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【skeb】ヤンデレ内気“彼氏”とモテる“彼女”の“純愛鬼畜物語”。

 僕の名前は陰山 碧人(かげやま あおと)。

 名は体を表すと言われるように、世間一般には “陰キャ” と呼ばれる人種だ。

 そんな “内気な性格” の僕にも、ひそかに思いを寄せる人物が居る。


 性格は明るく、クラスでも人気者。

 それでいてスタイル抜群で、さらに可愛い。

 誰からも好かれ…有り体に言えば “モテる” その子の名は、赤木 陽毬(あかぎ ひまり)。


 『 “陰” と “陽” 』


 ある意味で、名実ともに正反対の僕たちだが……。


「わざわざ体育館裏なんかに呼び出してどうしたの? 今朝だって話す機会あったじゃない」

「そ、そうだけど陽毬、あ、あの、僕と付き合って欲しい。い、いや、やっぱり今のは無s……」

「いいよ」


 碧人の告白に、陽毬が即答する。


「えっ!?」

「碧人のことを分かってあげられるのなんて私くらいだしね……にしても、この期に及んで弱気なのは碧人らしいと言うか…」

「だ、だって」

「だっても何も無いわよ、本当のことでしょ?」

「…うん」

「あはは、碧人は昔から変わらないんだから…」


 このふたりの関係は想像よりも長く、一朝一夕で築かれるような儚いものでは無い。


「そう言う陽毬は何と言うか、違う世界の住人になった気がして…このままだと僕は捨てられるんじゃないかって……」

「ふーん、そんな風に思ってたんだ。けど私たち “幼馴染み” なんだし、そう簡単に縁が切れることは…」


 しかし碧人は、陽毬が考えているほど単純でも無い。


「僕が言ってるのはそうじゃなくて、陽毬を他の男に取られるのを見てられないって……」

「へぇ、碧人って案外 “独占欲” 強いんだ?」

「…正直、僕も驚いてる……でも中学に入って、皆が恋愛を意識し始めた時から段々と我慢できなくなって」

「なるほど、それで私を呼び出したってわけか」

「陽毬、男子の中で凄く人気だし…」

「私が言うのもあれだけど…そうだね……」

「陽毬が告白されて、誰かと付き合う前に僕…」

「………(実は告白だったらもう…何人か分からないくらいされてるんだよね……)」

「だから、本当のことを言うとダメかもって…」

「………(…まぁそれも、全て断ってたんだけど……)」

「これ、僕の妄想じゃ無いよね?」

「それを言うなら “夢” なのでは?」

「あ、そうかも…」


 そんなやり取りを経て、カップルとなったのである。


ーーー 付き合い始めてから数年後。


「碧人、卒業後の進路は決まったの?」

「取り敢えず進学するよ」

「そっか」

「うん。陽毬は?」

「…私は……」


 高校生になった陽毬は、街で何度かスカウトを受けていた。

 その気になればモデルだってアイドルだって、その道の頂点を狙えるくらいに成長を遂げている。


 そんな陽毬の彼氏ともなれば、尋常では無いほどの優越感を味わえるだろう。

 しかし同時に、注目を浴びれば浴びただけ僕の手を離れ、どこか遠くに行ってしまうような気がするのも事実。


「………(……陽毬の魅力は、僕だけが知っていればいいんだ…)」

「………、碧人と一緒の大学を目指すよ」


 ふたりの間に無言の時間が流れ、一呼吸おいた後に陽毬は答えた。


「そっか!」


 パッと明るい表情を浮かべ、嬉しそうな碧人。


「(ええ、これで良かったのよ)」


 それを見て陽毬は心の中で納得し、“自身の運命” を受容する。

 陽毬にとって、碧人と一緒の大学を目指すことは困難では無い。

 なぜなら陽毬の方が優秀で、単に合わせれば良かったからである。

 そうまでして碧人の後を追うのは、何と言っても “愛” なのだろう。


ーーー それが碧人を、“狂人に変えてしまう” とは知らずに。


「陽毬って彼氏居るのー?」

「え? 居るけど…」

「まさか “あの陰キャ” じゃ無いよね?」

「あれはただのATMでしょ?」

「違うよ、あれはストーカーだってwww」

「たしかに、陽毬ちゃんいつも付き纏われるもんね?」

「ほんとかわいそー」

「………」


 学部でもサークルでも、陽毬の周りには常にたくさんの人が集まる。

 けれど誰一人として、碧人と陽毬が付き合っているといった考えには至らない。

 それどころか碧人は大学デビューに失敗し、いつも一人で教室の端で過ごしていた。


 陽毬が碧人と一緒に居ようとしても、いつしかファンクラブや親衛隊まで出来上がる始末。

 大学において同じ時間を共有することは叶わず、ふたりを取り巻く環境は悪化の一途を辿る。


「…ごめんね、碧人……」

「陽毬が謝ることじゃ無いよ」

「分かってる。でも私…」


 これでは何のために碧人と一緒の大学へ進学したのかと言う “根本的な疑問” 。

 また、この状況をどうにも解決できないことに対する “碧人への負い目” 。

 それらを陽毬は感じていたのだ。


「ここままじゃあ嫌だよ」


 1日の終わり、陽毬は同居するアパートで思いの丈をぶつける。


「そんなの僕だって “望んではない” けど…」

「……碧人ってさ、丸くなったよね…」

「何さ、いきなり」

「いや、前はもっと欲望に忠実だったと言うか。自分の気持ちに正直だったのに、変わらないと思ってた碧人が…昔の碧人はもう居ないんだなって……」


 周りなど見えず、自分のことだけで精一杯。

 他の男に取られるのが嫌で、我慢できずにしてきた告白。

 持っていたはずの “独占欲” と、抱いていたはずの “妄想” 。


 それなのに今の碧人は、“望んでないこと” を受け入れている。


「碧人の望みは何?」

「…僕の望み……」


 陽毬が “望んで” 受け入れた運命は、碧人の “望む” 世界だ。

 たとえそれが茨の道で、高い壁だとしても、“愛” があれば乗り越えられる。


「陽毬ともっと一緒に居たい」

「それだけ?」

「他の人と話してるのも見たく無いし…」

「うんうん」

「僕だけのモノにしたい」

「♡♡♡」


 碧人の中に燻っていた “願望” が一気に解放されていく。

 摘まれたはずの独占欲が再び芽吹き、ふたりに春を届ける。


「陽毬は明日から大学には通っちゃダメだよ」

「分かった」


 理由も聞かずに、陽毬は了承する。


「陽毬はずっと家で過ごすんだ」

「うん」

「誰とも会わずに、僕だけと交流する。いいね?」

「いいよ」


 歯に衣着せずに言ってしまえば “監禁” の提案であるが、陽毬は何一つ拒否しない。

 こうしてふたりは、付き合いたてのように初々しい、新たな門出を迎えるのであった。


ーーー 監禁生活の始まり。


「陽毬、帰ったぞ」

「おかえり♪ ご飯できてるよ〜」

「ありがとう」


 ふたりの新生活は、思っていたよりも快調な滑り出しを見せる。


「これ、次の課題だって」

「あ、うん…」


 大学に通わなくなった陽毬だが、休学をしたわけでも中退をしたわけでもなく、配慮される対象としてリモートでの参加に加えて課題をこなすことで単位を貰える運びになったのだ。

 それは偏に陽毬の受講態度とカリスマ性による賜物で、昨今の感染症等の事情を鑑みた結果でもあろう。


「別に辞めるでも良かったんだけどな〜」

「それは陽毬の親が許さないと思う」

「でも結局さ、卒業してもしなくても碧人のお嫁さんになるんだったら学歴なんて要らないでしょ?」

「そうだとしても、口実や建前は必要だって…」


 碧人と陽毬の同棲は、当然お互いの親も知るところとなっている。

 そしてここでの責任は、男である碧人に大きくのしかかる。


「就職はしなくて良いとしても、退学なんてしようものなら僕たち別れさせられちゃうよ」

「…私の意思で決めたことだと言っても?」

「世間や親の目にそうは映らない。全て僕のせいになるだけさ」


 彼女の生活を正せず、碌に導けないような甲斐性なしとのレッテルを貼られ、管理能力も無ければ責任能力も無い無能な男と見られるのを避ける事はできないのだ。


「…そっか。なら仕方ないね……」


 残念そうに陽毬が言う。


「そんな嫌そうな感じを見せても知ってるんだぞ?」

「!?」

「陽毬が案外 “監禁大学生活” を楽しんでるってこと」

「っ///」

「リモートなのをいいことに机の下でオナってたり、服の下で体を縛ってたりしてるんでしょ?」


 出席確認のために、リモート講義ではウェブカメラが繋げられている。

 しかし映るのは胸の辺りよりも上だけで、机の下では何が行われていても平気なのだ。


「ば、バレてたなんてっ/// …もしかして、教授にも……」

「それは無いかな」

「どうして? 碧人が分かったなら他の人だって…」

「僕だって同じ時間に講義を受けていたわけだし、そもそも教授のPCを覗き見でもしない限り、僕が映像を見る手段はないだろ?」

「…確かに、そう言われるとそうだけど……ますます分からないわ。それじゃあ本当に、どうやって気づいたって言うの?」

「そんなの簡単だよ。座面の染みに、僕が知らない陽毬の傷痕」

「…何よそれ、私の体についてる痕を全部知ってると言うの……」

「探偵みたいでイケてるでしょ?」

「ううん、ただのストーカーで気持ち悪いよ」


 こんな感じで盛り上がりを見せ、和気藹々とスタートした新生活であるが、本題はここからであった。


「…とは言え、まさか陽毬がこんなにも変態だったのは予想外だったよ」

「はぁ? 一体誰のせいで…」

「え、僕のせいだって言いたいのかい? 僕はただ家に居るように言っただけで、講義中に隠れて変態行為をしろとは言ってないよね?」

「う、うぅ…」


 おそらく外に出れないストレスが溜まったり、ずっと家に居るから暇で退屈な時間が増えたりと、そのような鬱々とした気持ちの解消に、“してはいけない” 背徳的な行為に手を出してしまったのだろう。

 それが意識してやったことか、それとも意図せず起きたことか。

 しかし碧人からすれば “どちらも同じ” で、陽毬が “勝手にしたこと” であった。


「つまり陽毬は、初めから変態の痴女だったということかな?」

「………(長い間ちやほやされて来たけど、どうにも満たされ無かったのは私が痴女だったから? 碧人を好きになったのも、“他の人には無い攻撃性” と “歪んだ愛情” があったから???)」


 言い換えるとしたら “ヤンデレ” 属性で知られるそれは、漫画やアニメの世界では女性キャラによく見られる性質だが、ここでは碧人がそうなのだ。


「誰とも会わず、僕だけのモノになればと思っていたけど、“考えが変わった” よ」


 陽毬が初めから痴女であったならば、碧人も元からヤンデレだったと言える。

 中学生の時から “精神的な不安定さ” と “独占欲” を持ち合わせていたし、陽毬と他とでは接し方の異なる “内気と強気の二面性” も兼ね備えている。

 …けれどもこのヤンデレ度合いを強めたのは、まごうことなき陽毬の存在があって故の結果だ。


「…陽毬が悪いんだからね?」


 あくまで自分は “陽毬のためを思って行動してるだけ” と正当化し、“責任の所在は陽毬にある” と押し付ける。


「ちょっと碧人? 怖いんだけど…」

「陽毬は “何もしなくて” も平気だよ」


 何もしなくてと言うより、何をすることも許されない。


「明日が楽しみだね?」


 そう言うと、碧人は部屋にこもってしまうのだった。


ーーー 次の朝。


 朝食を食べ終え、いつもなら大学へ行くために家を出る碧人の足が止まる。


「どうしたの? 体調でも悪い? それとも何か忘れ物?」

「ああ、忘れ物みたいなものかな。陽毬、そこの椅子に座ってよ」


 碧人が指差す椅子は、陽毬がリモートで講義を受ける際に使用しているPCの前に置かれた椅子だ。


「…ん? 分かったけど……普通に座るだけで良いの???」

「そのまま動かないで」

「え、何っ!?」

「こうしてグルグル巻きにして…PCを起動して……陽毬? 今日の講義は???」

「2限と4限だけど…じゃなくて、ねぇ碧人ってば説明してよ!」

「説明も何も今日一日この状態で過ごして、講義もそのまま受けて貰うだけだよ?」


 ロープを使って椅子に陽毬の体を縛りつける。


「…だけって///」

「PCは時間になったらカメラをオンオフするように設定したから陽毬が動けなくても問題ないし…」

「そう言う事じゃなくて」

「夜ご飯? それなら買って帰ってくるから心配いらないよ? 何が食べたい?」

「……オムライス…」

「オスライスだね? 分かったよ!」


 こうなっては何を言っても遅いので、陽毬は大好きなオムライスを所望した。


「ペットボトルにストローを差して置いておくから水分補給は忘れないように、それからそれから…」


 椅子に縛られたままでも最低限の生活が行えるよう、排泄なども含め環境が整えられていく。


「………(……どうしてこうも色々揃ってるのか不思議…あぁ、昨日の夜に部屋へこもって作ってたのはこれらか)」

「他に何か必要なものはある?」

「うーん。思い浮かばないや」

「初日だし仕方ないね。今日一日やってみて足りない物があったら…」

「待って!? 今日だけじゃないの???」

「そんなわけないだろ? せっかく夜なべして作った装置なんだぞ。一回だけなんて勿体ないでしょ?」

「…でしょ? かどうかは私に尋ねられてもだけど……私に選択権が無いことは分かるよ」

「うん。陽毬は理解が早くて助かるなぁ」

「…そうね、もう慣れてしまったわ……それよりも碧人、時間で言えばそろそろ家を出ないと遅刻するんじゃない?」

「あ、やべ! 行ってきますっ!!」

「行ってらっしゃいっ♡」


 拘束されている彼女に急かされるという稀有な状況の中、碧人は大学へと向かうのだった。


ーーー PDCAの “Check” とそれから…。


 オムライスを食べながら、碧人と陽毬は “本日の出来” を省みる。

 その日から、夕食の時間は反省会へと変貌した。


「縛られた状態で受ける講義は、何とも言えない興奮があったけど…」

「あったけど?」

「それだけじゃあ物足りなさを感じたわ」

「十分なくらいに変態なことをしているのに、それだけとは欲しがりだなぁ」

「…悪い?」

「そうは言ってないさ。でも、どうしたものか…」

「椅子にディルドーを付けたりは出来ない?」

「なるほど “バイブ椅子” か。それはありだね!」


 思いのほか乗り気なのは陽毬の方で、自分自身を責めることになるアイデアを出す。

 しかしそれも、一日中拘束されていて考えることも他に無く、“楽しみ” も限られているこんな状況では止むなしであろう。


「見えないのばかりも芸がないし、首輪をするのはどう? 所有物っぽくて僕は好きなんだけど…」

「(…所有物だなんてっ♡)碧人が付けたいって言うなら私は付けるよ」

「なら決まりだね!」


……………

………


 そうして日が経つにつれ、徐々にアイテムが追加されていく。


「陽毬さん、風邪ですか?」


コクコク。


「そうですか。お大事に」


コク。


 ギャグボールを口に咥え、それを上からマスクで隠しているため声を出せず、陽毬はただコクリと頷くだけである。

 家に居てマスクとは少し怪しいが、“一応” 病み上がりということになっており、弱っている体であれば用心するに越したことは無い。

 それゆえ、教授から疑いの目を向けられずに済んだ。


ーーー こうして順調に拘束具も増えてきた頃、夏休みがやってくる。


 長期休みの名に相応しく、大学の休みはとても長い。


ピンポーン♪


「お、来たか!」


 洗濯機がゆうに入るほどの段ボール箱が運ばれてくる。


「すごく大きな荷物ね。何を買ったの?」

「そう急かさなくても今にわかるよ…」


 マゾ性の上がってきた陽毬への “本格的な” 監禁。

 これまでの “出ようと思えばいくらでも外に出られた状態” とは違う。

 碧人を思っての精神的な拘束では無く、道具による物理的な拘束。


「大学が休みであるこの機会に “計画” を進めようと思ってね…」


 碧人が、黙々と段ボール箱を開けていく。


「…計画?」

「うん、“陽毬監禁計画” さ」

「え、今だって監禁してるじゃん?」

「分かりやすく監禁と言ってただけで、細かい話だけど正確に言えば今までのは “軟禁” ね」


 そう言ったのと同時に段ボール箱から姿を見せたのは、大型犬を飼育するような “ペットの用のケージ” である。


「…で、これからはこの中に入れて “出入りの自由も奪う” 。これが本来の意味での “監禁” だね!」

「…それが私の部屋……」

「部屋と言うより、家かな?」

「………(大きなケージによって家が狭くなったと思ったけど、これこそが私の家なんだぁ♡)」

「さっそく入ってみる?」

「!?」

「…だって陽毬、“期待してる” じゃないか!」


 モジモジと、まるでおしっこでも我慢してるかのように太ももを擦り合わせている。

 ただしその股からは、おしっことは異なる透明な液体が垂れ、床を濡らしていた。


「ペットショップの犬や猫なんかの姿は狭っ苦しそうに見えていたけど、天井も高いし、実際に入ると意外と広いのね」

「それは陽毬が立ってないからだよ」

「…立ちたくても、立てないんだけどね……」

「あはは、そうだね」


 陽毬の手足は枷で封じられ、半分くらいのサイズになっている。

 思ったように動けず、陽毬の居住スペースとしては十分であった。


「どう? 気に入った???」

「うんっ♡」

「そしたらご飯にしようか」


 碧人は陽毬をケージに閉じ込め、監禁をすると言った。

 ならば外に出して食事をするのは変だし、そもそも拘束を解くのも妙な話だ。


「…ご飯って……」


ゴトっ。


「やっぱり♡」


 餌皿に盛られたご飯が出される。


「そんな格好だけど、ペットってわけじゃないから僕と同じ食べ物ね」

「いただきますっ♡」

「はいどうぞ」

「……うぐうぐ、むぐむぐ、もぐもぐ…」


 手は使えないので、陽毬は口を直接つけて犬食いをする。


「美味しい?」

「うんっ♪ 食べ辛いけど、味は変わらないから…」

「そっか〜 普段とは違うスパイスが加わってるかと思ったんだけどなぁ……精液でもかければ良かった?」

「それ、本気で言ってる?」

「まさか。そっちの趣味は無いよ」

「…良かった……」

「僕は “純愛” だからね!」

「(どの口が…いや、ある意味そうなのかもね……)まぁ “鬼畜” でもあるけどね?」


 どんな状態でも変わらずの碧人と陽毬。

 本当に相性が良いふたりである。


「…ね、ねぇ碧人……」


 そんな仲睦まじい関係なはずの中、食事を摂り終えた陽毬が “申し訳なさそうに” 碧人の名前を呼ぶ。


「どうした?」

「ご飯を食べたら、その…」


 ケージで監禁をするのであれば、いずれ訪れる問題。

 人が生きていれば、避けることの出来ない生理現象。


「おしっこか?」

「………」

「うんちね?」


(* . .)⁾⁾コクリ


「…でも困ったなぁ。もちろんトイレは買ってあるんだけど、まだ段ボールの中だ……我慢できそう?」


フン(・ω・三・ω・)フン


「…ダメなんだよ」


 流石に “恥ずかしい” という気持ちがあるのか、陽毬は声ではなく顔で伝える。


「どうせ僕が処理をするんだし、その時にはうんちもおしっこの跡も見るんだ。陽毬は、出す瞬間を見られるのが嫌なんだろ? あっち向いてるから、その間に済ませて…」

「お、音も…」


 女性同士だって “音姫” を使ってトイレの音を隠すのだ。

 それを男の前で、それも恋人である碧人の前でだなんて、陽毬が忌避したがるのも無理はない。


「はいはい。僕もトイレに行って来るよ」


 碧人がスマホを持ってトイレに行く。


ブリっ、ブチゅ。

ミチミチっ、ムリゅムリゅ。

ブピっ、シャーーーっ、ジョロジョロ。


 しばらくして、碧人が戻って来る。


「トイレットペーパー持ってきた。拭いてあげるからお尻をこっちに向けて」

「お願いしますっ/// …んんっ/////」

「変な声出すなよ」

「出してるんじゃ無くて出ちゃうんだもん、はぅうっ♡♡♡」


 食事から始まり排泄に至るまで、身の回りの全てを碧人に世話される。

 世界が縮まり、ケージだけで完結する生活。

 そんな永遠のように思われた日々にも終わりは訪れる。


「夏休みが明けたらどうするの? 講義に出ないわけには…」

「そのままの姿をカメラに映す?」

「バカなこと言わないで、こっちは真剣なんだから…」

「んなことは分かってるよ。さっきのは冗談で、僕にも真面目な考えはあるって」

「…本当に?」

「うん、僕たちは同棲してるじゃん?」

「…そうね」

「陽毬が大学に行かないのは、人との接触を避けるためでしょ?」

「…そういうことになってるわ」

「それなのに、僕が大学でたくさんの人と交流するのは変じゃない?」

「(…交流してる、かな? あ、いや……)そうかも知れないけど」

「だから実は、僕もリモートにして貰ったんだよ!」


 それは既に打たれた手であった。


「えっ、嘘でしょ!?」

「それがさぁ、教授に話したら簡単にオーケー貰えて…」


 碧人が居ても居なくてもとか、むしろ居ない方が…とかは無いと思いたい。


「そういうわけで講義の時だけケージから出して、それ以外は監禁生活続行というつもりだけど…」

「…つもり、ね。言っても無駄だし、それで構わないわ」

「やった!」


 不要な、形式だけの許可を出されて碧人は喜んだ。


「…けれど、ケージの方はどうにかしないと……」


 ふたりで住むから学生が借りる部屋としては大きめで、間取りは1LDK。

 しかし寝室にはベッドがあるため、ケージはリビングに置くしか無い。

 そうなれば大きめとは言っても、決して広い家ではないがゆえに、“どこからでもケージが視界に入る” のだ。

 であれば必然的に、リモートの際にもカメラへ映り込むことになる。


「このままで別にいいでしょ? ペットを飼ってるとしか思われないって」


 普通なら碧人の言い分は正しい。

 だが、そうでは無いから陽毬は心配する。


「…だって名前が……」


 ケージにはプレートが掛かっており、そこには “陽毬” という文字が書かれている。


「誰が見たって “陽毬のケージ” だと勘違いする?」

「か、勘違いじゃ無いけど…バレちゃうよっ///」

「僕に言わせれば、パッと見て陽毬を入れてるだなんて思うやつはよっぽどの変態だけどな。それにもしバレても、顔を直接合わせて会うことは無いんだし、恥ずかしいも何も無いだろ? それよか、色々と想像して楽しみなよ」

「…色々……通報されるかも…オカズにされるかも…悪く無いかもっ♡」

「僕の陽毬が、誰かのオカズにされるのは正直勘弁だけどね」


ーーー 人間は、どんなことにも慣れる生き物である。


 なんだかんだで一年が経ち、監禁生活も様になった頃。

 一日の大半をケージの中で過ごし、外に出ている間も監視下にあるというのに、碧人は “不安” を感じるようになっていた。


「どこにも行かないわよ」

「………(…逃げられなくして、ずっと僕のモノにする方法はないのか……)」


 そんな陽毬の言葉を聞いても、碧人の心は穏やかにはならない。


……………

………


 しかし数日後、人が変わったように元気な碧人の姿があった。


「ねぇねぇ陽毬!」

「えっ、何? どうしたの???」

「僕、陽毬のことを “達磨” にするって決めたよ!!」


 達磨に “したい” ではなく “する” 、それは “相談” ではなく “報告” である。


「だ、達磨って…(手と足が切り落とされたアレよね。でもそれで、碧人が安心できるなら……)いいよ♡ 私、達磨になる♡♡ 碧人のためだもんっ♡♡♡」


 少し動揺した陽毬だが、碧人へ全て捧げる覚悟をして受け入れた。


……………

………


「怖いかい?」

「全然と言えば嘘になるかな。だけど、碧人に愛して貰えるなら平気だよ」

「僕を理解し、達磨にまでなってくれるんだ。もちろん愛してるよ」

「…碧人♡」

「陽毬…」


 手を回し、抱き合い、キスをする。


「(…私が手を使えるのは、これで最後……)」


 口移しで睡眠薬を飲まされ、陽毬は幸せの中で眠りに落ちた。


……………

………


「ああ、腕が…足が……」


 次に目を覚ました時には、全てが終わっていた。


「…綺麗だ」


 分かっていたことであっても、いざ現実を目の前にすれば動揺せずにはいられない陽毬に対して、碧人の口からは感嘆の言葉が漏れる。


「………(こんな風になっても、私を綺麗だと言ってくれる。私の選択は間違いじゃ無かった。私、碧人を好きになって良かった)」


 それを聞いて、陽毬は安心する。


「それじゃあ帰ろっか」

「…うん♡」


 そう返事をするが、陽毬は自分の足で立って、歩いて帰ることは出来ない。

 ケージに監禁されていた時にもだいぶ世話になったが、それ以上に世話をして貰わないといけない体になったのである。

 そんな陽毬のために、碧人は生命維持機能が付いたキャリーケースとロッカーを作り、24時間いつでもどこでも大切に閉じ込め、同じ時間を共に過ごすのだ。


 後日、四肢切断を請け負った違法病院の計らいで、ふたりの両親には陽毬が( “起きても無い” )交通事故で手足を失うことになったと伝えられた。

 そんなことだとはつゆ知らず、五体不満足になった陽毬を変わらず一生愛し続けると誓った碧人を、逆に男らしいとまで褒めていた。


ーーー そしてふたりは……。


 数年後、碧人が大学を卒業したタイミングで正式に籍を入れた。


 陽毬には結婚指輪を嵌めるための指も無いし、あくまでも親としての考えは “こんな姿をあまり人に見られたくないだろう” と、結婚式は挙げなかった。


 けれども代わりに……。


「…陽毬、付けるね?」

「うんっ♡ ……くっ…」

「ごめん、痛かった?」

「少しだけ。でも、もう平気だよ」


 アドレナリンが分泌され、痛みよりも興奮が勝る。


「良かった。似合ってる」

「本当に? 嬉しいっ♡」


 陽毬の乳首に光るニップルリング。

 それがふたりのエンゲージリング。


「これからもよろしくね、碧人」

「まかせな、陽毬」


〜 完 〜


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