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陵魚 from fanbox
陵魚

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近況7/12 俺たちは雰囲気で魔法少女をやっている

 支援者向け小説を粛々と書いたり、詰め詰めだった予定がさらに逼迫したりしつつ、原神の新バージョンをウキウキしながら待ち受けている陵魚です。


 さてさて。

 書店の店頭で『魔法少女はなぜ変身するのか?』という本を見かけまして、まぁこれは魔法少女ものを書いている身としてスルーできんだろ、と思い衝動買いしてしまったわけですが。先日読了いたしました。

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 最初に書いておくと、タイトルになっている疑問に快刀乱麻の答えを与える、みたいな本ではないですね。そこを期待して読むと肩透かしになる。

 ただ、むしろ個々の作品をちゃんと緻密に見て、疑問点を提示するという手続きが丁寧なので、新しい視点というか視座を与えてくれる本として、けっこう楽しく読みました。


 まぁとりあえず、著者の方が還暦過ぎてるっていうのがびっくりしたわけですけどもw それが前書きと後書きでだいぶ率直に戸惑いを表明してるのが楽しかったッスね。正直この歳で見るにはつらいアニメもあった、と。まあ確かに還暦過ぎて『Re:ゼロ』とか『転スラ』とか『らき☆すた』とかを完走するのは大変だったと思う……w

 研究対象にする以上、ちゃんと要所要所のポイントをメモしながら作品には全部目を通さねばならないが、プリキュアシリーズなんて18シリーズまでで全873話、17,460分(291時間分)あるわけで正直めちゃくちゃ大変だ、という愚痴も、書かれてみると確かにハードル高いよな……と思い。アニメの学術研究もっとあっても良いだろ、と私などは今まで思ってましたが、そうだね、いざやるとなったら大変だよねスマン、ってなったw

 それでも著者さんは「この本で言及したアニメはすべて視聴した」と前書きにきっぱり書いてて、「うむ、この著者は信頼できる……」って思いながら読んでましたw


 著者さんは現代人の宗教意識の変遷に関心があり、最終的な考察もそういう方面に向かうので、純粋に魔法少女アニメの分析だけを読みたい人もちょっと肩透かしかもしれない。

 それでも、異世界転生ものから話が始まったのに、いつの間にか「異界ってなんだろう」から話が文化人類学者小松和彦先生の話になり、そこからアニメにおける死生観の話でドラゴンボールの悟空の蘇りとか界王の話とかになり、地獄を描いたアニメ作品の話をしたと思ったらいつの間にか源信の『往生要集』の話になったりと予想外の方向に話がぶっ飛ぶので、それが楽しめる人なら楽しめるんじゃないかなw 私は「ポップカルチャーにおける神道や巫女」で『らき☆すた』の話をしてたはずが、描かれるの鳥居ばっかりだよね、から宗教学における鳥居の研究史の話題を挟んで、いつの間にか諸星大二郎『妖怪ハンター』の鳥居回まで話が飛んだところで腹抱えて笑いましたw このタイトルの本で稗田礼二郎の名前を見ることになるとは思わんでしょw



 肝心の魔法少女についての話題ですが、とりあえず全体を掴むために魔法少女が登場するアニメを列挙する、というのでバーッとリストがのってるんですけども、『魔法使いサリー』から始まって『ミンキーモモ』『セーラームーン』『リリカルなのは』などが並んでいる中になぜか『撲殺天使ドクロちゃん』が混ざっててコーヒー噴いたw

 で、真面目な研究者さんなのでその出自を探るために『魔法使いサリー』『ひみつのアッコちゃん』までさかのぼります。しかも全話チェックして、サリーが何に魔法を使ったのか、アッコちゃんが何に変身したのかを全リストアップして立論していきます。さらにこれら番組の製作スタッフが影響を受けたというアメリカドラマ『奥様は魔女』も全話チェックw 同ドラマのサマンサが魔女帽子をかぶって出てくるシーンは一つしかないそうです。


 それで出てきた指摘がけっこう面白かったんですよね。

 要するに、魔法少女が行使している「魔法」というのが何なのか、というのがびっくりするくらい曖昧で、作り手も視聴者もあまり関心を払っていないように見える、と言うわけです。

 Wikipediaの「魔法少女」の項目を見ると「作中において魔法などの不思議な力を使い、騒動を巻き起こしたり事件を解決したりする少女をさすキャラクター類型」とあるのだけれど、不思議な力を使っていれば魔法少女なのかというとそういうわけでもない。巫女さんキャラなんかは違うとされるし、たとえば『涼宮ハルヒの憂鬱』のハルヒも不思議な力を行使しているけれど魔法少女とは呼ばれない。

 魔法というのが伝統的な西洋魔術とされるわけでもない。『エコエコアザラク』のヒロインも魔法少女とはされない(陵魚コメント:そんな魔法少女いたら嫌だろう……w)。

 要するに、我々が魔法少女と言われて思い浮かべるイメージは、何かしら明確に、ハルヒ的でもない、既存の魔術・宗教でもない不思議な力としての「魔法」を思い浮かべてるんだけれども、それが何なのかがびっくりするくらい曖昧で説明・定義されてない、と言うんですな。

 『プリキュアシンドローム』という、プリキュアシリーズの製作スタッフ25人に徹底インタビューしたという本もこの著者さんは全チェックするわけですが、そこでプロデューサーの人とかもプリキュアヒロインたちが行使する「魔法」「変身」の原理がどんなものかについては驚くほど言及が少ないという。


 この辺の「言われてみれば」という部分を、各作品を丁寧にチェックしながらあぶり出していく手際がスリリングで面白かったですな。

 この件をTwitterの表垢で呟いた時にフォロワーさんから「プリズマ☆イリヤやリリカルなのは、まどか☆マギカなど別分野から参入してきた作品では比較的説明されてる気がしますね」とコメントもらって、確かにな、とちょっと思ったりしました。プリヤは型月時空の魔術設定をそのまま援用できるわけだし。

 虚淵さんとかもそうだろうけど、やっぱり世界観設定をきっちり作るジャンルの人が変化球として「魔法少女もの作るか」ってなると、作中行使される「魔法」の内実が空虚なままなのは気になるんじゃないかな、という感触があります。

 私も昔はガンダム設定考察界隈に出入りしてた人間なんで、『ルリとルナ』を書き始める時にそこの設定は作っちゃいましたねぇ。原理の曖昧な謎の力でビーム撃ったり飛び回ったりする存在をガンダムオタクが許容できるハズがなかったw 結局「光波位相転換」とかいう謎ワードを作ったり、背後設定を作ったりしてしまったもんな。

 しかし本当は、そこを「ピュアなエナジー」みたいな曖昧なパワーで突っ切っちゃった方が純正魔法少女っぽかったのかも知れん。


 他にも、社会学者とか評論家とかが魔法少女ものアニメを論じるとついつい「キャラの成長」とか「自己実現」と絡めて変身ヒロインを論じてしまうけど、実際に作品を見てみると「成長」とかが強調されることあんまりない(無印『セーラームーン』最終回でのうさぎは第一話の頃と全然変わらない泣き虫でドジなところが強調される)、むしろ「日常を取り戻す」ことが重視されてるよね、というのも実際にちゃんと作品を見たからこその冷静さで、やっぱこの本は信用できるなと思いました(戦うヒロインアニメを論じるのって得てしてフェミニズム畑の人だったりするから、どうしても先にイデオロギーありきで作品を見ちゃうんですよな)。



 そんな感じで。

 正直、かっちりした結論が出ているわけではないし、内容も言及先も取っ散らかってはいるけど、読めば必ず何かしら発見とか、新しい視点をもらえる良い本だった、という感想です。

 前述の通り、アニメ批評ってまだまだ、マニアが自分の好きな作品に引き付けて論じちゃったり、逆に特定分野の学者さんが先に結論ありきで論じちゃったりっていうのが起きやすい分野なんで。そうじゃない、こういう堅実な取り組みの作品が話題になるのは良い事だと思いますよ。こういう仕事がもっと出てきてくれればいいな、と思いました。

 以上。


 ……さて、気付いたらけっこう長文になってしまったな。小説執筆に戻るか……w


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Comments

確かに、昔はもっと魔法のステッキ一つで何でもできちゃう作品、いろいろあったような気もしますね。ディズニー『シンデレラ』の魔法使いとか『ファンタジア』とか。案外その辺が「魔法」の出どころなのかも知れませんねぇ。 今は逆に魔法少女もバトルする時代なので、魔法の範囲を制限することで駆け引きの面白さを出したり、みたいな必要性もあるんですかね。

近年のオカルト系能力(魔法・超能力・退魔など含む)って設定や理論が下地にあって、「ちちんぷいぷい」言うだけで何でもできる万能さがなくなった印象ですね。『魔法・魔術=科学を言い換えた何か(学問)』みたいな。

てとら


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