XXX4Fans
土装番 from fanbox
土装番

fanbox


隠れた修理屋のメンテナンス事情 1話先行公開版

 人間そっくりの振る舞いや表情、言動をほぼ完璧に行える機械人形、アンドロイドが企業や富裕層だけでなく、一般にまで普及するようになった未来の時代。  人間社会には当たり前のように、人間と、人間の姿をした機械が混ざり合い、それと示す印が無ければ全く区別がつけられない程にひとつの共同体となっていた。  首や関節部などに、着脱可能な証である継ぎ目や、バーコードなど、それがアンドロイドであるという表示があるモノもいれば、意図的にそれらの機械的、物品的な要素を排除し、どこからどうみても人間にしか見えないようにサれているモノもいる。  それ程までに、アンドロイドは世界の一部となる存在になっていた。  その上で、これまでの携帯端末や電子機器と同じ流れで、販売会社や家電量販店では、それらに対しての修理サービスを実施するようになり、同時にアンドロイドを含めた電子機器の修理サービス専門の業者なども成立するようになった。  自分では直せない大多数の人々は、それらの専門家に依頼し、壊れた電子機器を直してもらう。何百年と続く消費者と業者のやり取りは、未来においてもずっと継続されていた。  しかしそんな修理屋の中には、不自然に格安であったり、後ろ暗い事情によって表の業者には依頼できないような人物や機体を請け負うような裏の修理屋も存在する。  これは、ある首都圏の隠れた場所でアンドロイドの修理を受け持つ、とある独立した男と、そのアシスタントである女性型アンドロイドの身に起きた様々な出来事の話である。 * * *     雑多なビル街と夜の盛んな繁華街、そして巨大な駅ビルを中心に展開する、とある大都市。  そんな中心部から少々外れた、昼時でもやや暗さを感じる位置にある、低めながら清潔感を感じる一軒の小さなビル。  表には看板や店名表記などなく、誰がどう見ても空き物件にしか見えないような場所だが、入口となる扉の先には「リペアエリア」という簡素でシンプルな名前を記された立て看板が置かれており、それに付いている矢印が示す先はエレベーターがあった。  それを通じて地下へ進んだ先、そこには、一人の男性と一体の女性型がいた。 「本日の予約、もうそろそろですね。依頼内容は詳しく話されてませんでしたけど、どう思いますか?」 「まあ、喋り声からして裏とかじゃなくて後ろめたい系だろうな。ちゃんと時間通りには来るだろ」  男の名前は山崎賢太郎。隠れた修理屋「リペアエリア」のオーナーであり、実際に修理を行う技術者でもある。  容姿はやや若々しく、常にだらしない雰囲気を振りまきながら暮らしている。  女性型の名前はカーラ。市販品の成人女性型アンドロイドを賢太郎が独自にワンオフ機として改造と改良を加えたアシスタントである。  髪型はクリーム色のワンレンロングで、購入当時から変わらないお姉さん的な色気と雰囲気の際立つ美貌を持ち、擬似人格の設定によって、常に目を細めながら微笑みを絶やさずにいる。  衣服は賢太郎に合わせるような白衣を着させられているが、購入時よりもボリュームを増やされ、突き出すようなハリと柔らかさを両立させた上に内容液を母乳のように排出できる機能も加えられた両乳房が目立っている。  身長は女性型の中でも高めで、おっとりとした雰囲気ながらも体型はスタイリッシュなモデル体型を保たれている。  カーラは、まさに欲望を丸々詰め込んだような容姿へと改造されているのであった。  両者はこの日、事前にここで修理してほしいという依頼人からの通話を受け、いつ来るかと思いながら談笑をしていた。    「しかし、少なからず時間超過の記録もありますからね……機材準備は出来ているとはい……」  すると、カーラは会話の途中で突然自分の喋りをぶった切り、視線を診察室の出入り口へ向けると、そのまま玄関の方へと移動し始めた。 「お、来たか。ちゃんと時間通りか……まともな報酬は期待できそうだな」  モデルのように綺麗でブレない歩行動作で玄関に到着したカーラ。  彼女の視線の先には、ちょうど入り口のドアを開けようとしていた女性と、その人が引っ張る小さな車輪付きの箱があった。 「はぁ……はぁ……こ、ここがリペアエリアで良いのね……?」 「はい、いらっしゃいませ小幡 花蓮様。お待ちしておりました。ようこそリペアエリアへ。ご予約は承っておりますので、どうぞこちらへ」  ブレのないプログラム通りの完璧な喋り、笑顔、振る舞いで、丁寧に依頼客を迎えるカーラ。  まるで富豪の専属メイドのような所作で案内され、花蓮という女性は思わず呆気に取られたが、そのまま言われるがままにひとまずついていった。 「どうも、小幡花蓮さん。そちらが、通話で仰っていた修理対象ですね?」 「はい……ちょっと、データの整理してたら突然不具合が起きちゃって……私にはどうにもできなかったので、なんとかしてもらえませんか?」 「まあ、それが仕事ですからね。少し確認しますよ」  賢太郎が箱の蓋を開けると、そこには中学生程と思われる容姿をした少女型のアンドロイドが、丸まった姿勢で押し詰められていた。  箱の中にいる少女型は目を開き、口元は笑顔の形で開いたまま硬直している。  眼球ユニットは左眼だけ白眼を剥きかけており、ほんの少しだけ瞳の存在が確認できる程度にぐりんとなっている。  運ばれている最中にどれだけ揺られても文句ひとつ言うこともなく、口内に溜まっていたと思われる人工唾液が糸を引いてだらしなく箱内に垂れており、水分のシミを生み出していた。  部屋着と思われる衣服は身につけられており、まさに生活と地続きの中でエラーが発生したのだろうと推測できた。 「ああなるほど。なんとなく察しはつきました。では、こちらで預かり修理を行います」  「お願いします……どうか、早めにお願いしますね。舞香は私達の娘として動かしてて、大切なロボットなんです。できれば、夫が帰ってくる午後6時よりも前には……」 「わかりました。まあ、そこまで時間はかからないでしょうから、終わったら連絡しますよ。その時までに、きちんと伝えていた分の料金は出して、かつ多めに持ってきてくださいね。状態によっては追加料金が発生しますから」  賢太郎と依頼者間でのやり取りはスムーズに進み、花蓮はひとまず診察室から出て修理屋を後にした。 「さ、とっとと作業に入るぞカーラ。早くしろって言われたなら、その通りにやってやんないとな」 「かしこまりました。しかし、この機体はどのような原因でエラーが生じたのですかね?」 「おおよそ、何かしらのソフトを入れようとしたり、無理なカスタマイズをしたとかそんなとこだろうな。しかも、当の夫にはバレたくないとかいう奴で」 「そこまでの予測をもう立ててるんですか?」 「まあな。普通の故障なら、俺らを頼るはずもないからな。カーラ、早速作業台の上に運んでくれ」  リペアエリアにやってくるアンドロイドの修理依頼は十中八九訳あり。たとえ一見するとまともな一般人のように見えても、ここに来るような者は大抵、表に出せないような後ろ暗いものがある。  それをよくわかっている賢太郎は、わくわくとした気持ちを抑えられていない笑みをちょっとだけ浮かべながら、カーラに運搬を指示した。  人間と同等、またはそれ以上の重さを持つアンドロイドの舞香を箱から軽々と持ち上げ、作業台の方へと持っていくカーラ。  お姫様抱っこのような形になり、運ばれている間、表情が出ているにも関わらず機能停止している舞香は、両足や垂れ下がった腕、かくんとうなだれている首をゆらゆらと揺らしながら、されるがままに持っていかれた。  台の上に仰向けの状態で置かれた後、早速作業開始……となる前に、賢太郎は部屋の上部に取り付けられた、カメラが装着されたアームを下ろし、これから手を付けられていく舞香にレンズを向けた。 「うーん、今回はどういう風に撮っていこうか。たぶん電子頭脳内の問題だろうから、身体の方に手を付けることはたぶんないんだよなあ……カーラ、さっき触ったところで何か内部の破損とかは感じなかったか?」 「いいえ、内部骨格の異常はおそらくありませんね」 「…………じゃあ、取り敢えず脱がせて電子頭脳の動作やファイルの確認をするか。たぶんそれが一番需要高そうだし。カーラ、服脱がせといてくれ」  カーラは命令通りに舞香の衣服を脱がせて、一糸まとわぬ人工の身体を晒させた。  舞香の身体には、胸の膨らみはあるものの乳房の先についているはずの乳首が無く、股間にも女性器ユニットの類いはついていない。まさに、人間の代わりをするためだけに造られた機体のようだった。  修理対象が裸になったのを確認したところで、賢太郎はカメラによる録画を開始させる。 「どうも、皆さんご無沙汰しています。今回はこちらの機体の修理状況をそのまま公開するというコンセプトで行わせていただきます。見ての通り、機体には乳首も女性器も実装されていないので、性行為の類いは殆ど行えないでしょうが、動作確認やエラーによる誤作動は期待できるでしょう。それでは、どうぞお楽しみください」  ナレーションのような口上を喋った後、賢太郎はすぐに作業へと移っていった。  賢太郎がオーナーを務めている「リペアエリア」は、ただの非公式な修理屋というだけではなく、その修理対象を使用したアダルトビデオを秘密裏に販売していた。  どんな内容となるかは引き受けた機体ごとに変わり、単体でオナニーをさせたり人間にはできないような自慰行為をさせることもあれば、カーラと絡み合わせてアンドロイド同士の肉体的、機械的なレズプレイを披露することもある。  それに加えて、今回の舞香のように性行為ではなく、機械であるからこそ発生する非人間的な挙動や誤作動、電子音混じりの声やエラーメッセージ、破損を求める需要の為のアダルトビデオも扱っている。  これは、予め客を吟味しながら行っていることでもあり、おおっぴらにこの場所に修理を依頼したと言えない相手の機体を中心に使用し、さらには契約時にも賢太郎側の目的の為に使用するという旨も、規約や口頭で伝えている。そこには、今後の機体修理の参考資料にするためという理由付けもあった。  だからこそ、より安くサービスを提供できているのである。  リペアエリアのモットーは「最終的にきちんと修理できていればそれで良い」。それ故に、顧客側からは依頼した機体に対してどんな風に手を出されていても介入することはできないのである。  まず、舞香の上半身を起き上がらせて、背中側に小さなシャンプー台のような首置き台を設置。後頭部に邪魔が入らないように空間を作る。  それから、首筋の皮膚カバーを外して、設置されている端末から伸びる接続ケーブルを繋げた後、舞香の電子頭脳へと侵入。  彼女のストレージ内に収められている記憶データやファイルなどを確認しつつ、いつでも遠隔操作できるように準備を整えた。 「次は起動だな。カーラ、身体を押さえててくれ」 「了解しました」         賢太郎は早速、端末側からの操作によって舞香を起動。この後起こる現象を予測し、あらかじめカーラに身体を押さえててもらう。 「…………電源が入力されました。登録名、小幡 舞香 起動します…………前回終了し、正常にシステムが終了しませんでした。破損したファイルのチェックを開始します…………スキップされました」  起動すると、ユーザーによって設定された容姿年齢相応の声色で、発音のはっきりとして淀みなく感情のないシステムメッセージが発された。  内部データの問題によってシャットダウンしてしまい、正常に終了していないと判断したシステム側が、プログラム通りにファイルのチェックに入ろうとしたが、敢えて賢太郎はそれを停止。そのまま起動に移行させた。  と同時に、遠隔操作によって後頭部カバーを開放し、彼女の全てが詰まった箇所であり中枢部である電子頭脳が空気に晒された。  この時、舞香の視線はセットされたカメラの方を向いており、まるで後に配信される映像を見る視聴者に向けられたかのような状態になっていた。 「システムチェックを実行中…………完了しました。設定された擬似人格をき、起動し、起動しま、しま、しま、まま、ます、すすす……」  そのまま小幡舞香としての人格が起動されようとしたその時、指が小さく不自然な震えを起こし始める。  そこから連鎖するように、腰、腕、上半身と、痙攣する箇所が一気に増加し、システムメッセージに激しい乱れが生じ始めた。  全身にどうみても正常でない挙動が発生し、カーラがそれを微笑みを保ったまま平然と押さえ続ける中、徐々に舞香の表情に柔らかさが宿り、擬似人格が目覚めていく。 「…………あれ、ここは、こ、ここ私私どこで、どこです私、私はれれれれれれ? 実行中です。実行中です、じじ、実行中、はじめまして! まして、は、はじめ、めめめま、確認でき、できませ、指定されたプログラムが、正常に動作し、動作ししてい、していませ、はじめま誰です、だ、誰で私はだか!? ここはどk指定されたプログラムが正常に、正常に…………」  だが、まともに人間のような振る舞いを見せたのは一瞬だけ。舞香の挙動はみるみるうちにおかしくなり、支離滅裂な音声とそこに混ざり合うシステムメッセージがランダムに垂れ流され始めた。  唇の動作も、機械らしく律儀に音声通りの動きをしようとしているが、そもそもの音声がおかしいため、まともに追いついておらずおかしな形を時折作ってしまっている。  しばしの間、人間らしさが削れた不具合を晒す機械人形の姿をカメラに残したところで、賢太郎は強制的に舞香の喋りと全身の動作を停止。  内部では動作を続けているが、表面上は白眼を向いて右口角が引きつり、四肢がちょっとだけ浮き上がった奇妙な姿勢で硬直してしまった。 「それじゃあ本題だ。通常動作に影響を及ぼしてるってことは、だいたいこの辺りか……?」  筋書きのなく舞香自身が意図していない、閲覧者の情欲を煽るパフォーマンスを一通り記録したところで、賢太郎は早速、彼女の不具合の原因を確かめるために画面を凝視。  挙動や言動、依頼者の様子や発言からおおよその予測を立てて、電子頭脳内のファイルを徹底的に確認し始めた。  その間、与えられた命令に関して一段落がついたカーラは、一旦賢太郎の背後まで移動し、視線で舞香の動作を確認しつつ次の命令が与えられるまで、かつすぐにマスターの助力が出来る様にしておく為に待機した。 「あーなるほど、やっぱこういうことだよな。まあ、概ね予想通りだわ」 「エラー、誤作動の原因が見つかりましたか?」  そして、それは間もなく見つけられた。 「ああ。舞香が誤作動を起こしたのは、あの依頼者の操作ミス……というか、改造ミスだな」  舞香が通常動作に支障が出る程の誤作動とエラーを起こした原因。それは、彼女の母親として認識させている花蓮が、自身の夫を監視する為のプログラムを無理やりインストールしようとしたこと。擬似人格に手を加えて、夫相手以上に自分への好感度を無理に上昇させようとしたことだった。  何かしらのキッカケで、花蓮は自身の夫に対して負の感情を強く抱いていた。  そこで、彼女は夫がいない間に自分の娘を動く監視カメラとなるようにも改造。常に一挙手一投足を監視するようにして、不審な動きはないかどうかを確かめつつ、仮にそれがあった時の証拠となるように仕向けようとしていた。  おそらくこのような顛末があったのだろうと、賢太郎は予測した。 「記憶データも覗いてたけど、夫がいないし操作するからって油断してたんだろうな。普通にゲロってるし」          賢太郎は、舞香の中に保存されている映像データから、音声部分だけを彼女の口から再生させる。 『ねえ舞香、お父さんのことどう思ってる?』 『どうって、私にはとっても大切なお父さんだよ? どうかしたの?』 『そう……やっぱり舞香にはそう感じるのね。ちょっと待っててね。少し容量とかアプリの整理とかしなくちゃ』 『ん? 私まだ大丈夫だよ?』  白眼を剥き片方の口角が引きつったまま、喉奥のスピーカーから流れる音声に合わせてリップシンクが行われる。現状、舞香は少女の形をした再生機のような状態となっている。   声色からも、花蓮の不機嫌な雰囲気が漂っており、娘として扱いながらも完全に自分の味方ではないというような現状に不満を持っているようだった。  それから、遠くから物を漁るような音が鳴った後、足音が舞香の方に近づいてくる。 『ほら、ちょっと首に挿し込むからね。我慢しててね舞香』 『大丈夫だって言ってるのにぃ……はい。これでいい?』 『良い子ね舞香、とっても』  直後、舞香の音声に異変が起き始めた。 『ん、何入れてるのお母さん? これ、公式のソフトじゃな、な、なななな■□□#1う%#0―≦∨あ∞∋β■』     口から鳴るのは、砂嵐を思わせるような酷いノイズと、そこに微かに混ざる舞香としての電子音声。  既にこの時点で操作ミスが発生し、舞香にシステムエラーが生じておかしくなってしまったらしい。  一通りの状況がわかったところで、過去の音声の再生を停止。口をぱくぱくと動かしていた舞香も、ぽかんと呆けたような口の形を保ち、動きが止まった。 「あーなるほどな。ファイルを入れるところを間違えてるし、設定もミスってる。しかもこれ、非正規でこの機体には対応できてないし、どっかのまずいサイトから用意したなこりゃ。そりゃこんなことになるわ」      探れば探るほど、依頼人自身が舞香を利用して、自分に有利に立ち回れるようにしようとしている痕跡がいくつも見られた。  自分だけには家事ロボットのように動けるようにしたり、擬似人格や内部データに改竄の痕跡が見られたり。  だがどれも、その場で勉強しながらなんとか娘の中身を改竄しようとしたという雰囲気が表れており、花蓮自身は機械系に関してそこまで強くないのであろうと推測した。 「娘として扱ってるとか大切なロボットとか言ってるけど、心のどっかではモノ扱いしてんだな」  彼女の娘として導入したアンドロイドに対するスタンスはよく理解できた。実際に娘として扱いながらも、本心では都合良く自分の為に動いて、都合良く自分に味方してくれるロボットとして動いてほしいのだ。  おおよそのスタンスが分かったところで、賢太郎は早速、不具合の原因となるファイルの削除、設定の変更を行い、可能な限りで、花蓮が手を出す以前の状態へと操作していった。  電子頭脳内のデータに手を付けられ更新されていく度、舞香の身体が小さく痙攣し、腰を揺らして手を震わせた。  その間も、カーラは激しく動きすぎないように手で身体を押さえていたが、徐々に誤作動の大きさも無くなり始めたことで、優しい手付きへと傾いていった。 「バックアップを取って…………これでよし。処置は終了だ」 「お疲れさまです、マスター。予定よりもかなり早く終了しましたね」 「思ったより大したことなかったからな。あとは電源を切って依頼主が来るのを待つだけだが……」  賢太郎はあらかじめ、アンドロイドの修理に要する時間を長めに取っているが、実際に対面すると意外とたいしたことがなくすぐ終わってしまうこともある。  そんな時、彼は、修理中に知った依頼者側のアンドロイドに対するスタンスによって、改めてどうするかを決めていた。 「…………よし、もう少し追加で撮るか。カーラ、今から指示を送るから、その服脱いだら指示通りにしてくれ」 「了解しました、マスター」  カーラは変わらぬ笑みのまま応えた後、自ら身につけているナース服を脱ぎ始めた。  これまで何度も行われたであろう、同じ脱衣動作でナース服を脱ぎ、白衣の下からとても目立っていた乳房を曝け出す。  下半身も、恥ずかしがる様子もなく露出させ、ほんのりと継ぎ目が走っている女性器ユニットが姿を現した。  それから送信された指示に従って、動作を止めたままの舞香の程よく膨らんだ乳首のない胸に手を置く。  そして、彼女は設置された録画中のカメラに向かって、ナレーションのように話し始めた。 「こちらの映像を御覧の皆様、つい先程、こちらの機体は修理が終了しました。想定よりも早期に終了したため、今からこちらの機体の簡易的な解説を、各部への接触と共に行っていきますね」  カーラはとても丁寧な口調と優しい声色で、右手をそっと舞香の左乳に置き、手の中に収まる程度のサイズを掴む。  その一方で、左手は自身の左胸を鷲掴みにし、到底片手には収まらないボリュームを自ら支えた。 「こちらの機体は、容姿のカスタマイズこそされていますが、対応店舗であればどこでも販売されている量産型の機体となります。並びに、このように性機能はありませんので、乳首も、女性器ユニットも、快楽信号を処理する機能もありません」  デフォルトでは一切性行為はできないという説明をはっきりと、いかにもな説明的雰囲気で喋った後、カーラは彼女の左乳を優しく、手の中で回すように揉みしだき始めた。  突起のように浮き出てはいるものの、舞香の両胸はあくまで人工皮膚と同じ樹脂製の突起でしかなく、そこには他の部位と同じように最低限のセンサーしか搭載されていない。  どれだけ激しく扱っても、揉みしだいても、まるで腕を触られたかのようにしか認識できないのである。   「なのでこのように、どんなに弄ってもたいして感じたりしません。とても健全なアンドロイドですね。私はこのように……あっ……ん……市販品ですが、マスターが施した改造によって……あっ……元々は、こちらとは違って、胸部内のセンサーや……あんっ……女性器ユニットも実装されていましたが、より感じられるように……あっ! あっ…………」  舞香に与えているのと同じ動き、同じ力具合で、カーラは自分の左乳を揉みしだき始めた。  性行為や自慰行為を見せるというような様子ではなく、アンドロイドとしての性能の違いや機能の違いを披露するようなニュアンスで、彼女が性感を覚える姿が晒されていく。  快楽信号を処理するごとに、じわじわと乳首が固くなり突起のようになる。その乳首の中に隠れた金属製のノズルが伸びていき、そこから胸部タンクに補充された水がちょろちょろと漏れ出し始めた。 「あんっ! マ、スターが、私に実装した機能として。このように胸部内にノズルを設けることで、母乳の排出を人間とは違う形で再現し……あっ……ました……私達リペアエリアは、このようなアンドロイドの改造も承っておりま……す……あんっ!」  嬌声混じりかつ、音声に官能的な雰囲気がこもり始めているが、カーラの音声のメインはあくまで解説と宣伝であり、与えられたプログラム通りに動作しているため、そこから性行為に移るようなことはない。  セクサロイドではなく、あくまで、より性機能が充実した機体としての改造を施されたアンドロイドであり、基本の部分はあまり変わっていないのである。  官能的な動きを声を淫らに晒しながら、舞香の乳を揉んでいたカーラの右手は、ツルツルとした股間の方へと降りていく。  それまでと同じく左手も女性器ユニット付きの股間の方へ降りていく。  カーラの方の股間は、既に無味無臭の蜜に溢れており、指で触れた時点で小さく糸を引いていた。 「こちらも同様に、股間には生殖器官系のパーツは実装されていません。中には、敢えて改造して実装するという方もいらっしゃるようです。このように触れても、中には膣内のような箇所は存在してお、あんっ! おらず、人工皮膚が、あっ、あっ、そのまま貼られており、センサーも先程の胸部と、あんっ! 変わりません……あんっ!」  全く同一の動作で指と手を動かしているが、カーラ側は膣肉や陰核に直接刺激が行き渡り、密集したセンサーがそれを感知して、一方的に快楽信号を発信していく。  喘ぎ声こそあげているが、ガイドとしての動作が優先され、表情もこれまでの微笑みから変わらず頬も紅潮していない。  その代わり、快楽信号の処理による影響か、彼女の指や腕、腰は、意図せずぴくっ、ぴくっ、と小さな痙攣を起こし、性感反応としての各部体液の放出は行われていた。  平気そうな顔なのに、ところどころで嬌声を上げ、身体は正直に、隠せない小さな反応を起こしている。  そんな人間的、機械的な面を含んだギャップも、賢太郎が配信する映像を楽しみにしている人々のニーズのひとつであった。 「では最後に、この機体の電子頭脳を操作し、あっ、操作してみましょう」  カーラは、賢太郎からの指示を受けて、映像の最後の部分へと入り始めた。  設置され、固定されたカメラに合わせるように、カーラは舞香の身体をちょっとだけ起き上がらせ、上半身を可動域に従って横に回す。  開放された後頭部カバーと、それに貼られた人工頭皮、植え付けられた人工毛髪。その奥には、前面の人間らしい姿から大幅にかけ離れた、金属部品と電子部品だけで構成された鈍色の電子頭脳が、カメラの前に晒された。     「これから、私のマスターが、こちらの機体の記憶データをランダムに再生しますので、人間では発生しない、あんっ、誤作動的な挙動をお楽しみください……」  すると、カーラは一旦カメラから外れ、写される中には舞香だけしかいなくなった。  晒された電子頭脳のランプが小さく点滅し、硬直した舞香が、ぼかんとした顔のまま固まっている。  無言のまましばしの時間が続いたその時、彼女の身体が、がくん、びくん、と震えだし、作業台の上でガタガタと揺れ始めた。 「…………お、おはようごさいま、ございますございます! ねえねえお父さん今日今日今日はねえお父さ待ってよお母さん! まだ買い物終わってなそんなこといい、言ってな言ってな言ってててててな」  すると、今度はストレージにある記憶データの中から、彼女が過去に発した発言がランダムに再生され始めた。  本来人間が行うことのできないような、しかも過去の記録を漁るような操作によって電子頭脳に負荷が生じているのか、下半身を浮かせては降ろし、指がカタカタと揺れ動き、両目がそれぞれバラバラな方向に震えていた。  剥き出しの電子頭脳から鳴る動作音がはっきりと外に漏れ出しており、うわ言のようだが過去の発言をそのまま再生しているはっきりとした音声が、より今の姿と出ている音とのアンバランスさを強調している。  仮に、彼女の股間や下半身に人工膣液や冷却液の排出口が実装されていれば、確実に作業台の上から漏らしていただろう。  その代わり、見た目ではとてもわかりにくいが、空冷式である彼女の口からは、通常よりも早いペースでの排気が行われていた。  非人間的な姿が、彼女自身の自覚なく晒され続けている。それを賢太郎は、惜しげもなく映像として記録していった。 「ちょっとおか、おかあさ、かかか、おかあさ、私の名前は小幡舞香です小幡舞香ででで、これ買うの? 違うったらもう違う今日機嫌悪いの? かしこまりました早く行こうよ参照先のファイルが削除されていやったー!お父さんお母さん大好き!」     時折、彼女の記憶に手を加えられた跡や、容姿年齢に似つかわしくない冷淡な声色の音声が混ざるが、それらも含めて全て映像内に乗せて見世物にする。  これまでにも、何度も自分から個人情報に繋がる内容を喋っていたが、それらの部分は後々編集を加えられ、最低限の保護処置が行われる。  当然、このような無理やりな操作を行い続けで普通でいられるわけもなく、徐々に舞香の痙攣が緩慢になっていく。  下半身の上下運動やのけ反り震える上半身、何度も踵を作業台に叩きつける足や、わきわきと動き続ける手指は、少しずつ意図せぬ落ち着きを宿し始める。 「まだ準備できてない準備できてなままま、まだ、まだ、じじじ、何してるのお母さお母さお母さおかあさ────」  そして、激しい物音を鳴らすような、とても大きな痙攣をビクン、と起こした後、舞香はそのままフリーズした。  機体の消耗を招くようなものではなく、システム側の安全措置として設定されていたセーフティーを無理やり動かしたことによる停止であり、彼女の機体寿命にさしたる影響はない。  だらっ、と口内に溜まっていた人工唾液が口からとろりと垂れ、彼女の小さな山でしかない胸にシロップのようにかかっていく。  これで、舞香への格安修理の保証分となる映像は充分に撮影できた。だが最後に、命令を受けて一度画面から離れていたカーラが、改めて画面内に戻ってきた。  彼女は相変わらず一糸まとわぬ姿のままだが、舞香と同じように後頭部が開放されており、本来の市販品のそれとは違う改造された電子頭脳が曝け出されていた。  そして彼女の手には、片手持ちの小型ハンマーが収められていた。 「こちらの機体はフリーズしてしまいましたね。このように、私達アンドロイドは電子頭脳に強い負荷がかかったり、外部から特定の操作が行われるなどの要因が引き起こされると、動作不良やフリーズが発生してしまいます。しかし、壊れたわけではありませんので安心してください。私達は、修理してほしいと依頼を受けた機体を壊したままにすることはありません」  自分達はきちんと仕事をする、というアピールを欠かさず、一度画角から外れても変わっていない笑顔で改めて喋り続けるカーラ。  だが、ハンマーを持っている彼女の右手は、徐々にゆっくりと自身の後頭部へと移っていく。 「それに、フリーズした程度であれば、私達アンドロイドはまだまだ再び動くことができます。再起動や応答していないファイルやソフトウェアの停止など、適切な処置をしていただければ、携帯端末やPCと同様にまた動けますね。私達は本当に正常に動けなくなるという時ということであれば」  そして、カーラは視聴者へ向けている言葉をそのまま体現するかのように、自身の電子頭脳にやや強めの威力でハンマーを叩きつけた。  室内に、金属同士が衝突した音と破損音が響き渡る。 「例えばこのように、重要性の高いパーツに重大な破損が発せせせせせせせセセセセセセssssssss」  直後、カーラは殴った瞬間のポーズで硬直し、手からハンマーがこぼれ落ちた。  喋っていた内容の最後の部分で音が連続し、立ったままガクガクと震え始める。  彼女の電子頭脳は一部分が陥没し、ショート音を鳴らして時折火花を散らして弾けさせ、露骨に壊れている姿を晒していた。 「ssssssss□□■■#%*#0&$#@@00101■……………………」  眼球は左右バラバラの方向を向いて、左眼の方からだけ人工涙液を流し、最後の音声の形で固まった口は、ノイズだらけの電子音を鳴らしながら小刻みに唇が震えている。  カーラの両胸からは、誤作動によって補充されていた水が噴水の如く噴き出し、周囲の床を瞬く間に濡らしていっている。  左右それぞれの胸で放出量にばらつきがあり、ぷしゅ、ぷしゅ、と出の悪いスプレーのようになる時もあれば、蛇口から出るような勢いに変わることもあった。  同様に、女性器ユニットの方からも、潮噴きのように人工膣液が噴き出し、本来はとろっとした粘液を水飛沫のように噴射した。  破損と同時に、エラーによって誤った快楽信号が生じているのか、はたまた偶然の挙動がそれっぽく見えているのか、膣液を噴きながら足を震わせている姿は、どこか人型の機械らしい官能的な形を作り出していた。  中枢部が壊れた機械人形は、そう長く稼働し続けることは到底難しい。淫らで非人間的な姿を自ら晒し続けたカーラは、次第にその誤作動による挙動も緩慢になり始め、ゆっくりと動きが小さくなっていった。  そして、とうとう彼女はもの一つ言わなくなり、ぽたぽたと乳や女性器、口や眼から液を垂らしながら、動かなくなってしまったのだった。  カーラが機能停止したのを確認した賢太郎は、端末前の椅子から移動し、撮影カメラの録画を止めた。 「今回はこんなとこでいいかな」  アダルト映像の撮影は、彼が概ねこんなものでいいだろう、というところで終えられる。  カーラ達の都合は一切考慮されず、あくまで映像を楽しみにしている顧客が満足するだろうか、という部分で大雑把に決められている。  機能停止し、マネキンのようになったカーラの側まで近寄り、濡れた足元から水音混じりの足音を出しながら、水滴まみれの乳房を揉みしだく。  壊れたカーラは当然反応することなく、後頭部の電子頭脳から、火花を不規則に散らし続けていた。 「あの娘を引き取るまでまだ時間ありそうだしな……ま、向こうの電源を切ってから修理してやるよ。カーラが動いてないと、うちには助手が誰もいないからな」  自分自身へ向けられるマスターの言葉にも、カーラは歪んだ微笑みのまま反応することはなかった。  卑猥でかつ人間として奇妙な姿をしばらく晒され続ける彼女は、改めて修理に手を付けられるまでの間、人間であれば恥ずかしくて仕方がないような恥辱の姿を、誰もいない方向へと意思なくアピールし続けるのであった。 * * * 「よかった直ってくれて……このままだったらどうしようかと……!」 「どうしたのお母さん? というか、なんで私こんなとこにいるの?」 「ちょっと操作を間違えちゃって……ごめんなさいね」 「いいよお母さん。だって、私のためにしてくれたことなんでしょ? だったらそんな責めないって。でも、不具合でデータ消えちゃうのは嫌だから、そこはちょっと気をつけてほしいかな」  修理開始から数時間ほど経ち、依頼人の花蓮が戻ってきた。  彼女が戻ってくるまでの間に修理されたカーラと、賢太郎立ち会いのもと、椅子に座った舞香が目の前で起動され、万全の状態で動き始めた。  当然、修理中の記憶データは全て削除されており、舞香の認識では、自宅からいきなり知らない診察室へやってにたかのようになっている。  花蓮は、正常に起動した舞香を嬉しそうに抱きしめているが、舞香の内部データを覗いた賢太郎は(これで夫にバレずに済むと保身的なこと考えているんだろうな)と生暖かい目で見ていた。 「では、修理代金をお支払いください」 「もちろんです……どうもありがとうございます……」  壊れる前と同じ微笑みのカーラに、指定された分の料金を支払い、両者は立ち上がった。 「私には何があったかはわからないですけど、とにかくありがとうございます! お母さんが喜んでくれてるみたいですから……お世話になりました」  舞香は丁寧に頭を下げ、屈託のないプログラム通りの笑顔で、設定上の母親の側を離れず、一緒にこの場から去っていった。  その母親が、自分のことを父親に対しての監視カメラにしようとしていたなどと知ることもなく、与えられた役割の通りに、よく出来た優しい娘をきちんと実行し続けていた。 「今回もお疲れさまです、マスター」 「ま、今回はかなり楽な方だったからな。面倒事も持ってこないし暴れないしで、単に後ろめたいだけのは相当マシな客だよ」 「マスターが心配しなくても、対応は私がしますから気にしなくても良いじゃないですか。その為に、マスターは私を改造してくれたんですから」 「それはそうだな。さ、今日はもう来ないだろうし、動画編集に移るか」 「今回はどのような値段設定にしますか?」 「まあはっきり壊れたのはカーラだけだし、お試し作品枠に置いておこうか」 「もっと私を使用して、付加価値を提供しますか?」 「それならそれで別作品として出したほうが早いだろ。ほら、カーラも手伝ってくれよ」 「了解しました、マスター」  表と裏の境界線となる場所に立ち、来る者拒まずアンドロイドを修理する賢太郎とカーラ。  彼らのもとには、多種多様な客と、壊れ方をしたアンドロイドがやってくる。  彼は常に完璧に対応し、同時に目に見えぬ客の欲求も満たしていく。  カーラと共にこれからも、賢太郎は数々の機体に手を出し、素晴らしい仕事ぶりを提供していくのである。   


Related Creators