これはここに載せるべきか……? と考えてしまいますが、自分の好みの男キャラの話はいくらでもしたいので創作活動にかこつけて載せます。良ければお付き合いください。
これはCoC(クトゥルフの呼び声/クトゥルフ神話TRPG)のセッション用に描いたキャラです。
You Tubeで配信者さん達がTRPGをやっているので、ご存知無い方はそれらでどういうものなのかご確認ください(丸投げ)
私はTRPGやマーダーミステリー等のオンラインセッションを遊んでいるのですが、基本的にそれらで扱うキャラクターというのは、向こうに実在の人間達が存在するものなので、会話しやすく、柔和で、一緒に問題解決を図れるキャラクターを制作しています。
今回、Fateのパロディシナリオである『Radiant Abyss』に誘ってもらった事で、私が王様に狂っている事を知っている友人たちに甘えて、遠慮せずに他人と折り合わないタイプのキャラクターを作りました。
この、完全に主人公じゃないカラーリングのカットイン凄く良いから見てください。
冠禅 自己(かんぜん みお)
190cm/87kg/29歳
※「クトゥルフ神話技能を最初から50%まで持っていっても良い」シナリオだったので、いつも遊んでいるKPに相談をした上でこの設定です。通常はKPが困るような設定だと思って御覧ください。
【職業】
ヤクザ。暴力団の二次団体で山蓮会やムーンビーストとの取引窓口という特殊な担当をしていたが、最近は自分の会を立ち上げてそちらで冒涜的シノギを専門に行っている。
【経歴】
高校二年までは真面目に生きてきた。
家出をしてチンピラになり、実家の影響から神話生物耐性があるのを見込まれてヤクザになる。
【性格】
殺しやカタギを巻き込む事に躊躇がない。
刹那的享楽主義者のように振る舞いつつ、算盤弾きは真面目にするタイプ。損得にはうるさい。イキリ散らすのも謎の生物と仕事をするのも性に合ってるので楽しく仕事をしている。
【実家】
神話生物に関するカルト教団本部。
父親(現在は兄)が教主。
【ペット】
猫の「ねこ」(一匹しか居ないので呼び分ける必要が無いため)。
世話を愛人に任せているので自分はそれほど懐かれていない。車にねこの毛取りグッズを常備しているので、詳しい人間には猫を飼っているとバレる。
【住居】
マンションか事務所か女の家。
【服装】
目立つ格好をしていた方が相手を威圧できると思っているが、柄物はそれほど好きではない。本人はさほど頓着はなく、女を連れて入ったブランド店でついで買いをした物が多い。
【短期的目標】
新しく「港町の怪しい団体に、身元が分からなくなってもいい結婚相手を斡旋する」シノギが入ったので、借金で首が回らない人間等を見繕っている所。
【長期的目標】
人間とも思えないようなわけのわからん奴の相手をする仕事が楽しいので現状に特に不満は無い。順調に出世してしっかり稼いで将来は金持ちになって悠々自適に暮らしたい。
【好き】
ジャンクフード。猫。金を稼ぐ事。適度なスリル。
服装が清楚で胸がでかくて色気がある女。
【嫌い】
読書(得意)。自然派食品。無邪気な子供(苦手)。
行動を縛られる事。変化の無い生活(祈りと平穏なんてクソ喰らえ)。
ボイスセッション中に絵を切替えるのって面倒なので、普段は差分作らないのですが、ただ描きたいという欲求だけで増えていきました…。ネタバレなのでここには乗せませんが、相方のサーヴァントを抱き上げたりしている立ち絵も色々あります。
ホンマに?ってぐらい長い。でも折角書いたので添えておきます。
1.ねこ
乱暴に閉められた扉の音を非難するように、にゃあと鳴き声を上げた猫に、男は悪いと一言返した。
窓辺で心地良く微睡んでいたねこ――この猫の名前はねこである――は、目覚めてしまったからには仕方がないと大きく伸びをしてから、優雅な動きで餌皿の前に座る。
この部屋に人間が入って来れば、当然餌を与えられるものだとねこは知っていた。いつも来る甘い香りの女ではなく、たまに見かける大きな人間の男。満足するまで遊んで行くこともなければ、撫でてほしい気分を察する事もできない気の利かない人間である。だが、まさか餌を忘れるほど愚鈍ではないだろう。
ビー玉のように澄んだ瞳でじっと見上げるが、男はこちらを気にも留めず、冷蔵庫を開けて缶を取り出した。プシュという音と共に缶を開けると、自分で煽り始める。どうやら「まさか」だったようだ。愚かな人間に仕事を思い出させてやるために、ねこは再びにゃあと鳴いた。
「なんだ、腹減ってるのか? 光莉が来たろ」
缶ビールを煽り、何かつまみになる物を物色しながら男は横目で視線を投げかける。光莉というのは、日頃ねこの世話をするために訪れる女の名だ。確かにねこが窓辺で潰れ饅頭になる前に、女は食事を用意して、ねこが満足するまで背中を撫でていった。
今は夕刻、夜の餌の時間には少し早いが、人間が部屋に入ってきたなら話は別だ。
「あーお」
「夜にも来る。待ってろ」
「あーーーーーお」
「仕方ねぇな……」
男は冷凍のササミを取り出すと皿に並べて電子レンジに入れ、解凍ボタンを押す。その間に小鍋に水を張ってIHコンロに置いた。
「良い子にしてろよ」
「なん」
シンクにもたれかかって見下ろしてくる男を、ねこも床から見上げていた。ビールを片手に猫と見つめ合う男の名は冠禅自己(ミオ)。190cmの高身長と、黒髪に鮮やかな青と白のメッシュを入れた奇抜な髪色、整いはしているものの威圧感の強い顔立ちをした迫力のある彼は、いわゆる暴力団と呼ばれる組織に属するヤクザ者だった。
連日連夜飲み歩き、女の家に寝泊まりするミオは飼い猫であるねこの世話を愛人の一人に任せきっていたため、ねこからの覚えは良くない。ミオ自身もそれを理解しているようで、ねこを刺激しないようにさほど近付かない。距離を取りつつ互いを観察しあう微妙な空気の中、電子レンジが完了音を鳴らした。
—
2.ミオ
茹でほぐしたササミにがっつくねこの横で、ミオも同じものをつまみに何本目かのビールを開けていた。ここしばらくシノギが忙しく、帰れていなかったため、久しぶりの我が家だ。未だ沈み込む柔らかさに慣れないソファに体を預け、ねこのために下味もつけていないササミに塩を振って齧る。
「もっとジャンクなもんが食いてぇ……」
ねこのために夜にも来る予定の愛人、光莉に、マックで適当に晩飯を買ってくるようにLINEを入れると、「みぃ君今夜は居るの?」というメッセージと猫モチーフのキャラクター達がキスをしているスタンプが返ってきた。あざとく腹を見せる猫のスタンプで肯定してからスマホを放り出してソファに寝転ぶ。
ミオは深い愛情を期待できる質の男ではなかったが、外での横柄過ぎる態度の割には女性の機嫌を取る事に長けていた。そうした方がミオ自身が得をするからだ。稼ぐにしろ暮らすにしろ何かと役に立つし、健康で性欲のある若い男としては、女にモテるとあらゆる面で気持ちが良い。といっても無頼漢的性質を抑える程ではなかったので、一般的な生活をする女性とは縁遠く、結局、清楚な雰囲気が好みのミオとしては若干の物足りなさがあるのだが。
それにしても、こうして自宅で落ち着いて過ごし始めると疲れが溜まっている事を実感する。飯を食って女を抱いたら今日は早めに寝てしまおう。風呂にも浸かりたいが、女が来る前に入っておかないと疲れを取るどころか余計な体力を使うハメになるだろうか。とはいえ掃除と湯はりが面倒だ……起き上がりたくない……などと天井を見上げながらうだうだと考え事をしていると、ささみを平らげたねこが、珍しい事にミオの上に飛び乗った。
「飯を貰えると思ったらすぐ媚び売って、ゲンキンなもんだな」
皮肉気な口調の割にはミオの口元は綻んでいた。腹の上の温もりに手を当て、ふわふわとした長毛を穏やかに撫でる。
ねこはエレガントな毛を持っているが、雑種猫である。ミオが取引に使った廃墟で、死にかけているのを見つけて拾ってきたのだ。周囲から良心を親の腹に忘れてきたと評されるミオであったが、猫という動物は、気まぐれに命を救う選択肢が示される程度には好きだった。
実の所ミオの良心は忘れてきた訳ではなく、奪われたものであった。彼の家は邪神カルトの教団本部であり、物心がついた頃から冒涜的な行為が日常だった。未来の指導者層の一人として一般の学校に通わされていたミオは、家庭の常識と世間の常識の乖離の中で精神を形成した。
人間という存在の対極的な側面を見ながら育つ彼は、愛護精神の旺盛な姉――彼女はミオとは違うベクトルで歪であったがそれは別の話である――が事あるごとに拾ってきては育てていた猫たちの自我の在り方を見て、自己同一性を保っていたと言っても過言ではない。猫のように気まぐれに、そして自分のために奔放に生きると決める事で、彼は己の心を守ったのだ。
部屋に響くのは、ごろごろと鳴らされるねこの喉の音、そして絨毯の上のスマホからの数回の通知音だけだった。
—
3.光莉
「みぃ君、来たよ。LINE返してくれないから新商品全部買っちゃった……って」
ブランド物のバッグとファストフード店の大きな紙袋を持って部屋に入ってきた女、光莉は慌てて口を噤む。長い手足をソファに放り出し、腹に愛猫を乗せて眠りこける部屋の主が目に入ったからだ。
そろりと覗き込むが、普段であれば気配に敏感なミオが、今は微かな寝息を立てるばかりだ。よほど疲れているのだろう。女に起こされて機嫌を損ねるタイプではないと知ってはいたが、光莉は音を立てないようにビールの缶や乾いたささみの乗った皿を回収する。
「あざと」
起きている時の険のある雰囲気から一転して、あどけなさを出した寝顔を見て光莉は呟いた。薄く開いた唇に口紅を移してから風呂場に向かう。ミオが起きてきたら食事を摂り、風呂に入って、それから寝室で光莉を満足させてくれる事だろうから、準備を整えて待っていよう。
便利に使われている事も、数多の相手の一人である事も分かっている。でもミオは、ベッドの上の二人だけが世界の全てだという気分にさせてくれる。そして、稀にしか与えられないその夜のために尽くしても良いと感じさせる程度には、存在感のある男だった。
男らしいが綺麗と言いたくなる顔立ちや恵まれた肉体は勿論好きだった。この手の強引な男にハマる業を背負っている自覚もある。でも、特に光莉を夢中にさせたのは、低俗な欲深さや親しみやすい悪ガキっぽさに対して、時折見せる浮世離れした表情のギャップだった。
不思議な事にミオにとってその差異は不安定性には結びつかない。明るさを伴った人間味と、畜生の様な残虐性を破綻なく折り重ねるだなんて、どう育てばあんな人ができあがるのだろうか。光莉が常人に対してであれば求めたであろう普通の愛情というものを、ミオの中に期待するのは難しかった。愛情のようなものを錯覚させてくれる所が、その本物を得る事は難しいのだという想いに拍車を掛けた。
彼の側には破滅しかないと分かっていても離れられない。深淵に捕えられたかの様なこの感情を、長く続いている他の女も持っているのだろう。
ふと目に入った脱衣所の鏡に写った顔に暗い影が落ちている事に気付いて、光莉は慌てて微笑みを作る。
ミオのために選んだ首元まで閉まるブラウスのボタンを外し、平均より随分と豊かな胸元を寛げる。ほんのりとウェーブをかけた暗い色の髪、タレ目を強調する淡い色味のメイク、夜職よりアナウンサーをしていると紹介した方が納得されそうな姿を鏡に写す。幾度かポーズを変えて自分の魅力を最大限発揮できるアングルを確認すると、今度こそ完璧な笑顔を浮かべた。
—
浅く開いた寝室の扉から漏れ出ていた音が止み、深夜のリビングでねこが欠伸をする。
「今日は疲れてたの?」
「んな事聞くなんて、物足りなかったか?」
悪戯っぽく囁いたミオが首に顔を埋めたので、光莉はくすぐったそうに笑った。
「私が近寄っても起きないの、珍しいから」
「暫くマジで忙しかった……。クソ生意気な商品を2、3個蹴り壊しちまったら、納期に間に合わなくてな。俺が担当の奴らは融通が効かねぇから、すぐ仕入れるっつっても全然聞きやがらねぇでイキリ立つし、それで揉めてこっちの若いのが何人かやられるし、始末付けるために駆け回ってたんだよ。つーか新入り連中も使えねぇったら。ちょっと向こうがフード取った程度で恐慌状態とか話にならねぇんだよ、カスが。死ね。ああもう死んでるか。あー、思い出したら苛ついてきた。連中の仲間にでもなって起き出してきたら今度は俺が殺す」
深く突っ込んではいけない事を承知していたので、「大変だったね」と当たり障りのない相槌を打ちながら柔らかく髪を撫でる。もっと労われと顔を覗き込んできたミオと見つめ合う。
月明かりしか無い寝室で、闇に溶け込んでいたミオの瞳が一瞬きらりと輝いたのを見て、猫みたいだなと、光莉は思った。
END
1.
東京の裏路地、古いビルの隙間の暗がりにて。
繁華街から100メートルも離れると、もはやそこには雑踏も華やかな店のBGMも届かない。啜り泣く声と、室外機の駆動音だけがこの場に存在する音だった。啜り泣いているのは泥まみれの塊だ。散々の殴打の後に地面に転がされて、折れた鼻からだくだくと流れ出る血で地面や衣服をドス黒く汚している憐れな塊は、顔がひしゃげていなければ若い男だと分かっただろう。もはや彼にできるのは、この惨状の原因となった男の前で体を縮こませて震え泣く事だけだった。
背の高い男が月明かりを背負って立っている。男は溜息をつくと、煙草を取り出した。火を点ける瞬間に照らされた血色の瞳は感情を読み取らせないまま足元を見下ろしていた。
「はぁ……とりあえずこれで、金持ったまま連絡も寄越さずに一週間雲隠れしてた分は終いだ。理由を言えよ。俺も鬼じゃねぇんだ。やむを得ない事情なら汲んでやるから。ほら、男が泣くんじゃねぇよ。な?」
一秒一秒を死と向き合わされ続けた折檻は、理由はどうあれ筋の通らない事をしてしまった事実への始末をつけた、ただそれだけの行為だと伝えられる。それは僅かな希望さえ踏みにじられる瞬間だった。
理由など知った事かと半殺しにされ、ゴミの中に捨てられていくだけで済んだのなら――例え後遺症が残り、この街に住めなくなったとしても、それで二度と関わり合いにならずに済んだのなら、どんなに良かっただろう。いっそ、こんな恐怖を味わう前に殺されていた方が楽だったのかもしれない。幾分穏やかな口調であるのが殊更に、死刑執行の事務的な手続きを想起させた。
—
2.
十日前。
冠禅自己(ミオ)は悪態を吐きながらノートPCに向き合っていた。ヤクザ然とした調度品が飾られる事務所では、他にも何人かのチンピラ風の男が帳簿と睨み合いながらPCに打ち込みをしている。
「何でうちが、河村ん所の手伝いなんざ、してやらなきゃ、なんねぇんだよ!!」
一際大声で怒鳴り散らしたミオが事務机の足を蹴る。ベキッという嫌な音の後、水平を保てなくなった天板から転がり落ちた湯呑や書類が盛大に床に散乱した。咄嗟にノートPCを持ち上げて難を逃れたミオは「あぶね」と呟く。
「アニキ、何台目だと思ってるんすか。つーか何で座ったまま蹴るだけでスチールが折れるんすか」
「悪いな、俺が強いばかりに……」
ミオがその長過ぎる脚にPCを乗せて、何事も無かったかのように作業を継続し始めたのを見て、舎弟頭はやれやれと散らばった書類を拾い集める。恐る恐る様子を見ていた見習いには、横でExcelのマクロを組んでいた彼の兄貴分が「親父が苛ついてんのはいつもの事だから気にすんな」と声をかけた。
「叔父貴から手伝ってやれって頭下げられちゃ仕方ないじゃないっすか。アニキだって納得して引き受けたんでしょう」
「仕方ねぇからやってるだけで納得してる訳じゃねぇ。俺が他所のシノギに手ぇ出さねぇと思ってナメやがって……この顧客リストコピーしてうちのシマで引き継いでやるか」
「手ぇ足りねえでしょ」
「組内で手伝い募らきゃなんねぇ程逼迫してるシノギなんざ要る訳ねぇだろボケ!!」
理不尽に怒鳴られた舎弟頭は慣れたものだと受け流して、若手の二人に壊れた机を運び出すように指示を出す。凡そ事務作業とは縁遠そうな柄シャツの男二人は、PCから目を離して立ち上がった。
ミオは暴力団九東組の二次団体である流旧組の本部長であり、数人の舎弟と子分を従えた三次団体星辰会の会長でもある。
ミオの所属する流旧組は本家の九東組からいって規模も小さく、薬や殺し、人身売買にも手を出すような、任侠とは言い難い酷く混沌とした組織だった。その中でミオが若衆の頃から任されていた仕事は、世界の深淵に触れるような、非現実的で冒涜的な生物たちとの取引であった。
大多数の人間はそんなものがこの世に存在しているとは認識していない怪物。それらから求められるままに納入する商品は、多くの場合は人間か、人間の死体だ。
そんな取引に従事していれば、ほとんどの者は遅かれ早かれ精神に異常をきたして発狂した。組としても作ったパイプを持て余し気味だったある時期に、ミオは組事務所に顔を出すチンピラの中では見込みがあると気に入られ、用心棒として取引に同行する事になった。そこで、頭角を表したのだ。
長年極道として生きてきた男たちでさえ、怪物のフードの下を直視する事は叶わなかったというのに、ミオは他のシマのヤクザたちと話すのとまるで変わらない態度でそれらに接した。「実家じゃ普通だったんで」という言葉の背景を詳らかにするまでもなく、あれよという間にミオは盃を受けて正式な組員となっていた。
ミオはチンピラとしてぶらつき始める前は、都内でも有数の進学校に通っていた。また、実家がカルト宗教団体の本部であった事もあり、表には出せない金の流れが大半であったとしても、システム化や計算などが組織運営では有用である事を理解していた。
入門直後から異形らとの取引実務の実質的統括となったミオは、補佐につけられた若衆に、PCによる業務管理と簿記を叩き込み、表向きと裏向きの金の流れを管理して結果を出していった。本人は机に齧り付くよりは現場の先頭に立っている方が向いていたが、サポート体制を整える事でそれは更に際立つ。いつしか舎弟が増え、独立した事務所を構えた方が効率的になってきた頃、子分盃の申し出を受けて会を立ち上げて現在の体制になった。
ヤクザには珍しく、フロント企業でもないのに事務的実務能力のあるミオの会は、何かと便利に使われがちであったため、今現在この様な目に遭っていたのだ。
「最近じゃ“表”のシノギは特殊詐欺が儲かんだろ。いっちょ派手に稼いで河村が二度とでけぇ顔しないように分からせてやろうぜ」
「どうでもいいけどそれ“裏”っすね」
舎弟頭からの指摘にミオが頭を抱える。
「ああ……裏の奥が深淵過ぎて感覚がバグる……」
「それにアニキはバケモンとやり合うのが好きであんま他の事に興味ないでしょ。もう少し人数居りゃ下の奴に任せられるけど、どうせメインの手が足りねぇからってさせねぇし」
「どいつもこいつも気軽にトチ狂いやがってすぐ駄目になるからな。手下かき集める方の身にもなれっての……よし、俺の分は終いだ。テメェらもさっさと済ませろ。今夜は新規の商談だ」
「うす」と方々から返事が返る中PCを閉じる。立ち上がったミオは、舎弟頭から「どちらに」と声をかけられて「飯」と返す。先程怯えた目で見ていた見習いが、慌ててミオのコートを持って後に続いた。
—
3.
ミオは、最近話題の映えるホットドッグワゴンの列に見習いを並ばせて、それを眺めながら一服していた。ジャンクフードが好きな彼は、若者の間で話題になりがちな見映えと炭水化物と油のコラボレーション食に目敏い。道の隅に避けているとはいえ、190cmの華やかな男が立っているとそれだけで目立ち、ワゴンの行列からはちらちらと視線が送られていた。
「あ、みぉ様。こんな所で何してるんですか」
弾んだ高い声をかけられると同時に腕に張りのある肉の感触がする。肌寒いこの時期にしては露出度の高いワンピースを着た女が、豊満な胸をこれでもかと押し付けながらミオの腕に絡みついていた。
「飯。ほらそこのワゴン。食った事あるか?」
「うわ好きそ〜〜。うちは万年ダイエット中なんでないっすね」
「ホットドッグも食えねぇで何が人生だ」
「そこまで言う?」とケラケラ笑う女に、「それにあんまり痩せ過ぎても困る」と自らも腕を押し返して意図を示す。
「みぉ様のえっち。だめだめ、女の決心はもっと応援してください」
「お前がこれ見よがしに押し付けてんだよ」
「そうだけどぉ」
いちゃつく派手な男女の元に、購入を終えた見習いが駆けてくる。ミオはそれを受け取ってかぶりつきながら、続けて女に視線を落とす。
「これから仕事か?」
「お客さんが買い物連れてってくれるって。だからこんなメイク。あんま見ないで」
ミオが品のある化粧を好むと知っている女は、キャバクラ用に盛りに盛った顔の前で手をひらつかせてモザイクモザイクとおどけてみせた。
「それは制服みたいなもんだろ。確かにもうちょっと素材活かした方が、素から美人なのが分かりやすいけどな」
「ちょっと聞いた、新入りくん。このオラついたナリでこの発言ズルくない? モテテク、見習っていかねぇとな!」
「何様ヅラだよ」
急に話しかけられた見習いが対応に困っている間に、ミオと女はキスをして別れの挨拶を済ませる。女は「ケチャップの味がするぅ」と顔をしかめつつも、屈んだミオの首に腕を絡めて離さず、文句をつけたそれを舐め取るように幾度も唇を合わせた。
—
4.
「親父って格好良いっすよね」
二台並んで高速を走る高級セダン、ミオが乗っていない方の車内。やや高揚した様子で、昼の付き添いであった見習いの男が話している。
「まずあの背格好がずりぃよな。腕っぷしも強ぇし、女にもモテるし、仕事の仕方も何かよくわかんねぇけど洒落てるし」
「分かったから、運転に集中しろ」
チンピラ上がりの若手がミオに傾倒するのは今に始まった事ではない。昔気質のヤクザとは一線を画すスマートな雰囲気は、見栄えや流行を意識する若者には好ましく映るのだ。しばらく付き合っていれば、その本質は利己的で粗野である事が分かるのだが、彼の魅力はむしろ振り切ったそちら側にある。乗り合わせた兄貴分達は適当に聞き流しながら別の事に気を揉んでいた。
新しい取引相手。普通のヤクザ家業であれば、それはいくら恐ろしい相手であろうと人間に過ぎない。どんなに非道でも、“人の皮を被った怪物”というのは概念であり、事実ではないのだ。しかし、彼らの現実は違った。怪物は、真の意味で怪物であった。
彼らの親分であるミオが常人よりも精神力に優れているかと言えば、そうではない。ミオはただ、慣れているのだ。今まで持っていた常識を覆されても、ヤクザという見栄で崩壊する足場に何とか縋り付いて張りを保つ手下と違って、ミオの常識には初めから裏側に一歩踏み出す土台がある。
そんな男に根性が足りないと言われても正直困るのだが、裏稼業で生きると決めたからには、表からは想像もつかないような闇に多かれ少なかれ対応していかなければならないのだろう。気が狂って壊れていった仲間のようにならないためにも、初めて出会う怪物には決然たる意思で臨まねばならない。
初めてのこちら側のシノギで浮かれている見習い舎弟には、帰りの運転を任せられないだろうと、皆は頭の隅で確信していた。
そこはうら寂しい港町だった。車を降りればすぐに潮の匂いが強く吹き付ける。裏取引であれば、港の倉庫や町の外れの事務所等、人目につかない所が会合の場となるのが一般的だったが、今回はどうやら街の有力者の邸宅と思しき建物だった。カエル顔の使用人に導かれるままに応接間に通される。ミオは部屋に入ると許可も得ずにソファの中央に座り、我が物顔で足を組んだ。
手下たちがソファの後ろや入り口の側に立ち、各々居場所を定めたタイミングで、『それ』は幾人かの従者を伴って部屋に入ってきた。手下の数人が息を呑む。
「ようこそ、冠禅さん」
「お招きいただき光栄だ。よろしく」
ミオが前に乗り出して手を差し出す。握手を交わすために出された相手の手の隙間には、どう見ても水かきがついていた。しかし、そんなものは些末な問題だった。おそらく老人であろうその男の異様さは、顔を見れば一目瞭然だった。老人の目はぎょろりと飛び出し、どこか虚ろに天井を見上げるかのような位置についている。髪はほんのひとまとまりの束がばらばらと乱雑に生え、それ以外の場所は肌というよりぬめりのある皮のようだ。首は無く、口は裂けている。それはまるで、魚が人間に化ける過程を中途半端に止めたような姿だった。
老人に付き従っている男たちも、平均的な人間と比べると明らかに魚やカエルのような奇形に寄っている。
「で、俺に頼みたい事ってのは?」
「端的に言えば、配偶者を見つけてほしい」
「うちは結婚相談所じゃねぇんだよってツッコんでほしいのか?」
不快なごぼごぼという音が部屋を沸かせた。それは、老人や魚面の男たちの笑い声であろうと推測された。ヤクザの中ではミオだけが共に笑う。
「我々は外からの血を入れなければならん。また嗜好として、我々は人間の女が好きだ。近年は過疎の町に適齢期の女が越してくる事はほとんどないし、無計画に人間を拐うというのも難しい世の中になってきた」
「少々違法な方法でも、女を見繕って納品してほしいって事か」
「女を多く、男を少し。乱暴をしたり、居なくなっても騒ぎが広がらない者が良い」
「得意分野だな」
斜め後ろを振り返って朗らかにそう言ったミオに、顔を向けられた舎弟頭は「へえ」と頷いた。
—
5.
「しかし何であの手の奴らってのは凌辱が好きかね。おい、火」
駐車場に出てきた所で、ミオはゴチながら煙草を咥えた。側に駆け寄るはずの見習いが見当たらず、慌てて他の若衆がライターを差し出す。
「純愛好みだと需要を満たせないからじゃないっすか」
「はははは! 酷ぇこと言うな! けどそのおかげでこっちに仕事が回ってくる。心から愛を誓い合えるようなゲテモノ好きを探してきてくださいじゃあ俺らにゃお手上げだ。ところであいつはどうした、新入り。あの手のに会うのは初めてだったろ」
「向こうで吐いてますわ」
舎弟頭が顎をしゃくった方に目をやれば、街路樹の下に膝をついてえづく見習いの背が見える。ミオはつまらなそうに煙草をくゆらせる。
「期待はできねぇな」
金庫番に渡せと預けられた金を持って見習いが消えたのは、その三日後であった。
「おれ、こわくて、あんな、ばけもん……すんません、すんません……」
ミオの足元のボロ雑巾、もとい元見習いの若い男は、空気が抜けていくような掠れた音で声を出した。男が消えた時、ミオも組員も怒りはしたが、身柄を追うまではしなかった。怪物を見た人間が蒸発するのはありふれた事だったし、何よりミオの会は万年人員不足なのだ。つまらない事にかかずらう訳にはいかない。そんな中、消えた男を見つけたのはミオの愛人だった。
「こないだ付いてた新入りの子、他所の組のシマで飲んでたけど大丈夫なんすか?」。女の店で飲んでいる最中、ただの世間話の一環としてもたらされた情報に、ミオは顔を覆った。見つけたからには対応するしかない。詳しい場所を聞いて、酔いが回る前に目的地に向かう。今日も居るとは限らないが、この手の人間は日々飲みに出る習慣がある者ばかりだ。無謀な行動ではない。
そして、見つけてしまった。
ミオは、目立たずに行動するという事は土台無理な風貌をしているため、先に見つけたのは若い男の方だった。しかし視界の端で踵を返して走り出したその動きに、ミオも気付いた。しばらく追いかけっこが続き、周囲に人気のない古ビルの隙間に入り込んだ時、男は配管に躓いて盛大に転び、捕まった。
そこからは一方的な拷問である。ミオが本気で人間を蹴れば、命を奪うのはあまりにも簡単なのだ。だからこそ普段は使わない拳での殴打によって、死なないように、心を折るように、じっくりと嬲った。
「百歩譲ってうちのシノギにビビって飛ぶのは良いとして、何で持ち逃げしてんだ」
「すんません……」
「理由を聞いてんだよ!」
苛ついたせいで衝動的に蹴り上げてしまい、「やべ」とミオが舌を出す。
「死んでねぇな?」
「ひぐ、ぐ、う……」
「俺ら、ヤクザだからな。ナメた行動には落とし前をつけなきゃなんねぇわけだ。お前も一回足踏み込んだなら分かるだろ」
「しにたくない……しにたく……」
つってもなぁとビルの隙間から見える星空を仰ぎ、ミオは胸いっぱいに煙草を吸い込む。そして微かな明かりで照らされる煙を眺めながらゆっくりと息を吐き出す。男は、刑を言い渡される前の無限の時間を感じていた。
「そうだな、うちが特殊だってのは否定しようがねぇし、あんな端金で命まで獲っちゃ可哀想か……」
「…………」
男は固唾を飲んで言葉を待つしかない。ミオは、上に向けていた顔を男に戻し、そして、形良い唇を歪めてにやりと笑った。蹲る男は、それを見る事はできなかったが。
「それに『人間』はいくら居たって困らねぇからな」
事務所の黒革のソファに寝そべって、ミオはバインダーを開いていた。組傘下の闇金で首が回らなくなっている顧客を見繕う。生かさず殺さず搾り取れている間は良いが、そろそろ限界が来そうな客は、飛ぶ前に回収してしまおう。
「アニキ、組の方から根性入った奴を手伝いにやるって、河村から連絡来てましたよ」
「河村の見る目なんざ信じられるか。はあ、マジで手が足りねぇ……」
頭の痛い問題は多いが、ミオはこの仕事が好きだった。力でねじ伏せるのは気持ちが良い。社会に合わせるのは大嫌い。世界の裏側の、何かよく分からないものに対する好奇心が幼い頃から培われていたのもある。そして確実な事が一つ。この仕事はミオに向いていた。これ以上うまくできる事なんて何も思いつかなかったし、自分よりできる奴がそう居るとも思えない。
「とりあえず倉庫に入れてる分は納品するか。うちで養うのは1日でも短い方がいいからな」
「うす」
事務所を出て、立ち寄ったケツ持ちの店からみかじめを回収した後、駐車場までの道中。繁華街を歩いていると声をかけられる。
「仕事の話がしたい」
さて、次はどんな楽しい事が起こるのだろうか。
確かな充実感を覚えながら、今日も社会の裏を歩く。
END
(ここから卓本編開始に繋がる)
私は創作物をすべて何かしらの形で誰かの目に触れさせたい生き物だから……。
めちゃくちゃ好みのキャラを作ってしまったので、久しぶりにカップリングじゃない単体のオリキャラに脳を焼かれる感覚を覚えています。コンバートキャラで漫画描いたりエロ絵描いたりしかねません。よろしくお願いします。