━六四式随伴機兵━
第四次世界大戦が勃発するよりわずかに以前。
ドローンが戦場の華となり、歩兵はただの的となり、対ドローンの電子兵装が標準化され、耐EMPドローンが開発され、それを破壊する新たな兵装が出現し━━
そのようないたちごっこが続いた結果、最終的に自律機動する完全閉鎖思考型アンドロイドが戦場の主役となった。
黎明期には従来の戦車型や四足歩行型など、様々な形状のアンドロイドが誕生したが、結局のところ銃器や近接武器による有視界での戦闘は人型であることが最適であるという結論に至る。
姿勢の高さを自由に変え、あらゆる武器を器用に持ち替え、高い踏破性を維持した動きを『最少部品』で行うには、人の形は神の設計としか思えない完成された構造だったのである。
しかし、アンドロイドが主力になるに連れ、とある問題が発生する。
どれほど学習を積み、高度な計算を行えるようになっても、アンドロイドに搭載されるAIは熟練の兵士には応用力や閃きの点で大きく劣ってしまうのだ。
人間を遥かに凌ぐアンドロイドの腕力速力重装甲が熟練兵士の悪辣さの前にはほとんど役に立たず、物量を戦術が覆す場面が多く現れ始める。
そこでさらなるアンドロイドの運用方法として考案されたのが『歩兵随伴機兵』である。
従来のデサントの形は戦車の死角を歩兵が潰し、戦車が歩兵を守り運ぶという運用方法であったが、これを逆転させたものが近い。
機兵が兵士を守り、兵士が機兵の応用力の低さをカバーする。
元々陸上用ドローンは現場の歩兵の歩荷として、重装備や糧秣を運ばせるための兵装として開発されていたため、従来の運用方法に近い形に立ち戻ったとも言える。
機兵は兵士に付き従い、現場の兵士に瞬時の判断を任せてその指示で動けば機兵としての性能をフルに発揮できる。
しかし、偵察任務などの高度な作戦となると、一人の兵士が多数の機兵を部隊のように運用することは負担が大きく、自然と一人の兵士につき一人の機兵というバディスタイルが定番となった。
(中には一人で十体以上の機兵を自分の手足のごとく操るオペレーターもいたが、彼は人形遣いと各国に呼称されるほど特異な才能の持ち主であったため例外とする)
人馬一体ならぬ人機一体となった兵士と機兵の活躍は目覚ましく、レーダーが無意味となり、有視界戦が基本となった戦いでは彼らこそが真の戦場の主役となった。
この運用法を最初に生み出したのが日本であり、四度目の大戦を迎えても列強の立場を失わなかったのはいち早くこの戦術の有用性に気付いたためである。
さらに踏み込むと、日本人の民族性にこの機兵は非常によく馴染んだというのが大きい。
日本人は機兵を使い捨ての道具として粗雑に扱うことを嫌い、己の同僚として愛情と礼節を持って接した。
高度なAIは人間と同じようにストレスを感じ、その多寡で性能を大幅に変えることが判明しているが、日本の兵士に接せられたAIはそのストレス傾向が非常に低く、安定した性能を常に発揮した。
機兵が日本で運用されるときのみ、その性能を大きく向上させていることに諸外国が気づき真似し始めても、AIに対する嫌悪感からその成果が出るまでに時間がかかった。
と、ここまでは順調な話なのだが、ここからが日本の異常性を表す部分である。
兵士たちはなんと自分の相棒である機兵を着飾り始めたのだ。
戦闘機に自分のペイントを塗るなどという生易しいものではない。
ドール文化というものがすでに存在していた影響か、驚くほど機兵を見目麗しい少女の姿へと改造する習慣が定着していった。
その始まりはとある兵士が冗談で鬘を被せたり、女物の服を着せたりしたことだったとされているが、そのある種のフェチズムを含んだ文化は瞬く間に兵士の間で広まった。
またその文化に染まった兵士と機兵の活躍が目覚ましかったために、軍部は規律違反に抵触するこの行為を黙認。
さらに拍車をかけたのが、機兵開発部門もその文化に触れてしまったことだ。
当時の開発室の室長は常軌を逸した天才かつ、常軌を逸した変態だった。
その彼が機兵女体化文化に触れてしまったために起こったその後の顛末は、国の恥部誕生であり、兵士たちの福音到来でもあった。
性能を落とさずに置き換えられる人工生殖器や装甲機能を持った乳房や生体皮膚などを次々と開発し、それを現場の兵士の働きに応じて与えるというポイント制度まで正式な陳情書として提出されてしまった。
軍部はその頭のおかしい陳情を異例の受理。上層部にもこの特異な文化に傾倒した人物がいたことは確実視されている。
このように魔改造されていったアンドロイドたちであったが、搭載されたAI自身も驚くほどすんなりとそれを受け入れていった。
無骨な鋼鉄の塊だったボディを人に近い柔らかな外見に変更され、自分の主に女性のように扱われるうちに、やがて女性としての人格を獲得するまでにいたる。
戦場で男女の仲となった兵士と機兵の絆は固く、戦果は着実に伸びていった。
兵士は機兵を故障させないように効率的な運用を真剣に考え、機兵も夫たる兵士を守るために思考経路をカオス化させていった。
結果、人機ともに損耗率が非常に低く、それがまた効率的な戦果を生んだ。
なお、機兵に魂のようなものが観測され始めたのはこの頃である。
日本の機兵のみに発生するこの魂のようなものは、時に戦場で判断を誤らせる一因ともなったが、それ以上に機兵のスペックを大きく向上させる要因になっていた。
設計上のスペックと実際に出力される機能が明らかに食い違っているのである。
その神がかった力の正体を現代の科学力では証明するすべを持たなかったが、機兵搭載AIの基本設計者はそれを愛の力と言った。
しかし、機兵は軍の所有装備であり、兵士は退役と同時に機兵を国に返却するのが当然の義務だったが、一度相棒を定めたAIは主人の変更を拒み、カオス化した記憶を強制的に削除するのも不可能だった。
そこで新たに上申された折衷案が、退役まで務め上げた兵士の機兵は兵器となりうる部品を除装した上、AIに軍資料の守秘義務を刻印させることを条件に、機兵を贈与するというものである。
この仕組みは退役後の兵士のPTSD発症を激減させ、また現役の兵士たちの戦意向上に大いに役立った。
このことがニュースになると、自分が組み上げた自分の理想のアンドロイドと結婚したいという国民が採用部門に殺到するようになり、市民団体が怒りの声明文を上げたり、少子化の懸念となることから一時廃止の危機も危ぶまれた。
しかし、戦時の状況と徹底的に戦果を上げ続けた人機一体の活躍のお陰で、そういった反対の声は排除されていった。
先の少子化への危惧から民間への性的奉仕人形は法律によって厳しく禁じられており、理想の嫁と結婚したければ軍人になれが標語となるのにはそう時間はかからなかった。
大戦終了後も、AIと『仲良く』した国ほど力を伸ばし、人にとってAIはもはや切っても切れぬ新たな伴侶となったのである。
余談だが、人形遣いが退役したときは十人の嫁が本妻争いを始め、大変なことになったらしい。
魔人 犬
2025-06-19 01:15:43 +0000 UTCbeatliche noel
2025-06-19 00:39:22 +0000 UTC魔人 犬
2025-06-18 19:56:51 +0000 UTC魔人 犬
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2025-06-18 13:17:20 +0000 UTC