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【ゴーディー】第3話 夢と現実【未実装ウマ娘】

Part.1 普段着のレース  ゴーディーは屈辱を振り払って戦列に戻った。幸い勝ち負けは出来る。まずはそれでいい。勝たねば昇級できないURAとは根本的に仕組みが違う。  だが、クラシックに挑戦するにはゴーディーの成績は少し物足りないのも事実だった。たった16しかないゲートは文字通り狭き門だ。  そこでゴーディーはトライアルレースである雲取賞に挑戦した。3着までに入れば南関シリーズの前哨戦、京浜盃に出られる。そして京浜盃で2着までに入れば南関シリーズのクラシック第1弾、羽田盃に出られる。  雲取賞は重賞ではなくオープンレースなので勝負服は着ない。ゴーディーも勝負服を着たくないではなかったが、どういうわけか勝負服を着ない方が調子が良い気がした。  アラブのメッカと称されたソノダでは70年代の終わりまで勝負服を禁止していて、全てのレースで枠色のゼッケンだったという。  ゴーディーの母親のイケノエメラルドの居たナゴヤでは、90年代の半ばまでそうだったという。あるいは、勝負服の神秘はアラブにはあまり効き目がないのではないかとゴーディーは思った。  周りは万全の準備を整えたエリートばかり。だが、ゴーディーはトレーナーとその息子であるサブトレーナーと一緒に普段通りにすることを心掛けた。  8番人気というのは気に食わないではないが都合は良い。誰もマークしてこないからだ。  ゴーディーはいつも通りスタート飛び出してハナを切った。逃げれば十分に戦える。何しろイナリトウザイの末裔だ。  4つのコーナーをゴーディーは全て先頭で回り、最後の直線に出た。  逃げたアドバンテージはあるが、直線は苦しい。だが、京浜盃に進めば、そうでなくてもここで少しでも良い着を取れば、羽田盃に出られるかもしれない。  無理に勝たない。無理にでも勝ちたい。そういう思惑が交錯するから南関は何が起こるか分からない。ファンはファンでゴーディーの粘りに色々な思惑を乗せて声援を送る。  危ない所で3着に残ってゴールした瞬間、ゴーディーは力が抜けた。クラシックへの道ははこんなにも過酷なのかと空恐ろしかったが、その道に挑む手応えは感じられた。  どうにか京浜盃に滑り込んだゴーディーは9番人気。だが、これは仕方がないとゴーディーも思った。 「あなたね。噂のアラブってのは?」  パドックの裏であるウマ娘がゴーディーに声をかけた。 「あんたか。噂のエリートいうんは?」  ゴーディーは弱気になりそうなのを悟られないように振り向き、やり返した。  黒字に黄色の縞の入ったドレス、左耳には赤い十字のバレッタ。URAではこの意匠を見ない日は無いが、ローカルシリーズではあまり見かけない。 「クラーベセクレタよ」 「ゴーディーや」 Part.2 悪役令嬢と下町娘  クラーベセクレタ。彼女はエリートの中のエリートだ。出身者がURAでGIを独占する名門予備校で教育を受け、ローカルシリーズのこの世代では最強と目されている。何故URAではなくフナバシに入ったのか不思議だと誰もが噂していた。 「逃げるんでしょ?」 「当たり前や」 「じゃあ、競争ね」  そう言い残してクラーベはパドックへ出て行った。 「クラーベセクレタよ。勝つのは私」 「そんな事誰が決めた!?」 「お前らはローカルに来んな!」 「どこぞのウマドルよりもっと気に入らねえ!」  客席から罵声が飛ぶ。何しろオオイのファンはURAに強烈な敵意を持っている。クラーベはもはやその出自が悪役扱いで、特にオールドファンからは親の仇のように憎まれていた。 「評判悪いんやな」 「そうなの。やっかまれて大変」  引っ込んできたクラーベは罵声など聞いていなかったかのように平然としている。自信と余裕に満ちていた。  はっきり言えば、クラーベの居た予備校はレースの世界では悪役だ。あまりに勝ちすぎるからだ。勝負の世界だからと言うのは簡単だが、あの予備校の存在はレースの在り方を変えてしまったのだ。  生徒を取られて潰れてしまった予備校は数知れない。トレーナー達も機嫌を損ねると新入生を回して貰えず飯の食い上げだ。  逆に、そうして潰れてしまった予備校にとって大切な顧客だったのがアラブだ。  というのも、アラブは事前に素質を見極めやすい。走っても走らなくてもその素質に応じたトレセンに送り込めばいい。  その行先がコウチやマスダあたりだとしても、勝利というのはウマ娘にとって何よりの幸福だ。そして、予想以上に強くなればそうした田舎のトレセンからでもソノダやオオイを目指せるのもアラブだ。  URAなど異世界だと思っている田舎のシリーズのファンは、そうして送り出した「アラブの怪物」に自分達のハイセイコーの姿を見た。それがローカルのロマンの究極形だったのだ。  そうしてアラブで実績を作り、同時進行でダービーを狙う。それが小さな予備校のビジネスモデルだったのだが、それは昔話だ。  アラブはレース場から締め出され、小さな予備校からダービーウィナーなど出ない。もう時代は変わってしまったのだ。  時代の最先端を突き進むクラーベと、時代に抗うゴーディーが相対するのは奇妙な巡り合わせだった。 「ゴーディーや。逃げまっせ!」 「期待してるぞ!」 「お前は偉い!」 「アラブの怪物!」  クラーベとは逆にゴーディーはオオイきっての人気者だ。アラブがクラシックに挑もうというのだ。それはもうオールドファンの記憶の中にしか残っていないロマンの再現であって、望み薄だとしても夢を抱かせる挑戦だった。  決してロマンを予想に持ち込まないファンの予想によればゴーディーは9番人気。着はともかく逃げ比べにだけは勝ってやろうとゴーディーは願い、三日月の髪飾りを撫でて先祖に祈った。 Part.3 運命の赤い交差点  だが、現実はあまりにも残酷で、強烈だった。  ゴーディーは大外の15番枠。不利を承知でゲートを飛び出したが、6番枠を引いたクラーベは楽々と先頭に立った。  ゴーディーは歯を食いしばってクラーベを追いかけた。だが、もう先頭には立てない。ハイセイコー記念で後塵を拝し、雲取賞で打ち負かしたリアンローズというウマ娘と2番手争いをする羽目になった。  ゴーディーは直線まで2番手争いを続けたが、そこで力尽きて終わった。6着というのは一番悔しい。余力をたっぷり残して勝って見せたクラーベは物が違った。  どうにか羽田盃に出走できたゴーディーは、ご先祖様に見放されたのだと暗澹とした気分になった。トリプルティアラ路線に進むはずだったクラーベがそこに居たのだ。  大地震で浦和桜花賞が中止になり、クラーベが横滑りしてきたのだ。だが、クラーベはもう勝つつもりで居たし、それは恐らく現実になるだろうともっぱらの評判であった。 「あら、出られたの?」  雨のレース場でクラーベはゴーディーを見つけてそう言った。嫌味だったのか、それとももう敵とみなしていなかったのか。今となってはゴーディーにも分からないが、無性に腹が立った。 「この雨や。泥が酷いやろな」 「あら?雨は苦手?」 「雨が嫌でローカルで走れるかいな」  ゴーディーは雨に怯む程やわでないが、一生に一度のクラシックを決して勝てない相手と戦わねばならない不運を呪った。 「相手にするな。潰れてもいいから盛大に逃げてこい」  トレーナーはゴーディーをなだめながらゲートに送り込んだ。今度はゴーディーの方が内枠だったのは、神様にも判官贔屓な所があるという事なのかもしれない。  飛び出したのはゴーディーだった。クラーベは一瞬追いかける姿勢を見せたが、すぐに諦めて引き下がった。  ゴーデイーは必死に逃げた。蹴り上げた泥がクラーベに飛び散っているはずだ。だが、そんな物は足しにもならないのはゴーディーが一番よく知っている。これは意地の問題だ。  すんなりと逃げたのだから理想の展開だ。だが、大方の予想通り後ろに控えたクラーベは第3コーナーで動いた。  捲ってくるクラーベは第4コーナーまでにはゴーディーに並びかけた。ゴーディーはその勢いを見て愕然とした。 「お先に!」  そう言い残してクラーベは直線でゴーディーの前に出た。ゴーディーは最後の抵抗を試みたが、食い下がれたのは一瞬だけだった。  ゴーディーがバ群れに飲まれていく中、クラーベは7バ身もの大差をつけてゴールした。ゴーディーはまたも6着。 「糞!泥や!泥や!」  泥まみれになったゴーディーは、迎えに来てくれたトレーナーに叫んだ。 「よくやったよ。泥は雨だからしょうがない」 「泥濡れになるんは当たり前や!やけど、あいつの面に泥を食らわせたろ思うたのに…あいつの面!」  ゴーディーはせめてクラーベの顔に泥をかけてやろうと狙っていたというのに、道中十分な間隔を取り、外から捲って出たクラーベの顔は綺麗な物だった。 「ウチは一体、何なんや」  ゴーディーは泥を蹴り付け、帽子を取って空を見上げた。ゴーディーは泣いていた。涙を隠してくれる泥と雨だけが今のゴーディーの慰めであった。 元ネタ解説 Part.1 ソノダの勝負服:  園田競馬場では70年代の終わりまで枠色と同じ色の無地の枠服を騎手に着せていた。  ちょっとしたことで暴動になった時代なので、視認性を優先した措置であったという。 ナゴヤの勝負服:  名古屋競馬でも1996年まで枠服であった。名古屋の騎手は笠松遠征では勝負服を着用し、逆に笠松の騎手は名古屋遠征では枠服を着用した。 クラーベセクレタ:  この世代の地方最強馬。サンデーレーシングの所有馬で、お馴染みの勝負服の意匠をメンコに入れていた。 潰れてしまった予備校:  21世紀の日本競馬は社台系の天下で、多くの牧場が競争に敗れて潰れた。 アラブは事前に素質を見極めやすい:  アラブは良くも悪くも血統なりに走るとされ、安定して収益を出す事が出来るので中小牧場で盛んに生産された。 アラブの怪物:  時々予想を大きく上回る成長を見せる馬が居て、小さな競馬場から各地の大きなレースへ殴り込む馬がこう称された。 自分達のハイセイコー:  特に70年代には、そうしたアラブの怪物に「○○のハイセイコー」というキャッチフレーズがしばしば付いた。 アラブで実績を作り、同時進行でダービー:  アラブやばんえいで収益を確保し、サラブレッドでチャレンジするというのがかつての中小牧場のやり方であった。 Part.3 浦和桜花賞:  南関の牝馬クラシック第1弾。2011年は東日本大震災の影響で中止になり、クラーベセクレタはそのまま牡馬三冠に挑んだ。

【ゴーディー】第3話 夢と現実【未実装ウマ娘】

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