こちらは、オリジナル小説『初手実技者リィナ、今日も魔法でボロボロです』の第1話です。
魔法学院を舞台に、不遇な立場と過酷な実技試験に翻弄される少女を描いたファンタジーです。
本作は全3話構成の読み切り形式を予定しています。
本作には、「表小説」と「裏小説」という2つの異なるバージョンが存在します。
同じ物語の流れを辿りながらも、展開や描写が大きく異なる構成となっており、それぞれ異なる読み応えをお楽しみいただけます。
ぜひ両方あわせてお楽しみください。
裏小説を読みたい方はこちら →https://natukawahikari.fanbox.cc/posts/10019295
現在はテキストのみの先行公開となっておりますが、今後の反応や制作状況に応じて、挿絵の追加やビジュアル化を検討しております。
なお、ビジュアルの変更時には、より臨場感を持たせるために、内容や台詞が一部変更されることがあります。
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第一話あらすじ
名門ヴァルフェリオン魔法学院に、補欠合格で入学することになった少女リィナ。
だがその合格は「初手実技者(フォアキャスター)」――危険な実技実験の犠牲役という役割を条件とするものだった。
初授業で恐怖に震えながらも、リィナはマンドラゴラの訓練に挑む。
失敗と混乱の中で倒れこむ彼女だったが、クラスの少年ヴァルトに励まされ、少しだけ自信を得る。
これは臆病で不器用な少女が、それでも前に進もうとする、魔法学院での奮闘の物語の始まり――。
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第一話「初手実技者リィナ」
朝靄の立ちこめる校門の前に、一人の少女が立っていた。
その瞳は、不安と決意を静かにたたえている。
「名門・ヴァルフェリオン魔法学院……ここに入れたら、人生が変わるって、みんな言うけど……」
リィナ・ミストルナは、自分に言い聞かせるように心の中でつぶやいた。
本来、彼女がこの学院に入学できるはずはなかった。
入試では不合格。夢は、その時点で終わったと思っていた。
――だが、ある日、突然届いた一通の封筒がすべてを変えた。
封を切ると、金色のインクで押された紋章が目に飛び込んでくる。
『ヴァルフェリオン魔法学院 臨時追加合格通知』
受験番号R-1173 リィナ・ミストルナ 殿
貴殿を、名門ヴァルフェリオン魔法学院の臨時補欠合格者として認定する。
それは、まさかの「招待状」だった。
「……初手実技者(フォアキャスター)……?」
だが、その肩書きは同時に、「危険で誰もやりたがらない実技を押し付けられる」ことの証でもあった。
それでも――リィナは迷わなかった。
「……ここで逃げたら、家族は……ずっと、あの村から出られないままだ……」
胸元のペンダントにそっと手を添える。
病弱な母、働き詰めの父、そして幼い弟と妹たち。
誰か一人でも外の世界に出られたなら、きっと家族全体が変われるはずだと信じていた。
「だから、私が行く。……絶対に、辞めたりなんてしない……!」
強く心に誓いながら、リィナは学院の門をくぐった。
無事に入学式を終えた翌日。
学院の廊下には朝の光が差し込んでいたが、リィナの心は重かった。
最初の授業が始まり、ほどなくして名が呼ばれる。
「初手実技者、リィナ・ミストルナ。前へ出なさい」
厳しい眼差しをたたえた中年教師――ホーエンハイム先生の声だった。
「……はい……」
かすれた声でリィナは立ち上がり、教室の前方へと歩いていく。
教卓の上には、でっぷりとした植木鉢。
その中で、奇妙な植物――マンドラゴラが眠っていた。
人間のような顔に、淡い緑の肌。
静かに目を閉じて眠るその姿は、不気味さすら漂わせている。
「これが……マンドラゴラ……!?」
教室中の視線が一斉に集まり、リィナの足がすくむ。
「“初手実技者(フォアキャスター)”、リィナ・ミストルナ。準備はいいな」
ホーエンハイムの声が響く。
リィナは一歩、前へと進んだ。
眠るマンドラゴラが、まるでこちらを見ているような錯覚に襲われる。
リィナは手を伸ばす――いや、伸ばそうとした。
(動けない……!)
体が硬直する。教室がざわめき始めた。
「ほら見ろよ、動けてねーじゃん」
「ビビってんじゃん?」
嘲る声が飛び交う中、リィナは口を開いた。
「……で、出来ません……」
――ザワッ。
その瞬間、教室の空気が変わった。
「出来ない? 何のために補欠枠で入学できたのか、分かっているのかね?」
ホーエンハイムの声が鋭くなる。
(分かってるよ……でも、でも、怖いんだよ……!)
「泣く前にやれよ〜!」
誰かの声が飛ぶ。リィナの膝が震え、魔力が集まらない。
「やれやれ……」
ホーエンハイムが呟き、杖を一振りした。
――ビクンッ。
右腕に熱が走る。腕が勝手に動き、マンドラゴラの茎を掴んだ。
「これはMP50の強制魔力だ。うちの学生の大半なら、簡単に振りほどける」
冷静な声が告げる。
「嫌なら……自分の力で、解いてみろ」
(できない……でも……)
「う、うーんっ……!」
リィナは歯を食いしばり、魔力に抗いはじめた。
右腕を動かさないよう、気力を振り絞る。
「……ほう。意外と、頑張るねぇ」
ホーエンハイムの目が少し変わる。
冷たい監視の視線から、興味を持った目へ。
「先生って、魔力かけたよな……?」
「マジかよ……ふつう、あの時点で終わりだろ……」
ざわめきが変わる。誰かが、小さく声をあげた。
「がんばれー! リィナちゃん!」
嘲笑が、いつの間にか応援に変わっていた。
「や、やめて……わたしの手……動かないで……!」
必死に抵抗する。魔力に操られる自分の手を、自分で押さえ込む。
「どうする? このまま引き抜くか、自力で解くか――選べ」
ホーエンハイムが問う。
だが、そんな選択肢は無意味だった。
「こんなの……嫌だ……でも……ここで、やめたら……っ」
――お母さんの笑顔が浮かぶ。
見送りのとき、言ってくれたあの言葉。
『あなたなら、きっとやれるわ』
――やらなきゃ。私は、やらなきゃ。
「も、もう……ダメ……っ」
力が抜けた、その瞬間――
ズボッ!
茎が引き抜かれ、直後――
「ギィイイイィィィィィィィィ!!!!!!」
教室が凄まじい悲鳴に包まれた。
「ぎゃああああ!!!」
「耳がァあああ!!!」
「やっぱ失敗したあああ!!」
「……まったく、騒がしいねぇ」
ホーエンハイムが杖を構える。
「《静止せよ、魂なき声よ──サイレント・フォース》」
魔法陣が光り、マンドラゴラが黙り込む。
その直後、リィナの体も力尽き、膝から崩れ落ちた。
「……失敗、しちゃった……」
夕方、風に揺れる葉が、傾いた陽に透けている。
静かな温室のベンチに、リィナはひとり座っていた。
手を膝に乗せ、指先はまだ微かに震えている。
「……やっぱり、無理だったんだ……」
「……全部、見られた。みんなの前で……」
「……お母さんの顔が浮かんだのに……」
悔しさと情けなさに、胸が締めつけられる。
「……あんだけ抵抗した奴、俺は初めて見たけどな」
背後から声がした。
振り返ると、ポケットに手を突っ込んだ少年――ヴァルトが立っていた。
「まあ、叫ばせたのは君が初めてじゃないし。気にすんなよ」
リィナは思わず彼を見上げた。ヴァルトは目を合わせず、ぽつりと続ける。
「先生の強制魔法、“うちの学生の大半なら”とか言ってたけど、普通は即アウト。……ちょっと見直したわ」
リィナは戸惑いながら口を開く。
「えっと……あの、わたし……リィナ・ミストルナっていいます。補欠合格の……」
ヴァルトは肩をすくめる。
「知ってるよ、“初手実技者”だろ? ……俺はヴァルト・グランツヴァイス。こっちじゃちょっとは名の知れた生徒、ってとこ」
そう言って、彼はくるりと背を向けた。
「……ま、次は叫ばせんなよ、“実技者”さん」
軽く手を振りながら、彼は歩き去っていく。
「……見直した……って……」
思わずつぶやいたその言葉のあと、胸の奥がほんの少しだけ温かくなっていた。
「……もうちょっとだけ、やってみようかな……」
夕陽が、そっとリィナの背を照らしていた。