「あなたって人気者なんだよね」
私の頭の中では、中学生の頃からフロイトの『超自我』(英:Superego、スーパーエゴ)を元に「エゴン」と名付けた空想上の男性友達、いわゆるIFがいた。(脳内彼氏とかではなく、全く恋愛に興味なかった自分のTSか二卵性双子のような存在だった)
私は、何もかもが怖くて不安ばかりな臆病者だった。その臆病のせいでやりたいことはやれず、友達作りも苦手だったため、IFが代わりにそばにいてくれた。幼い頃からずっと犬も飼いたいと切に願っていたが、両親はいつも反対して断った。臆病で何も言い返せなかった。
私の頭の中では、エゴンと私は暖かくて小さな小島で犬と一緒に3人(3匹?)暮らしだった。毎晩一緒に浜辺のところに座って暖かい缶飲料を飲んでいるという暮らしを、私はいつも想像してみた。高校に入ってエゴンのことを段々と忘れていった。
大学2セメか3セメのときに偶然、知り合い何人かもが受けている授業を私も受けることに。教室に到着してからの最初の5分間は、いつもみんなに挨拶しまくってガヤガヤで過ごしていた。そしていつか、同級生一人が私に向き直り、淡々と言った:
「あなたって人気者なんだよね」
「はい?」
「だって、この辺のみんなと知り合いなんじゃないの?すごいじゃん」
いい年してIFの漫画を中学時代まで描いてきた私には、そう言われたことが人生初めてでかなりショックだった。あの時からいったい何が変わったのだろう。心の底ではまだ不安がいっぱいで相変わらずの臆病者だったし。
今年の初め、学士論文の採点を担当することになった。(私だって卒論は提出したばかりなのにこういう時期になってまさか他人の学士論文の指導をしているなんて、正直いまだに信じられない…)
当の大学生は、フロイトの『超自我』との分析的比較を行ってみたのだけど、原文のドイツ語(『Über-Ich』)ではなく英語の『Superego』と引用することで大ミスをしてしまった。
なぜかというと、この原文は元々ドイツ語で書かれており、フロイトの理論を自分自身で実際に探索したのではなく、英語の参考文献をただそのままでコピペしてしまったということが明白だった。ドイツ人たるうちの大学生としてただただの大ミスだった。
そして、私の旧友のエゴンに対する侮辱のようにも感じていた。
かと言って、論文の最終的な採点はまあまあ良かった。そのミスを差し引いても内容的には「普通」だったので。結局のところ、問題なく合格し学士号も取得した当の大学生だったのでどうせ害はなかった。
その後も、私は卒論をいくつかも採点し、楽しくお仕事をしていた。
時々は、帰り道で猫さんと出会う。
そしてある日、同僚(友人兼元先輩の男性)が突然こう言った:
「ムロマキさ、人気者なんだって」
「え?」
「うちの学生は言ってる」
中学校のあの時からいったい何が変わったのだろう。心の底ではまだ不安がいっぱいで相変わらずの臆病者だったのに、なんで…。
その時、私は思い出した。不安を感じないよりも、不安を感じながらもやることをやる方が大事なのだと、思い始めたのはここ数年前のことを。手足が震えながらもやりたい、またはやらなきゃいけないことをやる。自分が変わったというより、ずっとやりたかったことをやっとやっただけじゃないか、と。
「すごいじゃん」と、遠くから私を支える声が今でも微かに聞こえている。
雨が降っている今日。寒い日々が続いている。とても暖かくてモフっとした愛犬をそばに、ソファに座っていたまま私はブログを書いている。まだ赤ちゃんベイビーだから苦い物はちょっとダメだけど缶ビールとコーラのミックスお酒を飲んでいるようになった。まさかこんなことをしてあんなことを振り返る時が来るなんて…