【小説】気づかない内に入れ替わっていたらしい
Added 2023-08-28 13:02:34 +0000 UTC「……は? なんだって?」
俺は目の前の女に対して間の抜けた顔を晒していた。
それはきっと十人が見たら十人が『アホ面』と形容するような呆けた表情だったことだろう。
だがわかってほしい。
見ず知らずの女に道端でいきなり声をかけられた上にこんなことを言われれば誰だってこうなる。
「あの、ですからね! 私とあなたは、入れ替わっているんです!」
……やはり意味がわからない。
会社帰りで疲れが溜まっているのは事実だが、それでも俺の判断能力は正常だろう。
おかしいのはこの女の方だ。
「その顔、『何言ってるんだこの女?』って思ってますよね? でも、お願いですからちゃんと聞いてください!」
どうやら向こうにも伝わるほどに怪訝な表情をしていたらしい。
そこまでわかっていながら、女はめげずに俺に必死に語りかけてくる。
泣きそうになりながらもこちらに訴えかけてくるその様子には少しドキッとしてしまう。
というか、この女かなり可愛い。
髪をポニーテールのように上で束ねており、顔つきも合わせて少し幼さを感じる風貌をしているが、胸も腰も出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでいる女性らしい良い体つきだ。
年齢的にはおそらく大学生ぐらいだろう。
ゆったりとした淡い水色のワンピースの上から白衣を羽織るという妙な格好をしているのだけは少し気になるが。
「……あの!? 聞いてますか?」
「ん!? ええと、なんだって?」
女の容姿に見惚れていると、怒ったような声が聞こえて我に帰る。
「ですから、お互い入れ替わった身体を元に戻すために私についてきてほしいと言ってるんです!」
「…………」
しかし、その言葉をちゃんと聞いたところでやはり意味がわからない。
俺は頭をかきながら女に尋ねた。
「……あのさ、もうちょっとわかるように話してくれないか? 入れ替わってるって何?」
「漫画とかで見たことありませんか? 二人の身体が入れ替わって相手の身体で過ごすことになってしまうような話」
「それはまあ、なんとなくわかるが……」
数年前にそんな映画が流行った気がする。
だがそれがなんだというのだろうか。
「その入れ替わりが、今私たちに起きているのです」
「???」
ますます意味がわからない。
俺は俺……『松岡亮』という人間であってそれ以外の何者でもない。
そんな俺が一体どうして入れ替わってるなんて話になるんだ。
理解に苦しむ俺の様子を察してか、女がこれまでとは違うトーンで喋り始めた。
「……実は今朝、試作中の『入れ替わりマシーン三号』を調整中に誤作動させてしまいまして……私と、この周辺にいる誰か一人をランダムに入れ替えてしまったんです。いや、誤作動させた時点では私じゃなかったのでこの言い方だと少し語弊があるのですが……まあ、今は置いておきましょう。……とにかく、それで選ばれたのがあなただったんです」
「いや、だから俺が入れ替わってるってそんなわけないだろ。俺は元から俺だぞ。誰か別のやつと勘違いしてるんじゃないか?」
入れ替わるというのは俺の意識が別の人間の体に入ってしまうという話のはずだ。
百歩譲ってその荒唐無稽な現象を信じるとしても、俺が俺である以上この女の言うランダムに選ばれた一人というのはどう考えても俺ではない。
「いえ、入れ替わったのが私たち二人なのは確かです。そもそも、入れ替わった当人はそのことを自覚できないんですよ」
「なんだって?」
「『入れ替わりマシーン三号』によって入れ替わったのは私たちの魂です。この魂だけが入れ替わるという現象に人格は付随しません。人間の記憶や性格、思考回路、価値観などといったその人間の人格と呼べるものは全てその人間の脳に刻まれたものです。魂が入れ替わったところで脳はそのままなので、その身体の人格の通りにしか生きられないですし、自分が元は別人の魂だったと知覚することもできません」
つまり、俺はその入れ替わりマシーン三号とやらで入れ替わった結果今の『松岡亮』になっているだけで、元々はこの目の前の女だったがそのことは覚えていないしそれを自覚できてもいないということか?
そんな馬鹿な。
主観的にも客観的にもわからないならどうやってその入れ替わりとやらを証明すると言うんだ。
「……その入れ替わったのが俺だっていう具体的な根拠はあるのか?」
「はい。あらかじめ元の私の魂の周波数を記録しておいたのですが、この計測器で観測できる今のあなたの魂の周波数が元の私のものと一致しています」
女が俺に小型の機械を見せてくる。
もっとも、そんなものを見せられたところで俺には何も理解できないが。
「……馬鹿馬鹿しくて話にならないな」
もうこれ以上聞いても時間の無駄としか思えない。
若くて可愛いから話に付き合ってやったが、言っていることがあまりにも電波すぎる。
新手の宗教勧誘か、もしくはからかっているのか。
俺はため息をつきながら女に背を向け歩き始めた。
「あ、ちょっと待ってください! まだ話は……」
「そんなに話聞いてほしかったら、もっとわかりやすい具体的な根拠を用意してから出直してきてくれ」
「そんな、早く戻らないと、時間が……」
女はまだ何か言っていたが、俺は無視して駅へと向かった。
……しかし、あの女マジで可愛かったな。
言っていることは意味不明だったが、話してて少しだけ至福を感じていたのは黙っておこう。
────────
「あ゛ぁー、今日も疲れたー……」
俺は自宅マンションで一人缶チューハイを煽りながらソファに体を投げ出していた。
毎日毎日会社と家の往復で同じことの繰り返し。
クソな上司、クソな取引先とのやり取りで精神を摩耗するばかりの日々。
なんとも灰色の人生って感じだが、これが生きるってことなのだろうか。
「ま、冴えない俺にはお似合いの人生ですよってな」
ツマミのジャーキーを齧りながら一人で愚痴ってしまう。
もう少し俺も顔が良かったり頭が良かったり、もっとスペックが高ければいい生活ができてたんだろうか。
……そういえば会社からの帰り途中に声かけてきたあの女はかなり可愛かったな。
あれなら俺なんかと比べて相当いい人生を歩めるだろうな。
「……『私とあなたは入れ替わっているんです』……か……」
あの女が言っていたことが、今更ながら妙に引っかかる。
もしあの女の言っていたことが事実なら、俺は本当はあの女だったということになる。
こんな惨めな人生ではなくあの可愛い女として華々しい人生を送っていたとしたら……。
「いやいや、ありえないって……」
俺は苦笑いしながら缶チューハイを煽る。
そんな漫画みたいなことがあるわけがない。
だが、そんなことを思いながらも俺の妄想は止まらない。
俺が、元はあの女だったとしたら。
あのあどけない顔も、艶やかな髪も、柔らかそうな胸も全て元々は俺のものだったとしたら。
「…………」
何故だろう。
考えれば考えるほどに胸がドキドキしてくる。
というか、めっちゃムラムラしてくる。
「……ん……はぁ……」
もし俺があの女だったら、裸だって見放題だ。
いや、それどころか自由に触り放題だ。
何しろ自分の体なのだから、触ったところで誰にも文句は言われない。
あの柔らかそうな胸を揉みながら、あのあどけない顔を淫靡に歪ませ、甘い声で喘ぐのも全て自由。
「はぁ、はぁ……!」
股の間には当然何もない。
女なのだから、そこにあるのは縦筋の割れ目だけ。
今のこの、勃起したチンコとは全く違うものがあるはずなのだ。
「……もう我慢できねえ」
俺はズボンを下ろしてパンツを脱いだ。
そして、固く膨張して反り勃つチンコを右手で握り、シコり始める。
シコるたびにチンコから伝わる強い快感。
女では味わえない男の快楽だ。
もし俺が本当にあの女だったら、俺は女だったくせにチンコで気持ちよくなってるってことか?
そんなことを考えると、何故だかさらに興奮してチンコがビクビクと震える。
あっという間に気持ちが昂り、限界が見えてきた。
俺は慌ててティッシュを数枚掴み取り、チンコにあてがう。
「……んっ、ぐ、うッ……!!」
その瞬間、ビュルッ、と勢いよくティッシュの中に生暖かい液体が吐き出された。
精液だ。
俺のチンコが射精し、女を妊娠させるための精子を放出したのだ。
女だったかもしれないこの俺が。
「って、んなわけねえだろ……」
あっという間に冷めた俺の頭は、くだらない妄想を一蹴した。
何が入れ替わりだよ馬鹿馬鹿しい。
俺はティッシュを丸めるとゴミ箱に投げ捨てた。
「……風呂入って寝るか」
軽く伸びをしながら風呂場へと向かう。
あんなわけのわからない女のことはさっさと忘れた方が吉だと自分に言い聞かせながら。
……しかし、その一方で自分が女だったかもしれないと思いながら致した今日のオナニーは、今までの人生で一番気持ちよかった。
────────
翌日。
いつものように会社に行き、クソな労働に勤しみ、そして帰宅する。
そんな変わらない日常を過ごしていたはずだったのだが。
「こんばんは」
「…………」
仕事からの帰り途中、またあの女がやってきた。
今日は白い薄地のシャツにモスグリーンのスカートという可愛らしい組み合わせの上に白衣を羽織るというやはり妙な格好をしている。
「今日こそちゃんと話を聞いてもらいますからね!」
「だから、ちゃんとした根拠を提示されないなら話にならないって昨日も……」
「今日はちゃんと用意してきましたよ」
女はそう言うと鞄から何かを取り出した。
見たところそれはブレスレットのようだ。
「これは私が開発した『魂スキャンマシーン』です。腕につけることでその魂の元の人格を別人の肉体上で一時的に再現することができます。……まあ、本当はこれを開発したのは私ではなくあなたなのですが」
女はそう言いながら俺にブレスレットを渡してくる。
見たところなんの変哲もないただブレスレットのようだが。
「私もつけるのであなたもつけてください。これで全部ハッキリするはずです」
女が真剣な目で俺を見てくる。
正直この女の言うことを全く信じてはいないが、これ以上付きまとわれるのも面倒だしここは素直に従った方がいいだろう。
女が自分の腕にブレスレットをつけるのに合わせて、俺も自分の腕につけてみる。
するとその瞬間、俺の頭に雷が落ちたような衝撃が走った。
「んぐッ!? あっ、ガッ、あッ」
何かがものすごい勢いで俺の中に流れ込んでくる。
俺の知らない知識。
俺の知らない記憶。
俺の知らない俺。
なんだ、これは。
俺が、俺じゃなくなっていくような。
俺は、おれ……わ、たし……?
わたし、は……私は……!
そうして、全てを思い出した。
私が何者だったのかを。
「あ、あぁっ! そうだ、私は『松岡亮』じゃない! 『雨宮奏』だったんだ!」
「……ふぅ、だから最初からそう言ってただろ」
目の前の女の子……『雨宮奏』の姿をした『松岡亮』が男性のような口調で言う。
どうやら向こうも元の自分の人格を取り戻したようだ。
「ご、ごめんなさい! 私のせいで手間をとらせてしまって……」
「全くだよ。こちとらあんたのせいでこんなよくわからないことに巻き込まれてるってのに」
そうだ、そうだった。
昨日の朝『入れ替わりマシーン三号』を誤作動させてしまったのは私だ。
そのせいで私は自分のことを松岡さんだと本気で思い込んでいて、昨日と今日のこの二日間松岡さんとして普通に生活し続けていた。
……というか、ちょっと待ってほしい。
昨日の夜、私はとんでないことをしてしまった気が……。
「うわあぁーっ!」
「おぉっ!? な、なんだよ、どうした?」
「……いえ、なんでもありません」
あまりのショックについ叫び声を上げてしまった。
いきなり低い男性の声で叫んでしまったせいで周りの人達がチラチラこちらを見ているけれど、今はそれどころじゃない。
私、男の人の身体で、アレを……してしまった。
しかも自分が元は女だったかもしれないなんて妄想をしながら。
元の身体ではそんなエッチなこと考えたことすらなかったのに。
昨日の人格は私じゃなかったとはいえ、自分がとんでもない変態になってしまったようで、恥ずかしくて死にそうだった。
「おい、大丈夫か?」
「平気です……それより、早く戻るために研究室に向かいましょう」
私は努めて気持ちを落ち着かせながら提案した。
元に戻るためには大学の研究室に行かなければならない。
まだ空いているはずだけど、急がなければ門が閉められてしまう。
私たちは二人で急ぎ大学へと向かって駆け出した。
密かに、私の身体となっている松岡さんのことを睨みつけながら。
……この人があんなことをする人間じゃなければ、私もこんな思いをしなくて済んだのに。
私は聞かれないようにボソッと呟いた。
「……この変態」
────────
なんとか大学の敷地内に入ることができた私たちは、二人で研究室へと向かっていた。
もう夜も遅く、残っている学生も少なくなっている。
「なんとか間に合いそうですね」
私はホッと息をついて安心した。
私たちが急いでいたのには、門が閉まる以外にもう一つ理由があった。
実は入れ替わってから一定時間が経過すると、もう二度と入れ替わることができなくなってしまうのだ。
他人の身体に別人の魂が入ってからおよそ40時間が経過すると、その魂が身体に適応する形で変質してしまい、その身体に癒着してしまう。
そうなったら当然元の身体に戻ることはできないし、魂の形も変わってしまっているため『魂スキャンマシーン』を使っても元の人格を再現できなくなる。
正真正銘、その身体の人間そのものになってしまうのだ。
私たちが入れ替わったのは昨日の朝8時頃。
今がその翌日の21時半なので大体37時間30分程が経過している。
デッドラインの40時間まであと2時間半しかない。
……本当に危ないところだった。
「色々ありましたが、なんとかこれで元に戻れそうですね。そういえば松岡さん、今回の誤作動のことって他の人には……」
「言えるわけないだろ。無関係の人間巻き込んでんのに、バレたら下手すりゃ退学だぞ」
「あ、あはは、そうですよね……」
研究棟の四号館の中を二人で歩く。
慣れ親しんだ道だけれど、一緒にいるのが私の身体というのは少し不思議な感覚だ。
「本当に、松岡さんにはご迷惑をおかけして……松岡さん?」
気づくと隣にいたはずの松岡さんが、私より少し後ろで立ち止まっていた。
何かを考えるような顔をして俯いている。
「松岡さん? どうかしましたか?」
「……ん? あ、いや、なんでもない」
松岡さんは私の声を聞くと、ハッとした顔になって白衣とスカートをパタパタ揺らしながらこちらに駆けてきた。
「もう、急いでください。早くしないと時間が来てしまいます」
「ああ、そうだよな……時間、あと少しだもんな……」
そのとき何かを含むような松岡さんの言い方が気になったけれど、急がなければいけないということもあってあまり深く気に留めなかった。
やがて、私たちは研究室にたどり着いた。
「それじゃあ早速『入れ替わりマシーン三号』の起動準備をしますね」
私は慣れた手つきで機械を起動していく。
普段とは違うゴツゴツとした男の人の手だけれど、軽い操作をするぐらいなら何も問題はない。
すぐに準備は済み、あとは入れ替わるのみとなった。
「松岡さん、準備できました。モニターに触れて二人の生体データを『入れ替わりマシーン三号』に記録すればいつでも元に戻れますよ」
私はそう言って松岡さんに、モニターに触れるように促した。
けれど、何故か松岡さんはその場に突っ立ったまま動こうとしない。
「松岡さん? 何してるんですか? 早く戻りましょうよ」
「……なあ、本当に戻る必要あるのか?」
「……え?」
一瞬、松岡さんが何を言っているのか理解できなかった。
戻る必要があるかって、そんなのあるに決まっている。
「な、何言ってるんですか? 早くモニターに触ってください!」
「……このまま戻らなくて、誰かが困るのか? どうして無理に戻ろうとするんだ?」
松岡さんは私の顔と声でこちらに語りかけてくる。
けれどその冷めた雰囲気は、私なのにまるで私ではないようで、酷い寒気がした。
「わ、私たちは入れ替わってるんですよ!? 元に戻るのは当たり前でしょう!?」
「だが戻らなかったところで人格は肉体の方に残ってる。結局何も変わらないじゃないか」
「そんなのは詭弁です! 元の身体があるのに別人として生きるなんてそんなの納得できません!」
「納得しようがしまいが主観的にも客観的にも入れ替わりの事実は確認できなくなるんだ。それに、俺たちが入れ替わってることを知ってる人間は誰もいない。だったらそんな気持ちの問題になんの意味があるんだ?」
松岡さんはあくまで反論してくる。
こんな言い争いをしている時間はないというのに。
「……どうしてそんなこと言うんですか? 松岡さんは戻りたいと思わないんですか?」
「ああ、戻りたくないね。そっちの身体のクソみたいな人生を思えばこっちの身体の方が充実した人生を送れそうだ。あんただってわかるだろ?」
そう言われて、私はなんとなく松岡さんの気持ちを理解できた。
昨日今日の生活は確かに苦痛だった。
冴えない会社員として過ごす灰色の日々。
この大学の研究室で好きな研究に明け暮れる毎日とは雲泥の差がある。
でも、だからって……。
「これ以上は平行線だな。だったらこうするのが手っ取り早いか」
そう言いながら松岡さんはこちらに近寄ってきた。
すると次の瞬間、いきなり松岡さんが私の腕に組みついてきて『魂スキャンマシーン』を外そうとしてきた。
「ちょっ、何するんですか!? や、やめ…………ぁ…………」
その瞬間、頭の中にあった何かがさーっと波が引くように消えていった。
「あ、え……? な、なんだ、今の感覚は……。俺は、どうなった……?」
ついさっきまでの自分と今の自分が別物になってしまった感覚がする。
だが、そのつい数秒前までの自分が何を考えていたのかがまるでわからない。
「落ち着けよ。お前はお前……『松岡亮』に戻っただけだ」
女がニヤリと笑いながら語りかけてくる。
まるで女らしくなく、俺のような口調で。
そして、その手には先ほどまで俺がつけていたブレスレットが弄ばれている。
「お、おい、そのブレスレットなんで外したんだよ」
「もう要らないからだよ。お前にはもう入れ替わりの話を信じてもらう必要がなくなった。今まで変な話して悪かったな」
女は昨日までとはまるで態度を変えて主張を翻した。
俺としては入れ替わりなんて最初から信じていなかったわけだし別に問題ない。
だが、俺はついさっきまで女の口調で必死にこいつと言い争っていたはずだ。
本当にこのままでいいのか?
何かおかしくないか?
そもそも俺がここに来たのはなんのためだ?
入れ替わった身体を元に戻すためだとかそんな話をしてなかったか?
それを本気で信じていたからここまで来たんじゃないのか?
それに確か急がなきゃいけない理由があったような……。
「なあ、余計なこと考えるのはやめようぜ?」
気づくと、女は俺の身体にまとわりついていた。
胸を押し付けるようにして俺の腕にしがみついている。
「お、おい……」
「お前、俺のこと可愛いと思ってるだろ? あわよくばヤりたいって考えてるだろ? お前の考えてることは手に取るようにわかるんだぞ」
女がズボンの上から俺の股間を撫でてくる。
な、なんなんだこいつ。
一体なんのつもりだ?
「まだもう少し時間があるしな。手間取らせたお詫びだ。ま、俺も興味があるんだけなんだけどな」
そう言いながら女は白衣を脱ぐ。
そして、そのまま身につけている衣服を脱ぎ始めた。
なんなんだこの流れは。
そう思いながらも、目の前の若くて可愛い女が服を脱いでいく様子から目が離せなかった。
「すげえよな。こんな柔らかくてスベスベの身体が俺のものなんて。……おっと、このブレスレットは外さないように気をつけねえと……」
女はそんなことを呟きながら服を脱いでいき、あっという間に全裸になってしまった。
傷ひとつない玉の肌。
たわわに実った乳房とちょこんと勃った乳首。
閉じた足から覗く縦筋の割れ目。
普通ならまずお目にかかれない美女の裸がそこにはあった。
昨日イメージしたものよりも鮮明なその景色は見ているだけで俺の心臓を昂らせる。
「ちょっと準備するから待ってろよ……こんだけのもの持っててオナニーもしたことないってのが信じられねえよ……」
女は両手で自分の胸を揉み始める。
その手つきは盛った猿のような乱暴さで、その見た目にはそぐわない男らしさだった。
「んっ……あ、乳首……これ、触ると中々……いいな……」
胸を揉むのに満足したのか、女は乳首の先端を指でつねる。
刺激が強いようで、少しずつ女の口から喘ぎ声が漏れ始めた。
「あ゛ぁー、これ、いい……んっ……男じゃあここまで感じないぞ……それに、なんか股の間が、ムズムズして……」
女はいつのまにか内股になりモジモジと身をくねらせていた。
僅かに見える隙間から足を通ってつーっと一筋の雫が垂れているように見える。
「これ、濡れてるのか……? さっきからずっと興奮してたのが、身体に現れてんのかな……」
女が股を開くと、そこにはヒクヒクと震えながら濡れそぼっている開きかけのマンコがあった。
こんな無修正のマンコはAVでだってお目にかかれない代物だ。
「うお、すっげ……無修正マンコだ……こんなのAVでだってお目にかかれない代物だぞ……」
女は俺と全く同じ感想を言いながらその濡れたマンコに指を伸ばす。
右手の中指で割れ目の筋をなぞるように撫でる。
「お、おお……やっべ、ゾクって……んっ、これ、すげっ……」
その可愛らしい顔を淫らに歪めながら女が感嘆の声を上げる。
よっぽど良かったのか、もはや俺の存在なんて忘れたように夢中になって指でマンコを弄っている。
「んっ、あっ……これ、いい……きもち、いい……んんっ……」
初めて会ったときとも、さっきまで俺と話していたときとも違う、蕩けたような表情で喘ぐその姿から、俺は視線を外せない。
目に焼き付けるように女の痴態を一部始終観察する。
「……ふぅ、ふぅ……これだけほぐせば、大丈夫か……?」
どれぐらい時間が経っただろう。
ずっとオナニーに励んでいた女の手が止まった。
すっかり息が上がり、身体にはじっとりと汗が浮かんでいる。
「待たせて悪かったな。お前も、もう我慢できないだろ?」
女がこちらに悪戯っぽく微笑む。
その視線の先は俺の股間。
ズボンを履いててもわかるほどにパンパンに張り詰めている。
今俺はかつてないほどにチンコが勃起していた。
「お前のチンコ、ここに入れてくれよ」
女は鈴のような澄んだ声で俺に囁いてくる。
俺は何も言わずにただベルトを外し、ズボンとパンツを下ろして、女に迫った。
そして、近くにあった机の上に女を押し倒す。
女の潤んだ瞳と目が合う。
こいつ、マジで可愛いな。
何度見てもそんな感想が出てきてしまう。
だが、それと同時にもう一つ俺の中にある想いが浮かんでいた。
「……なあ、一つ聞いていいか?」
「なんだよ」
女は優しく微笑みながら聞き返してくる。
「俺たち、本当に入れ替わってるんじゃないのか?」
「……だとしたらどうする?」
「その身体が羨ましい。俺が元々その身体だったっていうなら戻りてえよ俺は」
もし俺がその身体だったら。
その考えが頭から離れない。
今さっきこの女がしていたあの気持ちよさそうなオナニーも、もし俺ができていたのだとしたら。
そう思うだけで胸の奥が抑えられないほどに昂る。
実際、それをネタにした昨日のオナニーはめちゃくちゃ気持ちよかった。
「まあお前ならそう思うわな。……バーカ。入れ替わりなんてあるわけないだろ、常識的に考えて」
「でもお前、喋り方が俺そっくりじゃねえか。そのブレスレットをつけると魂の人格になるんだろ? じゃあお前は元々俺だったってことじゃねえか」
痛いところをつかれたのか、女は眉をひそめて不機嫌そうな顔をした。
「ちっ、余計なこと覚えてやがって……そんなのどうでもいいだろ、今は楽しもうぜ。…………どうせあと少しすれば……」
女は何かを誤魔化すようなことを言いながら俺のチンコを撫でてきた。
既にフル勃起でガチガチになっている俺のチンコは、そんな軽い刺激でもイキそうだった。
「んっ、ぐっ……」
「ほら、早くここに入れてくれよ……」
女が股を開きながら指で無理やりマンコを開かせる。
ビショビショに濡れてただ入れられるのを待つ穴がそこにあった。
それを見た瞬間、俺の中で何かが弾けた。
……もう何もかもどうでもいい。
今は目の前のことしか考えられねえ。
俺は熱く猛った棒を目の前の穴に挿し込んだ。
「ぐっ、あっ、きつ……すげぇ……」
「あっ、んんっ……痛っ……さすがに、初めては、いてぇ……」
入った。
女のマンコに、俺のチンコが入った。
やばい、ヌルヌルとした感触がチンコを包んで、めちゃくちゃ気持ちいい。
俺は中の感触をもっと楽しむために腰を前後に動かした。
「あっ、ああっ! おま、ちょっと、待っ……んくぅっ!?」
俺が腰を動かすたびに女が声を上げる。
それがまた無性に俺を昂らせ、快感を俺にもたらす。
やばい。
気持ちよすぎて、もう……。
「んっ、ぐうっ、あ゛ッ……!!!」
チンコの先がドクドク、と震える。
出た。
女のマンコの中で、射精したのだ。
これが、膣内射精。
あまりの満足感に気が飛びそうになる。
「……んっ……な、なんだよお前、もう出したのかよ……はえーよ、ったく。……ま、童貞だし仕方ねえか」
「っ!? な、なんで知ってんだよ!」
図星を突かれて、飛びそうだった意識が一気に戻る。
そういえばこいつ、俺の記憶も持ってるらしいんだったか?
「……やっぱりお前、元は俺なんだろ?」
「さあ、どうだろうな? それより、まだ終わりじゃねえだろ? 俺も楽しませてくれよ」
女は甘えた声で俺に囁くと妖しく微笑んだ。
────────
「ふっ、んっ……」
「んっ、ああっ、そこっ……いいっ……! うまくなって、きたじゃねえか……んっ……!」
あれから何時間が経っただろうか。
俺と女はひたすらまぐわり続けていた。
何度も姿勢を変えたりしながら、俺と女は初めてのセックスを満喫していた。
今は床に寝そべる俺の上に女が跨るようにして腰を打ち合わせている。
いわゆる騎乗位の形だ。
女が上下に身体を揺らすのに合わせて、俺も下から突き上げる。
すると女は気持ちのいい喘ぎ声を上げてくれる。
「んんっ! そうだ、その調子……んあっ!」
淫らに蕩ける女の顔を見つめていると、不意に視界の隅に時計が映り込んだ。
時計の針は12時5分を指している。
……あれ?
そういえば、俺たち何かを急いでなかっただろうか。
唐突に浮かんだ疑問が、俺の熱に浮かれた頭を冷ましていく。
「んっ……ん……? おい、どうか、したのか……? 腰、止めないでくれよ……いいところなのに……」
「な、なあ……俺たち、急いでしなきゃいけないことがあったんじゃなかったか?」
「だからそんなのほっとけって言っただろ? それよりほら、早く腰動かせよ……」
「いや、でも……」
何故だか無性に引っかかる。
この頭の中の警鐘を本当に無視してもいいのか?
「……まあ、いいか。どうせあと数分だ。最後ぐらい戻してやるよ」
そういうと女はさっき俺から外したブレスレットを俺の腕に取り付けた。
その瞬間。
「あ、あぁ、あ゛あッ!」
再び頭に広がる俺ではない人間の人格。
俺は、おれは……わたしは、私は……!
私は、なんでこんなことしてるの!?
「いやぁっ! なんてことを! 早く、戻らないと……!」
「おっと、させねえよ。そんなことより、セックスの続きを楽しもうじゃねえか」
私に跨る目の前の女性……『雨宮奏』の姿をした松岡さんはニヤリと笑いながら身体を上下に動かす。
その動きに反応するように、私の股間の先端がビクビクと震えて思わず声が出そうになってしまう。
「やだ、こんなの……どうして……んっ、きもちわるい、はずなのに……んんっ……」
「んっ……さっきまで散々一緒によがってたくせに……素直になった方が、いいんじゃないか……? んっ、あっ……」
二人の間からパチュッ、パチュンッと淫らな水音が響く。
二人の接合部が音を立てて擦れ合っているのだ。
私の、男の部分と……彼女の、女の部分が……。
「あっ、あっ……やだっ、これっ、きもちよくて……いやっ、イキたくないっ、私、女の子なのに、こんな……」
「今更、何言ってんだよ……お前はもう……んっ……男として、童貞卒業してるんだよ……あっ……我慢せずに、イッちゃえよ……!」
腰の動きが激しくなる。
響く水音はテンポを上げて、彼女の股間が搾り上げるように私の股間を刺激する。
私、もう知っちゃってる。
男の人のここを……チンコを締め上げられる気持ちよさを。
先端が熱を帯びていく。
あ、だめだ、これ出るときのやつだ。
我慢したいけど、できなくて、あっ……。
「あっ、出る、出ちゃッ……ぐっ、あ゛ぁッ……!!!」
「きたっ、きたっ! おれも、イクッ、んんぅッ!!!」
ビュルルッ、と尿道を通って熱いモノが迸る。
それはそのまま繋がっている目の前の彼女、『雨宮奏』の膣内に吐き出されていく。
私、また射精しちゃった。
今度は女としての意識のままで、男として射精しちゃったんだ……。
「あぁ、きもちよかった……それに、そろそろだな……入れ替わってから、40時間……」
「……え? あっ……!」
言われて、時計を見る。
時刻は12時12分。
そうだ、こんなことをしている場合じゃない。
早く元にもど────
「……あ?」
俺の頭の中から何かが霧散するように消えさっていく。
またこの感覚だ。
自分の中にいた別人が消えていく感覚。
だがさっきとは何か違う。
今度は一片の残りもなく完全に消え去ってしまったようなそんな喪失感を伴っている。
というか、さっきと違って俺はまだ腕にブレスレットをつけたままだ。
一体どうなってるんだ?
「きゃああぁっ!?」
「うお!?」
すると、俺の上に跨っている女が突然叫び始めた。
顔を真っ赤にしながら悶えている。
「わ、私、なんてことを……って、今はそれどころじゃ……んんっ!」
女は挿さったままだったチンコを無理やり引き抜くとよろめきながら立ち上がった。
そしてそのまま焦ったような表情で泣きそうになりながらさっきの機械を触り始めた。
「嘘……私の魂じゃもう認識されない……身体に癒着しちゃってる……? そんな……」
女は真っ青になってぶつぶつと何かを呟いている。
流石に心配になり、俺は女の肩をそっと叩いた。
「なあ、おい。大丈夫か?」
「きゃあぁっ!? 触らないでっ! 変態っ!」
「へ、変態って……誘ってきたのお前じゃねえか……」
「うるさい! 元はと言えばあなたの人格のせいで……いや、でもやっちゃったのは私で……ああもう、どうしたら……うぅ、ごめんなさい、ごめんさなさいっ!」
とうとう女は泣き出してしまった。
俺は訳もわからないままこの女を宥める以外にできることがなかった。
────────
「そろそろ落ち着いたか?」
「すびまぜん……ひっく……」
十数分後、女はようやく泣き止んだ。
少しは話せるような状態になったということで、俺たちは服を着直して向き合っていた。
「それで、今はどういう状況なんだ?」
「……私たちの身体は入れ替わっていて、未だに戻っていません」
「それは、そうなんだろうな」
なんとなくそれはもう信じられるようになっていた。
ブレスレットをつけている間は俺は自分が女だったように振る舞っていたし、女も自分が俺だったように振る舞っていた。
あの状態はまさしく俺たちが入れ替わっていると言えた。
何故だか今はブレスレットをつけていても入れ替わりの自覚がなくなってしまったが。
「俺は本当はお前で、お前は本当は俺なんだろ? もうお互い満足したし、早く戻ろうぜ」
俺が元は女だという事実は俺をすこぶる興奮させた。
女になった元俺のよがり方を見ても気持ちいいのは間違いないだろう。
早く俺も女の身体を堪能したい。
戻りたいというよりもそっちの気持ちの方が今は強くなっていた。
「それなんですが……その……もう、戻れなくなっちゃいました……」
「……は? なんだって?」
俺は間の抜けたアホ面を晒しながら女に聞き返していた。
もう戻れない?
こいつは今そう言ったのか?
「その……入れ替わってから40時間経過すると魂が身体に癒着してしまって戻れなくなってしまうんです……。ここに来てすぐだったら間に合ったんですが……その、さっきまで……あんなことをしていたので……間に合わなくなってしまって……」
「な、なんだよそれ! まさかお前、さっきまでのは時間稼ぎか!? その身体を俺から奪うつもりで!?」
「ち、違うんです! 私そんなつもりじゃ……いや、さっきまでの私はそのつもりだったんですけど……でも今は違うんです! 信じてください!」
「ふざけんな! その身体を返せよこの野郎!」
「ひいっ、ごめんなさいっ! 許してくださいっ!」
俺は女の胸ぐらを掴んで怒鳴り続けた。
女も俺に平謝りを続けていたが、そんなことをしたからといってこの状況が解決するはずもなく。
こうして俺は『雨宮奏』だったのにも関わらず『松岡亮』としてクソみたいな人生を送ることを余儀なくされたのだった。
────────
俺が『松岡亮』となってから一年が経った。
この身体に慣れる……というのは当たり前の話で、なにせ今の俺は生まれたときから『松岡亮』だったという感覚しかないので入れ替わったという事実を知っていたところで何も変わることはない。
毎日毎日同じことの繰り返しの灰色のような人生。
『雨宮奏』であったなら体験することのなかったこの人生。
そんな苦渋を舐める人生だったが、それもようやく終わりが見えてきた。
今日俺は仕事休みの日曜にわざわざとある場所にやってきていた。
忌まわしき因縁のあの大学の研究室に。
「ついに完成したのか?」
「はい。これが『入れ替わりマシーン四号』です」
女が少し誇らしげに俺に機械を見せつけてくる。
これがこの一年でこの女が開発した新たな入れ替わりマシーンらしい。
「これは従来の入れ替わりマシーンとは違う構造でして、身体に癒着している魂でも問題なく入れ替えることができるんです。これを使えば松岡さんの魂でも入れ替えることができますよ」
「……おい、だからその名前で呼ぶなって言ってるだろ。お前に『松岡さん』なんて呼ばれると無性に腹が立つ」
「す、すみません、『雨宮』さん……」
女が縮こまって頭を下げてくる。
俺から身体を奪ったこいつに身体の名前で呼ばれるのだけは我慢ならない。
だから二人きりのときは俺のことは『雨宮』と呼ぶように強制している。
こいつも俺に負い目があるからか、素直にいうことを聞く。
こうして新たな入れ替わりマシーンを急ぎ開発したのも負い目からくるものだろう。
まあ、それぐらいはしてもらわないとこちらとしては割に合わない。
どんなに俺がお願いしてもあれから一度もセックスさせてくれねえし、これぐらいは当然の話だ。
「このモニターに触れて生体情報を記録すれば、それで私たちを入れ替えることができます」
「これか」
俺はモニターに手を置いた。
すると、反応して機械が唸り始める。
それと同時にモニターになんだかよくわからない数字がたくさん表示され始めた。
これが俺の生体情報とやらか?
「これでいいのか?」
「……あ、あれ? おかしいな、なんでもう動き始めて……私まだ登録してないのに……」
女が急に不穏なことを言い始める。
俺は顔から血の気が引いていくのを感じた。
「お、おい!? 大丈夫なのか!?」
「あ、あはは……大丈夫……ではないですね。誤作動、起こしてます……」
「は!?」
機械がどんどん大きな音で唸りを上げていく。
なんか暴走してないか、これ。
「おい、どうなるんだこれ!?」
「……最初のときと同じです。あなたとこの周辺の人間がランダムに入れ替わります……」
「なんだよそれ! うわぁっ!?」
急に機械が光り始めた。
やばい、身体から力が抜けそうだ。
「あぁっ! 待って! しっかりしてくださいっ! 松岡さーんっ!」
「だ、だから俺は松岡じゃなくてあまみ────
────………………あら? なにかしら、不思議な感覚が……まあいいわ。それより、早くピアノのレッスンの準備をしないと……」