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【Pedicure Strangler】 序章 前編



201X年7月上旬、□□県〇〇市に位置する高校で

一人の女子高生が殺害される事件が発生した。

その翌年に被害者の姉も不審な死を遂げて以降、

事件が起こった高校の周辺地域で10代前半から

30代後半の女性、女児達が次々と殺害された。


現在、一連の事件は同一犯による犯行とみられているが、

犯人に繋がる明確な物的証拠は見つかっておらず、

事件は未だ解決には至っていない。




犯人によって被害者は紐状の物で絞殺、

或いはその他の手口によって窒息死させられていた。

また遺体は靴等を履いておらず裸足で、何れも

爪先にペディキュアを塗布されている状態だった。



検死の結果、被害者の殆どは殺害後に犯人の手によって

ペディキュアを塗られている事が判明した。

この情報が警察からマスコミにリークされると、

ペディキュアや素足が露出した服装や靴を履いていると

絞殺魔に狙われる、と世の女性達は震え上がった。



また、模倣犯による別の殺人事件も発生し、

それから半年以上の間、全国的にネイルアート関連の

化粧品やネイルサロンの店舗の売上が大幅に減少、

犯人に関する無数のデマがインターネット上を

飛び交い、大きな社会問題に発展した。



これが20XX年代に最も世間を騒がせた未解決事件、

『ペディキュア絞殺魔事件』の大まかな内容である。





引用元

南杜花(なんとか)出版社刊

『現代日本残酷残虐猟奇殺人録』より





─────────────────────




僕が高校生だった頃。

夏休みのあの日…………生まれて初めて、人を殺した。




相手は同じクラスの女子生徒だった。

高校を卒業し、大学に進学した現在も

あの日の出来事がついさっき経験したかのように、

僕の脳裏に鮮明に焼き付いて離れない。




別に彼女に恨みがあったとか、サスペンスドラマに

ありがちな口論の末にカッとなって衝動的に、だとか

そういった理由で殺したのではない。




だが後悔も罪悪感も無い。

何故なら………彼女は“本当の自分”を

目覚めさせてくれた大切な人だからだ。






─────────────────────






僕が最初に殺した女性は、

永塚紗月(ながつかさつき)という名前だった。

セミロングの髪とオレンジフレームの眼鏡が特徴的な

僕のクラスメイトで、ファッション部に所属していた。



同じ高校に通う一つ年上の姉がいて、

新体操部の次期エースとして校内外で有名な

だけでなく、かなりの美人だったので、

是非とも彼女のハートを射止めたいという

男子生徒が後を絶たなかったそうだ。



眼鏡を掛けた女性は一見、物静かな感じという印象が

あるだろうが紗月はそれに反していつも明るく、

誰に対しても気さくに話し掛ける所謂、

クラスのムードメーカー的存在だった。



無論、僕のような若干内向的な奴でも例外ではない。

入学してから隣の席だった頃は、時々うざいと

思うくらいに僕にしょっちゅう絡んできていた。

別に異性に興味が無い訳ではなかったが

周りからおちょくられたりするのは嫌だったし、

クラスの中心にいるような女子と陰キャラな僕とでは

ハッキリ言って釣り合わない気がしたからだ。




そして高校生活が始まって1ヶ月後。

月イチの席替えで紗月は僕の隣から、

僕の席から見て斜め右上の位置に席が替わった。

隣には別の女子がやって来たが、紗月に比べて

お世辞にも美人と呼べない容姿でかなり口数が少なく、

僕は何となく寂しい気分になった。




だが席替えを終えた日の夜、

僕に大きな転機が訪れた。

その日、両親は仕事や慰安旅行の為に不在で、

僕は両親がくれた夕食代で宅配ピザを注文した。



贅沢にピザを食べながら、テレビで放送される

有名なアクション映画の大作を見ようと

思っていたのだが、直前のプロ野球の試合が

延長されたせいで映画は放送中止となってしまった。





「はぁ~?! ………ふざけんなよマジで」




画面上部の放送中止のテロップを見て

僕は不満を漏らしながらも、空腹には耐えられず

無言で一人寂しく、ピザを食べ始めた。

そして、何か面白い番組は無いかとリモコンで適当に

チャンネルを回していると、一瞬ではあるが

興味深い物が目に入った。




『ボンクラ探偵辺長羽仁の事件録スペシャル

前代未聞、絶海の孤島で女子高生ミスコン大会!?

美少女連続殺人鬼VS辺長羽仁』




「これってサスペンスドラマの

辺長羽仁(あたながはにん)シリーズのやつか。

まあ…………暇潰しにはなるかな」




始まったドラマの冒頭はこんな内容だった。

『名探偵』を自称する主人公の辺長羽仁は、

ひょんなことから知り合った大金持ちの実業家に、

自分が所有する孤島でミスコンをするので、

是非来て欲しい、と招待状を渡される。




その後、色々あって大会前日の深夜。

孤島に聳え立つ宮殿のようなミスコン会場、

もとい実業家の豪邸内にあるダンススタジオで、

1人でこっそりダンスの練習をしていた

ジャージ姿の女子高生が、休憩しようとした際に

殺人鬼に襲われ、殺害されるシーンが入る。




「ぐぅヴゥァ……い゛ゃァ゛!!」

 



背後からロープで首を絞められ、

苦しそうに呻きながら必死に抵抗する被害者。

休憩時にスニーカー、靴下を脱いだ矢先に襲われ、

裸足の状態で激しく両足をバタつかせて

いたがやがて…………………。




「あ゛…………ぁっ……………………ぁ」




固く目を閉じ、事切れる被害者。

バタ足が収まりグッタリして動かなくなった後

床に投げ出され、殺人鬼は立ち去っていく。



そして翌日の朝、遺体発見シーン。

被害者の足裏のアップ、

次にうつ伏せで横たわる遺体の全身。

パニックに陥り、狼狽える出場者達やスタッフ。

何とか主人公やその取り巻きが騒ぎを落ち着かせ、

遺体の検分を始めるが、やたらと被害者の足先が

チラチラと画面に映るのが妙に気になる。




その後、ご都合主義全開の通信設備や

携帯電話が使えなくなる展開に加えて、

島に熱帯性低気圧が直撃し、どしゃ降りの

豪雨に見舞われる中、次々と犠牲者が出る。



2人目の殺害シーン。

入浴中、侵入してきた殺人鬼が浴槽に

モバイルバッテリーを投げ込み、感電する。




「ぎぁヴゥアゥうァァァぅあ゛ァ!!」



「ひ………………ぁ…………………………」




浴槽から斜め上にピーン、と伸びて

激しく痙攣する生足のアップと物凄い悲鳴。

そしてピチャッ、と濡れた足先を浴槽の縁に

着けたまま息を引き取る。





そして3人目。

寝間着姿で就寝しようとした所で、

背後から殺人鬼に麻酔薬が染み込んだハンカチで

鼻や口を塞がれ、ぐったりと昏倒してしまう。

そして部屋のシャンデリアにロープを括り付けた

殺人鬼は被害者を担いで首にロープを引っ掛け、

そのまま彼女の首を吊るし上げる。



「ぐ……ぇおっ!!」



必死にバタバタさせる両足から、履いていた

レース生地の白いルームシューズがポロポロと

脱げていき爪先をギューッ、と折り曲げながら

悶え苦しみ、そして…………………。



「が…………ひゅぅぅーーっ…………」



ダランと手足を投げ出し、窒息死する被害者。

ミシミシとロープを軋ませ、

爪先が柱時計の振り子のように揺れ動く。





4人、5人、6人…………………と、

その後も次々と殺されていく女子高生達。

劇薬入りの洋菓子を食べてしまい、ブクブクと

泡を噴いて七転八倒しながらのたうち回り、

カッと両目を見開いたまま死亡。



階段を降りようとした際に突然、

背後から突き落とされ、転落死。

カッと両目と口を開き、眉間に皺を寄せた

死に顔で倒れた拍子に履いていた靴が片方、

ポロリと脱げて素足を晒していた。



浴槽に張られた水に顔を突っ込まれて、

手足をバタバタさせて藻掻いた後、力尽きる。

その後、一緒に出場していた友人に発見され

人口呼吸と心臓マッサージを施されるが、

もう彼女が息を吹き返す事は無かった。

遺体に抱きつくようにして泣き崩れる友人と

薄目を開け、悲しげな表情で息絶えた被害者。




これ以上の詳細は省くが、作中に出てくる

被害者は全員、裸足の状態で死んでいく。

そして1人目と同様に殺害シーンやその後の

遺体発見、現場検証シーンで、やたらと被害者達の

爪先や足裏がチラチラと画面に写り込む。




結局、犯人は出場者の内の1人だった。

彼女は、実業家と彼の元で働いていた使用人との

間に産まれた隠し子であり、スキャンダル発覚を

恐れた父親によって母娘とも家から追い出され、

極貧生活の末に母親は病に倒れ、そのまま他界。


実の父親に対する恨みを募らせ、今まで過酷な

人生を送ってきた犯人が大会で父親ではなく、

同年代の少女ばかりを殺害していたのは、

前代未聞の孤島でのミスコン大会で

名声を得ようとする彼の面子を、

徹底的に潰す為だった事が判明する。



色々あって犯人は逮捕され、本当の父親だった

実業家も今回の事件で評判が地の底まで落ち、

誰一人救われないまま物語は幕を下ろす。





気が付くと、食べかけのピザが冷えて

チーズや生地が固くなっていくのはお構いなしに、

僕はこのドラマを食い入るように視聴していた。

その時、固くなっていたのはピザだけではない。

………自分自身の股間に付いた一物も同じだった。







…………今まで見たことのない、新しい何かが

僕の心の奥底で静かに生まれようとしていた。





そして翌日、午後の授業中。

教師の話があまりにも退屈だった事もあってか

僕は眠くなりそうだったが、とにかく眠気を覚まそうと

他の事を考えながらノートをとっていた。



ふと、前に席に座っている紗月が視界に入った。

僕と同じく退屈しているのか頬杖をつき、

履いている上履きを両方とも脱いだ状態で

こちらに足裏を向けながら爪先をモゾモゾと

動かしていたのだが、紗月が履いていたのは

爪先や踵部分が露出しているタイプの靴下だった。

所謂、トレンカソックスというやつだ。




これまで紗月が上履きを脱いだり履いたりする所を、

見たことが無かったので全く気付かなかった。

………気が付くと、僕はドキドキしながら

穴が空きそうな程に紗月の足裏を凝視していた。



何とも言えない妖艶な動きでくねらせる足の指を

見ていると、唐突に昨夜見たドラマの被害者達の

迫真の演技がフラッシュバックした。



それと同時に、僕の脳裏である疑問が浮かんだ。




───もしも僕と紗月以外、この教室に誰も居なくて

あのドラマのように背後から思い切り首を絞めたら、

彼女はどんな苦しみ方をするのだろうか?



散々暴れた後で、眠るように息を引き取るのか?



ドラマのように白目を剥いたりするのか?



『死にたくないよ、苦しいよ』と言いたげな

悲しそうな顔をして死ぬのか?




授業、そして放課後の部活動を終えてからも

気になって気になって仕方がない。

僕は帰宅した後も、脳内で何度もあの

サスペンスドラマの殺害シーンを再生し続けた。



番組との違いを上げるとすれば

被害者の役は出演した女優達ではなく、

全て紗月に置きかわっている点だろうか。




ロープで絞殺、浴槽で感電死、麻酔薬で昏倒させ

強制的に首を吊るして窒息死、毒殺、転落死、

トイレの中の水に顔を突っ込まれ溺死………。




あくまでも想像上のシーンなので、

紗月が殺される直前や死ぬ瞬間に

同じようなリアクションをするかは、

彼女が本気で悲鳴を上げたり、怖がっている所を

見たことが無いのでさっぱり分からない。




それからは、自分のクラスの教室で授業を

受けるのが楽しみで仕方がなかった。

学校に来ている時、紗月はいつも

トレンカソックスを履いていて、僕は授業中に

彼女が上履きを脱ぐ瞬間を心待ちにしていた。



翌月とそれ以降の席替えも、運がいい事に僕の席は

紗月から1列挟んで後ろの席だった為、彼女の足裏が

嫌でも視界に入るので興奮が収まらない。

僕は昼休みや、放課後に隙を見ては

生徒や教師が殆ど来ない、校舎の端にある

トイレの個室ではち切れんばかりに膨らんだ股間を

落ち着かせようと、時間の許す限り何度も何度も

オナニーし続け、性欲を発散した。



いつもはギャーギャー喧しい女子だったが、

学校でも一二を争う美人と称される姉と血が繋がって

いるとあってか、黙っていれば中々可愛らしい娘だった。




…………………殺したい。




………………紗月を殺したい。





………………彼女の美しい爪先、足裏を

僕だけの物にしてしまいたい。




日を重ねる毎に、その狂気は増していく。

当然ながら、殺人は許される行為ではない。

ましてや、自分自身の性欲の捌け口の為に

殺人を犯すなんて悪魔の所業に等しい。

スキあらば狂ったようにオナニーで抜きまくって

抑え込んできたが………もう耐えられそうにない。





こうして僕は、永塚紗月の殺害計画を企てた。

殺害現場に選んだのは僕達が通っている高校。

昼休みの行動パターン、所属している部活など

気になった点をピックアップし、

校内では本人に絶対に気付かれないように

細心の注意を払い、僕は彼女の観察を始めた。



あれこれ考えを巡らせ、計画は着々と進んでいく。

そして…………学校が夏休みになった頃。

忘れられない7月上旬のあの日、

ここから僕の人生が大きく変わった。



─────────────────────







その日、僕は部活動で焼け付くような日差しが

照りつけるグラウンド…………ではなく空調の効いた

比較的涼しい校内の部室でダラダラしていた。




文系の部活で詳細は伏せるが、

正直言って夏休み中は碌な活動をしておらず、

顧問の教師も朝と夕方とそれぞれ部活動の開始、

終了の時くらいしか滅多に顔を出さなかった。

部室に居たのは、僕を含めた男女が6名。

それぞれが好き勝手に、こっそり持ち込んだ

携帯ゲーム機や漫画、スマホゲームをしていた。




そんな中、部室の扉が勢い良く開いて

一人の女子生徒が勝手に入ってきた。

………僕は当然、彼女に見覚えがあった。



「よーっす! ちょっと涼みに来たよー」



「彩月ー、もう部活動終わったのー?」



「ううん、衣装作りやってたんだけど

ウチの部活、今日は部員が殆ど休んでるから

全然捗らなくってさぁー、それで……」





入るなり部員の女子達と駄弁り始めた紗月。

…………彼女がおよそ1時間後、帰らぬ人になるとは

僕を除いてここにいる全員、誰一人として

予想すらできなかっただろう。




僕に命を狙われているとも知らず、ケラケラと

笑いながら女子達と馬鹿話に花を咲かせている。

僕の本心を読んでいたとは思えないのだが、

何故かこの時、紗月は僕に話し掛ける事なく

しばらくすると部室から出て行った。



………時間はあっという間に過ぎていき、午後4時頃。

顧問の教師が今日の部活動の終了を告げると、

気怠げな彼に急かされるようにして

僕や他の部員達は帰り支度を済ませ、部室を出た。





他の部員や先輩達に、帰り道にカラオケやら

何やらに誘われる事もなく僕はただ一人、

誰もいない廊下を歩いていた。

そして…………僕はファッション部の部室、

もとい家庭科室の入口の前に立つと

何度か大きく深呼吸をした。





予想が正しければ、まだ紗月が残っている筈だ。

僕が立てた殺害計画、それは………。


この情報を知ったのは夏休みの1週間前。

夏休みの間、ファッション部に所属する紗月が

文化祭のファッションショーの衣装作りを

任されている、と彼女の友人達が話していたのを

耳にした僕はこの会話を盗み聞きしてみる事にした。




何でも紗月は将来、ファッションデザイナーを

目指しているらしく、高校に進学する以前も

中学校の頃もファッション部に所属し、

衣装作りも手慣れているとの事だった。


紗月以外に、他に入部した1年生も何人かいたが

皆やる気があまり無いらしく、夏休みは

部活そっちのけで進学塾の夏期講習やら

ハワイ旅行やらで、衣装作りは彼女が

殆どこなしているという状態だった。



この話を耳にした時、僕は計画を実行するのに

またとないチャンスだと確信した。





計画はこうだ。

夏休み中、部室で一人だけ衣装作りに集中して

油断している所を、背後から首を絞め、

紗月の息が止まるまで絞め続ける。

僕は鞄の奥底にしまった『凶器』を取り出し、

制服のズボンのポケットに隠した。





凶器に使うのは採寸用のメジャー。

事前に家庭科室からこっそり盗み出した物だが

今になって考えてみると何故、これを凶器に

しようと思ったのか自分自身でも分からない。

紗月がファッション部だから、なのか

それとも同じファッション部のメンバーが、

さも彼女を殺したかのように見せかける為の

稚拙な擦り付けをしようとしていたのか。



ともかく、今回の事が切っ掛けで僕は

ある種の“拘り"を持つことになるのだが…………。

それはまた別の機会に話すとしよう。





耳を澄ませて様子を確かめてみる。

偶にやる気のある新入生や先輩達が

手伝ったりしているそうだが、

中から人の声は何も聞こえない。





震える手で入口の扉に手をかけ

そっと中を覗くと紗月は僕の方に背を向け、

スマホを弄りながら席に座っていた。



よく見ると上履きを脱いだ状態で、机の上に

トレンカソックスを履いた両足を乗せていた。

爪先を開いたり閉じたりして、狭い上履きからの

開放感を存分に楽しんでいるようだった。



こんな座り方をしていた理由は直ぐに分かった。

………爪先に塗ったペディキュアを乾かしていたのだ。

ペディキュアの色はパープル系のカラーリングに、

キラキラと光に反射するラメが入っていた。

今まで、授業中に紗月の足裏や爪先を

幾度となく見てきたので、違いは一目瞭然だった。





「(よし………今がチャンスだ!!)」




覚悟を決めた僕は、引き戸の扉を

そっと開けて紗月の背後にこっそり忍び寄る、

筈だったのだが建て付けが悪かったのか

扉はガラガラと凄く大きな音が鳴ってしまった。




驚いた表情をして、こちらに振り返る紗月。

………………やってしまった。



数秒間、沈黙が続いたが先に破ったのは紗月だった。




「………………あれっ?

誰かと思ったら〇〇じゃん、何か用?」




「いや…………あの………………その………、

部屋間違えた、失礼しました!!」


「ちょっと待って! 待ってってば!!」



ペタペタ、と紗月が上履きも履かずに

走り寄ってきて、僕の腕を掴んで引き止めた。



「何処に行くの?」



「家に帰る」



「…………へぇーそうなの?」



「急いでるから離してくれないかな」



「急いで家に帰るのにどうして、

昇降口の反対側のここまで来んのよ?」



「…………………」



「ひょっとして………一緒に帰ろうって、

わざわざこっちに来てくれたの?

このこのー、寂しがり屋めー!」




「何でお前なんかと一緒に帰らなきゃ

ならないんだよ………何かの罰ゲームか?」



「あぁ〜っ、ひっどーい!!

私の事、面倒くさい女みたいに

言っちゃって、ホント最っ低!!

〇〇のバカ!! アホンダラ!! 冷血漢!!」



「あだだたっ!!

やへっ、やふぇろって!!」



「…………やだ、『一緒に帰ろう』って

言ってくれなきゃ、ほっぺ抓るのやめないから」



「い…………ふうから、へぇ、はなひて………」



「離したよ、ほら、言ってみ?

さん、はい」



「い………い………………………………。

駄目、出来んわ」



「ほら恥ずかしがらないの。

もう一度よ、さん、はい」




「い………一緒に帰ろう」



「誰と帰るの?」



「は? お前とだけど?」



「『一緒に帰ろう、紗月』って言って。

出なきゃまた………」




「分かった、分かったって!

………い、一緒に………帰ろう………さ………紗月」



「なーんだ、ちゃんと言えるじゃないの!

………最初からそう言ってくれれば良いのに」



「いや…………そんな下の名前で呼ぶのは」



「何よ、私だってあんたの事を〇〇、って

下の名前でいつも呼んでんじゃん。

あんたが私の事を紗月、って馴れ馴れしく

呼んでも別に怒ったりなんかしないよ?

それで誘いの返事だけど………いいよ〇〇。

一緒に帰ろっ」


「今、帰り支度済ませるから

適当な席にでも座って待っててよ」




「うん」




計画がバレずに済んだのはいいが、

大幅に予定が狂ってしまった。

だが…………僕はまだ諦めてはいない。



紗月に続いて家庭科室に入った僕は

彼女に促され、扉を閉めた。

この事について聞いてみると、やはり扉は

建て付けが悪いようで、開きっぱなしにしていると

扉が閉まらなくなってしまうそうだ。




計画にはないやり方だったが、外側から

悲鳴を聞かれるリスクを減らす事には成功した。

そして、紗月はというと相変わらず上履きを

脱いだままの状態で僕に再び背を向け、

机の上に並べてあった裁縫道具等を片付け始めた。




条件は整った。

迷う事無く僕はポケットからメジャーを

取り出し、背後まで忍び寄る。




そして……………背後から紗月の首を絞めた。



「ゔっ!! あ゛ぁあぅ゛!!」



「なにじでっ…………や゛め゛でっ!!」




「ぐあ゛ぁぁえ゛あ゛っ!!」



今まで聞いたことのないような、

人間のものとは思えない程に悍ましく、

醜い悲鳴が紗月の口から漏れた。



…………テレビや書籍等の作り話と全く違った。







高価なビスクドールのような色白い肌をした

紗月の顔の血流が滞り、みるみる間に

ムラサキイモのような色に変色し、浮腫んでいく。

紗月はブクブクと泡立った唾を撒き散らしながら、

僕の腕や胴体をペチペチと何度も引っ叩くが、

蚊も潰せないくらいの非力で痛くも痒くもない。



メジャーの巻き付いた首筋を、爪を立てて

ガリガリと引っ掻きながら、トレンカソックスを

履いてキュッと引き締まった両足を激しくバタつかせ、

ぺタッ、ペタッ、と露出した爪先と踵の部分が

床を打ち付ける度に、粘着質な音が鳴った。




「ゔぁ!! げぇぐがぇぇぁぇァェ!!」



「い゛…………………ぐぎ……………や゛え゛………でぇ!!」




『息できない、やめて』と言いたかったのだろう。

紗月の首を死ぬまで絞め続けたい僕は、

彼女の耳元で囁いた。




「………………嫌だ。

紗月を縊り殺すまで首、絞めるの止めないよ。

………………エロい動きで素足をバタバタ、バタバタと

必死に藻掻いて、それでパタッて力尽きて………。

俺、女の子がそうなっていく光景をリアルで

見てみたかったんだ…………!」



「ひ………ぐぉ………………ぇぅ!!」



「ワザとか知らないけど、授業中に毎回毎回、

上履き脱いで足裏見せつけてきやがって………。

もう俺、我慢出来なくなってさ………。

靴下脱がす手間も省けるし………で、

お前の首絞めて、殺す事にしたって訳」



「かひゅっ………………ゔぅゥゥヴーーーッ!!」



「ウ………………ぅ…………アゥッ…………あ………………」



次第に足のバタつきが鈍くなっていく。

ズルズルと力が抜けて、ぺたんと腰を降ろす紗月。




…………そして次の瞬間。





「………ひゃくっ…………ひゅっ……………ひゃゔっ!」



「ヒュォっ…………オゔっ………ひゃゔっ………………!」



突如、力尽きたと思われた紗月が激しく全身を震わせ、

しゃっくりのような奇怪で声で呻きだした。



よく見ると、まるで幽霊のようなポーズで

胸元の辺りで両手首を折り曲げ、両足の爪先も

ギュッと折り曲げた状態で、ガクンガクンと

激しい痙攣を引き起こしている。

気を抜いたら背後から首を絞めている僕が

跳ね飛ばされそうなくらいに、痙攣の勢いが

次第に激しくなっていき……………。




「か…………ひゅっ……………ひゅぅーーっ……………」



溜め息のような呻き声。

パタッ、と両腕が垂れ下がり、しゃっくりのような

異常な呼吸と呻き声が無くなった。

それでも時折、微かにではあるがビクッビクッと

全身を弱々しく痙攣させている状態だった。




「……………死んだのか?」





紗月の首からメジャーを外した僕は、

彼女をそのまま仰向けに寝かせ、生死を確かめてみる。



…………呼吸は完全に止まっているようだ。

鬱血して変色、浮腫んだ顔。

カッ、と両目を大きく見開いたまま、充血した

毛細血管が破裂して赤黒く変色した眼球。

はみ出た紫色の舌、歯を剥き出しにして

涙、鼻水、涎を垂らした苦悶の表情。



そして首筋には、僕がメジャーで絞めた跡と

その周囲には血が滲んだ無数の引っ掻き傷。

さっきまで元気だった人間だとは思えない程、

苦痛に歪んだ醜悪な顔をしていた。

何となく………スマホでその顔を写真に収めた後、

当初の目的だった紗月の足裏も撮影して、

じっくりと観察を始めた。




恐る恐る両足首を掴み、未だに足の指を

ピクピクさせているそれを、顔の前に近付けてみる。

冷房を点けた室内とはいえ、あれだけ必死に

バタ足していたせいで足裏全体が汗ばんで

しっとりとした熱と僅かに湯気を放っていた。



だが足裏の汚れについては

家庭科室の清掃が行き届いているのか、

素足でペタペタ歩いたりバタ足していたにも

関わらず、足指や土踏まず、踵の部分には

埃や煤が殆ど付着していなかった。



自分の両手の指でマッサージするように

撫でたり揉んだりしてみるとまだ暖かく、

それでいて弾力があって柔らかい。



舌を伸ばして、足裏を舐めてみる。

僅かにツーンとした、酸っぱい汗の味が

口いっぱいに広がっていく。

気が付くと僕は、紗月の両足裏のあらゆる所を

ペチャペチャと舐め回したり、踵に吸い付いて

おしゃぶりのように汗を吸ったりしていた。




「ハァ…ハァ………ハァハァ………紗月………うっ!!」




自分の股間に違和感を覚えた。

ヌルヌルとした感触。

…………………僕は射精していた。




「はぁーっ…………はぁーっ…………………………」




肩で息を荒げ、その場でへたり込む。

所謂、賢者タイムに浸っていた時だった。




「くぉ……………ひゅへェぇーーーっ…………」




呼吸が止まっていた筈の紗月の口から、

再び溜め息のような声。

今度はかなり弱々しい感じだった。



ビクッ、ビクッ、と何度か

身体を震わせた後に痙攣が収まった。

そして、室内に立ちこめる刺激臭。



足の裏の匂いではなくもっと強烈な、

まるで公衆トイレのような匂いが

紗月の身体から発せられている。

ジワリ、と制服のジャンパースカートの股間から

滲み出た染みがあっという間に広がっていく。








チョロチョロ、と大量に股間から漏れ出た

濃い黄色の液体が、紗月の足裏でイッていた僕に

向かって洪水のように押し寄せてきた。

慌てて立ち上がり、黄色い洪水を避ける。



紗月は失禁していた。

暖かい小便の湯気が股間の辺りに漂う。

…………………小便が収まり、痙攣もしなくなった。





───人間は首を絞められると、

こんな風に苦しんで死ぬんだ。

求めていた答えが見つかったのは良かったが、

僕は仕出かした事の重大さに気付いて、

とても恐ろしくなってきた。



このまま放置して帰ったら、遅かれ早かれ

確実に自分が犯人だとバレてしまう。


慌てて、あらかじめ用意しておいた

ウェットティッシュを鞄から取り出し、

紗月の足裏から僕の涎を拭き取った。

それだけではなく、紗月を絞殺する前や

その後に僕が触れた出入り口の取手、生前に

僕の頬を抓った紗月の手の平や指先、その他の

思い当たる箇所を忘れる事なく丁寧に拭いた。



凶器として使ったメジャーも、

使用後のウェットティッシュと一緒に

ビニール袋の中に仕舞って、口を固く縛ると

僕は犯行現場の家庭科室から堂々と立ち去った。

勿論、出入り口の戸はこれまた用意しておいた

ビニールの手袋をはめた状態で、開け閉めした。




これで証拠隠滅については、

出来る事は全てやったつもりだ。

薄暗くなっていく廊下を歩いていると、

反対側の方向、遠くから誰かの足音がした。





僕は振り返らず、そして可能な限り

音も立てないようにして小走りで逃げた。

見られたかどうかは分からなかったが

とにかく校舎の外に出て、僕と同じく

帰宅しようとしていた複数人の生徒の背後に

ついて、校門から学校を出た直後。




………………誰かの劈くような悲鳴が、

家庭科室のある校舎から聞こえた気がした。




確かめるつもりは無く、一刻も早くここから

離れたかった僕は逃げるように帰宅した後、

自室のベッドの布団に包まって、

紗月を殺害した時の回想に浸りながら

狂ったようにオナニーし続けるのだった………。




─────────────────────




犯行を終えた『彼』が立ち去って数分後。




「♪~♪~」




一人の女子生徒が衣装作りに精を出す妹に、

購買で買ったジュースを差し入れしようと

鼻歌を歌いながら家庭科室に向かっていた。




そして、辿り着いた家庭科室の

出入り口の扉をノックする………………。




コンコンコン………………。




「紗月〜? 居るの〜?

おかしいな……………電気点いてるのに……………」




不審に感じて、扉を開ける。



「うっ!! 何なのよこの匂い!!」



扉を開けた途端、中から鼻が曲がりそうな

くらいに強烈なアンモニア臭が漂ってきた。

そして、室内の机の陰から、トレンカソックスを

履いた2本の足が突き出ていた。








「紗月? 一体何があって………っ!?」


「ひ………………いゃ………あ………ぁぁ………あ!」








「嫌ぁあ゛あ゛あ゛ぁアァァァァッ!!

紗月っ!! 紗月ぃ!! さづぎぃぃいいっ!!」




…………………変わり果てた姿の妹が、そこに居た。

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Comments

成人の被害者については後々の章で何人か登場させるつもりです。 挿絵も描く、小説も書くで更新が遅くなるかも知れませんが……。

esudafu

長編作品のようなので、20~30代の被害者が出てくるのを楽しみにしています。 ※地蔵背負いによる絞殺を首吊り自殺に偽装するパターンとかあるとうれしいです。

SITH


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