【skeb】『Mの館』ー そこでは皆が屈服し、敗北を体験する ー
Added 2025-01-03 04:00:00 +0000 UTCーーー ここは『Mの館(まぞのやかた)』ーーー
ーーー “屈服” と “敗北” が体験できる不思議な風俗店である ーーー
カランコロンカラーン♪
本日一人目のお客様がやってきたようだ。
「…ごめんくださーい」
《ようこそお越しくださいました》
《私は当店オーナーの磯ケ谷(いそがや)と申します》
「自分は…」
《ああ、名乗らなくて結構ですよ》
《私と違って “有名人” ですから…》
「…い、いやぁ」
《またまた、そんなご謙遜をして…》
《誰もが知る “スター選手” を見違えるなど、天地がひっくり返ってもあり得ない》
《一年ほど前、突如として現れた超新星》
《出場した全ての大会で金メダルを獲った陸上界の天才》
《走る度に世界記録を塗り替えた生ける伝説》
《そうして付いた呼び名は “快速のスプリンター” 》
《ね、そうでしょう?》
《 速見 走(はやみ そう)様 》
「…はい」
《さぁさ》
《こんなところで立ち話をしていても始まりませんし、奥の部屋へどうぞ》
「あ、でも自分。まだ何も…」
《?》
《大丈夫です》
《ここへ来る理由なんて決まっていますから…》
《ほら、こちらへ》
オーナーの招きを受け、彼女は店の奥へと歩を進めた。
《そちらに座ってください》
「…失礼します」
《緊張しないで良いのですよ?》
《ここへ面接を受けに来たわけでは無いのですから…》
《それに世界大会なんかと比べれば、こっちは緊張するに値しないでしょ?》
「…そんなことはありません。むしろ大会の方が緊張しないです。“ただ走れば良いだけ” なので……」
《ハハハっ!》
《まさに “才能” だっ!!》
《…おっと失礼》
《当店は、才能をお持ちの方だけ利用できる “サービス” となっております》
《故に、速見様にはその資格がお有りのようで…》
オーナーが言うように、この店は “誰でも・いつでも・何度でも” 訪れることが出来はしない。
「…資格というのは、“これ” でしょうか?」
《それは “形式的な物” に過ぎません》
《この方が分かりやすいので、“目に見える形” に直しただけです》
《またそちらの “招待状” ですが、特殊なインクを使用しており、あと数日も経てば消えて白紙に戻ります》
「なるほど。それで “期限を一週間” としていたんですね?」
《ええ…(最も脂が乗った “旬” と言う瞬間。それが何よりも重要ですから…)》
「ん? 大丈夫ですか?」
《…失礼、心配には及びません……》
《それよりも緊張の方はほぐれましたか?》
「あ、はい。お陰様で今はリラックス出来てます」
《それは良かった》
《…ではこの辺りで、“当店についての説明” に移らせて頂いても宜しいでしょうか?》
「助かります。初めてなので…」
《そうでしょう》
「えっ?」
《これまた失礼》
《決して速見様を馬鹿にしたのではありません》
《当店は “誰しもが初めて利用し、そして最後の利用となりますから” …》
「???」
《それも含めて、説明を始めますね?》
そう言って、オーナーが話し始める。
《まず初めに、この店に訪れることが出来るのは “選ばれし者が、最高潮の時に、一度のみ” なのです》
「…選ばれし者?」
《最近では “ギフテッド” と呼ばれたりもしますが…》
《ここでは “神により選ばれ、類い稀なる才能を与えられた者” だと定義しています》
「…じゃあ、最高潮の時は?」
《多くのアスリートが目標とする夢の舞台》
《スポーツの祭典》
「…オリンピックですか?」
《その通り》
「…でしたら自分はまだ……」
《もちろん存じております》
《1ヶ月後に迫るオリンピック》
《高校生である速見様は、初めての出場になることも…》
「ではなおさら…」
《今は最高潮の時では無いと?》
「…はい」
《確かに “五輪で金メダルを獲った時” がそうだと感じるもの無理はありません》
《これは速見様に限った話ではなく、百人に聞けば百人が同じように答えると思います》
《しかしながらそれは頂点を極めた時であり、最高潮の時ではないと考えています》
《我々にとって最高潮の時とは、頂点に立つ “直前” こそがその時なのです》
「………」
《ご理解いただけなくとも構いませんよ》
《あくまで “我々にとって” ですから…》
「……あの…」
《何でしょう?》
「質問ばかりでごめんなさい」
《別に問題ありません》
「ここに来てから磯ケ谷さん以外の方を誰一人として見ていないのですが、我々とは一体…」
《その洞察力、さすがです》
《この場…いえ、このお店には私以外の従業員はおりません》
《ですが私一人で運営できるほど、経営とは容易ではないのです》
《まぁ隠すことでも無いので言ってしまえば、中でも金銭面が一番》
「そうだ、お金! 親に管理されててあまり…」
《速見様はお支払い頂かなくて大丈夫ですよ》
《お代は、別の方が代わりに出していますので…》
「いったい誰が?」
《それこそが “我々の正体” です》
《…簡単に言えば “出資者” ですかね》
「どうして自分なんかに出資を?」
《速見様だけでなく、他の皆様も同様です》
《…それと、より正確には速見様 “に” ではありません》
「???」
《我々は何も慈善活動をしているつもりは無いのです》
《我々は出資者であると同時に利用者でもある》
《ただしそれは “Mの館” の姉妹店、“Mの小屋” にはなりますがね》
「…Mの小屋?」
《 “見世物小屋” と言えば伝わるでしょうか?》
「なんとなく」
《海外だと “フリークショー” と言われたりもする、“異常なもの・珍しいもの” を披露する場のことです》
「もしかして自分、見られるのですか!?」
《ええ、本日の演目は “速見 走” となっておりますので…問題でも?》
「も、問題も何も、誰にもバレずに “敗北体験” ができると書いてあったから来たんですよっ! これじゃあ詐欺ですっ!! 自分、帰らせてもらいますからっ!!!」
《…そう熱くならないでください、大丈夫ですから……》
《我々は “財界の大物” や “各国の要人” などの “著名な者たち” の集まりです》
《我々も “この店” ないし “この事” が世間に知られるのを良しとしない》
《秘密は守られます、絶対に》
オーナーに説得され、落ち着きを取り戻した彼女は着席する。
《まぁ褒められたものとは言えませんが、“金持ちの道楽” なのですよ》
《…だからこれは速見様にとっても、我々にとっても “エンドコンテンツ” と言うわけです》
これまでの会話が全て本当の話であるならば、一ヶ月後にオリンピックを控える大切で忙しい時期に、トレーニングや調整をサボってこんな所に足を運んでいるのは違和感しかない。
「…エンドコンテンツ……」
《ええ、先ほども仰られておりましたが “ただ走れば良いだけ” …》
《気を悪くして貰いたくは無いのですが、“努力を知らない天才” との噂も予々……》
《正直、このタイミングでお越しいただけるかは “運(命)” でございます》
「………」
《…もう無いのでしょう?》
《昔に感じていた “ワクワク” や “ドキドキ” が…》
彼女は切磋琢磨を知らない。
ライバルも居なければ、仲間も居ない。
負けた経験も無いし、悔しい思いをした経験も無い。
「勝つことだけが喜びでした。親に褒められ、周りに人が集まる…けど、今ではそれが当たり前になってしまったんです。手を抜けば簡単に分かるし、同情でもしているつもりかと責められる……だから私は負けたい。誰もが認める負けを経験したいんです」
その道を極めし者が、最後に求める物。
極めてしまったからこそ手に入らない。
《それが無様で、滑稽でも?》
「どのような形でも、どんな方法でも構いません」
《いいでしょう》
《…当店はそのためにあるのですから……》
全てを手にし終えた者の “エンドコンテンツ” は、まさに全てを終わらせる “エンド” コンテンツ。
ーーー
《…長くなりましたが、当店についての説明は以上です》
《ご納得いただけたようでしたら “体験用のお部屋” にご案内します》
「お願いします」
《重ねての確認となります》
《この先に進むと “戻れません” が宜しいですか?》
「女ですが二言はありません」
《かしこまりました》
オーナーに連れられ、彼女がやって来たのは “酷くまっさらな空間” である。
「…ここ、ですか?」
《その反応は正しいです》
《何も無いし、大して広くも無い》
《それに何より、こんな狭くては “走れない” とお考えなのでしょう?》
「…はい」
《では質問ですが、実際に走る必要はありますか?》
「そうで無いと敗北を味わえな…」
《否》
《むしろ “リアル” で走って、速見様を負かせる者など存在しません》
《だからこそ当店に来たのだし、もしも居るなら速見様に価値は…》
そこまで言って、オーナーは口を噤んだ。
《申し訳ありません》
「平気です。さっき聞いた選ばれし者…資格のことですよね?」
《ええ》
「それよりも “走らずに負ける方法” の方が気になります」
《正しくは “この場で” 走らないのであって、“頭の中で” 走り、負けるといった運びです》
「…え、イメージってことですか?」
彼女は拍子抜けと言うか、がっかりした様子の声を出した。
《うぅん、一概に違うとは言い切れないのが悔しいですが…》
《速見様は “明晰夢” をご存知ですか?》
「 “夢だと自覚し、その中で自由に動ける” やつですよね?」
《満点の答えです》
《そして “ここでの体験” は、それに近いと言えます》
《ただし明晰夢は例え話で、そんな感じという話に過ぎませんから…》
《速見様がそれを夢とは気付けませんし、必ずしも自由に動けるとは限りません》
「………」
《まぁ言葉だけで理解するが難しいのは、こちらとしても承知しております》
《しかしながら想像の数百から数千倍は驚き、満足していただけるはずですよ》
この部屋は “必要な場面” と “世界を創造” し、利用者の “妄想を満たす” 特異な空間なのだ。
《百聞は一見に如かず?》
《…習うより慣れよ???》
《………論より証拠????》
《ともあれ、体験をした方が早いのは確かですね》
《どうぞこちらを…》
オーナーが “バイザー付きのヘッドギア” を手渡すと、彼女はそれを受け取って被る。
「うわぁ…すごい……競技場? いつの間に移動したの?」
その瞬間、目の前の景色が一変する。
《あーあー、私の声が聞こえますか?》
「え、あ、はい」
彼女がキョロキョロと周りを見回す。
《いくらお探しになっても、そこに私はおりません》
《 “私が居る先ほどまでの部屋” と “速見様の居られるそちらの空間” とは別になっておりますので…》
「…どういうことですか?」
《今の速見様は、“体と意識が別々に存在している状態” です》
《そうは感じないと思いますが、こちら側の速見様の意識は既に落ちています》
《また、体の感覚も切ってあります》
しれっと恐ろしい事を言って見せるオーナー。
けれども何事も無いかのように話を続ける。
《普通に会話してるみたく感じられると思われますけど、実際にはヘッドギアから送られる電気信号によって “通信” をしているに過ぎず、“私の声は速見様の頭に響き、速見様の考えはこちらの端末に文字として表示されてます” 》
「…頭に直接っ!? 耳から聞こえてるようにしか……」
《それは人間の神秘》
《通常の状態を保とうと脳が補完してくれているのです》
「…すぐには飲み込めませんが、VR(バーチャルリアリティ - 仮想現実)のような物ですか?」
《そう考えていただいて結構かと…》
《ただ厳密には “フルダイブ型” と “モーションキャプチャ” が混ざり合った複雑な仕組みをしており、こちらに残された体は “そちらの動きに合わせて動きます” 》
《ですのでそちらで速見様が走れば、こちらの速見様も走ります》
「…そんなことをしたら “壁にぶつかる” のでは?」
《当然その点は解決済みです》
《速見様の体は、10数本のアームを使って宙吊りにしておりますので…》
「えっ!?」
《誤解の無いよう言っておきますが、拘束する意図はございません》
《単に “支えている” のです》
《要は “無重力” の宇宙空間を擬似的に再現しており…》
《ランニングマシンやフィットネスバイクを想像していただけると分かりやすいかと……》
「………」
《…難しかったようですね……》
「すみません。運動は出来ても頭の方はてんでダメで、想像力が欠けていて…」
《謝るほどのことではないですよ》
《こちらとしても理解して貰おうとは思っておりません》
《何となくでも “知っておいて頂ければ” と考えているだけです》
「…なるほど。“仮想の出来事が現実に影響する” という事を……で、合ってますか?」
《まさしく》
《これこそが “体験の本質” 》
《体験した内容は、終えた後でも “体が覚えていますし、脳が記憶している” のです》
そうして “この部屋” と “ここでの体験” について、一通りの話を終えたオーナーが彼女に問う。
《…では最後に、体験内容は “陸上での完全敗北” でよろしいですね?》
「はい」
《 “敗北に至る過程” や “敗北の方法” は、こちらで設定しますね?》
「はい」
《かしこまりました》
オーナーが “調教のコア” を “常識改変” に設定する。
《大変お待たせ致しました》
《体験の準備が整いましたので始めますが…》
……………
《これより先、こちらとそちらの繋がりは遮断され、体験中であることも認識は出来ません》
《次にお会いするのは、“全てが終わった後” ……》
………
《…いってらっしゃいませ……》
…
彼女の意識が途切れた。
ーーーーー
「…あれ、目の前にトラックが……いつ来たかも、どうして来たかも思い出せないけど、もうすぐオリンピックだし “練習” でも………」
意識が戻った走は、“違和感” を覚えながらも別段の詮索はせず、この状況を受け入れる。
しかし、それ以上に “おかしい” のは、走の口から “練習” という言葉が出てきたことだろう。
一部で噂されている “努力を知らない天才” とは、諸手を挙げて彼女を称賛しているものではない。
むしろ、誰も “彼女が練習している姿を目撃していない” ことの表れであり、言うなれば “皮肉” である。
そんな走が、開口一番に “自らの意思” で…というのは信じがたい異常事態なのだ。
これは調教のコアとして設定した常識改変の効果が、既に走の持つ考えに影響を与える証拠だと言える。
「…練習……練習………スタートの練習でもしようかなぁ」
走が最初の練習に選んだのは、奇しくも同じ “始まり” を意味する “スタート” の練習。
まぁ実際であれば練習をするにあたっては準備運動の方が先だが、そもそも練習の “れの字” も知しらず、ランニングの基礎も学んでいない走は “何をすれば良いか” 分からない。
そのため、走が知り得る中で最も “練習っぽい” ことを選んだのであるが……。
それはつまり、どんな練習でも “これが常識なのだ” と容易に思い込ませられることを暗に示しているのだった。
〈…位置について(On your marks)……〉
どこからともなく聞こえてくる声。
人の姿を確認することは出来ず、それでも走は不思議だと感じない。
「スターティングブロックに足をかけなきゃ」
短距離走で使われる踏切板に足をセットし、それから両手をスタートの線に合わせる。
〈…用意(Set)……〉
曲げていた足を伸ばし、腰を上げて静止する。
「………」
集中し、号砲を待つ。
〈パンっ!〉
スタートの合図である “音” が鳴った。
「あうっ!?」
しかしそれは、ピストルの音ではなく、“何かを鞭で叩いた音” である。
「ば、バランスがっ…」
直後、走は体勢を崩して地面へと倒れた。
「痛てて、もう一度」
〈パンっ!〉
「んっ!?」
〈パンっ!〉
「くっ!?」
〈パンっ!〉
……………
………
…
「なんで? なんで上手くスタート出来ないの??? こんなこと、今まで一度も無かったのに…」
何度も繰り返すが、決まって “スタートの合図と同時に来る衝撃” により倒れてしまう。
「はぁ、はぁ。何だか息も上がってきたし…」
まだスタートを切ってもおらず、走っているとは言えないのに “呼吸を乱す” 。
「どうしたって言うのよ、…はぁ/// はぁ/// ……」
その息切れは、疲労ではなく興奮によるもの。
「まだまだぁ///」
〈パンっ!〉
「ひゃぅん///」
〈パンっ!〉
「くふぅ///」
“赤く腫れ上がるお尻” 。
“痛み” は次第に、“快感” へと変化する。
〈パンっ!〉
〈パンっ!〉
〈パンっ!〉
〈パンっ!〉
スタートの合図が “高く上げられたお尻への鞭打ち” であっても、走は “普通のこと” だと信じて疑わない。
「うぅ…ヒリヒリするぅ……でも、癖になっちゃうぅ///」
その後も、練習は日が暮れるまで続けられた。
ーーー
「…昨日は疲れたな……」
しかしこの日も、走の姿は気付けばトラックにあった。
「今日も練習しないと…」
そう言うと、走は “着ていた服を脱ぎ出す” 。
「1分1秒が…いいえ、0.1秒が勝敗を分ける世界。勝つためなら手段を選ばない……」
競泳の世界で『レーザー・レーサー』が禁止されたように、現代のスポーツにおいては “人の能力だけで結果が決まる” とは言い切れない現状がある。
陸上で言えばシューズであったりが顕著で、みな同じ色の物を履いていたりする。
それはスポンサーが…と言った話ではなく(もちろん無いとは言えないが)、地面からの反発や軽さなどを追求した結果、“同じ” というのが主であろう。
「可能な限り “空気抵抗を無くす” のは、頭の良い選択よね!」
そこで走は、他の選手を出し抜くために “裸で走る” ことを選んだである。
「布なんて邪魔なだけ、ペイントで十分じゃない」
サンライズレッドで体を彩る。
「んんっ///」
刷毛が乳首に当たり、走は声を上げた。
「勃ってるっ/// 緊張感を持ててる証拠ねっ///」
ただ興奮しているだけだが、走は乳首の勃起を “試合時の適度な緊張” と勘違いし、“集中できている証拠” だと思い込んでいるのだ。
「…それにしてもこの胸は、いつになったら成長するのかしら? まぁ、走るには適した “無抵抗の胸” だけど……」
多くの場合 “A” というのは優秀な指標であるが、胸で言えば “貧乳” にあたる数値。
その中でも走の胸は “AAA” のシンデレラバスト。
確かに空気抵抗は皆無だが、女の子にとっては悲しくもある。
「ダメよ、こんなことで悩んでてては。認めさせてやるっ! 胸が無いことの良さを!! みんなが羨むに違いないわっ!!!」
いつの間にか走の “目的が変わる” 。
「男性だって胸が無いから女性より速いのよ!」
そんなわけは無い。
「胸の無い方が有利だという研究結果も…見たことはないけど、これを機に発表されるはずね!」
別に “胸の有無” が速い遅いに関わるなどとは誰も言ってないが、走の認識ではそのようである。
「一先ず、何故か失敗するスタートは後回しにして…」
丸1日かけたスタート練習であったが、鞭打ちの衝撃から逃れられず、結局は失敗に終わっていた。
「今日は “走り方” の練習をしようかな?」
すると走は、ランニングの構えをとる。
「…足を大きく開いて、腕は高く上げる……」
スライド走法は短距離よりも長距離に適しているし、腕は振るもので高く上げるのは足では無いだろうか。
「…少し腰を落として、胸は張る……」
レーンギリギリに広がり、下手をすれば隣の選手に接触し兼ねない。
「右、左、右、左…」
半身を前後に揺らしながら進む。
「はっ、はっ、はっ、はっ、走りの方はいい感じだ、はっ、はっ、はっ、はっ」
ガニ股で、両手を頭の後ろに構えて胸を脇を見せ、トントン相撲のように1歩づつ、少しづつ進んでいるのに、走は満足げな感想を述べている。
「これはいいタイムが期待できるんじゃないのか?」
だがしかし、100mを走り切ったのにかかったタイムは2分。
「あれ?」
予想と反する結果に、納得いかない様子の走。
「もっと練習しないと…」
汗とともに、股から透明な液体が垂れるまで何回も、何回も走り直す。
「見られてるっ/// 裸っ/// 勝つためには仕方のない事で、恥ずかしくなんて無いのにっ/// 乳首も勃って///」
空だったはずの競技場には、走の練習を見守る観客の姿が現れ、ジーッと走の姿を見つめる。
「…どうして? 集中できてるんじゃ無いの???」
頭の中、走の認識では “常識” であると判断しても、体の反応は以前と変わらない。
見られて興奮し、無意識のうちに “露出の楽しさ” を覚える。
「イクっ♡ イクぅっっっっ♡♡♡」
盛大に潮を吹く。
その、全身を巡る痺れるような感覚が、ゲームのダッシュ板に乗ったかのように錯覚させ、“イクこと=速く走れる” と誤認させる。
「すごいっ! 今度そこタイム更新だわっ!!」
本来であればイッた分だけ遅くなりそうだが、そのまま前へ倒れ込むようにゴールし、結果は1分40秒。
「やったっ! 確実に速くなってるっ!!」
こうして走に、新たな常識が加わった。
……………
………
…
その後も(走は至極まじめであるが)無様で、ふざけているような練習は続けられており…。
「へい、パス! お"ぉ"っ♡」
世界記録保持者の走は、もちろんリレーにも出場するため、これはその練習である。
しかし、頭の後ろで手を組んだ状態ではバトンを受け取ることは難しいので、おまんこに挿して走るのだ。
「はいっ! お願いっ♡♡」
そして次の走者にバトンを渡すときには、ブリッジの姿勢でおまんこを突き出すわけだが……。
「ほら、早く受け取って!」
毎度怪訝で、触れたく無いという目線を浴びながら、ジェンガでも取る感じで指先を使って、摘むようにおまんこから引き抜かれる。
「い"ぃ"い"っ♡♡♡」
その際に “獣のような声” を上げるのだから、こんな扱いをされても文句は言えないだろう。
また “獣” と言えば、実際には存在のしない “100m四つ脚走” などなど………。
本当に様々な練習の日々を送り、“体験” は1ヶ月に迫ろうとしていた。
ーーー
走は忘れているし、認識できないが、これは “体験” である。
それも “敗北体験” だ。
…であれば、見ている側としては滑稽で面白くとも、目的を達成したとは言えない。
あちらの走が目的を履き違えても、こちらとしては本来の目的を完遂しなければならない。
…とは言え、ただ遊んでいたのではなく、これらは全て “仕込み” であるから安心して貰いたい。
これから始まるのは、このショーのクライマックス。
走がゴールテープを切る時が、終幕の時です。
……………
………
…
「……とうとう “この日” がやって来たのね…」
あちら側では、走が “オリンピック当日” を迎えていた。
「およそ1ヶ月に及ぶ “練習の成果” を見せる時…」
走はひとり “更衣室に篭って” 準備をする。
「うん、いい出来ねっ!」
鏡に映る姿を見て、自信満々に言う。
「注目選手だし、秘策をマネされるかも知れないわよね?」
注目選手であることは紛れも無い事実。
「レース直前まで秘密にしなきゃ!」
体を冷やさないために着ておくベンチコートを羽織り、全身を隠す。
走のやっている事は、ロングコートで裸を隠す露出狂のそれと同じだ。
〈女子100mに出場する選手の皆さんは準備を始めてください〉
アナウンスが流れ、走がトラックへと入っていく。
「ここまで来れば、もう見せても平気よね…」
コートを脱ぎ、ペイントされた体を晒す。
どよめく会場。
「そうよね、驚くわよね!」
走の感じている驚きと会場の驚きとでは、“種類が違う” ことなど言うまでも無いが、常識の異なる走には同じにしか思わない。
そんな歓声を受け、走は徐々に乳首を勃てる。
度重なる練習によって “反射動作” が育成されたのだ。
そして、それはスタートに関してもであった。
〈…位置について(On your marks)……〉
〈…用意(Set)……〉
「………」
〈パンっ!〉
「あぅん♡ いいスタートを切れたっ!」
叩かれずとも “音だけ” で感じるように躾けられた走は、本来のスタート合図であるピストルの号砲でも喘ぐよう、反射動作を育成された。
育成方法としては簡単で、段々と鞭で打つ回数を減らしていったのだが……その過程で鞭による衝撃が失われ、それによりスタートを失敗しなくなったのを、本人は “練習の成果” であると信じている。
「ほっ、ほっ、ほっ、ほっ」
体を持ち上げた走は、例のランニングフォームで走る。
「くっ、速いっ!」
当然、周りとの差はどんどん開く。
「まだ距離はあるけど、やるしかないっ!」
走の “奥の手” は諸刃の剣であり、ものすごく体力を使う。
「イクっ♡ …まだ、まだ足りないっ!」
全力で腰を振ってアピールをする。
観客が盛り上がりを見せる。
「これでキメるっ! いっくぅぅぅうっっっ♡♡♡」
練習の成果を遺憾なく発揮した結果は、見事な予選落ち。
「…全力を出したのに……」
完膚なきまでの敗北。
「…負けてしまった……でも、気持ち良かったぁ♡♡♡」
けれども、走が “得た物” は大きかったようである。
ーーーーー
走は、体験を終えたその足で “本当の” オリンピックへと向かった。
彼女がどうなったか?
そんな事は言うまでも無いだろう。
ボディペイントなど許されるはずも無く、テレビの中継は切れるし、会場は荒れるしでパニックは必至。
当然、失格となり、陸上界からも追放されるだった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
カランコロンカラーン♪
本日二人目のお客様は、樋口 眞子(ひぐち まこ)様。
世界一の女流棋士で、人工知能を超えるほどの絶対的な頭脳をお持ちの方です。
《世間では『将棋の化身』と名高い樋口様のお望みですが…》
《 “将棋での完全屈服” と “無能な雌肉の体験” で、よろしいでしょうか?》
「…相違ありません」
《随分と畏まった言葉遣い》
《流石、私とは育ちが違いますね》
《………(彼女の調教コアは、“男尊女卑思想の埋め込み” と “雌脳矯正” にしましょうか)》
《説明は…》
「全て承知しております故、不要です」
《助かります》
《では、ごゆるりと…》
ーーーーー
〈お願いします〉
「お、お願い致します」
挨拶を交わし、対局が始まる。
これは “公正さを量る” 将棋のテスト大会。
将棋の世界では女流棋士が男性棋士に勝つことは難しいとされ、主要タイトルの保持者は全て男性棋士だった中で、眞子だけは勝ちに勝ちを重ねていた。
それを良く思わない将棋連盟のおじさまたちが、“眞子の不正を暴こう” と開いた大会である。
そのため、“公正” と謳っているくせに全く “公平” ではない。
大会とは名ばかりで、“トーナメント戦” でもなければ、“リーグ戦” でもない “勝ち抜き戦” なのだ。
男性アマチュア棋士との10連戦に勝てば、不正行為をしていないと認める。
そんな一方的でも権力には逆らえず、眞子は条件をのむしか無い。
「………(私は不正などしていないのですし、勝てばよろしいのでしょう。楽勝ですわ)」
眞子の中では、そう処理されていた。
「…すみません。この部屋少し寒くありませんか?」
着物の中に隠している物があるかも知れない。
そのため “公正さをアピールするため” に、裸でなければならない。
そう言われた眞子は、着席をした後で綺麗に着付けていた着物を脱いだのだ。
だから今の格好は “頭に飾りを残す” だけで、はだけた着物を畳に落とした “全裸” である。
寒い理由など誰が見ても明らかなのに、それには疑問を持たない眞子であった。
「すぐに快適になる? …そうですか。4五歩で……」
“不正をする隙を無くすため” 、相手の思考時間中は踊り続けなければならない。
眞子は自分の手番を終えると立ち上がり、その場で踊り出す。
「た、確かに体が温かくなってきましたわ(…しかし早く指していただかないと、体力が持ちませんわ……)」
将棋に人生を賭けてきた眞子は、暇さえあれば家に篭って将棋ばかりだったため、運動は苦手であった。
そうともなれば、こんな状況では碌な思考もできず……。
「………(…おかしい、どこで間違えたのかしら……)」
30分後、眞子は追い詰められていた。
〈王手〉
「!?( “いつの間に” っ!? …この私が “気付けなかった” ?)」
これまた “不正を防止するため” に思考時間は1秒を超えないことが定められ、踊り終えて着席をした瞬間に指していれば、そうなるのも仕方がないことであろう。
「…負け、ました」
投了した瞬間、唯一身につけていた “特製の頭飾り” から電流が流れる。
「あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"」
その電流は眞子の脳細胞を焼き、およそ10%の将棋知識を消し去った。
初戦にして敗北を喫した眞子であるが、勝負は終わらない。
勝ち抜き戦とは何であろうか。
常識が書き換わる。
ここでは “男である” おじさまたちが絶対で、“女である” 眞子はそれに従う。
〈…対局を始めましょうか?〉
「はい」
〈お願いします〉
「お願い致します」
……………
………
…
「…ま、負けました。あ"あ"あ"ぁ"ぁ"っ"ぁ"ぁ"ぁ"っ"ぁ"あ"あ"……」
二戦目も結果は同じで、眞子はさらに10%の知識を失う。
脳を焼かれていない人なら気づいたかも知れないが、一度負けた時点で眞子の勝ち目は無い。
100%の知識で勝てないのに、90%の知識で勝てるはずもなく、以降は段々と弱くなる一方なのだ。
「負けましたぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"あ"あ"」
「負けまぁ"っ"ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」
「負けぎゃぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"あ"あ"あ"」
「負ぃやぁ"あ"あ"ぁ"ぁ"あ"あ"」
そして敗北の回数も七回目を超えた頃、眞子に変化が現れる。
「い"や"ぁ"ぁ"ぁ"ぁあ"あ"あ"あ"っ♡」
壊れないようにと自己防衛本能が働いたのか。
もしくは反対に、ただ脳が壊れただけなのか。
いずれにせよ電流によって、眞子は絶頂したのだ。
「あっ♡ ああっ♡♡♡」
こうなれば早い。
もはや将棋の知識云々の話では無い。
“将棋の化身” などという大層な面影はなく、電子ドラックに溺れた廃人である。
〈お願いします〉
「お願いします…負けました……」
挨拶を済ませると同時に投了する始末。
「あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"あ"♡♡♡ きたっ♡♡♡ きたぁあああ♡♡♡ お"っ"♡♡♡ お"お"っ"♡♡♡」
10戦した結果は、10連敗の全敗。
100%の将棋の知識を失った眞子は、もはや女流棋士と呼べるか怪しい…いや、呼べない存在になっている。
〈やっぱり不正をしていたんだな〉
〈これまで獲得したタイトルは全て剥奪だ〉
〈女は女らしく、女流という枠に収まっていれば良かったのに〉
〈男に刃向かうからこうなるんだ〉
眞子の将棋人生を終わらせる “脳細胞を焼く行為” は、不正を暴くだけでは気の収まらないおじさまたちの復讐。
しかし積もり積もった感情は、そう簡単に晴れるものではない。
やるなら徹底的にである。
身内で処分されても、眞子が世間から受ける評判にはなんら影響を与えてはいない。
先ほどの対戦映像を流してしまえば、眞子の不正を…と思うかも知れないが、そんなことをすれば崩壊するのはおじさまたち協会の方だろう。
普通に考えればパワハラ・セクハラのオンパレードであり、おかしな点ばかり…いや、おかしな点しかないのだ。
だからおじさまたちは、眞子が自らの口で世界に発信するように仕向けた。
ーーー
「本日は急な会見にも関わらず、多くの方にお集まりいただき、誠に感謝いたします」
そんな挨拶から始まったのは、“眞子の会見” 。
急遽1時間前に予告したと言うのに、会場には報道陣が詰めかけ、テレビでは臨時ニュースとして特番が組まれる事態。
結婚か、はたまた引退か。
どちらにせよ “電撃” であることには変わりなく、たちまちSNSのトレンドでも1位に入る。
それほどまでに眞子の注目度が高いことを窺い知れ、おじさまたちの反感はここでも増すばかり。
しかしそんな感情も、あと数分で消えることになる。
なぜならこの会見は、眞子の “謝罪会見” なのだ。
「私、樋口眞子は…これまで数々の大会で不正をしておりました。そのことを今ここで打ち明けます」
眞子の言葉が、リアルタイムで放送される。
フェイク映像ではなく、目撃者が居る会見の場での発言。
全世界に発信され、瞬く間に拡散され、二度と消えることはない。
「皆様を騙していたこと、大変申し訳ございません。深く、深く謝罪いたします」
そう言うと眞子は、カメラが回る前で着物を脱ぎ、全裸で土下座をする。
「これが私の誠心誠意で御座います…っ♡」
数十秒、心の中で数えた眞子が頭を上げる。
「人工知能を超えるなどと言われておりましたが、全てカンニングなんですっ♡♡♡ 頭に行くはずの栄養は、この無駄に大きな胸に吸われて、私の脳はスカスカですぅ♡♡♡」
露出された胸を強調するように両手で挟んで持ち上げる。
…とは言え、脳がスカスカなのは電流で焼かれたからであって胸にいったからではないが……。
今となってはどちらでも良く、それよりもスカスカになった事実の方が問題であった。
「つまり女わぁ、脳に栄養がいかないバカばっかでぇ、男性には勝てないんですぅ」
脳細胞を焼くほどの電流が、都合よく将棋の知識だけを焼けるはずもなく、別の部分でも支障をきたしていたのだ。
そんな状態の眞子が会見を続ける。
「ですのでぇ、今現在所持している段位はイカサマで手にした物に過ぎずぅ、今後はそのようなことが起きないよう努めますぅ」
こんか会見をしておいて今後とは…眞子は次があると考えているのか……。
「だから “私たち” 全女流棋士わぁ、有する段位をお返ししぃ、試合時には衣服の着用を致しませぇん♡♡♡」
何を言い出すかと思えば、眞子は自身のみでなく、無関係の女流棋士を巻き込む。
それでも、この暴挙は罷り通ってしまう。
眞子が不正をしたのに、それを他の女流棋士まで被るのは……。
「●月 吉日、n本女子プロ将棋協会代表 樋口眞子」
眞子が協会の代表を務めているからであり、その名義を使った宣言だからだ。
そこに所属する棋士たちには従う義務が発生し、嫌なら脱退するしかないが、女流棋士のための協会は他に存在しない。
つまり脱退は、事実上の引退である。
「………(女は男性様に媚び諂い、おままごとでもしていれば良いのよっ♡♡♡)」
そうして “男尊女卑思考” と “雌脳” を手に入れ、眞子の体験は終了したのだった。
ーーーーー
体験を終えた眞子だが、“将棋の知識” と “脳細胞” は完全に回復した。
あくまで “こちら” と “そちら” は体の動きがリンクしたり、記憶が共有されたりするのであって、同じ怪我をおったりはしない。
だから “脳を焼く” のも、そういうショックが脳に与えられるだけで、“実際に” 焼かれてはいないのだ。
もちろん、それでおかしくなる者も居るし、そうでなくとも “後遺症” は残るが……。
眞子の “雑魚化” こそ叶わなかったものの、彼女の体は “敗北時に絶頂する” ように覚え、将棋を指しているだけで “その快感を” 思い出すようになった。
それからしばらくして、全裸で敗北試合を生中継する “謎の覆面巨乳女流棋士” が現れ、“女性の恥” だとネットを騒がしたが、果たして一体どこの誰なのだろうか。
〜 完 〜