化ける鬼(4) 真実の吐露
Added 2024-04-05 00:44:35 +0000 UTCどうも、罰印です。
最近何も書けない日が続いていましたが、どうにか続きが書けそうです。
みなさんのご支援、いいねなどに支えられて、なんとか踏みとどまっております。
そしてお待たせしてしまいました、「化ける鬼」の続きになります。
ほんの少しの間でも、お楽しみいただけたら幸いです。
――――――――――
「白銀さんが、鬼だったら、ですか…?」
不思議そうにひなこは俺のほうを見てくる。それもそうだろう、友達がいきなりこんなことを言い出して、気にならない存在はいないはずだ。
だからこそ俺は、訪ねてしまったのだろう。ひなこの顔を見ることはできず、背を向けて訪ねてしまったのだろう。
「そうですね…」
ひなこは考えている。友人が鬼だったら、どうなるのだろうか。ここに住んでいた鬼だとしたら、どうなるのだろうか。
きっと聡明な頭で考えているのだろう。俺はそのかわいい口から答えが出てくることを望み、そして耳をそむけたくなる。どんな言葉が出てくるか、俺にはわからないからだ。
「…仮に、白銀さんがここに住んでいた鬼だとしたら。もともといたはずの『白銀悠里』さんはどうしたんですか?」
そして、ひなこが一番最初にたどり着いたのは、俺にとっては一番聞かれたくなかったこと。
「白銀悠里さんは、確かに前から学校に在籍していたことは知っています。それがいつの間にか鬼になっていたのなら、前の『白銀悠里』さんはどうなったんでしょう」
「…………それは…」
我ながら勝手だ。自分から訊いてしまったのに、自分にとってたどり着かれたくない質問を投げかけられたら、黙るしかできない。
だけど俺は、ひなこのことを気に入っている。できればこのまま彼女といたい。
そうしていくならば、俺が隠し事をしているのは、よくない。
だから俺は問うてしまった。自分が鬼だったらどうするか。
「……それは、『白銀悠里』を、喰らったから」
だから俺は、答えるしかなかった。俺は心の中に小さな後悔とともに、ひなこに真実を告げたのだ。
「少し前、人間の『白銀悠里』は山で足を滑らせ死んでいた。俺は人間を知りたくて、人間になってみたくて、化ける道を選んだんだ」
「……」
「その方法のために、ばれないために、俺は彼女を喰らった。頭から足先まで、全部。そうして彼女の全てを知って、『白銀悠里』に化けたんだ」
「では、私が白銀さんを知った時に、すでに白銀さんは…、鬼だったんですか?」
「あぁ…。お前が知る『白銀悠里』は、すべて、俺だ」
伝えられることを、すべて伝える。もはや留まれないところに来てしまっているから。嘘をつくことなどできず、すべてを話すしかないから。
「それなら…、よかったです」
「…よかった?」
ひなこの口から出てきたのは、俺にとっては驚きの言葉だ。よかった。ひなこは確かにそう言ったのだ。
「私がもともと白銀さんと知り合いで、もしその途中で鬼さんと入れ替わってしまったのなら…、もしかしたら、許せなかったかもしれません。白銀さんを返して、と言ってたかもしれません」
その怒りはもっともだろう。知り合いをいきなり奪われたのなら、怒るのは当然だと思う。それは俺が喰った『白銀悠里の記憶や考え方』から察することができる。
だが、そうではないのなら。
「私が知っている白銀さんが、最初から鬼が変身していた白銀さんなら、私は何にも思いません。…だって、私の知っている白銀さんは、ここに住んでいたっていう鬼さんなんですもの」
だから、良かったのだろう。特別面倒なことが起こらなくて、良かったのだろうと、ひなこは考えているのかもしれない。彼女の好奇心の強さを、俺はどこかで見誤っていたのかもしれないということを、僅かながら感じてしまう。
「それじゃあ、次は私からの質問です。白銀さんの…、いえ、鬼さんのお名前は、なんていうんですか?」
ひなこは好奇心に満ちた目で、俺の方を見てくる。顔を近づけて、じっと見てくる。
「どうしてここに住んでいたんですか? ご家族は? 好きな食べ物とかは何ですか? 鬼としての本当の姿はどんな感じなんですか?」
すると矢継ぎ早に、次から次へ質問を投げかけてきた。俺のことなどお構いなしと言わんばかりに。
少し恥ずかしくなって、俺は顔をそむけながらひなこを軽く制止する。
「え、えと、ちょ、ちょっと待って、桜井さん、近い、近いから…」
「あっ、そうでした。すみません鬼さん…」
「……」
ちょっとだけ冷静になって、すぐに離れるひなこを横目で見ながら俺は息を整え、少しずつ質問に答えることにした。
「…一つずつ答えていって、構わないか?」
「はい、もちろんです。鬼さんの事、たくさん知りたいですからね」
ひなこ、思った以上に食いつきがすごいぞ。ともすれば『白銀悠里』と友達になった時以上の食いつきだ。それほどまで俺の情報を求められることに、悪い気はしないが、どうにも複雑な気分になってくる所もある。
俺は少しばかり息を整えて、視線を逸らしながら答えていく。
「名前は悠黒(ゆうぐろ)。人間から逃げてて、適当にあった所に住んでただけだ。家族は親父がいたけど死んでる。好きな食べ物は腹に溜まるものかな。…鬼としての姿、見たいのか?」
「ふむふむなるほど…。出来る事なら、もちろん見たいです! 『本当に鬼がいる』ということの証左ですし、何より悠黒さんの本当の姿、気になりますから!」
やはり好奇心という熱意に満ちた目で、ひなこはこちらを見てくる。
……仕方ない。
「わかった。…とりあえず、元の姿に戻ると服が破けるし…、後は変化を見られるのも少し恥ずかしいから、洞窟の中で戻ってきていいか?」
「わかりました、それまで待ってますっ」
ひなこは座ったまま姿勢を正しじっとし始めた。本当に、ここまで好奇心が強いとは思わなかった。
俺は仕方なしに洞窟の中に戻り、暗闇の中、悠里としての服を脱ぐ。
あっという間に裸になり、寝床だった場所の上で服をたたむ。本当は必要ないかもしれないが、白銀悠里として生きてきて、なんとなくだけど「こう」しないと気が済まなくなってきたのがある。
息を整えて、変化を解く。
長い銀髪の毛が短くなり、黒髪に戻る。
女子としては平均的な肉体から、体格が大きくなり、身長が戻る。
細かった体に筋肉がつき、体中に力がみなぎる。
白い肌が変わっていき、鬼としての色の黒い肌に戻る。
ゴキゴキと骨格が変わり、肩が広く、骨盤が狭くなる。
同級生と比べても大きいかなと思っていた乳房が小さくなり、胸板になった。
女としての象徴である女陰の中から、男の象徴である男根が生えてきた。
額を撫でると、そこから鬼としての角が二本生え、隆々とそそり立った。
時間にして10秒ほどだろうか。男としての、鬼としての姿に戻った俺は、洞窟の中で適当に脱ぎ散らかしていた古着のズボンを履いて、あの男どもを蹴散らした時以来、…といっても一週間ぶりだが…、鬼の姿に戻った。
そうしてゆっくりと洞窟の外に出ると、目に映ったひなこは、とても驚いた顔をしていた。
「…もしかして、白銀さん……、えぇと、悠黒さん、ですか?」
「あぁ…。これが俺の本当の姿なんだが…」
「はぁぁぁ……!」
ひなこは顔を赤くして、こちらを見てくる。驚きと興奮と嬉しさ、そんな感動が詰まっている表情をしているのが、見て取れる。
立ち上がったかと思うと、すぐに俺の方に寄ってきて、ぺたぺたと体を触り始めた。
「すごいです…! すごいです、悠黒さん…! 本当に、鬼がいたんですね! 本当に、悠黒さんが白銀さんだったんですね!」
興奮のまま、俺の体を触るひなこの手は小さく、そして少しばかりあたたかい。
色々と知るために力を込められている筈だが、鬼としての俺から見れば、こそばゆく感じる手の強さだ。心地よくさえある。
「悠黒さんの体、とっても筋肉質ですね…、触ってて気持ちいいくらいです…! お腹とか触っちゃいますね、いいですよね!」
と、俺の了承も得ずに腹部に触ってくるあたり、本当に理性の歯止めが効いてないのかもしれない。
そのまま俺の腕に触り、頬にまで触れてきた。
「悠黒さん、鬼なのに、人間っぽくて…、でも本当に人間じゃないんですよね…!」
「お、おいひなこ…」
「あ、あの、悠黒さん! もしよければ、角も…、触ってみてもいいでしょうか!」
俺の制止を聞くつもりもないようで、ひなこはそんなことも言い出し始めてきた。
しかしこのままだと、触らせないと収まりがつかない可能性さえある。まずは落ち着いてもらうために、仕方なく触らせることにした。
「…わかった、触っていいぞ。ほら」
そう言って俺は屈み、ひなこが触りやすいような高さに角を持て来る。
するとひなこは、先ほど体に触れた時とは異なる、恐る恐るといった様子で、角に触れてきた。
「…私、今、鬼の角を触ってるんですね…」
「あぁ…」
「悠里さんの姿を使っていた、悠黒さんの…、鬼の角を…」
「……」
実際にそう言われると、結構困るものがあったりするのだが。
だが、俺は一つの懸念があった。絶対に、これを訊かなければいけないことを。
「…なぁ、ひなこ」
「なんですか、悠黒さん…?」
「ひなこは、俺が鬼だということを、他の誰かに言うのか?」
そう、これになるのだ。
ひなこは好奇心が旺盛だ。それは今の彼女からも見て取れる。もしそれが暴走し、誰かに話し、俺の存在を誰かにバラすのならば。
俺はこの場で、
「言いませんよ」
…帰ってきたのは、否定の言葉。
「悠黒さんが白銀さんになったのも、白銀さんとして私とお友達になってくれたのも本当なら。…私は、お友達が隠していることを、誰かに言ったりしません」
「…友達?」
その言葉を聞いて、少しばかり、疑問に思ってしまった。
ひなこは、俺の事を友達と言ってくれるのか?
「はい。白銀さんは、白銀さんになってくれた悠黒さんは、私のお友達です。…何か、変ですか?」
「…いいのか? 俺は…、人間を騙していた鬼だぞ…?」
「はい、鬼さんです。……ですけど、人間と鬼が友達になって、何か問題がありますか?」
悠里の記憶にある童話では、鬼は退治されるものだった。桃太郎しかり、一寸法師しかり。大江山の酒吞童子もそうだ。鬼が人間と相いれない存在であることは、だれもが幼心に学ぶものだろう。
それは俺(鬼)としてもそうだ。人間は鬼を退治する。鬼から奪う。鬼がしていることだから、人間は応報とばかりに鬼から奪い取る。鬼と人間は奪いばわれる。そんな関係だ。
そんな関係だと、思っていた。
「悠黒さんは、『泣いた赤鬼』という童話をご存じですか?」
「…悠里の記憶から、知ってはいる」
「その童話みたいに、人間と仲良くなれる鬼がいたっていいと思います。それに、私は鬼の悠黒さんと仲良くしたいです」
「……友達で、いいのか? 俺と、ひなこは…」
俺は顔を上げて、ひなこの顔を見る。
「問題ないですっ。私とお友達になってくれた白銀さんが、悠黒さんなら。本当は鬼でも、私のお友達です」
そう、なんの気負いもなく、ただ「当然だ」と言うように、ひなこは笑って言ってくれた。
……それを飲み込むのに時間がかかって。俺は何を言われたのだと思って。少しだけ思考が停止して。
俺は、屈んだまま、何かに縋りつくように。ひなこの体に抱き着いていた。
「ゆ、悠黒さん…っ? どうしたんですか…?」
「わから、ない…。俺は…、…こんな、人食いの鬼でも…、人間の、友達でいていいのか…?」
「…いいんです。他の人相手ならわからないかもしれませんが、他でもない私の事です。私のお友達は、私が決めます」
そのまま、俺の頭をひなこの腕が包む。力なんて欠片もこもってない、優しさだけで包み込むような腕に、俺は抱かれる。
「人間である白銀悠里さんのフリをした鬼の悠黒さんは、初めて出会った私の事を助けてくれました。
それに、やろうと思えば白銀さんの姿のまま、色んな事が出来たのに、何もしなかったんです。
悠黒さんは、優しい鬼です」
「…………」
少しだけ、ひなこの体を抱きしめる腕に、力がこもる。人間を抱き潰さないように、痛くしないように、精いっぱいの手加減を込めて。
「…だから、明日も一緒に学校で笑いましょう。人間と鬼のお友達として、一緒に」
「わか、った…。ひなこが、そう願うなら…、俺は、ひなこと一緒にいたい…」
俺は縋りつくようにひなこに抱き着き、ひなこは俺を抱きしめ、そっと頭を撫でてくれる。
それが心地よくて、人のぬくもりに触れて…。
俺はどこか、ひなこを誰にも渡したくないと、考えてしまった。
* * *
そのまま俺は、悠里の姿に戻って帰途に就くことにした。隣にはひなこも一緒で、手をつないで歩いている。
ひなこの小さな手は、悠里の手から見ても小さくて。俺の隣にいる女の子は、とても脆いだろうということが見て取れる。
彼女に欲情しているのも、また事実だ。だが、先日までのそれとは別の感情が、俺の中に灯った気がする。
大事にしたい。「嫁」にするのもまたありかもしれないが、無理矢理ではない形で、彼女と番いたい。
そんな意識が俺の中にできた。
だから俺はひなこの横顔を見て、こう言うのだ。
「なぁ、ひなこ」
「はい、なんですか、悠黒さん?」
「…好きだよ」
突然の想いの吐露に驚いたような顔をして、ひなこはすぐに笑みを返してくれる。
「…はい。私も悠黒さんの事、好きです」
少しだけ恥ずかしさを伴ったような赤い頬をして、ひなこは言葉を返してくれた。
「鬼さんというのもありますが、私を友達だといってくれたこと、教えてくれたこと、悠黒さんが優しい鬼さんである事。全部含めて、悠黒さんの事が好きです」
「…ありがとう、ひなこ。でも…」
「でも?」
ひとつひとつ、嬉しい事を言ってくれるひなこに対して、俺はこのままではよくないと考え、思いを告げる。言わねばならないと思っていた、悪い考えを。
「…俺は、ひなこに、邪な想いを向けてるんだ。小さくて可愛くい、人間の女の子。…正直少し前まで、無理矢理にでも、と思っていた」
「…………」
「ひなこは、俺を受け入れてくれた。悠里を喰らった鬼である俺の事を、友達と言ってくれた」
言葉が止まらない。抱え込んでいた言えない言葉が、ひなこの前で零れ落ちてくる。止められなかった。
「俺は、お前に返したい。何かできることが無いのか、あったら教えてくれ。…他の場所に、親父が隠してた鬼の財宝もある。必要なら、鬼の力だって奮う。なんでも言ってくれ」
出来る事が、わからない。俺のままひなこに返せるものがないか、考えてしまう。だから俺は、自分が出来る事を伝える。
そうしていると、ひなこは少しばかり考えるような仕草を見せて、俺の手を握ったまま、応えた。
「そうですね、それでしたら…、今日は一緒にお泊りしましょう。聞けなかった話もありますから、いっぱいお話ししましょう?」
返ってきたのは、あまりにも無欲な言葉。好奇心旺盛なひなこだから、鬼の財宝に食いつくかもと思っていたが、そんな事はなく。
自然に、ありのままの笑顔で、何でもない事のように、何でもない事を告げてきた。
「悠黒さんが、私に返したい想いがあるのは、わかりました。…一度で無理に返そうとしなくてもいいんです。ゆっくり返してくれればいいんです。
その間に、悠黒さんが私に何かを渡してくれるかもしれません。そうしたら今度は、私がお返しする番です。
渡して返されて、渡されて返していきましょう? ゆっくり歩んでいきましょう?」
そういってまばゆいくらいの笑顔を、ひなこは向けてくれる。その言葉に、俺はもう何も言えなくなって。
「……っ」
俺は、ひなこを抱きしめていた。女に化けた俺の体と、ひなこの女の体が柔らかく触れ合う。
「…悠黒さん?」
「ひなこ、好きだ。俺は、お前の事が好きだ。お前の事を嫁にしたい…!」
感極まってしまっていたのだろう。すぐに返すのが難しい言葉を、俺は衝動のままに投げかけていた。
「ひなこは友達でいいと言ってくれたのに、俺はダメな男だ。友達では物足りなくなってしまった。友達より先にいきたい。ひなこと番いたい。…突然の事ですまない、でも、これが噓偽りない、俺の想いだ」
あぁ、俺は卑怯者かもしれない。鬼であることを知っているひなこに、鬼の存在がいかなるものかわかるであろう人間に、こんな形で告白するなんて。
断られても、逃げられても、文句は言えない。
だけど、ひなこが返した言葉は、
「わかりました。このまま一足飛びに、夫婦になっちゃいますか?」
なんて、怖くて震えていた俺の想像を、越えていた。
Comments
続編希望です。
19820721om
2024-07-13 10:34:34 +0000 UTC