれを研究したのか、そして内容をきちんと自分でまとめたのか、実は母親の琴美が手伝ったもしくは替え玉で書いた、または誰かに依頼して作ってもらったかなど、浮かばずにはいられなかった様々な疑問を聞いた。  琴美側も、おそらくそういう質問は来るのだろうなと予想していたのか、素直なその問いを受け入れ、事細かにきちんと彼女自身が自分の目で見たことを伝えた。  結果、それは確かに実里が実験を行い纏めたということが証明された。  その後、担任は居ても立っても居られなくなり、知り合いの大学教授へ実里の自由研究を纏めたファイルを見せた。  大学教授は、実里の研究結果に驚愕し、その類まれなる頭脳、才能を賞賛し、これは確実に保護しなければならない、間違いなくこの国の未来どころか世界を担う人材になると確信した。  そこから、実里という人物は夏休みを過ぎてしばらくしてから、教員や学術畑の人物から注目されるようになっていった。  実里はそれに応えるようなことこそせず、マイペースに過ごしてはいたが、そのような外から来た大学教授などの大人達から現状から大きく進んだ内容を教えてもらい、進化と形容できる程のレベルアップぶりを見せた。  本来なら数年先に習うような内容も理解し、学び、自分の知識へと取り込み、実里の才能は開花するまでの道筋を整えられたのだった。  しかしそんなある時、奇妙な出来事が起きた。  恵里菜が12歳で実里が9歳の頃。実里は新たな知識を得ることがとても楽しく、机の上で勉強に励んでおり、恵里菜は夕ご飯を食べた後なのもあってゆったりと携帯端末を触り、クラスメイトと交流しながら動画を眺めていた。 「恵里菜ももうすぐ卒業なんだものね。なんだかいつの間にかここまで来たって気がするわ」 「あたし的にはやっとかーって感じがするかも。ちょっと怖い気もするっていうか、新しい学校で馴染めるかなーって。別のとこからも一緒になるんでしょ?」 「そうだけど、結構面白いものよ。へーこんな人いたんだーって出会いもあるし、こっちではこういうのがあってーとか、なんというか……異文化交流? 的なこともあったりするの。私も、別の学校から来た子と仲良くなったりしたなあ……」  自分がまだ恵里菜ぐらいの歳だった頃の思い出を巡らせながら、キッチンで娘二人にジュースをコップに注ぎ持っていこうと用意する琴美。  だが、二個目のコップに注ごうとした時、底が隠れた程度のところで中身が無くなってしまった。 「あら? もうちょっとあると思ったのに……ごめんね恵里菜、ちょっと買い物に行ってくるから待っててね」 「えーもう7時じゃん。もう暗いよ?」 「大丈夫大丈夫、すぐ帰ってくるから。もし見つからなかったらちょっと探すかもしれないけど、その時は連絡入れるからねー」  そう言って琴美は上着を羽織って、自宅を出て買い物へ向かっていった。 「……別に無いならないでよかったけど。こだわるなあお母さん」  あのジュースじゃないと駄目だったのかなあと思いつつも、恵里菜はコップいっぱいまで注がれ終わっている方を実里の方へと持っていってあげた。 「ここ置いとくからねー」 「うん、ありがとうお姉ちゃん」  二人の周囲からの扱いに差は生まれつつも、姉妹の仲は悪くなることは無かった。  むしろ、年月が経つたびに姉からの妹への愛情は少しずつ強くなり、大切な自慢の妹だと強く思っていた。  ジュースを渡し終えた恵里菜は、そのままリビングに戻ってソファの上に転がり、先程までと同じ状態に戻った。  しかし、時間が経つごとに違和感を抱き始めた。 「……遅いなあ」  母親の帰宅が異様に遅い。どれだけ待っても帰ってくる気配がない。  近くで見当たらなかったら探しに行くとは言っていたが、そんなにもかかるものなのだろうか。  恵里菜は疑問に思いながらも、お風呂に入ってる間には帰ってくるかもしれないと考えつつ、入浴しに浴室へ向かい、事前に張ってあった湯に浸かった。  それから数十分間近く経過し、浴室から出るも、琴美は帰ってきていなかった。 「…………さすがにおかしくない?」  いくらなんでも、ここまで時間がかかるのはおかしい。仕事関係で呼ばれたわけでもないしただの買い物なのに遅すぎる。  万が一の可能性が脳裏を過りながら、恵里菜は母親の携帯端末に通話を行った。  長く呼び出しを続けるが、反応が返ってこない。不安の感情が強くなり、心臓の鼓動が早まる。  数分待っても呼び出しに応じる気配はなく、一度切ってからまた通話を行おうとしたその時、ようやく携帯端末と繋がった。 「!? か、母さん!? 今どこにいるの!?」 「ごめんね、ちょっと、外にいる時に、仕事先からの通話があってね、すぐに帰ってこれなかったの。ごめんね」  ようやく聞こえてきた母親の声に、恵里菜は安堵の気持ちを抱くが、同時にどこか違和感を覚えた。  普段の喋りとは言葉の切れ目が違い、どこかぎこちないような雰囲気を受ける。  恵里菜はぼんやりとそれを感じてはいたが、今はそんなことよりも無事だったことへの安心が大きく勝っていた。 「はぁ…………だったらちょっとは何か連絡入れてよ…………すごい心配になったじゃん」 「ごめんね。帰るの遅くなるかもしれないから。待っててね。じゃあね」  その一言を最後に、琴美は通話を切った。  これまでも、突然仕事に行かざるを得なくなった、仕事仲間に呼び出されたということはあった為、それそのものに違和感は覚えなかった。  だが、母親の喋り方や発言、発音がどこか変だと感じたのは、通話を切った直後からだった。 「…………?」  妙な違和感はあった。だが、どこがどういう風に変なのかと言われたら上手く言語化できない。しかし何かはおかしい。そんな奇妙な感覚が彼女の脳内を巡った。 「…………まあ、連絡がついたのならいっか」  ハッキリ何がおかしいかという結論が出ないままになってしまったが、ひとまず安否を確認できたのならそれでいい。  恵里菜は思考を一旦打ち切り、母親が帰ってくるのを待つことにしたのであった。  それから次の日の夕方頃。恵里菜は昨日の通話の後で実里に、母が帰ってくるのは遅くなりそうということを伝えていたため、両者とも心配が無いわけではないが落ち着いてはいた。  だが、次の日夕方になってまで帰ってこないということは滅多に無かった。仮に同レベルかそれ以上に帰ってこれない仕事の事情があった場合は、事前の連絡や翌日の朝や午後に新しい連絡が必ず入るため、本当に初めてのことが起きている。  実里は机に向かって勉強に没頭しているが、恵里菜はどうしても初めての事態に心配が生まれてしまう。  まだまだ子供であるため、どうしても不安の気持ちは消えない。早く帰ってきてほしいと思いながら過ごしていたその時、玄関の鍵が開く音がした。 「お母さん!」     待ち望んでいた音が聞こえた。恵里菜はソファから勢いよく立ち上がり、玄関に向かって走った。  そして、玄関が開くと、ずっと帰ってきてほしかった母親の姿が現れた。 「おかえりお母さん! 遅すぎだって帰ってくるの!!」 「ただいま。ごめんなさいね、どうしても遅くなっちゃったの」  恵里菜は帰ってきた母親に抱きつき、顔を豊かな両胸に埋めた。  しかしそこで、ほんのちょっとした新しい違和感に気づいた。  なんだか、胸が柔らかくて大きくなっているような気がする。それに、温かいけどなんだかその温かさも何かちょっと違うような気がする。  一旦離れて琴美の顔を見ると、恵里菜は驚愕した。 「…………? なんか、母さんすごい若返ってない?」 「……えっ、そう? 恵里菜もそう思ってくれるのね。実は、化粧品会社とちょっと仕事の相談してたの。それが効いたみたいね」  彼女の顔が、明らかにここ最近のそれよりも若返っているのである。推定で、20代後半の大人の女性と言えるほどに。  元々琴美は、モデルであることも相まって平均的な同年代の女性よりも若々しく美しさを保っており、普段から年齢相応にはまず見られないほどの美貌と体型を持っていた。  だが、今回はそれ以上にどこか若返っている。年齢が逆行したどころか、以前よりもさらに綺麗になっているような気さえしてくるのである。  その上、彼女は常に微笑んでいた。なんだか、今まで一緒に暮らしていた母親と比べて、何か化粧品の影響だけでは説明できないような不思議な感覚を覚えたのだった。 「お母さん、何かあった?」 「えっ? 何もないわ、恵里菜。心配かけちゃってごめんね。さ、もうすぐ夕ご飯の時間よ。今から作るから、待っててね」  どこか今までよりも落ち着いているように感じる。だが、娘でも美しいと感じるその微笑みと安心感を覚える声に、恵里菜は深く言及することはできなかった。  それから琴美は、しばらく冷蔵庫の中身を覗いた後で料理を進めた。  彼女がこの日作ったのは肉じゃがとポテトサラダ。多めに買っていたじゃがいもを消費するようなメニューだった。 「…………?」  恵里菜は、出迎えた時と変わらぬお淑やかさすら感じる微笑みを保つ母親と、妹と共に、いつものような食事を進める。  この時食べた肉じゃがは、以前作ってくれた時のそれと若干味付けが変わっていた。何より、まるでレベルが2段階ほど上がったように感じられるくらいに美味しかったのである。 「お母さん、何か味付け変えた?」 「……ちょっとだけね。これの方がいいかなと思って少しアレンジしたの。美味しかったのなら、よかったわ」  本当にちょっとアレンジしただけなのだろうか。そう思えるくらいに美味しかったが、本人がそう言うのならばこれ以上は詰められないと、黙々と肉じゃがと、ふっくら炊きあがった白飯を往復したのだった。  一方の実里は、何度か視線を母親の方に移しながらも、何も言わず黙って食事を進めるのであった。 * * *  琴美へ抱いた違和感はそのまま拭えず、しかし何か決定的な出来事も起きないまま、柴村家の時は過ぎていった。  そして、恵里菜はいつしか高校生となり三年間を過ごし、無事に卒業を果たした。 「もうここに通うのも終わりかぁ……とっても楽しかったなあ。ありがとうお母さん」 「ふふ、卒業おめでとう、恵里菜。とっても立派よ」  恵里菜はすっかりと成長し、母親に似て見た目麗しい女性へと育っていった。  艶がありサラっとした、少しだけブラウンがかっている黒のセミロングヘアーに、成長し大人の女性的な魅力が宿りつつもあどけない可愛らしさが伴っている、母親に似て美しく魅力的な美貌。  琴美に負けず劣らずの膨らみを持つようになった両胸は、制服の下からでもその下部分の影が目立つくらいには大きく、同年代の男子生徒からは刺激が強すぎると感じられる程のモノを持っていた。  それでいて全体的なラインは細く、スカートの下から姿を見せる太ももは、鍛えられた太さとしなやかさを宿しており、まさに誰もが思い描く理想の美少女を体現したかのような容姿となっていた。 「これから大学生かあ……高校生も楽しかったし、どうなるんだろ」 「ふふ、そうね恵里菜」  恵里菜は高校卒業後、そのまま大学に進学しようと考えていた。  志望先もきちんと考えており、学力も全く問題なかったが、そこに琴美が待ったをかけた。  恵里菜はひたすら反論し、とにかくどうしても行きたい大学があってそこで学びたいことがたくさんあると言ったが、琴美は一旦就職も進学もしないでほしいと言っていた。  琴美はなぜか一切引かず、落ち着いた口調でずっと一貫して就職も進学もしないでほしいと詳細も言わず繰り返し言い続けていたが、結局恵里菜はそれを無視して大学受験をし、見事合格していた。  琴美はそれに対して不思議と何も言わず、まるで容認しているかのような態度だった為、結局そのまま大学進学の流れとなっていた。 「実里も中学卒業だけど、まさかあんなとこに行くなんてなあ……やっぱ、出来の良すぎる妹ってすごいわ」 「そうね、恵里菜。実里はとてもすごい自慢の娘よ」  一方の実里は、恵里菜よりも一日早く卒業式を迎えた。  母親と姉、両方に似てまるでアイドルのように可愛らしい美少女へと成長した彼女だが、それ以上に頭脳はとてつもない成長を遂げていた。  時が進むにつれて、いつしか大学教授との交流も行うようになり、学術的な内容の会話で盛り上がったり、新たな学びを得るようにもなっていた。  そんな彼女は、本来なら飛び級でもおかしくない、むしろそれが妥当だとも言われているが、本人たっての希望で外国への留学は行わず、国内有数の進学校へ入学することになった。  今や彼女は、将来的にこの国において転換点になりうる程の天才として一部から注目される程になっていたのだった。  それに伴い、実里は同じ家で過ごすのではなく、寮生活を始めることになった。   彼女が入学する高校には寮が設けられており、基本的には寮に移り住むことになっているが、これまでの住まいから進学することも認められている。  そこで実里は、一度新しい環境で色んなことを始めてみるというのをやってみたいと意を決し、家族と離れて勉学に励むことにした。  今までそのような決断をしたことがなかった実里が、自ら歩んでみたいという言葉を口にしたのを間近で聞いた恵里菜は思わず姉としてその成長に感動する一方で、琴美は肯定の言葉といつもより少し喜びが強くなっているように感じられる微笑みを見せた。  確かに娘の成長を喜んでいるのだろうが、そこまで感情の起伏が表れているようには見えなかったのだった。  こうして、それぞれの道へと進み始めた恵里菜と実里。  いつの間にかお互いに成長したなあと、卒業式も終えて改めて自宅へ向かう為に足を動かそうとしたその時、琴美が彼女の肩を掴んだ。 「恵里菜、ちょっと、一緒についてきてほしいところがあるの。良いかしら?」         いつもの声の調子と表情で話しかける。だが、その肩を掴む力はどこか、いつもより強く感じられた。まるで、機械のアームが握っているかのような。 「う、うん……いいけど、どこに行くの」 「それは、後で説明するわ。なので、少しついてきて」  なぜそんなに力を入れるのかよくわからないまま、恵里菜は言われた通りに母の後ろをついていった。  いつもとは違う道を歩き進み、これまでの中で一度か二度通ったかどうかというようなレベルの、一通りの少ない道に着くと、一台の灰色の車両が待機していた。  助手席と運転席には、それぞれ見知らぬ女性が座っており、両者とも遠目に見ても美人と言えるような姿をしている。  琴美は、恵里菜を先に乗せた後で乗り込み、まるで上位の立場の物を相手にすると者を相手にする時のような背筋の伸びた姿勢で座り込む。  そして車両は発進し、徐々に見知らぬ建物が並ぶ場所へと風景が変わっていった。 「…………ねえ母さん、どこに行こうとしてるの?」 「大丈夫よ、恵里菜。気にしなくていいわ」  不安が募り、度々母親に質問をするが、琴美は大丈夫、心配しなくていい、気にしなくていいと、同じような意味の単語をランダムに繰り返して気休め程度の返答をするだけだった。  むしろそれが不安をより強く煽る。母親の中に何か、得体のしれないものがある。  そう思いながらも移動を続けていくうちに車両は、周囲が非常に平坦な、まるで研究施設のような建物へと入り込んだ。  自分がさっきまでいた高校とは明らかに空気の違う雰囲気に、不安と恐怖が底からせり上がってくる恵里菜。  こんな状況にも関わらず、琴美はずっと綺麗な姿勢と微笑みを保ち続けていた。  丁寧な所作で車両から出て、見知らぬ女性二体のうち一体が後方を歩き、恵里菜の正面を母親ともう一人が歩く。  そうして、次々と開くドアや、真っ白な通路を歩き続け、どんどん噴出してくるもやもやの中で足を動かしていると、ある部屋の中へと入った。  恵里菜も、早く帰りたいと思いつつ入っていくと、そこにはまるで、マンガやアニメ、映画の中でしか見たことがないような巨大な機械や端末機器がずらりと並べられ、いくつものモニターが揃えられていた。 「…………ねえお母さん、一体ここはなに? これからどうしたいの?」 「………………」  琴美は微笑みを保ったまま何も喋らない。しかしその直後、同行した二体が突然恵里菜の手足を拘束した。 「ちょっ、何すんの!? 離して!!」  既に拘束されてしまった後もどうにか抵抗しようとしたが、彼女達の力は細身の割に異様に強く、跳ね返すことすら出来なかった。  四肢が無力化された直後、強制的に椅子に座らされ、そこに琴美が近づいてきた。 「ごめんね、恵里菜。でもね、これは国の為でもあって、実里の為でもあるの」 「……ちょっと、何言ってるのかわかんないんだけど、何がなんだかわかんないよ母さん!!」 「では、私から説明します」  直後、先程拘束した女性のうち片方が、琴美の隣に並び立ち、初めて声を発した。 「私はこの国の秘密護衛部隊、その一部隊を指揮している、山下理恵という者です。これから貴女には、我々の部隊で実里さんを護る為の隊員となってもらう」  見知らぬ場所に連れ去られ、非現実的な光景が広がり、唐突なわけのわからないことを決定される。  情報量の波に混乱しそうになるが、恵里菜はきちんと耳で聞いてなんとか言っていることを頭の中に入れていた。 「はぁ? 意味がわからないんだけど! 実里を護るためってどういうこと? 何がどうなってるの? そもそも、なんで母さんがそっち側にいるの!?」 「その為には、現在貴女の母親がどういう存在なのか説明しなければなりませんね」  理恵の言葉が耳に入った瞬間、今まで母親に抱いていたが、流してきた今までの数々の違和感が脳裏に過ぎり始めた。  琴美が現在身につけている、卒業式の為に着たスーツを脱がせ、何度も自宅内で見た、年齢不相応な若々しく魅力的な女体を曝け出す。 「琴美、両腕の武装を展開しろ」 「かしこまりました」  まるで従者のような返事を返したその時、琴美のすべすべとした柔肌の下から機械が姿を現し、両腕が変形を始めた。  細い腕の下から鋭利な刃物と銃口が姿を現し、まるで殺人マシンのような形へと変化した。 「…………え?」  ずっと人間だと思っていた母親の皮膚の下から、機械が剥き出しになった姿に、とうとう理解が追いつかなくなった恵里菜。  そんな姿を晒しても、未だ微笑みを絶やさない姿は、もはやただの母親の形をしただけの機械にしか見えないようになってしまったのだった。  そして、琴美が自ら口を開く。 「ずっと、黙っていてごめんなさいね、恵里菜。実は、本当の私は、6年前に死んでしまっているんです。覚えてる? 私の、帰宅が遅くなって、次の日の夕方に帰ってきた日のことを」 「…………え、えっと……うん………………」 「実はあの時、本当の私は死んでしまったの。現在、この国には実里のような特別な人材を拉致して、自国の人材として酷使しようとする他国の勢力が無数に潜んでいるわ。私は外出していた時、実里を狙っていた勢力が私を殺しに来たの。その時、ここの隊員が交戦した結果対処できたんだけど、私は交戦中の事故で死んでしまったんです」  ペラペラとまるでガイドロボットの如くスムーズに自分が死んだ状況を話していく琴美。  それを補足するように、理恵も話に加わっていく。 「当時、我々にはアンドロイドの製造技術こそありましたが、人間の全身を機械化する技術はまだ未完成でした。その為、本来ならば琴美さんの生体脳から情報を全て引き出し、全身機械化を行いたかったのですが、それは不可能でした。そこで、我々はその時点での技術を全て使用し、琴美さんそっくりの女性型アンドロイドを製造することにしました」 「…………じ、じゃあ……そこにいるのって……!」 「はい。貴女の母親ではなく、貴女の母親に似せて造られたアンドロイドです」  ずっとどこか、不思議と感じていた違和感は嘘ではなかった。正しかったのだ。  恵里菜の心の足元が、崩れてしまったような気がした。 「実里さんという存在は非常に貴重です。万が一があってはなりません。なので、琴美さんに容姿を似せてアンドロイドを製造しました。なお、死亡時には遺体が損傷していた為、本人が過去に投稿していたSNS上の写真や過去の写真集などから容姿を確認し、そこから外見を再現しました。もっとも、より若い時期の容姿にしたのは、護衛または敵対者の排除を能動的に行う機体としての運用も考えた結果でもありますが」   「…………じゃあ、あの時の電話も」 「あの時はまだ、製造も始められていない段階でした。事故から間もなく、どうにかして琴美という人間を再現する為の材料を集めている最中でした。なので、生身の声帯をやむを得ず使用し、局所的に電流を流して操作し、発声のみを再現させていました。それから、携帯端末内に保存されていた動画や本人の肉体から出させた声などから音声を再現、SNSの投稿や動画内の発言などから言動や性格も形成し、擬似人格を作成しました」  「…………そこにお母さんの部分は何もないし、記憶もないってこと」    「その通りです。先程、外出していたと言っていましたが、何をしに行ったのかは言ってなかったでしょう? 知らないんですよ。自分が何をしに外出したのかを。過去にもあったでしょう? 自分の過去を聞かれてしどろもどろになっていて誤魔化したりしていたのを」  心当たりがある。そういう風に返してきたことを、恵里菜は流していたが確かにそうだったと脳裏に蘇ってきた。 「時間の経過と共に、琴美には裏で戦闘を行わせつつも琴美としての稼働をしてもらい、擬似人格や機体のアップデートも重ねました。少しずつ修正を加えて、発言からより不自然さを無くすようにしていき、現在の状態に落ち着いています。そして、貴女は高校を卒業しました。これからは、私達のもとで共に、実里さんを護る為に家族のままでありつつも戦ってもらいます」  これまでの日常を全てひっくり返されたかのような衝撃に、恵里菜は声を上げる気力すらも無くなっていた。  この6年間、ずっと一緒に過ごしていた母親は本当の母親ではなく、そっくりに造られ母親の真似をしていただけのロボットだったのだ。  しかも妹は常にどこかに狙われているという、理解こそできるが非現実的過ぎる話。頭の整理が全然追いつかない中で、理恵と共に行動していたもう一体が、拘束されたままの恵里菜の背後につく。  その手には、注射器が用意されていた。 「なにが……? 戦うとかどうとか意味がわからないんだけどもう……めっちゃくちゃなこと聞かされすぎてもうわけわかんない……」 「これから恵里菜さんには、私達と同じように全身機械化を行わせていただきます。琴美の製造から今日までにテクノロジーは著しく成長しました。今や、当時は不可能だった人体の完全機械化も可能となっています。そこで、琴美と同様に実里さんを護る機体として稼働し、彼女に迫りくる危機に対処してもらいます」 「……は? 何を言ってんの? あんたらでやればいいじゃない!!」 「親族である両者が側にいる方が自然ですからね。その方が何かと行動がしやすいですし、家族しか知らないこともある分より信頼もされる。今後は実里さんは寮生活にはなりますが、完全に会わないわけではない。そういう時に、家族が身辺を護れる方が一番都合が良いですから」 「良かったわね、恵里菜。私達で大切な実里のことを護れるのよ。私達で一緒に、実里のことを護りましょ」  人間でなくなれと言っている目の前の女性に同調する、母親の声で喋り、母親の顔で話しかける偽物の機械人形。  もう恵里菜には、彼女のことが母親には見えていない。ただの模造品である。  恵里菜はなんとか抵抗しようと身体を揺らす。 「ふざけんじゃないわ! あんたらがやれってのに、なんであたしが機械にならなくちゃいけないのよ! 離せ! 離しなさいよこのロボットども! 母さんのフリをして騙して! 絶対いつか壊してや……うっ………………」  つばが飛び散る程に声を荒げ、怒りに満ちた瞳で喚き散らすが、首元に注射を打ち込まれた後、彼女は抵抗も虚しく意識が落ちていった。  眠りにつき、静かになった恵里菜のところで、展開した両腕の武装を解除し元の人間らしい姿に戻った琴美が、娘だと登録されている彼女を優しく抱きしめた。 「これからは私達二人で、実里に近づいてくる敵を対処するのよ。一緒に頑張ろうね恵里菜、大好きよ、とっても……」   電子データ上に残されていた本人の残照から可能な限り再現して作成された擬似人格が、娘への愛情を発露する。  擬似人格と秘密機関側にプログラムされた目的が混ざり合い、人間の母親としては明らかにおかしいことを言っているが、彼女はそれをおかしいとは認識しなかった。 「実里に危険が及ばないように、家族で対処をし…………」  意識のない設定上の娘に語り続けていた途中、琴美は理恵側からの遠隔操作によって無表情になり、一歩下がってから直立の姿勢となった。 「よし、琴美は全身機械化手術に関するプログラムをインストールしに移動して。その後開始するからしっかり行うのよ」 「かしこまりました、理恵様」  琴美はアンドロイドらしく、上位機体として設定された理恵の命令を従順に聞き入れ、今にも人間で無くなろうとしている娘から離れて、むしろそれを手伝う為に移動した。  それから少し遅れて、まるで流れ作業を行うかの如く、無力化された恵里菜は別の部屋へと運ばれていった。  こうして、恵里菜の人間としての人生は、常軌を逸した才能を持つ妹を知らずしらずのうちに守る礎として終わりを告げたのだった。 * * * 「電源が入力されました。初回起動により、セットアップを開始します」  それからしばしの時が経ち、恵里菜の機械化は無事に完了した。  布一枚すら纏っていない、生まれ変わったままの姿で冷たい作業台の上で仰向けになっている彼女の身体は、生身だった頃よりもさらに美しく洗練され、官能的に変貌した。  素肌は全て人工皮膚に置き換えられ、体表面には産毛やシミのような、人間の肌で悩まされる要素は全て排除されており、目から下は全て無毛になっている。  人工皮膚の肌ツヤは誰が見ても素晴らしく、すべすべとしていて人肌よりも触り心地がよい。発熱機構によって人肌の温度も再現されており、人間らしさを再現する要素は無数に盛り込まれている。  元々同年代の中でも明らかに大きいと言える彼女の両胸は、さらにボリュームを増やしており、乳房内には液体を保存すると同時に柔らかさも担保する人工乳腺の機構が備わっている。  容姿全体で見れば、どこからどう見ても人間にしか見えないが、彼女の首や四肢、女性器ユニットにはとてもうっすらとした分割線が走っており、それはその部位が取り外し可能であることを示している。  琴美にもそれは存在していたが、カモフラージュの処置をしていたのもあって、6年間気づかれることはなかった。  生身の頃とは変わらないように見えても、あらゆる部分が生まれ変わっている恵里菜。  様々な動作テストが重ねられた上で改めて起動され、彼女自身の声ではない汎用的な電子音声で、システムメッセージを喋り始める。  その様を、スーツと下着を脱いで全裸になっている琴美と理恵が見つめていた。 「ストレージ内に参照可能なデータが確認されました。システムへの適用を開始します…………適用が完了しました」  記憶データや人格データ、恵里菜の声をもとに作成された音声ファイルなど、柴村恵里菜という存在を形作る数々の要素を構成するデータが適用されると、彼女の声は汎用ボイスから、感情が感じられないだけの本来の声へと変化した。 「システムチェック………………完了しました。人格エミュレートを開始します……………………」  人工皮膚と金属骨格に遮られてほぼ外には聞こえない電子頭脳の動作音を鳴らしながら、彼女の人格が呼び起こされると、無表情だった恵里菜の表情は徐々に元のそれを取り戻し、ゆっくりと起き上がった。 「ここは……あれ、あたしどうなって……! そうだ、確かいきなり捕まって……」 「よかった、正常に起動したのね、恵里菜。とっても嬉しいわ。不具合なく起動して、これで私とお揃いね」  目が覚めると共に、意識が落ちる直前のことを思い出していく恵里菜。  冷たい台の上で全裸になっており、身体も頭も不思議とすごく軽くスッキリとしているが、それ以上に自分に起きた出来事への怒りや戸惑いの方が強かった。  そんな彼女が無事起動したことを、琴美は擬似人格の底から喜び、いつもの琴美っぽい微笑みのまま近づいた。  優しい声で機械に生まれ変わったことを祝福し、触れようとした瞬間、恵里菜は軽蔑の目で睨みつけてその手を振り払った。 「触らないでよ! 偽物のくせに、お母さんヅラしないで! あたしの前に現れな…………上位機体の命令により、人格エミュレートを停止しました」  怒気を込めた声で反抗し、母親もどきを拒絶する恵里菜。  しかし、最後まで自分が言おうとしていた言葉が、理恵からの操作によって遮られ、上半身を起き上がらせた姿勢のまま再び無表情になった。 「修正前の人格データが参照されてしまったみたいですね。参照先を変えて、正しい状態で起動してもらいましょう」 「参照する人格データが変更されました。設定が適用されました。人格エミュレートを実行します………………」  恵里菜の電子頭脳内には、本来のそれに最も近いオリジナルの人格データと、そこから機関側が改竄を行い調整した人格データの二つが存在する。  システム側が最初に前者を選択したことで、琴美や突然告げられた事柄に対して否定していた方の、本来の人格が出てしまい、琴美の手を振り払った。  オリジナルのデータは必要だが、あくまでそれは基幹になるものであり起動する必要はこれからもないと判断している理恵は改めて、コピーされた上で改竄された人格の方を起動させた。 「…………あれ、お母さん?」  別の人格で起動した恵里菜は、先程よりも敵意や忌避感が無く、純粋に今自分がどこにいるのか戸惑っているような印象を受ける。  しかし、そこに偽物だった琴美への敵意はなく、むしろ好意を抱いているような表情で手を伸ばし、同じく自分から抱きに行く機械仕掛けの母親と抱き合った。 「よかったわね、恵里菜。全身機械化は無事成功し。これで晴れて、私と一緒に戦闘が可能となるの」 「良かった……あたしね、実里のために戦う。初めて聞いたときはビックリしたけど、国のためであり実里のためになるのなら、お母さんと一緒に喜んで行動するわ」  改竄された恵里菜の人格は、琴美への好感度が強制的に最大値付近になるように調整された上で、死んだ母親をかたどった機械人形であることにも気にしないように設定されている。  他者に対しての感情が数値で調節できるようになった以上、嫌悪も好意も思いのまま。自分以外にも、上位機体として設定された理恵の手にかかれば、恵里菜の他者感情は全てコントロールされるようになっていた。  台の上から降り、お互いの同じ材質の人工皮膚を触れ合わせ、両乳房が潰れるほどに抱き合う二体。 「ん……っ…………んん………………」 「ぅ……ん…………ん………………」  ピンク色の艶めかしい乳首同士が触れて、お互いの電子頭脳に快楽信号が響く。  彼女達の身体には、唇や乳首、乳房、女性器ユニットやアナル内部に無数のセンサーが仕込まれており、そこに刺激が伝わると快楽信号として発信され、人間だった頃よりも何倍以上もの快感が発生するようになっている。  そんな性感を覚えやすい機械の身体は、まるでセクサロイドのよう。思わず恵里菜も疑問を抱かざるを得ない。 「ちょっと……お母さ……ん…………あたしの身体、こんなに感じな……いはず……あっ…………」 「あっ…………ん…………私達の身体にはね、人工皮膚下にセンサーが搭載されていて……あっ……特に性感帯として設定されている、あっ……箇所には、より多く搭載されてるの……これは、敵対する機体を相手にする時も、普段でも、あっ……必要になる機能なの……ん…………」  固くなった乳首同士が擦れ合い、両胸が潰れ、絡み合う様はだんだんエスカレートし始め、まるで母娘の愛情共有とは思えないようなスキンシップへと変わり始める。 「あっ……ぁぁ…………ん…………お母さん…………あたし、機械の身体……生まれ変わって……よかった……あっ! あたし、実里の、こ、こと……絶対にま──────」 「ああっ……ぁ…………大好きよ、恵里菜。私達、恵里菜の、あっ、母親……な、なんだもの…………私達は、あっ、実里の、あっ、護衛機体として……あんっ、外敵を、排除し────────」  それぞれの人格が多量の快楽信号に押し流され、このまま身体を重ね合わせて行為に入ってしまいそうになった瞬間、理恵は両者の電源を遠隔操作で遮断し、その動作を止めてしまった。  頬を染めて蕩けそうな表情で停止したニ体は、とろんとした瞳から光が失われ、まるで前衛的なオブジェのような姿で硬直した。 「ひとまずこれで、実里さんの護衛機体は確保できたわけですが、まだまだ保護しなければならない方々は無数にいますからね……果たしてどれだけ守りきれるやら。バックアップと修理が利くからこその機械化ですし、だからこその働き、両名ともに期待していますよ。この国の未来のためにも、お二人の大好きな家族のためにも」  これから彼女達は、今までの日常の中を過ごしながらも、表には見えなかった裏の世界の戦いに身を投じることになる。  それそのものは半ば強制的であるが、いくらでも改竄できる電子データである彼女達の人格は既にそれを受け入れている。正確には、恵里菜はそれを受け入れるように既に調整されていた。  激励に近いような言葉を、自分達の上位機体から受け取るが、電源を切られ展示物のマネキンと化した二体には一切届かない。  こうして、柴村家の母と姉の、稀代の天才と謳われる妹をあらゆる勢力から護るために戦い、壊れ、修復され、乱れる新たな日々が始まったのであった。


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