【小説】人生改変ノート
Added 2021-04-29 13:30:28 +0000 UTC「で? 相談したいことってなんだ?」
わざわざ俺の部屋までやってきた高校生の妹、綾がかしこまった状態で座っている。
さっきからニヤニヤとした表情を浮かべていることから嫌な予感しかしない。
「ふっふっふ……。お兄ちゃんにはこれを見てもらいたいの」
演技じみた口調で綾が差し出してきたのは、年季の入った地味な装丁の大学ノート。
見たことないデザインから判断するに、おそらくそこらで売っているものではなさそうだ。
「そのノートがどうかしたのかよ?」
「お兄ちゃんに是非このノートを使ってみてほしくて」
ぐいぐいと俺にノート押し付けてくるその様子は見るからに怪しい。
こういうときの綾は何かしら裏がある。
小さい頃、綾から渡されたお菓子の箱の中に大量の毛虫が入っていたのは今でも軽くトラウマだ。
別に兄妹仲が悪いとは思わないが、どうもこいつは昔から俺のことを舐めている節がある。
「そんないかにも怪しいもん使いたくねえよ。話はそれだけか? だったらもう自分の部屋に帰れ」
「えー? いいじゃんちょっとくらい。使ってよー。ねー、いいでしょー?」
俺の肩を揺らして頼み込んでくる綾。
それが人にお願いする態度か?
首がぐらんぐらんと揺らされ酔いそうになってくる。
ええい、鬱陶しい。
「はぁ……わかったよ。ほら、貸せよそのノート」
「わーい! ありがとう、お兄ちゃん」
綾は上っ面だけの感謝をすると俺にノートを手渡してきた。
まったく、こういうときばかり調子のいい妹だ。
すぐ甘い態度を取ってしまう俺にも問題があるかもしれないが。
「で? このノートどうするんだ? これから大学で普段使いすればいいのか?」
中をパラパラとめくると、どのページも真っ白だった。
古ぼけている割には新品らしい。
「そこまでしなくていいよ。とりあえず表紙に名前書いて。あ、鉛筆ならあるから使って」
綾がニコニコしながら鉛筆を渡してくる。
俺は訝しく思いながら渡された鉛筆をじっと見つめた。
どうやらこっちはどこにでもある普通の鉛筆のようだ。
これ以上怪しんでいても話が進まないので、言われた通りノートの表紙に『下倉晶』と俺の名前を書いた。
「ふふっ、書いたね……」
すると、いきなり綾がノートを奪いとってくる。
「お、おい! なにすんだよ!?」
「ありがとう、お兄ちゃん。これで準備完了だよ」
「は? 準備?」
綾がノートを広げて見せてきた。
さっきまで真っ白だったはずのそのノートには、何故だか大量の文字がびっしりと書き込まれていた。
「え? なんで? さっきまで何も書いてなかっただろ?」
「これはね、特別なノートなの。表紙に名前を書いた人のこれまでの人生を綴ってくれる“人生ノート”なんだよ」
「人生ノート? ……っておい、なんだよそれ……」
ノートに書かれている文字を見て、俺は目を丸くした。
・2002年5月15日に、母である下倉法子と下倉耕司の間に生まれる。
・出生時の体重は2874g、身長は46.8cmで性別は男。
などなど、産まれたばかりの俺のことが事細かに書かれていたのだ。
そこから先も、俺の幼少時の思い出が書き連なっている。
中には俺しか知らないことや、俺ですら覚えていなかったことまで様々なことが書かれていた。
「な、なんだよこれ? どうしてこんな……」
「すごいでしょ? わたしも最初は信じられなかったけど、こんな魔法みたいなもの見せられちゃったら流石にね」
綾は楽しそうに笑っているが、こんなあり得ないものの存在を受け入れるのはそう簡単ではないし、ただただ困惑してしまう。
というか、これだけ俺の個人情報が包み隠さず書かれているとなると、他人に知られたくないあんなことやこんなことまで書かれているのではないかと気が気でない。
「なあ、ちょっとそのノート貸してくれ。何が書いてあるか俺も確認したい」
「えー? うーん、そうだなあ……あっ! そうだ、こうすれば……」
綾は俺に背を向けると、ノートに何かをし始めた。
流石に放っておくわけにもいかず、俺は綾の前に回り込んでノートに手を伸ばした。
「おい、いいからちょっと貸せって……って、あれ?」
俺はノートを掴もうとした。
が、何故だかノートに触れなかった。
ノートに触れようとすると、手が勝手に止まってしまい、それ以上伸ばせないのだ。
「な、なんだ? 何が起きて……」
「ふふっ、残念でした。お兄ちゃんにはもう触れないよ、このノートは」
動揺しながら視線を落とすと、ノートには綾の字で、
・このノートに触ることはできない。
と書かれていた。
「これがこのノートの本当にすごいところでね。ただその人の人生を綴るだけじゃなくて、書いたことをその人に反映させることができるの」
綾が得意げに鉛筆を回しながら笑いかけてくる。
そんな馬鹿なことが……。
しかし本当に書かれている通り、俺はノートに触れなくなってしまった。
このノート、実はとんでもなくヤバいものなんじゃないのか?
「これだけだとまだ不安だし、一応保険をかけておこうかな」
そう言うと綾はまたノートに何か書き始めた。
これ以上は流石に冗談では済まない。
焦った俺は、書くのを止めるため綾の肩に手を伸ばした。
「お、おい、もうやめろ! そのノートがすごいのはわかったからもういい加減に……」
「離して。あと、ちょっと黙って」
「っ!? ……!? ……! ……!? ……!」
綾の言葉を聞いた瞬間、勝手に俺の手が綾の肩から離れ、さらに声が全く出なくなってしまった。
今度は何が起きた?
ノートに視線を落とすと、
・綾に逆らうことはできない。
という一文が書き足されていた。
「ふふっ、これでお兄ちゃんはわたしの邪魔ができなくなったね。あ、もう声出していいよ」
「っ! おい、ここまでする必要あるか?」
俺は綾を睨みつけるが、綾は意にも解さないといった様子でただ笑っている。
「あるよ。だって本当に面白いのはまだこれからだもん。お兄ちゃん、このノートはね、どんなことを書いても反映されるんだよ。例えばこんなことだって……」
そう言って綾はまた何かを書き始める。
その瞬間、俺の体に異変が起きた。
全身が痙攣するように震えて、耐えきれなくなった俺は思わず屈み込んでしまう。
体の中で強い違和感が渦巻いている。
いったい何が起ころとしてるんだ?
震える体を抑えながらノートの方を見る。
そこに書いてあったのは、
・突然、体が美少女になる。
という一文。
「ま、まさか、そんな……」
その途端、体が激しく脈動した。
ドクンドクンッ、と心臓が高鳴るのと共に体の変調が進んでいく。
手のひらを見ると、指が少しずつ細くしなやかになっていき、骨張った輪郭も柔らかで華奢
なものへと変わっていく。
手だけでなく、体全体が縮んでいき徐々に男らしさを失っていく。
喉仏はなくなり、肩、腰、脚、それぞれが程よい肉付きの滑らかな曲線を描いていく。
柔肌を覆う体毛は薄くなっていき、浅黒かった皮膚も美白となって晒されていく。
起伏のない絶壁のようだった胸板は少しずつ脂肪が寄り集まっていき、なだらかな山と丘を形成していく。
最後に残された男の象徴である股間の性器は、あっという間に縮んでしまい、やがてその存在感を完全に失った。
この間わずか数秒。
たった数秒足らずの間に、俺の体は変わり果ててしまった。
胸の動悸が収まり顔を上げると、綾が楽しげに見下ろしてくる。
「ふふっ、可愛くなっちゃったね、お兄ちゃん。いや、お姉ちゃんかな?」
「嘘だろ、おい……」
俺は自分の声とは思えないぐらい高い声を発しながら、自分の胸と股間に手を這わせた。
胸にはTシャツに圧迫されながらもたわわに膨らむ乳房があり、ズボンの上から触っただけでも確かな感触のあった股間の性器はもはやその存在を確認できない。
疑うまでもなく、俺の体は女になっていた。
「こんな感じで文章を書き足していけば、現実にはあり得ないことだって起きちゃうの。面白いでしょ?」
「面白いわけないだろ! さっさと元に戻せ!」
「えー? せっかく可愛くなれたのに、もったいなくない?」
綾は俺を見下ろしたまま悪戯っぽい笑みを浮かべている。
もはや舐めているとかいうレベルではない。
完全におもちゃ扱いだ。
あんな魔法のようなノートを手に入れたらはしゃぐ気持ちもわからないではないが、好き勝手弄ばれるこちらとしては堪ったものではない。
「わたし、お兄ちゃんよりお姉ちゃんが欲しかったんだよね。だからこっちの方がわたしとしてはいいんだけど」
そう言って綾が俺の胸に手を添えてくる。
触れられた瞬間、ピクリと体が震えてしまう。
自分で触るのでも違和感が強いのに、他人に触れられるとなんともくすぐったい感覚がして震えを抑えられない。
そのまま綾は撫でてくるが、さっきからTシャツが乳首に擦れてむず痒いようなもどかしい感覚が強まってくる。
これが、女の体の感覚なのか。
そのまま飲まれそうになった俺は必死に頭を振って意識を胸から逸らし、綾の腕を掴んだ。
「……いいわけあるか。ふざけたこと言ってないで元に戻せ」
「ふーん、残念。お兄ちゃんにも気に入ってもらえると思ったのに」
綾は俺から離れると、再びノートに何かし始めた。
手に握られているのは、消しゴムか?
「元に戻すのは簡単だよ。書いた文字をこうやって消すだけ。……ほら、これで元通り」
綾がそう言うと、俺の体がまた勝手に震え始める。
さっき女になったときの変化を逆再生するように体が逞しくなっていき、あっという間に元の男の体に戻ることができた。
一時はどうなるかと思ったが、ひとまず安心できた俺はほっと胸を撫で下ろした。
「書いたことは消してしまえば全部元通りになる。でもね、消せるのは新しく書いたことだけじゃないんだよ」
綾がノートをパラパラとめくり始めた。
やがて手が止まると含み笑いを浮かべてこちらを見てくる。
「このページ、お兄ちゃんが13歳の頃に夜中ベッドの中で夢精しちゃってお母さんにバレないようこっそりパンツを洗ったっていう恥ずかしい思い出が書いてあるんだけど」
「なっ!? ちょっ、お前っ!」
俺は反射的に立ち上がりノートを奪い取ろうとしたが、直前で手が止まってしまいノートに触ることができなかった。
さっき書かれた効果はまだしっかり残っているようで、綾が勝ち誇ったような顔でこちらを見ている。
きっと今、俺は茹でだこのように真っ赤になっているだろう。
墓の下まで持って行こうとした過去の秘密をまさかこんな形で暴露されるとは。
「でも、そんな恥ずかしい思い出もこうやって消しゴムで消すと……」
綾がまたノートに消しゴムをかける。
するとその瞬間、急に俺の頭の中にモヤがかかったように意識が薄れていった。
一瞬の間を置いて、何事もなかったように意識がはっきりとし始めたが、同時に何か喪失感のような空虚な気持ちが頭の中を渦巻いていた。
今のは、いったい……?
「お兄ちゃん、今なんの話してたか覚えてる?」
「なんの話って、お前が俺の恥ずかしい秘密を暴露して……」
「恥ずかしい秘密って、どんな?」
「それは……あれ……?」
なんだったっけ?
さっきまでその話をしていたと思うのだが、何故だか思い出せない。
どんな秘密だったんだ?
「ふふっ、お兄ちゃんの秘密はね、『13歳の頃に夜中ベッドの中で夢精しちゃってお母さんにバレないようこっそりパンツを洗った』ことだよ」
「は? なんだそれ。そんなことしてねえよ俺は」
綾の奴、何を言っているんだ。
そんな経験は俺にはない。
もし仮にあったとしても覚えていない。
さっき話していた俺の秘密は言われて思い出せないようなことではなかったはずだ。
適当な嘘で誤魔化そうとしてるのか?
「まあ、覚えてないよね。こんな風にね、ノートから消された思い出はなかったことになっちゃうの」
綾が広げたノートを見ると、13歳の俺の思い出が綴られたページの中に数行だけ空白ができていた。
消しゴムで消した跡が微かに残っているが、何が書いてあったかまではわからない。
まさか、本当に今言ったことがそこに書いてあったのか?
「なかったことになるっていうのはお兄ちゃんが忘れちゃうだけじゃなくて、出来事そのものが起きなかったことになるんだよ。それを覚えていられるのは直接ノートに手を加えた人間、つまりわたしだけ。ふふっ、良かったね、お兄ちゃん。恥ずかしい思い出が一つ減って」
綾の言葉に俺は背筋が冷えるのを感じた。
大したことないようにに言っているが、今、俺の中の思い出が一つ消されたのだ。
綾の行動次第で、俺と言う人間の存在そのものが揺らぎかねない。
「過去のことは消すとなかったことになる。じゃあ、逆に過去のページに実際にはなかったことを書いたらどうなると思う?」
綾が更に恐ろしいことを言ってくる。
そんなことをしたら、そんなことができたら、俺はいったいどうなってしまうんだ。
「綾、やめろ、やめてくれっ」
「お兄ちゃん、ちょっと黙ってじっとしてて。うーん、そうだなあ……一年前くらいでいっか」
「っ! ……! ……!」
綾に言われたまま俺はその場で動けなくなり、声を出すこともできなくなってしまった。
綾がノートに何かを書いた瞬間、頭の中に大きなモヤがかかっていき、意識が薄れていった。
────────
「ふふっ、もういいよお兄ちゃん。どう? 気分は」
綾がこちらをニヤニヤと笑いながら見てくる。
さっきノートに何か書き込んだところを見るに、俺に何かが起きているのは間違いない。
だが見たところ何も変わっているとは思えない。
俺は、何をされた?
「綾、お前ノートになんて書いたんだ?」
「やっぱりわからないか。すごく変わってるのに」
綾は口を抑えて笑うのを堪えている。
見ていて非常に腹が立つが今はそれどころではない。
俺に起きた異変がなんなのか確かめなければ。
俺は自分の体を見てみる。
細く華奢な手足。
長く伸びた黒い髪。
最近また大きくなってきた胸。
どこも変わっていない。
今まで通りの俺の体だ。
「すごい、全然気づかないんだ。ふふっ、お兄ちゃんって前からそんな可愛らしい女の子みたいな体だったっけ?」
「は? 今更何言ってんだ。一年前からずっとこうじゃねえか」
俺は去年の今頃、急に女の体になってしまった。
病院に行ったが原因は不明。
謎の奇病と言われて色々な検査を受けたが何もわからず、今に至るまで女の体のままだ。
男女の体の違いに当初は困惑するばかりだったが、最近では流石に慣れてきたので普通に過ごせている。
未だに女性用下着を身につけるのには抵抗があるし、ユニセックスな服ばかりを着てしまうが、これはもう仕方ないだろう。
「いい感じに記憶が書き換わったみたいだね。お兄ちゃん、実はお兄ちゃんはさっきまで男の体だったんだよ」
「そんなわけないだろ。この服とか先週お前と一緒に買ったんじゃねえか」
俺は自分が着ているオーバーサイズのパーカーとデニムジーンズを指して言う。
先週、綾に無理やり連れられていった古着屋で買ったものだ。
女二人で連れ立って街を歩いてナンパされそうになったのもはっきり覚えている。
それなのにさっきまで男だったなんて、そんなことがあり得るわけが……。
と、そこまで考えたところではたと気づく。
もしかして、この思い出も全てあのノートによってもたらされたものなのではないかと。
「そんな……いや、まさか……」
「そのまさかだよ、お兄ちゃん。さっきこの一年前のページに新しいことを書き込んだの」
綾が開いたノートのページには、一年前の出来事が綴られており、その中に、
・体が突然美少女になる。
という一文が綾の字で書き足されていた。
「これのすごいところは、書き込んだ内容に辻褄が合うようその後の出来事も改変されちゃうことだよ。その感じを見るとお兄ちゃんは女の子の体でも意外と上手く適応できてるみたいだね」
俺は愕然とした。
この一年間の俺の思い出が、全てあのノートによって改変されたものだったなんて。
にわかには信じられない。
だが、あのノートの常識外れな効果をここまで目の当たりにしていると、それも現実味を帯びてくる。
「ん? ……ふふっ、お兄ちゃん、女の子のオナニーにハマっちゃったの? やらしいなー」
「……っ!!」
ノートを眺める綾の口から突然飛び出した爆弾発言に、俺の顔を一気に真っ赤になっしまった。
今にも火が出そうなほどに顔が熱い。
いきなりなんてことを言うんだこいつは。
「まあ、元々男だったんだから気になるよね、女の子の体は。うんうん、仕方ないね」
「う、うるさいっ、ほっとけ!」
綾から顔を逸らして俯く。
多感な思春期で、彼女がいたこともない俺みたいな男がいきなり女になったら、自分の体に興味を持つのは必然と言えるだろう。
きっと同じ状況なら誰だってこうなる。
まあ、流石に毎日はやりすぎかもしれないが……。
「お兄ちゃん、どこが気持ちいいのかいつもみたいにやりながら説明してよ」
「は!? 誰が……っ!? えっと、まず最初はズボンを脱いで、パンツの上から股を擦っていって……」
綾の言葉を受けた途端、体が勝手に動き始めた。
口も勝手に説明を始め、妹の前でオナニーの実況を始めてしまう。
クソっ、止まれっ!
「んっ……それで、少し気持ちよくなってきたら、パーカーをまくってブラをずらして、乳首の先端を指でつまんで……あっ……」
「うんうん、それでそれで?」
綾が興味津々といった様子でこちらをのぞき込んでくる。
視線を合わさないように顔を逸らすが、口と手は止まらずオナニー実況を続けてしまう。
「んっ、ふうっ……左手で乳首をつまみながら、右手はパンツの中に入れて、直接クリトリスに触って……んんっ!」
ピクッと体が震える。
指が触れたところから快感が溢れ出す。
それに伴い、口から勝手に嬌声が漏れてしまう。
こんな状況だというのに、俺の体は素直に感じていた。
「あっ、んっ……そのまま、乳首とクリトリスをいじって、はあっ、ちょっとずつ力を入れて強くしていって……んあっ!」
嫌だったはずなのに、次第に興奮が高まっていく。
口にしている言葉も、俺を見ている綾も、全てが俺の興奮の材料となっていた。
妹に好きなように弄ばれて、俺はどうしようもなく快感に打ち震えていた。
高鳴る胸の鼓動はどんどん早くなっていき、俺の体を絶頂へと導こうとする。
「ふふっ、イクときはイクって言ってね」
「あっ、あっ! んんっ……くっ、やっ、ああっ! イクッ! イックううぅううぅッ!!!」
俺は体を大きく仰け反らせて、ビクンビクンッと壊れたように痙攣した。
息もまともに吸えないほどに体は強ばり、爪先までピンと伸びた足がふるふると震えている。
力のこもった股からピシャッと潮が吹き、少し綾にかかってしまう。
「きゃっ! ……そんなに気持ちよかったの? お兄ちゃんったら」
「はあっ、はぁっ……んっ、ふうっ……」
なんとか息を整えようとするが、今の絶頂の余韻がまだじわじわと体に広がっており、全然落ち着かない。
男の射精とは違う女の体の絶頂。
一度体験してしまったら、この快感の虜になるのは当然だと思える。
「こうして見ると本当に普通の女の子だね。可愛すぎて、元々お兄ちゃんだったなんて嘘みたい」
「はあっ、はぁっ……クソっ……」
ようやく頭の中が冷静になっていき、自分の今の状態に嫌悪感が湧いてきた。
女になってからも微かに残っていた兄としてのプライドも、今ので完全にぶち壊しになってしまった。
もはや威厳も何もあったものではない。
元々なかったような気もしなくはないが。
「なに? お兄ちゃん、悔しいの? まあそうだよね。元々男だったのに、女の子にされて妹のわたしにこんな好き勝手されたら悔しいよね」
綾がまた何か企むような妖しい笑顔でこちらを見てくる。
今度は何をするつもりだ?
「それじゃあお兄ちゃんが元々女の子だったとしたら、少しはその悔しさも軽減されるかな?」
「っ!? まさかっ!?」
俺が驚いた隙に綾がノートの最初のページに何か書き込み始めた。
止めようと立ち上がった直後、頭に大きなモヤがかかっていき、意識が薄れていってしまった。
────────
「……あれ? 私、何してたんだっけ……」
急に頭がぼんやりとして、軽くふらついてしまう。
眠気に襲われたような気がしたけれど、すぐになんともなかったように意識がはっきりとしてきた。
なんだったんだろう、今の……。
「晶? どうしたの? 大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫だよ、和也くん」
彼氏の和也くんが、心配するように私の顔を覗き込んできた。
今日は、和也くんが私の家に遊びに来ている。
両親は遅くまで帰ってこないし、妹の綾は友達の家に泊まるらしいから、今この家にいるのは私と和也くんの二人だけ。
前から予定していたおうちデートだからというのもあって、昨日は緊張で全然眠れなかった。
もしかしたら寝不足なのかもしれないけど、そんなことを気にしている余裕は今の私にはない。
和也くんとは付き合い始めてから数ヶ月で、もう何回もエッチをしているけれど、改めてこういう状況になるとやはり緊張してしまう。
「晶、具合が悪いなら無理はしない方がいいと思うけど……」
「ううん、ちょっと寝不足なだけだよ。今日が楽しみで、昨日全然眠れなかったから」
「あはは、俺と同じだ。俺も、今日晶の家に来るのすごく楽しみだったんだ」
和也くんと見つめ合う。
爽やかな雰囲気をまとう整った顔立ちの和也くんと目が合うと、なんだか照れてしまう。
和也くんは本当にかっこよくて、優しくて、私にはもったいないぐらいのいい彼氏だ。
「晶……」
「和也くん……」
私たちはどちらからともなく、口づけをした。
舌を絡ませ合う深いキス。
ただ、目の前の愛おしい人物を求めるように舌を伸ばし、唾液を嚥下した。
「んっ、ちゅっ……れろぉ、はむっ、んっ……」
私が夢中になって和也くんの口に吸い付いていると、和也くんはゆっくりと私をベッドの上に押し倒してきた。
覆い被さるように上に乗ってきた和弥くんは片腕で私の頭を抱えると、もう片方の手で私の胸を揉み始めた。
抱きしめられるような姿勢で胸を揉まれ、私の心臓はどんどん高鳴っていく。
和也くんは胸を揉んでいた手を離し、私のブラウスのボタンを外していった。
そして、中に着ていた下着をずらすと直接胸を触ってくる。
「んんっ! んちゅっ、はあむっ、んん……」
和也くんが触れたところが熱を帯びてくる。
それに呼応するように私の胸の内の昂りは大きなものになり、興奮を伴って私に快感をもたらす。
気持ちいい。
胸を触っていた和也くんの手が徐々に下がっていく。
お腹から腰にかけてを優しい手つきで撫で回され、体が勝手にビクビクッと震えてしまう。
「んんっ、んちゅっ……はぁ、かずやくん、すき……」
「俺もだよ、晶。ここ、触るね」
和也くんがスカートの中に手を入れて、私の股の間に触れる。
「んっ! あっ、そこ……」
「すごいよ、もうびしょしょだ……」
和也くんの愛撫に私は体を震わせて酔いしれる。
好きな人に体を触られるのは、何物にも代えがたい幸福感がある。
もっと、もっとほしい。
「かずやくん、んっ、もう、いれて……」
「うん、俺も我慢できない」
和也くんはベルトを外してズボンを下げると、大きくそそり勃つ、股間のものを露出させた。
和也くんがそれにゴムをつけている間も、私は待ちきれずただそれを注視していた。
はやく、それがほしい。
「晶、挿れるよ」
「うん、きてぇ……」
和也くんは股間のものを私にあてがうと、ゆっくりと私の中に沈み込ませた。
「んんっ、ああっ! はいっ、て……」
お腹の中に、圧迫感と共に温かさをを感じる。
私の中に入った太くて硬い和也くんのものが、ドクン、ドクン、と脈動しているのがたしかにわかる。
嬉しい。
私は今、和也くんと繋がっている。
「動くよ」
「んっ! ああっ、んっ、いいっ、いいよっ、かずやくんっ!」
和也くんが腰を前後に動かし、私の中にものを擦りつけてくる。
最初はゆっくり、しかし次第に速くリズミカルに動きが激しくなっていき、私に与えられる刺激と快感は徐々に強まっていく。
私も和也くんの動きに合わせて、自分の腰を動かす。
もっと、二人でもっと気持ちよくなりたい。
「あんっ、ああんっ! かずやくんっ、きもち、いいっ! はあっ、あんっ!」
「俺も、気持ちいいよ、晶」
和也くんは私の片足を抱えると、さらに腰と腰を密着させてくる。
激しさを増すピストン運動に、パンッパンッと破裂音が響き渡る。
快感を貪欲に求め合う獣のようなその動きに、ついに私は果てそうになる。
「もう、イキそうっ! かずやくんっ、わたしっ、イッちゃうっ!」
「ああっ、俺も、イキそうだ……」
「かずやくんっ! かずやくんッ! すきっ、すきいっ! アッ、んッ、くっ、イクッ! あっ、ああああぁあぁぁッ!!!」
達するその瞬間、私は和也くんの体にしがみついた。
ぎゅうっと両手両足で抱きしめるようにして掴まり、体の内からとめどなく溢れる快感をなんとか逃がそうとする。
未だビクビクッと震えながら呼吸を整えようとする私に、和也くんが優しく囁いてくる。
「ふうっ……好きだよ、晶」
「はあっ、んっ、はぁ、ふぅ……うんっ、私も……」
二人で行為の余韻に浸っていた、そのとき。
「……はあ……。もう、お兄ちゃんなにやってんの?」
いきなり現れた第三者の声に思わず飛び上がりそうになる。
慌てて振り返ると、そこにいたのは妹の綾だった。
「っ!? あ、綾!? ど、どうしてここに……今日は友達の家に泊まるんじゃ……」
「産まれたときの性別変えるの流石にやりすぎだったかなあ。遡りすぎたせいか全然違う状況になってるんだもん、わたしも驚いちゃったよ。というか、なに勝手に彼氏なんか作ってんの?」
なんだか苛立たしげな顔で私たちのことを睨みつけてくる綾。
何をそんなに怒ってるんだろうか。
和也くんの話なら前にもしたと思うんだけど。
「はあ……。お兄ちゃん童貞だったからってちょっと油断してたなあ。たしかに美少女になったら彼氏の一人ぐらい作ってたっておかしくないかもしれないけど……はあ、本当にもう、ムカつく……」
綾が何やら独り言を言っている間に私たちは急いで服を着る。
すると、和也くんが恐る恐るといった様子で私に声をかけてきた。
「晶、この子は妹さん? なんだかすごく怒ってるみたいだけど……」
「あ、うん。妹の綾だよ。なんか機嫌が悪いみたいで……ごめんね、和也くん。綾、紹介するね。こっちは私の彼氏の和也くんで……」
「あ、いいよ、そんな紹介しなくて。その人にはもう消えてもらうから」
「え?」
綾がいきなり手に持っていたノートに消しゴムをかけ始めた。
すると、頭にモヤがかかったように意識が薄れ、はっきりとしてきた次の瞬間には、その場には私と綾の二人しかいなかった。
「あれ? 今ここにもう一人誰かいたような……いや、私と綾しかいなかったよね……あれ? なんだろう、何かおかしいような……というか、今なんの話してたんだっけ……」
「いいのいいの、気にしないで。お兄ちゃんには彼氏なんかいなかったことになったから」
綾が一人で勝手に頷いている。
綾はいったいなんの話をしているのだろうか。
「というか綾、何? そのお兄ちゃんって。何かの遊び?」
「うわー、なんか全然違う性格になっちゃったね。女の子に産まれてたらこういう感じになってたのかな。ふふっ、なんだか面白い」
「? さっきから何を言ってるの? 私にもわかるように言ってほしいんだけど」
綾が何を言っているのか全然わからない。
この子は昔から私のことをからかったりしてくるし、もしかしたらまた遊ばれているのかもしれない。
別に姉妹仲が悪いとは思わないけれど、姉としての威厳が私には足りてないような気がする。
「えっと、お兄ちゃ……いや、お姉ちゃん、このノートのことは覚えてる?」
綾が一冊のノートを見せてくる。
年季の入った地味な装丁の大学ノートで、少なくとも私は全く見覚えがない。
「知らないけど、そのノートがどうかしたの?」
「あ、そこからなんだ。説明は……面倒だから、まあ、しなくていっか。かなり遡って改変したからさっきまでと状況が全然違うね。ノートに書いてある出来事もわたしの知らないことばかりだし」
綾がパラパラとノートをめくっている。
全然話についていけないけど、説明してくれるわけでもなさそうなので私は黙って待つしかなかった。
「え、お兄ちゃん前にも彼氏いたことあるの!? もう、ちょっとモテすぎじゃない? 全部消しちゃお」
綾がノートに消しゴムをかけると、また一瞬頭にモヤがかかり、意識がはっきりとしたときには何か正体不明の喪失感が私の頭の中に広がっていた。
「ん……なに、これ? 私の中の何かが、なくなって……」
「ふふっ、これでよし。お姉ちゃん、今まで彼氏っていたことあったっけ?」
「え? そんなのいないよ。私なんかに彼氏なんてできるわけ……」
今まで男の人と付き合ったことなんて一度もない。
なんだかそういうのって少し怖いし、私にはまだ早いような気がする。
自分で言ってて恥ずかしい話だけど、何故か綾は嬉しそうに頷いていた。
「よしよし。お兄ちゃんに男なんか寄らせないもんね。……うーん、でもほっといたらすぐ悪い虫が寄ってきそうだし……それならこうしようかな」
綾が何かノートに書き込むと、また頭にモヤがかかったように意識が薄れる。
何が起こってるのかわからないけど、さっきからこの現象が起きる度に私の中の何かが変わっている。
そんな気がしてならない。
「ねえ、お姉ちゃん。お姉ちゃんって実は男の人より女の子の方が好きだよね」
「えっ!? あ、綾、なんでそれを……」
誰にも話したことのない私の秘密を言い当てられ激しく動揺してしまう。
私はあるときから男の人より女の人の方が好きだと気づいた。
男の人は乱暴で苦手だし、付き合うとしたら断然女の人の方がいい。
あまり大きな声で言えることでもないので、今までずっと黙っていたのに……。
「これならさっきよりはマシかな。でもまだ足りないかも……。今のお兄ちゃん、なんか天然っぽくて見てて危なっかしいし。……そうだ! わたしの方がお姉ちゃんになったら悪い虫から守れるよね! わたし、お姉ちゃんも欲しかったけど、実は妹も結構欲しかったんだよね」
そう言って綾がノートに何かを書き込む。
すると、頭の中に大きなモヤがかかっていき、たちまち意識が朦朧としてしまった。
────────
「……ん? あれ、なんかふらふらする……」
ぼーっとして、頭がうまく回らない。
なんだろうと思っていると、すぐに意識がはっきりとしてくる。
「そうだ、私、テスト勉強してたんだった」
勉強机でテストに向けて勉強を進めている途中だったことを思い出した。
勉強途中に眠くなってしまうのは良くない。
もっとちゃんと集中しないと、テストで失敗してしまう。
中学生になって最初の中間テストがもうすぐある。
こういうときは最初が肝心だってお母さんも言ってたし、しっかり勉強しなくちゃ。
改めてペンを握り直して勉強に集中しようとしたそのとき、ドアが開く音と共に誰かが入ってきた。
「お兄ちゃん、どんな感じになった?」
ノックもなしに部屋へ入ってきたその人の声は、聞き慣れている私の家族のものだった。
「お姉ちゃん? 急にどうしたの? 何か用事?」
私が声をかけながら振り返ると、何故かお姉ちゃんは目をキラキラと輝かせて私を見つめてきた。
「わあっ! お兄ちゃん、ちっちゃくて可愛い! それにお姉ちゃんって……ふふっ、いいねえ、いいねえ!」
お姉ちゃんは急に近寄ってきて私を抱きしめようとしてくる。
突然のお姉ちゃんの奇行に私は困惑するばかりだった。
「な、何? どうしたのいきなり。というか、そのお兄ちゃんって何?」
「ふふっ、ごめんね。なんでもないよ」
なんだかよくわからないけどお姉ちゃんは楽しそうに笑っている。
すると、お姉ちゃんは手に持っていた古ぼけたノートを開いて中を見始めた。
あのノートはなんだろうか。
「どれどれ、わたしの可愛い妹の晶はどんな人生を歩んできたのかな?」
「か、可愛いって……そんな、藪から棒に……」
頬が赤くなっていくのを感じながらお姉ちゃんの方を見ていると、パラパラとノートをめくっていたお姉ちゃんの手があるところでピタリと止まった。
「えっ!? ……ふふっ、そっか。晶、わたしのことが好きなんだ」
お姉ちゃんが含むような笑いを浮かべながらこちらを見てくる。
「い、今更何言ってるの? 私、お姉ちゃんのこと大好きだよ」
改めて口に出すと少し恥ずかしい。
私はずっとお姉ちゃんのことが好きで、去年そのことを伝えたら、お姉ちゃんも私の気持ちに応えてくれた。
姉妹で付き合ってるなんて変な話かもしれないけど、そんなことは私たちには関係ない。
「なるほどね、こうなるのかー。……でも、こういう関係も悪くないかも。ふふっ……ね、晶。ちょっとこっち来て」
お姉ちゃんが私のベッドに腰をかけて、こちらに手をこまねいてくる。
「え、でも、私今勉強してて……」
「大丈夫大丈夫。わたしが後で勉強教えてあげるから」
「本当? じゃあ、ちょっと休憩しようかな……」
ちょうど集中が切れたタイミングだったし、私はお姉ちゃんの誘いに乗って隣にちょこんと腰をかけた。
「ふふっ、こんなにちっちゃくなっちゃって。撫でたくなっちゃうな」
お姉ちゃんが私を抱きしめて頭を撫でてくる。
落ち着くけれど、その言い方は少し気になる。
「これでも、ちゃんと背は伸びてるよ。いつまでも子供じゃないんだから」
「そっかそっか。ごめんね、よしよし」
そのままお姉ちゃんは私の全身を撫で回してきた。
心が安らいでいくけど、それと同時に私の中に悶々とした感情が湧いてくる。
「お、お姉ちゃん……。今日はお母さんたちいないし……あれ、してほしいな……」
「? あれ? あれってなに?」
お姉ちゃんが首を傾げて聞き返してくる。
わかってるくせに、こうやって焦らしてくるところは少し意地悪だと思う。
「だ、だから……その……わ、私のお股を……触って、ほしい……の……」
わたしの弱々しい声を聞くと、お姉ちゃんは一瞬固まってしまった。
何故だか、予想外といったような顔をしている。
「え、わたしそんなことまでしてたんだ……。本当だ、ノートにも書いてある。妹相手にこんなのいいのかな……まあ、いっか」
お姉ちゃんは少し困ったような顔をしていたけれど、やがて納得するように頷くと、わたしをベッドの上に押し倒してきた。
「晶がしてほしいなら、お姉ちゃんが気持ちよくしてあげるね」
妖しげな笑顔を浮かべるお姉ちゃんを見て、背筋がゾクゾクとしてくるのを感じる。
お姉ちゃんに触ってもらえる。
そう思うだけで、私の体は昂りを抑えられない。
お姉ちゃんが私のスカートを捲り、中に履いている下着をずらしていく。
「あらあら、晶、もうここすごく濡れてるよ。そんなに触ってほしかったの?」
「……う、うん」
私は手で顔を隠しながら答える。
心臓がドキドキと高鳴り続けて、もうお姉ちゃんの顔もまともに見れなかった。
早く、触ってほしい。
「じゃあ、まずはクリから……」
お姉ちゃんの指が、私のお股にある突起に触れる。
「んひゃうっ! ……ああっ、はぁ……」
「ふふっ、可愛い声だね。もっと大きな声出してもいいからね」
人差し指で押しつぶすように、あるいは親指と人差し指で挟んでクニクニとつまむように、私のクリトリスがいじられていく。
私は快感に悶えながら、ただ喘ぎ声を上げる。
気持ちいい。
お姉ちゃんが触ってくれて、とても気持ちいい。
力のこもった両手は無意識のうちにシーツを握りしめていた。
「晶、気持ちいい?」
「うんっ、うんっ! きもち、いい、よっ、んっ!」
「ふふっ、そう。よかった」
お姉ちゃんの優しい声を聞くと体が勝手に震えてしまう。
心地いいぬるい波が全身に広がり、自然と感情が昂って制御できなくなってくる。
「おねえちゃん、はあっ、んっ、もっと、してぇ……」
「うん、いいよ。それじゃあ、指、挿れてみようか」
すると、ピクピク動いていた私のお股の割れ目に、お姉ちゃんの細くて綺麗な指が侵入してきた。
「んんっ、きた、おねえちゃんの、ゆびぃ……あっ、んっ!」
「あっ、すごい、締めつけてくる。晶の中、すごくあったかいね」
お姉ちゃんの指の温かさをお股の奥で感じる。
お姉ちゃんと、今繋がってる。
お股の奥からじわじわと広がる波のような快感が、じっくりと浸透していくように私の頭を融けさせていく。
気づくと、いつの間にか私は涙をこぼしていた。
「んっ、あっ、きもちいぃ……きもちいいよぉ、おねえちゃんっ! あっ、あんっ!」
「あれ、晶、泣いてるの? ふふっ、そんなに気持ちいいんだ」
お姉ちゃんが空いている指で私の涙を拭う。
私はその指を強引に掴み取ると、口に咥えて舐め回した。
もっと、ほしい。
もっと、お姉ちゃんがほしい。
「んっ、ちゅっ、れろ……んっんっ、んちゅぅ……」
「! ……ふふっ、赤ちゃんみたい。可愛いなあ。それじゃあ、そろそろイかせてあげようかな」
お姉ちゃんが指の動きを早くする。
既に限界に近いほどに昂っていた私の体は、速度を上げて快感に飲まれていく。
電流が流れるような激しい快感に、私の頭はショートする寸前だった。
もうだめっ……イっちゃうっ……!
「んっ、ちゅるっ、ぷはっ、んんッ! ああっ、すきっ、おねえちゃんっ、すきっ、すきいっ! あっ、くっ、ッ!! んあッ! イクッ、あッ、んんッ、ああああぁあああぁぁッ!!!」
瞬間、溜め込まれた快感が爆ぜた。
すさまじい衝撃を伴って全身に駆け巡ったその快感に、私は跳ねるように体を痙攣させる。
お姉ちゃんの手を両手で抱きしめながら、海老反りになって股間を突き出すような格好で快感を堪えた。
一番高いところまで登った快感の波がなかなか引いてくれず、私はしばらくの間ビクンビクンッと壊れたように震えるばかりだった。
「うわ、すご……晶、大丈夫?」
お姉ちゃんの声すらまともに聞くことができないほどに快感に飲まれた私は、なんとか落ち着こうと深く呼吸をした。
少しずつ息を整え、やがて全身の力が抜けていき、ようやく背中をベッドにつけて落ち着くことができた。
「はあっ、はぁっ、ふぅ……」
「晶、どうだった?」
「……気持ち、よかったよ。……ありがとう、お姉ちゃん……」
余韻に浸りながら、私はお姉ちゃんにお礼を告げた。
お姉ちゃんは満足したような顔で頷きながら、私の頭を撫でてくれた。
好きな人に撫でられているというただそれだけで、私の胸の中には幸福感が溢れてくる。
ああ、本当に幸せ。
「さて、ここら辺で一旦お兄ちゃんには全部思い出してもらおうかな」
唐突にそんなことを言い始めたお姉ちゃんは、傍らに置いていたノートを手に取り何かを書き込み始めた。
何をしているのだろうと思い眺めていると、急に頭の中に大きなモヤがかかっていった。
あれ、この感覚は……。
────────
次の瞬間、俺は全てを思い出した。
ノートのことも、女にされたことも、今綾の妹にされていることも。
俺はベッドから跳ね起きて綾のことを睨みつけた。
「お、お、お、お前ぇ! な、な、何してんだよっ!」
全く迫力のない少女の声で俺は綾に問いただした。
綾は微笑ましいものを見るかのような目でこちらを見返してくる。
「なにって、そっちがしてほしいって言ったんだよ、晶」
「うるさいっ! さっきまでのは、何かの間違いだ!」
「そんなことないよ。あれは晶の本心だもん。そうでしょ?」
綾の言葉に、俺は思わず黙ってしまう。
さっきまでの、綾の妹としての俺の感情がまだ残っているため、明確に否定することも俺にはできなかった。
「今はね、ノートに記憶を取り戻すように書いて一旦元のお兄ちゃんに戻ってもらったの。ある判断をしてもらうために」
「ある判断?」
綾がノートと鉛筆と消しゴムを俺に手渡してきた。
最初に綾が書いたノートに触れないという文はもう消してあるのか、俺にも問題なく触ることができた。
今更渡してきて、どういうつもりだ?
「そのノートの表紙に書いてある名前を消すとね、これまでの改変が確定されてもう戻せなくなっちゃうの」
「なっ!?」
戻せなくなってしまったら、俺はこのまま綾の妹として残りの人生を送ることになる。
「そ、そんなことになってたまるか! 俺は元の体に戻るぞ!」
「本当にそうしたい?」
「……え?」
何を言ってるんだ、綾は。
そんなの、戻りたいに決まって……。
「お兄ちゃん、さっきまであんなに幸せそうだったのに、本当に戻りたいの? わたしは別にどちらでもいいけど、せっかくだからお兄ちゃんに選ばせてあげる」
綾が笑顔で俺のことを見てくる。
俺は、元の体に、戻りたくて……。
でも……。
「元の体に戻りたいならノートにそう書いて。そうすれば全部元通りで、お兄ちゃんは男としての人生を送ることになる。でも、そうじゃないなら、表紙に書いた名前を消して。そうしたら、今のお兄ちゃんとしての記憶も消えて、わたしの妹の晶としての人生がお兄ちゃんを待ってるよ」
「お、俺は……」
相反する感情が俺の中で相克していた。
男として生まれたのだから、男として生きていくのが当たり前だというプライド。
大好きなお姉ちゃんにもっと甘えたい、もっと愛されたいという欲求。
俺が本当に在りたい形は、送りたい人生はどっちだろう?
「ねえ、どっちがいいの?」
綾が俺の目を見て呟く。
俺は……俺は……私は……。
胸の内の欲求に突き動かされるままに消しゴムを手に取り、表紙に書かれた『下倉晶』の文字を消した。
「ふふっ、これからよろしくね、晶」
────────
「お姉ちゃん、ちょっといい?」
私は扉をノックして中にいるお姉ちゃんに声をかけた。
「ん? いいよ、入って」
お姉ちゃんの返事を受けて私は部屋の中に入る。
お姉ちゃんは床の上に横たわり雑誌を広げていた。
「晶、どうしたの? なにか用?」
「えっと、勉強教えてほしくて……」
「あー、そういえば教える約束してたね。いいよ、ほら、おいで」
お姉ちゃんはテーブルの前に座り直すと隣にクッションを置いた。
私はその上に腰をかけると、教科書とノートをテーブルの上に広げた。
「なにが教えてほしいの?」
「とりあえず、英語かな。あんまりよくわからなくて……」
「あー、まあ最初はわからないよね。いいよ、見せてみて」
本当はそこまでわからないわけじゃなかったけど、お姉ちゃんと一緒に勉強したかったから少しわからないふりをしてしまった。
でも、やっぱり私よりよくわかってるお姉ちゃんに教えてもらった方がわかりやすいし、こっちの方が自分のためになってると思う。
「……ふふっ、でも大学生だった晶にこんな中学生の英語教えることになるなんてね」
「? 大学生? なんのこと?」
「いや、なんでもないよ。こっちの話」
最近、お姉ちゃんはたまによくわからないことを言うようになった。
私に対して、大学生だとかお兄ちゃんだとか。
聞き返しても誤魔化したりして教えてくれないので、少し不満だ。
「……でね、それでここは……ん? どうしたの晶? 話聞いてた?」
「ああっ、えっと、ごめん少しぼーっとしてた」
「もう、せっかく教えてあげてるんだからちゃんと聞いてよ」
お姉ちゃんが呆れた顔でこちらを見てくる。
いけないいけない。
せっかくの幸せな時間に余計なことを考えている場合じゃない。
もっとちゃんと集中しないと。
「うーん、そうだなあ。……じゃあこうしようか。次のテストで晶が10番以内に入れたらとっておきのごほうびあげちゃう」
「ご、ごほうびって?」
「それは、言わなくてもなんとなくわかるでしょ?」
お姉ちゃんが私の頭を撫でてくる。
私の心臓がトクンと強く跳ねた。
「ごほうび欲しかったら、ちゃんと勉強頑張ろうね」
「う、うん……」
お姉ちゃんはやる気を出してほしくて提案したのかもしれないけど、頭の中が悶々としてしまって逆効果な気がしてならない。
実際、今の話をしてただけでパンツの中のお股の間が、少し湿っている気がする。
これじゃあ集中できるか怪しいけど、ごほうびのために頑張らないと。
私はお姉ちゃんとのこれからの幸せな人生を思い描きながらペンを握り直した。