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ほろ酔いにゃんこ from fantia
ほろ酔いにゃんこ

fantia


戦闘訓練でストレス発散する巨大ヒロイン

がらんとした廊下にコツコツと足音が響く。 夜の闇に動く私をとらえて自動点灯する白色灯、それに照らされる清潔感あふれる白い壁。 ミニスカートを揺らし、長い廊下を自分が奥へ進むごとに闇が光へと転換していく様子に、まるで何者かに歓迎されているような気さえして、私は思わず頬を緩めた。 幾度かT字の行き止まりを曲がって最終的に行き着いた部屋には「VR戦闘訓練室」のプレートが掲げられている。 ちらり、と天井の方を見上げれば、小さく赤い光を灯す監視カメラが私を映している。私はアイドル気分で微笑んで手を振ってあげた。 私は特別な存在だ。 まだ子ども、大人たちの言いなりという身分ではあるけど、本気を出せば誰も私に逆らえない。 ただ全部ぐちゃぐちゃに壊してしまっては、私が困る。だから大人しくしてあげているだけ。 「認識中……完了。コードネーム、ベータ。あなたを歓迎します」 訓練室のセキュリティシステムのカードリーダーに自分のIDカードを通すと、機械音声がお馴染みのテンプレート文を感情のない声で読み上げた。 特殊合金製の扉が開き、私を招き入れる。 室内の電灯が一気に点灯した。厳重なセキュリティのわりにこじんまりした部屋には、2メートル強の筒状の機械が横倒しになっている。ニ機の戦闘シミュレーションマシンだった。 マシンの中身は見えないようになっているので、一つ一つマシンのステータスを見る。どちらも電源がOFFの表示。今晩も誰も来ていないみたいだ。 アルファは戦闘訓練なんてだるくてやっていられないということなので、夜にまで自主訓練に来るのはやっぱり私だけなのかもしれないな。 でもそれは、私がこれから行なうことが「訓練」といえればの話。自分がやっていることの背徳感を思い起こされて、少しぞくぞくして、胸が高まっていく。 マシンの内部に入って横になると、すぐそこに頭に被るためのヘルメットが、いくつものコードを伴って伸びてきていた。 自分の脳の主導権を一時的にマシンに移譲し、本格的なバーチャルリアリティを体験するためのコネクタである。 私は胸の高鳴りを抑えられないままヘルメットを被って目を閉じる。 「脳波を解析中……身体をスキャニング……完了。健康状態に異常なし。コードネーム、ベータの仮想戦闘体と戦闘記録をサーバーから取得しています……完了。VR訓練をスタートします」 次の瞬間、私の意識は訓練室のシステムの中へと吸い込まれていった。 -- ミッションのランダム抽選をしています……完了。 昼間の市街地守備戦闘訓練を構成。 ミッションクリア条件:市街地を1時間死守する。または、侵略者を殺害する。 サブミッション:一般市民の死者数を1000人以下に抑える。 ミッション失敗条件:一般市民の死者が5万人を超える。 -- 脳内に文字が浮かんだあと、私の鼓膜を叩くのは、ヘリコプターと戦闘機のエンジン音。そして空気の流れる音だった。 閉じていた目を開くと、うんと遠くまで青空が続いていて、足元には私たちの基地の広い空き地、そして少し離れたところから市街地が、ミニチュアのように広がっている。 私はまるで試着室で自分の姿を確認するように動き、自分の身体を見た。服装は皮膚に張り付くようなスク水みたいなエナメル製スーツ。両腕両足には腕力と脚力を数倍に跳ね上げることのできるパワードパーツを装備している。 この訓練システムは、どのミッションを引いても巨大化した状態で登場になっちゃうから、室内巨大化とかできないのが燃えないトコなんだよねぇ。まぁ、しょうがないか。 と、そこへ無線連絡が入ってきた。 「オペレーションチームよりコードネーム、ベータへ。今回の任務の概要を説明する。大気圏外より、体長100メートルの飛来物を確認。着弾は10分後と想定される。サイズはベータの5分の1と小さいが、民間人にとっては大きな驚異となることは間違いない。油断のないように」 「こちらベータ。りょーかいッ!」 オペレーションチームの軍用ヘリコプターが自分のお尻近辺を飛んでいることに気がついた私は、返事がてら勢いよくお尻を突き出した。私への任務を伝達していたヘリコプターは、問答無用で散り散りになって落下していく。 お尻が少し汚れたけれど、気にするほどでもないかな。 「えっち!」 お尻を突き出して身をかがめたまま、顔と耳を赤らめながらもわざとらしく言う。 本当の戦闘じゃこんなことしたら社会的に死ぬ。下手したら特別な存在であることが裏目に出て、あっさり処刑されるかもしれない。 私が生まれたときにはすでに、この惑星には宇宙からの侵略者がたびたび襲来していた。 その侵略者の姿形やその能力は様々だけれど、基本的に私たち人間よりも何倍もサイズが大きい。 そいつらは何らかの破壊兵器などは用いてこないけど、その大きさ相応に皮膚はミサイルが通らないほどに分厚く、質量もハンパない。人が住む家なんて足を乗せられただけで潰れてしまうし、ビルだってのしかかられてはひとたまりもない。 そんな侵略者を撃退、あるいは殺害するのが巨大化装置に対する適性をもった私たちの責務だ。 装置の適性を持った人間は、遺伝子操作で人工的に生み出すしかない。 これが私自身が選ばれた特別な人間であることを示す証の一つというわけである。 でも私だって意思を持った一人の人間だ。街を壊さないように歩くのはイライラ棒以上にストレスが溜まるし、侵略者にふっ飛ばされて街に被害が出ると、私がすり潰したみたいにメディアで取り上げられてしまう。胸に渦巻く怒りや不愉快な思いはもう限界。 そういうわけでこの訓練システムを使ってストレス発散をしている。溜まったストレスを解消するのも体調管理の一環だもん。別にいいよね。 「さーて、まだ始まったばかりだけど、お尻を変に動かしたら疲れちゃった。予想時刻までは10分あるし……ちょっと座って休んでようかなぁ」 にやりと浮かべた笑みでミニチュアの街を見下ろし、何百何千という人間たちの存在を意識する。まぁ私には黒い点にさえ見えないんだけど、見上げる人間たちの視界にはそびえる私の姿が逆光で映っているかもしれない。 まだ避難の完了していない、全く無傷で無事な区画に狙いを定め、エナメルに包まれるお尻を降ろした。十数棟のビル群が下敷きになって、私のお尻をザクザクと刺激してくれる。冷たくない霜に座り込んだみたいで気持ちがいい。 --- 一般市民の死者数が1000人を超えました。サブミッションに失敗しました。 --- 「ぷっ……あっはは! なんかぁ、サブミッション失敗しちゃったわぁ」 いつものことながらわかってはいたけれど、視界に直接浮かび上がる文字列に、笑いをこらえ切れない。まだ侵略者が登場すらしていないのに、1000もの命が失われた。私の手……いや、私のお尻のせいで。 大人が1000人集まっても、ビルという建築物を何本用意しても、私のお尻さえ支えることができやしない。人類はとても非力だった。


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