いつも不機嫌な彼女への調整 1話先行公開版
Added 2024-05-21 10:24:41 +0000 UTCとある島国の首都、その中の主要駅のひとつから三駅程度離れた、交通の便が非常に良いある駅の近くに建つマンションの三階の一室。 そこに住む男が、とある女性を自宅へと招いた。 「いらっしゃい。あまり綺麗じゃないけど」 「ううん全然! 普通に綺麗だって!」 男性の名前は西脇和己。とある企業に勤める会社員である。現在はこのマンションにて一人暮らしをしており、広く何でもできそうな部屋を、活用こそしているが少々持て余し気味でもあった。 そんな彼が連れてきた女性の名前は大内仁美。和己の気に入っていた喫茶店に勤めていた23歳の女性である。 額がはっきりと出るように前髪が左右に分かれた、セミロングの長さに近い艷やかなブラウンのワンレンロング。 流し目の美しい色気を感じさせる瞳に、すっきりと通った綺麗な鼻筋。魅力を引き立てる薄めの唇と、彼女の髪型にさらなる映え方を宿す美貌と、まさに絶世の美女と言っても過言ではない顔立ちをしていた。 それでいて全身は見事なラインが描かれる程に細く、ラフな薄着が非常に似合う引き締まった上でのくびれが、仁美という女性の良さを強調させている。 そんな身体についている両胸は、女性の平均サイズよりも明らかに大きく、身に着けている衣服が薄いほどにはっきりと乳房が揺れる様が露わになる。 ハリがあり、とても顔を埋めたくなるようなボリュームの乳は、誰もが釘付けになってしまうであろう魔性を宿していた。 そんな身体を支える両脚もスラっとしており、まさに人間ながら非の打ち所がない。理想の女性という言葉が似合う存在だった。 「これからここに住むんだよねあたし……すっごく楽しみ……ありがとね和己さん。もう、あたしからはなんて言ったらいいか」 「気にしなくてもいいさ。こっちこそ、仁美さんみたいな素敵な人と一緒に暮らせるっていうのはとっても嬉しいことだからさ。それに……これからさん付けはなんだかよそよそしいからさ、呼び捨てにしようよ」 「そうね、あたしもそうしたいかも、和己」 二人は仁美が勤める喫茶店で最初に出会い、それから軽く話した結果意気投合。 その後、偶然にも両者がそれぞれの職場の外で、かつ完全にプライベートの時に出会ってから、より仲が深まっていった。 そして、徐々にお互いの間柄は親密になっていき、ついには和己側からの告白によって男女の仲となった。 それをキッカケに、仁美は出会いのキッカケにもなった喫茶店を辞め、和己との同棲生活へと入ることになったのだった。 このような経緯を経て、現在彼氏となった和己の自宅を下見に来た仁美。 腕を回し、乳をスーツ越しの腕に軽く押し付けながら、チラチラと愛する彼氏の方を見る。 二人の姿は誰がどう見ても愛情いっぱいのカップルのようにしか見えず、誰もが羨むようなオーラを常に放っているようだった。 「……やっぱ最初は慣れないな、呼び捨てって。照れ臭くて」 「これからはそういう日常になるんでしょ。さ、部屋の中を見せてよ和己」 「わかったよ仁美」 仲睦まじい二人の姿は、これからの温かく輝かしい日常を象徴するもののように思えてならなかった。 和己の住むマンションでこれから始まる同棲生活。いずれ仁美の荷物や家具も増え、次第に二人の共有空間らしくなっていくのだろう。 そんな未来の姿を、和己はずっと思い浮かべ、期待に胸を膨らませていた。 そうして、和己と仁美の同棲生活が始まった。 だが、それからしばらくの時が経ち、未来は彼の思い描いていたものとは大きく違う方向に舵を切っていた。 「ねー言わなかったっけ? ウォーターサーバーはいっつもちゃんと補充しといてってさー。すぐにお湯飲みたかったのにどうしてくれんのー?」 「ああごめん、忘れてたよ。すぐやってくるから」 「ったく、そういうとこ気が利かないよね和己って。あ、あとさっきあたしの分だけ出前頼んだから、そっちはそっちでなんか食べといて」 同棲が始まりしばらくの月日が経った頃、家内の権力のほぼ全てを実質的に仁美が握るようになっていた。 それまで彼女は、献身的かつ可愛らしいところも見せる大人の女性という雰囲気と振る舞いを見せていたが、共に暮らしてからしばしの期間が過ぎたところで、急激に度を超えたワガママを押し付け始めた。 様子は常に不機嫌で、面倒なことは何もかも彼に押し付ける。家事清掃もほぼ全て和己が行い、何かしら手を出すとしても自分の周囲や自分が不快だと思った箇所ばかり。広い室内の中でも1割にも満たない範囲だった。 散財癖が露骨な程に酷くなり、家内の物品は瞬く間に彼女の物が多くなっていった。 当然買い物資金は和己の財布から。時には勝手に持ち出し、クレジットカードまで使用し、高級ファッショングッズやコート、ブランド物のアクセサリやバッグ、気分で買ったヨガマット。いつ使うのかわからないものや、収納スペースを圧迫するものなど、それらは次々と部屋の中を埋め尽くしていった。 「だからさぁ、あんたが帰ってくる時はそっちから連絡入れろっての! 面倒くさいからさぁ!」 「勝手にあたしのに触んなっての! ここはあたしらの家でしょ!? だったら分別くらいつけといてって! なんでそんなのもわっかんないかなあ……」 それに加えて一方的な注文は押し付けておきながら、自分の物を勝手に触れられるのは許せない。 そのくせ、和己の物は勝手に動かし、自分のパーソナルスペースとなる場所はどんどん押し広げていく。 自分の家であるはずなのに、彼女の度を超えたワガママによって、和己の居場所は次々と奪われていっていた。 だが、そんなにも傍若無人な振る舞いをしているのにも関わらず、出会った当時からの美しさや美貌、色気はずっと保たれ続けていた。 和己は彼女のことをずっと好きで居続けているが、ふとそんな部分を疑問に思い、彼はある日仁美への調査を探偵に依頼した。 仁美は時々、一人でどこかに出かけることがあった。 外食や買い物など理由は様々ではあったが、大抵の場合理由を聞いても「あんたには関係ないでしょ」と睨みつけながら一蹴されるだけでそれ以上何も言おうとはしなかった。 だがそれにしても頻度が多い。それらの理由が積み重なり、彼女の行動履歴を調査してもらうことを決断した。 そしてその調査結果を、ある休日の昼頃、探偵事務所の中で伝えてもらった。 結論から言えば、仁美は浮気していた。それも、和己と同棲する以前から。 探偵が提供してくれた、近距離で聞いた仁美と浮気相手のやり取りでは、内容を疑いたくなるような言葉が記録されていた。 『お前っていっつも余裕あるよなー。やっぱ、財布が元気だから?』 『そういうこと。今は仕方なく同棲してるけどさ、いずれ勇斗の所にいくからね。それまではあいつのとこで良い思いさせてもらおっかなーって思ってるの。あいつあたしに惚れてるから言う事ならなんでも聞くのよね』 『ははは、それ知ったらキレるだろうな』 『ないない、あたしのこと好きなのにそんなのできるわけないじゃん。ニ、三回くらいセックスしたけどさ、そんな相性良くないし気持ちよくなかったし、だから演技であんあん言ったわ』 『うわ怖えー。俺との時もそうだったんじゃねえの?』 『ちょっと、勇斗との時は全部本気だから! 勇斗とのえっちすっごく気持ちいいし、今あたしが自分磨きしてるのだって勇斗のためなのに。あいつに近づいたのだって、元からその為だもの』 最初から全て、本命の男の踏み台にするための付き合い。それを文章だけでなく、一緒に録音していた音声付きで証明された。 実際、和己は彼女のことをずっと好きだった。色んな面でとても好みであり、多少の粗相なら見逃しても良いと考えていた。 最近は度を超えていると思ってはいたが、いずれはそれも治るだろう、多少は自分を見つめ直してくれるだろうと希望的観測を持っていた。 だが、最初から彼女の中にはそんな心などなかったのだ。和己はそれをとても良く、ハッキリと理解した。 「…………ありがとうございます。彼女のことはとてもよくわかりました」 「……気の毒に。これからはこのことも踏まえて、色々と割り切ると良いですよ。では、ひとまず調査内容は以上です」 用意してくれた複数資料を手に取り、テーブルにうなだれる和己。 薄っすらとそんな気はしていたが、実際に直面するとズシンと胸に鉄球が落とされたような気持ちになる。 一体これからどうしたらいいのか。どんな気分でいればいいのか。そんな思考がぐるぐるとしながら、出してもらっていたなんだか味を感じないドリンクを飲み干していった。 探偵事務所からの帰り道。温かい日光が何も感じない中、とぼとぼと歩いていた和己。 これから先の日々への複雑な感情を押し殺しながらふらついていたその時、彼のもとに一人の少女が話しかけてきた。 「ちょっとそこの方、少しお話良いですか?」 「…………キャッチは間に合ってますんで」 「まあまあ、そういう風俗のキャッチとかじゃないですから。見たところ訳ありみたいですし、話でも聞いていきませんか? きっと役に立てますよ西脇 和己さん?」 初対面なはずなのに、自分の名前をフルネームであっけらかんと言ってみせた。足を止めるしかなかった。 「……なんで俺の名前を?」 「さてなんででしょう? すぐにわかりますよ。だから、どうですか? 何も怪しいものではないですし、危害も一切加えませんから」 不思議とその言葉に逆らえる気がしなかった。 改めてその少女の姿を見つめると、目立たないようにするためか地味めな服装ではあるが、顔立ちも身体も非常に整っており、笑顔が可愛らしい。 だが、名前を呼ばれた驚きからはっきりと観察はできていないが、どこかしらに違和感を覚えていた。 「……そう約束するのなら」 「ありがとうございます! 是非ともあなたの役に立ちますからね!」 そう言って少女は、初対面の和己の前を歩き、寂れ気味のビルの地下へと降りていった。 * * * 流れに乗って見知らぬ地下の空間に進んでいった和己。 少々長い通路を進んだ先で彼を最初に出迎えたのは、様々な誘惑するポーズを取って立っている、マネキンのような全裸の女性の姿だった。 そのどれもが見惚れてしまうような美女や美少女ばかりで、例外なく嬉しそうな笑顔を浮かべている。 ポーズを固定するためか、女性器内には床から伸びるやや太めの鉄パイプが挿入されており、同時に彼女達の存在を強調する意図なのか、ライトが下側から照らされていた。 怪しい雰囲気がずっと漂う中、和己は少女の案内に従って歩いていくと、一人のスーツ姿の女性が彼を待ち受けていたかのようにソファの上で構えていた。 「お待ちしてました、和己さん。さ、どうぞ座ってください」 和己はまだ状況を掴めないながらもおとなしく座り込み、満面の笑みを見せる目の前の美女に早速質問をぶつけようとする。 「…………あの」 「初めまして。私の名前はレナと申します。突然のお誘いを受けてくださりありがとうございます」 彼の発言の前に、丁寧な礼と自己紹介で話の主導権を握っていくレナ。 一旦攻めの姿勢を見せたあとで、そのまま受け身の姿勢へと転換していく。 「いきなりこのような場所へ連れてこられて驚きましたよね。では、いくらでも質問をお受けしますよ」 「…………あの、ここは一体なんですか? それに、なんで自分の名前を知っているんですか?」 「あまりに非現実的なので受け入れ難いとは思われますが……こちらはですね、人間の女性に改造を施し、従順なアンドロイドへと作り変える場所になります」 和己は、レナがまさに言っていた通り、受け入れ難いというような顔を見せた。 「そのような表情になるのも無理はないですよね。非常に理解できます。ただ、私達は得られた情報をもとに、このように対面させていただいております。和己さんも、まさに私達が交渉する相手として……」 「待って待って! 待ってください! 色々と聞きたいことはあるけど……まず、そんな人間のように動けるアンドロイドってまた無いんじゃ……それに、どこから自分の話を……」 「そうですね。確かに現状はまだ、世間一般にはまるで人間のようなアンドロイドは見受けられません。しかし、人間から改造し、全身機械化を施せばそれも可能なんですよ。例えば……」 レナは、外で和己を誘ってきた少女を手招きで呼び寄せる。 「はい、どうしましたレナさま?」 無邪気な明るい雰囲気で近づき、前屈みになった瞬間、レナは彼女の頭を掴んで強引に180度首を回転させた。 和己は一瞬、首を折ったのかと全身が跳ねそうなくらいに驚いたが、少女は苦しそうな声もリアクションもなく、笑顔を保ち続けていた。 そして、レナが頭をゆっくりと頭を持ち上げると、少女の頭部と身体はいとも簡単に離れ離れになってしまった。 首の断面には、接続部と思われる金属の集合体と、中心部に肉のようなピンク色をした穴が確認できた。 「どうですか? 私も含めてですが、このように全身機械化した女性は首や四肢、上半身と下半身、女性器も自由に取り外し可能になってるんですよ。もちろん、脳も全て機械化済みです」 「そうなんです! 私、機械化してもらって本当に良かったなーって思ってます! だって、なんでもできるし、こうやってレナ様に使ってもら────」 人間ならば血を垂れ流して既に死んでいても当然な状態なのに、少女は笑顔で楽しそうに話し続け、身体も繋がっていないのにデュラハンの如く動き続けていた。 かと思えば、レナが首筋に触れて何かを弄り始めた途端、少女は喋り途中の表情で硬直し、瞳の光が失われ動かなくなってしまった。 「こうやって、首筋のカバー下にある電源を押せば簡単に電源を切れますし、遠隔操作でも同じことは可能です。ほら、触ってみてください」 レナは動かなくなった少女の頭を、ゴムボールを放り投げるように和己の方へ放った。 髪を激しく揺らしながら回転する頭をなんとかキャッチすると、目の前には先程の表情のまま動かない可愛らしい顔がそこにあった。 言われた通りに触ってみると、その顔の感触はまるで人肌と区別がつかないどころか、下手すれば人肌よりも心地よいかもしれない。 唇に触れても眼球に触れても一切反応せず、肌はほんのり温かい。 口の中に指を入れると、ねっとりとした人工唾液が指にまとわり、喉から顔を覗かせるピンク色の穴に指を入れると、いやらしさを感じるような柔らかい感触が伝わってきた。 「どうですか? とっても気持ちいいでしょう? 彼女は元々、自ら詐欺や売買の片棒を担いでまして、それでこちらで引き取る形になりました。今ではこのように人格を再調整され、私の手伝いとなってくれてます」 「……じゃあ、ここに来るまでに並んでたアレも?」 「はい。全員が様々な悪名を持っている女性達です。本来は持ち主がいたんですが、いらないということでこちらで引き取り、あのようにサンプルとして展示しています。もちろん今も正常に動作しますよ」 和己はこの時、とてつもない未知の世界に足を踏み入れてしまったと感じた。と同時に、純粋に世間一般には一切知られていない改造技術の存在に興味を抱いていた。 そして、そんな彼女達が自分に接触してきた理由も、薄々勘付き始めていた。 その上で、彼は彼女の口からそれを聞き出そうと質問をぶつける。 「…………それで、改めて聞きたいんですけど、どうして自分のことを?」 「……こちらの提案としてはですね、現在あなたが同棲している大内 仁美さんですか。彼女を全身機械化させてみませんか?」 これまでの流れからそれとなく予想していた。だが、実際にそれを言われると、和己はただ驚くしかなかった。 「見たところ、現在同棲している彼女であるはずなのに、あなたのことを自分の欲望の為に意図的に消費、利用したり浮気相手に全ての気持ちを割り振っているようですね。元々捨てる気のようですし、ここで彼女を本格的に自分のものにしてみてはどうですか? いずれにせよ、ただの財布としか思っていないあなたに振り向く可能性は無いと思われますし」 「…………それにはどれくらいの費用がかかるんだ?」 「そこまで多くはかかりませんよ。私達は慈善事業として行っている面もありますので。その費用の内訳としては……」 待ってましたとばかりにレナから各種費用の説明と提示が行われる。 最終的に提示された金額は、仁美が消費している金額よりも圧倒的に低くリーズナブルなものだった。 「……! たった、これだけ?」 「はい。それ以外にもオプションはありますが、基本的にはこれだけです。これを支払っていただければ、和己さんが手を焼いている仁美さんが思い通りのロボットになりますよ」 和己は考えた。確かに彼女のことは今でも好きだという気持ちはある。しかし、彼女の性格や性根に関しては、探偵から聞いた情報によってもう愛想を尽かした部分があった。 そこから考えて、今の仁美の好みな要素を考え直した結果、中身や性根以外の部分が浮かび上がり、中身が機械になっても問題ないのではと思った。 むしろ好きに出来るというのなら、そっちの方が良いのではないか。彼女の所業を思い返し、だんだん腹が立ってきた和己は、決意を固めた目でレナの方を向いた。 「……では、お願いします。仁美を……あいつを自分だけのロボットにしてください」 「ご了承ありがとうございます。では、一通りの流れの説明をさせていただきますね」 隠された本性が剥き出しになった彼女にもう合わせる必要はない。和己は答えを口にした直後、不思議となんだか気持ちが楽になったような気がした。 こうして、我侭な仁美の改造計画が始まったのだった。 同日の夜。自分が人間ではなくなる時間が刻一刻と迫っていることなど知らずに、仁美はひたすら彼氏の金を吐き散らしながら遊んでから、今日も帰ろうとしていた。 「はー今日も飲んだ飲んだ……あー今日も勇斗カッコよかったなあ……早く一緒に住みたいなあ……どうにかして早くあいつ追い出せないかなあ」 仁美の脳内では、既に和己のことは金を出す以外は邪魔者としか認識できていない。気持ちは全て本命の勇斗に傾いている。 早く本命と一緒に住んで幸せな日々を過ごしたい。そう思いながら夜道を歩いていたその時、彼女の進行方向に一台のワゴン車が停車。 間もなく、ぞろぞろと黒服姿の女性達が、異様な程に統率の取れた動きで仁美の方へ近づいていく。 「えっ、な、何!? 何よあんたら!? あたしに何す、んん! 〜〜〜〜〜〜!!」 見ず知らずの怪しい集団に、仁美は思わずたじろぎ逃げようとするが、声を出す隙すら与えず流れるような所作で彼女の口を塞ぎ、細身の女性とは思えないような強い力で強引に身体を押さえつける。 一切の悲鳴も、誰かが反応するような物音も出させないまま、黒服の女性達は仁美を車内に押し込み、すぐさまその場を去っていった。 「な、なんなのよあんたら!? あたしに何しようっての!? いきなりこんな捕まえて、一体何す…………る…………」 ようやく口の拘束が解かれた瞬間、社内で唾が飛ぶほどに怒号をぶつける仁美。女性達は一切怯むことなく、ただただ淡々とした視線を向け続けるだけ。 石像のように反応しない姿にしびれを切らしたか、車内でさらに声を荒げながら問い質そうとしたその時、彼女の首筋に何かが刺されたような感触を覚えた。 直後、仁美の意識は一気に混濁し、最後に女性の指先から出た注射針のような何かを視認したところで、彼女の意識は途切れた。 「改造対象への麻酔注射を実行。このまま処置室への移送を行います」 通信機器のような類の物も無しに、どこかへ向かって報告を口にする黒服の女性。 それから車内は嘘のように沈黙し、一切の無駄な音も出ないまま、車両は走り続けた。 そしてこの瞬間が、仁美の人間としての意識、最後の時となった。 * * * 「人格エミュレートを開始します…………えっ、あ、あれ、あたし……そうだ、いきなり車に連れ込まれて、それで……えっ、こ、ここどこなの!?」 突如見知らぬ黒スーツの女性達に連れ去られ、意識を失っていた仁美。目を覚ますとそこは、全体的に白を基調とした無機質さ漂う、何に使うのかもわからない無数の機器と何かをするのであろうスペースが確保された空間だった。 一体ここはどこなのか、何がどうなっているのか。そんな疑問が浮かび上がった直後に彼女の思考に出てきたのは、身体がまともに動かせないことだった。 手足どころか指一本すら動かない。というよりも、まるで最初から無かったかのように感覚が無い。 周囲を見渡そうとしても眼球は動かせるが首が全く動かせない。しかし拘束されているという感じもない。 理解の追いつかない状況に眉を潜めていたその時、彼女の視界に複数人の女性が姿を現した。 「大内 仁美の人格エミュレートは正常に動作しています。現時点では異常は確認できません」 「頭部ユニットの動作に異常は見られません。続いて、ボディの動作テスト、及び信号処理テストを実行します」 淡々と喋る女性達の顔には見覚えがあった。突然自分のことを攫った黒服の女性の顔と完全に一致していた。 一瞬のことなのに、なぜ鮮明に思い出せるのかわからないが、仁美はそれを認識した瞬間に敵意を剥き出しにして声を荒げた。 「ちょっとあんた達! あたしを無理矢理誘拐した奴らでしょ!? 身体が全然動かないんだけど、一体何したの!? こっち向きなさいよ!」 大声を出して女性達に自分の方を向けさせようとするが、まるで意に介さず、たまに視線を向けるだけで何も反応しない。 そんな自分のことを舐めている様がより腹立たしく、返事すら返してこない姿がより気に食わない。身体が動かないことも相まって余計に苛立ちが募っていく。 ちょっとでも反応させようと何度も何度も声を出していくが、それでも彼女達は振り向かない。 不思議と何回声出しても疲れる気配が無かったが、それでも無視してくる様に萎え始めたその時、彼女の視線の向こうから、目を疑うような光景が現れた。 「えっ……なに……あれ……」 仁美の視線の先にあった広々としたスペース。そこに現れたのは、首の断面に無数のケーブルが接続された、魅力的な体型を持つ首無しの女体だった。 ランウェイを歩くモデルのような自信に溢れた美しい歩き方で、まるで誰かにアピールするかの如く乳を揺らす。 仁美は、自分の自信に満ちた体型よりもちょっとすごいかもと思考しつつ、そんな生きているかのような挙動なのに、首が無い様がいっそう不気味に思えた。 首無しの女体は、右手を腰に当てて少し右脚を伸ばした姿勢で止まる。 「歩行動作に問題無し。続けて各種関節部の動作テストへ移行します」 女性が淡々と作業工程の進捗らしき言葉を口にすると、首無しの女体はその場で柔軟体操を始め、ダイナミックに身体を動かし、腕を回し、ぺたんと地面に乳が潰れる程の開脚前屈をしてみせた。 それによって女性器が晒され、アナルが強調され、正面に乳を突き出しても恥じらうような仕草も見せない。 まるで生きた女性のような活き活きとした振る舞いを、その女体は大盤振る舞いしていた。 「なによこれ、あたし何を見せられてるの……? 変態ロボットでも作ってんのあれ……?」 首に繋げられたケーブルから、それが生身の人間ではなく機械なのだろうとは想定できる。しかしそれを自分に見せて何がしたいのか、仁美にはまだ理解できていなかった。 「各種関節部の動作テストが終了しました。最終工程として、各種性感帯への動作テスト及び、それに伴うエミュレート人格の反応テストを実行します」 そのアナウンスが発された直後、首無しの女体はすくっと立ち上がり、脚をわずかに広げる。 すると、床から先端にディルドを装着したようなアームが迫り出し、ゆっくりと女体の股間へ近づいていった。 それに合わせて、女性器からまるでそれを待ち侘びていたかのように人工膣液が溢れ出し、いつでも挿入できるように準備を自ら整えつつ、両手を己の豊満な乳房に当てて乳首を摘んだ。 「ひっ!」 その時、身体からの感覚が無くなっているはずの仁美に、得も言われぬ鋭い快感が襲いかかり、思わず嬌声を上げてしまった。 それを合図に、待機している女性の一部が仁美の頭部の方を、監視するかの如く向いてきた。 「な、なによさっきまで無視してきたくせに、声出したらこっち向いて……ああんっ! あんっ! な、なに、こ、いきなり、何が、ああっ!!」 さっきまで無視していたのに喘いだ途端に顔を向けてきた姿に腹が立ち、悪態をつこうとした瞬間、今までの人生で体験したことのないような快感が彼女の脳内に溢れ出した。 戸惑いながらも喘ぐことを止められず、快楽のままに頬を赤らめ、表情を緩めて蕩けた声を出す。 一方、首無しの女体は、女性器ユニットへディルドを奥深くまで挿入され、激しいピストン運動によって膣壁を刺激されていた。 同時に、乳房を激しく揉みしだきつつ、固くなった乳首を摘んでは爪を食い込ませ、性感帯となる箇所を容赦なく虐めていった。 「意味がわかんな……あんっ! だ、めえっ……ま、待っ何なのよこ、あんっ! あっ、あっ、あ、あ、ああっ!!」 「ボディから発信される快楽信号への反応を確認。正常に機能しています」 現在仁美の頭は、台座のような頭部専用の簡易的な端末機器に接続されており、そこから伸びるケーブルの一部が、今彼女の視線の先にある自慰行為に耽っている女体の首に接続されている。 そのケーブルは、身体から生じた信号のみを送信し、それを生身が完全に失われた仁美の電子頭脳へと伝えていく。 今は手に何かが触れた感触や、腹部を指でなぞられた感触も今の彼女には伝わらず、快楽信号のみが送信されるように設定されている、 結果、仁美は気持ちいい信号のみが伝わり、わけもわからず蕩けてしまうような気持ちよさだけを感じるようになっていた。 そしてこの工程によって、仁美は薄々と気づき始めていた。もしかしたらあの身体は自分のものなのではないかと。 非現実的で信じられないが、身体が動かないのも頭と身体が切り離されたからなのではと。 「もしかして、あ、あれ、あ、あたしのか、あああっ!! あっ! ひあっ! き、きもちい、はあんっ! あたしの、か、身体が、う、嘘よ、そ、そんなわ、あああっ!!」 「大内 仁美の人格が、現在の状態を認識しました。自認識設定は正常に適用されています。絶頂確認後、調整のため人格エミュレートをリセットします」 遠隔操作によって動かされている仁美の身体は、ラストスパートとばかりに乳首が潰れるくらいに揉みしだきながら、より深々と激しく上下するディルトを膣奥まで受け入れ、自然な妊娠機能を失った人工子宮まで届かせる。 膣肉全体が性感帯に設定されている彼女の女性器ユニット全体は、刺激されればされる程に気持ちよくなる。 その総量は生身の人間が感じる性感を超えており、機械の脳でなければ耐えられない、または取り返しがつかないだろう。 じゅぷ、じゅぷ、とアームが前後し、人工膣液が絡み合う淫らな音を鳴らし、機械的な性行為はフィニッシュに向けて動き出す。 「あっ! あっ! あっ! あ、あ、あ、あ、だ、だめ、あんっ! き、きもちい、いいの、あたし、ちが、わけがわからな、ああんっ!! い、イク、イクの、あ、ああっ!! だめ、い、いっちゃ、イっちゃうう!! あ、あ、あ、ああああああああああっ!!!」 そして、膨大な快楽信号を受けた仁美の人格は、悦楽の濁流に耐えられず感覚のままに嬌声を上げ、今までどんな相手にもあげたことのないような絶頂の声を、首だけのまま叫んだ。 唸るような機械音と、いやらしい水音だけが鳴る無機質な部屋に、生物的な音声がこだました。 快感の頂点に達した仁美は、荒い呼吸のような音を喉から出しながら、クタっと表情に綻びを生み出す。 倒れたようにも見える頭部と違い、仁美の身体の方はただの遠隔操作されている機械人形でしかないため、本体とも言える電子頭脳が蕩けていても、身体を痙攣させたり佳がることもなく、絶頂の瞬間のポーズで固まっていた。 「エミュレート人格が絶頂に達しました。性感反応に異常はありません。人格エミュレートのリセット後、女性器ユニットの調整及び簡易点検を行います」 頭部と身体、それぞれが乱れる姿をずっと無表情のまま観察する女性達。 快楽信号の処理にリソースが割かれ、意識が彼女達の方へ向いていなかった仁美は、ようやく余裕が出てきたところで、浮かび上がってしまった疑問を口にしようとした。 「あっ……ぁ……ぅ…………し、信じられな、い……けど……嘘よね……あ、あの身体…………あっ……も、もしか……して…………あたs外部端末からの命令を受信しました。人格エミュレートの動作のリセットを行います。記憶データの保存が行われていません。リセットを継続した場合、稼働中の記憶データが失われ記憶データの保存を行います…………保存が完了しました。人格エミュレートのリセットを実行します…………」 今にも果ててしまいそうな恍惚の気分の中、考えたくない可能性を聞き出そうとした瞬間、仁美は接続された端末から命令信号を受信。機械としての従順な面をさらけ出し、それまでの人間らしさが失われた淡々とした機械的なシステムメッセージを喋り始めた、 たとえ喋っている途中でも、外部からの操作の方が優先されて発言が上書きされていく。 そして、本来は必要ないが嗜好品として先程までの記憶が保存されると、仁美はマネキンヘッドのように何も喋らなくなってしまった。 その間に、身体の方では、先程ディルドによる激しい刺激が加えられたばかりの女性器ユニットが股間からずるずると引っ張り出され、損傷箇所や意図せぬ変形箇所が無いかなどの簡易点検が行われた。 外性器が迫り出し、そこからカートリッジの如く出てくるピンク色の肉筒と、仁美本人のそれを加工した子宮ユニット。それらは今、人間を悦ばせるための性玩具として生まれ変わっていた。 「女性器ユニットに異常は確認されませんでした。動作テストを終了します。最終調整完了後、指定された日時にユーザーである西脇 和己 さんのもとへ移送を行います」 こうして、和己から全てを搾り尽くし奪い盗るつもりだった仁美は、自覚することもできないままに脳を含めた全身を生身のない機械へと生まれ変わらせられた。 そして彼女は再び、全てを作り変えられた身体で、同棲する彼氏のもとへ戻ってくることになるのであった。 * * * レナとの交渉を締結させた次の日の夜。 和己は一日帰ってこなかった彼女のこと、初対面の勧誘からとてつもないこと世界を見せつけてきたレナ達のことを考えながら、仁美のいない部屋で時間を潰していた。 「…………ここしばらくは外行ってばっかでいない時もよくあったけど、こうやって落ち着けるのは久しぶりだな……いつ帰ってくるかもわからなかったし」 室内には仁美の物ばかり溢れているが、不思議と自分の家が取り戻されたような、そんな気がする。 落ち着いてしばらくぶりのアイスココアを飲んでいたその時、来客を告げるチャイムが鳴った。 こんな時間に一体誰だ。仁美はいちいちアレを鳴らさないし、と思いながらインターホンの画面を着けると、そこにはあの地下室で出会った少女が、運送会社のような服を身に着けた姿で立っていた。 「お待たせしました和己さん。依頼されていた『荷物』をお届けに参りました!」 彼女の他にも、同じ服の女性が数人。その中央には、大きな箱が置かれていた。 もしかして、その箱の中に彼女がいるのか。半信半疑ながらに彼は玄関で応対のやり取りを一通りした後、かなり重いその箱をリビングまで運び出した。 「思ったより大きいな……」 苦労して動かした後、改めて箱を上から眺めると、重さの部分で信憑性が増してくる。だが本当に人間を完全に機械化することなんてできるのか、あの仁美が本当にそんな機械人形になっているのか。 その答えがここで出る。和己はゆっくり丁寧に箱の蓋を開いた。 「…………! 本当に……こうなったのか……!?」 箱の中にあったのは、頭部、上半身、下半身、両腕、両脚、女性器ユニット、全てが部品らしくバラバラに収納された、紛れもない仁美の姿だった。 ある程度人体の位置に準拠して収められているが、人間ではありえない位置や離れ方をしていて、トリックや騙しの可能性は考えられない。 和己は、虚ろな瞳を晒している頭部を持ち上げると、さらりと美しい髪が流れ、つるつるとした心地よい人工皮膚の感触が伝わった。 その触り心地は、地下で触らせてもらったそれと全く同じだった。 「…………早速組み立てよう」 和己は驚愕と衝動のままに、すぐにバラバラになった仁美の組み立てを始めた。 同封された用紙に記されたコードを携帯端末で読み取り、そこから説明書と、仁美を操作するためのアプリをインストール。 ガイドに従って彼女の身体を繋げていくと、数える程しかベッドの上で見たことがなかった仁美の女体が、より洗練され魅力的になった形で露わになった。 目が開かれ、口がぽかんとなっている顔で、まず床で眠ることがありえないであろう彼女が仰向けになっている様は、まるで死体のようだが、それにしてはとても血色が良く感じられた。 「こうしてみると、ロボットになったなんて全然信じられないな……継ぎ目もじっくりみないとわからないし。それで、首筋の電源を入れて……」 地下室で見たように、まずは仁美の首を軽く捻り、髪に隠れた首筋の部分に指を置く。 爪で軽く引っ掻くように触れると、取っ掛かりと感じた。それを開いてみると、周囲の人工皮膚と同じ色と感触のカバーが開き、下から充電端子や接続端子、電源ボタンが埋め込まれた機械的なパネル部分が表れた。 電源ボタンを長押しして、すぐにカバーを閉じて首を元に戻すと、仁美の眼にうっすらと光が宿り、天井を向いたまま口が動き始めた。 「電源が入力されました。登録名、大内 仁美、起動します。当機体への改造の意思を示していただき誠にありがとうございます。機体を所有者の思い通りに操作するため、指定したアプリをインストールした端末の登録をお願いします」 カフェで勤めていた時ですらここまでしないような、無機質かつ丁寧な喋りが、紛れもない仁美の声で口から流れ出してきた。 自分をただの製品だと主張するような内容を抵抗なく発言し、和己は思わず笑みをこぼしながらアプリを起動し、仁美と無線接続を行う。 「端末を確認しました。当機体の操作を行う端末として登録します…………登録が完了しました。ユーザー名は西脇 和己 様と登録されていますが、このままでよろしいですか? よろしければ、アプリ側からの操作をお願いします」 様付けなど絶対しないであろう彼女の口から、淡々とした様付けの名前呼びに、思わず愉悦的な気持ちが湧き出してきそうになる。 指示に従い、和己はきちんと操作を進めていく。 「確認しました。初期設定が完了しました。これからもよろしくお願いします、和己様。人格エミュレートを開始します…………」 そして、全ての初期設定が終了し、最後のシステムメッセージからしばしの沈黙が流れると、それまでずっと無表情だった仁美の表情に自然な雰囲気が宿り始めた。 直後、彼女はすぐに眉を潜め、不機嫌そうな顔を早速曝け出した。 「…………なにこれ、あたしなんで裸でいるのよ。ねえ一体どういうこと? こんな冷たい床で寝かせて、一体何しようとしてたの!?」 仁美は人格エミュレートが始まってすぐに、いつものように和己に対する悪態を付き始めた。 自分が機械に作り変えられた自覚などある様子もなく、今までの日常から地続きであるかのように、腕で乳首や股間を隠しつつ睨みつけて声を荒げた。 「なに? ずっとシてくれないから無理矢理犯そうとしてたわけ? ふざけるのも大概にしなさいよ。あたしはあんたと付き合ってあげてるんだから、ちょっとは感謝し…………」 自分が優位であることを疑わず、ひたすら湧き出した怒りを吐き出し、今にも殴りかかりそうな程の勢いで捲し立てる仁美。 今にも唾が撒き散らされそうな喋りをしているが、今の彼女の声は喉奥のスピーカーから発されており、呼吸もしていない為人工唾液が飛び散ることもない。 それがいつも通りの態度になってしまった彼女に対して、和己は動じることなく、隠した携帯端末から一時停止の操作をアプリから行った。 すると、仁美は喋りの途中で突然硬直し、まるで時間が止まったように動かなくなってしまった。 彼女の視線から外れても、背後に回っても、頬に触れたり乳や尻を揉んだり、眼球に触れても怒りの形相とポーズのまま何も反応しなくなったのだ。 「…………はは、本当に、思い通りロボットになったんだな。こんなにキレてても簡単に操作できるんだな……こりゃいいや」 どれだけ自分の立場が上だと思っていても、どんなことを思考していても、全てが自分の思いのまま。 ワガママで傲慢な彼女が、簡単な操作で従順に従うロボットに生まれ変わったことを目の前ではっきりと示され、和己は思わず歓喜の感情を静かに噛み締めた。 「これで別れるとか考えずに済むな。これからもよろしく、仁美」 中身以外は全て完璧だった彼女。別れることも考えたくなっていたが、もうその必要もなくなった。 誰もいない方向に怒りと不快の表情をぶつけたまま停止した仁美の背中を撫でながら、和己はこの瞬間から始まった新たな日常を噛み締めた。 どんなことをしてやろうか、どんな風にして遊んでやろうか。これまでに募った腹立たしさやムカつきからも、色んな思考が渦巻いてくる。 こうして、機械へと作り変えられた自覚のない元人間の彼女との、新たな倒錯的同棲生活が幕を開けたのであった。