採集してきたこびとに見せつけひとりえっち
Added 2020-03-08 23:41:08 +0000 UTC採集してきたこびとに見せつけひとりえっち アブラゼミのジイジイという鳴き声が、まるで熱気をまとって肌にまとわりつくかのように感じられる。 土地開発が進み、野山というものも少なくなってきた。 そんな野山にアルミのシャベルを担いで分け入り、ジャージが汚れることもいとわず木の根の近く掘って回る。掘り進めながら下をのぞき込み、何も見つからなければ埋めてあげる。 昼過ぎの最も温度が高くなる時間帯。傾いた日差しが暑い。ポニーテールに結い上げた髪束にまで汗が染み込んで、少しつらくなってきた。 「次探したところに「コビトの巣」がなければ今日は帰ろ」 「コビト」という種族がこの世に登場したのは、ほんの数年前のことだった。 いや、登場というよりも人間に認知されるようになったのは……というべきか。たとえ人類と同じように彼らが数万年のときを子孫を繁栄させてきていると知ったところで、私が生まれる前はそんな生き物は人類史には存在していなくて、人間たちにしてみればぽっと出の新参みたいな扱いをされている。要するに新種という呼び方だ。 そんなコビトだけれども、人間とほとんど変わらない容姿と知能を持っていた。とくに容姿は人間をそのまま小さくしたようなものといっても過言じゃない。 たとえば私にはチンパンジーやオランウータンのオスメスの区別ができない。しかし、オスメスの区別、そして年齢の差までもが、生物のテストで40点以上をとったことさえない私に判別できるほどに、彼らは人間に近く、人間の見つかりにくいところに街と呼べる規模の巣を作り、文化的な営みを成している。 「見つからない……」 ため息混じりに言葉を漏らして穴を埋めた。そしてこれで諦めるなんて言っておきながら、次の穴を掘り始める。 探索自体も楽しみの一つ。どうにも諦めきれないというか、ワクワクがおさまらないのだ。 コビトという新種を発見した生物学者が賞を獲得したしばらくの間はテレビに取り上げられたりして、お茶の間で見かけることも多かった。 コビトの生態について権威ある大学教授が語っていたり、バラエティ番組ではミニチュアサイズの文明都市をまるごとスタジオに持ってきて、芸能人たちが物珍しそうに観察している様子が放映されたり、夜間番組に至ってはアイドルの胸の谷間にコビトを落とすなんてバカをやっているシーンも見かけた。 でもそれは本当に短い間だった気がする。 みんなそういうことに興味を持たないんだ。昆虫に興味があって夏の時期に一日中採集に出かける人もいれば、昆虫のことなんてどうでもいい人やそもそも昆虫を触りたくない人もいる。 それと同じように、コビトに興味を一切持っていない人がたくさんいる。 そして私はその例でいうと昆虫が大好きな女の子だった。 「あっ、いたいた」 獲物を視界に捉え、ぐいと腕まくりをする。 執念を実らせてようやく発見したそれは、どうやらコビトの街としてはかなり発展している巣のようだった。土を内側から押し固めてとてつもなく広い地下空洞を作った上で、ビルが乱立している。人間でいえば……そうだなぁ、近代史の教科書で見た2030年代の地方都市レベルといえた。 しかし「コビトの種類」は小さめだ。一般的に1cm〜5cmという大きさがコビトの身長の相場であり、建造物の大きさもそれに比例する。今回の場合ビルの高さすら数センチ〜数十センチくらいしかなく、住宅に関しては5cmあるかないかといったところだった。数学はあまり得意ではないので正確にはわからないけれど、ここまでくるとコビトの身長は数ミリ単位になるのかな。 ここまで小さなコビトはめずらしい。どうやらとんでもない激レアものを引けたようで、今までの苦労が報われた。思わず笑みがこぼれる。 すぐさまコビトたちにとっては高い土手を作り、ジャージに運動靴を履いた足で踏み固める。ドスドスと私が足を叩きつけたおかげで揺れに耐えきれなかったビルがいくつか崩壊していた。 靴底のギザギザが刻まれた土の小山が出来上がり、コビトたちはパニックに悲鳴を上げている。これで彼らが逃げ出すには数日を要するはず。明日明後日と分けて採集にきでも間に合うと思う。コビトたちの命運を私が左右できる。そんなことを思うと、少し興奮してしまった。 と、その瞬間である。 「いったぁーッ! 痛い! 痛いって!」 ぱんぱん、と破裂するような音がした直後、私は大きな叫びをあげて涙を瞳にためた。 拳銃だ。人間で言うところの警官に当たる役割を担うコビトのオスが、まくったジャージから露出していた私の右腕に向けて発砲していた。服の上からだと何も感じないけれど、素肌に当たると結構な痛みが走る。 頬を膨らませ、足元の街を睨めつけながら膝を折る。折り畳まれた脚部の重みを乗せた私の膝小僧が、どすん、と街の外側にクレーターをあけた。 コビトの必死の抵抗を制圧するため、リュックサックからプラ製のボックスを取り出してフタを開け、ボックスの底面の広さを念入りに、かつすばやく目測した。やがてシャベルの歯を下向きに持ち替え、真下に振り下ろすだけでコビトの街に突き刺せるようにする。 これからおこなうことは私も初めてで、うまく行くかわからない。 「てい」 ずずん、とシャベルを一定の深さまで突き刺し、いくらかスライド、そして引き抜く。それを四回ほど繰り返したあと、長方形に切り込みを入れた範囲に軍手をはめた両手を差し入れて、街の一画ごと持ち上げた。土埃が土砂となって取り残されたコビトの街に降り注ぐ。私にとって砂粒サイズしかない土埃が、コビトの住居を土の波で押し流していた。 まばたきをしてふと見ると、目の前にちょうど鉛筆みたいな高層ビルがあり、無数のビルの窓から幾人ものゴマ粒みたいなコビトたちが恐怖におののく姿が見え……るわけがなかった。ゴマ粒が動いているということはわかっても、表情は読み取ることができない。 しかし、土の香りがするくらいに顔を近づけるときゃあきゃあという悲鳴や自動車のクラクションが響いてきて面白かった。 「これでよし」 あまり眺めていると目玉に発砲されかねないので、いそいそとボックスに街をつめてフタをする。一部目測を誤ったようでボックスに入らなかった部分は、適当に握りつぶして削っておいた。 「あとは……一本だけビルももらっていこうかな」 誰かの許可を得ることもなく、当たり前のように細長いビルを引っこ抜く。これはボックスとは別に用意した試験管に詰めてコルクで栓をした。 ◆