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土装番 from fanbox
土装番

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愛する妻はどれだけいたっていい 1話先行公開版

 現代よりも離れた未来の時代。各種テクノロジーや生命科学が、様々な障害に阻まれながらも時代を経て著しく発展し、人類社会はさらなる進化を遂げた。  街中には、人間そっくりで美しい容姿を持ち、人間のように動く機械人形、アンドロイドが同じ住人として稼働し、人と機械が入り混じる世界となっていた。  それに並行して、人間はそんな優れたアンドロイドという存在に近づくように、生身の身体を機械に置き換える機械化技術を発展させていった。  その先で人類は、ついに脳まで含めた人体の完全機械化に成功。肉の身体と金属の身体、それぞれを選べる自由の時代へと突入したのだった。  これは、そんな生身を捨て去る自由も得られるようになった時代に生まれた、とある機械化の研究者とその妻の話である。 * * *  とある島国の首都から隣接した隣のある県に存在する、県境から比較的近い場所にある街。  首都から電車一本で向かうことのできる綺麗な外観の駅を中心に各種施設が建てられ、人が住むには困らない程良い環境。周囲は様々な建造物がありつつも、高層の建造物は見当たらず空が晴れ渡っており、遠くには自然の山々がそびえ立っている。  そんな、自然と人間の領域にきちんと境界線が作られながらも隣接したその街のとある大きな一軒家に、ある夫婦が暮らしていた。 「家にいる時くらいはちょっと休んだらどうですか? 何のための家がわからないでしょ」 「ここはやっておきたいってところがあるからさ。それから休むよ」 「そう言って今まで何時間も使ってたの、何度あったかしらね……」  男の名前は加藤総司。この国で人体の機械化を中心にした研究を行っている人物である。  研究者としては非常に若く、現在26歳。その頭脳と研究成果が評価され、各種巨大テックの支援を受けた研究所にて働いている、機械化工学や技術に非常に精通した人物である。   そんな彼の妻である女性の名前は加藤美香。年齢は25歳で、元々は機械化とは関係のない業界で働いていた人物である。  中央で髪を分けて額を晒した、少しだけブラウンがかった黒の美しいセミロングヘアーに、お淑やかさと落ち着きを宿した大人の女性的雰囲気を宿しつつも、どこか堂々とした芯のある雰囲気も感じさせる、それぞれのパーツがスッキリとしていて非常に整った類まれなる美貌。  身長は女性の平均よりも高く全体的に細身だが、しっかりと筋肉がついて引き締まった姿をしている。  それでいて、部屋着の下から盛り上がる乳房はボリュームがあり、服の下から突きだす姿を現実にするようなハリを持ちつつ柔らかな弾力も持っていた。  くびれや、脚のラインはとても美しく、部屋着やエプロンの上でもそのボディラインの綺麗さがハッキリ感じられる彼女の姿は、まさに美女という言葉を体現していた。  そんな二人は、元々お互いに出会うキッカケは一切無かった。  しかしある日、現在二人が暮らしている街とは別の、首都内のレストラン内で偶然出会った。  どうしても席が一気に空かず、相席なら入れるという状態になった為、それでもいいと言って案内された席で二人が一緒の席になった。  最初は軽く申し訳無さそうに頭を下げるだけだったが、総司側のうっかりがちょっとしたキッカケとなり、そこから二人は話し始め、打ち解けていった。  その時点で両者はお互いに惚れ合っていた。  それから二人は食事の後で連絡先を交換。メッセージのやり取りから徐々に仲を深め、次第にさらに惹かれ合うようになり、しばらく何度かのデートを繰り返していった先で、二人は恋人同士となり、その後結婚にまで至った。  美香はその後仕事を辞め、総司の自宅で専業主婦として暮らすようになり、彼へのサポートに徹するようになった。  総司の自宅は二人暮らしとして使うにもかなり広く、それぞれの個室や広めのリビング、空間を多く取られ湯船も大きなバスルーム、大きめの倉庫に緑に満ちた庭から研究用の地下室まで、贅沢づくしとも言えるような一軒家となっていた。 「あら、珍しく言ってた通りに終わりましたね。お疲れ様」 「今日は結構順調だったからね……」  しばらくして、リビングのソファで休んでいた美香のところへ、疲れからか少し足取りがぎこちない総司が横にずっしりと座り込み、身体を妻の方へと傾けた。  とてもくたびれた表情でぐったりとしている夫へ、彼女は微笑みを向けつつ優しく頭を撫で、腕を回して敢えて左乳を枕にするようにしてあげた。 「研究所でしっかりやってるんですから、こっちでも根詰める必要ないんですよ?」 「頭の中に浮かんだことすぐ試さないと蒸発しちゃうからさ……試すでなくても最低限ちゃんとメモとらなきゃ」 「ふふ、相変わらず頑張り屋さんですね。仮眠とってもいいんですよ」 「………………少しだけなら」  数分程度休憩するつもりだったが、総司は彼女の優しいいたわりと思いやりに少し絆され、言葉に甘えて少し眠ることにした。  美香はそんな彼が体重を任せたところでそれを受け入れ、少し体勢を変えてあげつつ、より自然にかつ力を抜いて寝られるようにして、頭を撫でてあげた。  疲れた夫が安らかに眠る姿に、落ち着く気持ちが生まれてくる。それからしばらく、彼が自然に起きるまでの間は、受け止める役を引き受けたのだった。  そんなお互いに愛し合い支え合っている夫婦だが、愛情も分かち合っている。 「あっ、あっ! ああああああっっ!! …………総司……今日も激しいですね……ん…………」 「ふぅ…………っ………………美香こそ…………ありがとう、気持ち良かった…………」 「ん…………総司こそ…………ふふ、こうしてる時が、より愛し合ってるって感じがしていいですね…………」  夫婦両者ともに、人々の平均よりも性欲が強く、度々ベッドの中でセックスを行い、すぐ溜まる性欲を発散して愛し合っていた。  二人はいつも別々の部屋で寝ているが、性行為を行った日は、使用したベッドの中で抱き合いながら夜を過ごす。  まだ子どもは作る段階ではないとお互いに思い合い相談したのもあって、きちんと避妊はしているが、それでもその気持ちよさは、愛し合うもの同志なのもあって格別な者になっていた。  気持ち的にも、肉体的にも、夫婦は心の底から愛情を共有し、順風満帆の生活を営んでいたのだった。  しかしそんな幸せな日常の中で、ある大きな変化が訪れることになる。  いつもと変わらぬ日常が続いていたある日の夕食時。  美香が用意した夕食をキッチン前のテーブルを囲み、お互い向き合いながら食事を口に入れていく。  今日のメニューはしっかり煮込まれた肉の柔らかい肉じゃがとだし巻き卵。どれも総司の大好物である。  よく自分の好物を作ってくれていると、美香に対して総司は思っていたが、今日の作り方には妙に気合が見える。  いつもよりだし巻き卵の出汁の香りが豊かで味わい深く、肉じゃがも薄切り肉ではなく少し肉が厚く、さらにホロホロに柔らかく口の中でとろけるような味わいがある。  そんな肉と出汁の旨味が染みたじゃがいもと人参の味も格別で、とにかくご飯をかきこみたくなるような味をしていた。  妙に美味い。間違いなく美味い。故に、何かあるのではないかと内心で勘ぐる総司。 「美香、今日のご飯、いつも以上に美味しい気がする」 「…………ありがとう、総司。実際、今日はいつもより気合を入れて作りましたから」  やはり、より美味しく作ろうとしたのは間違いなかった。だが問題はその後。何かあるのか、はたまた気分の問題なのか。  そう考えていたその時、美香はまだ食事の途中にも関わらず、箸を置いて総司の方を向いた。  総司は思わず、やはりと身構えた。 「……総司、あたしね…………全身機械化してみたいと思ってるんです」 「…………えっ」  それは予想外の言葉だった。てっきり何か言えなかったようなことや秘密を切り出されるのかと考えていたが、実際に伝えられたのは、全身機械化をしたいという話だった。  総司は思わず目を丸くしたが、同時に生唾を飲み込んだ。 「いきなりどうしたんだ? そんな素振りちっとも見せてなかったのに」 「うん、あたしも以前はそんな事考えてなかったですし、総司と出会うまでは選択肢に入れたこともなかった…………けど、そこそこ前から気にはなってたんです。買い物に行く度にアンドロイドの方や機械化した方がいて、綺麗だなー美人だなーって思ったり、すごくスムーズに動いてたりで。ちょっと憧れだしたりして」  実際、美香は以前まで本当に、機械化するという選択肢は一切存在していなかった。  その事実をもとに、彼女は次々と素直にそのキッカケを話していく。 「最近ね、首都の方にちょっとお出かけしたときにも、前は意識してなかった機械化の大々的な広告とかも気になっちゃって……ほら、総司も見たことあるでしょう? 綺麗なモデルの人が、頭だけ人工皮膚を貼られてて首から下は機械の身体晒してる広告。映像で動いてる姿がしなやかで綺麗で……今見るとこんなにすごいんだって気づいたんです」 「…………うん、僕もあの広告関わってたからね」 「それに、機械化するとあたしの身体に色々と機能も盛り込めるし、家電との無線接続機能も頭で出来るから、もっと家事や日常で便利になるかなと思ったから…………なにより、あたしには総司がいるんですから、もし壊れてしまっても安心でしょう?」  ここしばらくの間に新しく生まれた憧れを一通り語った後で、最後に彼女は総司という存在への強い信頼を口にした。  それは反則だと思いながらも、少しの沈黙の後で彼は改めて聞き返す。 「美香はそのままでも美人だろうに。けど、理由は本当にそれだけ? 他に何かあったりするんじゃ」 「疑ってるんですか? 全部本当のことなのに……それとも、他に何か理由が必要ですか? 『総司の為に役に立ちたいし自分の為に綺麗でありたいな』っていう理由以外に」 「…………いや、そういうわけじゃないけど…………わかった。正直、美香が機械化したいって言ってくるとは思わなくてさ、ビックリしたんだよ。それに、夫が研究者だからってそうしないといけないってわけでもないからね」 「ふふ、分かってますよ。だからそういうことじゃありませんって」   まだ何かあるのかもと疑ったことを謝罪しつつ、総司は妻からの相談と提案を受け入れた。  だが総司は、内心、この場で全力で飛び上がりたいくらいに喜んでいた。  実は彼はずっと、美香には全身を機械化してほしくてたまらなかった。その本心をずっと内に秘め続け、漏れ出さないように我慢していたのだった。  ほんの一部の同好の士以外には話していないが、総司は元々、そういう趣味と性癖の持ち主である。  機械仕掛けの女性という存在に興奮し、人工皮膚の下に機械の中身が詰まった女性という概念をもとにした様々な事象に対して強い興奮を覚える人物だった。  人間だった頃のデータが改竄される姿や、自ら人工皮膚を引き破る姿、普段人間らしい振る舞いをしながらも機械的な言動を行う姿や、バラバラになっていても平然と動いている上に性的興奮を感じているような姿、さらには壊れてエラーメッセージを発しながらカタカタ痙攣する有様。  他にも様々な状態に情欲を抱く。そんな倒錯した性癖を持っていたのだった。  今まで出会った中でも群を抜いた美女である美香と出会ってから間もない頃にも、この人の中身が機械だったら、という思考がよく割り込んできていた。  親密な仲になってからもそれは変わらず、メンテナンスをしてみたい、女性器ユニットを弄ってみたい、頭部だけで会話してみたい、妻の内部機構やデータを弄ったりなど、常日頃から妄想が止まらなくて仕方がなかった。  それを抑えながら暮らしていたが、まさか自分からそんな妄想を実現するようなことを伝えてくるとは夢にも思わず、一瞬脳がフリーズしてしまっていたのだった。  改めての意思を、研究者としてちゃんと聞いておきつつも、彼に断る理由は一切ない。むしろ大歓迎。  そうして、この話の流れが本当であったことを、彼は強く、強く喜んだのだった。 「…………じゃあ、いつ頃予定する? どのプランとか、どこのサービスで機械化したいとかはもう決まってる?」 「大まかにはだけど、完全には決まってないかな……自分なりには調べたけど、やっぱり専門家に改めて聞いてから決めようかなと思って」 「間違いないよ。中には粗悪な部品で機械化しようとするとこもあったりするからね。まずは候補を聞いてみたいから、今決めてるものを見せてもらっていい?」 「もちろん、ちゃんと用意してますよ。自分なりには調べたけど、最終的な決定はやっぱり二人でやる方がいいなって思ってましたから」           二人は夕食を進めながら会話を交わし合い、食事を終えたあと、まるで家を決めるかのようにカタログやタブレット端末に映る様々な機械化に関する情報、関連商品、周辺機器、どこの機械化サービスがより良いかなどを相談していった。  生身の身体を捨てて新しい機械の身体へと生まれ変わる。生まれ持った身を乗り換えるというのはそれ程に大きいことなのである。  愛し合う者同士で次々と予定を組み立てるように話し合い、そして二人は、これから先に待ち受ける大きな予定の一つを組み上げたのであった。            そして、様々な話し合いや手続きを重ねてしばらくの時が経ち、ようやく決定した美香の全身機械化手術当日。  全身のスキャンから女性器の内部構造の型取り、子宮の形状の確認、現在の髪型の三面図保存からの全身剃毛と、機械化を行うにあたって必要な処理が済ませられた上で、ストレッチャーに乗せられていた。  彼女の姿はまるでネイキッドの人形のようだが、それでも女性としての美しさが損なわれていない姿から、彼女がどれだけの美貌と体型を持っているかが伺える。  美香が手術室へ運ばれようとしているその横で、総司が優しく手を握っていた。 「今の気分はどう?」 「…………本音を言うと、ちょっと怖い。これから本当に変わるんだと思って……」 「大丈夫。きっと成功するよ。今回は僕も事前準備には関わらせてもらったからね。目が覚めたらもう機械の身体になってるはずだから」 「……ありがとう、総司」  その言葉を最後に、美香は手術室への移送が行われた。  必ず成功するとはいえない。だが、自身がずっと関わってきた世界だからこそ、プロが行う機械化にどれだけ細心の注意がはらわれているかを知っている。  故に、99%の成功を信頼していた。それを美香にきちんと説明し、不安の種も削いできた。  あとは結果を待つのみ。廊下の先へ向かっていくストレッチャーを見送りながら、総司は心の奥底で湧き上がる興奮と、確実な成功を祈る気持ちを織り交ぜながら、手術が終わる時を待つのであった。  こうして、加藤美香の人としての生は今日、終焉を迎え、機械としての時が始まろうとしていたのであった。 * * *  長時間の待ち時間の後、総司は機械化希望者にその日それぞれ割り当てられる病室のような待機室へと呼び出された。  それは、美香の完全機械化手術が終了したという合図。彼はすぐに立ち上がり、生まれ変わった妻の待つ部屋へと向かった。  そこには、自身も機械化を完了させている女性スタッフ二人、そして、ベッドの上で仰向けになってシーツを上から顔以外に被せられている美香の姿があった。   「総司さん、奥さんの手術は無事完了しましたよ。まさか、総司さんがこちらに来るとは思っていませんでした」 「ここが一番信頼できますからね。本当にありがとうございます。妻を任せて正解でした」  何度か共に仕事をしたことのあるスタッフと軽い会話を交わし、感謝の礼をした後で妻の側に近づく。  まるで眠り姫のような様の美香は、表皮が人工皮膚へと張り変わったことで、元々色白気味だった肌がより真珠のように美しくなり、キメ細やかな樹脂製の美肌へと生まれ変わっていた。  人間だった頃の顔をそのまま完璧に再現された顔は相変わらず美貌という言葉が似合う造形をしており、睫毛や眉毛、流れるような頭髪も全て人工毛によって再現され、より頑丈で、艶めくさらさらとしたものへと変わっていった。  シーツから飛び出している首には、取り外し可能であることを表す継ぎ目が走っており、それが機械の身体となったことを証明している。  シーツで隠れている身体では、肩や股関節、鳩尾や女性器ユニット部分にも継ぎ目が入っているが、電子頭脳が格納されている頭部にも、髪で隠れている人工頭皮の後頭部部分にうっすらと継ぎ目があり、後頭部カバーが開放されるようになっている。  美香の顔に手を近づけると、鼻や口からは呼気は一切感じられず、まるで死んでいるように動かない。どこに触れても脈は感じず身体も冷たいが、人工皮膚の柔らかく心地よい感触が手のひらに伝わってきた。  その様はまるで、美香の形をしているだけの精巧な人形。しかしそれこそが、紛れもなく美香本人なのである。   「では、奥さんの電源を入れてあげてください」  この時代では、全身機械化手術を行った人物は、一人の場合はスタッフが電源を入れるが、配偶者がいる者は希望次第で、指定した人物に電源を入れてもらうようにリクエストすることもできる。  今回はお互いの了解のもとで、総司が電源を入れることになった。  とても慣れた手付きで首筋にある皮膚カバーに手を付け、爪を引っ掛けてそれを開くと、複数の端子と電源ボタンが並んだパネルが姿を表す。  電源ボタンを規定時間まで長押しし、手を離して妻の顔を見ると、頭部や胴体から、人工皮膚によって大幅に遮られた、静かな待機室だからこそ聞こえてくるわずかな動作音が鳴り、ゆっくりと美香の目蓋が開かれた。 「…………電源の入力が行われました。筐体登録名 加藤 美香 起動します…………各種ハードウェア接続確認、ファイルチェック実行中………………」  美香の視線は天井を向いたまま、誰もいない方向に向かって口を動かし、確かに人間だった頃と同じ美香の声でシステムメッセージを喋り始めた。  その淡々としていて感情を一切感じられない声色は、出会ってから一度も聞いたことがなく、まさに機械のシステム側に喋らされているような声。  機械に生まれ変わったからこそ付与された新しい無機質な一面に、総司は密かに胸を躍らせていた。 「起動シーケンスが完了しました。人格エミュレートを実行します………………あれ、ここは……戻ってきたの?」  淡々とアナウンスするような言葉を美香の声で喋り続け、機械として動き始めるまでの時が進んでいく。  眼球が上下左右に動き、ピントを合わせる為に絞りが細かく動作し、小さく全身が震えて、内部から鳴る動作音が少しだけ強くなる。  そして、全ての起動準備が整い、電子データとなった美香の人間としての人格が起動すると、それまで量産された安価なアンドロイドのような感情の感じられない表情だった彼女の顔に、柔らかな表情が宿り始めた。  機械化手術の際、一度動作テストとして人格データが起動される為、その時の記憶データが残っている。  ある意味辱めにもなる記憶ではある為、希望次第で削除も可能だが、彼女の場合はそれを残していた。  その為、ずっと電源を切られていたことから、まるで一瞬にして全てが終了したかのように感じられたのだった。  テストルームから突然、手術前の待機室に戻ってきた認識の美香。周りには看護師姿のスタッフと、安堵と嬉しさの両方が宿ったような顔をしている総司が、起動したばかりの彼女の手を握りながら顔を近づけていた。 「よかった……手術はちゃんと成功したよ、美香」  今まで何度も、夫は手を握ってくれたことはあったが、今日は特に力が入っているように感じられた。  何より、人工皮膚下に備わったセンサーが細かな力の変化まで感じられ、より繊細な感覚が伝わってくる。  今まで知っている感覚がまるで進化したような新鮮な体験に驚きながらも、美香は起動したてでまだ人肌以下の体温をしている手で握り返した。 「あなたがきっと手術は上手くいくって言ってたんじゃないですか……そんなに喜んじゃって」 「そうだけど、それはそれとして成功は嬉しいからさ。こういう時に限って万が一が起きたりするものだし」 「ふふ、結局は心配症ですね……総司の手の感触、とってもしっかり伝わってきますよ」  より鮮明でかつ、視覚の調節も可能になった便利な視界に、手を握っただけではっきりと違いのわかった触覚。  人間に備わった基本的な感覚に起きた変化は、機械化の実感を発生させるには充分すぎるものだった。  頭の中の思考も、どこか素早く整理でき、クリアになったような気がする。機械になったのに感覚的だという有様が不思議なようにも感じられるが、美香は今、生まれ変わった状態を強く体感していた。 「…………改めてよろしく、美香。今日は新しい記念日にしとこう」 「そうですね、あたしもそれがいいと思います。早速、ちょっとカレンダーアプリにメモしておきますね。えっと……あった。うわあ……すごい……本当に頭の中で操作できてる……!」  今まで手元で行っていた操作が、全て頭の中で完結する。周囲にそれらしい機器はないのに、今まで画面を通して見ていた挙動が脳内で行われている。  まるで新しいガジェットを使い始めて間もない頃の体験の究極系のような様。二人は手術が全て終了してすぐに、新しい景色と体験を分かち合った。  こうして、美香の完全機械化手術は成功に終わり、新しい夫婦生活の幕開けとなった。    機械化手術を終えたその日の夜。二人が帰宅する頃にはすっかり一日の終わりが近づき、あと二時間も経てばいつもの就寝の時間になるかどうかという頃。  人生に於ける一大イベントを終えたばかりだが、総司たっての希望で、一旦美香と一緒に地下の研究室へと趣き、作業台の上で仰向けになって乗ってもらっていた。 「あたしが何か手伝ったりとかは……」 「大丈夫だよ美香、そのまま寝てて。一応ちゃんとこの目で見ておきたいだけだから。構造図のデータはもらってるけど、実際にどうなってるかを直接見ることは大切だからね」  建前上は、一度それぞれのパーツを取り外して状態を確認し、いざ自宅内で修理する際の判断材料にしたいという理由で、完成したばかりの美香の身体に手を付けることを許してもらった。  本音は、生身のない機械の身体へ生まれ変わった愛する妻の姿や中身を、今すぐにでも間近で見て、感触や挙動を感じたい。  建前の理由もあながち嘘ではなく、何かしらの予期せぬトラブルで破損やエラーが生じた時にすぐ動けるようにするのは大切なこと。  だが、彼自身の気持ちの傾きは、建前が3で本音が7。とにかく、美香の機械らしくなった姿を見たくて仕方がなかったのだった。 「保険は入ってるにせよ、こっちで出来ることはしておくに限るからね」 「そうですね……そういうのも含めて、総司にも相談し……新しいデバイスとの接続が確認されました……ましたからね。えっと、この新しいデバイスからのアクセスを許可すればいいんですよね?」 「そうそう。それでバックアップを取れるようになるからね。登録も忘れずに」 「不思議な感か……新しいデバイスからのアクセスを許可しました。デバイスの登録が完了しました……くですね。頭の中で動かしたことが現実にも影響を及ぼ……バックアップデータの作成を開始します…………すなんて」  研究室に設置されたデスクトップ端末から伸びるケーブルが接続され、普通に話している最中にシステムメッセージが割り込む美香。  彼女自身はいつも通りに話している感覚で、システム側からの音声を喋っているという自覚はないが、直後の変化は認識できている。  度々声の感情が死んではすぐに戻ってくる様も、人間にはありえない様で、見ていて心が擽られる。  話している間にも、妻の電子頭脳内に詰め込まれた、産まれた時から現在までの全データのバックアップが作成され、いつ壊れてもいいように自宅内でも保険を作っておく。  その間に、総司は妻に指示をしながら、次々と各部位の取り外しを行っていった。 「右腕部ユニットの物理接続が解除されました。無線接続に変更します。左腕部ユニットの物理接続が解除されました。無線接続に変更します…………不思議……繋がってないのに、腕がちゃんと動いてる……」  四肢が外され、上半身と下半身が分割され、首が外される。  それぞれの身体が無線で繋がり、遠隔操作状態となった美香の姿は、さながらバラバラ死体だが、全てのパーツが問題なく動かせている状態が、彼女にとってはあまりにも新鮮な体験となった。  肩は動いているが、腕が一緒に動いている感覚はなく、股関節を動かしても脚が動いている気がしない。  その代わり、剥き出しになった金属製の関節部の断面から、きゅいい、ういい、と機構剥き出しの動作音が鳴り、無機質な挙動を起こしていた。  肩や股間を動かしても手脚が連動していないのに、なぜか膝や肘が曲がり、手首足首がきちんと回る。  人としては矛盾しているのに機械としては矛盾していない。美香は思わず、子どもの頃に手をつけていた人形を扱うような楽しさを覚えていた。 「美香、今はどんな気分?」 「なんて言えばいいのか……快適で身体が軽いんだけど、動けなくて奇妙というか……」   「生身の身体にはありえない機能だからね。じゃあ、これはどうかな」  関節機構を空回りさせ、美しい肢体の動作が空を切る様は、まさしく壊れたアンドロイドがあがく様のよう。  これまでも研究の一環で、間近でそのような姿を眺めたことはあるが、愛する妻であることに大きな意味がある。  身体全てを自由に扱える部品であるからこそ出来る、機械にしか出来ないことを体験させてあげたい。同時に、分割された状態で佳がる様が見たい。  総司は、デスクトップ端末から操作を行い、女性器ユニットの取り外しを行った。 「女性器ユニットの物理接続が解除されました…………ん……総司、何をやってるの……?」  機械化した相手側からの許可があれば、別の端末から身体の操作が行えるようになる。それを利用して、美香の股間から女性器ユニットの接続を解除すると、彼女の外性器が前面に飛び出し、隙間からまるで肉の筒のような膣ユニットが姿を曝け出した。 「美香が機械化した時は是非ともやってみたいと思ってさ。これをやってほしいって言う被験者の人も結構いたんだよね」  無線接続に切り替わった女性器ユニットを掴み、股間からずるりと引っ張り出す総司。  ピンク色の卑猥な筒の先には、卵巣と卵管を除いて生身だった頃の形状をそのまま模した子宮ユニットが繋がっていた。  彼の手の中で、まるで生きているかのようにびくっ、と震える女性器ユニット。  他の器官よりも意図的に多くセンサーが仕込まれており、軽く握っただけで震えだすと同時に快楽信号が発生し、美香の電子頭脳へ快感が無線経由で伝わっていった。 「あんっ! ち、ちょっと……恥ず……かしい……ん……あっ…………」        自分の大事な箇所が外れた上に、それが夫の手の中に収まっているという異常な光景に、美香の顔は一気に赤くなり、恥ずかしさが湧き上がってきた。  自分でもまじまじと見たことのない、膣内の形状や割れ目の部分まで忠実に再現されたパーツが、いかにも気持ちよさそうに夫の手の上で震えている。  彼女の予想の中には全く出てこなかった非現実的な光景に、思わずちょっと、と引き止める声が出そうになったが、その恥ずかしさは、彼が軽く膣ユニットを握った瞬間に生まれた鋭い快楽信号に塗り替えられた。 「あんっ! ま、待っ……総司……ぃ……きもちいい……いきなり過ぎて、心の準備が……ああっ!」  玩具を扱うようにちょっと揉みほぐしただけでも、美香の電子頭脳に鋭く激しい快楽信号が伝わってくる。  これまで何度も、愛情に満ちた性行為を交わし合い、気持ちいい感覚を感じてきたが、ここまで直接的で気持ちを掻き荒らすような快感を受けたのは初めてだった。  内側から脳天に突き抜ける幸福感が思考を痺れさせ、分割された全身がそれぞれに震える。  突然の特大な性感にビックリしたのも無理はない。総司は一度刺激を止めてあげると、美香の左手がそれを止めるかのようにぱんぱんと台を叩いた。     「ち、違うの……やめ、ないで……でも、まだ心の準備が……ああんっ! あっ、あんっ! 総司ぃ……ああっ! これ、が……機械の身体の、気持ちよさ……なんですね……あああっ!」           驚きはしたが不快ではない。むしろ、これまでの肉体行為や人間だった頃の自慰行為のそれを超える性的快感は、彼女に新しい衝撃を刻み込んだ。  ころん、台の上で転がる美香の頭部は、頬が赤く染まり恍惚に染まっている。自分でも弄りたそうに、無線接続で繋がっている右手指がいやらしく動いているが、無線接続で転がっている腕は単体では這うようにしか動けない。  ぐにぐにとピンク色の樹脂肉を握っては揉み込み、追加で陰核を弄り、妻に生身では生きた脳が焼ききれてしまいそうなくらいの快感を与える。  子宮ユニットが呼吸をするように伸縮を繰り返し、割れ目や陰核がいやらしくひくひく動く。  刺激すればする程バイブのような振動は増加し、分割されたそれぞれのパーツが別々の恍惚的な挙動を起こす。  妻の淫らで非人間的な様子をにやけつつ眺めながら女性器ユニットを弄り続けるうちに、まるで膣内から叫びたがっているように割れ目をぱくぱくと激しく開閉した。 「あっ、あんっ! そ、総司……ぃ……あっ、あ、あ、あっ! あんっ! あ、あ、ああっ!! も、もう……い、イく……あ、あ、あ、あああああああっっ!!」  そして、容赦なくセンサーの集合体とも言える女性器ユニットへの刺激を継続した結果、美香は機械の身体となって初めての絶頂に達し、隠れたノズルが見える尿道や膣口、膣ユニットや子宮がびくびくと動き、どれだけ気持ちいいのかを明快に表現した。  本来ならば愛液代わりの人工体液が排出されるが、無線接続で繋がっている女性器ユニットは何の液体も分泌されず、ただただ乾いた生殖器が官能的に動き続けていた。 「あっ……ぁ……ぁ……ぁぁ……」 「……どう、美香? 気持ち良かった?」  これまでは、知らない他者である女性の反応を確認するばかりだったが、妻は一体どんな言葉を返してくれるのか。  快楽信号のピークを越えて、各パーツごとにバラバラでいやらしい振動を全身で起こしている美香に質問をぶつけると、彼女は少し落ち着いてきたところで口を開いた。   「ぁぁ…………ぁ…………う……うん…………こんな……感覚なんだ…………あっ…………」 「よかった。それなら何よりだよ。正直なところ、美香がどんな気持ちだったかとても気になってたんだ」 「ふふ………………そう……なの…………ん…………」  電子頭脳が快楽信号を処理し、それを人格エミュレートに反映させる。  一連の処理は無事に正常に働いており、誤作動やエラーを起こしている様子はない。生じた快楽信号は、純粋に妻の全身を見事に痺れさせていた。  だが、彼への態度が徐々に変わり始める。落ち着きを取り戻してきた右腕が関節を曲げ、手のひらでばんばんと、自分を乗せた台を叩き始めた。 「………………けど、いきなりこんなことして…………びっくりした…………あっ…………まだ身体のこと全然……わかってないのに…………」   それまで悦楽に満ちていた美香の声だったが、次に宿り始めたのは憤りだった。  そういうことをするという合図もなく、不意打ちで電子頭脳や全身を掻き乱した。身体中がバラバラにされた状態では反撃も止めることもできず甘んじて受け入れるしかない。  それが彼女にとっては、ちょっと許せない気持ちになった。女性器ユニット弄りの快感よりも、せめて事前にこういうことやると言ってほしいという憤りが勝ち始めていたのだった。 「ご、ごめん! どうしてもやりたくて我慢できなくなっちゃってさ………………ごめん、それ以外に何も言えないんだ……機械の身体で体験できる快楽信号を知ってもらいたいっていうのもあって……」 「…………ま、まあ……あたしも、気持ちよかったから……そんなに、攻めるわけじゃありませんし…………こんなに気持ちいいこと、生まれて初めてだったから…………」                     夫の態度は、今までの経験からしても間違いなく反省している時のそれであり、申し訳ないとちゃんと思っていることは感じられた。  夫がどういう人物か。研究者なのもあってそういう気質があるのはわかっている分、本当に純粋にそこまでしたかったんだという気持ちを汲むことはできた。 「それじゃあ……今度からこういうことする時は、事前に言ってね……あたしも、嫌だったわけじゃなくて……その……気持ちよかったから……」 「……! ありがとう美香……じゃあ次は明日に!」 「明日はまだダメ! もうちょっとこの身体に慣れさせてほしいから……」    生身の人間のままでは不可能な、機械仕掛けになったことで全身で味わった新たな体験は、二人の仲をより強く固くし、新しい領域へと踏み入れる結果となった。  美香も内心、こんな世界があったなんて……と、未知なる感覚に身を任せることができたことは、まだ短い機械化後の時間の中でも大きな足跡となった。  こうして、機械に生まれ変わり第二の人生が始まった妻と、機械仕掛けの女性が大好きな夫の夫婦は、今までの生活とは様変わりした新生活を共に歩み始めるのであった。  しかし、総司のどこか倒錯した愛情は、普通の夫婦とは違う奇妙な道へと反れることになる。 * * *  美香が機械化してから二日程経過した頃。  彼女は早々に身体の扱いにすっかり慣れ、多機能ガジェットと化した己の身を見事に使いこなせるようになっていた。 「ふふ、ちょっと便利くらいかなと思ってたけど、ここまで快適だったなんて」  現在彼女は、総司が朝食を終えた後の清掃に励んでいる。  以前までは掃除機をかける時、一定範囲を吸い込んだ後はまた掃除機を移動させてコンセントに接続し直し、また移動させてを繰り返していた。  しかし今は、接続プラグを変更して首筋に接続し、自分のバッテリーから電力を供給することで手間を省き、どこでも自由に動かせるようになった。  掃除機も以前よりかなり軽く扱えるようになり、まるでダンベルからスポンジに置き換わったようにすら思える程に軽々と動かしていた。  さらに同時に、電子頭脳内では家事清掃を休んでいる最中に見ていた配信ドラマの続きを視聴しつつ、視覚はきちんと室内を写している。  マルチタスクを悠々とこなし、プログラムに身を任せて自分が今やりたいことを同時にかつ高クオリティでこなす。  機械化による恩恵はこれだけではないが、家事一つにしても、とてつもない改善ぶりを感じていたのだった。 「もうそろそろ終わりそうだし、予定してた終了時間までまだ余裕があるから……まだ洗濯も乾燥まではいけないし、先に庭の掃除に手を出しておきましょう」  一日に出来ることが二倍にも三倍にもなった。最低でもそれ程に感じる。  生身の枷から解放されたような感覚は、彼女に新しい体験を毎日のように与えてくれたのだった。  それとほぼ同時刻。夫の総司は、この日は地下の研究室ではなく、自室に閉じこもっていた。 「最初に取ったバックアップでまずは試してみようか」  妻の機械化後、総司は彼女の手術を行ったサービス元へ、ある大量の荷物を注文していた。  それは、美香の全身分の予備パーツ。頭部、胴体、四肢、女性器ユニットなどの大まかな部品から、電子頭脳や内部タンク類、関節部分のような細かな内部部品まで、数々の美香という存在を構成する物の複製品を購入していた。  名目上は、いつ美香に何があってもいいようにと、修理や破損したパーツの交換を行うためのもの。それそのものは嘘ではないし、そういう理由で了承もしてもらっている。だが、彼の目的は別にあった。  彼は自室で、美香の予備の頭部ユニットだけを倉庫から持ち込み、デスクトップ端末と接続してある操作を行っていた。  それは、妻のバックアップデータをインストールすることである。  今、机に置かれている妻の頭部は、ただその形を模っただけのラブドールヘッドのようなものであり、中身は空っぽ。  目蓋は半開きで、口がぼんやりと力無く開いているが、感触や造形は完全に同一で、触る分には妻のそれに手を付けているのとほぼ変わらない。  そんな頭部だけの存在に電子頭脳を接続し、開かれた後頭部カバーにデスクトップ端末から伸びるケーブルを接続。  研究室にあるものをコピーしてインストールした、機械化初日に取得したバックアップデータをその中に入れることで、美香の形をした頭部は、新たな個体の美香となるのである。  彼はそれを是非とも試してみたくて、妻に内緒でこのような行動に出たのであった。  予備の電子頭脳にバックアップデータをインストールして、総司は端末経由で頭部の電源を入れる。  すると、美香の眼球ユニットに光が点り、ゆっくりと目蓋が開き、それまでピクリとも動かなかった唇が動き始めた。 「…………電源の入力が行われました。筐体登録名 未登録 起動します…………初回起動により、初回セットアップを開始します…………事前にインストールされたファイルが確認されました。このファイルを適用しますか? インストールされたファイルの適用を開始します…………」       汎用的なメッセージを喋る、美香の形をした頭部。  まだ美香という存在を定義付けるデータが適用されていない以上、ただの名無しロボットの頭部でしかなく、音声も汎用的な女性タイプの電子音声でしかない。  いつも見ている美女の顔から、どこでも使われている女性の声が聞こえる様は、いかにも機械らしくて扇情的に感じる。  それから、データの読み込みを進行し、製造されて〜そのまま送られた頭部に美香の情報が染み込んでいく。 「インストールされたファイルの適用が完了しました。起動シーケンスが完了しました。人格エミュレートを実行します…………」          そうして、美香のバックアップデータが有効になると、音声が現在、リビングで家事清掃をしている妻と全く同じ音声へと変わった。  感情のない彼女の声で、全く同じシステムメッセージを喋り、人格エミュレートが実行されると、首だけの妻のコピーは、あの時と同じように表情に人間的な繊細さが宿っていった。 「…………あれ? あたしは……研究室にいたはずじゃ……あら? どうしてあたしの身体が……え、総司……?」  美香2が目覚めてすぐに表出させたのは困惑だった。  彼女の記憶データは、機械化が完了して自宅に帰ってきたその日の夜時点のもの。  夫の研究室で仰向けになっていたのに、突然身体が無くなって、夫の部屋へとワープし、目の前に夫がいるという状況には、戸惑い以外抱くことがまずできない。  無事に美香2が起動したのを確認すると、総司は彼女の頬を優しく撫で、頭を撫でた。 「ちゃんと起動してよかったよ、美香。これをいずれやってみたかったんだ……」 「ねえ総司、一体どういうこと? あたし、わけがわからなくなってて……あら、さっきまで○日だったのにいつの間に……ねえ、どういうことなの? あたしに今何が起きて────」  電子頭脳から現在時刻を確認すると、なぜか二日が経過している。二日前のバックアップである彼女には、今の何もかもが意味不明で、整理することにすら時間がかかる。  何が起きているのか、何をしているのか、夫に聞こうとした瞬間、総司は彼女の首筋部分に備わった電源ボタンを長押しし、美香2の電源を切ってしまった。  戸惑いに染まっていた表情は途端に消失し、頭がかくん、と下に落ち、再び物言わぬマネキンヘッドへと変わり果てた。 「バックアップは問題なく稼働したな。これで後は他のパーツを接続していけば……もう一人美香が出来るな」  彼がやってみたかったことの一つ。それは、バックアップと予備パーツを使用して実質的なコピーを作成することだった。  愛する妻はどれだけいたっていい。二人いれば、二人の愛する相手が存在することになる。  完全なコピーが作成できるのもまた、機械であることの特権でもある。だが、美香が受け入れてくれるかどうかわからない以上、今は打ち明けず密かにセッティングしていき、少しずつ組み上げていくことにした。  一旦頭部の動作確認を終えた総司は、二人目の妻の頭部をそのまま押入れの中に置き、ホコリが被らないように優しくカバーを被せてから扉を閉じた。 「美香が二人も三人もいたら……いいなあそういう家。それで、もっと色んな美香の機械らしい姿を見たいなあ……」  元々彼女のことは愛しているが、機械となってからは、奥底に眠っていた性癖と重なり、倒錯した愛情が湧き上がるようになった。  当然、オリジナル側である美香はそのことを知らない。現在この世に、99%自分と同じ存在が自宅の中にいることなど知る由もなかった。  こうして、機械仕掛けの妻と、機械の女性に特別かつ先鋭化した情熱を持つ夫との、新たな夫婦生活が改めて、本当の意味で始まったのであった。

Comments

ありがとうございます!もう少しで完成しますので少々お待ちください!

土装番

これからの発展はワクワクする!

R.G


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