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氏裸 from fanbox
氏裸

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【小説】俺の友人は私の親友で私の彼氏は俺の彼女

「わたしね、実は他人と入れ替わってるんだ」


突然の告白に、俺は間の抜けた顔を目の前の少女に向けることしかできなかった。


「えっと……なんだって?」

「だから……わたし、他の人と入れ替わってるの。意味わかる? 大門くん」


繰り返し告げられる言葉にやはり俺は何も返すことができない。

放課後の誰もいない空き教室を静寂が包む。

どうしてこんなことになってるんだろうか。

普段あまり会話をしないクラスメイトの蔵前彩芽が、俺こと大門優一に対しいきなり放課後に話があると言ってきたのが全ての始まりだ。

ショートボブの髪型の小柄な美少女である蔵前はクラス内外から可愛いと評判だ。

そんな女子から急に声をかけられ、浮ついた気分になりながら約束の時間を待ったのだが……。


「入れ替わってるっていうのは……あの、漫画とかでたまにある『私たち、入れ替わってる〜!?』みたいなやつ……のことか?」

「うん、そういうことだよ」


にっこりと微笑む蔵前に俺は困惑してしまう。

こういう冗談を言う子だとは思ってなかったのだが。


「もしかして信じてない? まあそうだよね。いきなりこんなこと言われても困るよね。でも、前にこういう話したじゃない? 覚えてる?」

「……俺はした覚えはないんだが」


流石に話についていけなくなってきた。

一体この子は何が言いたいんだろうか。


「前にしたときはまだわたしじゃなかったからわからないかな。前に大門くん、押上くんとしたでしょ? もし漫画みたいに女の子と入れ替われたらどうするかって話を」

「……!」


俺は言葉を詰まらせた。

押上というのは俺の友人だ。

フルネームは押上要。

気弱で大人しい奴だが不思議と趣味が合うのでよく連んでいる。

そして、俺は確かに先日押上とそんな話をした。


『大門君はもし女の子と入れ替われたらどうする?』

『どうするって……そんなこと考えたこともないな』

『そっか。僕は、色々したいことあるけど……』


軽くしただけの冗談混じりの話題だ。

けれど押上の言葉にはどこか本気で言っているような雰囲気を感じてもいた。

いや、しかしだからと言って……。


「……実はあんたの中身は押上だって言いたいのか? なあ、蔵前。俺をからかってるのか? どうせその話も押上から聞いたんだろ? 二人でグルになって、何がしたいんだ?」


不信感を露わにする俺に対して、蔵前はあくまで態度を崩さない。

少しだけ困ったような顔をしながら俺に問いかけてくる。


「やっぱり信じてもらえない? どうしたら信じてくれるかな?」

「そうだな……俺と押上しか知らないはずのことを俺が聞いて答えられたら少しは信じてもいいが」

「あ、それは無理かも。入れ替わってからだんだん元の身体の記憶が朧げになっちゃって、今じゃ印象の強かったことしか覚えてないんだよね」


ごめんね、と舌を出しながら謝罪してくる蔵前。

随分と向こうにとって都合のいい入れ替わりだ。

それならいよいよ何をもって信じられるというのだろうか。


「じゃあ裸でも見せてくれよ。前に押上と話したときに俺は言ったぞ。もし女と入れ替われたら友人のよしみで裸を見せてくれって」


俺は挑発的な態度で蔵前に告げた。

クラスメイトにこんなセクハラ発言をするのはかなりギリギリを攻めているが、流石にここまで言えばこの妙な茶番も終わるだろう。

しかし。


「いいよ」

「え?」


蔵前は突然俺の目の前で服を脱ぎ始めた。

ワイシャツのボタンを外していき、スカートまで脱いでしまい、あっという間に下着だけの姿になってしまった。


「おい、マジかよ……」

「どう? これで信じてくれる?」


蔵前は妖しげな笑みを浮かべながら俺の方を見つめてくる。

自分から言い出しておいてなんだが、まさか本当に裸になるとは……。

ちなみに押上とこの話をしたときは『友達の前とはいえ流石に裸になるのはちょっと……』と否定的な言葉を返されていたのだが……。

これではむしろ信じられないという気持ちが強まってくる。

ちゃんと事前に押上と打ち合わせをしておかなかったのか、それとも先ほど言ったようにその話をしたときのことをよく覚えていないのか。

いずれにしても俺はただ彼女の方を見て息を飲むことしかできなかった。


「これでもダメ? それなら……エッチなこと、してあげようか?」

「っ!?」


ぐいっと一気に俺の方に詰め寄ってきた蔵前が、俺の首に手を伸ばしてきた。

そのまま、きめ細やかな指先で撫でるように触れてくる。


「な、何言って……」

「大門くん、カッコいいからわたしは全然構わないけど、どうする?」


妖艶な美少女が、密着したまま俺を見上げてくる。

そこまでしろなんて言ってないとか、そもそも押上は同性愛者じゃないんだからそんな提案するわけないとか、色々なことが頭に浮かんだが、どんどん高鳴っていく激しい心臓の鼓動に全てかき消されてしまった。

もう、どうにでもなれだ。


「……してくれるなら……信じてもいい……」

「ふふっ、ありがとう」


そう言うと、蔵前は俺のスボンのベルトを緩めてきた。

そしてズボンごとパンツを下ろすと、その下に隠れていた俺の股間に手を伸ばしてくる。


「これが、男の人の……。そっか、これが前はわたしにもあったんだね。もうその感覚もあんまり覚えてないけど……ふふっ、なんだか不思議な気分……」


蔵前が何かを呟きながら、俺の男性器を握りしめた。

冷たい指が触れ、ゾクゾクとした感覚が体を駆け抜ける。


「わ、すごい……どんどん大きくなっていく……」


すぐに俺の男性器は興奮で激しく反り勃つ状態となった。

それを興味深げに観察した後、蔵前は手を動かし始めた。


「たしか、こうすると気持ちいいんだよね。しこしこって、こすってあげれば……」


蔵前が手を上下に擦る。

亀頭の下のカリ首のところが細い指でなぞられ、その度に強い快感が湧き起こる。


「ふふっ、すごい、ビクビクしてる。気持ちいいんだね、大門くん。……そうだ、こうやって固くなったアソコをこするとどんどん熱くなって、気持ちよかったはず……」


蔵前は何かを思い出すように手を動かしていく。

その顔はだんだんと赤く染まっていき、息も乱れ始めていた。

内股を擦り合わせながら喘ぐように手を動かすその様を見ていると、俺の興奮はさらに高まっていく。


「はぁっ……わたし、濡れてきちゃった……」


そう言うと蔵前は俺の男性器から手を離し、履いていた下着を脱いでしまった。

露わになった彼女の股間は透明な液体で濡れそぼっており、差し込む夕日をテラテラと反射させていた。

蔵前は床に座り込むと手を広げて俺を誘ってきた。


「来て……」


俺は深く呼吸をしながら、蔵前に覆い被さった。

そして、震える手で自分の股間の性器を握り、蔵前の股間にあてがう。

一瞬の躊躇が頭をよぎったが、すでに興奮で限界に達していた俺はそのまま構わずに男性器を蔵前の股間に突き挿した。


「んんっ、入って……っきたぁ……!」


挿入した瞬間、ひだに覆われた彼女の膣内の感覚が直に伝わってきて、俺は融けてしまいそうな快感に包まれた。

深く突き挿したその先端は熱をもって激しく脈動していて、少し動いただけで電流が流れるような刺激が走り抜ける。


「んっ、……おねがい、動いて……あっ……」


蔵前に言われるままに俺は腰を動かす。

腰を浮かせて、また突き挿す。

すると、先ほどまでの何倍もの強さの刺激が伝わり、脳にバチバチと火花が散るのを感じた。

俺は動きを何度も繰り返す。

一突きごとに快感は強まり、次第に熱に浮かされて何も考えられなくなる。

途中からは意識せずとも勝手に腰が動いていた。


「んあっ、ああっ! すごいっ、奥、突かれてぇ……きもち、いい……!」


蕩けきった表情を浮かべてよがっている蔵前を見ていると、どんどん股間が熱くなっていく。

もう、俺も射精そうだ……!


「うっ……射精るっ……!」

「んっ、あっ、ああぁあぁッ!!!」


俺は深く腰を押し付けた。

性器の先端から勢いよく精液が吐き出される。

蔵前は体を震わせながら俺の体を抱きしめてきた。


「んっ、ああっ……はぁ、んっ……」


蔵前が息を整えながら満足げな表情を浮かべている。

それを見ていると、熱くなっていた頭が少しずつ冷めていくのを感じた。


「すまん、何も考えずに中に出した……」


冷静になっていく頭が今の状況のまずさを俺に訴えてくる。

流される形だったとは言え、学校でクラスメイトの女子といきなりこんなことをしてしまうとは。


「大丈夫だよ。それより、これで信じてくれる?」

「あ、ああ……」


信じられるわけではない、というか信じられる要素が全くないが、こんなことになってしまったら流石に彼女の言い分を聞かないわけにはいかない。

と、そこで俺は蔵前と密着しっぱなしであることに気づき、体を離して立ち上がり服を整えた。

彼女も隣で脱いだ服を着ていく。


「……蔵前ってこういうことよくするのか?」


思わず気になって尋ねてしまった。

普段そこまで話すような関係でもない相手とこんな風に体を重ねるのは、性に奔放というか、貞操観念が緩いというか。


「そんなことないよ。入れ替わってわたしが今のわたしになる前はエッチなことなんてしたこともなかったし」


蔵前は笑って否定してくる。

その笑顔はいまいち信用できない。

まあ俺はクラスで一二を争うほどの美少女とセックスができたのだから別に文句があるわけでもないのだが。


「……それで、あんたが押上と入れ替わってるとして、だ。それを俺に伝えてどうしたいんだ?」

「うん、そこからが本題なんだけどね」


服を着終えてこちらに向き直る蔵前と目が合う。

その顔はなんだかいたずらを思いついた子供のような笑顔だった。


「大門くんにも体験してもらいたいんだ。この入れ替わりを」


そう言うと、蔵前は懐から何かを取り出して差し出してきた。

それは、細長いゴムでできたヒモのようなものだった。

二つの先端にはそれぞれ赤い取っ手と青い取っ手がついている。


「なんだそれ? なわとびか?」

「違うよ。これはね、二人の人間の魂を入れ替えることができる『入れ替えゴムヒモ』だよ」


何故だか自慢げに語る蔵前。

見たところ、ただのなわとびにしか見えないが。


「これを二人が握っている状態でどちら片方の人が『入れ替え』って言うと、二人の魂が入れ替わっちゃうんだ。これを使って、大門くんには入れ替わってほしい相手がいるの」


蔵前は笑っているが、その眼差しは真剣だった。

正直なところこの荒唐無稽な話をこれ以上続けられてもこちらとしては困るのだが、だからと言って茶化す気にもなれず俺は問い返した。


「入れ替わってほしいって、誰と?」

「わたしの親友の、鳴海ちゃん」

「……なんだって?」


俺は思わず聞き返した。

鳴海というのは俺たちのクラスメイトの泉岳寺鳴海のことだろう。

泉岳寺は長い黒髪が特徴的な女子でクラスでも一二争うほどの美少女だが、蔵前と違って周りからの評判はあまり良くない。

正確に言うなら女子からの評判は悪くないが、男子からの評判があまり良くない

本人がかなりきつい性格をしている上に男嫌いを公言しているため、彼女と仲良くしようとする男は今では殆どいない。

かく言う俺も泉岳寺のことは苦手だ。


「おいおい、泉岳寺が相手だって? 勘弁してくれよ。俺、あいつ苦手なんだが」

「そうなの? でもごめん、呼んじゃったからもうすぐここに来るよ」

「……は?」


蔵前がほら、とメッセージアプリの表示されたスマホを見せてきた。

いきなりの急展開に頭がついていかない。


「……ちょ、ちょっと待て。それって泉岳寺が俺と入れ替わるためにもうすぐここに来るってことか?」

「そういうこと。あ、でも入れ替わりのこと鳴海ちゃんには言ってないから黙っててね?」

「は? ど、どういうことだよ? 泉岳寺には何も言ってないのか?」

「うん。だって鳴海ちゃん男の子嫌いなんだもん。男の子と入れ替わってなんて言えないよ。そのために大門くんに声かけたんだから」


めちゃくちゃだ。

俺自身今のこの状況を理解しきれていないのに、その上ここに何も知らない泉岳寺がやってくるなんて、もうどうしていいかわからん。


「安心して。大門くんはわたしの言う通りにしてればいいから」


蔵前がにっこりと微笑む。

そんなことを言われてもな……。

そうしていると、扉がコンコンとノックされた。


「はーい、今開けるよ」


蔵前が鍵を開けて扉を開くと、件の人物、泉岳寺鳴海が教室の中に入ってきた。

泉岳寺は俺がいることに気づくと露骨に不機嫌そうな顔をこちらに向けてくる。


「彩芽……私と二人だけで話があるっていうから来たのに、なんでソイツがいるのよ?」


もっともな意見だ。

俺だってなんで自分がここにいるのかわかっていない。


「ごめんね、大門くんがいるって言ったら来てくれないと思って。さ、入って入って」


蔵前に手を引っ張られて泉岳寺が俺の前までやってくる。

泉岳寺はこちらを向くと眉間に皺を寄せて睨みつけてきた。


「……そんなに睨むなよ。まだ俺何もしてないだろ」

「ここにいるってだけで不快なのよアンタは。わかったら口を開かないで」


早々に飛び出す罵倒に俺は辟易してしまった。

どうにも俺はこいつから嫌われている。

というのも泉岳寺とは委員会が同じでよく顔を合わせており、しかもその議論の場において意見が食い違うことが度々あり、元々の男嫌いも相まって酷いヘイトを買ってしまったようなのだ。

俺からすれば理不尽極まりない話だが。


「まあまあ落ち着いて、鳴海ちゃん。喧嘩はよくないよ?」


蔵前は泉岳寺を宥めながら先ほどのゴムヒモを取り出した。


「ねえ鳴海ちゃん、ちょっとこれ持ってて」

「は? なによそれ」

「いいからいいから」


そう言って蔵前は泉岳寺に無理やり赤い方の取っ手を握らせた。

そして、もう片方の青い取っ手を俺に握らせてくる。


「じゃあ、大門くん。例の言葉、お願いね」

「あ、ああ」


さっき説明していたのはたしか、二人が握った状態で『入れ替え』と言うと二人が入れ替わる、だったはず。

そんな魔法みたいなことが起こるわけないと思いつつ、もうどうにでもなれという気持ちで俺は呟いた。


「入れ替え」


するとその瞬間、突然持っていた取っ手が光り始めた。


「な、なんだ!?」

「なによこれ!?」


見ると、泉岳寺が握っている取っ手も光っている。

俺の方の取っ手は青い光、泉岳寺の方の取っ手は赤い光を放っている。

なんだ?

何が起こっているんだ?

蔵前の方を見ると、俺たちのことを微笑ましいものを見るかのような目で見ている。


「お、おいっ、これどうなってんだ!?」

「ふふっ、二人は入れ替わるんだよ」

「入れ替わるって、彩芽、どういうこと!?」


困惑する俺と泉岳寺をよそに蔵前はただにこにことしている。

やがて取っ手の光は強さを増していき、眩しさが限界に達した俺は目をつぶってしまった。

その瞬間、俺は何かに自分が吸い込まれるような不思議な感覚に襲われた。




────────




光が弱まってきたことに気づいた俺はゆっくりと目を開いた。

握りしめた取っ手から放たれる青い光は弱々しいものになっていてどんどんと小さくなっていく。

同じように、向こうの取っ手の赤い光もすっかり小さくなっていた。

と、そこで俺はあり得ないことに気づいた。

さっきまであの赤い取っ手を握りしめていたのはたしかに泉岳寺だったはず。

しかし、今俺の目の前で取っ手を握りしめているのは、半袖のワイシャツにベルトで留められた黒いズボンを履いている男子だった。

しかもその顔は……。


「お、俺っ!?」

「わ、私っ!?」


俺と目の前の男子は同時に声を発した。

待て、あいつは今私と言ったか?

ということは今の俺は、まさか……。

俺は自分の体を見下ろした。

半袖のワイシャツの上から白いベストを着ており、胸元にはリボンがついていて、足元は風にさらされて頼りないスカートを履いている。

そして、さっきから視界の端にチラつく黒く長い髪。

間違いない、これは……泉岳寺鳴海の体だ。


「二人とも、入れ替われたみたいだね」


思わず俺は声の方に顔を向けた。

そこにいるのは変わらずにこにこ顔でこちらを見ている蔵前。


「お、おい蔵前!? これはどういうことだよ!?」

「わ、すごい、鳴海ちゃんが男の子みたいに喋って私のこと苗字で呼んでる!」


蔵前は俺のことを見て楽しそうに笑っている。

一方俺は自分の喉から出た甲高い声に違和感を覚えていた。

いや、声だけじゃない。

髪のかかる肩も、スースーとする足元も、重たく感じる胸元も、全身違和感だらけだ。

今までと全く違う体に俺は戸惑うしかない。


「最初に言った通りだよ。大門くんはね、鳴海ちゃんと入れ替わったの」


落ち着いた声で蔵前が告げる。

しかし、どんな言い方であろうとそんな非現実的なことを受け入れられるわけもなく。


「そんな、入れ替わるなんて、あり得るわけが……」

「あ、やっぱり信じてなかったの? あそこまでしてあげたのに、もう……」


尚も現実から目を逸らそうとする俺を蔵前は呆れた顔で見ていた。


「ちょ、ちょっと、彩芽! これどうなってるのよ!? 説明しなさい!」


すると、慌てた様子の男の声が響き渡った。

声の主は、俺の体になってしまった泉岳寺だ。

俺の顔、俺の声で女みたいに喋るその姿は、別の意味で違和感が強い。


「ごめんね、鳴海ちゃんには説明してなかったけど、今鳴海ちゃんには大門くんと入れ替わってもらってるの」

「な、なんでこんな……」

「それと、もう一つ言ってなかったけど、実はわたしも入れ替わってるんだ。中身は押上くんになってるの」

「は……? あんた、なに言って……」


泉岳寺は未だ混乱の最中にいた。

無理もない。

話を聞いていた俺ですらこの現実を受け入れられていないのに、いきなりそんな話を聞いて納得なんてできるわけがない。


「……それで、俺たちをどうしようっていうんだよ?」


俺はなるべく心を落ち着けながら蔵前に尋ねた。

蔵前からはただ入れ替わってほしいと言う話しか聞いていないため、この状況を引き起こした目的がわからない。


「ふふっ……ねえ、大門くん。なにか感じない?」


俺の質問を逸らすように蔵前が言葉をかけてくる。

蔵前は最初にこの教室で会ったときのような妖しげな笑みを浮かべていた。


「何かって、なんだよ」

「そうだなぁ……エッチなきもち、かな?」

「は?」


こいつはまたいきなり何を言っているんだ。

さっきまでの行為を思い出したら、たしかに興奮する気持ちがないでもないが。


「なんだよ、またさっきみたいに抱かせてくれるのか?」

「あ、ごめんそれは無理。だって今の大門くん鳴海ちゃんになってるんだもん。わたし、女の子の友達とエッチなことする趣味はないよ」

「……」


蔵前の言葉に俺は不快感を覚えた。

さっきはあんなにノリノリでセックスまでしたくせに、体が違うだけでそんな風に拒否をするとは。

まるで俺という存在を認められていないかのような不愉快さだ。

しかし、俺だって元々女だった男のことを性的な目で見ることができるかと聞かれたら答えに窮するので、よく考えてみると彼女の言い分ももっともなのかもしない。


「うーん、大門くんの方はまだ始まってないみたいだね。それじゃあ鳴海ちゃんの方はどうかな?」


俺は蔵前の言葉に釣られて泉岳寺の方を見た。

そこで俺は、泉岳寺の様子がおかしいことに気づいた。


「はぁ……はぁっ……んっ……」


息を乱しながら自分の体を両手で抱きしめている。

よく見ると顔は真っ赤になっており、明らかに具合が悪そうだ。


「お、おい泉岳寺、大丈夫か?」

「うる……さいっ……彩芽、どうなってんのよ……これ……」


泉岳寺は忌々しげな表情で蔵前を睨んだ。

しかし、その顔は苦しそうというよりは少し色っぽいというか、なんだか艶めかしいものに感じた。


「鳴海ちゃん、今すっごくエッチなことしたいでしょ? それは入れ替えゴムヒモの効果でね。身体を入れ替えると入れ替わった相手とエッチなことがしたくてたまらなくなっちゃうの」

「なっ!?」


俺は驚きのあまり声を上げてしまった。

今あの俺の体をになった泉岳寺は泉岳寺の体になった俺に欲情しているということか?

冗談じゃない。

他人の体になって、自分の体をした奴に襲われるなんて勘弁してほしい。

こんな話は聞いていないぞ。

蔵前の奴、一体何を考えて……。

と、そんなことを考えていた次の瞬間、いきなり心臓がドクンッと跳ねた。


「くっ……なんだ、これ……」


体が急に熱くなり、目眩がして立っているのが辛くなってきた。

自然と息が乱れ始めて、どんどん落ち着かなくなっていく。

耐えられなくなった俺はその場に座り込んでしまった。


「あ、熱い……喉が、渇いて……」


俺は熱に浮かされたまま喘ぐように呟いた。

すると、いつの間にか俺の前に立った泉岳寺がこちらを見下ろしていた。


「はぁっ……んっ、くっ……もう、我慢できない……」


泉岳寺はわなわなと手を震わせながら俺に覆い被さってきた。

咄嗟のことで反応できず、俺は泉岳寺に上から抑えつけられてしまった。


「な、何すんだよ……」


そう言いながら泉岳寺のことを見上げると、目が据わった俺の顔が目に入った。

その瞬間、体の熱がどんどん増していき泉岳寺から目が離せなくなってしまった。

なんなんだ、この感じは……。

まるで、元の自分の体を見て興奮してるみたいな……。


「どうせ私の体なんだし、好きにさせてもらうわよ……」


そう言うと泉岳寺は荒々しい手つきで俺が着ているベストとワイシャツを脱がしてきた。

ベストを胸元まで捲り、ワイシャツのボタンを外すと、ブラに包まれた胸が露わになった。

自分の胸にそんなものがついているということに強い違和感と同時に謎の高揚感を俺は感じていた。


「お、俺に……胸が……」

「黙ってなさいっ! あんたは、私にただめちゃくちゃにされてればいいのよっ……」


泉岳寺は俺の上で怒鳴ると、そのままブラジャーをずらして乱暴に俺の胸を揉みしだき始めた。


「んっ……なんだ、これ……あっ……」


胸についた脂肪の塊が逞しい男の手に揉まれる。

初めて経験するその感覚に俺はつい変な声を上げてしまう。


「あはっ、いい声出すじゃない……ほら、もっと鳴きなさいよ……!」

「んひっ!? それっ……くぅっ……!」


泉岳寺が俺の乳首を指で押し潰してくる。

その敏感な先端からピリッとした刺激が伝わってきて、口からどんどん甲高い女のような嬌声が漏れてしまう。


「私の胸……無駄に大きくて邪魔だと思ってたけど、こうして見ると悪くないわね、あははっ!」


泉岳寺は楽しそうに俺の胸を揉んでくる。

俺はされるがままになっているというのに、先ほどまでよりさらに強く興奮していた。

女の体、気持ちいい……。

だんだんと俺は、切なく疼く股間の奥が気になって仕方なくなっていた。


「あっ……んん……ふぅっ……」


体をよじらせてそのもどかしさに耐えていると、俺の異変に気付いたのか泉岳寺がニヤリと笑った。


「あんた、パンツびしょびしょじゃない。なに興奮してるのよ、この変態」

「う、うるさい……お前の方が、よっぽど変態だろ……」

「ふーん、言ったわね……」


すると、泉岳寺は無造作にベルトを外し、パンツの下からビンビンに勃起した男性器を出した。

俺の目は、その固く反り勃つ逞しい姿から目が離せない。


「そんなに言うなら、ここからはもう容赦しないから」


赤く頬を染めて上気しながら、泉岳寺は俺のスカートの下に手を伸ばした。

湿ったパンツをずらし、準備万端とばかりに濡れそぼったそこに、勢いよく股間を突き出してくる。


「んッ!? あ、ああぁッ!」

「入っ……たぁ……すごい、これが、私の膣内……きもち、いい……」


体を突き破られるような激しい衝撃と共に強い異物感が体の中に潜り込んでくる。

内側から圧迫されるような苦しさと強引に棒をねじ込められる痛みに襲われるが、そんな苦痛と同時に頭が焼き切れそうなほどに快感が湧き上がり、俺の意識は飛びそうだった。


「んくっ、あっ、ああッ! ダメだっ、これっ、やばいって、んんッ!?」

「あははっ! そうよ、もっと鳴きなさいっ! その声で、もっと私を昂らせなさいよっ!」


泉岳寺が腰を上下に激しく動かし始めた。

こちらを気遣うつもりなど全くない、乱暴な動き。

しかし、その動きによって俺にもたらされる快感はさらに激しさを増していき、どんどん頭が真っ白になりそうだった。


「ダメだっ、マジで……これっ、きもちよすぎて……」

「あは、すごい……私も、もう、なにも考えられないっ……!」


すると、真っ白になりつつあった俺の頭の中に変な景色が浮かんできた。

見たこともない家、見たこともない部屋、見たこともない両親に囲まれる、俺の知らない記憶。


「んっ、な、なんだ……? 今、変なものが、頭に……んあっ……」

「この人たち、誰……? 私の家族じゃないのに、なんだか、知ってるような……」


すると、それまでずっと黙ったまま俺たちを見ていた蔵前がこちらに近づいてきた。


「あ、やっと始まったみたいだね、精神の入れ替わりが」

「そ、それって、どういう……」

「入れ替わった二人でエッチなことをするとね、だんだん記憶や性格まで入れ替わっちゃうの。そうなったらもう元には戻れなくなっちゃうんだけどね」

「なっ!?」


蔵前の言葉に俺たちは愕然とした。

精神が入れ替わる上に戻れなくなるだって?

このままだと、俺が精神まで泉岳寺になってしまうというのか。

そんなのは御免だ。


「んっ……おい、腰の動き、止めろっ! んあっ! このままじゃ……あんっ!」

「うるさい、そう言うあんただって、自分で腰動かしてるじゃない! ……っ! もうっ、なんで、やめられないのよ……!?」


俺たちは互いにもうやめた方がいいとわかっているのに、快楽を貪ろうとするその体を止めることができない。

そうしているうちに、頭の中にはどんどん俺ではない別の何かが入り込んでくる。


「や、やめろ……俺は、男、なのに……なんで、こんな、私……いやっ、違う、私じゃなくて、俺で……」

「ああっ、私が、私じゃなくなっちゃう……私の両親は……あれ……どっちが、俺の両親……?」


だんだんと自分という存在が朧げになってくる。

まずい、このままじゃ本当に泉岳寺鳴海になってしまう……!


「うんうん、いい感じに入れ替わってきたね。もう身体の方の名前で読んだ方が伝わりやすいかな? ……ふふっ、どう? 気持ちいい? 大門くん」

「彩芽……! 違うっ、俺は泉岳寺で、大門なんかじゃ……」

「そんなことないでしょ? 記憶の方もどんどん入れ替わってるし、もうさっきわたしとエッチしたことも思い出せるんじゃない? ねえ、わたしと鳴海ちゃんとどっちの膣内が気持ちいい?」

「お、俺……さっき彩芽と……蔵前と、セックスを……? な、なんだよ、この記憶……」


繋がったまま腰を振り続ける目の前の男が、どんどん外見にふさわしい喋り方に変わっていく。

そして、その現象は私の方にも起こっていて。


「や、やだあっ、なんで私が、泉岳寺なんかに……なんでこんな女にならなきゃいけないのよっ!」

「ふふっ、いいじゃない、鳴海ちゃん。もう男の子が嫌いな性格になってるんじゃないの? 男の子でいるより女の子の方が良くない?」

「そ、そんなの……私は……男なんか嫌いに決まって……あれ……? 私、なに言って……んあっ!」


もう頭の中がぐちゃぐちゃだった。

自分が誰なのかもよくわからない。

しかし、そんな中でもただ自分が気持ちいいということだけは間違いなかった。

ぐちゅぐちゅと音を鳴らし続けている私たちの接合部は強い熱と快感を発し続けていて今にも爆発しそうだ。


「くそっ、もうっ……限界だ……! 俺が、俺に……」

「私が、私になっちゃうっ! んんっ、ああッ!」


なにかが来る。

その瞬間が、『俺』という存在の最期なのだと私はなんとなく理解した。

そして、そのときが訪れた。


「んっ、くうっ、ダメだっ、射精るっ……!!」

「んあっ、あっ、んんッ!? イクッ、ああッ、あああああぁッッ!!!」


私の全身が壊れたようにビクンッビクンッと跳ねた。

足は爪先まで力がこもってピンと伸びきっていて、ビクビクと震え続けている。

私に腰を押しつけた大門は私の体を抱きしめながら覆い被さっていた。

私は所在なさげに宙に伸ばすしかなかった両腕を大門の肩に回し、なんとか息を落ち着けた。


「はぁっ、はぁ……んっ、ふぅ……」


まだ体には快感の余韻が残っていて、どこか心地の良い状態で体の力が抜けてきた。

と、そこでようやく頭が冷静になってきた私は、今自分があり得ない状態にあることに気づいた。


「っ! いい加減離れなさいよ、この変態っ!」

「いてっ!?」


私は全力で大門の頭を叩き体を引き剥がした。

大門は私から離れると、頭をさすりながらズボンを引き上げて服を整え始めた。

私もすぐに体を起こしたけれど、まず気になったのは股間から流れる血の混じった白い液体。


「こんな、中に出すなんて……ホント、最低……!」

「し、仕方ないだろっ! そっちだってさっきまでノリノリだったくせに」

「うるさいっ! ああっ、もうホントに最悪……」


私が落ち込みながら服を整えていると、立ち上がった大門と彩芽が話を始めた。


「どう? 大門くん、入れ替わった感想は」

「どうって言われてもな……こうなるともう俺が大門優一だっていう感覚しかないな。一応元は泉岳寺だったっていう自覚はあるが」

「そうだよね、私もそんな感じ」


二人の間の抜けた会話を聞いていると、私はどんどんイライラしてしまった。


「あんたたち、なに楽しそうに話してんのよ!? もう戻れないのよ!? この状況わかってんの!?」


私の怒りの混じった抗議を受けて、彩芽が少しだけ申し訳なさそうな顔をしながらこちらに近寄ってきた。


「ごめんね、騙すみたいなことしちゃって。でも、鳴海ちゃんだって別に戻りたいわけじゃないでしょ?」

「そ、それは……」


たしかに私は私という人間に馴染んでしまったので今さら男になりたいなんて思わない。

それも大嫌いなあの男になるなんて言うなら尚更だ。

しかし、だからと言ってこのままでいいと納得するわけにもいかなかった。

すると、いつの間にか大門が自分の鞄を持って教室から出て行こうとしていた。


「ちょっと、あんたどこ行くのよ!?」

「どこって、家に帰るんだが。これ以上厄介ごとに巻き込まれるのはもう御免だからな」

「はあ!? あんたこのままでいいって言うの!?」

「だって仕方ないだろ、もう戻れないんだから。別に俺はこの身体に不満はないし。じゃ、先に行くぞ」


そう言って大門は去っていってしまった。

そのあまりにも無責任な態度に私は腹が立って仕方がなかった。


「なんなのよアイツ、信じられない! ああいう変に楽観的なところが前から嫌いなのよ、もうっ!」

「まあまあ、鳴海ちゃん、落ち着いて」


彩芽に宥められながら立ち上がった私は、怒りのこもった視線を今度は彩芽に対して向けた。


「それで、彩芽。私はあんたにも聞きたいことが山ほどあるんだけど、まさかこれで解散なんて言わないわよね?」

「も、もちろん説明はするから。もう、顔が怖いよ、鳴海ちゃん」


少し怯えながら彩芽が笑って誤魔化してくる。

納得のいく説明がされるまで今日は絶対に帰さない。

私はそう心に誓った。




────────




「少しは落ち着いた? 鳴海ちゃん」

「まあね……」


私は彩芽から顔を背けたまま返事をするとストローを咥えてオレンジジュースを飲んだ。

学校を出た私と彩芽がやってきたのは駅前のファミレス。

少しでも落ち着ける場所で話がしたいと彩芽が言ったためここまでやってきたが、私の気持ちは依然苛立ちを含んだままだった。


「それで? なんでこんなことしたのよ」


私が単刀直入に尋ねると、彩芽は少し照れ臭そうにしながら口を開いた。


「一番最初の、わたしがまだ入れ替わる前……押上くんだったときはね、ここまでするつもりもなかったんだ。この身体、蔵前彩芽になるだけで終わらそうと思ってたんけど……」


彩芽はストローでくるくると自分のグラスに入っているメロンソーダをかき混ぜ始めた。


「そもそもこの身体と入れ替わろうと思ったのはね、鳴海ちゃんと一緒にいたかったからなんだ」

「は? 私?」

「うん。実は押上くんだったときね、わたしは鳴海ちゃんのことが好きだったの」

「げほっ!?」


いきなりの告白に私はオレンジジュースでむせてしまった。

この子、いきなりなにを言い出すんだ。


「鳴海ちゃんは男の子嫌いで有名でしょ? だから近くにいるには鳴海ちゃんの親友のわたし……彩芽になるのがいいと思ったんだ」


彩芽は真剣な顔をして話を続ける。


「でも入れ替わってこの身体に馴染んだら、全然違う気持ちになっちゃって。わたしのこの身体はね、大門くんのことが好きだったの」

「は!?」


今度こそホントに驚いた。

まさか彩芽があの男のことが好きだったなんて。


「鳴海ちゃんは大門くんのこと嫌いだから黙ってたけど、実はわたしずっと彼のことが気になってたんだ。それでね、わたしいいこと思いついちゃったの」


彩芽がいたずらっ子のような悪い笑みを浮かべる。


「鳴海ちゃん、わたしに黙ってるけど実は押上くんのこと気になってたでしょ?」

「っ!? あんた、気づいてたの!?」

「見てればわかるよ。親友だもん」


見透かしたようにこちらを見て笑っている彩芽に少しだけムッとする。

こっちは気づいてなかったのに向こうは気づいてるなんてなんだか悔しい。


「わたしと押上くんが入れ替わって、わたしは大門くんが好きで押上くんは鳴海ちゃんが好き。そして鳴海ちゃんは押上くんのことが好きならさ、鳴海ちゃんと大門くんが入れ替わっちゃえば体の好きな相手と元々の中身が好きな相手が綺麗に収まると思わない?」


私の頭には疑問符が浮かんだ。

えっと、つまりどういうこと?


「わたしは元々押上くんだから鳴海ちゃんが好きで、今は彩芽だから大門くんが好き。それなら鳴海ちゃんが大門くんになっちゃえば、外見上はわたしと大門くん、でも中身は押上くんと鳴海ちゃんって組み合わせができる。ね? すごく綺麗に落ち着くでしょ?」


言われて私はハッとなった。

なるほど、たしかにそれなら元々の心が好きな相手と今の体が好きな相手を一致させることができる。


「押上くんも同じだよ。押上くんは元々わたしだから大門くんが好きで、今は押上くんだから鳴海ちゃんが好き。それなら大門くんが鳴海ちゃんになっちゃえば、外見上は押上くんと鳴海ちゃんで、中身は彩芽と大門くんっていう組み合わせができるの。理想の二組のカップルを作るにはこうするのが一番よかったんだよ」


彩芽はストローを加えてジュースを飲んだ。

彩芽の言いたいことはなんとなくわかった。

けれど、それなら一つだけ気になることがある。


「あんたは付き合う気満々みたいだけど、もし大門があんたのこと好きじゃなかったらどうすんのよ」

「それなら大丈夫だよ。エッチしたときの反応を見たら脈があるのは間違いないもん」


彩芽は自信に満ちた顔で答えた。

そういえばそうだった。

アイツは鼻の下伸ばして簡単に彩芽に誘惑されたのだった。

ホントに軽い男だ。

まあ、あのときは私がその軽い男だったのだけれど……。


「どう? 納得してくれた?」

「できるわけないでしょこの馬鹿。好き勝手に人のこと入れ替えて、ホントに許さないからね」

「ええ? ちゃんと事前に入れ替えるよって言ったのに」

「こんなことになるなんて知ってたら入れ替わらなかったわよ」


入れ替わるという話を聞いたときはまだ私は大門だったけど、アイツだって私のことは嫌いだろうしこの結果がわかっていれば入れ替わらなかったはずだ。

多分……。


「でも今は戻りたいとも思ってないんでしょ? それならよくない? 元は大門くんでも今の鳴海ちゃんは鳴海ちゃんなんだから」

「それが問題なのよ。私が元は大門だったって事実があるだけで虫唾が走る。どうしてくれるのよ、もう……」

「そ、そんなこと気にしてたんだ……」


ずっと続くイライラの原因はこれだ。

私の元の姿が大嫌いなあの男であるという耐え難い事実が私の頭を苦しませる。


「そんなの気にしたって仕方ないよ。元は元。今は今。ちゃんと分けて考えよ?」

「……元の体のときに好きな相手と入れ替わってからも付き合いたいとか気にして私を巻き込んだやつに言われたくないんだけど」

「あ、それを言われると弱いなぁ……」


彩芽は苦笑いを浮かべながらストローを咥えた。

一応は悪いという気持ちがあるのか、罪悪感を感じているような様子でチラチラとこちらを上目遣いで見ている。

彩芽のそんな顔を見ていたら、なんだか馬鹿馬鹿しくなって私は軽くため息をついた。


「……まあいいわよ。これ以上考えても気分が落ち込むだけだし、気にしないようにするわ」

「うんうん、それがいいよ」


私の言葉に便乗するように彩芽が頷いてくる。

普段の私なら一度気になってしまったことはずっと気になり続けてしまうのだけど、何故だか今はすぐに落ち着きを取り戻すことができた。

入れ替わったことであの男の楽観的な考え方が移ってしまったのだろうか。

いや、元々私はあの男だったのだから考え方が移ったのではなく残ったのか。

まあどちらでもいい話だけど。


「話はここまでね。そろそろ帰るわよ」

「うん、鳴海ちゃん」


私たちは二人で席を立った。

なんとも厄介ごとに巻き込まれてしまったけれどこうなったからには私は私として生きていくしかない。

私は今日一日で変わってしまったあらゆることを想像し、ため息をつきながら出口へと向かった。

ちなみに、今日のファミレスでの料金は全て彩芽の奢りだ。

これぐらいは当然の罰だろう。




────────




「お待たせーっ! 遅れてごめんねー」


額に汗を浮かべながら彩芽がこちらに走ってきた。

私は眉間にしわを寄せながら彩芽に詰め寄る。


「まったく、集合時間を五分も過ぎてるわよ。こういう日ぐらいしっかりしなさいよ」


私が彩芽を叱っていると、私の隣に立っていた男が間に割り込んできた。


「五分ぐらいでそんな目くじら立てなくてもいいだろ。別に何かが減るわけでもなしに」

「うるさいわね……アンタは口挟まないでよ、耳障りだから」


私は割り込んできた男、大門を睨みつける。

この男はホントに気に食わない。

あんなことがあった後では、その喋り方はより一層不快感を覚える。


「まあまあ、二人とも……せっかくみんなで遊ぶんだし、そのぐらいに……ね?」


さらに間に割り込んできたのは、もう一人ここにいた男の子。

大人しくて優しい顔つきの少年、押上要君だ。

私は押上君の言葉に免じて大門から顔を逸らした。

今日はこの四人で集まって遊ぶことになっていた。

あの入れ替わり事件のあった数日後、すぐに彩芽と大門は付き合い始めた。

私としては不愉快極まらなかったけれど、彩芽が誰と付き合おうと私に止める権利はない。

二人の距離が少しずつ縮んでいくのを私は苦々しい思いで見つめるばかりだった。


「ん? 鳴海ちゃんどうしたの? そんな目でこっち見て」

「別に。仲がよろしいようでなによりだと思っただけよ」

「お前なあ……せっかく遊ぼうっていうのにそんな空気悪くなるようなこと言わなくても……」

「……ふんっ」


私はまた大門から顔を逸らした。

たしかに今のは言わなくてもよかったことだ。

大門の言い分にも一理ある。

しかし、私は強がりからそれを認めるわけにはいかなかった。

すると、私の隣で不安そうな顔をした押上君がこちらを見つめていた。


「……泉岳寺さんは、今日あんまり乗り気じゃなかった……のかな……?」

「えっ? いや、その……別にそういうわけじゃなくて……」


私は急にしどろもどろになってしまった。

彩芽と大門は付き合い始めたすぐ後に、私と押上君も付き合うことになった。

しかし、私はこういう恋愛の空気には慣れてないし、押上君も大人しい性格でこちらに積極的に来ないため、関係はそれほど進展していなかった。

そのために今日は彩芽に頼んでダブルデート企画してもらったのだけど……。

なかなか素直に言葉を交わすこともできず、つい気まずくなってしまう。


「もう、鳴海ちゃん、しっかりしなよ。せっかくのデートなのに」

「おい、押上。こういう場ではもっとグイグイいっていいんだよ」


すると、野次馬のように私たちを眺めていた彩芽と大門が茶々を入れてくる。


「……もう、アンタたちうるさいわね! だいたいこの身体は元々アンタたちのものでしょ!? なんで私たちがこんな苦労しなきゃいけないのよ!?」


私の怒りを受けても二人は肩をすくめるばかりだった。

おのれ……。

元押上君である彩芽も、元私である大門も、無責任なことばかり言ってホントにムカつく。

入れ替わっていなければこうして悶々としていたのはそっちの方だっていうのに。

すると、私の隣にいた押上君が私の手を握ってきた。

私の頬が急に真っ赤に染まっていく。


「僕は、泉岳寺さんとこうして遊べて楽しいよ。それに、入れ替わったのも最初は戸惑ったけど、今はこうして泉岳寺さん……今のあなたと一緒にいられることを本当に嬉しく思ってるんだ」

「押上君……」


押上君は今の姿になる前から私のことを……彩芽だった頃から大門だった私が好きだった。

その気持ちを今も持ち続けていてくれている。

それが、私もたまらなく嬉しかった。


「う、うん。私も、嬉しい……」


私は照れ臭さから下を向きながら答えた。

彩芽や大門にはずっと文句を言っているけれど、ホントのことを言うなら今のこの感じは嫌いじゃない。

元々友人だった押上君は今は彩芽として私の親友になっていて、元々苦手な存在だった私……鳴海は大門になった今でも変わらず仲が悪いけれど前よりも気軽に話すようになった。

そして、同じクラスで可愛いと思っていた彩芽は今では押上君という私の彼氏になっていて。

色んなことが変わってしまったけれど、なんだかんだで悪くないと、今の私は受け入れている。

この奇妙な四人の関係はきっとこれからも続いついくのだろう。

できるのならばいつまでも続いてほしい。

そう思いながら私は押上君の手を握り返すのだった。


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