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土装番 from fanbox
土装番

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古い女性型のリサイクル 1話先行公開版

 現代から離れているが、大きく離れているとも言えない未来の時代。  無数の地域から人々が集まる大都市では、まるで人間と区別のつかない機械人形、アンドロイドが普及するようになっていた。  公共施設や様々なショップ、さらには個人など、幅広い世代がその恩恵を受け、共に暮らすようになっていった。  男女両型共に非常に見た目宜しく、声や体型、人格等など、色んな構成要素が自由にカスタマイズでき、理想の人型が人間社会の側にいてくれる。  アンドロイドの存在は人々の心理に大きく影響し、過去幾度とあった隆盛期とはまた似て非なる新たな活気が生まれるようになっていった。  こんな人間と機械が、同じ姿で寄り添いあう新たな社会。しかし、アンドロイドは人の姿をしていても根本は機械。新型があれば当然旧型も存在する。  現在稼働している人間と振る舞いすら同等の機体より依然にも、アンドロイド達存在していた。  だが、お役御免とばかりに殆どの機体が入れ代わり、売却または廃棄されてしまっていた。  電子頭脳も、人格も、動作も比較的低性能な機体は、実質的に役目を終えつつあった。  しかし、そんな旧型にも、使い方や需要によっては新たな活躍の場が設けられるようになる。  これは、一念発起したある人間の女性が、古い女性型達に少し手を加え、再起動させる物語である。 * * *      とある島国の首都。その中心街にそびえるオフィスビル群。  そのうちの一棟内に入居しているある会社に勤める、一人の女性会社員がいた。 「…………早く終わんないかなぁ……」  誰にも聞こえないようなか細い声で、不満と疲れに満ちた愚痴を吐いた彼女の名前は黒澤紗季。  額出しのセンター分けで整えられた艶めく黒髪に、20代中頃の年齢相応を思わせる、シュッとしつつ瞳にも綺麗さを感じさせる、非常に整った美しい顔立ち。  スーツの下からも体型がよく分かる程に、抑えられつつも浮き出た乳房に、無駄肉を感じさせない細めのボディライン。  それらの全てを引き立てる長身も相まって、まさしく彼女は美女と呼ぶに相応しい容姿を持っていた。 「はあ…………休憩すらまだかぁ……」  しかし、今の彼女は、そんな美貌を台無しにしてしまいそうな程に疲弊しており、一日中沈み込むような生活を続けていた。  この会社に勤めて数年、。日々の激務や、社内での面倒な噂、いちいち煩い上司などの環境的原因も重なり、紗季の思考は著しく鈍っていた。 「ほら、また愚痴ってる。集中してないからじゃないの?」 「男と連絡でも取りたいんでしょ。欲求不満なんじゃない?」 「うわありそー」  彼女の小さな言葉にわざわざ聞き耳を立てていた同僚の女性社員三人組が、ギリギリ聞こえる程度の下衆な嫌味を、紗季に対して向けているかのような曖昧な感じでぶつけてくる。  紗季には現在彼氏はおらず、連絡も取り合っていないので完全な虚偽でありでっちあげ。  優秀な仕事ぶりかつ美人である紗季のことが気に入らず、このようなこすずるい卑怯な嫌がらせを、何度もしていた。 「おい黒澤、ちょっと来い」 「ああはい……」  そんな最悪なやり口から連鎖するように、今度はいつもふんぞり返っている上司が、紗季のことを呼び出した。  なんかまたうるさいこと言うんだろうなあと思いつつも、紗季は席を立って急いで彼のもとへ移動した。 「なんでしょうか」 「昨日お前が作成したってファイル、入力する数値が間違っていたぞ。こんな簡単なミスしてどうするんだ」 「えっ、繰り返し確認しましたし、裕子さんにも渡す直前に、改めて確認してって伝え」 「言い訳はいい! まったくそういう態度だからお前はこんなミスをするんだ。私が気づいたからよかったものを、これが特に重要な案件だった時はどうするつもりなんだ。だいたいなぁ……」  くどくどと大声で叱りつけ、部下への権力と立場を誇示する上司。  実際のところ、彼女が作ったファイルにはミスは存在していなかった。  紗季が一旦渡した裕子側のチェックが甘かったのもあって、裕子はミスがあったかは完全には把握していない。  しかし上司は、見た上でミスがあったと嘘をつき、呼び出したのだ。  彼は紗季のことをお気に入りとして目をつけており、いずれは愛人にしたいとも考えていた。  だが、誘いをことごとく断られた上にはっきりと業務外での関係を拒否されたことで強い怒りをずっと胸に抱き、捏造してでも彼女への加虐心を満たしながら優越感に浸っていたのだった。  上司側から見ても、紗季が摩耗していることは目に見えてわかっている。そこにつけ込み、いずれはセフレとして扱ってやろうかとも考え始めていたのだった。 「はい……申し訳ありませんでした…………」  このような最悪な環境によって、紗季の心は日に日に締め付けられていった。  特にこの日はいつもより連鎖するようにひどく、昼前だというのにもう目の前の話が入ってこない程に傷ついていた。  彼女の脳内は、死にたいとすら思う程に疲弊していたのだった。  その日の夕方。運良く残業が無く、定時での帰宅ができた紗季は、虚ろな瞳で下を向き、街なかをとぼとぼと歩いていた。 「…………死んじゃおうかな……」  精神的に極限まで追い詰められた彼女は、今にも電車に飛び込んでしまいそうな程の精神状態。  周囲の娯楽も、宣伝されている曲も、路上パフォーマンスの声もまともに耳に入ってこない。  何度も何度も、死にたいという声が頭の中で反芻する。  もうこのまま、道路に飛び出して轢かれちゃおうか。そんなことすら思い始め、とうとう衝動的に赤信号で一歩踏み出しそうになったその時、彼女の腹から虫の声が聞こえた。 「…………そっか、お昼あんまり食べられなかったっけ」  休憩前から理不尽や仕打ちをくらった影響で、今日は全く食欲がなく、コンビニ売りの紙パックスムージーぐらいしか飲み込めなかった。  もう食べなくてもいい気もするけど、苦しいのは嫌だから少し腹ごしらえでもした方がいいかなと思い、紗季はふらふらと、個人が営む喫茶店的雰囲気のレストランへと足を踏み入れた。 「いらっしゃいませー! お客様は何名ですか?」 「あっ……一人です」 「お一人様ですね。では、案内しますのでこちらにどうぞ!」  彼女を出迎えたのは、その店の制服を身に纏った、女優やアイドルかと見まごうほどに美人な店員だった。  非常に耳心地の良い声と太陽のような笑顔、丁寧な接客で対応された紗季は、まるで少し視界が晴れたような気分になり、店員の顔をじっと見ながら案内に従い歩いた。  すると、じっと見ているうちにあることに気づいた。 「あれ、店員さんってアンドロイドなんですか?」 「そうですよ。オーナーに57日前に導入されたんです。まだまだ学習することはありますけど、頑張ってます!」  それは、店員の素肌の質感が、人とはどこか違っていたのだ。  そこから連鎖的に、カメラ的な瞳や、うっすらと見える取外し可能な印である継ぎ目、聞こえない呼吸の音と、一気にその違いに気づき、彼女はアンドロイドなのだと判断した。  以前までアンドロイドだと意識していたそれは、どれもどこか不自然さがあったが、目の前にいるそれはまるで人間と変わらない。  それでいてあまりにも美人。可愛すぎる。ずっと見ていたい。元々アンドロイド達はどれも造形が非常に素晴らしかったが、人間的振る舞いが混じるとさらに美人に見える。  そんなことを思いながら、紗季はだんだんと気分が晴れ始めていた。 「えっと、それじゃあ……シーザーサラダとたらこパスタください」 「かしこまりました。少々お待ち下さいっ」  紗季がこの店に入るまでの間、どこにいても、どんな時も、誰かの顔や姿は見ても、なんだかモヤがかかっているかのようにはっきりとしていなかった。  だが、たった今とても明るく笑顔で接してくれた美人の機械が、それを晴らしてくれたのだった。   「…………そういえば、アンドロイドって顔とってもいいなあ……」  前々から目の保養になるとは思っていたが、強く意識したことはなかった紗季。  改めて見ると、人工の存在なだけあって見た目がとても良い。  視界に写るアンドロイドの姿は、横顔も後ろ姿も、非常に綺麗で、まるで画面や雑誌越しの憧れを見ているよう。  思わずぼーっと眺めてしまっていたその時、彼女を案内した店員が、オレンジジュース入りのグラスを運んできてくれた。 「あの……私、頼んでないですよ?」 「いえ、これはサービスです。お客様、顔の表情や姿勢、呼吸の状態を読み取ったところ、どうやら肉体的にも精神的にも疲れているようだったので……もちろん、オーナーには許可を取っていますよ!」  自分が疲れていることを察して、まさかの注文外のサービスをしてくれたのだ。  店員は、その人工の美貌でじっと紗季の顔を見つめながら、微笑んでみせた。 「少しでも心の保養になればと思いまして」 「本当にいいんですか……? 私、ここに来たばっかりなのに」 「初見さんでも関係ないですよ! 私達はこの店に来てくれた方々に、幸せになっていただきたいだけですから!」  笑顔で明るく話している間も、店員の瞳の奥、レンズの先では、機械的に絞りが収縮を繰り返している。  息継ぎによる喋りの隙間もなく、常にベストな声の調子で、めいいっぱい客への上質なサービスを提供しようとしてくれている。  そんなアンドロイドの姿に、紗季は、今までにない心が解け蕩けていくような感覚を強く覚えた。 「ありがとう……ございます。じゃあ、遠慮なくいただきます」 「はい! もう6分程で完成しますので、もう少々お待ち下さいね!」  キッチンとの無線による報告と連動し、きちんとした時間確認からの情報提供と共に、笑顔で頭を下げる店員。  彼女の姿は、紗季の乾ききっていた心に、恵みの雨を受けたようや潤いをもたらした。  それは、彼女の感情を沸き立たせ、さらにある一つの情念を引き出させた。 「美人で癒やされて、綺麗で……たまんないわね…………そうだ」  その情念は、たちまち今の自分がやってみたいこと、ビジネスに繋がるかもしれないこと、今の地獄の環境を抜け出せるかもしれないことへと繋がっていく。  ずっと無気力で日々を過ごし、働き続けていた結果、貯金だけは貯め込まれていた。  それを資本にすれば、あることが始められるかもしれない。硬直していた紗季の脳が、一気に回り始める。 「どうぞ、シーザーサラダとたらこパスタです。では、ごゆっくり!」 「ありがとうございますっ!」  思わず、ハリに満ちた声でお礼を口にした先。店員はそれに対して、屈託のない首を傾げた笑顔をみせて、頭を下げた。  この日食べたシーザーサラダとたらこパスタは、会社に入って以降の人生で一番美味しいと感じた。 * * *  それからしばらくして、私服姿の紗季はある場所へとやってきていた。 「ここね、旧型が売られてるのは」  そこは、いわゆるアンドロイドの中古販売店。  新旧様々な機体が販売されているが、特に旧型に力を入れて取り揃えられている店舗である。  紗季はそこで、旧型の女性型アンドロイドを手に入れようと画策していた。  その行動の源流は、喫茶店でのアンドロイドから始まった。  彼女はそれと出会った後、己の中であることを考えた。  それは、思った以上に愛情や優しさ、そして綺麗な相手との対話や姿を見つめることなどの複数の欲望を求めていたのではないかと。  だからこそ、自分はあの時、喫茶店にてとても優しくしてくれた、美人の女性型アンドロイド店員のおかげで心が救われたのではないかと。  同時に、それを求めている人は自分以外にも結構いるのではないか。  そのような結論に、あの時の出来事が直結した時、紗季はついに会社を辞める決意を固めた。  こんなところにいれば、どれだけ磨り減らされ壊されるかわかったもんじゃないと思ったいただけに、もう未練はなにもなかった。  そして、紗季は貯めに貯め込んだ資金を使い、旧型アンドロイドを改造したセクサロイドをキャストにした風俗店を発足しようと行動に出たのであった。  こうして、現在に至る。 「いらっしゃいませ。どうぞ、自由にご覧になってください」  店内に入ると、両腕両脚、乳房や女性器ユニット、マネキンヘッドのように飾られる頭部など、単体での各種パーツの他、上半身や下半身丸々残っている機体、さらにショーケース内には、電源を切られた状態で展示されている女性型などが並んでいた。  入店した先を迎えたのは、何やら電動の移動台にくっつけられた、上半身しか無いながらも、丸裸で両胸を曝け出している女性型。  何も恥ずかしいことなどないと言わんばかりの、プログラムされた笑顔と非常に丁寧な接客文句で、一定間隔の瞬きと共に紗季に完璧な対応を提供した。 「うーん……色々あるけど、どれがいいかなあ」  接客でいい気持ちになりながら、紗季は店内を歩き回り、展示商品の感触を楽しみながら品定めした。  人工皮膚の柔らかさや、乳、唇の触り心地、腕だけのパーツに恋人繋ぎしたりと、触れられることを活かして好き放題に確認していく。  そうこうしているうちに気づいたのは、やはり女性型アンドロイド達の容姿は、とてつもない程に良いものだということ。  デザインもさることながら、容姿の個性がそれぞれありつつ、美女、美少女の到達点を悠々と超えている。  笑顔で固定されているものもあれば、無表情で展示されたり、口の開いた状態でいるものもあるが、どれもが良い表情というほかない。  今にもべたべたと触り、キスまでしたいくらい。  それでいて髪型や体型も自由にカスタマイズできるのは、なんという贅沢なんだと思う他ない。自分もこんなアンドロイドになれたらなあとちょっと思いながら、店内を歩き回ったその時、紗季は一体の女性型の前で足を止めた。 「これは……すっごい好み……!」 「この機体をお求めですか? こちらは受付嬢タイプのアンドロイドですね」  その機体は、全身がきちんと欠けることなく揃えられた状態で展示されていた。  全裸姿で、まるで吊り下げられているようなちょっとした前傾姿勢で停止している。  ブラウンの髪色をしたセミロングヘアーに、固まったままの微笑みでありながらもずっと見ていたくなるような、20代中盤の大人の女性的な雰囲気と魅力を強く感じさせる、非常に整った美しい顔立ち。  それでいて両胸は大きく作られており、前傾姿勢によって少々下を向いているが、しっかりとハリを保ち突き出ていた。が、受付嬢タイプという限定的な用途だからか、乳房の先端には乳首が備わっておらず、人工皮膚に覆われた、つるつるとした柔らかな球体となっていた。  ボディラインは無駄なくモデル級の綺麗なラインを作っており、女性の平均身長よりも少々高くなるように設計された両脚も、造形美という言葉の似合う細い美しさを抱いていた。  そんな人間女性として完璧な姿を持っているが、その股間には生命の象徴である穴がなく、乳房と同様にすべすべとした肌があるだけだった。  紗季は、試しにと、右手で左乳房を握り、揉みこんでみる。 「あっ……柔らかい……!」    思わず脳天まで貫かれそうな心地よさが、手から心臓、脳まで伝わり、情動が突き動かされる。  指が沈み、乳房の形が変わり、いくら揉みこんでも飽きないこの感触。これだけの直接的なセクハラを働いていても、目の前のアンドロイドは停止した微笑みを絶やさず、美貌を披露し続けていた。   「いい……これがいい……!」   「こちらの機体をお求めですか?」  紗季のぼそっとつぶやいた言葉に反応し、店員が移動音を鳴らして後ろから近づいてくる。 「はい。けど……」 「どうされましたか?」 「私、元々旧型の機体をセクサロイドになんとか改造して、色々使おうかなって考えてたんですけど、どうにも股間の換装とかも難しそうで、どうしたものかと」  紗季は当初、取り外し可能な股間部を利用して、そこに女性器ユニットなりなんなりを接続し、自分なりにセクサロイドとしての挙動をプログラミングして使おうかと画策していた。  だが、一発目にこれだと気に入った機体には、四肢や胴体、首などに継ぎ目が確認できても、股間にはそれらしいものは見当たらない。  そこで、紗季は頭を悩ませていた。 「申し訳ありません。その質問には応対できま………………」 「……あれ?」  店員は、おおよそ想定されていなかったであろう返答に、答えられないと言葉を返そうとした。  だがその直後、店員の口は喋りの途中でぴたっ、と止まり、数秒程動かなくなった。  旧型だらけの店だし、故障でもしてしまったのだろうかと、まじまじとその姿を見つめる紗季。  その時、店員の口が再び動き始め、それまでの電子音声とは全く違う、ぶっきらぼうで男勝りな印象を受ける女性の声が聞こえてきた。 「おっと、申し訳ない。その機体にセクサロイドとしての機能を付けたいってことだな?」 「え、ええそうです。あの、ど、どなた様ですか?」 「あたしはここの店主だよ。この機体が応対できない内容が来たときは、こうして自ら対応するようにしてる」  店員はそれまでの笑顔を保ったまま、視線がふらふらと動いた後で正面に補正され、発せられる言葉とあっていない口パクを始める。  実質的なスピーカーとなった店員を介して、店主と名乗る女性は、紗季の要望を聞き入れ始めた。 「それで、セクサロイドにしたいってことだけど……元々対応してない機体だから少々コストがかかるよ。それでも大丈夫?」 「はい! お願いします!」 「それで、どこまでやる? 一応動作対応も可能だけど」 「パーツだけで大丈夫です。あとは私の方でプログラミングしますから……それと、まだパーツの取りつけとかはよくわからないので、どうすればいいかとか」 「ああ、それなら配送の時に軽い解説用ファイルのコードを添付しておくよ。それじゃあ、性器のセッティングだけど……」  それからの話は、一気にスムーズに進んでいった。  必要なカスタマイズや配送日、取り扱い時の軽い注意事項と、とんとん拍子に決定が成されていく。  自分がほしいと思った、素晴らしい美貌と身体を持つアンドロイドが、まさかこんなにも早く簡単に手に入るとは。色んな店舗を渡り歩くことも覚悟していた紗季は、この店に感謝と店主に感謝しつつ、この時に決めた日にちが訪れるのを心待ちにするのであった。 * * *  そして訪れた、女性型アンドロイドの到着日の朝。  仕事を辞め、フリーの時間を自由に捻出できるようになった紗季は、玄関のインターホンが鳴る時を、室内で軽く運動しながら今か今かと心待ちにしていた。   「やっと来るんだ……セクサロイド第1号。ちゃんと動くかなぁ……」  今日までの間にも、紗季は少しずつながらセクサロイド風俗店の計画を進め、様々な知識を身に着け、必要になるであろう物件や道具も頭の中に刻み込んでいった。  それらの前にまずは主役であるセクサロイドが先決。予定時間の範囲内に入り、そわそわとし始めたところで、ついに待ちに待っていた音が聞こえてきた。 「すみませーん、黒澤紗季さんいらっしゃいますかー? 『オールドマキナの神部エリス』さんからお届け物でーす」    配達員から聞こえた、紗季が行った中古アンドロイド店の店名と店主の名前。  足早に玄関に向かい、サインを済ませると、運ばれてきた人間サイズよりも少々大きい段ボール箱を室内に動かし、興奮冷めやらぬまま箱を開いた。 「すごい……店の中にいたあの娘が目の前にいる……!」  箱の中には、複数点の付属品と解説ファイルのアクセスコード。そして、注文通りに女性器ユニットと乳首が新しく供えられた、受付嬢タイプの旧型アンドロイドが、梱包材に包まれ収められていた。  展示されていた時とは違い、目が閉じられ、四肢をピンと伸ばした姿勢だが、それがより人形らしさを際立たせていた。  気持ちが昂ぶり沸騰しそうな紗季は、口を抑えつつもなんとか気持ちを落ちつかせつつ、解説ファイルを開き、初回の操作手順を頭に入れる。  紗季は下手なことをせずそれに従い、首筋の皮膚カバーを開き、そこに現れた電源ボタンを長押しした。  すると、全裸姿の女性型は、小さな駆動音を人型の中から鳴らし、両目をゆっくりと開いた。 「…………電源が入力されました。初回起動の為、当機体の所有者を検出します」  展示されている時は聞いていなかった、女性型の電子音声。  こんな声で案内されたらとても心地いいんだろうなという理想を体現したような、大人の女性的な魅力を内包した透き通った声。  抑揚がはっきりしており、感情を感じさせないシステムメッセージだが、紗季はこの時点でも、あの時の女性店員から感じた幸福感を覚えていた。  メッセージを発した直後、女性型はすくっと立ち上がり、箱の中で立ったまま周囲を見回す。そして、紗季の姿を見つけると、女性型はじっとレンズ奥の絞りを収縮させながら口を開いた。 「該当人物を検出しました。申し訳ありませんが、当機体と目線が合うように立ってください」  首だけを動かし、下を向く女性型。音声に従って紗季が立ち上がると、それを追いかけるようにして首が正面を向いた。  それから、顔をまじまじと見つめながら、カリカリと動作音を鳴らす。 「あなたは、当機体のユーザーですか?」 「ええ、ユーザーです」 「顔認証が完了しました。続けて音声登録を行います」  携帯端末の初期設定の如く、いくつもの登録を少しずつ進めて行く紗季。  見た目はまるで一対一の対話のようだが、この時ばかりは、まるで公共機関に置かれた端末と対面しているようだった。 「所有者の名前をお教えください」 「黒澤紗季です」 「所有者の名前を登録しました。全ての設定が完了しました。お疲れさまでした。当機体は再起動の後、擬似人格モードを起動します。しばしお待ちください」  ようやく全行程が完了すると、女性型の瞳の奥の光が点滅した後、一度光が消えて動かなくなった。  それから数秒後、再び起動時に聞いた音が鳴り、すぐに光が取り戻される。  そして、初回起動よりも、早く改めて口が動いた。 「再起動が完了しました。この度は、ランゼン社製、受付用女性型アンドロイド、FR4315-52Oをご購入頂き誠にありがとうございます。円滑な社内環境の為、存分にご活用ください。擬似人格を起動します…………」  いかにも製品らしいプログラムされた定型音声を喋ると、女性型の頭はかくんと項垂れた。  再びそれが起き上がると、女性型の表情は、先ほどと比べて明らかに人間的な自然さを含んだ微笑みへと変わっていた。 「初めまして、紗季様。私はランゼン社製、受付用女性型アンドロイド、FR4315-52Oです。どうぞ、末永くよろしくお願いします」  深々と頭を下げ、同じように丁寧な抑揚に人間らしい柔らかさの乗った音声で、自身の製品名をしっかりと宣言した女性型。  殆ど内容は同じにも関わらず、声の調子と表情、仕草が変わるだけで、受ける印象は大きく変わってくる。その感覚は、言葉にせずとも、紗季が赤面し思わず口を覆ってしまったことでとてもよく伝わっていた。 「よ……よろしくね……えっと、製品番号そのままじゃ堅苦しいから……美由紀でどう?」 「それは、私の固有名を登録するということでよろしいですか?」 「え、ええ、それでお願い」 「かしこまりました。当機体の固有名を登録します…………登録しました。この時から、私の名前は美由紀です。名前をつけていただきありがとうございます!」  美由紀のまぶしく綺麗な笑顔が、所有者の紗季へと向けられる。  こんな美しく女神のような顔を独り占めにしていいのだろうか。そう思える程の魅力。  それに加え、ずっと全裸姿でありながら、羞恥心を一切持っている気配の無い様子に、人間と機械の狭間のアンバランスさが詰まっているようで、紗季の胸の奥がとても熱くなった。 「こちらこそ、私のところに来てくれてありがとう……これからもよろしくね、美由紀」  紗季は我慢できず、美由紀の身体をぎゅっ、と抱きしめ、心地よい胸の感触を同じ胸に感じつつ愛情を示した。 「はい、こちらこそよろしくお願いします! 社員の皆さんと一緒に、紗季さんの会社を大きくしていきましょうね!」  美由紀も、所有者の言葉に応えて、モチベーションを引き上げる同調の言葉を口にした。  だが、美由紀は自身が中古品として購入されたことも、そもそも会社の備品として導入されたわけではないということも認識できていない。  それ以外の用途を組み込まれていない以上、抱きしめられていることも認識できておらず、抱きしめ返すような簡単な行為すら実行できず、両腕を開いたままでいる。  ズレた発言で答えを返す、現時代での低性能ぶりを見せるが、むしろそれでも構わない。  それがどこか愛おしさを感じさせる。紗季は抱きしめる力を強くし、より機械である彼女の感触を味わったのだった。 * * *  そしてその日の夜。紗季は首筋に充電ケーブルを挿した美由紀と一緒にベッドに入り、全身に絡みつき、キスを交わした。 「柔らかい……ちょっとだけゴムみたいな味するけど……心地いい……」 「………………」  ちょっとだけ口を開いた状態を保たれ、唇を重ねながら舌を入れる。胸が潰れそうなくらい抱きしめながら、両脚も絡ませて、綺麗なアンドロイドに抱いた感情を発散するように、人工の母性に甘えるようにくっついていく。  セクサロイドとして運用する以上、それに足るかのテストはどこかしらで必要になってくる。自分は男性でない為、特に必要な部分まで一人で完全に確認はできないが、肌触りや具合は確かめられる。  という建前も含めた必要理由と、この美しい女性的容姿のアンドロイドとべたべたしたいという気持ちから、こうしてベッドの中で一つになったのだった。  人工皮膚の感触に、機械とは思えない突き出した各部の極上の触り心地。人間ではありえないニオイや味はちょっとだけするが、この美貌と肢体の前では全然気にならない。  紗季はこれまで溜まっていた過去の鬱憤や負の感情を晴らすように、何度も何度も強く抱きしめながら、衝動のままに愛情をぶつけていった。  その一方、美由紀はそんな彼女の愛情に対して、何のリアクションも起こすことなく、ただただランダム性のある瞬きをしながら、天井を見つめるだけだった。  受付嬢タイプの美由紀には、性器に触れられたり、キスをされた時の反応はおろか、抱きしめられたりくっつかれたり、同じベッドに潜っている時のリアクションは当然想定されていない。  どんなに弄られたり、犯されていても、何もされていないような無反応を継続し、微笑み続ける以外にないのである。  とても人間らしい容姿をしていながらも、今の彼女の反応は、人間どころか生物として不自然極まりない。  しかし、彼女の容姿ならばそれすらも魅力になる。後々、セクサロイドとして必要な動作は組み込まれていくが、今はこの非人間的な機械の女神の姿を存分に楽しもうと、紗季は弄る中で自然と思うようになっていった。 「すぅ…………ん…………んむ………………」  そうして、いつしか心が満たされた紗季は、疲れてそのまま、美由紀の胸の中で眠りについた。 「……………………」  所有者が動かなくなった後も、美由紀は抱擁をする素振りもなく、呼吸も発言も無く、じっと真っ暗な部屋で、胸に埋まった紗季の頭を朝まで見つめ続けていた。  充電中なのもあって、バッテリーが切れることもなく、自動で電源OFFになる設定をしているわけでもないため、美由紀が眠ることはないし、人間でない彼女が睡眠不足に襲われることも無い。  朝になり、紗季が目を覚ますその時まで、美由紀はずっと、同じ状態を保ち続けるのだった。  こうして、旧型の女性型を利用した、紗季の新たな生活が幕を開けた。


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