タワーをディルド代わりにオナニー
Added 2019-08-17 05:40:04 +0000 UTCタワーをディルド代わりにオナニー 炎天下。生魚のような嫌な臭いが漂っていた。そんな悪臭を乗せた生ぬるい風が吹き渡り、腰まで下ろした私の黒髪ロングヘアが大きくなびく。 視界には粘ついた半透明の液体にまみれ、傾きを見せる細長い高層マンションが建っていた。 壁面や窓ガラスを伝って道路にも多量の粘液が撒き散らされており、基盤からだめになってしまっている。 ネバついた液体をかき分けて車が通り過ぎ、弾けた粘液が看板や信号機に付着する。 斜塔と化したマンションの突き刺さっている道路にはヒビが走り、あたりにはガラス片の混じった瓦礫が散らばっている。ちらほら洗濯物と思しき衣服がスライムのような粘液溜まりに混じりこんでいるのも見えて、この現実離れした惨状に見舞われたマンションにも人の生活があったのだな、なんて感じた。 なぜ立っているのか不思議なくらい不安定で、いつにでも倒れ込んできそうだった。もしかしたら、皮肉にもこの粘着質な液体が支えているのかも知れない。 瓦礫撤去作業をおこなう作業員が粘液溜まりに足をとられ、転びそうになって手をついた。腕のにおいをかいで、その臭いに顔を歪めていた。 ただでさえ作業場はいやな臭いがぷんぷん漂っているというのに……そんなことをぼやきながら、彼は休憩室へと足を運んでいった。 入れ替わりに別の男たちの声がする。これを終わらせないとこの区画にもう一度人が住むことができない。この街は最近頻繁に使用されているので、避難民が増加している。避難所があふれてしまう前に、片付けないと。 そんな会話が聞こえる方角から隠れ潜みながら、作業員に見つからないようにこっそり内部に侵入する。 マンションの内部は外装よりもひどいありさまだった。 屋上から少しずつ染み込んだ粘液がパイプを回り、空調機や水道から流れ落ちて、建物の傾きに沿ってねっとりと流れている。きらびやかな装飾が台無し。とくに壁に飾られていたであろう絵画は溶かされ、もはや額縁しか原型を残していない。 粘液に足をとられないようにエレベーターの前まできた。ドアは開きっぱなしだったので容易に乗ることはできたものの、上のボタンを何度か押してみてもまったくの無反応だった。 エレベーター内の鏡には、制服に身を包んだ、地味な印象を与える赤縁眼鏡の女の子が傾きに足を踏ん張っている。伏し目がちのその様子からは弱々しそうなオーラが漂っていて、我ながら守ってやりたいなんて感じてしまう。 結局動かなかったエレベーターを出て、次は階段をのぞき込んでみる。ドロドロと耳につく音を立てながら、上層階からネバネバの液体が流れてきている。エントランスだけでなく、住居ものぞいてみたかったけれど、さすがにこの中に身を投じるのは私でも嫌なので、もう引き返して別の場所に向かうとしよう。 と、マンションの出入り口から出てきたところを運悪く一人の男に見つかってしまう。 「お嬢さんなにやってんの! ここ入っちゃいけないとこだよ」 「ご、ごめんなさい……私のおうち、このマンションだったので、どうなってるか気になって……」 作業員の男は私を呆れたように叱りつけてくる。 私は自分の家の様子が気になったとしょんぼりした態度で謝罪した。嘘だ。 うつむいて垂れた髪の毛に指を絡ませて、くるくるさせる。 二階以上に登れなかったのは明白で、内部の凄惨さは作業員だって知っている。そこに自分が暮らしていた場所があったとなると、憐れむ他ないだろう。バツが悪そうな表情を浮かべた男がそれ以上何かを言うことはなかった。 しかしさすがの私も鉢合わせとなるとびっくりしたので、そそくさと逃げるようにその場を去る。 高級マンション街から南西に外れて住宅街へと入ると粘液もほとんどなくなっていた。臭いはまだ漂ってきているけれど、先ほどのマンション付近に比べたらまだ清々しい。 流れる景色に連なる一戸建てを見ていると、突然目の前にだだっ広い窪地が広がった。それも視界いっぱいにだ。 突如として連なっていた建物が終わり、土だけのアフリカの未開拓地帯のような殺風景な景色が延々と続いている。まるで栓が抜かれて水が干上がった湖のようだった。 ゴウゴウと重機のエンジン音が風に乗ってやってきている。 「ここって何があったんだっけ」 この感覚、つい数週間前にも感じた気がする。 私は小学校の頃の通学路を思い返した。幾度となく見た景色が焼き付いていて、中学、高校と進学してもうその通学路を使わなくなっても記憶に残っていた。しかし、それはそんな気がしただけだったことを少し前に思い知らされた。 数週間前、小学校の通学路をたまたま通ったら、道沿いに殺風景な大きな空白ができていて、そこを数台の重機たちが走り回っていたのだ。 そのときの私は反射的に記憶の糸を手繰り寄せた。いったい何があったんだっけ。住宅地? 田んぼ? ビルでも建ってたっけ? わからない。思い出せなかった。 私たちの記憶なんて、所詮その程度のものだった。 心を記憶の海から浮上させる。きっとこの窪地にも何かがあったのだろうけど、すぐそばに住んでいる人や、実際にこの中に持ち家でもあった人でないと、どんな建物があったかなんて覚えていないのかもしれない。 現在、この窪地の交通インフラは整備されておらず、最近ようやくブルドーザーやショベルカーといった重機が入ってて土砂の片付けと平地づくりを始めたらしい。 しかし、ここ周辺はもとより破損した道路が多い。少し前まではこの窪地を迂回して遠回りする人も多かったけれど、今は一気に向かいまで行ける近道として住民たちに認識されつつあった。 そして私もそんな近道を通ることにする。窪地の縁から底まで数メートルに渡ってかけられたはしごを下った。 そこそこ深い窪地は、学校の屋上の柵を乗り出して、そこからグラウンドを見下ろしたときと同じ感覚を私に与えた。遥か下に見える地面が怖かったけれどその恐怖をなんとか押し殺し、窪地の底へと降り立った。 ふんわりと酸っぱい臭い、そして泥の匂いがした。背後をみると、自分が下ってきた窪地の壁が、断崖のようにそびえている。はしごが取り外されたらもうこの窪地から這い上がることはできなさそうだ。 足元に光を反射してキラリと光るものがある。制服のスカートがひるがえらないようにお尻に押さえつけ、かがんで足元を見てみた。土ばかりと思っていた足元には、コンクリート片やガラス片、ひしゃげた鉄塊や潰れた木片なども散り散りになって埋まっているようである。先ほど光っていたのはガラス片や鉄塊の類だろう。 突然街が終わったように見えていたここにも、かつては街が存在していた。そう思わせる崩壊の跡だった。 休まず歩き続けて約10分。直線300メートルほど進んだかなというところまでくると、先ほど背後に見た絶壁が見えてきた。窪地の終わりである。 日は結構傾いてきた。まだ夏で日こそ長いけれども、少し急がないといけない。 同じように親切にかけられていたはしごを登っていく。登るときも怖かったといえば怖かったけれど、下るときほどでもない。すいすいと登りきった先には、また街が広がっていた。今度は繁華街だった。 繁華街は賑わっていたものの、若干紫に薄暗く、夕焼けが見える場所は少ない。 LEDで文字を浮かび上がらせる看板と、ポツポツと立つ街灯が道を照らしていて、場所によってはまるで夜のよう。一部の空が巨大な紫のドーム状の布に覆われていて物理的に太陽の光が遮られているのだ。紫の生地を通した太陽光は、そのまま紫の光となって、繁華街を淡く照らす。 ほんのりと優しくくすぐるような香りが空から降りてきていて、街全体に広がっていた。 私は天を仰いだ。確かあの紫のアレは……コットンだったかな。太陽に向いている外側がポリエステル繊維で、街に向いている内側がコットン。 ツヤのある自慢の髪束を揺らし、私は自分の胸に手を当てた。羽のような柔らかさを、触れなくてもこの身が覚えている。 しかしいくら柔らかなコットンと軽いポリエステルという素材を使った布でも、天を覆い尽くすほどの大きなものとなると、ここに暮らす住民たちには撤去も難しい。何度かヘリコプターや重機による撤去作業を試みたようだけれど、ビクともしなかったと話に聞いた。 この薄暗い、およそ200メートルx300メートル四方の範囲。ここに暮らす人々は、人工の灯りに頼らざるを得ないのだ。 人の流れがたくさんあった繁華街を抜けると、次はオフィス街が私を待ち構えていた。日はもうとっくに沈んでいて、帰宅する人々の波ができている。 太陽は紫の日光を浴びていた私が布に覆われた街を抜ける間に山の向こう側へと消えてしまったらしい。 光の漏れる居酒屋。行き交うサラリーマン。少し酒臭さを漂わせる街は、我ながら地味な制服少女には似合わない。 近くで派手なネオン看板を掲げたラブホテルに足を運ぶ少女がいるとしても、こんな格好は無理があるだろう。すぐさま警察官に補導されてしまう。 「えっと……このままだと服は破けちゃうから……っと」 夏の暑さに蒸れたスニーカーとトレードマークの赤縁メガネを外す。私はビルとビルの谷間に潜んで着替えを始めた。脱いだ服を乱雑にバッグに押し込んでいく。 老人から若者まで多くの男女の声がする。しかしコンクリとコンクリの壁の間で暗闇に溶けた私の影は、大通りからは簡単にはわからない。ためらうことなく全裸になった私は肌を白く見せていた強いファンデーションを落とし、小麦色に焼けた素肌を晒す。 高校に入学するまで水泳に打ち込んでいたおかげで、身体には水着の形を浮き上がらせるような境界線がはっきりした焼け跡があった。 これが嫌で私は積極的に長袖を着るようになり、顔にもファンデーションを塗りたくるようになった。他の子たちにはない日焼け跡は私のコンプレックスだったからだ。 しかしそれはそれで本当の自分を否定しているような気がして、心の中が混沌としている。どちらの自分を信じたらいいんだろう。ぶつける相手がいないもやもやに、苛立ちが募っていた。 清楚系ロングヘアの黒髪をポニーテールにまとめる。リップを塗って、長いつけまつげとどぎついアイシャドウを両目にあしらうと、またたく間に私は別人になった。 誰も知らない、自分しか知らない私の姿。いったいどちらが本当の自分なのか、それは自分にもわからない。 ただ、こっちのほうが気が大きくなる。心を変えるにはまず見た目から入るというべきか、しばらくすると私は何をやっても許される気がしていた。 「そう、こんなことだって……」 私が独り言をつぶやいたそのときにはすでにことは始まっていた。身長がぐんぐんと伸びていく。質量保存の法則に反して私の質量は急激に増し、それに伴って体積が増した。あっという間に私を取り巻いていたビル群は中にいた人間たちもろとも私という巨体に押し倒され、やがて都市を見下ろすほどの巨人となった私の小麦色の肉に飲み込まれた。 遥か数百メートル下から聞こえる足元の悲鳴が心地いい。目下に広がるミニチュアの腰ほどにもない高さのビルが乱立するオフィス街では、まだ残業に明かりを灯すビルがいやに目立っていた。 「みんなー、こんばんは! 今夜も謎の巨大美少女がきましたよー!」 さっきまでとは裏腹に、私は元気いっぱいにはっちゃける。大きく体を揺らすと同時、ポニーテールが勢いよく風を切り、近くを飛んでいたヘリコプターが絡まった。ちょっと気になるけれど、今はスルーしよう。楽しみたいことが別にある。 身長は1000倍の1490メートル、体重は秘密。身体と同じように気の大きくなった私は、数万に渡る視線をその小麦色の裸体に浴びて、胸をドキドキさせていた。 ウォーミングアップでもするかのように軽く足踏み。その後、膝をぐっと折り曲げて踏ん張る。スニーカーで蒸し上げられた両足にへばりつく瓦礫や土の塊が冷たくて心地いい。足がアスファルトに少し沈み込んだのを感じながらそのまま踏み切ってジャンプした。 ふわりと舞った髪束が白く晒された肌にチクリと刺さったと思うと、持ち上がった身体は全体重を両足に乗せて自由落下を始め、やがて街という地面に接地した。衝撃波に周囲のビルの窓ガラスが割れる。私の巨体を支えきれなかった道路が砕け散り、粉々に飛び散ったコンクリート片が逃げ惑う小人たちを襲っていた。 「今日も張り切って激しくいこっか。ブラはあそこで……えと、パンツはどこに脱いだっけなあ」 このサイズになるのは久しぶりだ。曖昧になっている記憶を手繰り寄せる。西区にある役所の近くだっけ。それとも図書館にかぶせておいたんだっけ。この前高級マンション地帯でオナニーをしたから、あのへんだっけ。 片手を顎に当て首をひねると、髪束がふわりと揺れて白い背中にチクチク刺さる。ちょっぴり大人な紫のブラジャーは先ほど繁華街を覆うように脱ぎ捨ててあったことは確認済み。アレをどかしてあげてもいいけれど……。 「まあいっか。誰も見てないし」 意地の悪い顔をして言い放った。1.6mmの人間という名のダニたちなんて、私は物の数に入れていない。恥ずかしいという感じようさえも沸かないのだと、態度で示して自分たちの矮小さを教え込んであげる。 「もっとこっちに進んでいこっと。聞こえてるかわからないけど、かわいい女の子の使用済み下着をもうしばらく堪能してくださいねー」 私は両手で小さなメガホンを口の前で作り、繁華街のある方角に叫ぶ。やがて足元の瓦礫がより細かく擦り潰れることさえ気にせずにくるりと踵を返した。 今は夏。夜でも寝苦しい昨今、裸でも寒くないどころか暑苦しいくらいだし、パンツやブラジャーに埋もれた住民たちのためにそれをどかしてあげる理由も別にない。 全裸の私はとりあえず小さかったときに歩いてきた方角へ背中を向けて、道なき道を時速2000キロメートルの歩幅で進むことにした。当たり前のようにオフィスビルを蹴散らす。