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① 古町姉妹の日常 記憶喪失の想い人

『ええ、その案件は私の方で片付けておいたわ』


『先方へのアポは取れてるわよね?さすがね、予定通り進めてくれて構わないわ』


『今日は…この後なら空いてます。会議に出席した方がよろしいですか?あはは、疲れてませんよ。それならお言葉に甘えて休みをもらうことにしますね。ありがとうございます。』


「なわはらしちょー!こんにちは!」


『はい、こんにちは。暗くなる前に帰るのよ』


「はーーーい」


縄原麻美さんはいつものように完璧に市長としての勤めを果たしていました。街中を歩いていると子供たちだけではなく大人も軽く会釈して挨拶をしていて、縄原さんの人望の高さが窺えます。

そんな縄原さんの姿を私と優奏は物陰から見守っていました。


「ゆ、優奏…なにもこんなストーカーみたいなことをしなくても…」 


いえ、“見守る”というより“監視”と言った方が正しいのかもしれません。優奏の提案で今日は朝から縄原さんのことをずっとストーキングしていたのです。


「お姉ちゃん、忘れたの?縄原はいつも私たちをギチギチに縛りあげてるんだよ。そんなことに比べたらストーカーなんて可愛いものだよ」


「犯罪行為に可愛いもなにもないと思うのですが……」


「もーー!お姉ちゃんはカタブツだよ!縄原を放っておいたら『全少女緊縛計画』が進められちゃうよ!」


「それは阻止しないといけないのですが…」


どうにも縄原さんのプライバシーを覗き見している気がして……。


「さっさと縄原の弱みを握って、今度こそ私たちが縄原をお縄にしないとだよ!」


「縄原さんをお縄に……!?」


え…スーツ姿の縄原さんを縛る……

後手縛りをして、身体のラインがくっきり分かるパンツスーツに股縄を……



「えへへ…」


「お姉ちゃん?」


「は…!?なんでもないのです…!でも優奏の言うことも理解しました。縄原さんの計画はなんとしてでも止めないといけません!」


「さすがお姉ちゃん。分かってくれると思ったよ。」


「縄原さんが帰宅するまで監視を続けますよ〜」


「おー!」


優奏と一緒にはしゃいでいると……



『ちょっと良いですか?』


「「!?!?」」


突然背後から声をかけられました。


振り返ると男性が二人居ました。


「縄原麻美のことでお話があります」


「ご協力をお願いできますか?」


男性たちは警察手帳を提示し、近くに停車しているパトカーを指差しました。


__________________________


「狭いところで申し訳ございません。」


細身の刑事、白縄さんが後部座席に座る私たちに声をかけました。


「いえ、大丈夫です。それよりもパトカーに乗るなんて初めての経験なのでなんだかドキドキしてしまいます。」


「ははは、悪いことをしなければ乗る機会なんてないですからね」


気さくに返すのは恰幅の良い刑事、黒縄さんでした。


「ねーねー、このアクリル板?の仕切りって何のためにあるの?」


優奏が初めてのパトカーで、興奮気味に質問します。


「こら!失礼な言い方ですよ」


「良いんですよ。お嬢ちゃん、これはね犯人が暴れて運転を妨害するのを防ぐためのものだよ」


「へー手錠されてるのに暴れる人なんて居るの?」


「たまにいるんだよ。それにあるに越したことはないからね。」


黒縄さんが丁寧に説明してくれました。


「それで、縄原市長のことについて聞きたいって言っていましたけれど…」


話を戻します。


「はい。私たちも縄原麻美を監視していまして、そうしたら同じように縄原を監視しているあなた方を見つけたもので……」


白縄さんは経緯を説明してくれました。


「縄原…は何か悪いことでもしたのでしょうか?」


「詳しいことは言えませんが、とある事件で警察が動いているのは事実です。」


「そんな……」


私は落胆しました。たしかに縄原さんは私たちを狙って縛りあげることはしますが、警察に追われるような悪いことをする人ではないと思っていたのに…。


「何か縄原について知っていることはありますか?」


白縄さんの質問に優奏は「はーい」と手を挙げて続けました。


「縄原はとっても悪い人で、いまも『全少女…むぅ!?」


そこまで言いかけたところで私は優奏の口を塞ぎました。警察に調べて貰えば縄原さんの計画を潰すことができるのに、どうして優奏の口を塞いでしまったのでしょう…。


「えっとですね。私たちは自転車の二人乗りをしていたところを縄原市長に注意されて…それで市長の弱みを握ろうとこうやってストーカーみたいに後をつけていたのです。」


口から出まかせです。我ながらペラペラと嘘をつけるとは思いませんでした。


「そうですか…」


情報を聞き出せなかったのが悔しかったのか、刑事の2人は落胆していました。


「本当に縄原さんは悪いことをしているのでしょうか?」


「「え?」」


「お姉ちゃん?」


私の発言に刑事だけではなく優奏も呆気にとられていました。


「縄原さんは私たちが悪者に捕まったとき、助けてくれました。危険を冒してでも助けてくれました。私はそんな麻美さんが悪いことをするような人間とはとても思えないのです。」


私は思っていたことを全て言いました。


「……」


しばらくの沈黙の後、黒縄さんは口を開きました。


「その話を聞くに、君と縄原は親密な関係と考えて良いんだな?」


ここでYESと答えてしまうと、私まで疑われてしまいます。それでも私は嘘をつくことはできませんでした。


「はい。」


私はまっすぐな瞳で返しました。


「とんだ収穫だぜ」


〈カチッ〉


〈プシュゥゥゥ〉


黒縄がエアコンのスイッチを入れると、後部座席の通気口から気体が噴出しました。


「え…!?」


「な、なにこれ!?」


急いで車から出ようとしてもドアが開きません。そうしていくうちに後部座席に刺激臭を伴う気体が充満していきました。


「あれ…身体が…」


「お…姉ちゃん…」


だんだんと身体の力が抜けていき、意識が飛びそうになります。


ここで思い出しました。

このパトカーは後部座席がアクリル板によって密閉されていることを。


最初から私たちを狙って……


消えゆく意識のなか、大切な妹の手をしっかりと握り、小さく呟きました。



「優奏……」



そこで私の意識は途絶えました。


__________________________


「……ちゃん…!」


「お姉ちゃん!」


気持ちよく寝ていたところを優奏の声で現実に引き戻されました。


「ん?もう朝ですか?」


「もう!寝ぼけてるの!?」


眠い目を擦ろうとするものの両手が動きません。私の両腕は身体の後ろで交差したままで、身体もなんだか苦しいです。


「早く目を覚まして!」


〈ギュッ〉


「んひぃ!?」


股間に何かが食い込んだような感覚…。間違いありません、これは股縄…?


「優奏!?どうして縛られているのですか!?」


目覚めた私の瞳に映ったのは赤い麻縄でギチギチに縛られた優奏の姿でした。後手に縛られ、胸の上下に縄をかけられ優奏の小さな胸が縄によって強調されていました。また、閂を施すによってギッチリと縄を絞り上げ、縄抜けを不可能にしていました。そして腰に縄を巻かれ、そこから股間を割くように股縄を施されていました。


「あの…お姉ちゃんも縛られているんだけど…」


「え!?」


私はおそるおそる自分の身体を確認しました。私も優奏と同様に後手縛りを施され、股縄も通されていました。優奏との違いは胸縄がおっぱいを縦に裂くように通されていて、縄で胸を絞り出すように縛られていました。当然のように閂まで作られているため縄抜けも容易ではなさそうです。


「私たち…誘拐されちゃったってことだよね…」


優奏は自身に巻かれた縄を見ながら震える声で言いました。


「はい…。どうやらあの二人組に騙されたみたいです…。彼らは警察を名乗って私たちに近づき、縄原さんと関係が近いと知って誘拐した。」


私は眠らされる前のことを思い出します。


「ってことはアイツらの目的は私たちというより縄原にあるのかな?」


「その可能性は高いですね。私たちを誘拐することが目的ならパトカーに乗せた時点で眠らせていたでしょうし…」



「大正解だ」


「「!?」」


その声と共にこの部屋唯一の扉から黒縄と白縄が入ってきました。


「お前たちは縄原を捕まえるための餌になってもらう。」


黒縄が私たちを見下ろしながら高圧的に言いました。先ほどまでとは別人のようです…。


「詰まるところ囮というヤツですな。」


白縄が補足するように言いました。


「貴方たちの目的はなんですか…!縄原さんに何か恨みでも……」


「恨みも何も縄原はオレたちの事業を潰しやがった。」


黒縄は怒気を含みながら言いました。


「事業…?」


「女の盗撮映像を売り捌く商売をして大金を得ていたっていうのに、アイツが市長になった途端に早急にオレたちの商売を見つけ出して警察に通報しやがった。」


「『貴方たちの悪事は美しくないわ。』なんて訳のわからないことも言ってましたね」


そこまで聞いたところで優奏が口を開きました。


「ただの逆恨みじゃん」


「うるせぇ!」


ギュッ…


「ぁ…股縄だめぇ…」


「優奏!?」


黒縄は優奏の股縄をクイクイと引っ張りながら続けた。


「あれから俺たちは警察に追われる日々だ。どうせ捕まるならアイツを縛って裸に剥いて恥ずかしい映像を全世界にばら撒いてやるのさ」


「そんなの…絶対に許しません!」


私は縛られているのに男たちに向かって反抗をしてしまいました。こんなときに犯人を刺激するようなことを言うなんて考えられない愚行です。それでも、縄原さんが侮辱されるのはどうしても許せませんでした。


「縄原の前にお前のヌード動画を撮っても良いんだぞ」


そういうと黒縄はハサミをポケットから取り出し、私に迫ってきました。


「やめて!お姉ちゃんに酷いことしないで!」


「おっと、妹ちゃんはここで見ててね」


「あう…」


白縄は助けに来ようとする優奏の股縄を引っ張り、その場にうつ伏せに押し倒しました。


「さぁ、どんな下着をつけてるんだ」


黒縄の手が私に伸びてきます。私は後退りするもののすぐに部屋の端まで追い詰められてしまいました。


「ご開帳〜」


胸の前にハサミが迫ります。


その時でした。


シュル…


バシッ!


「イテェ…」


麻縄が飛んできてハサミを弾き落としました。そしてその麻縄を辿っていくと、私たち姉妹の“敵”の姿がありました。


「まったく、貴女たちは目を離すとすぐに縛られるわねぇ」


「縄原さん!」


縄原さんは私たちの方を見てやれやれといったような表情を浮かべていました。


「縄原だとぉ…?」


黒縄たちは縄原と相対し、間合いを詰めます。


「呼び出す手間が省けたってヤツだ。やっちまうぞ」


「はい!」


男たちは縄原に向かって突撃します。


「ぬるい」


バシッ…!


バシッ…!


「ガッ」


「グハ…」



縄原さんは男たちの腹部に拳を入れ、簡単にダウンさせました。


「貴方たちは縛る価値もないわ」


縄原さんはその場にうずくまる男たちに手刀を入れると、うつ伏せに倒れている優奏の元に駆け寄りました。


「縄原…どうしてここに……?」


「うふふ、かわいい市民が危険に晒されているのよ。助けるに決まっているでしょ?」


縄原さんは優奏を起こしてあげていました。


「ちがうよ!どうして私たちが誘拐されて監禁されてるって分かったの!」


「だってずっとストーカーしてきたのに、夕方になっていきなり居なったのよ?私は心配で心配で…」


縄原さんは泣くふりをしながらことの経緯を説明していました。


「うそ?!バレてたの!?」


「もっと腕を磨くことね。バレバレよ〜」


これには私もびっくりです。この人は本当に私たちの想像を遥かに超えてきます。


「まぁでもまさか誘拐されて縛られているとは思わなかったわ。貴女たちって本当によく縛られるわよね?本当にくノ一?」


「うるさい!今日のは不意打ちで睡眠ガスを食らっただけだもん!」


「簡単に不意打ち喰らうのは反省しないのね」


返す言葉もありません。敵に助けてもらうなんて情けないことです。


「でも貴女たちの縛られた姿を見れて嬉しいわ〜」


「早く解いてよ!変態市長!」


ギュッ


「あひぃ!?」


口答えする優奏をオシオキするように縄原さんは股縄を引っ張りました。


「それで、和奏ちゃんは酷いことされてない?」


「え?」


縄原さんは私の方に視線を移しました。


「なんでも私を裸に剥いてその映像をばら撒こうとしてた連中でしょう?貴女は酷いことされてない?」


縄原さんのまっすぐな瞳につい目線を逸らしてしまいます。

耳がとても熱くなっているようです。とても人前に出さないくらい赤面しているのが分かります。それでも感謝を伝えるために再び縄原さんに視線を移しました。


「っ!?!あぶない!!!!!!」


縄原さんの背後には鉄パイプを持った黒縄がいました。振りかぶった鉄パイプを縄原さんに目掛けて振り下ろしました。





ゴッ…!





「っ……!」


縄原さんは咄嗟に片手で鉄パイプを弾きますが、受けきれず頭部に衝撃が与えられました。


「縄原さん!」


「縄原!?」


縄原はその場に倒れます。


「手こずらせやがって……」


黒縄は麻縄の束を持って縄原さんに近づきます。


「縛ってやる」


縄原さんが縛られる…。


私の身体は考えるよりも先に動いていました。


「やぁぁぁ!!」


「グフゥ…」


私は黒縄に体当たりをしました。その勢いで私はその場に倒れます。


「この女…まずはお前からだ…」


黒縄はハサミを持ち直し、私の服を切り裂こうとしました。


「いや…助けてぇぇぇ!」


シュバ…


私が叫ぶと、目にも止まらぬ速さで拳が黒縄の腹部を捉えました。


「ぐぁぁ」


そこには縄原さんが立っていました。




「失せなさい」




そう言い放つ縄原さんは見たこともないくらい怒りに満ち溢れていました。


ファンファンファンファン…


「くそ…警察も呼んでんのかよ…」


パトカーのサイレン音が聞こえ始めると黒縄は白縄を抱えあげて部屋から出て行きました。


「縄原さん…大丈夫ですか……?」


「ごめんね。心配かけてしまったわね」


「警察を呼んでいるなんてさすがです…」


「あぁ、それはコレ」


縄原さんはポケットからスマホを取り出し、画面を見せてきました。


「備えあればなんとやらよ。ハッタリが通じて良かったわ」


なんと縄原さんは警察を呼んだのではなくあらかじめ用意していたパトカーのサイレン音をスマホから流していたのです。


「悪者はいなくなったし、貴女たちの縄を解いて…」


バタッ…


そこで縄原はその場に倒れてしまいました。


「縄原さん!?」


「縄原!?」





「いたたた…」


縄原さんはすぐに立ち上がりました。


「無事だったんですね!」


私は縄原さんの元へ駆け寄ります。


「貴女たちどうして縛られているの?誰がこんな酷いことを……すぐに解いてあげますから…」


「ぇ…縄原さん……?」


「えっと…ナワハラ…それが私の名前なのですか……?」


縄原さんは記憶を失っていました。

① 古町姉妹の日常 記憶喪失の想い人

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