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龍星色(元・罰印)

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化ける鬼(4) 真実の吐露

どうも、罰印です。

最近何も書けない日が続いていましたが、どうにか続きが書けそうです。


みなさんのご支援、いいねなどに支えられて、なんとか踏みとどまっております。

そしてお待たせしてしまいました、「化ける鬼」の続きになります。

ほんの少しの間でも、お楽しみいただけたら幸いです。


――――――――――


「白銀さんが、鬼だったら、ですか…?」


不思議そうにひなこは俺のほうを見てくる。それもそうだろう、友達がいきなりこんなことを言い出して、気にならない存在はいないはずだ。

だからこそ俺は、訪ねてしまったのだろう。ひなこの顔を見ることはできず、背を向けて訪ねてしまったのだろう。


「そうですね…」


ひなこは考えている。友人が鬼だったら、どうなるのだろうか。ここに住んでいた鬼だとしたら、どうなるのだろうか。

きっと聡明な頭で考えているのだろう。俺はそのかわいい口から答えが出てくることを望み、そして耳をそむけたくなる。どんな言葉が出てくるか、俺にはわからないからだ。


「…仮に、白銀さんがここに住んでいた鬼だとしたら。もともといたはずの『白銀悠里』さんはどうしたんですか?」


そして、ひなこが一番最初にたどり着いたのは、俺にとっては一番聞かれたくなかったこと。


「白銀悠里さんは、確かに前から学校に在籍していたことは知っています。それがいつの間にか鬼になっていたのなら、前の『白銀悠里』さんはどうなったんでしょう」

「…………それは…」


我ながら勝手だ。自分から訊いてしまったのに、自分にとってたどり着かれたくない質問を投げかけられたら、黙るしかできない。

だけど俺は、ひなこのことを気に入っている。できればこのまま彼女といたい。

そうしていくならば、俺が隠し事をしているのは、よくない。

だから俺は問うてしまった。自分が鬼だったらどうするか。


「……それは、『白銀悠里』を、喰らったから」


だから俺は、答えるしかなかった。俺は心の中に小さな後悔とともに、ひなこに真実を告げたのだ。


「少し前、人間の『白銀悠里』は山で足を滑らせ死んでいた。俺は人間を知りたくて、人間になってみたくて、化ける道を選んだんだ」

「……」

「その方法のために、ばれないために、俺は彼女を喰らった。頭から足先まで、全部。そうして彼女の全てを知って、『白銀悠里』に化けたんだ」

「では、私が白銀さんを知った時に、すでに白銀さんは…、鬼だったんですか?」

「あぁ…。お前が知る『白銀悠里』は、すべて、俺だ」


伝えられることを、すべて伝える。もはや留まれないところに来てしまっているから。嘘をつくことなどできず、すべてを話すしかないから。


「それなら…、よかったです」

「…よかった?」


ひなこの口から出てきたのは、俺にとっては驚きの言葉だ。よかった。ひなこは確かにそう言ったのだ。


「私がもともと白銀さんと知り合いで、もしその途中で鬼さんと入れ替わってしまったのなら…、もしかしたら、許せなかったかもしれません。白銀さんを返して、と言ってたかもしれません」


その怒りはもっともだろう。知り合いをいきなり奪われたのなら、怒るのは当然だと思う。それは俺が喰った『白銀悠里の記憶や考え方』から察することができる。

だが、そうではないのなら。


「私が知っている白銀さんが、最初から鬼が変身していた白銀さんなら、私は何にも思いません。…だって、私の知っている白銀さんは、ここに住んでいたっていう鬼さんなんですもの」


だから、良かったのだろう。特別面倒なことが起こらなくて、良かったのだろうと、ひなこは考えているのかもしれない。彼女の好奇心の強さを、俺はどこかで見誤っていたのかもしれないということを、僅かながら感じてしまう。


「それじゃあ、次は私からの質問です。白銀さんの…、いえ、鬼さんのお名前は、なんていうんですか?」


ひなこは好奇心に満ちた目で、俺の方を見てくる。顔を近づけて、じっと見てくる。


「どうしてここに住んでいたんですか? ご家族は? 好きな食べ物とかは何ですか? 鬼としての本当の姿はどんな感じなんですか?」


すると矢継ぎ早に、次から次へ質問を投げかけてきた。俺のことなどお構いなしと言わんばかりに。

少し恥ずかしくなって、俺は顔をそむけながらひなこを軽く制止する。


「え、えと、ちょ、ちょっと待って、桜井さん、近い、近いから…」

「あっ、そうでした。すみません鬼さん…」

「……」


ちょっとだけ冷静になって、すぐに離れるひなこを横目で見ながら俺は息を整え、少しずつ質問に答えることにした。


「…一つずつ答えていって、構わないか?」

「はい、もちろんです。鬼さんの事、たくさん知りたいですからね」


ひなこ、思った以上に食いつきがすごいぞ。ともすれば『白銀悠里』と友達になった時以上の食いつきだ。それほどまで俺の情報を求められることに、悪い気はしないが、どうにも複雑な気分になってくる所もある。

俺は少しばかり息を整えて、視線を逸らしながら答えていく。


「名前は悠黒(ゆうぐろ)。人間から逃げてて、適当にあった所に住んでただけだ。家族は親父がいたけど死んでる。好きな食べ物は腹に溜まるものかな。…鬼としての姿、見たいのか?」

「ふむふむなるほど…。出来る事なら、もちろん見たいです! 『本当に鬼がいる』ということの証左ですし、何より悠黒さんの本当の姿、気になりますから!」


やはり好奇心という熱意に満ちた目で、ひなこはこちらを見てくる。


……仕方ない。


「わかった。…とりあえず、元の姿に戻ると服が破けるし…、後は変化を見られるのも少し恥ずかしいから、洞窟の中で戻ってきていいか?」

「わかりました、それまで待ってますっ」


ひなこは座ったまま姿勢を正しじっとし始めた。本当に、ここまで好奇心が強いとは思わなかった。


俺は仕方なしに洞窟の中に戻り、暗闇の中、悠里としての服を脱ぐ。

あっという間に裸になり、寝床だった場所の上で服をたたむ。本当は必要ないかもしれないが、白銀悠里として生きてきて、なんとなくだけど「こう」しないと気が済まなくなってきたのがある。


息を整えて、変化を解く。


長い銀髪の毛が短くなり、黒髪に戻る。

女子としては平均的な肉体から、体格が大きくなり、身長が戻る。

細かった体に筋肉がつき、体中に力がみなぎる。

白い肌が変わっていき、鬼としての色の黒い肌に戻る。

ゴキゴキと骨格が変わり、肩が広く、骨盤が狭くなる。

同級生と比べても大きいかなと思っていた乳房が小さくなり、胸板になった。

女としての象徴である女陰の中から、男の象徴である男根が生えてきた。

額を撫でると、そこから鬼としての角が二本生え、隆々とそそり立った。


時間にして10秒ほどだろうか。男としての、鬼としての姿に戻った俺は、洞窟の中で適当に脱ぎ散らかしていた古着のズボンを履いて、あの男どもを蹴散らした時以来、…といっても一週間ぶりだが…、鬼の姿に戻った。


そうしてゆっくりと洞窟の外に出ると、目に映ったひなこは、とても驚いた顔をしていた。


「…もしかして、白銀さん……、えぇと、悠黒さん、ですか?」

「あぁ…。これが俺の本当の姿なんだが…」

「はぁぁぁ……!」


ひなこは顔を赤くして、こちらを見てくる。驚きと興奮と嬉しさ、そんな感動が詰まっている表情をしているのが、見て取れる。

立ち上がったかと思うと、すぐに俺の方に寄ってきて、ぺたぺたと体を触り始めた。


「すごいです…! すごいです、悠黒さん…! 本当に、鬼がいたんですね! 本当に、悠黒さんが白銀さんだったんですね!」


興奮のまま、俺の体を触るひなこの手は小さく、そして少しばかりあたたかい。

色々と知るために力を込められている筈だが、鬼としての俺から見れば、こそばゆく感じる手の強さだ。心地よくさえある。


「悠黒さんの体、とっても筋肉質ですね…、触ってて気持ちいいくらいです…! お腹とか触っちゃいますね、いいですよね!」


と、俺の了承も得ずに腹部に触ってくるあたり、本当に理性の歯止めが効いてないのかもしれない。

そのまま俺の腕に触り、頬にまで触れてきた。


「悠黒さん、鬼なのに、人間っぽくて…、でも本当に人間じゃないんですよね…!」

「お、おいひなこ…」

「あ、あの、悠黒さん! もしよければ、角も…、触ってみてもいいでしょうか!」


俺の制止を聞くつもりもないようで、ひなこはそんなことも言い出し始めてきた。

しかしこのままだと、触らせないと収まりがつかない可能性さえある。まずは落ち着いてもらうために、仕方なく触らせることにした。


「…わかった、触っていいぞ。ほら」


そう言って俺は屈み、ひなこが触りやすいような高さに角を持て来る。

するとひなこは、先ほど体に触れた時とは異なる、恐る恐るといった様子で、角に触れてきた。


「…私、今、鬼の角を触ってるんですね…」

「あぁ…」

「悠里さんの姿を使っていた、悠黒さんの…、鬼の角を…」

「……」


実際にそう言われると、結構困るものがあったりするのだが。

だが、俺は一つの懸念があった。絶対に、これを訊かなければいけないことを。


「…なぁ、ひなこ」

「なんですか、悠黒さん…?」

「ひなこは、俺が鬼だということを、他の誰かに言うのか?」


そう、これになるのだ。

ひなこは好奇心が旺盛だ。それは今の彼女からも見て取れる。もしそれが暴走し、誰かに話し、俺の存在を誰かにバラすのならば。

俺はこの場で、


「言いませんよ」


…帰ってきたのは、否定の言葉。


「悠黒さんが白銀さんになったのも、白銀さんとして私とお友達になってくれたのも本当なら。…私は、お友達が隠していることを、誰かに言ったりしません」

「…友達?」


その言葉を聞いて、少しばかり、疑問に思ってしまった。

ひなこは、俺の事を友達と言ってくれるのか?


「はい。白銀さんは、白銀さんになってくれた悠黒さんは、私のお友達です。…何か、変ですか?」

「…いいのか? 俺は…、人間を騙していた鬼だぞ…?」

「はい、鬼さんです。……ですけど、人間と鬼が友達になって、何か問題がありますか?」


悠里の記憶にある童話では、鬼は退治されるものだった。桃太郎しかり、一寸法師しかり。大江山の酒吞童子もそうだ。鬼が人間と相いれない存在であることは、だれもが幼心に学ぶものだろう。

それは俺(鬼)としてもそうだ。人間は鬼を退治する。鬼から奪う。鬼がしていることだから、人間は応報とばかりに鬼から奪い取る。鬼と人間は奪いばわれる。そんな関係だ。


そんな関係だと、思っていた。


「悠黒さんは、『泣いた赤鬼』という童話をご存じですか?」

「…悠里の記憶から、知ってはいる」

「その童話みたいに、人間と仲良くなれる鬼がいたっていいと思います。それに、私は鬼の悠黒さんと仲良くしたいです」

「……友達で、いいのか? 俺と、ひなこは…」


俺は顔を上げて、ひなこの顔を見る。


「問題ないですっ。私とお友達になってくれた白銀さんが、悠黒さんなら。本当は鬼でも、私のお友達です」


そう、なんの気負いもなく、ただ「当然だ」と言うように、ひなこは笑って言ってくれた。

……それを飲み込むのに時間がかかって。俺は何を言われたのだと思って。少しだけ思考が停止して。


俺は、屈んだまま、何かに縋りつくように。ひなこの体に抱き着いていた。


「ゆ、悠黒さん…っ? どうしたんですか…?」

「わから、ない…。俺は…、…こんな、人食いの鬼でも…、人間の、友達でいていいのか…?」

「…いいんです。他の人相手ならわからないかもしれませんが、他でもない私の事です。私のお友達は、私が決めます」


そのまま、俺の頭をひなこの腕が包む。力なんて欠片もこもってない、優しさだけで包み込むような腕に、俺は抱かれる。


「人間である白銀悠里さんのフリをした鬼の悠黒さんは、初めて出会った私の事を助けてくれました。

 それに、やろうと思えば白銀さんの姿のまま、色んな事が出来たのに、何もしなかったんです。

 悠黒さんは、優しい鬼です」

「…………」


少しだけ、ひなこの体を抱きしめる腕に、力がこもる。人間を抱き潰さないように、痛くしないように、精いっぱいの手加減を込めて。


「…だから、明日も一緒に学校で笑いましょう。人間と鬼のお友達として、一緒に」

「わか、った…。ひなこが、そう願うなら…、俺は、ひなこと一緒にいたい…」


俺は縋りつくようにひなこに抱き着き、ひなこは俺を抱きしめ、そっと頭を撫でてくれる。

それが心地よくて、人のぬくもりに触れて…。


俺はどこか、ひなこを誰にも渡したくないと、考えてしまった。


* * *


そのまま俺は、悠里の姿に戻って帰途に就くことにした。隣にはひなこも一緒で、手をつないで歩いている。

ひなこの小さな手は、悠里の手から見ても小さくて。俺の隣にいる女の子は、とても脆いだろうということが見て取れる。


彼女に欲情しているのも、また事実だ。だが、先日までのそれとは別の感情が、俺の中に灯った気がする。

大事にしたい。「嫁」にするのもまたありかもしれないが、無理矢理ではない形で、彼女と番いたい。

そんな意識が俺の中にできた。


だから俺はひなこの横顔を見て、こう言うのだ。


「なぁ、ひなこ」

「はい、なんですか、悠黒さん?」

「…好きだよ」


突然の想いの吐露に驚いたような顔をして、ひなこはすぐに笑みを返してくれる。


「…はい。私も悠黒さんの事、好きです」


少しだけ恥ずかしさを伴ったような赤い頬をして、ひなこは言葉を返してくれた。


「鬼さんというのもありますが、私を友達だといってくれたこと、教えてくれたこと、悠黒さんが優しい鬼さんである事。全部含めて、悠黒さんの事が好きです」

「…ありがとう、ひなこ。でも…」

「でも?」


ひとつひとつ、嬉しい事を言ってくれるひなこに対して、俺はこのままではよくないと考え、思いを告げる。言わねばならないと思っていた、悪い考えを。


「…俺は、ひなこに、邪な想いを向けてるんだ。小さくて可愛くい、人間の女の子。…正直少し前まで、無理矢理にでも、と思っていた」

「…………」

「ひなこは、俺を受け入れてくれた。悠里を喰らった鬼である俺の事を、友達と言ってくれた」


言葉が止まらない。抱え込んでいた言えない言葉が、ひなこの前で零れ落ちてくる。止められなかった。


「俺は、お前に返したい。何かできることが無いのか、あったら教えてくれ。…他の場所に、親父が隠してた鬼の財宝もある。必要なら、鬼の力だって奮う。なんでも言ってくれ」


出来る事が、わからない。俺のままひなこに返せるものがないか、考えてしまう。だから俺は、自分が出来る事を伝える。

そうしていると、ひなこは少しばかり考えるような仕草を見せて、俺の手を握ったまま、応えた。


「そうですね、それでしたら…、今日は一緒にお泊りしましょう。聞けなかった話もありますから、いっぱいお話ししましょう?」


返ってきたのは、あまりにも無欲な言葉。好奇心旺盛なひなこだから、鬼の財宝に食いつくかもと思っていたが、そんな事はなく。

自然に、ありのままの笑顔で、何でもない事のように、何でもない事を告げてきた。


「悠黒さんが、私に返したい想いがあるのは、わかりました。…一度で無理に返そうとしなくてもいいんです。ゆっくり返してくれればいいんです。

 その間に、悠黒さんが私に何かを渡してくれるかもしれません。そうしたら今度は、私がお返しする番です。

 渡して返されて、渡されて返していきましょう? ゆっくり歩んでいきましょう?」


そういってまばゆいくらいの笑顔を、ひなこは向けてくれる。その言葉に、俺はもう何も言えなくなって。


「……っ」


俺は、ひなこを抱きしめていた。女に化けた俺の体と、ひなこの女の体が柔らかく触れ合う。


「…悠黒さん?」

「ひなこ、好きだ。俺は、お前の事が好きだ。お前の事を嫁にしたい…!」


感極まってしまっていたのだろう。すぐに返すのが難しい言葉を、俺は衝動のままに投げかけていた。


「ひなこは友達でいいと言ってくれたのに、俺はダメな男だ。友達では物足りなくなってしまった。友達より先にいきたい。ひなこと番いたい。…突然の事ですまない、でも、これが噓偽りない、俺の想いだ」


あぁ、俺は卑怯者かもしれない。鬼であることを知っているひなこに、鬼の存在がいかなるものかわかるであろう人間に、こんな形で告白するなんて。

断られても、逃げられても、文句は言えない。


だけど、ひなこが返した言葉は、


「わかりました。このまま一足飛びに、夫婦になっちゃいますか?」


なんて、怖くて震えていた俺の想像を、越えていた。

Comments

続編希望です。

19820721om


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