潜み、侵され、奪われて
Added 2023-10-27 23:56:31 +0000 UTCこの話とは関係ないんですが、わざわざ記事を書くまでもない報告をしておきます。
先月の小説がかなり誤字ってたので修正して、それに伴いFANBOXの小説・短編に関してはまとめて誤字チェックをして修正をしておきました。
エロ小説読んでる時に誤字があったら萎えると思うので、もし今後他にもそれっぽいのがあったら以下のフォーム(完全に匿名なやつ)から報告していただけると嬉しいです。
今月のは幽体が見たいなぁってなって書いた憑依モノです。こういう感じのも好き。
「ととっ、藤堂さん……や、やっぱり引き返さない……?」
「もー、佐伯くんってばそれ何回目?いい加減しつこいよー?」
幾度となく繰り返した必死の懇願は、溜め息と共に却下されてしまう。震えながらしゃがみこむ僕に向けられた呆れたような、それどころか憐れむような彼女の視線を受けて、「やっぱり来なきゃよかった」なんて後悔ばかりが頭の中を占めていた。
藤堂さんは大学の同じゼミに所属している人で、僕が密かに思いを寄せている相手でもあった。誰にでも分け隔てなく接してくれる明るい性格に惹かれて、っていうのも理由の一つではあるんだけど、それ以上にとにかく僕の理想そのまんまみたいな美人というのが大きい。
一方の僕は小中高、そして大学に至るまでずっと彼女なんていなかったような典型的陰キャで、だからこそ藤堂さんとどうこうなるなんてのも諦めていたんだけれど……そんな折に、なんとゼミの他の人たちと一緒に肝試しに行こうと彼女本人から誘われたのだ。
そんなわけで、少しでも藤堂さんとの接点が欲しかった僕は当然二つ返事で了承したのだが……実を言うと、僕はこういうホラーだとか心霊現象だとかの類が大の苦手で、こうして彼女の前で醜態を晒す結果となってしまっていた。
「ほら、早く立ちなって。 まだ半分も進んでないよ?」
「で、でもっ、これ以上進んだら絶対なんかあるって! く、暗いし危ないし……ね?もう帰った方がいいって……」
「はぁー……めんどくさ。 それじゃ、こうしよっか」
「えっ、ちょっ!?とと、藤堂さん!?」
突然ぎゅっと左手を握られて立たされ、思わず間抜けな声を上げてしまう。恐怖で跳ねていた心臓が今度は別の意味でドクドクと音を鳴らしている。
「こうすれば怖くないでしょ? あんまり時間掛けるのもアレだしさ、ちゃちゃっと行って終わらせちゃおうよ!ねっ?」
輝かんばかりの笑顔を前に、僕はもうコクコクと頷くしかなかった。いつの間にかさっきまで感じていた恐怖は消え失せ、左手から感じる柔らかい感触と女の子のいい匂い、そして目に焼き付いた藤堂さんの可愛らしい笑顔で頭がいっぱいになる。
(やばい、心臓バクバク言ってる……!も、もしかして藤堂さんって僕のこと……)
そんなことはあり得ないとは思うものの、もしかしたらという期待で思考が埋め尽くされる。女子の方から手をつながれるなんて今までの人生ではあり得なかったことで……こんなことをしてくれるってことは、少なくともちょっとは僕に気があるってことだよね……!?
「はい、到着。 なーんだ、佐伯くんもやればできるじゃん!流石は男の子だね」
「えっ!?あっ……そ、そう、だね?あ、あははは……」
呆けているうちにだいぶ山道を進んでいたようで、気づけば肝試しの目的地である廃ビルの入口に着いていた。彼女は既に僕の手を離してしまっていたが、手のひらには未だに彼女の体温と柔らかな感触が残っていて心がふわついてしまう。
「あとはこの中にあるお札を取ってくるだけなんだけどー……佐伯くん、先に入ってもらっていい?」
「えっ?」
「えーっと……ほら、実を言うとあたしも怖いのとかあんまり得意じゃなくってさ。だからここからは佐伯くんに守ってほしいなあって……ダメ?」
「うぁ……っ!」
上目遣いの潤んだ瞳で見つめられて、両手でぎゅっと手を握られた瞬間に心臓まで鷲掴みにされたような気分になる。
正直、僕だってこんなおっかない場所は得意じゃない、というか今すぐにでも帰りたいぐらいだ。けど……大好きな人相手にこんな風に頼られては、男として断れるはずもなかった。
「も、もちろんだよ! それじゃあ先に中に入って様子を見てくるから……その、と、藤堂さんはここで待っててね?」
「あはっ、ありがと~。 ……それじゃあ探索頑張ってね、佐伯くん♡」
「……えっ?」
バタン。僕が中に入った瞬間、藤堂さんの笑顔と共に扉が閉められる。
「ちょっ……あ、あのっ、藤堂さ……えっ!?あ、開かない……!?」
慌てて外に出ようとドアノブを回すが、何か引っかかっているのか扉は微動だにしなかった。窓から差し込む月明かりしか光源がないような暗い空間の中に取り残されて焦っていると、段々と外から人の、藤堂さん以外の声が聞こえてくる。
「よーっす、お疲れ。もう佐伯は中に入ってんの?」
「うん。カメラも渡してあるから、あとは佐伯くんに頑張ってもらうだけだよ」
「うわっ、マジでやる気だったのかよ……。 おーい佐伯、聞こえてるか?まあ、なんだ。全部藤堂が考えたことだから、俺らのことは恨まないでくれよなぁ」
「あっ、ひどーい!今バラさなくったっていいじゃん」
扉の外からはガヤガヤと、肝試しの順番待ちで待機していたはずのゼミ仲間の声が響いている。どこか楽し気な様子すら伺えるその雰囲気に困惑していると、藤堂さんがいつもみたいな可愛らしい声色でドア越しに話しかけてきた。
「佐伯くん、聞こえてる?まだそこにいるよね?」
「きっ、聞こえてるけど……えっ?あ、あの、これどういうこと?なんかドアが開かなくなって……」
「あははっ、ごめんね?肝試しって言って誘ったけど、あれ嘘だったんだぁ。ほんとは佐伯くんの動画を撮ろうと思って来てもらったの」
「……えっ?」
「ほら、佐伯くんってホラーとかすっごい苦手でしょ?だから一人で心霊スポットとか探索させたら面白いのが撮れるかなーって思ったんだよね。 案の定ここに来るだけでもすっごいビビりようで面白かったし……あはっ、佐伯くん絶対才能あるよ~」
嵌められた。けらけらと楽しそうに嗤う藤堂さんの声を聞きながら、そんなことを思った。
どうして気づけなかったんだろうか。同じゼミといってもほとんど関わりがない僕がこういうことに誘われるなんてあるはずもないのに……藤堂さんとお近づきになれただなんて浮かれまくっていた自分に怒りすら湧いてくる。
「さっきカメラ渡したでしょ?それで適当に動画撮ってくれればいいから。 あ、この扉は塞いじゃったけど、どっかに裏口があるからさ。そこに着いたらゴールって感じで」
「ま、待って藤堂さん!ぼ、僕、こういうのほんとに駄目で……!」
「うん、知ってる。だから誘ったんだよ? それじゃあ出口でみんなと待ってるから、がんばってね~♡」
その言葉を最後に外の声は次第に遠ざかり、やがてシンと静まりかえった廃ビルの中、僕の震えた息遣いだけが響き渡る。
(この中を一人でって……冗談だろ……?)
情けなさや恐怖、絶望といった様々な感情がごちゃ混ぜになって、半ば自棄気味に一歩足を踏み出す。懐中電灯で照らした足元の廊下には点々と赤黒い染みが残っており、底知れない不気味さを感じずにはいられなかった。
(……あれ?今、誰かの声が……)
裏口に近づいているのか遠ざかっているのかも分からないまま足を動かし続けていると、ふと、通り過ぎたドアの向こうから誰かの声らしきものが聞こえたような気がした。まだそんなに歩いてないけど……もしかしたらこれが裏口なのだろうか。そう思って恐る恐るドアノブを回してみたものの、その先は人っ子一人いない薄暗い部屋でしかなかった。
(おかしいな、確かに人の声がしたのに。 っ……、ま、まさか本物の幽霊とかじゃ――)
そうして踏み入れてしまった足を引っ込めようとした瞬間、ふわりと、奇妙な浮遊感が全身を襲う。そのせいでバランスを崩してこけてしまったのだが――なんと僕の身体が床に触れることはなく、前のめりの体勢のままふわふわと浮いてしまっていた。
「えっ…………えぇっ!?なっ、なにこれっ!?僕っ……どうなって……!?」
「んだよ、冴えない野郎じゃねえか。 ……ま、贅沢言ってらんねえか。おら、さっさとどけよ」
「うわっ!?」
突然横から押しのけられ、勢いよく壁に打ち付けられる。結構な勢いで飛ばされたのに何故か痛みは無くて……そんな状況に戸惑っていたのだが、目の前の光景に僕の混乱は更に加速していった。
(あれって……ぼ、僕!?なんで……僕はここにいるのに、どうして……!?)
目を向けた部屋の入り口……そこには虚ろな目をして棒立ちになっているもう一人の僕の姿があったのだ。その目の前にはうっすらと透けている中年男性がいて、ぶつかることなんて気にしていない様子でズンズンと近づいていく。
「悪いな兄ちゃん。お前のカラダ、もらうぜ?」
「あ、あの、何を言って……えっ!?」
男はニヤっと嗤ったかと思うと……なんと、もう一人の僕の腹部に両腕を突き刺してしまった。けれどどういうわけか血などは出ず、そのまま胴体、頭、ついには足先までもがずぶずぶと身体の中へと入り込んでしまう。
そんな、まるで映画か何かのような現実離れした光景を前に呆然としていたのだが――ふと、目の前の『僕』が動いたような気がした。……いや、気のせいじゃない。確かに僕の身体がひとりでに動いているのだ。確かめるように手を開閉させたかと思うと、目を見開いてニタっとした笑みを浮かべる。まるで先ほどの男のようなその表情に、背筋がゾクリと震えた。
「くくっ……はははははっ! やった、とうとう生身の身体に戻れたんだ!いやあ、長かったぜ……!」
「えっ……あ、あのっ!こ、これ、どうなってるん……ですか?ど、どうして僕の身体が……」
「ん?ああ、悪い悪い、いきなりでなんもわかんねえよなぁ。 ま、もう手遅れになっちまってることだし、お前がどうなってんのかゆっくり教えてやるよ」
それから、まるで自分とは思えない様子でげらげらと高笑いしていた僕……いや、僕の身体を奪った男からこんなことを言われた。
この部屋に入ると魂が抜けて、既にこの部屋にいた人の魂の代わりに閉じ込められてしまうということ。これまでも何人もの人がこの部屋を訪れて、そうして抜け殻になった身体にかつての犠牲者の魂が入ることでこの部屋から抜け出していったこと。彼もそんな犠牲者のうちの一人で……そして、僕の身体で代わりに生きていくつもりだということを、僕の声で嬉しそうに語っていった。
「そ、そんな……ぼ、僕の身体を返してください!」
「はぁ?返すわけねえだろ。 ……正直、俺も限界だったんだよ。時間すら分かんねえ真っ暗な部屋の中でずっと一人きりで……気が狂いそうだったぜ。ま、そのうち次の客が来るかもしんねえからそれまで耐えるんだな」
「ま、待ってください! あ、あぁ……っ」
男はひらひらと手を振りながらそう言うと、そのまま部屋の外へと出てドアを閉めてしまった。追いかけようにも、どうやら本当にこの部屋からは出られないようで、魂だけの姿になっているというのに壁もドアも通り抜けることが出来ない。
「そんな……く、うぅっ……!なんで、なんでこんなことに……!」
月明りすら通らない真っ暗な部屋の中、僕はただうずくまることしかできなかった。
***
(――あの日からどれくらい経ったんだろう……。うぅ、やっぱりあの人の身体に入っておけばよかったのかも……)
この部屋に閉じ込められてから、もう随分と時間が経った。外の様子や、そして身体の感覚すらあやふやなこの状況では時間の感覚なんてものはすぐに無くなってしまい、もはやあれからどのくらい経ったのかも分からない。
実を言うと、ここに閉じ込められた二週間後くらいに一度だけ生身の身体に戻るチャンスがあった。けれどその相手は酔っぱらってここに迷い込んできたホームレスらしき老人で……流石にそんな人にはなりたくないと思って彼を見逃してしまっていたのだ。けどそれ以降は全然人が来なくなって、もう気が遠くなるくらいの時間が経った今では見逃してしまったことを悔やんでいる。
(はぁ……こんなことになるなら、せめて藤堂さんに告白しておきたかったな。あんなことされたのに結局まだ好きだし、どうせフられてただろうけどせめて――)
ガチャリ。
もう何千回と繰り返したのかも分からない後悔をしていたその時、突如としてドアノブが回る音が聞こえてきた。光も、音すらもなかった空間に舞い込んできたその変化に視線を向けると、いつぶりかも分からない光がドアの隙間から差し込んできて部屋を照らしていく。
(えっ!?と、藤堂さん……!?)
ドアを開いたのは藤堂さん……だと一瞬思ったのだが、よくよく見れば彼女によく似ている制服姿の少女だった。記憶に残る藤堂さんよりもいくぶんか小さいし、顔立ちもどこか幼げな印象を受けて……でも、それにしたって似すぎている。
「……あれ?誰かいる気がしたんだけどなぁ……えっ?」
そんな突然の来訪者を前に呆けていると、どうやら部屋に足を踏み入れてくれたようで、いつの間にか彼女も身体から追い出された魂だけの姿となっていた。……というのに彼女は特に狼狽える様子もなく、ふと目があった僕に声をかけてくる。
「あ、なんだ。やっぱり誰かいたんですねぇ。 ここ、どこなのか分かります?友達とはぐれちゃったみたいで~」
「えっ、あっ……。こ、ここは……そのっ……」
どうしよう。せっかくやって来た、ずっと待ちわびてきたチャンスだというのに、彼女が藤堂さんに似ているからなのか変に緊張してしまう。マイペースに質問をぶつけてくる少女を前に狼狽えていると、彼女は要領を得ない僕の態度に焦れたのかキョロキョロと周囲を見回して……そうして、抜け殻となった自身の身体にようやく気付いたようだった。
「これ、あたし? あはっ、おもしろ~い!すごいそっくり――あれっ?なんか……吸い込まれてる?」
「えっ……ま、待って!せっかくここから出られるチャンスなのに……!」
少女が物珍しそうに自身の肉体に触れた瞬間、その魂はかつて僕の肉体が奪われた時と同じようにその中へと取り込まれ始めていた。
ようやく訪れた、生きた身体を取り戻せるチャンス。これを逃せば次に来るのは一体いつになるのか……いや、その前にビルが解体されてしまうことだってあるかもしれない。どうにかして再び彼女の魂を追い出せないかとその胴体を掴んで――その瞬間、ずぷぷっという音と共に、魂だけになっている僕の両腕が、同じように透けている少女の魂へと突き刺さった。
「ひぎぃっ!!?ぐっ……かはっ!?あっ、あぁ゛ぁっ…………!!?」
「ひっ!?な、なにこれっ!?あたし、どうなって……あ、あれっ、僕……なんで…………」
そのまま僕の魂が少女の魂へずぶずぶと沈み込んでいき、言葉が、意識が、全てがぐちゃぐちゃになって何も分からなくなっていく。突如苦しみだした少女の悲鳴を最後に、僕の意識はゆっくりと溶けていって――
***
「――んっ、んぅ……。 ふわぁぁ……あれ?ここ、どこだっけ……?」
気が付くと、あたしは冷たい床の上に寝そべっていた。
一つ一つ記憶を辿っていくと……そうだ、確かあきちゃんたちに誘われて肝試しに来たんだっけ。それで遠くに面白そうな建物が見えたからそっちの方に行って――
(……あれ?誰かと話してた気がしたんだけど……ま、いっかぁ)
変な違和感を感じたものの、きっと夢か何かだろうと思い直して廊下に出る。……なんだろう、なんか……嬉しい?部屋を出た瞬間にどこか開放的な気分になって、そんな自分にまた違和感を覚えた。
(変な感じ……。っていうか、あたしってこんなんだったっけ……?)
なんだかずっと、起きてからずっと自分の身体に変な違和感がある。風邪とかじゃなくて……なんだろう、今感じている感覚が慣れ親しんだものじゃないような気がするのだ。前はこんなに胸も重くなかった気がするし、髪の毛だってこんな――
「はぁっ、はぁっ……やっと見つけた! もー、勝手にどっか行かないでよ!ペアになってる私の身にもなってよね!?」
「あっ、はーちゃんだ! 遅かったね、何してたの?」
「っ……!ずっとあんたを探してたのよ……!」
そんな思考は、いつの間にかやって来ていた幼馴染の声で中断された。肝試しの途中でいつの間にかいなくなってて、どこにいったのかと思ってたんだけど――ちょっと怒ってるような声色から察するに、多分あたしの方が何かやらかしてしまったらしい。
「えーっと、その……ごめんね?」
「はぁ……もういいわよ、慣れてるから。 ほら、さっさと帰るわよ。みんな理恵が迷子になったって心配してるんだからね?」
「ひゃぅっ!?ちょ、ちょっと!?」
突然ぎゅっと手を握られて、予想外の事態に一気に顔が熱くなってしまう。女の子に……しかもこんな可愛らしい女子高生にこんなことをされるとは思わず、反射的に変な声が出てしまった。
「え……何?いきなりどうしたの?」
「ふぇっ!?だ、だってこれっ!手……っ」
「いや、だって……こうでもしないとあんたすぐどっか行っちゃうでしょ?」
「そっ、そうかもだけど……う、うん、そっか。 ごめんはーちゃん、気にしないで……」
そう、いつも通り。昔からいろんなことに目移りをして落ち着きがないあたしがうろちょろしないようにってはーちゃんが手をつないでくれることはいつも通りのはずなのに……なんでだろう。今日はなんだかすごくドキドキする。
今日の肝試しも、近所の山道をただ歩いて回るだけだから怖いとかなんて思ってなかったんだけど、もしかして実は怖いって思ってたのかな。
「? 何ボーっとしてんの?ほら、行くよ」
「あっ……う、うん……」
女の子の柔らかい手の感触を気持ちいいと思ってしまう自分に、そして幼馴染を相手にそんなことを思ってしまっている自分に変な感じがして……そんな風にずっとドギマギとしたまま、はーちゃんに手を引かれて山道を降りていくのだった。
***
「ただいまぁ」
肝試しが終わり、どうやら1時間ほど迷子になっていたらしいあたしがちょっと怒られるなんてことはあったものの、あたしは無事に家に帰ることができていた。
(もう、はーちゃんってば心配性なんだから……。で、でも……)
なんだろう、はーちゃんに握られていた手の感触が、ぬくもりがさっきからずっと残っている気がする。そういえばはーちゃんって昔からずっと一緒にいてくれたし、今日だって……。も、もしかしてあたしのことが好きなんじゃ……!?
(……何考えてるんだろ。疲れてるのかな……)
なんだか、肝試しの時にうたた寝をしてしまってからずっと変な感じだ。ちゃんと寝れば治るかな……。
「……えっ!?と、藤堂さんっ!?」
そうして手を洗おうと洗面台に向かって、鏡に映った少女の姿を前に思わず絶句してしまう。
(いや……藤堂ってあたし、だよね……?)
そこに映っていたのは当然あたし、藤堂理恵の姿だった。自分の顔が他人みたいに見えちゃうなんて、本格的に疲れてるのかもしれない。そうして手を洗っているとお母さんが声をかけてきた。
「おかえり、理恵。 ご飯は外で食べてきたのよね」
「うん、ただいまぁ。 ねえねえ、お風呂ってもう沸いてるよね?」
「ええ。もう理恵が最後だから入り終わったら……あら、なんか顔赤いわね。熱でもあるんじゃない?」
「……んーん、大丈夫。ちょっと疲れただけだから」
言われてみれば確かに顔のあたりが、というか体中がなんだかぽかぽかしてる感じがする。でも風邪とか病気の時とかとはちょっと違くて……どういうわけなのか、肝試しの時からあたしはずっとムラムラしているようだった。
(疲れて変になっちゃってるだけなのかなぁ。 ……いいや、とにかくお風呂に入ってすぐ寝ちゃおう。お、お風呂に……)
そう思って脱衣所に入ったものの、服を脱ごうとした手が止まってしまう。脱衣所の鏡には制服に身を包んだ女の子が……あたしが映っているのだが、これを脱がせて裸を目にすることにほんの少しの申し訳なさを感じるのだ。
(自分相手に何考えてるんだろ。 ……うん、そうだよ。別にあたしの裸なんだからいい……よね?)
そう、今は自分の身体なのだから何も問題はない。そんな風に自分自身に言い聞かせて、少し緊張しつつもプチプチとボタンを外していく。あたしが脱いでいくごとに、鏡に映る女の子の綺麗な素肌も少しずつ露わになり、谷間ができるほどに大きな乳房がぷるんと揺れ動く。途中からは気恥ずかしさでいたたまれなくなったので、残りをさっさと脱ぐと手早く髪をまとめて浴室へと逃げ込んだ。
「っ……んぅっ……♡」
シャワーで身体を流していると、なんだか身体にお湯が当たる感触がいつもより気持ちいいような気がしてきて変な声が出てしまう。温かなお湯が全身を滑り落ちていくごとに、肩、胸、お腹、太ももと、お湯が伝っていく感触と共にその輪郭がありありと感じられ、その全てに違和感を覚える。でもその"おかしい"がどうしようもなく気持ちよくて、お湯の出しすぎだって怒られるかもという考えが浮かぶまでの数分間はずっとその心地よさに浸ってしまっていた。
ようやくシャワーを止め、メイクを落とそうとクレンジングに手を伸ばしたのだが……ふと目の前にある鏡を見た瞬間にその手は止まってしまう。
「うぁっ……♡えっちだぁ……♡♡」
強烈な性欲と温かいシャワーで火照り切った意識の中、そんな言葉が口から零れ出る。目の前の鏡に映るのは頬を赤らめたあたしの顔だけ。なのに……いつも通りのはずの自分の顔がどうしようもないほどに可愛らしく、えっちで、魅力に満ち溢れたものに見えてしまうのだ。
(どうして自分にこんな……でもっ、我慢できないよぉっ♡♡)
完全にスイッチが入ってしまったので、ちょうどお風呂場にもいることだしと、もうこのままオナニーしてしまうことにした。軽く舌を突き出して、目の前の女の子にまるで誘っているようなエロい表情をさせつつ、それを視界に収めたままビンビンに勃起した股間を握――ろうとしたのだが、どういうわけかその手は空を切ってしまった。
(あ、あれっ?こんなに小さかったっけ……)
何かがおかしくて、何かが決定的に違ってしまっている気がする。そんな思考が頭をよぎったものの、それ以上にムラムラで全身が疼いて耐えられそうになかった。早くイキたい。イってこの疼きを早くどうにかしたいという欲求のままに、粘液でとろとろになったクリトリスに指を押し当てていく。
「はぅぅっ♡♡ ……くっ、ふぅっ……♡♡んっ……♡♡」
敏感な刺激で全身がぴくっと震え、浴室内に甲高い声が響き渡る。お母さんにバレないようにと慌てて声を押し殺したものの、それでもなお声が漏れ出てしまうほどの気持ちよさといっしょに体中がぴくぴくと震えてしまう。でも、自分のそんな声や息遣いまでもが今はどうしてか興奮の材料になってしまっているようで、あたしはそんな自分の喘ぎ声すらもオカズにしながら自慰を続けていった。
(すごっ……♡オナニーってこんなに気持ちよかったっけ?前はもっと違ってたような……前は……)
快感で蕩けきった頭が何かを思い出そうとして、朧げながらも快感の記憶が想起されていく。……そうだ、前はたしかこんな風に上下にシゴいて――
(まだちょっと違う気もするけど……でも、こっちの方が気持ちいいかも……♡)
クリに少し触れるくらいに愛液で濡れた指先を軽く添え、先端まで撫でるようにして上下に指を動かしていく。いつものやり方とは全然違う動作なのに手が覚えているかのように勝手に動いて、ぬるぬるの秘所がくちっ、くちゅっといやらしい音を立てる。そのえっちな音も、鼓膜を撫でる少女の可愛い声も、鏡に映る藤堂さんのエロい表情も。その全てが劣情を煽り、昂りきった興奮は更に加速していく一方だった。
「ひぅっっ!?♡♡♡ぅぁっ……♡♡んっ、ふぅ……っ♡♡」
一際強い快感の塊が弾け、びくんっと全身が跳ねると同時に気持ちのいい感覚が全身へと広がっていく。ふぅふぅと息を整え、ぼーっとしながらその余韻に浸っていった。
(すごい、もうイっちゃった……♡って、やばっ!バレないように早く流さないと…………あれ?)
後始末をしようとシャワーに手を掛けたのだが、そんな自分自身に困惑する。別に手と股間を軽く洗えばいいだけなのに、床に出した『何か』を洗い流しておかないといけない、そんな風に考えてしまうのだ。
やっぱり……今日は何かおかしい気がするけど、どうしてそう思うのかは結局分からなくて。そんなもやもやとした気持ちを抱えたまま入浴を進めるのだった。
***
(うう、足がスースーして落ち着かない……。や、やっぱり休んだ方がよかったかな……)
翌朝。寝て起きれば治ると思った違和感は結局消えておらず、むしろ酷くなっているようだった。
耳先や首元をくすぐる長い髪の感触がこそばゆい。出っ張っている大きな胸が布で包まれ、歩く度に少し揺れるその重たさがなんだか気恥ずかしい。ほぼ毎日着ている制服も何故かそれを自分が身に着けることが犯罪みたいに感じてしまったし、スカートはまるで何も履いてないように思えて気が気じゃなかった。そして極めつけは――
「おーっす、理恵!」
「ひゃっ!?あっ、お、おはよう、あきちゃん……」
「珍しく朝早いじゃん。なんか用事とか?」
「い、いや、えと、なんか早く起きちゃって……」
突然肩を組んできた友達を前に、思わず上擦った声が出てしまう。そう、こんな風にどういうわけかあたしは女性を前にすると妙に緊張してしまうようになっていたのだ。
初めは朝食の時。顔を合わせたお母さんがすごい美人に見えてしまうせいで食べている間はずっと気が休まらなかったし、バスに乗ってる時なんかも隣に大学生らしきお姉さんが座って来てからは変に彼女を意識してしまい、堪らず一つ前の停留所で降りてしまったりなんかもして。
そして、どうやらその『女性』には自分すらも含まれてしまっているようで……身だしなみを整えてる時に鏡に映る自分相手にムラムラしてしまうものだから、早く終わらせようといつもより簡単に済ませてしまっていた。
(どうしよう、女子とこんなに距離が近いのなんて……あれ?い、いつものことだよね?なのになんで……)
背が高い彼女の胸がふにふにと首に当たる感触、汗と体臭が混じったような女の子に匂いを前に興奮と緊張で頭がぐちゃぐちゃになって、心臓がうるさいくらいに高鳴っている。でも嫌なわけじゃないし、おっぱいがきもちいからこれはこれでいいか……なんて風に思考が傾きかけてきたあたりで、あきちゃんはパっと身体を離すと笑顔を向けてきた。
「じゃ、アタシこれから朝練だから。また後でね~」
「う、うん。また……」
あきちゃんは元気よく手をブンブンと振りながら、駆け足で学校の方へと向かっていく。そんな彼女のことを見送りながら、ジンジンとアソコが強く疼く感覚に耐えようとスカートをぎゅっと握った。
***
「理恵さあ、今日ちょっと変じゃない?」
2限目の授業が終わり、次の準備をしていたところではーちゃんに声を掛けられた。
「変って……や、やっぱりはーちゃんもそう思う?」
「やっぱりって、自覚あったのね。 そりゃまあ、ずっと自分の席いるしなんか大人しいし、授業も寝ないで真面目に受けてるしで……や、いいことなんだけどさ」
「そう、だよね……」
自分では気にしすぎかなってくらいに思ってたけど、こうしてはーちゃんに指摘されるということは今のあたしは普段とだいぶ変わってしまっているのだろう。
苦手だったはずの教科がやたらと簡単に思えたりするのとか、女子……友達とこうして話すときに緊張してしまうのとか、そしてそんな彼女たちのことをどうしても変な目で見てしまうのとか。
「……ね、ねえ。はーちゃんの方は、その……平気なの?」
「平気って、何が?」
「え、えと、実は肝試しに行った後くらいから、その……へ、変になっちゃっててね?はーちゃんも一緒だったから、大丈夫かなぁって……」
「いや、私は別に何ともないけど……ていうか肝試しでって、あははっ!もしかしてあんた、幽霊にでも取り憑かれちゃったんじゃない?」
「あっ…………」
――その言葉を聞いた瞬間、自分の中でズレていた何かがカチッとはまるような感覚がした。途方もなく長い間求めていた物が偶然手に入ったという歓び……そのこと自体を忘れていて、それをようやく思い出したような、そんな感覚。
「ちょ、ちょっと、急に真顔にならないでよ。本当かもって思っちゃうでしょ」
「……ククッ、バレちまったんなら、仕方ねえな。オマエの身体も、俺に寄越せ~っ!」
「きゃあぁっ!!?」
「ぷぷっ……あはははっ!きゃーっ、だって! はーちゃん、なんだかんだでこういうベタなのに弱いよねぇ」
「えっ……な、何、演技だったってこと!? か、勘弁してよ、もぅ……」
「えへへっ、だって昨日はあんまり怖がってくれなかったでしょ?物足りなかったからもうちょっと怖がらせようと思って」
いつの間にか、はーちゃんを前にしてもいつも通り緊張しないで話せていることに気付いた。さっきまで様子がおかしかったのもはーちゃんをからかうための演技……演技?そんなつもりは別になかったんだけど……いや、言われてみればそうだったような気もする。
(気にしすぎ……だったのかな?よかったぁ)
昨日から感じていた身体への違和感もいつの間にか消えてるし、きっといっぱい歩いて疲れてただけだったのだろう。
次の授業は大好きな選択体育。さっそく女子更衣室に入れるなんて幸先が良いなと思いながら、からかわれたことにぶうたれるはーちゃんを宥めるのだった。
***
「はー、楽しかったぁ」
家に帰り、自室に鞄を置くと同時にそんな言葉が自然と零れる。
今日はこれといって特別な日ではなかった。普段通りに学校に行って、授業を受けて、友達とおしゃべりしたり遊んだりといった普段通りの日常。
でも、時折それらを『あたし』としてこなしていることが妙に嬉しかったりとか、友達との軽いスキンシップがえっちで特別なものに思えたりとか……ほんの少しだけ違和感があるものの、『藤堂理恵』として体験するそれら全ては今までとは非にならないくらいに輝いたものに思えたのだ。
「えへへっ。これからも『あたし』として女子高生の生活が満喫できるなんて、夢みたいだなぁ。 さてと……」
一息ついて、部屋のクローゼットを開く。少し奥の方を漁っていくと、そこには今年社会人になって一人暮らしを始めたお姉ちゃんが置いていった衣類があった。しっかり記憶を覗き見できていることに口元を緩めつつ、衣類の一つ一つに目移りしながらも目的のものを探っていく。
「あったあった。 はぁ……なんか懐かしいなぁ」
手に取ったのは、大学に行くときお姉ちゃんがたまに着ていたブラウスとスカートのセットアップだ。軽く鼻に押し付けると、当然防虫剤の匂いしかしないはずなのに、ちょっとだけお姉ちゃんの匂いも混じってるような気もしてお腹の奥がきゅんきゅんと疼いてくる。
制服を脱ぎ、あたし自身の下着姿をたっぷりと堪能してからお姉ちゃんの服を身に着けていく。着終えると、姿見の中にはお姉ちゃんに瓜二つの可愛らしい美少女の姿が映っていた。
「あはっ♡流石姉妹だなぁ、よく似合ってて……あれ?でも、なんでお姉ちゃんの服なんか着て……ま、いっか。こーんなに似合ってるんだもんね♡」
一瞬変に思ったものの、そんな疑問はどうでもいいことだと握り潰される。襟元からちらりと覗く鎖骨のエロさとか、お姉ちゃんほどまでじゃないけどそれでも十分に大きな胸の膨らみはやっぱりたまらないし、スカートから伸びるすらっとした脚なんかは思わず息を飲んでしまうほどに艶っぽく見える。
「やばっ、ムラムラしてきたぁっ……♡♡」
まるで藤堂さん本人を前にしているような錯覚を覚え、表に出さないよう抑えていた性欲が一気に溢れ出てくる。心臓が途端にバクバクと脈打って、荒くなる呼吸と共に目の前の少女の顔も少しずつ汗ばみ、紅潮し、淫らでエロい様相へと変わっていく。クリトリスも早く触って欲しいと言わんばかりにぴくぴくとひくついていて、ショーツのクロッチ部分はもうぐしょ濡れになっていた。
「昨日みたいにクリイキするのもいいけど……えへっ♡その前にコッチだよねぇ♡」
早くオナってしまいそうになる衝動を抑えつつ、お姉ちゃんが使っていた棚をごそごそと漁る。そこには前に偶然見つけた、彼女が置き忘れていったであろうディルドがあった。
「これをお姉ちゃんも使ってたんだよね……。これが、藤堂さんのマンコに……♡」
あたし、何やってるんだろう。お姉ちゃんの服を勝手に着て、棚まで漁ってこんなアダルトグッズまで勝手に――
「別によくない?そもそも忘れてったお姉ちゃんが悪いんだから。 ……それに、あのお姉ちゃんの私物を使ってオナり放題なんて最高だよぉ♡」
何故か躊躇してしまっていたが、言われてみれば確かにその通りだ。あんなにも思いを寄せていたお姉ちゃんの妹になれて、しかも本人にバレずに彼女が使っていたオモチャまで好きにできるというこの状況。こんなチャンス、愉しまない方がどうかしてるよね?
「えへっ、そうだよねぇ♡それじゃあいよいよ……っ♡」
ディルドを床に吸着させ、そこに跨るように座りながらスカートとショーツを脱いでいく。目の前に映る鏡には、もう我慢できないといった様子でだらしなく舌を突き出しながら息を荒げている美少女がいて、今まさにぐしょ濡れになった秘裂へとディルドの先端を宛がおうとしている。AVやエロ漫画でしか見たことがないようなその煽情的な光景に、ますます興奮は高まっていった。
「もうっ、我慢できないかもぉ……♡ じゃあ挿れるねっ♡佐伯くんのどーてー、あたしがもらってあげるからねぇっ♡♡」
藤堂さんそっくりの『あたし』を使って、『僕』が望むままの仕草と表情、言葉を自分自身に向けるだけでどうしようもないほどの悦びが溢れてくる。明らかにおかしくなってる思考も、聞いたことが無い名前も、違和感や戸惑いが浮かぶ度に塗り潰され、その度にあたしの何かが少しずつ変わっていく。
全部が全部おかしいはずなのに……でも、この行為をやめようとは全く思わなかった。だってこの"おかしい"は今まで感じたことがないくらいに気持ちがよくて……その絶頂を味わおうと、アソコに宛がったディルドの先端をゆっくりと咥え込んでいく。
「痛っ……!?そっか、あたしって処女だったんだぁ……♡」
初めてアソコに指以外のものを入れたからなのか、今までにない異物感と共に痛みが走るが、もはやそれすらも嬉しかった。まるで藤堂さんの処女を奪ったように感じ、ゾクゾクとした悦びが込み上げてくる。興奮のままに腰を動かしてディルドをめいいっぱいナカに咥え込み、注挿を繰り返していった。
「そうだよ、あたしもっ……んっ♡♡これがっ、あぁんっ♡♡初めてだったんだぁ♡ 佐伯くんが初めての相手でっ♡♡うれしぃ……あうぅっ♡♡♡」
藤堂さんになりきったつもりでセックスをしようと思ったが、気持ちよすぎてまともに声が出せず、ただひたすら喘ぐことしかできなかった。チンコをシゴいてる時やクリを刺激した時なんかともまるで違う、自分のナカに異物が入って擦れていく感覚は頭がおかしくなるほどに気持ちがよくて、このカラダも経験したことがなかったそれをあたしも味わっていることにどうしようもない興奮が沸きあがる。
「さ、佐伯くんって誰……?♡♡ 僕は理恵で……あれぇっ♡♡あたしは……ああ、そっか♡そうだったんだぁ♡♡♡」
そんな風に"女の子"としての快感を強く実感した影響からなのか、『あたし』に明確に変化が起きていた。あたしの中にずっと潜んでいた『何か』との壁が取り払われて、受け入れてしまっているような感覚。異物だった『僕』があたしの中に溶け込んで、混ざり合って、根元から大事なものが吸い上げられていく。まるで自分が自分じゃなくなっていくようなその感覚はひたすらに怖くて――そして、ひたすらに嬉しかった。
「んあぁっ♡♡や、やらぁっ♡♡あたしにならないで……なってぇ♡♡もっと僕を受け入れてっ♡♡あぁんっ♡♡ そうすればあたしがっ♡♡藤堂さんの妹になれるんだからぁっ♡♡♡♡」
怖い。嬉しい。助けて。幸せ。気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい。
頭の中がぐちゃぐちゃになって、不安が快楽で塗り潰されていく。『あたし』が奪い取られてしまうという恐怖が、裏返るように悦びへと書き換わっていく。
――ああ、一体何を戸惑っていたんだろうか。そもそも『僕』があたしに入ってきた時点で手遅れなんだから、こんな抵抗はそもそも意味がないんだ。だったら――
「――そうだよ、ちゃんと受け入れてっ♡♡最っ高に気持ちよくならなきゃだよねぇ♡♡あたしとしての、僕の初めての絶頂なんだからぁっ♡♡♡」
そうやって全てを受け入れようと思った瞬間、ずっと感じてた気持ちよさがまるで倍になったみたいに強くなって……いや、紛れもなく2人分の快感を僕は感じ始めていた。2つだった心が融け合って1つになったのが分かる。『あたし』が完全に僕に馴染んで、彼女が感じていた快感までもが僕に受け継がれたのが分かる。半分ですら耐え難かった強烈な快楽が一気に流し込まれ、破裂しそうな快感の塊を感じると共に腰の動きがどんどんと早くなっていく。
「~~~っっっ♡♡♡♡♡もうらめぇっ♡♡♡イクっ、イっちゃうぅっ♡♡♡♡男の人のイレモノにされてっ♡♡♡あたしっ……~~~っっっっっ♡♡♡♡♡♡」
ぱちっ!と頭の中で火花が弾けたと思った瞬間、気づけば腰をガクガクとさせながら床に突っ伏していた。今までやったどのオナニーとも比較にならないほどの絶頂感に、汗やら愛液やらでぐしょぐしょになった床の上で快楽の余韻を味わうように身体をビクンビクンと震わせる。ぼんやりとした意識の中、目の前には見たことが無いほどに蕩けきった表情をした藤堂さんの顔が……いや、今や僕のモノになった彼女の妹の顔が映し出されていた。
「はぁっ、はぁっ……♡ ……ふふっ、本当に瓜二つだなぁ。まさか藤堂さんの妹になれるなんて……んぅっ♡」
うっとりとした表情を浮かべる彼女の頬を撫で、その手を下ろして彼女の巨乳を軽く揉むと淡い快感が神経を通って脳みそに駆け巡る。藤堂さんにそっくりなこの美少女の身体が……いや、身体だけじゃない。彼女の妹という関係やその血の繋がりまでもが今や僕のものなんだ。そう想うだけで倒錯的な興奮が込み上げ、それに反応するようにして僕の子宮がいじらしい疼きを伝えてくる。
「もう一回……いや、そろそろ藤堂さんの母親が帰ってくるみたいだしやめておくか。 ……それじゃあ着替えよっかなぁ、えへへっ♡」
もはや僕の一部と成り果てた『あたし』の人格を使って、怪しまれないよう……というより、オナニーをしていたことがバレないように片づけを進めていく。
そもそも、例え僕が何をやらかしたとしても"怪しまれる"なんてことは今後もないのだろう。藤堂さんの妹である『藤堂理恵』の身体も、記憶も、その魂まで手に入れた僕はもはや彼女本人でもあるのだから。
片付けを終え、のんびりと部屋で過ごしていると不意にスマホのバイブ音が鳴る。どうやらメッセージアプリの通知のようで、相手はお姉ちゃん……藤堂さんからだった。
「ああ、そういえば次の休みに帰ってくるって言ってたっけ。……ふふっ、楽しみにしててね、お姉ちゃん♡」
前の……冴えない男だった時の僕ではまるで相手にされなかったけど、『お姉ちゃん』が溺愛しているあたしに迫られたら、藤堂さんは一体どんな反応を見せてくれるだろうか。
今まで考えたことがなかったような想像に背徳的な快感を覚えながら、僕は彼女が帰ってくるその日を心待ちにするのだった。