XXX4Fans
龍星色(元・罰印) from fanbox
龍星色(元・罰印)

fanbox


じいさんばあさん女体化する:1話

新作になります。随分悩みながら書いたような気もしますが、こちらでもお読みいただければ幸いです。 ―――――――――― 第1話「じいさんばあさん女体化する」 道場の中で瞑想をする。 吸って、吐いてを繰り返し、枯れた体に気を巡らせていく。 静かな空間にとけて消えていく自分の呼吸音が、ひどく静寂を乱すような音のように聞こえてくる。 「…ッ! ゲホッ、ゲホ…!」 ふと、噎せてしまい、何度も咳をしてしまう。若い頃はこんなことは無かったな、と思いながらも、若い肉体など手に入るわけはない。 もはや我が身は老いた。それは明白だ。 無天流という古武術を受け継ぎ、早幾年。 妻である水咲との間に子を為して、その子も後継を作ってしまえば。今やこの身は老いさらばえている。時の流れは平等にして残酷だ。 「おじいさん、大丈夫ですか? 咳が聞こえてきましたが…」 「あぁ、大丈夫だばあさん…、少し噎せただけだ」 妻である水咲が、咳き込む音を聞きつけて道場にやってきた。大丈夫だといっても、彼女は傍に寄り添って、背中を撫でてくれる。この妻に巡り会える事ができたのは、本当に自分の人生の中で、一番の幸運だった。 月虹流という忍術流派が、無天流の血を求めて嫁いできた時は何事かと思ったが、それ以上に自分たちは惹かれ合った。 血を残せという流派の使命を水咲が無視して、自由になる為夫婦で忍びの里ごと潰したのは、もう60年も前だったか。 死地を共にくぐり抜けて、水咲とは深く繋がれた。そうして生まれた子供たちは、本当にかわいくて、技を継ぐ事より命を繋ぐ事の方が素晴らしいと思えた。 …いかんいかん。気づけばつい昔の事を考えてしまう。 孫も生まれて、すっかり老いたなと思う事しきりだ。 そろそろ終活とやらにも手を出してみるべきなのかもしれないな…。 そんな事を考えながら風呂に入り、洗濯物を篭に入れる。後で水咲の洗濯物と一緒に洗い、干す事は長く続けてきた家事の一つで、忘れようもない。 いや、それさえ忘れさせてしまうというのだから、老いというものは恐ろしい。 このまま静かに水咲と余生を過ごせればと思うも、どこかで子供たちの世話になってしまう可能性がある。それがまた恐ろしい。 せめて死に際に迷惑は掛けたくないが…。 そんな事を考えながら、今日も早く一日が終わってしまう。 水咲の作ってくれた食事を取り、食器を洗い、拭いてしまう。 明日は自分が作る番だなと考えながら、カレンダーを確認すると、そこには確かに「自分が作る番」を示す丸が書かれている。 これもきちんと忘れないようにしておかないと。 そうして床につく。 「ではばあさん、また明日」 「はいおじいさん、また明日」 そんな言葉を掛け合って、瞼を閉じる。いつの間にか癖になっていた眠る時の声の掛け合いは、いつ頃始めただろうか。 他愛もない事を考えながら、ゆっくりとまどろみに体を預けて、今日を終わらせていく。 * * * 夜、ふと目が覚めてしまった。 はぁと息を吐きながら、洗面台に向かう。 武術に生き、世に出ず、静かに生きていた。水咲も同じく裏の世界の住人である為、表立って出ていこうという考えは持っていなかった。 だが、だが。 もしどこかで何か、殻を破ろうという考えを持っていたと言うのなら。 静かな田舎ではなく、今は子供達が住んでいるような都会に行って、様々な事をできたかもしれない。 こちらの方が落ち着くと水咲は言ってくれたが、都会に行こうとしないこの身に合わせてくれていたのかもしれない。 そんな事を考えると、妻である彼女にとても悪い事をしてきたかのように思えてしまう。 もっと何かあったのではないか、と、今更ながらに考えてしまうのだ。 もっと何か、違う生き方があったのではないかと。 老けてしまった影響なのか、そう考えてしまいながら、洗面台に向かう。 ……ん? おかしい、妙に洗面台の位置が高い気がする。いつもはもっと低い位置にあったような筈だが。 そう考えながら鏡を見ると、そこに映っていたのは、自分ではなかった。 色の抜けた白髪ではない、綺麗な黄金色の髪の毛。瞳の色も満月のような金色になっている。 顔もしわがれたものではない、まるで少女のような姿が映っている。 考えが纏まらない。これは何だ? 夢か? 慌てて体を見下ろしてみると、そこには自分の体についている何かがあった。 寝巻の胸元を押し上げる膨らみが、2つ。それに手を触れてみると、確かに「ある」。触られた感触がある。これは紛れもない自分の体の一部だ。 まさかと思い、股間に手を添えてみる。 するとそこには、長年親しんだ相棒の存在は、見事に消え去っていて。何も無い平野が広がっていた。 まさか。 まさか。 まさか。 そんな考えばかりが頭の中に広がって、もう一度鏡に映る「自分」を見やる。 そこに映るのは、金髪金眼の少女。 これが、もしや。 「ぬあぁぁぁぁぁ!?」 そう思った途端、喉の奥から溢れ出る声を止めることができなかった。これが男の声であればまだ幾分落ち着けたかもしれないが、自分の喉を通って出てきた声は、紛れもなく甲高い少女の声で。 情けない声が家中に木霊した。 そして次の瞬間、背筋に殺気が走った。 冷静に洗面台を背に構えると、そこに立っていたのは黒髪の女性。 すらりとした長身に、女性らしさがつまり引き締まった肉体。鋭利な刃を思わせる瞳はこちらを見て視線を一切動かさない。 ただし、着ている服が寸詰まりだ。明らかに服と体形が合っていない。 ……ん? それは自分もか? 「何者です、どこから入ったのですか?」 眼前の女性が、鋭く声をかけてくる。改めて手元を見やれば、そこは水咲が使う苦無が握られている。それを見つけて持ったにしては握り方、構え方が堂に入り過ぎている。 「答えなさい。3つ数えるまでに返答すれば、見逃します。でなければ…」 「ちょっと待て」 「何ですか」 まさかと思い、その女性に声をかけてみる。 「……まさか、ばあさんか?」 「……もしかして、おじいさんなのですか?」 その女性(推定ばあさん)も何かに気付いたようだ。確かに今自分が取った構えは、無天流のそれ。幼少の頃から教え込まれ叩き込まれ、体に染みついた構えだ。 ばあさんはその構えを横から、前から、何度となく見ている。それに気付かぬほど耄碌はしていないし、もしやと思ったが…。 「……なんという事でしょう。随分体が軽いと思っていましたが」 「……俺もだ。こんな事になるとは…」 2人して深夜、途方に暮れたのだった。 * * * 「本当に、おじいさんなんですよね?」 「うむ、全くもって信じにくいが、俺なのだ。…そちらこそ、水咲なのだな?」 「はい。若返ったかと思えば、全く違う姿のようで…」 居間で改めて、お互いが俺と水咲である事を確認して、頭を抱える事になる。 これが何かの理由で若返っただけなら、まだわかる。だがこれはどういうことだ。 俺は少女になるし、水咲は全く別人の姿になっている。 「不思議なものですが…、お互いが全く同じ夢を見ているわけでもなさそうですし、受け入れるしかない気もしますね」 「うむ…、しかしばあさん、随分と落ちついておるな?」 「いえ、まぁ…、別流派と抗戦の時、殺したかと思えば脱皮して逃げる忍者を見ましたので。人間の限界を超えれば、どのような事でも起こりうるかなと」 なるほど、確かにそうか。忍者はただの古武術使いよりよほどタガの外れた超人集団だ。何をするか解らない存在ばかりだったし、それで苦戦した事も一度や二度では無かった。 それを考えればこのような事態にも耐性はあるか。 「ですが、私とおじいさんをこのように変える術は聞いた事がありません。全くもって原因はわかりませんね」 「それが簡単に解ったらここまで混乱はせんよ…」 改めて、自らの顔を手鏡で写しながらため息を吐く。 まるで、いやそのままのごとき子供である少女の顔が写っている。これが自分なのだという事は、全くもって理解しがたい。男として生きてきた事実など夢であったかのような状況に、頭を抱えたくなる。 水咲の方も、全くもって別人に変わってしまったため、いっそ二人して生まれ変わってしまったと言われた方が納得がいくほどだ。 しかし今いる所は、俺達が長年住んだ家屋だ。となれば生まれ変わりなど説明ができない。 わからない、何もかもが解らない。 普段から瞑想を行い、心を揺らがないようにしている身とはいえ、これはさすがに慌てざるを得ない。 手がかりなど一切無い状態で、どうしたものかと考えていると、 ふと、下腹部にぞくりとしたものが溜まっている事に気づいた。 これは…! 「おじいさん?」 すると水咲が、何かに気づいたようにこちらを見てくる。 「…う、む。ちと尿意がきてな」 「それは大変です。我慢しては毒ですよ、おじいさん。すぐにお手洗いに」 と言われ、俺より身長の高くなった水咲に手を取られ、厠へやってくる。 十数年前に行ったリフォームで、便器は洋式になっているから用を足すのは大分楽ではあるのだが、 「…………どうすれば、いいのだ?」 そう、問題はそこだ。 80年以上慣れ親しんだ相棒は、体から消え失せた。今の俺の股ぐらは何も無い平野が広がっている。いや、それは若干語弊があるが。 …とはいえ、水咲と連れ添って、子供を育て、女性の股ぐらがどんな構造になっているかは俺も知っている。だからこそ…、 「……」 だからこそ、俺は便座に腰掛けた。きちんと用を足すためには、こうせざるをえない事を知っているからだ。 ゆっくりと下腹部の力を抜き…、……ん? ……おかしい、いつもはこうして力を抜けば用を足せるはずなのだが…。 不思議に思いながら、少し下腹部に力を籠めると、少しずつため込んでいたものが流れ出してきた。 ちょろちょろとやや大きめに音が鳴るのを知ると、なるほど確かに、街に出た時の厠に音が鳴る機械が付いている筈だ。こういう音を聞かれるのを嫌った人による道具なのだろうと思った。 …確かにこういった音を聞かれるのは、少しばかり気恥ずかしいものがある。 そうしてゆっくりと排尿を終えて、俺は気付いた。男の時は相棒を振って水を切ればいいだけの話だが、女の体となればそうはいかない。切りようがないし振れるものがない。だから女性は用を足した後、紙で拭くわけだ。 まさかこの年になって女性として用を足し、そして後処理をするなんて思いもしなかった。 「…おじいさん、うまくお手洗いは出来ましたか?」 「まぁ、な…。…こんな事になるとは思いもしなかったが…」 厠から出てくると、水咲が不安そうに俺の方を見てくる。確かに女性としての初体験をする身となれば、先達の女としては気が気ではないだろう。不安にもなろうものだ。 だからと言って気配まで消して厠の前に陣取られると、自分の音を聞かれているようでかなり気恥ずかしいものがある。 なるほど確かに、まさか女性としての用足しだけでなく、女性としての気恥ずかしさまで体験することになるとは思いもしなんだ。 「……とにかく、日が昇ったら病院に行こう。俺達の身に何が起こったのか、医者に診てもらう必要がある」 「それはそうなのですが…、…保険証、使えるんでしょうかね?」 水咲の言葉に、確かにそうだと悩みながら、俺達は夜が明けるのを待つことにした。 ……どの道厄介な事になりそうだと考えながら。

Comments

新作ありがとうございます! 今後の展開が楽しみです!

ジョウ


Related Creators